脳卒中片麻痺になると、重度の運動麻痺の場合では全く肩・腕が動かない、もしくはわずかに動きがあるという程度のことがあります。そのような時に、筋肉の収縮を得るためにはどのようにしていけばよいのでしょうか。ここでは、伝統的な方法から、機器を使用した方法と、その理論も含めて紹介、解説していきます。

脳卒中片麻痺の上肢(肩・腕)のリハビリ・自主トレ(重度運動麻痺の場合)

脳卒中片麻痺と重度運動麻痺

脳卒中を発症すると、脳が損傷を受け、脳から脊髄までの神経伝達がうまく行われず、運動麻痺が生じることがあります。
肩や腕に動きがある場合は、トレーニングの方法はわかりやすいですが、動きが全くない、もしくは動きがわずかという重度の運動麻痺の場合では、どのように訓練を行えばよいかわからないことがあると思います。
病院に入院している場合、担当の作業療法士や理学療法士から肩や腕の訓練をしてもらえますが、日常生活動作の訓練も同時並行的に行う必要があるため、そちらに時間がとられ、腕の訓練の時間が短くなることもあります。
何より、長くても作業療法の時間は1時間から1時間20分程度と思われ、1日の残りの時間をどのように過ごすかが、運動麻痺の回復に重要な要素となります。
リハビリにおいて、腕の訓練が短いと感じたら、遠慮せずに担当の療法士に尋ねてみてください。
それぞれの療法士の考え方はありますが、今の自分に合ったトレーニングの方法を教えてくれるはずです。

目標を決めることが訓練の原動力に!

何も目標がなく、ただ言われた訓練を行っているだけでは面白くもなにもなく、ただしんどいことをやっているだけという感覚に陥ってしまいます。
リハビリテーションでは目標を定めるのですが、そのことにより訓練意欲が増し、より積極的に訓練に取り組むことが可能になります。
腕のリハビリにおいては、腕の動きが良くなったらどんなことをしたいのかを自分の中で考え、それに向けて訓練を組み立てていくことが大切です。
作業療法士・理学療法士とともに考えることで、お互いに目標を共有しながら、それに向かって進んでいくことができます。
リハビリスタッフにはなんでも相談してみてください!

目標設定に関しては、以下の記事も参照してください。
麻痺側上肢の使用を促進するツール:ADOC for Hand、HSAチェックリスト

脳卒中片麻痺と筋力低下

脳卒中が起こると、脳の神経細胞が損傷を受けます。
すると、脳から脊髄までの運動指令がうまく行き届かず、腕が動きにくいという現象が起きます。
運動指令が今までは100%だったものが、30%、50%というように伝達されにくくなってしまいます。
これにより、筋肉の収縮量が減少(筋出力の低下)してしまいます。
この状態を神経原性筋力低下といいます。

脳卒中と筋力低下については、以下の記事を参照してください。
脳卒中運動麻痺〜一次運動野と皮質脊髄路による捉え方の違い〜

脳卒中片麻痺者の筋力低下のエビデンス

筋力トレーニンングで痙縮は増大するのか

脳卒中片麻痺の筋力低下を克服するには

運動指令が低下し、筋肉の収縮量が減っている状態に対しては、しっかりと動かして筋肉の収縮量を上げていく必要があります。
(うろ覚えではありますが)ラットを使った実験では、一つの部位の運動機能の回復を促すには、1日200回以上動かす必要があるとの報告があったように思います。
私は患者さまには「1日1000回動かすつもりでいてください」と伝えており、そのため患者さまに「鬼みたいやな」とよく言われています。
肩や腕の筋収縮がなくても、動かすことで関節の動く範囲を保つことができます。
関節が柔らかいことは、後で筋収縮がみられた時のために重要なことなので、動くことを信じてトレーニングを行っていきます。

筋力強化の原理原則

筋収縮量を向上させるには、抵抗をかけることにより、通常よりもより筋肉を収縮させることを行う必要があります。
筋力強化の原理原則では、1回で持ち上げられる最大の重さの60%程度の重さを10回1セットで3セット行うことで筋力強化が行えるとされています。
脳卒中片麻痺者の自主トレーニングでは、そこまで考えられるのは軽度者かと思いますが、それでも自主トレーニングの中で上記のように抵抗や重りを使用してのトレーニングは非常に重要だと考えています。
脳卒中片麻痺者では神経性の筋力低下が起きていることから、しっかりと動かして鍛えていくことが大切になります。
筋力強化の原理原則!負荷の設定、頻度、回数の考え方!

重度運動麻痺の場合は、動きが全くみられない、もしくはわずかに見られる程度ですから、まずは筋収縮を誘発し、動きを発現しやすくすることがポイントになります。
徐々に動きが見られてきたら、上記のように負荷をかけていくようにします。

自主トレに関する記事

次の章でリハビリや自主トレのことが書かれていますが、他の部位のリハビリについては以下の記事を参照してください。
脳卒中片麻痺者の回復を促すリハビリ・自主トレ!両手動作の練習が絶対に大事!

脳卒中片麻痺者の箸操作獲得に必要な要素とリハビリ法(自主トレ含む)

脳卒中片麻痺者の手指のリハビリ・自主トレ方法(中等度〜軽度運動麻痺の場合)

脳卒中片麻痺者の手指のリハビリ・自主トレ方法(重度〜中等度運動麻痺の場合)

脳卒中片麻痺者の手指のリハビリ・自主トレ方法(重度運動麻痺の場合)

脳卒中片麻痺の下肢(足首)に対するミラーセラピーの概要と方法(自主トレ)

文献レビュー:脳卒中片麻痺者の自主トレと家族の役割を考える

ミラーセラピーの方法(脳卒中片麻痺の指、手首、前腕のリハビリ、自主トレ

脳卒中片麻痺の手関節(手首)のリハビリ、自主トレ方法

脳卒中片麻痺の前腕の運動(回内、回外)のリハビリ、自主トレ方法

脳卒中片麻痺の上肢のリハビリ、自主トレ方法!肩を挙げた時に肘が伸びにくい場合!

脳卒中片麻痺者の握力の鍛え方、リハビリ、自主トレ方法

脳卒中片麻痺者の上肢機能訓練の課題設定と段階付け(変更の基準)の考え方

リハビリ、自主トレの方法と解説

自主トレでは、いかに筋収縮を発現させ、筋収縮を高めていくかが大切です。
そのために、様々な姿勢を利用して、自分の腕が動きやすいポジションを確認しながら行っていきます。

腕が動かないことを弛緩性の麻痺といいますが、この状態の場合腕のどの部分でもよいので、とにかく筋収縮が入る状況を作り出すことが大切です。
「連合反応」と呼んでいる現象を利用します。
「連合反応」は、例えば片方の腕に思いっきり力を入れた場合、もう片方の腕にも自然と力が入ってしまうような現象のことです。
片麻痺の方があくびをした時に、腕が動く現象も連合反応になります。
運動麻痺により筋収縮が入らない場合、これを利用していきます。
つまり、動く側の腕に力を思いっきりいれることで、麻痺側の腕に筋収縮が入るのを期待するのです。
ポイントは、とにかく思い切りです。血圧には注意する必要がありますが、余力を残さないくらい行うことに意味があります。
この方法は療法士と一緒に行うことが多いのですが、自分で行う方法を紹介します。
ベッド柵に健康な側の腕をかけ、肘を思いっきり曲げます。その時、麻痺側の腕もしっかりと曲げることをイメージしながら力を入れます。

良い反応があると、麻痺側の腕に反応があります。見逃さずに取り組んでください。

肩甲骨は肩や腕に比べ、初期より動きやすい部位になります。
肩甲骨の動きには、上、下、斜め、横と様々な方向への動きがあります。
肩甲骨の動きを出すことは、左右非対称な姿勢の改善や、腕の上がりがよくなるなど、とても良い効果があるので、初期より取り組むべきトレーニングになります。
一般の方がイメージしやすいのは、「肩をすくめる(上方向)」への運動(挙上)だと思います。
この動きは、僧帽筋の上部繊維の働きにより促されます。
車椅子などに座っている状態で、肩甲骨を上に上げてみます。左右両方同時に行うことで、肩甲骨の動きのイメージがつかみやすいと思います。

麻痺側ある側では肩甲骨の動きが悪いです。鏡を見ながら行うことで、筋肉の収縮力がどの程度足りていないかを知ることができ、さらに力を発揮しやすくなると思います。
横向けになると、重力の影響が少し取り除かれるため、弱い筋収縮でも動きが出やすくなります。

上向きに行った後は、逆の動きの下向き(下制)も行います。

上から下に動かすということで、運動のイメージもつかみやすいはずです。

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肩甲骨を内側に動かす(内転)こともイメージしやすい運動です。これは、胸を張る時に行われる運動で、僧帽筋の中部繊維というところで行なわれます。
座って行う場合、両側の肩甲骨を動かしながら、胸を張っていきます。

横向きでは重力に従うことができます。横向きの場合は、肩甲骨が床に落ちていくイメージで行うことが大切です。

肩甲骨を内側に動かすことを意識しすぎて、体ごと後ろに回さないようにすることに気をつけます。

腕を挙げる時に重要なのが、肩甲骨を外側に突き出す(外転)運動です。
肩甲骨は腕の運動の土台にあたる部分なので、肩甲骨の動きをしっかりと出せていると、腕が動きやすくなります。
この運動は、座って行うとイメージがつきにくく、横向きになって行います。
ベッドでは、ベッド柵に手をかけ、前に向かってパンチをするように肩甲骨を外に突き出していきます。

もし動きが出てきたら、次にイメージがつきやすいのが仰向けでの運動です。
仰向けで、麻痺側の手を天井に向かって突き上げていきます。この時、健康な側の手で麻痺側の腕を支えて挙げることで運動を強化していきます。

補助する側の手はあくまで補助です。メインの動きは麻痺側の肩甲骨が突きあがることを意識してください。

肩甲骨の運動で、忘れがちなのが内側と下側の組み合わせの運動(下制と内転)です。
この運動は、僧帽筋の下部繊維というところで行なわれます。
腕の運動には肩甲骨の上方回旋という運動が非常に大切ですが、この運動は、僧帽筋の3つの部分が協力して働くことでしっかりと機能が発揮されます。
座って行う場合、横向けで行う場合があります。

どちらにしても、重力に従う運動のため、イメージしやすい運動だと思います。

低周波治療器を用いることで、電気刺激による筋収縮を促すことが可能です。
重度運動麻痺の場合、筋収縮がないことから筋肉が萎縮してしまうことがあります。
それを少しでも防ぐという意味でも、低周波治療器はその助けになる可能性があります。
私が使用している低周波治療器はオムロンの「エルパレス HV-F125」です。

低周波治療器の禁忌事項として、心臓ペースメーカーを使用されている方は使用しないようにします。
またけいれん発作をおこした方、妊娠中の方、皮膚疾患がある方、悪性腫瘍がある方は医師と相談の上使用するようにしてください。
皮膚の傷や瘢痕、感覚が全くない部位への使用も控えるようにします。

頻度は1セット15分を2セット、1日午前と午後で使用します。
モードは「おす」を選択してください。
低周波での筋肉の動きに合わせて、自分でも動かそうと意識しながら力を入れることが大切になります。
必要以上の強さや回数を行うと電気火傷を引き起こす場合があるため注意が必要です。

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肩に当てる場合のパッドの貼り付け位置を示していきます。
肩を前に挙げる運動を促したい場合です。
①肩の骨(肩峰)のやや下の部分の前後にパッドを貼り付けます。
強さは軽く肩が前に上がる程度にしてください。

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肩を外に挙げる運動を促したい場合です。
①肘を曲げて肩に手を回し、指先が肩にふれる部分にパッドを貼ります。
②肩の骨(肩峰)の下にパッドを貼ります。強さは軽く肩が横に上がる程度にしてください。

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肘を曲げる運動を促したい場合です。
①肘関節のすぐ上の部分にパッドを貼り付けます。
②その上にパッド1つ分程度のスペースを空け、もう一枚貼り付けます。強さは肘が軽く曲がる程度にしてください。

肘を伸ばす運動を促したい場合です。
①テーブルに腕を乗せ、肘の裏面の端と脇の腕の境目にパッドを貼ります。
強さは肘が軽く伸びる程度にしてください。

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自主トレとして取り組みやすいのは雑巾掛け(ワイピング)です。
雑巾の上に麻痺側の手を乗せ、その上に健康な側の手を乗せます。

もしくは、両手を握り、雑巾の上に乗せます。

様々な方向に雑巾を動かし、肩や肘周囲の筋肉に収縮が入ることを期待します。
また、関節可動域の維持にも役立ちます。

スケーターボードというものが作業療法室にはあります。
スケーターボードは、板の下に車輪がついているもので、わずかな筋収縮でも車輪の転がりによって腕を動かしやすくするための道具です。
これも、様々な方向に腕を動かすようにすることがポイントです。

肩、肘の筋収縮が得られてきたら、挑戦しやすいのが寝返りの際の麻痺側の腕の管理です。
重度運動麻痺の場合、寝返るときには腕をお腹の上に乗せますが、これを麻痺側の腕の力で行います。

肩、肘を曲げることでお腹の上に腕が乗りますが、目指すのはわき腹に触れずにお腹の上に乗せることです。
まだ筋力が不十分であれば、腕がわき腹についた状態でもよいので、動作に挑戦します。

それぞれの関節の動きが出てきたら、下記の記事のようなトレーニングを行っていきます。
脳卒中片麻痺の上肢(肩・腕)のリハビリ・自主トレ(重度〜中等度運動麻痺の場合)

日常生活で麻痺側の腕をいかに使えるか

運動麻痺の回復には、麻痺側の腕をいかに使えるかで回復の度合いが違ってくるといわれています。
そのため、腕に動きが出てくれば、日常生活の中で腕が参加できる機会を作るべきです。
例えば、
・寝返りの際に腕をお腹の上に乗せる
・着替えで袖を通す際、麻痺側の腕が後ろに引けないように肩を前に出しておく
・手を洗う際に麻痺側も参加させる
・脇と腕で物をはさむ
などです。
麻痺側を使用しないと、脳が麻痺側の腕を使用しなくてもよいと学習してしまい、日常生活場面で麻痺側の腕が参加する機会が失われていきます。
そうならないためにも、少しでも動いたら、日常生活で使用する!これを忘れないでください。
担当の療法士と相談すると、いろいろな使用場面が考えられると思います。