ADLなど様々な動作を学習していく中では、動作をどのように習熟する・させていくかが重要になります。動作学習により習熟度は上がりますが、その際の視点を持っておくことで、どのような部分の習熟度を向上させていくかの方向性が明確になります。今回、動作学習とADL分析の視点(正確性、効率性、安全性)について、文献を参考にまとめていきたいと思います。
目次
リハビリテーション場面においては、動作分析では正常動作からどのように、どの程度逸脱しているかを評価し、それを正常にいかに近づけていくかを求めていく事が多くあります。
筋緊張が高い場合、筋緊張を調整し、正常に近づけていくことが動作の質を向上させることになると考えますが、このような考え方が動作学習という視点でみた場合に第一選択になるのかということを考えていく必要があります。
正常からの逸脱を評価することは重要なことであるが,それを正常に近づ けようとする努力が有効な試みなのかは,正常に近づくという保証がない場合においては,少 し考える必要がある.
運動学習理論に基づくリハビリテーションの実践 P50
もちろん中枢神経の可塑性とその回復も十分にありえることですが、脳卒中による後遺症は完全に治るということは少なく、リハビリテーションにおいては「治癒」ではなく「適応」という過程に重点を置く必要があります。
新しい神経系や効果器の状態において,動作をどのように再学習してい<かという過程である.重要なことは,動作の学習の目的は,「元の通りになること」ではない.むしろ,目的 とする動作をどのような方向性で習熟するかを考えることで治療戦略は立てやすい.
脳卒中片麻痺でいえば,「左右対称になること」ではなく「それぞれの動作においてどのように習熟したいかを明確にし,それに向けて学習を進める」のが,治療戦略を考える上での糸口となる.運動学習理論に基づくリハビリテーションの実践 P50
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動作学習と習熟における視点として、動作の「安全性」「正確性」「効率性」を考える必要があります。
例えば歩行能力について、麻痺側下肢筋緊張が亢進していると判断した場合、この筋緊張が目的としている動作にどのような影響があるかを考えていきます。
筋緊張と動作習熟の3つの要素との関連を考える際に、対象者が麻痺側下肢の高緊張を利用している場合、それは安全性に貢献しているといえます。
歩容という視点で考えた場合、正確性(正常に近い動作)にかけているとの判断も可能です。また動の効率性の低下もあるかもしれません。
対象者の置かれている状況などを考慮し、現在の状態では動作習熟においてどの側面を重要視するべきかを考えることが大切になります。
動作の習熟においては、「安全性」「正確性」「効率性」の優先順位を決めることが必要になります。
バランスをとるためにワイドベースで歩いている対象者は「安全性」としては高いですが、歩容を改善するために正確性を向上させようとすれば、安全性や効率性は低下し、転倒のリスクが高まる可能性があります。
3要素すべてが向上するのが理想ですが、すぐに到達できるわけではなく、どのような過程を経て到達するかも重要です。
前途したように、対象者の置かれている状況(身体面、精神面、環境面など)により優先順位は変化します。
動作による優先順位の違いもあり、例えば、歩行では安全性→効率性→正確性の順で大切になりますが、書字動作では正確性→効率性→安全性(考えなくてよいかもしれない)となります。
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