脳卒中片麻痺者では、運動麻痺が生じます。運動麻痺に対する機能訓練として、道具や物を使用した課題が用いられることがありますが、その段階付けの基準はどのように考えていけばよいのでしょうか。今回、上肢機能訓練における課題設定と段階付けの考え方について、まとめていきたいと思います。

脳卒中片麻痺者の上肢機能訓練の課題設定と段階付け(変更の基準)の考え方

脳卒中片麻痺と上肢機能障害

脳卒中片麻痺では、運動麻痺が生じます。
脳の一次運動野が損傷を受けると、分離運動の障害が起こり、皮質脊髄路が障害を受けると神経原性の筋力低下が起こります。

分離運動の障害では、脳からの指令が脊髄を通して筋肉を動かす時に、適切な筋肉のみでなく、他の筋肉にも同時に指令が伝えられてしまうことにより、共同運動という現象が起こります。
その結果、肩を上げようとしたら同時に肘が曲がる、肘を伸ばそうとしたら前腕の回内を伴うなどの複数の関節運動が起こってしまいます。

神経原性の筋力低下では、皮質脊髄路が障害されることにより、運動野からの指令が通常であれば100%伝わるところが、50%になったり、20%になることで、筋出力の低下、筋収縮量低下が起こることによって、結果的に筋力低下という症状として現れます。
どちらとも、自分の意思で自由に上肢をコントロールできないという形にはなりますが、損傷場所によって動かしにくさのメカニズムに違いがあります。

これらの運動麻痺に対して、リハビリテーションでは、単関節での運動の獲得、複数の関節を伴った運動の獲得、筋力増強、道具や物の操作の獲得などを目的に訓練が行われます。

脳卒中片麻痺者と道具や物の操作訓練

ある程度運動麻痺の改善が見られると、物や道具の操作訓練を行うと思います。
ある関節運動の要素を獲得したい時に、物や道具の操作を練習に取り入れることで、自然な形で運動を獲得できることを期待して行われます。
また、自分が目標とする事に、その道具や物の操作が必要な場合、その練習自体が目標を達成するために必要な運動になります。
学生時代に「作業を目的として使用する」「作業自体が目的となる」みたいな事を習いましたが、まさしくそのような感じです。

上肢訓練だけでなく、下肢の訓練においても、麻痺側下肢に荷重を促したい場合に、何もなく機能訓練をするよりも、作業を介して下肢の荷重練習を行うことで、あまり意識せず自然に荷重がかけられることもあります。
このように、作業を治療に用いることは利用価値がかなり高いことがわかります。

さらに、運動麻痺の回復を促す要素に、「日常生活の中でいかに麻痺側上肢を参加させ、使用するか」ということが言われていますが、これはまさに道具や物の使用が含まれています。
そのため、獲得した運動や道具・物の操作は、日常生活でいかに使用できるようにアプローチしていくかが回復のポイントとなります。



基準の大切さ

上肢機能訓練を行う時に、みなさんはどのような基準を設定しているでしょうか。
「なんとなく良くなっているから、こんな動きを今度はやってみようかな」と課題を変えているか、もしくは自分なりに観察ポイントを決めて、「この点が良くなったから、次はこの運動を行おう」というようにしているかというパターンがあると思います。

これは、どちらが正解というわけではありませんが、少なくとも観察ポイントは自分で明確に決めておく必要があると思います。

血圧のことを考えてみます。
リハビリテーションを行う時に、「土井・アンダーソンの基準」というのがあったと思います。
ある血圧以上の場合には、◯◯のようにしなさいという明確な基準が決められていました。
このような基準があると、セラピストは判断が行いやすくなり、それに従って行動を決めていくことができます。
このような基準は機械的ですが、新人のセラピストにとっては非常にわかりやすい基準になります。

上肢機能訓練においても、このような基準があれば、課題変更の際のポイントになります。
では、基準をどのように設定していけばよいでしょうか。

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基準1(疲れの見え始め)

課題の段階付けや変更に直接関係することではありませんが、回数設定に関わるようなことです。
訓練を行っていると、筋肉が疲労することにより、明らかに運動パフォーマンスが低下することがあると思います。
このような状態で訓練を続けていると、無駄なノイズがある状態で動作が記憶されることにつながります。

短期の学習効果は休憩によって残り、休んでいる間に学習の選択が行われて中期の学習が残るようです。
その後さらに動作することにより選択された学習の効果が現れ、動作の変化になると理解しています。
〜中略〜
練習が過多で疲労が出ると、動作のノイズが増え、よい動作の記憶を傷つけると考えられます。

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疲労は運動パフォーマンスの低下として現れますが、その前兆を評価できることが大切になります。
表情(眉間にシワがよる、口がいがんでくるなど)、呼吸、姿勢が崩れてくるなどの反応を観察により把握することが大切になります。
回数をこなすことももちろん大切なのですが、疲労と向き合いながら取り組めるように、観察ポイント知っておくことが大切になります。

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基準2(課題遂行の様子)

ここからは、段階付けや課題変更にける基準の考え方です。
課題設定においては、「少し難しそうだが、なんとかできるレベル」を設定していくことが必要と言われています。
対象者にとって簡単すぎるレベルでは回復が起こりにくいと考えられます。

課題遂行時の観察ポイントとして、まず正常動作の要素を考えていきたいと思います。
正常な動作では、道具操作は流れるように、協調的な動きになります。
また、スピードも正確性も高いことが挙げられます。
このことから、協調性、スピード、正確性、(安全性)は正常を考えた場合に重要な要素になります。

脳卒中片麻痺者では、上記に加えて分離運動が適切に行われているかも加える必要があります。
分離運動が適切に行われていないということは、共同運動の要素が含まれているということです。
共同運動の要素が強ければ、それを代償するために様々な運動が行われます。
例えば、頭や体幹、反対側の上肢に代償運動が生じます。

分離運動が部分的に可能になれば、今度は動きのスピードや協調性、正確性に目を向けることになります。
また手指では、独立した運動が行えずに把握のパターンが残っていることが考えられます。

ある課題を行ったときに、代償運動が強すぎる場合、その運動を行い続けるとノイズが入った運動を記憶することにつながってしまいます。
分離運動障害や筋力低下があると、代償運動は起こってしまうものですが、それが強すぎる場合には、課題の難易度をワンランク低いものにする必要があります。

基準3(数値の利用)

前途しましたが、数値は明確な基準になります。
数値をもとに課題の設定や変更を行うこともひとつの方法です。

終了時間
終了するまでの時間により、課題の難易度を決定します。
ひとつの課題が◯秒で終わるように設定し、◯秒以上かかる課題は行わないようにするなどです。
これにより、時間を基準として、遂行のスピードに焦点を当てて課題設定が行えます。

平均時間の比較
例えば、前日に行った課題の平均時間と、当日に行った平均時間を比較し、時間が短くなっていたら、課題の難易度を上げていきます。

平均時間2
この平均時間では、例えば10回行うのであれば、後半5回中4回の平均が、前半5回の平均を超える場合に課題の難易度を上げていきます。

個数
ある秒数までにできた個数の平均が、前日の個数の平均を超えた場合に、課題の難易度を上げていきます。

これ以上の改善が見られない
課題を行っていて、個数や平均時間などの改善がこれ以上見られない場合、課題の難易度を上げていきます。

訓練における注意点

上記のような基準を設定し、段階付けや課題設定・変更をおこなっていきます。
それに加えて、対象者が行っている遂行状態をフィードバックすることが大切になります。
個数や平均時間の向上が目に見えるように書面やグラフにして提示することは、対象者の意欲向上につながります。
自主トレでは個数や平均時間でフィードバックが行えますが、セラピストがついていることのメリットは、遂行の質を評価し、フィードバックできることです。
「手を伸ばしたときに、体の傾きが大きかった」などと、対象者自らでは気づけないような体の状態に対して助言を送ることは大変意義があることです。
遂行の様子をビデオ撮影することは、後で遂行状態を振り返ることにつながり、改善できる・すべきポイントを共に確認することができます。
このようなことを通じ、訓練を進めていくことで、対象者にとってよりよい訓練になるのではないでしょうか。

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