2018年1月4日の朝日新聞朝刊に、ネットゲーム依存がWHOの新基準で疾病に指定されるということが書かれていました。今回、依存症のメカニズムを、脳科学の視点からみていきたいと思います。

ネットゲーム依存が疾病に!脳科学から考える依存症のメカニズム

依存症(嗜癖行動)についてもっと勉強したい方は

記事の要約

2018年6月のICD-11において、「Gaming disorder(ゲーム症・障害)」を新たに指定する。
WHOはネット依存を「嗜癖行動」として捉え、その中の「Gaming disorder(ゲーム症・障害)」を疾病として分類する。

ゲーム症・障害の定義として、

・ゲームをする衝動が止められない
・問題が起きているのに、ゲームを続けたり、プレーする時間を増やしたりする
・個人や家族、社会、学習などに重大な問題が生じている
・他の興味や活動よりもゲームを優先させる

2018年1月4日の朝日新聞朝刊

とあります。

嗜癖行動とは

嗜癖行動は「アディクション」とも呼ばれています。
嗜癖行動(アディクション)は、

 嗜癖の一形態であり、当人の身体的、精神的、社会的、金銭的な幸福に対してネガティブな結果を招くにも関わらず、報酬刺激をもたらす非薬物関連行動へ強迫的に従事している状態

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%8C%E5%8B%95%E5%97%9C%E7%99%96

とあります。
嗜癖行動が続くことで、本人ばかりでなく、周囲の人(家族、友人、同僚・上司)などにも迷惑をかけてしまう可能性もあります。
引用部分から、「報酬刺激」が嗜癖行動のキーワードとなるのですが、報酬刺激を脳科学の側面から見ていきたいと思います。

報酬と嗜癖行動

我々は普段から生活を送っているなかで様々な欲求が生じます。
例えば「お腹が空いたから何か食べたい」「自分へのご褒美に服を買いたい」などです。
このような欲求に対して、欲求を満たすために行動を起こし、欲求が満たされることで満足感や快感を得ようとします。
このような欲求が「報酬」となるのです。

脳には報酬に反応する「報酬系」と呼ばれる一連のしくみがあります。そこが刺激されると、脳内にドーパミンやエンドルフィンという神経伝達物質が分泌されて快感(報酬効果)が得られることがわかっています。

対人援助職のためのアディクションアプローチ P17

このことから、嗜癖行動はこの脳内物質をもとめるためにする行為ということがわかります。
ゲーム症・障害で考えると、ゲームをクリアする、キャラクターが強くなる、課金をすることでゲームが進めやすくなるなどが欲求と報酬に当たると考えられます。

ドーパミンとエンドルフィンについて、

ドーパミンは生きる意欲につながる快感が得られ、飲食や成功体験、感謝や賞賛を得たとき、感動したり興奮したりしたときに分泌されるといわれています。
エンドルフィンは、ストレスから解放されようとするときに分泌されるといわれ、性行為や好きなことをしたとき、ギャンブルで勝ったときなどに分泌され、また、出産や傷を負ったときに分泌され、精神的苦痛をやわらげるといわれています。

対人援助職のためのアディクションアプローチ P17

とあります。
このようなことは、普段から生活を送っていると、当たり前のようにあることだと思います。
そのため、条件次第で誰にでも嗜癖行動は起こる可能性があるということになります。

記憶と嗜癖行動

嗜癖行動と長期記憶の関係について、

 脳の報酬系システムは、人が生きていくための重要なしくみですから、ある刺激でドーパミンやエンドルフィンが一度放出されると、その刺激や関連する状況は強く記憶されます。そして、報酬を予測したり期待の種を見つけたりと柔軟に活動するようになっていきます。

対人援助職のためのアディクションアプローチ P19

とあります。
ゲームをやっていて、クリアしたり、他者から賞賛されて得られるような刺激を求め続けると、刺激を求める機能の方が優先的となり、刺激を求めるための行動が繰り返されるようになってしまいます。
「ゲームを終わらせて早く寝ないと、明日の会議に遅れてしまう」というような調整の機能が破綻してしまうことで、健康に害が出たり、社会的な不利益を被ってしまうことがあります。

刺激を求める行為が脳の長期記憶に形成されると、その後の嗜癖行動形成の元となります。
嗜癖行動は行動の繰り返しですが、記憶の分類の中でも「手続き記憶」によるものといわれています。手続き記憶は、自転車の乗り方など同じ経験を繰り返すことで長期記憶化されると、期間をおいても記憶されるシステムのことをいいます。
自転車は長期間乗っていなくても、再度乗り始めたら意外に自転車操作ができたということを経験することが多いと思います。
このような手続き記憶が形成されていると、ゲーム機やパソコンを手にすると、再び報酬刺激を求めるように行動をしてしまう可能性が高くなります。

嗜癖行動の定着と修正の困難さ

いったん嗜癖行動として行為が定着すると、その行動を行わないで過ごすということは難しくなります。
たとえやめていた時期があっても再度始めると、長期記憶からその行為や報酬、その時の快感の感じの記憶が引き出され、適度な行為として行うことは困難となるためです。

このようなことはアルコール依存症の方でもよくあり、何年断酒していたが、ふとしたことで飲酒したところ、以前と同じように飲んでしまったというようなことがあります。
長期記憶が忘却することにより嗜癖行動がリセットされるのではないかとの説もあるようですが、長期記憶が忘れるほどの長い期間その行為をしないことや、その行為について記憶が干渉されるほどの別の認知による新たな行動が必要になるようです。

アディクションを認め、本人のそれに関する記憶が書き換わるほどの新しい認知や行動をしていくことが、アディクションをやめることの定着についてより積極的であるといえそうです。

対人援助職のためのアディクションアプローチ P20