脳卒中片麻痺の腕のリハビリでは、肩関節は高さや方向に関わり、肘関節はその伸び縮みにより距離を調節します。
また前腕、手首は道具の操作において重要な役割を果たします。
肩や肩甲骨のトレーニングにより腕を動かすための土台をしっかりとさせ、肘、前腕、手首の働きにより道具の操作をうまくできるようにトレーニングする必要があります。

脳卒中片麻痺の上肢(肘)のリハビリ、自主トレ!肩を挙げた時に肘が伸びにくい場合に!

目標を決めることが訓練の原動力に!

何も目標がなく、ただ言われた訓練を行っているだけでは面白くもなにもなく、ただしんどいことをやっているだけという感覚に陥ってしまいます。
リハビリテーションでは目標を定めるのですが、そのことにより訓練意欲が増し、より積極的に訓練に取り組むことが可能になります。
腕のリハビリにおいては、腕の動きが良くなったらどんなことをしたいのかを自分の中で考え、それに向けて訓練を組み立てていくことが大切です。
作業療法士・理学療法士とともに考えることで、お互いに目標を共有しながら、それに向かって進んでいくことができます。
リハビリスタッフにはなんでも相談してみてください!

目標設定に関しては、以下の記事も参照してください。
麻痺側上肢の使用を促進するツール:ADOC for Hand、HSAチェックリスト

脳卒中片麻痺と筋力低下

脳卒中が起こると、脳の神経細胞が損傷を受けます。
すると、脳から脊髄までの運動指令がうまく行き届かず、腕が動きにくいという現象が起きます。
運動指令が今までは100%だったものが、30%、50%というように伝達されにくくなってしまいます。
これにより、筋肉の収縮量が減少(筋出力の低下)してしまいます。
この状態を神経原性筋力低下といいます。
脳卒中と筋力低下については、以下の記事を参照してください。
脳卒中運動麻痺〜一次運動野と皮質脊髄路による捉え方の違い〜

脳卒中片麻痺者の筋力低下のエビデンス

筋力トレーニンングで痙縮は増大するのか

脳卒中片麻痺の筋力低下を克服するには

運動指令が低下し、筋肉の収縮量が減っている状態に対しては、しっかりと動かして筋肉の収縮量を上げていく必要があります。
(うろ覚えではありますが)ラットを使った実験では、一つの部位の運動機能の回復を促すには、1日200回以上動かす必要があるとの報告があったように思います。
私は患者さまには「1日1000回動かすつもりでいてください」と伝えており、そのため患者さまに「鬼みたいやな」とよく言われています。

筋力強化の原理原則

筋収縮量を向上させるには、抵抗をかけることにより、通常よりもより筋肉を収縮させることを行う必要があります。
筋力強化の原理原則では、1回で持ち上げられる最大の重さの60%程度の重さを10回1セットで3セット行うことで筋力強化が行えるとされています。
脳卒中片麻痺者の自主トレーニングでは、そこまで考えられるのは軽度者かと思いますが、それでも自主トレーニングの中で上記のように抵抗や重りを使用してのトレーニングは非常に重要だと考えています。
脳卒中片麻痺者では神経性の筋力低下が起きていることから、しっかりと動かして鍛えていくことが大切になります。
筋力強化の原理原則!負荷の設定、頻度、回数の考え方!

肘関節の筋(上腕二頭筋)の重要性

肘関節は屈曲(肘を曲げる)と伸展(肘を伸ばす)です。
この運動により、人は手を伸ばしたときの距離を調節することができます。
テレビを見ていてリモコンを手に取りたい時、自然に肘の伸び縮みが調節されることで、スムーズにリモコンを持つことができます。
肘を曲げるのは、上腕二頭筋の働きで、肘を伸ばすのは上腕三頭筋の働きです。
その一方、肘を曲げている所から伸ばすのは、上腕二頭筋の働きでもあります。
ややこしいですが、肘を伸ばす時には、上腕二頭筋がブレーキをかけながら肘を伸ばしているのです(これを上腕二頭筋の遠心性収縮と呼びます)。
大切な赤ちゃんをベッドに寝かせる際、肘の曲げにブレーキがかかりながら動作を行っているのと同じイメージです。
上腕二頭筋でブレーキをかけるには、上腕二頭筋がしっかりと曲がる方向に筋力が発揮できていないといけません。
上腕二頭筋は腕を使用する際にはかなり重要な筋肉なので、しっかりとトレーニングする必要があります。

上腕三頭筋はいつ働くのでしょうか。
上腕三頭筋が一番働くときは、天井に腕を上げたときです。
このときには上腕三頭筋の働きが重要になります。
腕を前に伸ばしたときに、肘が曲がってしまうという方は、上腕三頭筋を鍛えるというよりも、上腕二頭筋がブレーキをかけれるように鍛える方が有効だと考えています。

自主トレに関する記事

次の章で肘のリハビリや自主トレのことが書かれていますが、他の部位のリハビリについては以下の記事を参照してください。
脳卒中片麻痺者の回復を促すリハビリ・自主トレ!両手動作の練習が絶対に大事!

脳卒中片麻痺者の箸操作獲得に必要な要素とリハビリ法(自主トレ含む)

脳卒中片麻痺者の手指のリハビリ・自主トレ方法(中等度〜軽度運動麻痺の場合)

脳卒中片麻痺者の手指のリハビリ・自主トレ方法(重度〜中等度運動麻痺の場合)

脳卒中片麻痺者の手指のリハビリ・自主トレ方法(重度運動麻痺の場合)

脳卒中片麻痺の下肢(足首)に対するミラーセラピーの概要と方法(自主トレ)

文献レビュー:脳卒中片麻痺者の自主トレと家族の役割を考える

ミラーセラピーの方法(脳卒中片麻痺の指、手首、前腕のリハビリ、自主トレ

脳卒中片麻痺の手関節(手首)のリハビリ、自主トレ方法

脳卒中片麻痺の前腕の運動(回内、回外)のリハビリ、自主トレ方法

脳卒中片麻痺の上肢(肩・腕)のリハビリ・自主トレ方法(重度運動麻痺の場合)

脳卒中片麻痺者の握力の鍛え方、リハビリ、自主トレ方法

脳卒中片麻痺者の上肢機能訓練の課題設定と段階付け(変更の基準)の考え方

肘のリハビリ、自主トレの方法と解説

まずは、上腕二頭筋がブレーキをかけながら働くように、肘をしっかりと曲げれるだけの筋収縮力を強化していく必要があります。
一番最初の課題は、取り組みやすい仰向けで行います。
仰向けで腕を体の横に伸ばし、手のひらを天井に向けた状態で肘を曲げていきます。

このときのポイントは、まっすぐと肘を曲げていくことです。
左右にぶれてはいけません。特に、お腹側に倒れながら肘が曲がってしまう場合、肩の腱板筋(特に外旋筋)の働きが弱い可能性が高いです。
そのときは、同時並行的に肩の腱板筋のトレーニングも進める必要があります。
腱板筋のトレーニングについては以下の記事を参照してください。
自分でできる脳卒中片麻痺の上肢(肩・腕)のリハビリ、自主トレ(中〜軽度運動麻痺の場合)

自分でできる脳卒中片麻痺の上肢(肩・腕)のリハビリ・自主トレ(重度〜中等度運動麻痺の場合)

【スポンサーリンク】

まっすぐ楽に肘が曲げれるようになれば、負荷を高めていく必要があります。
手首に重りを巻き、まっすぐ肘を曲げます。

次に、座った姿勢でも肘を曲げれることを目標に行います。
この動きは肘が曲がることにより「顔を触る」「髪の毛を触る」「肩を触る」などができるようになることです。
例えば、肩を触ることができれば、麻痺がある手でスポンジを握り、健康な側の腕を洗うことができます。
座って行う場合、重力に完全に逆らう必要があるため、かなりの筋収縮力が必要になります。
そして、さわる目標が上にあるほど、肩が上に上がっている必要があり、動きに参加する関節数が多くなるため難しい動きになります。
まずは、参加する関節数を少なくするために机の上で行います。
これも先ほどと同じようにまっすぐ曲げていきます。

腕が机につきそうになるのであれば、腱板筋のトレーニングをしっかりと行ってください。
そして、肘を曲げるときに、肩を外側に回旋させることを意識しながら行います。

机に肘を置かないで肘を曲げていきます。
まずは、肩は動かさずに、肘の動きだけで図の位置を目指しましょう。

そこまで動けば、肘の動く範囲はかなり広いので、最後まで曲げれるように取り組みます。

「◯◯に触る」で一番取り組みやすいのは、顎です。
最初は頭を多少近づけても良いので、顎に触れることができるように努力します。

顎まで届いたら、鼻、おデコ、頭のてっぺんと、順に高さを上げ、難易度を高めていきます。

座って肘を曲げる時にもうひとつ気をつけておきたいことがあります。
肩が外側に上がることで、図のようなパターンになる方が多く見られます。

これは腕が重力に負けて、図のように内側に回旋する場合に、代償的に肩を外に上げていると解釈できます。

そのため肘を曲げる時に、肩は外に開かず、脇につけることを意識しながらトレーニングを行ってください。

以外に難しいのが、反対側の肩に触ることです。

脳卒中者では、動く側の方向には動きやすいですが、自分の真ん中を超えて動かそうとする場合は難易度が高くなります。
そして、先ほどと同じように、肘を曲げて反対側に手を伸ばそうとすると、肩がかなりの高確率で外側に上がってしまいます。
脇をしっかり締めて、反対側の肩に手を届かせるようにしてください。

【スポンサーリンク】

これまでのトレーニングがしっかりと行えるのであれば、負荷を高めていく必要があります。
手首に重りを巻いた状態で、取り組んでみてください。
10回行って「もう無理」と思えるくらいの負荷が適切な負荷量と考えてください。

重さに抵抗するくらい力がついて、肘をしっかりと曲げて保持することができると、カバンを腕にかけて持つことができます。

良い方の手で杖を持って、麻痺のある方の手にカバンをかけて持つ、こんなことも可能になります。
孫(赤ちゃん)を抱っこしたいとき、肘はどちらの手も曲がっています。
ある程度の重さを持ちこたえることができれば、それも可能になると思いませんか!
そのために、抱えるように肘を曲げて、重さを保持することを鍛えていきます。
図のように、重りをお腹と肘の間にはさみ保持します。これは案外大変で、最大の筋肉の出力を維持し続けなければならないので、すぐに肘が下がってきてしまいます。

赤ちゃんを抱っこしたいのであれば、これは何としても獲得したい動作です。

上腕二頭筋により、肘をしっかりと曲げれることが可能になったら、ブレーキをかける遠心性収縮も鍛えていかなければなりません。
しかしながら、これからのトレーニングは、できることがあれば、肘を曲げるトレーニングと同時に行ってもらっても構いません。

仰向けで肘を曲げた状態から、ゆっくりと肘を伸ばしていきます。

ブレーキを自在にかけたいので、できるかぎりゆっくりと伸ばしていってください。
5秒、10秒かけて伸ばしていくと、しっかりと遠心性収縮が行えています。
余力があれば、手首に重りを巻いて行うことで負荷が高まります。

座った状態でも行います。
まずは、動きへの関節の参加数を減らすため、机に肘をつけて行います。

先ほどと同じように、できる限りゆっくりと行えるように肘を伸ばしていきましょう。
これも余力があれば手首に重りを巻いて負荷を強めます。

次は、何もない状態で遠心性収縮を鍛えていきます。
まずは肩の動きを伴わずに肘をゆっくりと伸ばしていきます。

肩を徐々に上げていき、その中でも肘をゆっくりと伸ばせるようにしていきましょう。
肩を90度上げた状態で肘をゆっくりと伸ばすことができれば、遠心性収縮はかなり上手に行えているといえます。

腕は前に上げるだけではありません。
前、右、左、斜め、下、上など様々な方向に動きます。これらの動きの中で、肘の遠心性収縮を自在に行えるようになれば、麻痺のある腕の自由度はかなり上がっていきます。
色々な方向に動かしながらトレーニングを行ってください。

物を使ったトレーニングも大切です。
人間は、物の操作を行うために、進化の過程で腕が使えるように発達していきました。
そのため、物を使ったトレーニングは非常に重要です。
物をとりにいく、または持った途端に、腕のコントロールが効きにくくなることは片麻痺の方ではよく見られます。
物を自在に操れてこそ、リハビリといえます。

物を取って、ゆっくりと置く動き。これはコップで飲み物を飲んだ後、こぼれないようにゆっくりと机の上に置いたりする時にみられる、非常に大事な動きといえます。

このような動きをトレーニングによって獲得していきます。
物をつかむときに導入しやすいのは「お手玉」です。

お手玉をつかみ、やや下の位置の箱にゆっくりと肘を伸ばしながら入れていきます。

下が可能であれば、徐々に箱の高さを上げていきましょう。

ポイントはしつこいですが、ゆっくりと行うことです。
私は患者様に「赤子に触れるときみたいに大切にしながら!」とよく言っています。
これ、以外に効果的な魔法の言葉です。
肩が90度程度上がったところでゆっくりと肘を伸ばすことができれば、かなり上達しているといえます。

手首や指がある程度動くのであれば、ペットボトルを持ち、飲む動作と机に置く動作を行うことで、物品を操作しながら上腕二頭筋を効果的に働かせることができます。

ペットボトルを飲む動作は上腕二頭筋の求心性収縮、ペットボトルを置く動作は遠心線収縮になります。
ペットボトルは水の量により負荷量が変わりますから、段階付けも行いやすくなります。
健康な男性の方では、1.5ℓのペットボトルを片手で机にゆっくりと置くこともできるのではないでしょうか。

ダーツは趣味的な活動であり、トレーニングにも利用できます。

ダーツは投げ始めは肘を伸ばす筋肉が働きますが、その後は重力に対して微妙な力の調節をしながら上腕二頭筋によるブレーキをかけながら肘を伸ばしていきます。
肩の機能が不十分であれば、健康な側の手で、麻痺側の肘を支えてあげることにより、動作練習が行いやすくなります。

次に、上腕三頭筋の鍛え方を考えていきます。
かなり前に述べましたが、上腕三頭筋の働きが一番必要なのは肩がかなり上に上がっているとき(120度以上)です。

特に、腕を天井に向けて伸ばしていくときにはかなりの収縮力が必要になります。
棚の上の物を取るとき、窓の掃除をするとき、色々な場面で頭上に頭を伸ばす機会があります。
このような動きを獲得するには、上腕三頭筋の強化は必須となります。

あまり肘の動きがみられない時の上腕三頭筋の強化方法がとしては、仰向けで行う方法があります。
肘を曲げた状態から、肘を伸ばしていきます。伸ばし始めに上腕三頭筋の収縮が得られます。

仰向けで、肩を90度挙げ、その状態から肘の曲げ伸ばしを行います。

この動きでは上腕三頭筋の求心性収縮が得られます。
伸ばす時は手の甲が外側を向いているようにし、曲げる時は手の甲がおでこに付くように行うことで、肘と前腕が独立して自由に動くことにつながります。
肘の曲げ伸ばしを行う際に、肩関節が動かず、ビシッと止めた状態で行うことで、肩の安定性も同時に高めることができます。
余裕が出てきたら重りを手首につけるようにします。

座った状態では、目の前に椅子を置き、その上に枕などを設置します。
手首をそらし、手のひらを枕に接しながら、肘を伸ばし枕を押します。

前腕を内に回して行うことで、脳卒中者は肘を伸ばしやすくなります。
はじめの内はこの方法で行い、動きが出てくれば、前腕を外に回して行うようにすればよいでしょう。

座った状態で、座面の横に肘を伸ばして保持します。
手のひらの下にタオル(折りたたんだもの)を置き、それを押し込むように肘を伸ばしていきます。

押し込む時のポイントは、親指の付け根付近(母指球)で押し込むことで肘を伸ばす感覚が得られやすくなります。

机での雑巾がけは上腕三頭筋の強化には最適です。
重りを手につけ、雑巾を下に敷き、前方に肘を伸ばすことで上腕三頭筋の収縮が得られます。

そして左右、斜めなど、様々な方向に肘を伸ばしていきます。

肩のトレーニングでも述べましたが、壁サンディングは効果的に上腕三頭筋を鍛えることができます。
雑巾を手にとり、壁に向かって手を上に上げていきます。

下ろすときにはゆっくり下ろすことで、ブレーキをかける遠心性の収縮になります。
そして、最後まで下ろしてはいけません。途中で保持することで、筋肉に強い負荷がかかりやすくなります。

日常生活でいかに腕を使っていくかが大切

これまでに様々なトレーニング方法を紹介してきましたが、どれが皆様に適した方法かは正直わかりません。
しかし、トレーニングを続け、少しでも腕の機能が良くなったら、日常生活で使える場面を考えましょう。
日常生活でいかに麻痺側の腕を使うかによって、今後の回復にも左右してきます。
先ほども述べましたが、
・かばんをさげる
・傘をさす
・アイロンをかける
・洗濯物カゴを腕にかける
など、様々な場面で肘の曲げ伸ばしを使う動作を行うことができるかもしれません。
担当の作業療法士と相談しながら、想像力豊かに日常生活で使用できようにしてみてください。