小脳障害では協調運動障害が見られ、リーチングにおいては目標位置とのズレが生じることがあります。今回、運動失調におけるリーチ動作が困難になる原因の考え方(なぜ目標位置とずれてしまうのか)についてまとめていきたいと思います。
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協調運動障害と運動失調
協調運動障害とは、「関節や筋などの調整能力がうまく行えず、目的の運動が達成されない」ことをさしています。
この調整能力とは、時間的、空間的な要素をコントロールできるかどうかということです。
小脳が障害されると、前もって予測した(フィードフォワード制御)時間的(タイミング、速度)な要素の運動パターンが作られないために、その都度情報を取り入れながら(フィードバック制御)運動を行うために、スムーズな運動にならないと解釈できます。
測定異常、反復拮抗運動不能、運動分解、振戦、時間測定異常、協働収縮不能は時間的(速さ、タイミング)要素のパターンが作られないことによる時間測定異常として考えることが可能です。
目標物に手を伸ばす際に、主動作筋と拮抗筋の筋活動をうまく切り替えることができないと、測定過大/過少、リズムの乱れが生じてしまいます。
また主動作筋での筋活動の調整がうまくいかないと、軌道に乱れが生じたり、それを補うために運動を分解することで軌道修正を行おうとします。
運動失調で見られるリーチ動作の問題の原因
今回のテーマとしては、運動失調で確認されるリーチ動作の問題として、目標位置からずれてしまうことを挙げています。
これらの主な解釈の仕方としては、
・低緊張によるもの
・運動軌跡のエラー
・体幹失調によるもの
などが考えられます。
低緊張によりリーチで目標物からずれるメカニズム
低緊張に見られる特徴を復習していきます。
低緊張の場合、
・筋収縮開始のタイミングが遅くなる
・筋収縮終了のタイミングが早くなる
・筋収縮量が少なくなる
・筋収縮のスピードが遅くなる
・姿勢変化の影響は受けにくい
などの特徴があります。
筋緊張が適切な状態を保っている場合には、これらの要素のタイミングや収縮量、スピードなどは適切な状態で出力されることになります。
しかし、小脳障害では低緊張が見られることがあり、このような状態では上肢リーチングにおいて問題が生じることが考えられます。
スタンバイされていないために動作が遅れ、本来目標位置に到達したはずの時間に動作プログラムの出力が終了し、その結果として距離と高さが不足した位置で動作が止まるためとも考えられます。
生田 宗博「脳 運動プログラム回復セラピー」
低緊張でのリーチ動作に問題が見られる場合にはどのようにアプローチするのか
低緊張が問題により、筋収縮のタイミングや収縮量、スピードなどに問題が見られる場合には、あらかじめ筋緊張を高めるようなアプローチが必要になります。
その一つとしては、「手関節背屈位でのリーチ」です。
手関節背屈位にしてリーチングを行うと、挙上時の上肢全体における筋緊張は高まりやすくなります。
そのため、手関節背屈位でのリーチ動作は、失調症状を軽減させることが期待できます。
また、リーチさせる際に、あらかじめ目標物よりも高い位置を目指してリーチングさせることも効果があることがあります。
これは対象者の低緊張状態では、実際の目標物をリーチさせる際の筋収縮量のプログラムでは到達時にズレが生じてしまうのですが、それよりも高い位置への筋収縮量のプログラムに設定させておくことで、到達時にちょうど良い筋収縮量になることを期待しています。
この方法を用いながら、フィードフォワードとフィードバック機構のズレを修正する作業を行うことで、低緊張の改善も測りながら、リーチングに必要な筋収縮量の運動プログラムを修正する作業を行なっていきます。
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