就労移行や職場復帰においては、リハビリテーション専門職は対象者の機能面や能力がどの程度あるのかを把握しておくことが求められます。評価結果をもとに、職場における働き方の工夫や環境設定などを検討することができるためです。就労支援に必要なことを中心にまとめていきたいと思います。
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目次
就労支援において、対象者には以下のような能力が必要とされます。
なお、ここでは主に作業遂行のための能力を紹介します。
・知的機能
・記憶機能
・注意機能
・遂行機能
・情動、行動機能
・言語機能
・視空間機能
・認知的スキル
・基礎学力
・職業的側面
・心理的側面
・健康的側面
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WAIS-Ⅲ:
16〜89歳に適応。
言語性IQ(VIQ)、動作性IQ(PIQ)、全検査IQ(FIQ)の3つのIQが測定可能。
「言語理解(VC)」、「知覚統合(PO)」、「作動記憶(WM)」、「処理速度(PS)」の4つの群指数も測定可能。
WMS-R:
言語課題と図形課題の計13の下位検査から構成。
「一般的記憶」「注意/集中力」、「言語性記憶」と「視覚性記憶」「遅延再生」指標を得ることが可能。
リバーミード行動記憶検査:
日常生活に似ている状況を課題として設定し、記憶を使う場面を想定して検査が可能。
CAT:
総合的な注意機能検査。
標準プロフィールとの比較が可能で、各年齢におけるカットオフが設定されている。
Trail Making テスト:
注意機能や遂行機能を評価できるテスト。
Trail Making テストに関しては以下の記事を参照してください。
Trail Making Test(TMT)の理解と正しい実施方法、解釈に向けて
かな拾い(浜松式高次脳検査より):
指定されたかな文字にチェックを入れていくテスト。
BADS:
目標の設定、プランニング、計画の実行、効果的な行動という遂行機能の要素について検査可能。
本人用と家族用の遂行機能障害のための質問票もある。
標準値との比較が可能。
BADSに関しては以下の記事を参照してください。
BADS(遂行機能障害症候群の行動評価法)の概要と結果の解釈
CAS:
面接や質問紙、日常生活の観察などをもとに意欲の状態を評価する。
CASに関しては以下の記事を参照してください。
意欲の評価:CASの概要と評価、結果の解釈について
ギャンブリング課題:
前頭前野腹内側部損傷を呈している方の行動障害を直接的に捉えるための神経心理学的検査。
ギャンブリング課題に関しては以下の記事を参照してください。
ギャンブリング課題の概要と評価方法、結果の解釈
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SLTA-ST:
軽度の失語症の症状把握やDeep Test(掘り下げテスト)を行う。
結果によりコミュニケーションに有効な手段を検討する際の資料となる。
SLTA:
「聴く」「話す」「読む」「書く」「計算」を26項目にわたり評価する。
BIT:
半側空間無視の検査。
通常検査(机上検査)と行動検査(より日常生活上の課題に近い)がある。
BITに関しては以下の記事を参照してください。
BIT行動性無視検査日本版(BIT)の検査項目の特徴と結果の捉え方
様々なものがあり、例えば旅行計画立案、数字拾い、百マス計算、間ちがい探し(文書、図柄)、全文写し、ハノイの塔など。
ビジネスマナー:
職業レディネステスト:
「職業興味」、「基礎的志向性」、「職務遂行の自信度」を測定することが可能。
読解力、計算能力、漢字の書き取りなど。
Y-G性格検査:
行動特性 (内向的か外交的か) 、情緒の安定、人間関係に関する特性、仕事に対しての取組姿勢、リーダー資質、集団や社会的な場面での適応性、知覚の特性がわかる。
東大式エゴグラム:
性格特徴や行動パターンを把握できる。
CMI健康調査票:
身体的・精神的自覚症状を把握できる質問紙。
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神経心理学的検査を行うのは、就労のための訓練内容の決定や、就労上の課題を把握するために行われます。
さらに、どのような工夫を行えば就労上でうまく行動できるかを考える資料になります。
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私たちが仕事を行なっていく上で重要なことは、当たり前のことですが遅刻せずに会社に行くこと、連絡報告相談をしっかりとすることなど、基本的な事柄を遂行できることが挙げられます。
その上で、仕事に取り組み成果を生み出すことが要求されます。
職場復帰や就労移行を目指していく場合、まずは生活管理をしっかりと行えることが前提条件になります。
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みなさんも経験あると思いますが、朝は寝坊せずに起きることができるでしょうか。
1日の始まりは朝起きることから始まります。
朝起きるために、携帯のアラームや目覚まし時計のセットなどを行い眠い目をこすりながら起きると思います。
就労支援のためには、決まった時間に起きることができるのか、起きれないのであればどのようにすれば起きることができるのかを考えていくことが必要になるでしょう。
日頃から生活リズムを整えておくのは大切です。
私たちはある程度決まった時間帯に行動を行うことで生活リズムを整えることができます。
夜更かしをしすぎる方は、朝も起きにくいかもしれませんし、日中仕事に集中できないかもしれません。
規則正しい生活ができない場合、それを対象者本人が自覚しているか、どうすれば規則正しい生活の遂行を実践できるかなどを検討する必要があるでしょう。
食事についても、栄養ある食事をとることは、病気の予防という観点からも重要です。
栄養状態が好ましくないと抵抗力も弱り、結果的に風邪をひきやすいというような悪循環にもなることがあります。
自分で料理ができるか、できないのであれば代替手段はあるかの検討も必要でしょう。
最近はサプリメントや栄養補助食品もあります。そのようなものも上手に活用しながら、適切な食事をとるようにする必要があります。
健康管理においては、規則正しい生活に加えて、服薬管理が自分で行えるかも必要になります。
自分が飲む薬の効果や副作用、用法用量を理解し、間違いなく服用できるかを把握する必要があります。
自ら適切に服薬できないとなると、他者の協力やアラームなどを活用して服用できる環境を設定していく必要があります。
薬を飲んでいる方の場合、定期的に通院を行う必要があります。
また、医師から定期的な診察の必要性を言われている方もいるかもしれません。
自分の飲んでいる薬がいつまでになくなるから、この日までには通院の必要性があるなというように、逆算して通院日を決めるような能力が必要になるでしょう。
体調の異変に気付くことができるか、またそれを誰かに伝えることができるかということも重要です。
体調が悪いのであれば、早めに寝て心身の回復を早めるような対処が必要になったり、怪我をすれば消毒をして傷口から菌が入らないように応急処置をする必要もあります。
身だしなみを保つということは、社会人にとって重要なことです、というよりも当たり前のことです。
服装は社会的に適切か、爪のケアはされているか、無精髭の状態になっていないか、髪型や髪の色は適切か、歯磨きを行なっているかなどの清潔さや身だしなみを保つ行動をできるかということになります。
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金銭管理については、お金の概念を理解できていることを前提とします。
その上で、金銭管理ができないのであれば、どのようなことが原因で管理できないのかを把握していきます。
原因としては、計画的な利用ができない、一人で買い物ができない、衝動買いをしてしまうなどがあります。
障害を持たれている方の場合、その障害が日常生活や社会生活上どの程度影響を与えるかを自分で把握できているかという点がポイントになります。
状況を把握できているのであれば、自分でできない部分に関しては人に頼んだりすることもできるでしょう。
一方、自分の能力を把握できていないのであれば、現実検討が行えなかったりして、逆に困難な状況に陥ってしまうことも考えられます。
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社会性(しゃかいせい、英:socialityまたは英:sociability、仏:sociabilité)とは集団をつくって生活しようとする人間の持つ基本的な傾向。本能的なものと考える説がある。
対人関係における主として情緒、性格などのパーソナリティの性質であり、人間が社会化される過程と通して獲得される。人間関係を形成し、円滑に維持するための社会生活を送る上で欠かせない特質である。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E6%80%A7
会社で働くということは、集団の中で、また対人関係を維持しながら円滑なコミュニケーションをとることが必要になります。
また、自営業の方においても、社会性がなければ取引先との円滑なコミュニケーションがとれず、仕事もうまくいかないことは予測がつきます。
なんらかの問題によって身体的、認知的に障害を持たれている方では、社会性という点において困難さが生じてくる可能性があります。
そうなれば、職場復帰や就労移行に際しては、我々は対象者の社会性を評価し、把握することが重要になります。
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反社会的な行動や言動が日頃からある場合、集団内での円滑な人間関係の形成に支障をきたすことが予測されます。
このあたりの評価としては、対象者本人に聞くわけにはいきません。
そのため、対象者と普段から関わりがある方に聴取していく必要があります。
また、セラピスト(支援者)自身との関わりの中や、日常生活の様子からも評価をしていきます。
人間関係を形成していくには、あいさつなどの対人関係技能がしっかりとできるにこしたことはありません。
例えば、朝のあいさつでにっこりとした笑顔と大きな声で「おはよう」と言われるとの、伏し目がちで「おはよう」と言われるのでは、印象が全く異なります。
そういう意味でも、対人関係技能を有している方は、良好な人間関係の形成において有利になります。
・あいさつ
あいさつでは、視線を合わせることができるか、表情、声の大きさなどが場に応じて臨機応変に変えることができるかという点を、普段の日常生活上の観察から把握していきます。
・会話の開始や終了
会話は、こちらの意思を伝えたり、相手の伝えたいことを理解する上で重要です。
自ら会話を開始することができるか(自分から話しかけるか)、相手の話に合わせて相槌を打てるか、相手の立場や状況に合わせた言葉遣いができるか、自分だけペラペラと喋っていないか、適切に会話を終了できるかなどを評価していきます。
また、ノンバーバルコミュニケーションとして、会話中の仕草や表情から、相手がどのような気持ちでいるかを理解できているということも重要です。
会話はキャッチボールですから、相互に理解し、伝えるということができているかが重要になります。
・意思表示
会話の中の要素ですが、例えばトイレに行くこと、体調が悪いことなどを伝えることができるということは重要です。
どのような方法でも良いので、相手に自分の意思表示できる方法を確保しておくということが大切なポイントになります。
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会社に勤めるということは、集団において協力しながら利益を作っていくという作業になります。
そのため、協調性や協力性が必要になります。
例えば、誰かとペアを組んで仕事をすることになったとします。
その場合、2人は協力しあって、コミュニケーションをとりながら仕事をしなければなりません。
感情をコントロールしながら、協力して作業を行う必要があるでしょう。
なかには、好き嫌いによって協調性に違いが出るかたもいるかもしれません。
どのような状況(仕事内容、人)であれば協調性が発揮されるか、または発揮されないかということを把握しておくことも重要です。
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就労するということは、職場の決められたルールに則りながら、与えられた仕事を遂行していくということが大前提になります。
そのためには、意欲的に仕事に取り組む姿勢や作業能力、自身の状況を把握しながら連絡報告相談を適切に行い、継続的に勤務していくことで結果を残していくことができます。
何事においてもそうですが、継続して取り組むためには意欲的にならなければなりません。
仕事ですので、嫌なこともあるでしょうが、何かしら仕事を継続するためのモチベーションがあるはずです。
意欲に関しては、対象者が目標に対してどのような取り組みを見せているかの行動面や、言動から意欲の度合いを評価できると思います。
その際、意欲は高くても現実検討ができているかということも大切なポイントになります。
現実検討ができていないと、実際の就労には結びつかないことがあるでしょう。
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就労という環境では、1日に決められた時間働くことが求められます。
そのため、作業に対する耐久性や集中力の維持能力が求められます。
リハビリテーション場面において、集中して取り組むことができているか、1日の生活を通して疲れ過ぎずに過ごすことができているかは、基本的能力として大切になります。
仕事を行うと、日常とは環境が異なりストレスもかかりやすく、より疲れが出てくることが予測されます。
継続的に仕事を行うには、どの程度で休憩が必要になるか、どのような作業が向いているかを把握できるのがベストです。
また、1日単位で考えていくと、どの程度連続して出勤する耐久性があるのかも把握しておきたいところですが、これは実際に働いてみないと把握しづらい面になります。
仕事や作業内容に対して、自分の能力をどの程度わかっているか(認識力)どうかは、自分の限界を見極めたり、自ら適度に休息をとりながら仕事を行ったりすることにつながります。
自分自身の能力を超えた作業内容では、かなりのストレスがかかり、そのために体調不良につながってしまうこともあるでしょう。
自分自身の認識力を高めるようなアプローチも対象者によっては支援していく必要があります。
仕事を行う上では、会社が定めている大きなルールを守りながら、自分の仕事に対してのルールにも従いながら取り組んでいく必要があります。
作業内容によっては、細かい決め事(手順の遵守など)があることも予測されます。
手順が多い作業では行動にムラが出てしまったり、注意集中が保てない方では、不注意などからルール通りに遂行できないこともあるでしょう。
ルールを守ることができないのであれば、それが認知面や高次脳機能面の影響によるものなかのか、もしくは何かしら他の要因によるものなのかを把握する必要があります。
普段のリハビリテーションの取り組みや日常生活の様子から、ルールを守りながら遂行できているかが、職場復帰にもつながっていることは多いと思います。
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仕事をする上では、上司への連絡、報告、相談はとても大切です。
体調不良やその他の理由により仕事を休む場合は連絡が要ります。
作業が完了したり、誰かから連絡を受けたのであれば上司への報告が必要です。
困っていることや、わからないことがあるのであれば相談も必要になります。
これは、普段の生活でもマイペースに我が道を進むよな方では、就労の際にはあまり行えないかもしれません。
仕事を行っている上で、何かミスがあるときには必ず報告を行わなければなりません。
それを隠したり誤魔化すようなことが日常的にあるのであれば、社会生活を送る上でも支障になるでしょう。
危険なことに対しての取り組み方になります。
怪我を負う恐れのある作業を行う場合、リスク管理を十分に行いながら取り組む必要があります。
大型機械や危険性のある機械の扱いや、危険な場所に勝手に入らないなどのルールを守れるかということも把握できるようにします。
作業手順や方法、必要個数の変更、人員配置の変更など、急な変化への対応ができるかどうかは、職業生活を送る上では重要です。
急な変化に対応しにくい方であれば、作業内容の検討なども考慮していく必要があると思います。