肩腱板断裂術後のリハビリについての考え方、注意点について、文献を参考にしながらまとめていきたいと思います。
目次
肩腱板断裂術後のリハビリ!いつから動かす?どう動かす?
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参考文献
理学療法ジャーナル Vol.43 No.1
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腱板断裂の原因・病態と治療
腱板について
腱板とは、回旋筋腱板(ローテーターカフ)と呼ばれる棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋と4つからなる筋肉群の総称です。
回旋筋腱板は肩関節を動かす際、肩甲上腕関節の関節運動を誘導したり、肩甲上腕関節の安定化に寄与したり、上腕骨頭の前後への偏位を防いだりと、肩関節の安定化に関与しています。
腱板断裂とは
腱板断裂とは、上記で説明した回旋筋腱板のうち、特に棘上筋に多く見られ、40代男性に多いと言われています。
発症の原因は様々で転倒などの外傷、上肢の使用頻度が高い職業、また特別な原因がなく骨から腱板停止部が剥離してしまうこともあるようです。
完全断裂と不完全断裂
腱板断裂の病態には完全断裂と不完全断裂に分かれます。
腱板断裂を考えるために必要な解剖学
断裂の多い棘上筋は、棘下筋との連結があり、ひとつのユニットとして機能していることがわかってきています。
棘上筋の後部は薄い膜状で、その上に棘下筋の斜走繊維が覆うように走行しています。
斜走繊維の上方部分は腱性部で、棘上筋と密接しています。またその部分は烏口上腕靱帯が挟み込こんでおり、ひとつのユニットとして機能していると考えられています。
棘上筋の筋内腱は大結節前方に停止しているため、棘上筋後部の断裂が起こっても、前方部分が残存していると棘上筋はその働きを保てます。
腱板の停止部分は、上腕骨頭と腱板中枢部からの血行供給における血管の吻合部があり、critical zoneと呼ばれる変性を受けやすい部分となっています。
腱板断裂が起きるメカニズム
腱板断裂を誘発するストレスとして、腱板への突き上げ、捻れ、伸張の3つのストレスが関与しています。
突き上げストレスは上腕骨頭が上方に偏位することで腱が肩峰と衝突し損傷するものです。
捻れストレスは上腕骨頭内外旋等の回旋運動により肩峰下で腱が挟み込まれることを言います。
伸張ストレスは上腕骨内外転時に短縮伸張を繰り返すことにより腱が損傷をうけるものを言います。
加齢による腱板停止部の変性に加え、上記のストレスが繰り返し起こることで腱板は損傷されやすくなります。
整形外科的治療
腱板断裂は約7割が保存療法(非手術)にて症状の軽快が期待できると言われています。
大結節の棘下筋、棘上筋腱付着部は血行に乏しく断裂部の自然回復は困難です。
手術療法には関節鏡視下手術、直視下手術の2つがあります。
関節鏡を用いる場合は手術での傷口が小さく、術後の痛みや負担が小さく、関節可動域の獲得も早期に期待できます。
その一方で筋力や機能回復は直視下手術に比べ劣る傾向にあります。
直視下手術では断裂した腱板の強固な固定が可能で、術後の筋力、機能の回復が良好です。
その一方傷口は関節鏡手術に比べ大きく、術後の合併症を伴う確率が高くなります。
術後は約4週間外転装具にて肩関節外転位に保つことが必要です。
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おおよそのリハビリスケジュール
術後約3週まで
術後約3週間は腱板腱部の再断裂が起きないように、装具にて外転肢位を保つ必要があります。この時期は腱板に負担がかかる肩の自動運動は禁忌になります。
疼痛に関してはVASにて安静時・運動時を確認します。また、術創部の疼痛、術部以外の肩甲帯などの疼痛についても確認します。
この時期は術部周辺組織の癒着予防と浮腫の改善が目的となるため、リハビリの際には自動運動ではなく、他動運動にて実施する必要があります。
注意点としては棘上筋、棘下筋は大結節前方に停止するため、同部位の損傷では軽度内旋位で肩甲骨面上での操作が必要になります(外旋位では腱部が伸張位となる)。
その際防御性収縮にも注意する必要があります。
装具装着肢位が不良肢位になっていないかも確認し、肩甲骨周囲筋、上腕二頭筋などの過剰収縮の有無も確認します。
術後約4〜6週後
この時期では術部の炎症も落ち着き、疼痛の軽減も見られてきます。
リハビリでは軽度の自動運動を進めていく事になります。
その際、肩関節下垂位になると、縫合腱部分に伸張ストレスが過度にかかるため、自動運動では肩甲骨面30°位から上腕骨内旋位での軽度肩外転自他動運動、外旋位での90°位からの外転運動など、疼痛に気を配りながら運動を実施していきます。
背臥位にて両手を組み、肩甲骨面での自動介助挙上運動も行います。
その際、大胸筋、三角筋、上腕二頭筋などの過剰収縮により、肩甲帯挙上・前方突出、後退・内転が過剰に見られる場合、疼痛が生じやすくなります。
また座位にてテーブルサンディングを行うことも有効です。その際疼痛に注意しながら、動かす範囲を決定していきます。
術後約6週以降
背臥位にて90°以上自動挙上可能になれば、椅子座位での挙上練習を開始します。
疼痛の有無、部位、肩甲骨の動きなどを確認しながら、背臥位と椅子座位での自動関節可動域を確認し、他動関節可動域と比較します。
7週以降は積極的に自動挙上運動を開始していきますが、腱板筋への過負荷となる動作は避けるようにします。
長時間のデスクワーク、上肢挙上位での作業が長時間に及ぶと疼痛が長引くことも考えられます。
肩甲上腕リズムも確認しながら、リハビリを進めていくことが重要になります。
その他注意点
各時期におけるプログラムはあくまで参考であるため、医師との連携をとり、状態に応じてリハビリを進めていくことが重要になります。
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肩腱板損傷における肩甲上腕リズムの重要性
腱板損傷と肩挙上
新鮮死体を使用した生体力学的研究によると、棘下筋の3/5以上の断裂により外転トルクは有意に減少すると言われています。
また棘上筋のみの断裂では肩挙上は可能ですが、肩甲下筋、棘下筋、小円筋から成るtransverse force coupleの破綻があると、三角筋の筋力を3倍にしても肩挙上が行えなかったとの報告もあります。
腱板損傷と疼痛
腱板損傷例の肩甲骨・肩甲上腕関節の動作解析によると、肩甲骨後傾方向への変化量が少なく、肩峰下腔の狭小化があり、特に外転90〜120°で最も狭小化したとの報告があります。
これは、腱板機能不全や筋のインバランスによるものと考えられています。
一方、肩甲骨の後傾は術後の疼痛には関与せず、肩挙上時の肩甲骨外旋の変化量が疼痛に関与していたとの報告もあります。
また、疼痛のある例では下方関節包が有意に小さかったとの報告もあります。
そのため、手術後の挙上位の保持、他動外転運動が重要になってきます。
腱板断裂と肩甲上腕リズム
腱板断裂例をDe Orio & Cofield分類にしたがって4群(massive tear:5㎝以上、large tear:3㎝から5㎝未満、moderate-sized tear:1㎝から3㎝未満、small tear:1㎝以下)に分類し、各群の肩甲胸郭関節の動きを健常人と比較検討した結果、挙上30〜60°間ではmassive tear群のみ健常人より有意に動きが大きかった。
しかし、挙上90〜120°間では有意差を認めなかった。
理学療法ジャーナル Vol.42 No.10 P849
とあります。
また、腱板断裂術後の肩甲上腕リズムについて
腱板断裂術後1年の患者における肩甲胸郭関節の動きは、small tearでは健常者と有意差がなかったが、moderate-sized tear以上の断裂では健常者より有意に大きかった。
すなわち、moderate-sized tear以上の断裂では、手術をしても、術後1年では肩甲胸郭関節の動きは正常には回復していないことを示していた。
理学療法ジャーナル Vol.42 No.10 P849
とあり、このことからも、肩甲上腕リズムの再教育がリハビリでの重要事項になることが考えられます。
正常な肩甲上腕リズムを獲得するための治療方針
腱板が修復されても、腱板機能がすぐに回復することはありません。
そのため、早期から正常な肩甲上腕リズムを獲得することは困難です。
大まかな治療方針としては、腱板機能が回復するまでは外在筋の過剰収縮を防ぎながら、腱板筋への運動負荷の調節を行いながら動作のフィードバックを行う事が大切になります。
過剰な負荷は外在筋による代償運動が起こるため、再断裂の危険があるため注意が必要です。
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