失行の評価からリハビリテーションアプローチを詳しく解説します。

失行の理解と評価、リハビリテーションアプローチ

失行についてもっと勉強したい場合は

 

by カエレバ
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失行とは

失行とは、脳が障害されることで、以前に学習されていた自らの意思による行為を行う能力が障害されることをさします。

失行患者では、ある行動や動作を行うと、正常の動作とは部分的に、もしくは全てが違うという特徴があります。

同じ動作でも出来るときとできない時があり、間違いが一定しているわけではありません。

失行でないもの

失行ではないものとして、以下のものが挙げられます。

運動障害
運動麻痺麻痺、失調、不随意運動などがあると、動作ができなかったり、スムーズでなくぎこちないことが観察されます。

失語
理解の障害があると、指示通りに行えないことが観察されます。
失行は、失語症と合併して起こることがありますが、独立して起こることもあります。

認知の障害
視覚失認、触覚失認、視空間性障害(半側空間無視)があると、動作がうまく行えなくなります。
重度認知症、全般性注意障害・感覚、視覚フィードバックの障害も同様です。

観念失行と観念運動失行

これ、名前からして覚えるのがややこしいです。

ウィキペディアを見てみると、観念失行と観念運動失行は以下のような症状が出現します。

観念失行

左半球または両側頭頂葉後方領域に責任病巣があると考えられている。アルツハイマー病でも同様の症状を示すことがある。Liepmannによると「個々の運動はできるが、複雑な一連の運動連鎖が必要な行為が障害される」と定義している。要素行為は正しいが順序、対象を誤るといった場合が典型的である。紙をおって封筒にいれるといった系列行為の障害である。鑑別としては意味記憶障害や多感覚様式性失認があげられる。物品の名前や用途を説明できるが使用ができないのが特徴である。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%B1%E8%A1%8C

観念運動失行

左半球の広範な障害でおこる。Liepmannによると「物品を使用しない単純な運動や、一つの物品を対象とする運動が言語命令、模倣、物品使用のいずれでも障害されるもので、自動運動は可能であるが意図的な運動はできない状態」と定義している。具体的には敬礼や鉄鎚を使うまね(パントマイム)といった簡単な動作ができない。観念運動失行の定義は研究者の間でも一定していない。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%B1%E8%A1%8C

観念失行と観念運動失行の比較と特徴

観念失行と観念運動失行をADLや日常生活行為の中という視点で比較してみます。
観念失行では、ある動作遂行における順序の間違いや、物品の使用方法を間違えるといったことが見られます。
一方、観念運動失行では、ある物品の使用における運動(方向、スピード)に問題が生じます。

 

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臨床に即した失行の捉え方

臨床に即した失行の捉え方として、A-ONE(神経行動学的評価法)が大変参考になります。
A-ONEでは、失行を「観念性失行」と「運動性失行」に区別しています。

観念性失行

A-ONEにおいて、観念性失行は、

遂行のために必要な概念に関する神経モデルや表象の欠如により、遂行のために何が行わなければならないかを知ることができない。
対象物を使用することに関する知識の欠如。
活動の工程を順序立てること、あるいはお互いに関連して対象物を使用することにも相当する。
遂行の重要な工程を省く(理解困難は除外する)。

A-ONE認定評価者講習会資料

とあります。
このことから臨床場面では、
・道具を使って何をするかが分からない
・道具の不適切な使用
・作業工程の順序を間違える
・作業の連続性が中断する
・場面に応じて適切な道具を使用できない
などが見られることになります。

観念性失行は英語で「ideational apraxia」といいます。
「道具使用におけるアイデアがない」と捉えることにより、区別がつきやすくなるのではないでしょうか。

運動性失行

A-ONEにおいて運動性失行は、

運動感覚性の記憶パターンを利用することが困難であり、運動のプランニングと動作の順序立ての障害によって、考え方や課題の目的は理解しているにも関わらず目的のある動作を達成することができない。

A-ONE認定評価者講習会資料

とあります。

これは、観念運動失行と同じ意味で用いられています。
このことから臨床場面では、
・道具の把握パターンが異なる(持ち方)
・道具の使い方は正しいが、向きが異なる
・運動の質と出力に問題がある(ぎこちなさ、強弱)
・関節運動の協調性の低下(例:不自然に肘が上がっているなど)
・次の動作に円滑に移れない
などが見られます。

失行はどちらの手に起こるか

脳の左半球損傷では左右どちらも起こる可能性があり、右半球損傷であれば左手に起こるのがパターンになります。

このメカニズムについて考えていきます。

上肢の運動はどのように起こるか

Liepmannは、すでに習得している行為が行われるには、
・運動記憶
・運動公式
・上記のもの同士の連絡や感覚情報との連携
を必要としています。

運動記憶は、手の握り離しなどの単純運動の記憶です。

運動公式は、視覚による運動の計画をさします。

これらの要素や要素同士の連携がとれなくなることで、運動性の失行が生じます。

運動性の失行とは、臨床観察では物品操作のぎこちなさや不器用さとして現れます。

少しややこしいですが話を進めていきます。

運動公式は、主に脳の左半球の頭頂葉から後頭葉に局在があるとされています。

運動記憶は中心前回や中心後回、運動前野付近に局在があるとされています。

 

次に、運動がどのように起こるかを、右上肢と左上肢に分けてみていきます。

右上肢:
右上肢では、
左半球の後頭葉(運動公式)

左頭頂葉(運動公式、感覚との連合)

左中心前回、中心後回、運動前野付近(運動記憶)

運動の発現

左上肢:
左上肢では、
左半球の後頭葉(運動公式)

左頭頂葉(運動公式、感覚との連合)

脳梁

右中心前回、中心後回、運動前野付近(運動記憶)

このような経路によって、上肢の運動が生じることになります。

このことからわかるのは、左半球は右手、左手の両側の運動発現に関与しています。

また、右半球は左手のみの運動発現に関与しています。

つまり、運動性失行は、

左半球損傷→両手に出る

右半球損傷→左手のみ

ということになります。

なお、脳梁の損傷では、左手に運動性失行が生じます。

道具操作障害のメカニズム

手操作運動(物体を対象にした手指の運動)と頭頂葉

手操作運動には頭頂葉の外側(AIP野、PF野)が関与しています。
AIP野:前頭頂間溝→3次元物体をコードするニューロンが存在する。
PF野:下頭頂皮質
頭頂葉で処理された視空間情報は前頭葉の運動関連領野に送られます。この頭頂葉ー運動関連領野の結合ですが、AIP野、PF野は腹側運動前野(F5)への投射が見られます。

2次元と3次元情報による手操作運動の違い

物体の2次元情報と3次元情報による手の操作運動を比較した実験において、3次元に見える条件(りんご)の場合、手で包み込むようにしてつかむことが観察されました。一方、シルエットの2次元情報ではディスクをつかむように、親指と人差し指でつかむ様子が観察されました。
このことから、手の運動は視覚情報の次元により異なることがわかります。

視覚情報の処理をする脳部位

先ほどの説明で、物体を手で操作するには3次元情報が大切になる事が理解できました。操作対象の3次元情報をする脳部位はCIP野と呼ばれる、頭頂間溝尾側領域になります。 CIP野では、平面軸や3次元的な傾きに関する情報が処理されます。またこれらは両眼視差やテクスチャー(物の表面の質感・手触りなどを指す概念)の勾配、輪郭などを手がかりにしています。

操作運動に関連して活動する3つのニューロン(操作運動ニューロン)

AIP野では、操作運動に関連して活動する3つのニューロンが存在します。
視覚優位型:視覚性信号のみが入力される→対象の形状・構造を認識する。

視覚・運動型:運動性信号と視覚性信号の両方を入力する→対象と運動のマッチングを行い、運動をモニターする。

運動優位型:運動性信号のみ入力する。
運動性信号(API野での運動優位型)に関しては、運動前野腹側部(F5)にある操作運動の選択を行うニューロンの遠心性コピーである可能性が考えられており、出された運動指令をもと自己の運動との比較を行っていると考えられています。

AIPーF5による操作運動の制御(流れのまとめ)

①CIP野で操作対象の3次元的特徴に関する情報を処理する。
②AIP野で視覚優位型ニューロン→視覚・運動型ニューロンを介してF5に伝達。
③F5で対象に合わせた手の運動パターンがレパートリーの中から選択、実行される。

このように、視覚の座標(網膜中心、頭部中心、身体部分中心、物体中心など)に合った脳内プログラムを取り出して運動を行っていることがわかります。
AIPーF5による操作運動の制御は脳卒中片麻痺者の運動麻痺に対するリハビリテーションにも重要な考え方となり、手の把握・操作運動に関与しています。

失行の評価

スクリーニングテスト
・バイバイをする
・おいでおいでをする
・敬礼をする
・歯ブラシを持ったつもりで歯を磨く真似をする
・櫛を持ったつもりで髪をとかす真似をする
・ドアに鍵をかける真似をする・金槌を持ったつもりで釘を打つ真似をする

*最初に言葉で伝えて行ってもらいます。そのときにうまくできない場合真似(模倣)をさせます。
*失語による理解障害があるの場合、物品やその写真を示すことで、動作が行えるかを確認していきます。

課題遂行の一般的特徴
・言葉で「◯◯を行ってください」と言うよりも、模倣の方が簡単だとされています。
・物品を使う真似するよりも実際の日常生活で自然に使用する方が簡単だとされています。
・検査場面よりも自然な日常生活場面の方が簡単だとされています。

*症状は様々であり、上記とは逆のパターンももちろんあります。

注意点
失語の理解障害によりエラーが生じるという可能性を無くすようにします。
失語があっても、「◯◯をしてください」と、口頭命令により、それらしい動作が行えるのであれば、指示理解可能と考えることができます。
動作を始めない、何をしてよいかわかっていない様子が観察されたばい場合、実物や写真、模倣を用いて道具の使用が適切にできるかをみていきます。
言葉で模倣するよう伝えてもわからない場合、セラピストが対象者以外の者に模倣させている様子を見せ、それを見て動作が行えるかを判断していきます。
上記の結果より、口頭命令が理解できているのに動作にエラーが起きる、模倣が上手くできない場合、失行があると判断していきます。

検査内容

象徴的行為:
口頭命令と模倣を実施する。「兵隊さんの敬礼」、「さようならと手を振る」のようなもの。

道具使用のパントマイム:
口頭命令と上手くできない時には模倣を実施する。「金槌で釘を打つ」(道具とその作用対象をイメージする)、「櫛で髪をとかす」(道具と自己身体が作用対象)のようなもの。
口頭命令では「歯ブラシを持ったつもりで歯を磨く真似をしてください」と指示する。
指を物品に見立てる(人差し指を歯ブラシに見立てるなど)場合、「◯◯を持ったつもりで」と強調する。
失語で理解不十分な場合、道具の実物や写真を見せる(見せる時間は短く、遂行時には隠す)。

道具の使用:
パントマイムで用いた行為と同じ動作を実際に道具を使用して行う。

失行検査の誤反応(エラー)分類

誤りがある動作を具体的に記載し、おおまかに時間的誤り、空間的誤り、概念的誤り、保続のうちどれが目立つかを把握しておく。
私の場合、運動性失行(道具の使用がぎこちない、道具をうまくあつかえない)、観念性失行(行為のアイデアがない、順序が立てられない、道具の使い方が間違って居る)、保続(同じことを続けてしまう)という考え方で失行のエラーを捉えています。

無意味ジェスチャー

無意味な手と上肢の姿勢の模倣(頭部やその部分と手との位置関係、手の向き)。手指の形の模倣(チョキなど)。

ジェスチャーの認知

失行のリハビリにおいて、ジェスチャーを手がかり刺激にすることがあるためその認知を検査しておくことは有効。口頭命令や視覚提示で身振りを遂行することをパントマイム、パントマイムや姿勢を提示する場合をジェスチャーとする。

・ジェスチャーの呼称:他者が行うパントマイムを呼称
・ジェスチャーの理解:他者がパントマイムを行うのを見て、対応する物品を選択
・ジェスチャーの識別:道具の使用に適切表現しているものを他者が行う複数のパントマイムから選択。正当以外の選択肢には運動の誤り、上肢の方向の誤りを入れる。

 

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パントマイムでの失行と日常生活動作の関連

パントマイムで失行を認める場合、食事動作での誤反応が多く、入浴、排泄、整容動作で介助量が多いという報告があります。

一般的には、パントマイムを失行の鋭敏な検査と捉えて、空間的・時間的誤反応を示す場合を(観念運動)失行と捉えてよさそうである。失行患者で道具の使用の方が容易であるのは、触ることによって道具の特徴的機構がわかり、対象物との関係から動作の位置や距離も規定されるためであるという説明がある。

高次脳機能障害学 第2版 P67

ADL評価の仕方とポイント

失行に対してはADL場面の観察を通して、「観念性失行」「運動性失行」の定義を把握しておくことで、作業遂行においてどのようなエラーが起こっているかを評価することができます。
例えば歯磨き課題において、
・歯磨き粉のチューブを口に持っていこうとする
・歯に対して歯ブラシの角度が適切でない
が観察されたとします。

「歯磨き粉のチューブを口に持っていこうとする」エラーでは、道具の不適切な使用が見られているので、観念性失行となります。
観念性失行においては、言語に問題がなければ行動計画(プラン)を聞くことで、評価の解釈が深まります。

「歯に対して歯ブラシの角度が適切でない」エラーでは、道具の使い方は正しいが、向きが異なることが見られているので、運動性失行になります。

このように、各失行の定義と見られる特徴を把握しておくことで、観察の視点ができるため、評価が行いやすくなります。
なお、エラーがどのようなことから生じているかを把握できれば、リハビリにおいての対処方法も計画しやすくなります。

失行の病巣

道具使用のパントマイム

・道具使用のパントマイムの障害は下前頭回、隣接する島、中心前回の関与が言われるが、頭頂葉でも起こることがあります。
・パントマイムでは左頭頂葉が賦活されると言われています。

道具の使用

・縁上回の関与が考えられています。
・中前頭回後部を中心とする領域は、頭頂葉病巣での道具使用の障害を悪化させる可能性あります。

無意味ジェスチャー

手の姿勢(位置・向き)の模倣障害は、左半球の下頭頂小葉と側頭ー頭頂ー口頭接合部を損傷する後方病巣と関連する
〜以下省略〜
一方、、手指の形の模倣障害は下前頭回の弁蓋部を含む前方病巣と関連するという。

高次脳機能障害学 第2版 P70

失行のリハビリテーション

失行と日常生活動作

失行の一般的特徴として以前から言われてた事として
①道具使用のパントマイムは困難な課題課題
②パントマイム不可でも道具の使用は行える事もある
③検査場面で失行があっても、日常生活では目立たない
というような認識がありました。

しかし、失行と実生活の影響について

食事動作については、最終的には食べるという目的を達成できても、失行検査の成績は食事の手順や食器の使用方法の誤りと相関するという。失行患者の介助量は、入浴、トイレ動作、整容で多かったが、失行と移動、更衣での介助量に関連はみられなかった。更衣については、片麻痺がないか軽度で従前の方法が使える場合は、失行があっても更衣はできる。一方、片麻痺があって新しい代償性方略を見出さなければならない時、失行が障害となる。

高次脳機能障害学 第2版 P76

と述べています。

失行におけるリハビリテーションの目標

言うまでもなく日常生活における様々な行為の改善です。道具の使用のパントマイムなどの失行検査の課題の改善が、日常生活動作の改善と関連があるかはよくわかっていないようです。
失行では日常生活場面で行為が容易になるため、訓練で改善が見られた行為が日常生活上でも改善する可能性はあります。

失行へのリハビリテーションアプローチ

失行に関するリハビリテーションアプローチとして

①行為の想起と遂行
道具や対象物の写真、行為を行う状況、文脈、ジェスチャーの一部を提示して行為を想起させ、道具や対象物の実物の提示、行為の手本などの手がかりで遂行を補助する。

②フィードバック
誤反応をフィードバックし修正する。表3の誤反応分類に基づいて、外的形状と内的形状に分けて、1つずつ誤反応を修正するのがよいという報告がある。誤反応の修正は、言語性に誘導する方法と徒手的に誘導する方法がある。意図的遂行が困難という失行の特徴に基づいた考え方では、徒手誘導が有利に思える。しかし、上肢や手の向き、関節運動の方向や大きさをわかりやすく言語化した誘導も行われる。

③代償的方略
日常生活動作で重要な行為を言語化し、それに従って遂行できるように訓練し、自発的に(内的に)言語化する代償を習得する。あるいは外的に絵を用いて代償する。

高次脳機能障害学 第2版 P77

の3つが言われています。

失行リハビリテーションの効果

失行リハビリテーションの効果としては、介入直後の日常生活行為の優位な改善は認められるが、長期効果のエビデンスは認められていないようです。
重度の失行がある場合や、比較的軽度の失行でも家事動作などを困難にさせる場合もあります。道具の持ち方が適切に行えない場合、危険物(刃物など)の取り扱いには注意し、環境設定も重要になります。

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