肩関節痛(夜間痛、収縮時痛)に対しては、腱板筋のリラクゼーションを行うことはよく知られています。今回は、夜間時痛や収縮時痛の際に、なぜ腱板筋にリラクゼーションを行うのか、またその方法についてまとめていきます。
目次
肩の夜間痛の原因究明と対応を徹底解説!
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肩の夜間痛の原因
夜間痛とは
夜寝ていると肩周辺が痛くなり、目が覚めてしまう方をしばしば目にします。
夜の痛みは睡眠を妨害し、日中の集中力や生産性の低下を招いてしまうため、非常にやっかいな症状になります。
この症状を夜間痛と呼んでいますが、はっきりとしたメカニズムは解明されていません。しかし、いくつかの考えられる原因はあります。
考えられる原因:自律神経系の影響
睡眠時は交感神経<副交感神経が優位になります。すると血流は主に脳に流れることになり、末梢はの血流が低下することにより痛みが生じると考えられます。
考えられる原因:肩峰下圧の上昇
この「肩峰下」の圧力の上昇が夜間痛の第一の原因として考えられています。
圧が上昇する要因としては、肩峰下滑液包の炎症、回旋筋腱板(棘上、棘下、小円、肩甲下筋)付着部の炎症、腱板筋の高緊張などがあります。
また関節包が分厚くなり、線維化することで関節包内部の容積が減り、それが肩峰下圧上昇に関与している可能性もあります。
烏口肩峰弓周辺の変化烏口肩峰アーチと上腕骨の間のスペースは、日中は重力により拡大しており、睡眠時は臥床姿勢となるため狭くなるという姿勢の影響も考えられます。
考えられる原因:上腕骨内圧の上昇
2つ目の原因は、「上腕骨内圧の上昇」です。その名前の通り、上腕骨内の圧力が上昇することを意味しています。
上腕骨には栄養を供給する2つの血管、前・後上腕回旋動脈が存在しています。前回旋動脈は上腕骨の前側を走行しており、その周囲には肩甲下筋があります。
また後上腕回旋動脈は上腕骨の後側を走行しており、その周囲には棘下筋、小円筋があります。
この肩甲下筋、棘下筋、小円筋が高緊張である場合、上腕骨を通る動脈、静脈が圧迫されることになります。
動脈は圧迫に対して強いために問題を起こしませんが、静脈は圧迫に対して弱さがあるため上腕骨内部に血液が溜まってしまいます。この状態が上腕骨内圧を上昇させる要因となるのです。
そのことからも、肩甲下筋、棘下筋、小円筋などの腱板筋がリラックスしていることが夜間痛改善の対策として挙げられます。
考えられる原因:肩関節内転制限
夜間痛がある方では、ない方と比較して関節上腕骨間角度(関節窩と上腕骨長軸のなす角度)が大きいとの報告があります。
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肩関節夜間時痛の評価
肩関節内転制限の病態と評価(レントゲン撮影)
肩関節内転制限(外転拘縮)がある方では、姿勢観察において肩関節は外転位となっています。
レントゲン撮影をすると、関節上腕骨間角度(関節窩(臼蓋)と上腕骨長軸のなす角度)が健常の方と比較すると大きくなります。
健常の方では、関節窩と上腕骨長軸のなす角度は平行になります。
また、関節上腕骨間角度が大きくなる方では、肩甲骨下方回旋していることもあります。
そのため、姿勢評価で肩甲骨下方回旋が観察されれば、肩関節内転制限の有無を確認する必要があります。
肩関節内転制限の病態と評価(筋肉による制限)
肩関節内転制限が起こる原因のひとつに、筋肉による制限が考えられます。
肩関節を外旋位で内転する際に伸張される筋肉には
・棘上筋前部
・肩甲下筋上部
・上腕ニ頭筋長頭腱
があります。
また、肩関節を内旋位で内転する際に伸張される筋肉には
・棘上筋後部
・棘下筋上部
があります。
この辺りの伸張される筋肉は、言葉で覚えるというよりも、頭の中で筋の起始・停止をイメージする方が覚えやすいと思います。
筋肉の制限因子を考える際には、肩関節を外旋/内旋位で内転(伸展方向:体の後ろ側に)させて、制限がある方が筋肉の伸張性が低いと推測できます。
筋の伸張性を高めるアプローチに関しては以下の書籍を参考にしてください。
肩関節拘縮の評価と運動療法 (運動と医学の出版社の臨床家シリーズ)
肩関節内転制限の病態と評価(癒着による制限)
棘上筋は、肩関節内転・伸展させると伸張されます。
肩峰下と棘上筋の間には肩峰下滑液包があり、その働きにより滑走性が確保されています。
通常、肩関節を内転・伸展させると棘上筋は伸張されるので緊張は高くなります。しかし、肩峰下滑液包と棘上筋の間に癒着があると、棘上筋の緊張は高まりません。
これは、癒着した部分よりも先の部分が伸張されるだけで停止部には伝わらないためです。
また、癒着があると肩関節外転により筋収縮が起きても腱にはそれが伝わりません。
そこで、癒着の有無の評価としては、
①セラピストは肩峰下に指を置く
②肩甲骨面で、軽い抵抗に対して挙上させる
このとき、棘上筋の収縮があれば、「ピン」と張る感じを確認できます。
癒着があれば、棘上筋の収縮(「ピン」)を感じることはできません。
*三角筋の収縮では、指をかなり押してくる感覚となるため、棘上筋との鑑別が必要です。
癒着があるかないかの確認はとても大切です。
癒着があれば、いくら筋の制限因子に対してアプローチしても制限はなくなりません。
癒着に対するアプローチでは、下記の書籍を参考にしてください。
肩関節拘縮の評価と運動療法 (運動と医学の出版社の臨床家シリーズ)
夜間痛が消失する肩関節可動域の目安
上方支持組織の癒着があると、上肢下垂位での肩関節伸展、内外旋が制限されます。
①肩関節伸展と夜間痛が消失する可動域の目安
夜間痛が著明な肩では、ベッド端より下側へ上肢を下ろすことが困難です。夜間痛消失の目安としては伸展15°以上の獲得が必要となります。
②第1肢位での外旋と夜間痛が消失する可動域の目安
夜間痛消失の目安としては外旋24.7°以上の獲得が必要となります。
③結滞動作と夜間痛が消失する可動域の目安
結滞動作の評価としては、橈骨茎状突起が脊椎に到達するレベルを評価します。夜間痛を訴える方では、臀部のレベルまでしか可動範囲がない方もいます。夜間痛消失の目安としてはL3レベル以上の獲得が必要となります。
夜間痛の程度を基準とした分類
夜間痛の評価には、疼痛の有無だけではなく、夜間痛の程度を基準とした分類を用いての評価も行います。
①夜間痛が全くない
②時々夜間痛があるが、目が覚めるほどではない
③毎日持続する夜間痛があり、一晩に2〜3回は目が覚める
④毎日持続する夜間痛があり、明らかな睡眠障害を訴える
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夜間痛に対する対策とアプローチ
寝ている姿勢での肩のポジショニングを考えることで、夜間痛を軽減できる可能性があります。
仰向けで寝ている場合、肩甲骨は自分の体とベッドで挟まれることになりその動きは制限されてしまいます。
また肩甲上腕関節は重力の働きで床方向に下り(伸展)、外旋(上腕骨が外に回旋する)します。
この状態では腱板の付着部や烏口上腕靭帯なども伸ばされる位置となりストレスがかかりやすくなってしまいます。
すると関節包内の圧力調整に関与している孔(穴)が閉ざされてしまい、その結果関節内圧が上昇してしまいます。
このことから、就寝時の肩のポジショニングとしては、肩甲上腕関節を適度に伸展、外旋させない(強制内旋も不可)ことが重要になります。そうすることで筋や靭帯が過度に伸ばされず循環状態が良くなり夜間痛の軽減が期待できます。この時にもう一つ重要になるのが肘のポジショニングです。お腹の上にもクッションを置き肘を曲げることには様々なメリットがあります。
一つは肘を曲げることで肩から肘にかけての血管や神経などにゆとりができ、末梢への血液循環が良くなります。また肩甲骨の前方傾斜が軽減することで小胸筋がリラックスでき、その結果前上腕回旋動脈に対する前からの圧迫が少なくなります。そして肩甲下筋も適度に短くなるため、背面の圧力が軽減され、さらに循環状態が良くなることが痛いできます。
肩の夜間痛、収縮時痛に対する腱板筋のリラクセーション
夜間時痛、収縮時痛と腱板筋の関係
夜間時痛を引き起こすと考えられている原因には様々なものがありますが、腱板筋と深い関係にあるのは骨内圧の高さです。
腱板筋は上腕骨の大結節や小結節についています。腱板筋が持続的に収縮している状態(高緊張、スパズム)だと、腱板が骨についているため骨内圧が高くなります。
これが、夜間時痛につながるとされています。そのため、骨内圧を減圧させるには、腱板筋のリラクセーションを図り、筋緊張を低下させる必要があります。
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次に収縮時痛を考えていきます。
肩関節挙上時、特に0-60°付近での痛みでは、腱板筋の炎症が強いことによって痛みが生じている可能性があります。
また、筋の攣縮(スパズム)があると、血管の攣縮も同時に存在するため、静脈の血流が滞り、筋内圧が上昇します。このような状態では収縮時痛(特に等尺性収縮)が強く出現します。
そのため、収縮時痛がある際にも、腱板筋のリラクセーションを図り、筋の攣縮を軽減させる必要があります。
収縮時にどこの腱板が痛いのか
腱板筋のリラクセーションを行うには、どの腱板が原因で痛みが生じているかを評価する必要があります。
肩の挙げ始め(0-60°)付近での収縮時痛には、等尺性収縮によるテストを行うことで、おおよその見当をつけることができます。
テストの詳細については、以下の記事を参照してください。
肩の動作時痛(挙げ始め:0-60°)における腱板機能テストと結果の解釈
おおよその見当をつける目安としては、
上腕骨内外旋中間位で収縮時痛(+):全腱板、棘上筋、棘下筋上部
上腕骨内旋位で収縮時痛(+):棘下筋上部、棘上筋後部
上腕骨外旋位で収縮時痛(+):肩甲下筋上部、上腕二頭筋長頭、棘上筋前部
となります。
腱板筋に対するリラクゼーションの方法
腱板筋のリラクセーションに関しては、筋の短縮-収縮位の運度を他動的に繰り返すことが必要です。
書籍によっては、筋の短縮-収縮位の運動の際に軽い等尺性収縮を加えることで筋ポンプ作用が得られるともされています。
反復的に筋収縮を行うと、筋ポンプ作用により筋肉の血液循環やリンパ液還流を促通するため、筋内浮腫の改善とともに発痛関連物質の除去に有効である。
肩関節拘縮の評価と運動療法
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以下に、各腱板筋の短縮・伸張位を挙げていきます。
筋 | 短縮位 | 伸張位 |
棘上筋前部 | 内旋、外転 | 外旋、内転 |
棘上筋後部 | 外旋、外転 | 内旋、内転 |
棘下筋上部 | 外旋、外転 | 内旋、内転 |
棘下筋下部 | 外旋、内転 | 内旋、外転 |
小円筋 | 外旋、内転 | 内旋、外転 |
肩甲下筋上部 | 内旋、外転 | 外旋、内転 |
肩甲下筋下部 | 内旋、内転 | 外旋、外転 |
表を見ると、「なんてややこしい」!と思うかもしれませんが、腱板筋の走行をイメージできると、表をそのまま覚えなくてもよいので、まずは筋の起始停止をしっかりと復習することが大切です。
短縮-伸張位をリズミカルに繰り返すことで、腱板筋の炎症や筋攣縮の軽減を図り、夜間痛の有無や収縮時痛の軽減が見られるかを都度確認していきます。
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