失行の評価からリハビリテーションアプローチを詳しく解説します。

目次

失行の理解と評価、リハビリテーションアプローチ

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失行についてもっと勉強したい場合は

 

by カエレバ
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村田 哲(2004)「手操作運動のための物体と手の脳内表現」『VISION』Vol. 16, No. 3, 141–147.
泰羅 雅登 (2012)「頭頂葉:視覚と運動のインタラクション」『認知リハビリテーション』VOL.17,NO.1,9-16.
高次脳機能障害を有する人の暮らしを支える 作業療法ジャーナル Vol.40 No.7 2006

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失行とは

失行とは、脳が障害されることで、以前に学習されていた自らの意思による行為を行う能力が障害されることをさします。

失行患者では、ある行動や動作を行うと、正常の動作とは部分的に、もしくは全てが違うという特徴があります。

同じ動作でも出来るときとできない時があり、間違いが一定しているわけではありません。

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失行でないもの

失行ではないものとして、以下のものが挙げられます。

運動障害
運動麻痺麻痺、失調、不随意運動などがあると、動作ができなかったり、スムーズでなくぎこちないことが観察されます。

失語
理解の障害があると、指示通りに行えないことが観察されます。
失行は、失語症と合併して起こることがありますが、独立して起こることもあります。

認知の障害
視覚失認、触覚失認、視空間性障害(半側空間無視)があると、動作がうまく行えなくなります。
重度認知症、全般性注意障害・感覚、視覚フィードバックの障害も同様です。

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観念失行と観念運動失行の違いや覚え方

これ、名前からして覚えるのがややこしいです。

ウィキペディアを見てみると、観念失行と観念運動失行は以下のような症状が出現します。

観念失行

左半球または両側頭頂葉後方領域に責任病巣があると考えられている。

アルツハイマー病でも同様の症状を示すことがある。

Liepmannによると「個々の運動はできるが、複雑な一連の運動連鎖が必要な行為が障害される」と定義している。

要素行為は正しいが順序、対象を誤るといった場合が典型的である。

紙をおって封筒にいれるといった系列行為の障害である。

鑑別としては意味記憶障害や多感覚様式性失認があげられる。

物品の名前や用途を説明できるが使用ができないのが特徴である。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%B1%E8%A1%8C

観念運動失行

左半球の広範な障害でおこる。

Liepmannによると「物品を使用しない単純な運動や、一つの物品を対象とする運動が言語命令、模倣、物品使用のいずれでも障害されるもので、自動運動は可能であるが意図的な運動はできない状態」と定義している。

具体的には敬礼や鉄鎚を使うまね(パントマイム)といった簡単な動作ができない。

観念運動失行の定義は研究者の間でも一定していない。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%B1%E8%A1%8C

観念失行と観念運動失行の比較と特徴

観念失行と観念運動失行をADLや日常生活行為の中という視点で比較してみます。

観念失行では、ある動作遂行における順序の間違いや、物品の使用方法を間違えるといったことが見られます。

一方、観念運動失行では、ある物品の使用における運動(方向、スピード)に問題が生じます。

臨床に即した失行の捉え方

臨床に即した失行の捉え方として、A-ONE(神経行動学的評価法)が大変参考になります。
A-ONEでは、失行を「観念性失行」と「運動性失行」に区別しています。

観念性失行

A-ONEにおいて、観念性失行は、

遂行のために必要な概念に関する神経モデルや表象の欠如により、遂行のために何が行わなければならないかを知ることができない。
対象物を使用することに関する知識の欠如。
活動の工程を順序立てること、あるいはお互いに関連して対象物を使用することにも相当する。
遂行の重要な工程を省く(理解困難は除外する)。

A-ONE認定評価者講習会資料

とあります。
このことから臨床場面では、
・道具を使って何をするかが分からない
・道具の不適切な使用
・作業工程の順序を間違える
・作業の連続性が中断する
・場面に応じて適切な道具を使用できない
などが見られることになります。

観念性失行は英語で「ideational apraxia」といいます。
「道具使用におけるアイデアがない」と捉えることにより、区別がつきやすくなるのではないでしょうか。

運動性失行

A-ONEにおいて運動性失行は、

運動感覚性の記憶パターンを利用することが困難であり、運動のプランニングと動作の順序立ての障害によって、考え方や課題の目的は理解しているにも関わらず目的のある動作を達成することができない。

A-ONE認定評価者講習会資料

とあります。

これは、観念運動失行と同じ意味で用いられています。
このことから臨床場面では、
・道具の把握パターンが異なる(持ち方)
・道具の使い方は正しいが、向きが異なる
・運動の質と出力に問題がある(ぎこちなさ、強弱)
・関節運動の協調性の低下(例:不自然に肘が上がっているなど)
・次の動作に円滑に移れない
などが見られます。

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失行は左右どちらの手に起こるか

脳卒中と機能障害のパターンを知ることの重要性

脳卒中を引き起こす様々な動脈の障害は、種々の機能障害のパターンを引き起こします。

神経学的機能障害は、動脈のどの枝、どの大脳半球が影響を受けるかによって異なります。ADLの観察から考えられる神経行動学的異常が、障害を受けた部位から引き起こされる機能障害の

パターンと合っているかを考えることで、自分の仮説の裏付けをすることにつながります。

また、機能障害のパターンと異なる神経行動学的機能障害が考えられた場合は、過去の既往歴なども考慮することで、なぜそのようなことが起こっているかを考える一助とすることができます。

失行の場合、脳の左半球損傷では左右どちらも起こる可能性があり、右半球損傷であれば左手に起こるのがパターンになります。

このメカニズムについて考えていきます。

上肢の運動はどのように起こるか

Liepmannは、すでに習得している行為が行われるには、
・運動記憶
・運動公式
・上記のもの同士の連絡や感覚情報との連携
を必要としています。

運動記憶は、手の握り離しなどの単純運動の記憶です。

運動公式は、視覚による運動の計画をさします。

これらの要素や要素同士の連携がとれなくなることで、運動性の失行が生じます。

運動性の失行とは、臨床観察では物品操作のぎこちなさや不器用さとして現れます。

少しややこしいですが話を進めていきます。

運動公式は、主に脳の左半球の頭頂葉から後頭葉に局在があるとされています。

運動記憶は中心前回や中心後回、運動前野付近に局在があるとされています。

次に、運動がどのように起こるかを、右上肢と左上肢に分けてみていきます。

右上肢:
右上肢では、
左半球の後頭葉(運動公式)

左頭頂葉(運動公式、感覚との連合)

左中心前回、中心後回、運動前野付近(運動記憶)

運動の発現

左上肢:
左上肢では、
左半球の後頭葉(運動公式)

左頭頂葉(運動公式、感覚との連合)

脳梁

右中心前回、中心後回、運動前野付近(運動記憶)

このような経路によって、上肢の運動が生じることになります。

このことからわかるのは、左半球は右手、左手の両側の運動発現に関与しています。

また、右半球は左手のみの運動発現に関与しています。

つまり、運動性失行は、

左半球損傷→両手に出る

右半球損傷→左手のみ

ということになります。

なお、脳梁の損傷では、左手に運動性失行が生じます。

パターンと違う症状が見られる場合

臨床観察において、右半球の損傷なのに右手のぎこちなさがあり運動性失行が疑われる場合はどのように解釈すればよいでしょうか。

この場合、まず既往歴を確認して、過去に左半球損傷がなかったかを把握する必要があります。

確認した結果、そのような既往歴がなければ、身体機能的に巧緻性などを障害する原因がないかを評価していく必要があります。

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失行のメカニズム(道具操作障害):AIPーF5による操作運動の制御

手操作運動(物体を対象にした手指の運動)と頭頂葉

手操作運動には頭頂葉の外側(AIP野、PF野)が関与しています。

AIP野:前頭頂間溝→3次元物体をコードするニューロンが存在する。

PF野:下頭頂皮質
頭頂葉で処理された視空間情報は前頭葉の運動関連領野に送られます。
この頭頂葉ー運動関連領野の結合ですが、AIP野、PF野は腹側運動前野(F5)への投射が見られます。

2次元と3次元情報による手操作運動の違い

物体の2次元情報と3次元情報による手の操作運動を比較した実験において、3次元に見える条件(りんご)の場合、手で包み込むようにしてつかむことが観察されました。

一方、シルエットの2次元情報ではディスクをつかむように、親指と人差し指でつかむ様子が観察されました。

このことから、手の運動は視覚情報の次元により異なることがわかります。

視覚情報の処理をする脳部位

先ほどの説明で、物体を手で操作するには3次元情報が大切になる事が理解できました。

操作対象の3次元情報をする脳部位はCIP野と呼ばれる、頭頂間溝尾側領域になります。

CIP野では、平面軸や3次元的な傾きに関する情報が処理されます。

またこれらは両眼視差やテクスチャー(物の表面の質感・手触りなどを指す概念)の勾配、輪郭などを手がかりにしています。

操作運動に関連して活動する3つのニューロン(操作運動ニューロン)

AIP野では、操作運動に関連して活動する3つのニューロンが存在します。

視覚優位型:視覚性信号のみが入力される→対象の形状・構造を認識する。

視覚・運動型:運動性信号と視覚性信号の両方を入力する→対象と運動のマッチングを行い、運動をモニターする。

運動優位型:運動性信号のみ入力する。

運動性信号(API野での運動優位型)に関しては、運動前野腹側部(F5)にある操作運動の選択を行うニューロンの遠心性コピーである可能性が考えられており、出された運動指令をもと自己の運動との比較を行っていると考えられています。

AIPーF5による操作運動の制御(流れのまとめ)

①CIP野で操作対象の3次元的特徴に関する情報を処理する。
②AIP野で視覚優位型ニューロン→視覚・運動型ニューロンを介してF5に伝達。
③F5で対象に合わせた手の運動パターンがレパートリーの中から選択、実行される。

このように、視覚の座標(網膜中心、頭部中心、身体部分中心、物体中心など)に合った脳内プログラムを取り出して運動を行っていることがわかります。

AIPーF5による操作運動の制御は脳卒中片麻痺者の運動麻痺に対するリハビリテーションにも重要な考え方となり、手の把握・操作運動に関与しています。

上肢運動に関する神経学は以下の記事も参照してください。
脳卒中片麻痺者と上肢機能評価、リハビリテーションに向けた実践的知識と方法!

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失行の病巣

病巣と脳画像

道具使用のパントマイム

・道具使用のパントマイムの障害は下前頭回、隣接する島、中心前回の関与が言われるが、頭頂葉でも起こることがあります。
・パントマイムでは左頭頂葉が賦活されると言われています。

道具の使用

・縁上回の関与が考えられています。
・中前頭回後部を中心とする領域は、頭頂葉病巣での道具使用の障害を悪化させる可能性あります。

無意味ジェスチャー

手の姿勢(位置・向き)の模倣障害は、左半球の下頭頂小葉と側頭ー頭頂ー口頭接合部を損傷する後方病巣と関連する
〜以下省略〜
一方、、手指の形の模倣障害は下前頭回の弁蓋部を含む前方病巣と関連するという。

高次脳機能障害学 第2版 P70

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失行の評価

よく用いられる評価と分析の仕方

スクリーニングテスト

・バイバイをする
・おいでおいでをする
・敬礼をする
・歯ブラシを持ったつもりで歯を磨く真似をする
・櫛を持ったつもりで髪をとかす真似をする
・ドアに鍵をかける真似をする・金槌を持ったつもりで釘を打つ真似をする

*最初に言葉で伝えて行ってもらいます。そのときにうまくできない場合真似(模倣)をさせます。

*失語による理解障害があるの場合、物品やその写真を示すことで、動作が行えるかを確認していきます。

課題遂行の一般的特徴
・言葉で「◯◯を行ってください」と言うよりも、模倣の方が簡単だとされています。
・物品を使う真似するよりも実際の日常生活で自然に使用する方が簡単だとされています。
・検査場面よりも自然な日常生活場面の方が簡単だとされています。

*症状は様々であり、上記とは逆のパターンももちろんあります。

注意点
失語の理解障害によりエラーが生じるという可能性を無くすようにします。

失語があっても、「◯◯をしてください」と、口頭命令により、それらしい動作が行えるのであれば、指示理解可能と考えることができます。

動作を始めない、何をしてよいかわかっていない様子が観察されたばい場合、実物や写真、模倣を用いて道具の使用が適切にできるかをみていきます。

言葉で模倣するよう伝えてもわからない場合、セラピストが対象者以外の者に模倣させている様子を見せ、それを見て動作が行えるかを判断していきます。

上記の結果より、口頭命令が理解できているのに動作にエラーが起きる、模倣が上手くできない場合、失行があると判断していきます。

検査内容
象徴的行為:
口頭命令と模倣を実施する。「兵隊さんの敬礼」、「さようならと手を振る」のようなもの。

道具使用のパントマイム:
口頭命令と上手くできない時には模倣を実施する。

「金槌で釘を打つ」(道具とその作用対象をイメージする)、「櫛で髪をとかす」(道具と自己身体が作用対象)のようなもの。

口頭命令では「歯ブラシを持ったつもりで歯を磨く真似をしてください」と指示する。

指を物品に見立てる(人差し指を歯ブラシに見立てるなど)場合、「◯◯を持ったつもりで」と強調する。

失語で理解不十分な場合、道具の実物や写真を見せる(見せる時間は短く、遂行時には隠す)。

道具の使用:
パントマイムで用いた行為と同じ動作を実際に道具を使用して行う。

失行検査の誤反応(エラー)分類

誤りがある動作を具体的に記載し、おおまかに時間的誤り、空間的誤り、概念的誤り、保続のうちどれが目立つかを把握しておく。

私の場合、
運動性失行(道具の使用がぎこちない、道具をうまくあつかえない)、
観念性失行(行為のアイデアがない、順序が立てられない、道具の使い方が間違って居る)、
保続(同じことを続けてしまう)
という考え方で失行のエラーを捉えています。

無意味ジェスチャー

無意味な手と上肢の姿勢の模倣(頭部やその部分と手との位置関係、手の向き)。

手指の形の模倣(チョキなど)。

ジェスチャーの認知

失行のリハビリにおいて、ジェスチャーを手がかり刺激にすることがあるためその認知を検査しておくことは有効。

口頭命令や視覚提示で身振りを遂行することをパントマイム、パントマイムや姿勢を提示する場合をジェスチャーとする。

・ジェスチャーの呼称:他者が行うパントマイムを呼称
・ジェスチャーの理解:他者がパントマイムを行うのを見て、対応する物品を選択
・ジェスチャーの識別:道具の使用に適切表現しているものを他者が行う複数のパントマイムから選択。

正当以外の選択肢には運動の誤り、上肢の方向の誤りを入れる。

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標準高次動作性検査(SPTA)の概要と評価方法、結果の解釈・リハへの応用

標準高次動作性検査(SPTA)の概要

標準高次動作性検査(SPTA)は、高次脳機能障害による行為の障害が疑われる方に実施する検査です。

SPTAは、高次動作性障害の臨床像が検査成績から客観的に把握でき、麻痺、失調、異常運動などの運動障害、老化に伴う運動障害や知能障害、全般的精神障害などと失効症との境界症状も把握することができます。

また、行為を完了するまでの動作過程が詳細に評価できます。

http://www.saccess55.co.jp/kobetu/detail/spta.html

検査項目には、①顔面動作②物品を使う顔面動作③上肢(片手)習慣的動作④上肢(片手)手指構成模倣⑤上肢(両手)客体のない動作⑥上肢(片手)連続的動作⑦上肢・着衣動作⑧上肢・物品を使う動作⑨上肢・系列的動作⑩下肢・物品を使う動作⑪上肢・描画(自発)⑫上肢・描画(模倣)⑬積木テスト
があります。

実施時間は約90分で、検査開始から終了までは原則2週間で行う必要があります。

標準高次動作性検査(SPTA)の評価方法

各検査項目に従い検査を行います。

誤り得点

誤り得点をつけていくのですが、これには運動麻痺と失語症の影響も考慮しながらつけていきます。

運動麻痺のみが影響している場合や失語症のみが影響している場合、もしくは運動麻痺と失語症の両方が

影響している場合が考えられます。

反応分類

標準高次動作性検査(SPTA)では、検査で見られる反応の分類も行っていきます。

・他の行為と理解される行為への置き換え
・中途半端な手の位置や方向の誤りで、模倣によっても改善されない
・何をしているのかわからない反応
・前の課題の動作が次の課題に繰り返される
・何も反応しない
・つたないが、課題の行為は可能である
・目的とする行為に対し 、 試行錯誤が認められる
・動作を始める前にためらいがみられ、遅れる

などがあります。

標準高次動作性検査(SPTA)の結果の解釈・リハへの応用

プロフィールの作成

得られた得点と反応分類から、プロフィールの作成が可能です。

日本高次脳機能障害学会では、プロフィール自動作成ソフトがあるので、便利です。

検査の解釈

例えば、口頭命令と模倣、使用命令と動作命令の差を確認します。

口頭命令→×、模倣→◯の場合、言語情報から動作を想起するのに困難さがあることを示しています。

このような方には、生活障害を改善させる場合に、視覚情報を入力させるほうが動作誘導が行いやすいかもしれません。

誤反応については、その頻度や現れ方を把握することで、日常生活場面においてどのようなエラーが出現しやすいかを予測することができます。

行為の遂行においては、口頭命令は「言語的入力」、模倣は「視覚・ジェスチャー入力」、物品使用は「視覚・物体入力」となります。

対象者にとってどの入力方法がエラーを引き起こしにくいかを知り、それを利用することで様々な動作の習熟を図っていくようにします。

各検査項目と高次脳機能障害の関係

観念運動失行:上肢(片手)習慣的動作、上肢(片手)手指構成模倣、上肢(両手)客体のない動作、物品なし動作

観念失行:上肢・物品を使う動作、上肢・系列的動作、下肢・物品を使う動作

構成失行:上肢・描画、積木テスト

口腔顔面失行:顔面動作、物品を使う顔面動作

着衣失行:上肢・着衣動作

その他のエラーの質的分析

種村と鎌倉(2002)は、動作・行為の質的エラーについて分析を行っています。
・指示に対する適合性の不良
・複合動作の順序付けの不良
・身体フォームの不良
・対象の空間的操作の不良
・物品配置の不良
・イメージ表出の不良
・両側統合の不良
・統合調整の不良
・関連機能の不調
などを挙げています。
詳しくは、「失行症のみかた」を参照してください。

さらに詳しい解説を動画で確認

https://youtu.be/81cNz87hM7s

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パントマイムでの失行と日常生活動作の関連

パントマイムで失行を認める場合、食事動作での誤反応が多く、入浴、排泄、整容動作で介助量が多いという報告があります。

一般的には、パントマイムを失行の鋭敏な検査と捉えて、空間的・時間的誤反応を示す場合を(観念運動)失行と捉えてよさそうである。失行患者で道具の使用の方が容易であるのは、触ることによって道具の特徴的機構がわかり、対象物との関係から動作の位置や距離も規定されるためであるという説明がある。

高次脳機能障害学 第2版 P67

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ADL評価の仕方とポイント

失行に対してはADL場面の観察を通して、「観念性失行」「運動性失行」の定義を把握しておくことで、作業遂行においてどのようなエラーが起こっているかを評価することができます。
例えば歯磨き課題において、
・歯磨き粉のチューブを口に持っていこうとする
・歯に対して歯ブラシの角度が適切でない
が観察されたとします。

「歯磨き粉のチューブを口に持っていこうとする」エラーでは、道具の不適切な使用が見られているので、観念性失行となります。
観念性失行においては、言語に問題がなければ行動計画(プラン)を聞くことで、評価の解釈が深まります。

「歯に対して歯ブラシの角度が適切でない」エラーでは、道具の使い方は正しいが、向きが異なることが見られているので、運動性失行になります。

このように、各失行の定義と見られる特徴を把握しておくことで、観察の視点ができるため、評価が行いやすくなります。
なお、エラーがどのようなことから生じているかを把握できれば、リハビリにおいての対処方法も計画しやすくなります。

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着衣障害あるいは着衣失行の理解とその評価

着衣障害の検査

着衣障害の検査には、日常生活場面での観察や片袖を裏返して渡す方法、たたんだ状態から着衣してもらう方法などがあります。

詳しくは以下の記事を参照してください。

更衣動作(上衣)の評価方法と結果の解釈(高次脳を中心)、リハビリアプローチの方法!

視覚失認による衣服の認知障害

視覚失認があると、衣服を渡されてもそれが何であるのかがわかりません。触ることによって認知可能な場合もあります。

洋服の種類や形を口頭で伝えたり、衣服の特徴を手にとって触りながら感じてもらったり、実際に着る方法を誘導するなかで衣服の認知が可能になることもあります。

視空間失認による衣服の位置関係の認知障害

衣服の左右、前後、裏表など、自分の身体に適合するための衣服の空間的な位置関係がわからない状態です。

また、洋服の各部位の同定が行えず、衣服を操作する時間が長くなるなども観察されます。

ボタンホールとボタンの位置がずれる場合もあります。

身体失認による自己身体の認知障害

衣服の各部位を自分の身体の各部位にマッチングさせることができない状態です。麻痺側の肩が十分に通っていないのに着衣を終了しようとするなどが観察されます。

健常者では衣服を確認すると、その後は視覚による確認はほとんど行われません。

観念失行による動作、行為の障害

衣服の着方そのものがわからなくなる状態です。

衣服の形態に対して不適切な動作を行ってしまいます。

かぶりシャツを前開きシャツを着るように肩に回す、上着をズボンのように履くなどが観察されます。

独力で行えるが十分ではない着衣障害

一人で着衣動作の遂行は可能ですが、何らかの問題が生じる方も観察されます。

動作がスムーズでない、時間がかかるなどの場合、検査上明確な失認が認められるわけではありませんが、軽度の空間認知障害が疑われる可能性もあります。

上着がズボンのすそに一部入っていない場合などには、自己身体に対する知覚認知や、空間操作の障害も疑われます。

注意障害があると、動作が雑になったり、出来栄えがだらしなくなったりします。

新しい学習としての着衣動作

健常者の着衣動作は、身体と衣服との関係を操作・処理する学習された行為ですが、片麻痺や感覚障害などを有する方は、学習された行為としては着衣動作を遂行することが困難になります。

そのため、新たに学習しなければならない複雑な視空間処理と動作・手順の課題であると言えます。

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失行のリハビリテーション

失行と日常生活動作

失行の一般的特徴として以前から言われてた事として

①道具使用のパントマイムは困難な課題課題
②パントマイム不可でも道具の使用は行える事もある
③検査場面で失行があっても、日常生活では目立たない

というような認識がありました。

しかし、失行と実生活の影響について

食事動作については、最終的には食べるという目的を達成できても、失行検査の成績は食事の手順や食器の使用方法の誤りと相関するという。

失行患者の介助量は、入浴、トイレ動作、整容で多かったが、失行と移動、更衣での介助量に関連はみられなかった。

更衣については、片麻痺がないか軽度で従前の方法が使える場合は、失行があっても更衣はできる。

一方、片麻痺があって新しい代償性方略を見出さなければならない時、失行が障害となる。

高次脳機能障害学 第2版 P76

と述べています。

失行におけるリハビリテーションの目標

言うまでもなく日常生活における様々な行為の改善です。道具の使用のパントマイムなどの失行検査の課題の改善が、日常生活動作の改善と関連があるかはよくわかっていないようです。

失行では日常生活場面で行為が容易になるため、訓練で改善が見られた行為が日常生活上でも改善する可能性はあります。

失行へのリハビリテーションアプローチ

失行に関するリハビリテーションアプローチとして

①行為の想起と遂行
道具や対象物の写真、行為を行う状況、文脈、ジェスチャーの一部を提示して行為を想起させ、道具や対象物の実物の提示、行為の手本などの手がかりで遂行を補助する。

②フィードバック
誤反応をフィードバックし修正する。

表3の誤反応分類に基づいて、外的形状と内的形状に分けて、1つずつ誤反応を修正するのがよいという報告がある。

誤反応の修正は、言語性に誘導する方法と徒手的に誘導する方法がある。

意図的遂行が困難という失行の特徴に基づいた考え方では、徒手誘導が有利に思える。

しかし、上肢や手の向き、関節運動の方向や大きさをわかりやすく言語化した誘導も行われる。

③代償的方略
日常生活動作で重要な行為を言語化し、それに従って遂行できるように訓練し、自発的に(内的に)言語化する代償を習得する。

あるいは外的に絵を用いて代償する。

高次脳機能障害学 第2版 P77

の3つが言われています。

失行リハビリテーションの効果

失行リハビリテーションの効果としては、介入直後の日常生活行為の優位な改善は認められるが、長期効果のエビデンスは認められていないようです。

重度の失行がある場合や、比較的軽度の失行でも家事動作などを困難にさせる場合もあります。

道具の持ち方が適切に行えない場合、危険物(刃物など)の取り扱いには注意し、環境設定も重要になります。

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失行とエラーレス訓練

エラーレス訓練

エラーレス訓練は、活動の訓練が行われている時に、対象者がエラーを起こさないように介入しながら訓練を行う方法です。

試行錯誤学習に対して、エラーレス学習は対象者が活動を行うことにより学習する方法です。

セラピストは学習過程において生じるエラーを防ぐために介入していきます。

主なポイントは、
・活動の困難な側面に対し、手を誘導する
・対象者のベッドサイドに平行な位置に座り、対象者と同時に同じ行動をする
・必要な行動を身体で示し、対象者に後でそれを真似するように伝える
などがあります。

この介入では、活動の特定の困難な側面に対して訓練が行われます。

GoldenbergとHagman(1998)の研究では、訓練効果を修正可能なエラー(対象者が課題を続けることができる)、致命的なエラー(対象者は援助なしで続けることができない)、課題は終了したが目的を果たせないに区別し、全体では致命的なエラーが有意に減少し、修正可能なエラーには変化が見られなかたったとしています。

直接訓練VS探索訓練

探索訓練は、患者が構造から機能を推測し、課題に組み込まれた器質的な問題を解決することに焦点を当てている。

脳卒中のリハビリテーション

探索訓練では、注意を対象物の機能的に重要な詳細に焦点を当てます。

例えば、フォークの先、歯ブラシの毛などです。

セラピストは言語的、ジェスチャー、指差しなどの手がかりにより機能的な説明を行います。

説明、接触、写真を使用した対象物の比較が行われ、道具使用練習は行いません。

直接訓練は、対象者が最小限のエラーで活動全体を行えることに焦点を当てます。

エラーレス訓練と類似しており、同時に課題を行うためにセラピストが対象者の横に座り運動を誘導することを含みます。

直接訓練では、活動全体の遂行の誘導、受動的な誘導、実例による誘導、工程のリハーサルが含まれます。

Goldenberg(2001)らは、探索訓練の遂行への効果はなく、直接訓練はエラーと課題遂行のための介助量を有意に減少させたとしています。

また、3ヶ月後も効果は持続していたとされています。

課題特異型訓練

Poole(1998)の研究で、失行症者が片手で靴紐を結ぶ技能習得能力について調査しています。

脳卒中で失行のない者、脳卒中で失行のあるもの、健常成人を比較しました。

介入ではデモンストレーションと同時の言語指示が与えられています。

課題学習までの施行の平均回数は、脳卒中で失行症のない者や健常成人に比べて、脳卒中で失行のある者において高かったとしています。

学習に必要な施行回数は多いですが、対象者の大部分は課題を身につけることができたとしています。

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ADLやIADLと失行!動作手順の障害に対するリハビリテーション(高次脳機能障害で動作の順序の間違いやペースに問題がある場合)

組織化と順序立ての障害

組織化と順序立ての障害は、以下のように定義されます。

自分の考えと適切に順序立てられた活動の工程とを系統立てることができないことに相当する。

活動の工程の適切なペーシング(タイミング)にも相当する。

観念性失行の1つの要素であるが、疾患の進行過程における障害の最初の兆候として、あるいは観念性の問題がなくなる最後の段階として単独に生じる可能性もある。

A-ONE認定講習会 資料

順序立ては、出来事の適切な順序や進行、時間の中で計画や実施する能力といえます。

組織化と順序立てに障害があると、他の工程を始める前に1つの工程を終わらせない、歯磨きを早くしすぎて遂行が不十分などが日常生活上では観察されます。

また、動作の性急さとして、移乗時の乗り移りが危ないように感じるかもしれません。

この障害は、前頭前皮質の損傷により生じます。

前頭前皮質とは?

前頭前皮質というのは、前頭連合野、前頭前野とも呼ばれています。

前頭前野について、

前頭前野はヒトをヒトたらしめ,思考や創造性を担う脳の最高中枢であると考えられている。

前頭前野は系統発生的にヒトで最もよく発達した脳部位であるとともに,個体発生的には最も遅く成熟する脳部位である。

一方老化に伴って最も早く機能低下が起こる部位の一つでもある。

この脳部位はワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知・実行機能を担っている。

また、高次な情動・動機づけ機能とそれに基づく意思決定過程も担っている。

さらに社会的行動、葛藤の解決や報酬に基づく選択など、多様な機能に関係している。

https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%89%8D%E9%A0%AD%E5%89%8D%E9%87%8E

とあります。

前頭前野と脳画像上における特定

前頭前野を脳画像上で特定したいと思います。

前頭前野は、上・中・下前頭回に渡る広い範囲に位置しています。

まず、中心溝を見つけます。

これは、逆「Ω」(手指運動野)を見つけることで同定できます。

中心溝のすぐ上が一次運動野になります。

赤の線で囲った部分になります。

その上に、補足運動野があります。

補足運動野は、「補足運動野」と「前補足運動野」に分かれます。

図を見ると、

青色の線で囲った部分が補足運動野、

水色の線で囲った部分が前補足運動野になります。

運動前野は、図を見ると、補足運動野と前補足運動野の隣で、外側に位置しています。

黄色の線で囲った部分になります。

その上に位置しているのが前頭前野になります。

緑の線で囲った部分になります。

次に松果体レベルでのスライスを見ます。

上前頭回は大脳縦列の外側で、青色の線で囲った部分になります。

中前頭回は赤色の線で囲った部分になります。

下前頭回は黄緑色の線で囲った部分になります。

ADLやIADLにおける動作遂行と前頭前野の役割

前頭前野は目的のある動作遂行において、おおまかな計画を立てる役割があります。

前頭前野は、特に新規課題を遂行する際によく働くことがわかっています。

前頭前野は、後頭葉、側頭葉、頭頂葉からの様々な情報が全て伝えられ(入力され)、その情報を統合し、行動の目標設定や行動の選択などが行われます。

ここで、おおまかな計画が立てることができない場合に、どうなるかを具体例を挙げながら考えていきたいと思います。

高齢者の方で、骨密度が低下している方によく使用されているものに「フォルテオ®」があります。

このフォルテオ®ですが、手順が多く、間違えずに動作遂行するにはかなりレベルが高い活動と言えます。

フォルテオ®のおおまな動作手順は以下のようになります。このときの、下の丸数字が前頭前野により手順が計画されます。

①注射器の取り付け

②注射

③注射針の取り外し

④廃棄、保管と後片付け

なお、上記の丸数字のそれぞれのおおまかな手順には、さらに細かい動作手順があります。

①注射器の取り付け
a カートリッジ先端のゴム栓をアルコール綿でふく。
b 注射針の保護シールをはがす。
c 注射針を取り付ける。
d 針ケースを引っ張って取り外し、その後針キャップを引っ張って取り外す。

②注射
a 黒い注入ボタンを止まるところまで引っ張る。
b 注射する場所を消毒する。
c 注射をする。

③注射針の取り外し
a 針ケースは奥までまっすぐ差し込む。
b 右手に持った針ケースをギュッと押し込みながら、自然にゆるむまで手前に回す。
c針ケースの太い部分を持ってまっすぐ抜く。

④廃棄、保管と後片付け
a白いキャップを付け、すぐに冷蔵庫に保管する。

このさらに細かな動作手順については、補足運動野や運動前野で具体的な動作手順が組み立てられます。

ここで、前頭前野の話に戻ります。

前頭前野に機能低下が起こると、フォルテオ®を例にとると、おおまかな動作手順①〜④のどれか、または複数を忘れてしまうことがあると考えられます。

動作手順を忘れてしまうということは、前途しましたがプランニングの問題が考えられます。

また、①〜④それぞれにおける下位項目の中の動作手順を忘れてしまっている場合にも、前頭前野が深く関与しているワーキングメモリの問題が関与している可能性もあります。

ワーキングメモリが適切に働くことにより、動作手順を忘れていないかを確認できたり、また違った手順に移ろうとした場合にその動作を止めることにつながります。

前頭前野は、特定のモダリティー情報の処理のみに関わるわけではなく、必要に応じてさまざまなモダリティー情報の処理に関わる。

また、さまざまな領域で行われている情報処理を監視し、全体の活動を目的の方向に向かわせるために、必要に応じて必要な信号を必要な場所に出力してそこでの活動を制御する機能が担われている、と考えることができる。

舟橋新太郎「前頭前野とワーキングメモリ」Clinical Neuroscience 23, 619-622, 2005

このようなことから、前頭前野の監視機能により、動作遂行がよりスムーズに行われていることが推測できます。

組織化と順序立ての障害に対する対応

組織化と順序立ての障害に対しては、日常課題を一連の流れとして行えるようにすることが大切です。
そのため、テープの録音や手がかりカードを用いて遂行を助けるように訓練をしていきます。
この際、聴覚的手がかりか視覚的手がかりどちらがよいかを評価していきます。

訓練初期は、活動の工程を少なくし、徐々に工程を増やすことで、持久力とより複雑な課題を行う能力を高めていきます。

家族への助言として、
・欲求不満や遂行上のエラーは、チェックリストなどの簡単な形式で書かれた段階的な指示により減らすことができる可能性がある
・写真や図表の使用が有効な可能性がある
・視覚的な手がかりは、言語的指示や身体の誘導と組み合わせるとさらに有効になる可能性がある
・頻繁な日課の課題の練習が、日常の活動の順序立てに役立つ可能性がある
などのことを、セラピストの評価をもとに伝えることが大切です。

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