リハビリテーションでは、疾患、合併症に応じたリスク管理を行いながらリハビリテーションを実践することが重要になります。今回、呼吸器疾患におけるリハビリテーションのリスク管理の考え方についてまとめていきたいと思います。

目次

呼吸器疾患におけるリハビリテーションのリスク管理の考え方!

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リハビリの中止基準について

呼吸器疾患リハビリテーションのリスク管理について考える前に、リハビリ全体を通しての中止基準を再確認します。

まずは、アンダーソンの改訂基準をみていきます。

訓練を行わないほうがよい場合
・安静時脈拍120/分以上
・拡張期血圧120mmH以上
・収縮期血圧200mmHg以上
・動作時しばしば胸心痛がある
・心筋梗塞発作後1ヶ月以内
・心房細動以外の著しい不整脈
・安静時に動悸、息切れがある

途中で訓練を中止する場合
・運動中、中等度の呼吸困難が出現
・運動中、めまい、嘔気、胸心痛が出現
・運動中、脈拍が140/分以上となる
・運動中、1分間10回以上の不整脈が出現
・運動中、収縮期血圧40mmHg以上または拡張期血圧20mmHg以上上昇

途中で訓練を休ませて様子をみる場合
・脈拍数が運動前の30%以上増加
・脈拍数が120/分を超える
・1分間10回以下の不整脈の出現
・軽い息切れ、動悸の出現

次に、リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドラインにおける基準を確認します。

積極的なリハを実施しない基準
・安静時脈拍40/分以下または120/分以上
・安静時収縮期血圧70mmHg以下または200mmHg以上
・安静時拡張期血圧120mmHg以上
・労作性狭心症の場合
・心房細動のある方で著しい徐脈または頻脈がある場合
・心筋梗塞発症直後で循環動態が不良な場合
・著しい不整脈がある場合
・安静時胸痛がある場合
・リハ実施前にすでに動悸・息切れ・胸痛のある場合
・座位でめまい冷や汗動悸などがある場合
・安静時体温が38度以上
・安静時酸素飽和度(SpO2)90%以下

リハを中止する場合
・中等度以上の呼吸困難、めまい、嘔気、狭心痛、頭痛。強い疲労感などが出現した場合
・脈拍が140/分を超えた場合
・同時収縮期血圧が40mmHg以上または拡張期血圧が20mmHg以上上昇した場合
・頻呼吸(30回/分以上)、息切れが出現した場合
・運動により不整脈が増加した場合
・徐脈が出現した場合
・意識状態の悪化

いったんリハを中止し回復を待って再開
・脈拍数が運動前の30%を超えた場合。ただし、2分間の安静で10%以下に戻らない時は以後のリハを中止するか、または極めて軽労作のものに切り替える
・脈拍が120/分を超えた場合
・1分間10回以上の期外収縮が出現した場合
・軽い動悸息切れが出現した場合

ここで、呼吸器に関連するものを挙げると、

・リハビリ実施前にすでに息切れがある
・安静時酸素飽和度(SpO2)90%以下
・中等度以上の呼吸困難などが出現
・頻呼吸(30回/分以上)、息切れが出現
・軽い息切れが出現
などがあります。

これらの項目のうち、「積極的にリハビリを実施しない」ことには、
・リハビリ実施前にすでに息切れがある
・安静時酸素飽和度(SpO2)90%以下
が当てはまります。

また、「リハビリを中止する」ことには、
・中等度以上の呼吸困難などが出現
が当てはまります。

さらに、「リハビリを中止して回復を待つ」ことには、
・頻呼吸(30回/分以上)、息切れが出現
・軽い息切れが出現

が挙げられます。

これらを見ていくと、基準が具体的であるような、ないようなという感じで、判断に迷うこともあるかと思います。

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呼吸リハのリスク管理に必要な用語の理解

リスク管理を行うには、なぜそのような数値が設定されているのか、またなぜそのような理由があるのかを理解していく必要があります。

ヘモグロビン酸素解離曲線

ヘモグロビン酸素解離曲線は、縦軸にヘモグロビンの酸素飽和度(SaO2)、横軸に酸素分圧(PaO2)をとったグラフになります。

これは、血液ガスにおけるSaO2とPaO2の関係性を表しています。

出典:http://plaza.umin.ac.jp/~histsite/sansokairi.pdf

このグラフを見ていく上で大切なことは、酸素分圧が60mmHgを切ると、曲線は急に低下していくということです。

同じ程度の酸素分圧に対して、ヘモグロビンの酸素飽和度の低下がより大きくなってしまいます。

この状態では、動脈血における酸素の運搬能力は著しく低下してしまいます。

ここで、酸素飽和度と酸素分圧の換算表を見てみると、

出典:https://www.konicaminolta.jp/healthcare/products/pulseoximeters/knowledge/information/pdf/pulsox_oxygen.pdf

酸素分圧が約60mmHgの時が酸素飽和度約90%であることがわかります。

酸素分圧が60mmHgを切ると心拍数の増加、55mmHgを切ると記憶や判断力の障害、40mmHgを切ると組織へのダメージ、30mmHgを切ると意識不明、20mmHgを切ると死というように、低酸素血症が重症化するとは身体への影響がかなり大きくなります。

リスク管理において、「安静時酸素飽和度(SpO2)90%以下」というのは、このような考えからきています。

リハビリ場面では、SaO2ではなく、パルスオキシメーターを使用しSpO2で計測することになります。

SpO2と似たような記号にSaO2がありますが、こちらはS:Satulation(飽和度)、a:artery(動脈)、O2:Oxygen(酸素)の略であり、動脈血の酸素飽和度の実測値です。

先に述べたとおり、SpO2は、S:Satulation(飽和度)、p:pulse(脈拍)、O2:Oxygen(酸素)の略であり、間接的にSaO2を測定する方法ですが、測定条件が整っていれば、両者は近時値を取るとされています。

http://igs-kankan.com/article/2013/03/000721/

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SpO2がすぐ90%未満になる場合はリハビリができない?!

リハビリテーション開始前にSpO2が90%を切っていたり、運動開始後すぐに90%未満になるような方がしばしばみられることもあります。

そのような場合、リスク管理の基準に照らし合わせるとリハビリをやめておいたり、中断して休憩をとっていると、なかなかリハビリが進まない場合も考えられます。

Drとも相談しながら、個々の症状や状態を見極めながら、どの程度の訓練ならば許されるのかを判断しながらリハビリを進めていくことが大切になります。

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COPDにおけるリスク管理の考え方

今までは、一般的な呼吸器疾患のリスク管理について考えてきました。

次に、臨床場面でよく遭遇するCOPD(慢性閉塞性肺疾患)についてのリスク管理の考え方をみていきます。

COPDと禁煙の重要性

COPDでは、必ず禁煙をしてもらうことが重要です。

1秒率が、禁煙の有無によって大きく変化すると言われています。

深く息を吸って一気に吐き出した空気量(これを努力性肺活量といいます)に対し、最初の1秒間で吐き出した量(1秒量)の割合を示したものです。

70%以上が正常ですが、1秒率が低下している場合は閉塞性換気障害(気管支が狭くなっているために起こる呼吸機能障害)が疑われます。

https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/copd/qa/07.html

非喫煙者、またはたばこ感受性がない喫煙者に比べて、たばこ感受性がある喫煙者では、1秒率が低下することがわかっています。

COPDは複数の要因で発症しますが、主に喫煙量とタバコ煙に対する感受性を決める遺伝的要因のバランスで発症すると考えられています。

健康な人でも歳をとるにしたがって肺機能が低下しますが、喫煙者でタバコ煙に感受性の人では1秒間に吐き出すことのできる空気量(1秒量)が急激に低下することが分かっています。

この状態を気流閉塞と言います。1秒量は早く呼吸する能力を反映するため、気流閉塞が起きると運動するとき必要な早い呼吸ができなくなり、息切れを感じるようになります。

http://www.kanazawa-med.ac.jp/~hospital/copd.html

COPDと急性増悪でみられる症状

COPDの急性増悪でみられる症状には、

・呼吸困難の増悪
・膿性痰の出現
・痰量の増加

があります。

重症の方では、上記3つの症状がみられます。

中等症の方では、上記のうち2つの症状がみられます。

軽症の方では、上記の1つに加えて、

・5日以内の上気道感染
・他の原因不明の発熱
・喘鳴の増加
・咳の増加
・呼吸数または脈拍の20%の増加

がみられます。

喘鳴とは、

呼吸をするときに、ヒューヒュー、ゼーゼーなどと音がすることです。

この音は聴診器を使用しなくても聞こえます。

基本的には空気の通り道である気道が狭くなったときに出る音です。

https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/zenmei.html

COPDの急性増悪は、平均して年に2〜3回見られるとされています。

COPDの急性増悪の誘因

COPDの急性増悪の要因はいくつかあります。

・感染
・低酸素血漿
・心不全
・CO2ナルコーシス

などがあります。

感染では、痰の色やにおいに変化があります。白色から黄色や緑色に変わる膿性のたんでは細菌やウイルスなどの病原菌による強い炎症が原因になります。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎などでは、病原菌が気道に定着しつつ慢性的な炎症が気道粘膜で続いているので、発熱がなくても膿性のたんが出ます。

https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=52

 

低酸素血症の要因としては、換気障害として、十分なガス交換ができず肺胞が低換気となることが挙げられます。

また、低換気状態の肺胞では、血液の酸素化が十分にはできません。

そのために低酸素状態を引き起こします。これを換気血流比不均等と言います。

他にもシャントと言い、ガス交換がなされずに心臓に還流する状態においても低酸素血症は起こります。

拡散障害では、肺胞毛細血管膜が厚くなったり、間質に水分が貯留したりすることで、肺胞内の酸素・二酸化炭素が通過できず、ガス交換が出来なくなった状態になります。

症状として、集中力低下や感情の不安定さを確認することも重要です。

 

心不全症状では、頸静脈怒張、頻脈、下肢と顔面の浮腫、体重増加、呼吸困難増強、起坐呼吸(夜寝ていたのに息苦しくて目が覚め座っていた方が息が楽な状態)がみられます。

 

CO2ナルコーシスでは、発汗、皮膚紅潮、頭痛、意識障害がみられます。

心不全とCO2ナルコーシスについては、後で詳細をみていきます。

心不全症状はなぜ起こる?

呼吸器疾患では、心不全症状に注意しておく必要があります。

その理由を考えていきたいと思います。

COPDでは、肺血管床の破壊や減少が生じます。

また低酸素血症の状態では、多血症(酸素不足により腎臓で作られる造血因子エリスロポエチンの濃度が上昇することによる)による血液粘稠度(血液の流れやすさの指標)の上昇(赤血球量の増加とともに血小板が増加して血液の粘度が変化する)が生じます。

低酸素血症では、肺血管攣縮が起こりやすくなります。

肺血管攣縮とは以下のようなことを言います。

肺胞気酸素分圧(PaO2)が低下した場合,その肺胞に隣接する細動脈の血管平滑筋が収縮する現象。

ガス交換の効率の悪い(換気血流比の低い)肺胞への血流を低下させることで,肺内シャントを減少させ,低酸素血症の増悪を抑えようとする生理的な反応である。

http://www.jaam.jp/html/dictionary/dictionary/word/0213.htm

これらの症状は、肺血管抵抗を増大させ、肺高血圧状態となり、右心不全症状を引き起こします。

肺高血圧の評価としては、心エコーによる三尖弁逆流をみることにより判定可能です。

収縮期の右室圧は正常では18〜25mmHgですが、数値が高くなるほど右心系には負担がかかっていることになり、それだけ予後は不良となります。

CO2ナルコーシスはなぜ起こる?

COPDでは、慢性的な換気不全状態になっています。

この状態ではCO2が肺に貯留することになり、換気需要は低い酸素刺激で維持されていることになります。

その状態で酸素流入をすると、低い酸素刺激はなくなり、換気が低下してしまいます。

するとCO2は貯留し、前途した脳症状が起こります。

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周術期におけるリスク管理の考え方

周術期のリハはなぜ重要?

周術期とは、入院、麻酔、手術、回復という、術中だけでなく前後の期間を含めた一連の期間をさします。

リハビリテーションは術後だけではなく、術前も含めたトータルなものとして捉えることで、

・術後の呼吸器感染症の予防
・術前後の呼吸状態を良好に保つ
・早期離床・退院の促進

などに関与していくことになります。

手術をすると呼吸器機能は低下する可能性がある

手術をすることにより、呼吸器の機能低下が起こる可能性は高いといえます。

手術後の呼吸器機能が低下する要因としては、

・創部痛
・腹部膨満
・横隔膜の機能低下
・麻酔

などが影響すると考えられます。

一般的に、肺活量は手術前と手術後を比べると、下腹部の手術で25%、胸や上腹部の手術では50%以下に低下するといわれています。

また、手術によっては、全身麻酔や手術後の傷の痛みで体を起こすことができないことがあります。

そうなると、うまく換気ができず(換気不全)、痰(たん)が溜まり、酸素を十分に取り込めなくなる(無気肺)といった、合併症を起こす場合があります。

https://ganjoho.jp/public/dia_tre/attention/operation.html

そのため、術後の呼吸器機能改善がアプローチとしては重要になります。

術後の呼吸機能に影響を与えやすい病態

術後に見られやすく、肺胞換気を低下させる病態として、

・肺うっ血
・肺水腫
・胸水
・気道内分泌物の貯留
・気胸

などがあります。

肺うっ血とは、肺において血液の流れが停滞している状態です。これにより肺静脈の流れが悪くなります。

肺水腫とは、毛細血管から血液の液体成分が肺胞内へ滲み出した状態です。これにより、肺胞の中に液体成分が貯まるため、肺で酸素の取り込みが障害されて肺胞換気を低下させます。

胸水とは、胸腔内に異常に多量の液体が貯留した状態です。これにより、肺や心臓が圧迫されるため呼吸苦や胸痛などが出現します。

麻酔による呼吸抑制や術中の長時間の同一姿勢は気道内分泌物の貯留につながり、気管支が閉塞状態になると呼吸機能が低下します。

気胸とは、肺から空気が漏れることで、肺が潰れてへこんでしまう状態です。

これらの病態を捉えるには、レントゲン像や水分のIN-OUTバランスをチェックする必要があります。

水分のIN-OUTチェックのポイント

水分のIN-OUT量をチェックするポイントは、術中と術後では異なります。

リハビリテーションでは、術後に主に関わるため、術中のIN-OUTチェックポイントを見ていきます。

体内に入ってくる水分(IN)は、

・輸液
・代謝水(体内の反応で生じる水):体重(kg)×5mℓ

です。

また、体外に出て行く水分(OUT)は、

・出血量
・尿量
・不感蒸泄量(皮膚や気道から蒸発する水):体重×15mℓ

です。

この要素を把握することで、

INバランスが勝る(水分が多い)と肺うっ血、肺水腫、胸水が悪化しやすくなります。

OUTバランスが勝ると(水分が減っている)と肺うっ血、肺水腫、胸水の改善がみられます。

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リハビリテーション実施の際にはどんなことに注意すればよいか

呼吸リハビリテーションマニュアルでは、リハビリテーション中止の基準として、

・呼吸困難感:修正ボルグスケール7(とてもきつい)以上
・自覚症状:胸痛、動悸、疲労、めまい、ふらつき、チアノーゼ
・心拍数
年齢別最大心拍数の85%:(220−年齢)×0.85
*肺高血圧がある場合、70%になる:(220−年齢)×0.7
・呼吸数:毎分30回以上
・血圧:運動時収縮期血圧の下降、拡張期血圧の上昇
・SpO2:90%以下

を挙げています。

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