心臓リハビリテーションを行う上では、リスク管理を適切に行うことが必要です。その中でも、高血圧、低血圧、徐脈、頻脈といった血圧と脈拍のバイタルサインは、客観的指標として有用なものとなります。では、それぞれの指標はどのような状態になれば危険なのか、今回はまとめていきたいと思います。
目次
心臓リハとリスク管理!血圧異常と不整脈の基準とリハ中止、ドクターコール!
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高血圧と低血圧
リハビリ職種がよく知っている中止基準
リハビリ職種がよく用いている中止基準として、アンダーソン・土肥の基準があります。
その中で、血圧に関連するものを挙げると、
訓練を行わないほうがよい場合
・拡張期血圧120mmH以上
・収縮期血圧200mmHg以上
途中で訓練を中止する場合
・運動中、収縮期血圧40mmHg以上または拡張期血圧20mmHg以上上昇
があります。
リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドラインでの基準
リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドラインでは、血圧に関連するものとして、
積極的なリハを実施しない基準
・安静時収縮期血圧70mmHg以下または200mmHg以上
・安静時拡張期血圧120mmHg以上
リハを中止する場合
・収縮期血圧が40mmHg以上または拡張期血圧が20mmHg以上上昇した場合
が挙げられています。
高血圧性緊急症
高血圧性緊急症は、悪性高血圧とも呼ばれ、血圧が異常に高くなることによって特定の臓器に障害が生じた状態です。
血管抵抗性が上昇する理由としては、何らかのストレスなどによる交感神経の活性化、急激な寒さ、痛みや苦しい状態、起床して間もないとき、トイレでいきんだときのほか、頭蓋内圧(脳を収める頭蓋骨のなかの圧力)が高くなったことが発症のきっかけとなることもあります。
https://medicalnote.jp/diseases/%E9%AB%98%E8%A1%80%E5%9C%A7%E7%B7%8A%E6%80%A5%E7%97%87
高血圧性緊急症は、1時間以内に血圧を下げる必要があるとされています。
高血圧性緊急症により引き起こされる疾患として、
・高血圧性脳症
・脳内出血
・くも膜下出血
・急性左心不全(肺水腫)
・急性大動脈解離
・腎不全
・妊娠中毒症
・頭部外傷
・広範な火傷
・ACSで高血圧をを伴う状態
・褐色細胞腫のクリーゼ
などがあります。
これを見ていると、普段リハビリテーション場面で遭遇することの多い疾患も含まれていることがわかります。
日本リハ医学会のガイドラインに基づいた高血圧のリスク管理
日本リハ医学会のガイドラインに基づいた血圧のリスク管理をみていきます。
まず、初めの基準は、
・収縮期血圧220mmHg以上
・拡張期血圧120mmHg以上
です。
これに当てはまれば高血圧性緊急症の可能性があるため、リハビリを中止し、ドクターコールをする必要があります。
・収縮期血圧220mmHg以上
・拡張期血圧120mmHg以上
でなければ、次の基準としては
・安静時収縮期血圧200mmHg以上
です。
これに当てはまれば、リハビリを中止し、ドクターコールをする必要があります。
・安静時収縮期血圧200mmHg以上
でなければ、
・高血圧が問題となる基礎疾患
を判断基準とし、
これがあればまればリハビリを中止し、ドクターコールをする必要があります。
・高血圧が問題となる基礎疾患
がなければ、リハビリを行いますが、
・収縮期血圧が40mmHg以上または拡張期血圧が20mmHg以上上昇
した場合は、リハビリを中止します。
低血圧のリスク管理
低血圧がみられる主な原因としては、
・起立性低血圧
・血管迷走神経反射
があります。
起立性性低血圧は、臥位から立位になった際に血圧が20mmHg以上低下する状態をいいます。
もし、降圧薬(α遮断薬)を服用しているのであれば、副作用により起立性低血圧が起こることがあります。
血管迷走神経反射は、立位やストレス、強い疼痛などにより自律神経系の異常を来たし、徐脈や血管拡張させ、低血圧となります。
この場合、立位保持の持続時間を調整したり、βブロッカーを投与します。
前途しましたが、
・安静時収縮期血圧70mmHg以下
の場合、積極的なリハビリは実施しません。
また、問題となりやすいのは、心拍数が収縮期血圧をこえるような場合で、
・ショック
・心不全
・脱水
などが原因として考えられます。
収縮期血圧が90mmHgを切るようであれば、注意しておいたほうがよいと思われます。
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頻脈と徐脈
リハビリ職種が用いる中止基準
アンダーソンの改訂基準の中で、「訓練を行わないほうが良い場合」での脈拍に関することとして、
・安静時脈拍120/分以上
・心房細動以外の著しい不整脈
が挙げられます。
また、「途中で訓練を中止する場合」での脈拍に関することとして、
・運動中、脈拍が140/分以上となる
・運動中、1分間10回以上の不整脈が出現
が挙げられます。
さらに、「途中で訓練を休ませて様子をみる場合」の脈拍に関することとして、
・脈拍数が運動前の30%以上増加
・脈拍数が120/分を超える
・1分間10回以下の不整脈の出現
が挙げられます。
また、「リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン」では、「積極的なリハを実施しない基準」での脈拍に関することとして、
・安静時脈拍40/分以下または120/分以上
・心房細動のある方で著しい徐脈または頻脈がある場合
・著しい不整脈がある場合
が挙げられています。
「リハを中止する場合」での脈拍に関することとして、
・脈拍が140/分を超えた場合
・運動により不整脈が増加した場合
・徐脈が出現した場合
が挙げられています。
「いったんリハを中止し回復を待って再開」での脈拍に関することとして、
・脈拍数が運動前の30%を超えた場合。ただし、2分間の安静で10%以下に戻らない時は以後のリハを中止するか、または極めて軽労作のものに切り替える
・脈拍が120/分を超えた場合
・1分間10回以上の期外収縮が出現した場合
が挙げられています。
危険な頻脈
頻脈も徐脈も、不整脈のなかのひとつです。
ここでは、危険な頻脈はどのようなものなのかをみていきます。
頻脈で問題となるのは、
・心室頻拍
・上室性頻拍
のような、血行動態(血管、心臓など循環系を流れる血液の状態)が不安定になるものが挙げられます。
また、心拍数が200を超える場合は失神を伴うことがあるため注意が必要です。
そして、意識障害を伴う場合は緊急性が高いといえます。
頻脈のリスク管理
頻脈というと、脈拍が100拍/分異常になることをさします。
頻脈のリスク管理を以下に整理していきたいと思います。
アンダーソン改訂基準や、リハ学会の基準では、120拍/分以上でリハビリを中止するということになています。
頻脈が見られた場合、
・不安定な兆候(意識障害、胸痛、低血圧、ショック)の有無
をみていきます。
不安定な兆候があれば、ドクターコールを行い、カルジオバージョン(QRS波に合わせて電気ショックを通電する)を行います。
不安定な兆候がなければ(安定していれば)、12誘導心電図を用いて、問題がなければリハビリは継続できますし、問題があれば治療がなされます。
危険な徐脈
徐脈は、脈拍が60拍/分以下となることをさします。
危険な頻脈はどのようなものなのかをみていきます。
頻脈で問題となるのは、
・完全房室ブロック
・洞不全
・血圧低下を伴うもの
・意識障害を伴うもの
があります。
心臓では、洞結節(ペースメーカーとしての役割)からの電気刺激が、心房と心室の間にある房室結節に伝わり、その下のヒス束から右心室にいく右脚と左心室にいく左脚を通ってプルキンエ繊維に伝わり、そこで心臓が収縮して血液を送り出します。
房室ブロックとは、心臓での電気活動がうまく行われていない状態であり、心房と心室間での電気信号による情報伝達がうまく行われていない状態です。
そして完全房室ブロックとは、その電気信号が全く伝達されていない状態になります。
この緊急事態を乗り切るために、電気刺激の途切れた後の場所から電気信号を作り出すのですが(補充調律)、これは電気刺激の回数が少なく、結果として徐脈とよばれる脈拍の回数が少ない状態になり、めまいやふらつき、疲れやすさなどの症状につながります。
洞不全は以下のような病態です。
洞結節の細胞自体やその周辺に存在する心房筋の障害によって、心拍数が減少し徐脈や心停止をおこす場合があり、その結果として脳への血流が途絶えることで意識障害や失神などの症状をおこす病気を洞不全症候群(SSS)と呼びます。
new.jhrs.or.jp/public/lecture/lecture-2/lecture-2-a-3/
徐脈のリスク管理
徐脈がみられる場合、リハ医学会の基準では40拍/分でリハビリを中止するということになっています。
徐脈がみられた場合、
・不安定な兆候(意識障害、胸痛、低血圧、ショック)
の有無を確認します。
不安定な兆候があれば、ドクターコールをし、経皮的ペーシング(胸部の表皮に電極を貼って、電気刺激を送り、心臓の脈を作りだす)が行われます。
不安定な兆候がない(安定している)場合、12誘導心電図を用いて、問題がなければリハビリは可能ですし、問題がある場合は治療がなされます。
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