運動失調は協調性運動の障害ですが、今回は姿勢や歩行制御能力の問題の捉え方と治療の考え方についてまとめていきたいと思います。
目次
運動失調(協調運動障害)における姿勢や歩行制御能力の問題の捉え方とアプローチの戦略
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運動失調の種類
運動失調の種類を大まかに示していきます。
下記の現象名は、筋肉の出力、組み合わせ、タイミングの障害によって起こるものになります。
協調運動障害
四肢を中心とした運動の開始と停止遅延、反復拮抗運動不能、距離の測定障害と運動分解、企図振戦など
姿勢や歩行制御能力の障害
姿勢制御、体幹失調、ワイドベース、歩行リズムとパターンの障害、外界環境に応じた調整
その他
筋緊張の低下、眼振、構音障害
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姿勢や歩行制御能力の問題の捉え方とアプローチの戦略
姿勢と小脳
小脳には上行性と下行性の経路があり、予測的姿勢制御に関しては上行性の経路を通して随意運動を実行する前に姿勢をコントロールします。
また、下行性の経路として前庭脊髄路系や網様体脊髄路系と呼ばれる、姿勢をコントロールするための筋緊張を制御する経路があります。
これらの上行性と下行性の経路によって体幹の協調性をコントロールしている事になります。
体幹は姿勢コントロールにおいて、バランスをとるための抗重力活動に関与します。
ここで、バランスについて復習しておくと、
・支持基底面に対して重心点を留めておく
・上記がわかるには、視覚、体性感覚、前庭覚を通じて自分の重心位置がどこにあるかを把握する
・それが逸脱しない為に立ち直り反応がある
・逸脱して戻すままでは動けないので、ストラテジー(股関節、足関節、ステップ)を使う
・重心をある高さに留めておく為には、網様体などの姿勢コントロールのための筋緊張が関与する
・そのための体感の協調的な姿勢制御を行う為に働いているのが小脳
ということになります。
体幹失調は、姿勢制御における重心移動の中で、拮抗筋の収縮に問題があることによって生じます。
小脳に問題がある方は、前途したバランス維持のためのストラテジーがうまく利用できない為に、ワイドベースになると考えられます。
ストラテジーがうまく利用できない原因
ヒップストラテジーやアンクルストラテジーは、体幹の中において重心をコントロールしていく事が必要になりますが、体幹失調は、姿勢制御における重心移動が正確に行えるという事が問題になります。
体幹が揺れていても問題にはなりませんが、それによって重心を姿勢制御できる位置にとどめておけないのが問題になります。
そうすると、重心の高さを移動させるためのヒップストラテジーと、重心を前後方向に移動させるためのアンクルストラテジーができなくなります。
それは、どのような姿勢であれば、どの筋肉をどのタイミングでどの程度出力させれば良いか(重心を支持基底面に留まらせておく為に)の戦略が小脳において立案できない事が原因になります(小脳の虫部(脊髄小脳)、室頂核)。
その為、小脳に問題のある対象者では、ヒップストラテジーやアンクルがうまく利用できずに転倒のリスクが高まります。
小脳に問題のある方が膝折れを生じる要因
小脳に問題のある対象者は膝折れを起こす事がありますが、これは股間節と足関節を協調的に動かすことで膝をコントロールするのですが、これらが協調的に働かない為に膝折れが生じると考えられます。
要するに、運動分解によりアンクルやヒップストラテジーの共同運動が行えない為に膝をうまく利用できないということになります。
その為、膝折れがある方にはアンクルやヒップストラテジーの協調した動作の学習を促していく必要があります。
なお、小脳の対象者は、スクワットをするとヒップストラテジーは働くが、アンクルストラテジーが不十分でバランスが後方に崩れるという事がよく観察されます。
ストラテジーについては以下の記事も参照してください。
バランス評価の概要と評価方法、結果の解釈、リハビリ方法!
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小脳障害と歩行
歩行において、スタートストップ、方向転換、障害物回避については、皮質脊髄路の問題によって生じます。
つまり、随意運動の障害によって上記の事柄は制御されているということになります。
歩行にはリズムやパターンという概念もあり、これらは外部環境に合わせて調整をしています。
小脳障害の対象者では、リズムやパターンの調整がうまくいかない為に、現象として歩幅に問題が確認されます。
歩行において、立脚期の歩行制御能力問題は体幹や姿勢制御の問題が関与しており、遊脚期での振り出しの問題は協調性(拮抗筋の制御など)の問題が関与しています。
つまり、立脚期の問題は脊髄小脳系(室頂核)の問題であり、遊脚期の問題は大脳小脳(歯状核)の問題ということになります。
なお、前途した股関節戦略や足関節戦略の問題は脊髄小脳(室頂核)の問題であり、膝の協調的な運動については大脳小脳(歯状核)の問題ということになります。
これらのことは、損傷部位によって、立脚期や股、足関節戦略をみるべきなのか、遊脚期や膝を見るなのかが変わるということになります。
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姿勢や歩行制御能力の問題に対するアプローチの戦略
脊髄小脳系の問題は体幹部に生じますが、この系では近位筋や遠位筋の運動における実行やフィードバック機能に関与している部位になります。
そのため、フィードバックでの固有感覚入力(圧迫、弾性包帯で巻くなど)を股関節や足関節に入れていく事が求められます。
固有感覚入力により、アンクルストラテジーやヒップストラテジーの利用により重心移動がうまくできるようになるかを確認し、歩行リズムに変化が出るかも確認していきます。
また、重錘の利用は拮抗筋の代わりをしてくれるので、予測的な筋収縮が必要なくなり、運動制御が行いやすくなります。
歩行では下肢の振り出しや接地位置の安定化や体幹動揺の改善が期待できます。
筋力トレーニングにより筋紡錘が発火しやすくなり(筋固有感覚への反応性が高くなる)、運動改善に繋げることもあります。
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