最近、アロマセラピーが医療や介護分野でも使用されるようになってきました。今回、アロマをリハビリテーションに応用するための知識ついて、文献を参考にまとめていきたいと思います。
目次
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塩谷 美奈子ら「アロマが臨床現場に必要である理由」地域リハ Vol.12 No.5 2017.5
塩谷 美奈子ら「アロマとは」地域リハ Vol.12 No.4 2017.5
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アロマは「におい」や「かおり」という意味があり、アロマセラピーは、アロマを用いて身体的な症状や精神的な不調に対して行う植物芳香療法になります。
アロマは「精油」のことを言っていることが多く、Essential oilとも呼ばれています。
精油は油に溶けやすく、水に溶けにくい、可燃性、引火性があることが特徴です。
精油は揮発性(香りが香る間に液体が気体に変化する)の物質になります。
精油は元素の並び方の違いにより様々な香りを作り出すことができます。
天然香料はアロマセラピーに用いる精油をさします。
精油の製法により、アブソリュート、エッセンシャルオイル、レジノイドと呼ばれます。
化学合成された香料です。
天然香料の一部を抜き取り、刺激の低いものに変えています。
天然香料のメリットは、
香りのバランスが自然に整っている
他の成分が自然に備わることで安全性が高まる
自然植物エネルギーが含まれている
天然の揮発
などが挙げられます。
天然香料のデメリットは、
植物の産地など、環境により成分含有量に変化がある
生産量・価格の変動がある
などが挙げられます。
合成香料のメリットは、
香りが一定で成分量を正確に把握できる
個々の成分の安全性を確認できる
農薬やホルモンの影響がない
価格が安定
などが挙げられます。
合成香料のデメリットは、
天然微量成分の再現が困難
自然分解されにくい
などが挙げられます。
①経皮吸収
表皮の角質層・毛包から真皮、毛細血管に流れていき、全身に浸透していきます。
皮膚に直接精油を塗る場合、植物性のキャリアオイルやジェルなどで薄めて使用します。
精油成分は原材料よりも成分が凝縮されており、直接塗ると刺激が強すぎて皮膚トラブルのもとになります。
キャリアオイルでは、ゆっくりと深部に浸透していきます。
②経鼻吸収・呼吸
口腔、鼻腔から口腔粘膜、鼻腔粘膜を通り、気管・気管支粘膜に到達します。
そこから肺胞の毛細血管でガス交換とともに血液に流れ込みます。
③嗅覚
鼻腔から嗅上皮に入り、嗅毛・嗅細胞に達すると電気信号が発生ます。
そこから嗅神経を経て嗅球・嗅索から大脳辺縁系に伝達され、大脳皮質嗅覚野で匂いが識別されます。
嗅覚では大脳辺縁系(情動や記憶に関係)に直接伝わり、記憶や情動、潜在意識下で無意識的に作用します。
嗅いだ匂いに対して、過去の記憶を参照するため、そのときの記憶や感情など潜在意識下で無意識的なものに作用するとされています。
大脳辺縁系→視床下部、下垂体にも伝わり、自律神経系や内分泌系にも影響をあたえることが考えられています。
これは、様々な環境などの変化に対して体を恒常的に保つ(ホメオスタシス)ことに関与すると考えられています。
また、セロトニンの活性化により、脳神経の覚醒状態にも作用すると考えられています。
肝臓酵素により酸化、還元、加水分解、解毒化され、尿や汗、呼気などにより体外へ排出されます。
痛みの伝達経路:
末梢からの刺激は一次侵害受容ニューロンを介して脊髄後角に伝わります。
一次侵害受容ニューロンにはAδ繊維とC繊維の2種類があります。
Aδ繊維は一次痛(組織の損傷により始めに感じる刺すような鋭い痛み)に関与し、瞬間的に刺激情報を中枢に伝達します。
C繊維は二次痛(鈍くうずく痛み)に関与し、刺激情報を数秒かけて中枢に伝達します。
脊髄後角から視床に伝わる際、Aδ繊維は脊髄後角から特異的侵害受容ニューロン(NSニューロン)とシナプスを形成します。
C繊維は脊髄後角でNSニューロンに加えて広作動域ニューロン(WRDニューロン)とシナプスを形成し、中枢へ伝達します。
NSニューロンは痛みの発生場所を知らせる役割があり、WRDニューロンは痛みの刺激の程度・強度を知らせる役割があると考えられています。
一次痛は大脳皮質の体性感覚野、二次体性感覚野に入ります。
二次痛は大脳の島皮質、前帯状回、前頭前野、扁桃体、海馬などの情動・感情に関わる部位に入ります。
二次痛は痛みに伴うイライラ、不安感などを引き起こします。
また、視床下部にも影響し、血圧上昇や頻脈、冷汗などの自律神経症状も出現することがあります。
視床下部かの室傍核からCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)が出て、下垂体が刺激され、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が出ることで、副腎皮質が刺激され副腎皮質の肥大とストレスホルモンの「コルチゾール」の分泌が起こります。
「コルチゾール」は身体に必要な物質でもありますが、大量分泌が高血圧などを引き起こし、病気をつくり出してしまうと考えられています。
塩谷 美奈子ら「アロマが臨床現場に必要である理由」地域リハ Vol.12 No.5 2017.5
前頭前野は報酬-嫌悪回路に関与しています。
慢性疼痛患者では、前頭前野の活動性低下(急性期では活性化する)や、扁桃体や島皮質の過活動が確認されています。
不安や恐怖心などに関与する扁桃体の過活動は、内側前頭前野の活動を減少させることが動物実験により確認されています。
これが慢性痛の引き金になるとも考えられています。
扁桃体の活動にはドーパミンの伝達があり、持続痛は嫌悪感を引き起こし、報酬-嫌悪回路のバランスが崩れることが考えられます。
これが、痛みの評価や予測、自己評価などの認知面の障害を引き起こし、意思決定などに影響を及ぼすことが考えられます。
鎮痛での正の報酬予測は、前頭前野を活動的にし、下行性疼痛抑制系を作動されると考えられています。
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下行性疼痛抑制系は、疼痛抑制機構のことをさします。
脳幹から下行する抑制性ニューロンにより脊髄後角での一次侵害受容ニューロン、二次侵害受容ニューロン間のシナプス伝達を抑制することで、痛みの情報伝達をブロックするシステムのことです。
このシステムにはノルアドレナリン系とセロトニン系があります。
これらの濃度を高めて促通し、痛みの軽減やコントロールを行います。
セロトニン低下は前頭前野の機能不全にも影響します。
セロトニンの興奮性が扁桃体の活動を抑制させることが考えられます。
鎮痛効果として、甘みや心地よい香りは効果が認められており、癒しが痛みの軽減に関与することが考えられます。
香りの伝達スピードは痛覚が0.9秒、嗅覚が0.15秒で、アロマの香りがセロトニン神経活性化や下行性疼痛抑制系を促通すると考えられます。
これにより、島皮質、前帯状回、扁桃体、海馬、前頭前野などの情動や感情に関与する二次痛の痛みの軽減が起こると考えられています。
精神的ストレスの経路は、視床下部から脳幹・縫線核への経路とされています。
縫線核は脳幹の中央にあり、セロトニンを出すセロトニン神経のある場所にあります。
縫線核はストレス情報が伝わるとセロトニン神経の働きが低下します。
セロトニンは前頭前野でドーパミンやノルアドレナリンの働きを調整し、危険行動を制御するように働きます。
また自律神経の調整、不安などの心理的側面の調整も行っています。
ドーパミンは脳を興奮させる物質で、適度のドーパミンの放出状態は問題ありませんが、セロトニン神経の機能低下により興奮が過度になると、依存症につながります。
ノルアドレナリンも興奮物質で、怒りや危険に対する興奮をもたらします。
ノルアドレナリンが適度であれば、効率良い行動や判断につながります。
ストレス刺激によりノルアドレナリンは過剰状態となることがあります。
それにより、うつ病や不安神経症、パニック障害などの精神疾患につながることがあります。
セロトニン神経が正しく機能することで、ドーパミンやノルアドレナリンの過剰放出を抑え、脳全体のバランスが整い、平常心を保つことが可能です。
アロマによるセロトニン神経の活性化がドーパミンやノルアドレナリンの調整を行いやすくすると考えられます。
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人間の体には内臓がありますよね。
心臓、胃、大腸…他にも様々なものがあるのですが、自律神経はこれらのものをコントロール、調整しているいわば管制塔、司令塔のようなものです。
さらに自律神経は交感神経と副交感神経に分けられます。
交感神経は車のアクセルのようなもので、副交感神経は車のブレーキのようなものです。この2つが互いに調整し合うことで臓器は適切な状態にコントロールされているのです。
学生時代に交感神経は「興奮」、副交感神経は「リラックス」と大雑把に記憶した覚えがあります。
例えば、血管は交感神経の働きによって収縮し、心拍数や血圧を上昇させます。
一方、副交感神経の働きによって拡張し心拍数や血圧を下降させます。
健康的な場合、2つの神経の働きがちょうど良く保たれているため、ほどよい心拍数と血圧に調整されるのです。
他の例を挙げると、喧嘩のような緊張する状況の場合、交感神経優位となり心拍数や血圧は上昇します。
またまた尿、便などの排泄機能も抑制されますね。
逆に寝る前などのリラックスできる状態であれば副交感神経が優位になり心拍数や血圧は下降します。
交感神経が優位のままだと身体に負担をかけ続けてしまうことになります。
交感神経と副交感神経のバランスについてですが、両方がしっかりと働いている状態が望ましく、日中はやや交感神経優位、夜間はやや副交感神経優位くらいが理想的だと言われています。
どちらかが優位すぎても身体の健康には良くないのです。
交感神経が優位になりすぎている場合は体にどのような影響があるのでしょうか。
これは現代においてもっとも多いパターンになるのですが、様々なストレスのシャワーを浴びている状態で、気分はイライラ、ムシャクシャ、ピリピリといった状態になります。
これは交感神経のアクセルを踏み続けている状態になります。
この状態が続いていると、全身の血液循環も悪くなり、その結果内臓系の機能低下、免疫系の機能低下が起こる事が予測できます。
病気にもかかりやすい状態になってしまいますね。
逆に副交感神経が優位になりすぎている場合はどうでしょうか。
副交感神経が高く、交感神経が低すぎると、アクセルを踏みきれずスピードダウンしてしまいます。これはのんびり、ぼーっとしている方に多く、不注意でミスを繰り返してしまったりすることが多く見られます。
うつ病になりやすい傾向があるタイプだとも言われています。
交感神経、副交感神経の働きがともに低い場合を考えていきましょう。
互いのバランスはよくても低い次元で働いている場合もよくありません。
スタミナ不足に感じたり、日々の生活に意欲がわかないなど、しんどいと感じるような方に多いパターンになります。
私たちは普段の生活において様々な行動をとっています。
単なる日常の一部の行動が、自律神経系に影響を及ぼしていることはたくさんあるのです。
これから挙げるものはほんの一例ですが、自律神経を乱す原因となっているかもしれません。
①寝不足
睡眠時間の不足は、心身両面において負担をかけます。
人により必要な睡眠時間は様々なのですが、寝不足のまま仕事をしたり勉強を続けていることで自律神経が乱れる原因となります。
②重要なプレゼンを控えている
重要なプレゼンを控えている前の気分状態はどのようなものが想像できますか。
「うまく喋れるかな」「難しいことを聞かれないだろうか」など、焦りや不安の気持ちになるのではないでしょうか。
また、準備に追われて休息できる暇がないかもしれません。
こんな時交感神経が優位になりすぎてしまうことがあります。
③人間関係で悩みがある
夫婦喧嘩をしたり、仕事上のミスがあり、上司や先方に謝らなければならない時、自分の子供が反抗期で言うことを聞いてくれない、恋人に振られてしまった。
このような人間関係における悩み、不安は自律神経のバランスを崩しやすくしてしまいます。
このように、日常生活のなかで体験しているシーンが自律神経のバランスを乱す原因となっていることは多々あります。
しかも、一つが原因ではなく、複数の要因が重なっていることもあると考えられるのです。
①交感神経、副交感神経の働きがともに高い
理想的な状態。自分の能力を最大限発揮しやすい状態。
②交感神経が高く、副交感神経が高い
アクセルがききすぎていて、ブレーキがかからない状態。
③交感神経が低くて、副交感神経が高い
アクセルの効きがイマイチで、スピードが出ない。
④交感神経、副交感神経の働きがともに低い
疲れやすく、意欲がわいてこない状態。
自律神経のバランスが整ってくると、健康的な心身状態に近づいていきます。
全身の血液循環がよくなり、内臓系の機能が高まります。また免疫力も高まり、風邪や病気になりにくい体に変化していきます。
また、自分の能力が最大限発揮されやすくなります。
スポーツ選手において、ZONEという最高の精神状態を指す言葉があるのですが、このZONEに入りやすくなるのも自律神経のバランスが最高の状態にととのってこそであると思います。
音楽はとても身近にある存在で、時に癒しであったり、時にテンションを高めてくれるものであったりします。
では、自律神経のバランスを整えるための音楽にはどのような要素が必要なのでしょうか。
「思わず過去や未来の自分をイメージしてしまう音楽」である必要がある。
〜中略〜
たとえば、気分をしみじみさせるメロディーラインをリフレインしている。このように同じメロディパターンが繰り返されると、次に来るメロディー展開を予想でき、脳内において過去や未来のイメージを喚起する部分が刺激される。
基本メロディーラインの要素に「変化」が織り込まれ、あたかも起承転結のある小説でも読んでいるかのようなストーリー性を感じさせるようになっている。
聴いていると、自然に音楽に入り込んでいって、自分の人生の一場面を連想してしまうわけです。
聞くだけで自律神経が整うCDブック P37
となっています。
要するに、同じようなメロディパターンの繰り返しで、さらにはストーリーが思い浮かぶような音楽が良いということです。
この書籍にはCDがついており、私も毎日聞くようにしています。
自分が好きだと思える音楽を聞くのが、いちばんよいことだと思っています。
この音楽を聞くと気分がよくなる、元気になるというものなら、どんな音楽であっても自律神経によい影響を与えるでしょう。
〜中略〜
このように、普段なら自分がよいと思う音楽を聞いてください。問題は、不安なことや心配ごとがあるときです。
不安なことや心配なことがあって自律神経のバランスが乱れていると、人は音楽を聞く気になれません。
音楽を楽しめるというのは、心に余裕があるということなのです。
音楽を聞く気になれない、どんな音楽を聞けばいいのかわからない、そのようなときこそ、このCDを聞いてください。きっとあなたの心の「スイッチ」になって、自律神経のバランスを整えてくれるでしょう。
聞くだけで自律神経が整うCDブック P38
ともあり、色々なことがあって凹んでいるときには聞き流せるような音楽で自律神経を整える機会を作ることが大切だということかと思います。
自律神経のバランスを整える上では、まず第一に活動レベルが下がっている副交感神経を引き上げること、そしてそこから交感神経、副交感神経ともをレベルの高い状態に近づけることが鍵になってきます。
日記を書いたことはあるでしょうか。
日記には過去を振り返る作業です。
良いことから嫌なことまで1日に何があったか整理していく作業です。
なぜあの時ときあんな気分になったのか、あの時こう対処していればよかったのかもしれないなど、その作業から得られるものは明日への準備にもなります。
人は過去を振り返ったり、未来を想像するとリラックスしたり、落ち着いたりすることができるようになっています。
過去を振り返ったり、未来を想像しているうちに次第に呼吸が整ってきます。
呼吸が整い多くの酸素を取り入れることができるようになると、血液循環が良くなります。
また副交感神経の活動レベルも向上し、自律神経のバランスが整ってくるのです。
日記を書くことが苦手な方は、空いている時間に頭の中で振り返りと未来へのイメージを膨らませるだけでも良いと思われます。
アロマが心身のリラックスに作用することは皆さんご存知だと思います。
私自身もラベンダーやオレンジの香りを取り入れてリラックス効果を図ったことがあります。
香りのリラックス効果で自律神経のバランンスが整いやすくなり、またリラックスしている状態というのは、上記の過去の振り返り、未来への想像の作業をするときにイメージ力を高めてくれるでしょう。
このように、様々な方法を組み合わせることで、より自律神経のバランスを整える環境を作っていくことが重要になります。
呼吸と自律神経は密接な関係があります。
呼吸が整えば自律神経のバランスもよくなり、呼吸が乱れていれば自律神経のバランスは崩れてしまいます。
また呼吸は人が生きていく上で必ず行っている活動です。
普段は無意識で呼吸をしていますが、自律神経を整えるための呼吸を意識的に行うことも必要です。
1秒ゆっくり息を吸って、2秒かけてゆっくり息を吐いていきましょう。
こんな方法もどうでしょうか。仰向けになります。お腹に手のひらを当て、腹式呼吸をします。
鼻で息を吸ってお腹に空気を入れ込み、口から息をゆっくりと全て吐いて出しきります。
数回繰り返していると腹部の動脈の鼓動が手のひらの感触に伝わってきませんか。
これは副交感神経を高めてリラックスできる方法の一つになります。
ストレッチも自律神経を整えるのには良い方法です。
ストレッチをすると緊張状態にある筋肉が緩みます。
筋肉の状態が整うと血行がよくなり、酸素も全身に行き渡りやすくなります。
また就寝前にストレッチを行うことで全身の緊張感もほぐれ、良眠を促す効果も期待できます。
自律神経には交感神経、副交感神経があり、そのどちらもハイレベルな状態にあることが健康上重要であることがわかりました。
自律神経を整える方法として音楽、日記、アロマ、呼吸、ストレッチなどがあり、それぞれを組み合わせることでより効果的に自律神経のバランスを整えることが可能になることがわかりました。