リハビリや自主トレは継続してこそ効果が出る!というのはセラピストであれば誰でもわかっています。しかし、患者さんは自らリハビリや自主トレを行う人は少数なのではないでしょうか。どちらかというと、受け身で依存的な傾向の方も多いと思います。今回、リハビリ・自主トレを継続してもらうために必要なポイントについてまとめていきたいと思います。
目次
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セラピストが患者さんに対して自主トレを行ってもらう場合には、
・自主トレをできるだけの身体機能を有している
・自主トレをすることでさらなる機能向上、活動能力向上が期待できる
ということを考えると思います。
私たちが自主トレを提供しても、自主トレを継続して行ってくれる方もいれば、自主トレを行おうとしない方もいます。
または、自主トレを行わなければいけないことは気持ちとしてはわかっていても、行動として自主トレを行わないという方もいると思います。
これらの問題は、単に患者さんのやる気の問題にとどめてしまっていると、かなり偏った捉え方になってしまっているといえるでしょう。
患者さんが自主トレをモチベーションを持って行ってくれないのには、いくつかの理由が考えられます。
・短期的な見通しが立っていない
・長期的な見通しが立っていない
・やり方を忘れてしまっている
・必要性を理解していない
・自主トレの内容がしんどい
見通しとは、「目標」という言葉に置き換えることができます。
私たちは、先行きが見えない状況では不安になります。
そのような不安があるような状態では、患者さんは「よし、やってやろう!」というようなモチベーションが湧くでしょうか。
目標を見据えることは重要で、長期的に、自分が達成したい、もしくは行う必要がある活動などの目標があると、私たちはモチベーションが高まります。
短期的な見通しでは、例えば自主トレーニングの種目はどの程度行えばよいのかなどという行動の中の目標設定になります。
これらの目標設定は、患者さんと一緒に決定することが大切になります。
最近では、「シェアードデシジョンモデル( 協働的意思決定モデル)」がリハビリテーションでは主になっています。
セラピストは、患者さんのリハビリに関する様々なアプローチのエビデンスなどを余すことなく説明し、患者さんの意思決定への材料にしてもらい、最終的にはセラピストと患者さんの双方が情報を共有しながら目標設定やアプローチを選択していく考え方です。
目標やアプローチをセラピストと患者さんで共有していると、進んで行く道筋がはっきりとしているので、お互いに行動が促進されやすいというメリットがあります。
必要性の理解というのは、前途した目標設定の部分と重なることではあります。
シェアードデシジョンモデルで目標設定がなされていると、どのような運動が必要で、どのように行っていくのかという情報が共有されているので、患者さんは行動が促進されやすくなります。
しかし、そのようなことがなされていないと、患者さんは「先生に任せてリハビリをやっておけば良くなる」と依存傾向になってしまうことが考えられます。
必要性というのは、例えば「◯◯の運動を1日△回行えば、⬜︎週間後には歩くスピードが上がります。」というような基準です。
基準が示されていれば、頑張ろうというモチベーションを持てるでしょうし、そのために自主トレをするという行動も促進される可能性が高くなります。
必要性の理解を高めてくれるのは「基準」があるかないかです。
判断基準があれば患者さんも行動しやすくなりますし、それで結果が出れば、患者さんは自ら問題解決の方法を探りながら、新たなトレーニングを行ってくれるかもしれません。
リハビリ場面で、患者さんと一緒にトレーニングをしている際に、
「この運動は自主トレでもできますよね」などと伝えることはあるかと思います。
セラピストが一緒にいる場面では、その都度姿勢などでアドバイスを受ける機会があるので、患者さんも安心して取り組むことができます。
しかし、いざ患者さんが一人になっている時には、
「確かこんな感じで行ってけど、本当に合ってるんかな」
などと考えることも多くあります(実際に言われることが多いです)。
このような経験から、自主トレを指導する際には、基本的には図や写真を用いるとともに、その運動における”ここだけは注意してほしい”というポイントを記載することが大切だと感じています。
セラピストからすれば、患者さんに行ってほしいことは山のようにあります。
しかし、患者さんにとっては自主トレ内容がしんどすぎることや痛みを伴うものは行動が促進されにくいという特徴があります。
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ここからは、いかにして患者さんのモチベーションを高めていくかに話をしぼっていきます。
目標設定はとても大切です。
前途しましたが、目標設定をすることでは長期(または短期)的な見通しを立てるということであり、それが可能なことと認識されれば患者さんのモチベーションが向上し、行動が促進されやすくなるためです。
まず、セラピストは世界中にエビデンスが確立されているアプローチを制限することな
大事なことは、まずはエビデンスのレベルから説明していくことです。
「世の中には様々なアプローチがあるが、その中でも
さらに、エビデンスのない方法も、場合によっては組み合わせていくこともあるというようなことを説明していくことも必要です。
目標設定において、「どのようになりたいか」「あなたにとっては何が大切か」などと聞いてしまうことが多いと思います。
得たい情報に対する質問の言葉としては合っているのですが、これでは有益な情報を聞き出すには至らないことも多く、具体的な答えが返ってこない場合があります(もちろん、きちんと目標を答えてくれる方も中にはいます)。
オープンな問いかけは目標の齟齬や誤差を生んでしまいます。
そのようにならないために、目標の探り方の例として、
・1日のスケジュールを確認
・目標設定補助エイドの使用
などがあります。
1日のスケジュールを順番に聴いていく中で、患者さんが大切にしている活動や、これだけは自分で行う必要があるなどという活動の情報が得られやすくなります。
目標設定補助エイドは、「ADOC」などがあります。
目標設定補助エイドを使用するメリットは以下の通りです。
・知識量が増える
・治療法や目標設定に対するリスクの理解が高まる
・治療が終わった時に、
・意思決定内容に矛盾が生じない
スマートとは、「SMART」のことです。
Specific:具体的に
Measurable:測定可能な (内的動機づけに関与するとなると、主観評価になる(COPMなど))
Achievable:達成可能かどうか(本人に関係のあることかどうかは内的動機づけに関係)
Realistic:適時性、現実的か(状況に応じて価値は変わる)
Time Phased:期限を区切って
これらの指標を元に、5W1Hの視点で目標を立てていきます。
なお、COPMに関しては以下の記事を参照してください。
患者さんは、ある動作が出来るかもと思うことで、
目標とするものが簡単に出来てしまったものについては、それ以降のモチベーションの上がり方が緩やかになることがあります。
逆に、あまりにもレベルが高いものを目標に立てると、
報酬予測誤差(後に説明)を作っていくために、先行的に、
例えば、すぐできる目標、2週間、1ヶ月、…というような決め方です。
リハビリを行っていく中で、
そのようなことから、目標設定は大事ですが絶対に立てないといけないという訳では無いともいえます。
出てこない方では、あまり無理をして聴きすぎないで、途中から出てくるのを待つというスタンスも必要な場合があります。
私たちは子どもの頃、親に手伝いを頼まれて上手くできたときに褒められると、さらに手伝いをしたくなったというような経験があると思います。
また学生時代には、受験勉強で初めはなかなか勉強が進まないが、模試の結果が出てくるうちに知らずにモチベーションが向上し、自らもっと勉強するようになったというような経験があるかもしれません。
これらの例のように、行動が促進されるには、なんらかの強化となる刺激があることが多いはずです。
自主トレを行う中で大切なことは、患者さんに「失敗した」と思わせないことです。
これは強化刺激というよりもリスク管理の方に近いと思います。
自主トレメニューの動作に関しては、セラピストが分析した結果できると判断したものですから、患者さんは動き自体はこなせるはずです。
しかし、問題となるのは、そのメニューを遂行する中で、
・全てのメニューを消化することができなかった
・痛みが生じた
などと患者さんが負の情動を抱いてしまうことです。
これらのことからも、成功できる負荷設定や痛みの生じない運動範囲を設定することで、自主トレメニューを組んでいくことが必要になります。
痛みは意欲を減退させます。
これは脳科学によっても確認されています。
痛みに対する不安や恐怖には、脳の扁桃体という部位が関与していると言われています。
また、関節炎のモデルラットを使用した研究において、扁桃体基底外側の活動の増加と、内側前頭前野の活動が減少したとの報告があります。
内側前頭前野(前帯状回含む)は、意欲や意志決定に関与しており、慢性痛患者ではその部分の萎縮がみられるとされています。
前頭前野、帯状回の萎縮は、意思決定能力や意欲の低下を引き起こす可能性があります。
励ましや応援、賞賛などはエンカレッジメントと呼ばれています。
臨床場面では、「頑張って」「いいですよ」などと言う場面が多くあると思います。
自主トレーニングの遂行に対してだけでなく、普段の関わりからポジティブな言葉をかけておくことは大切になります。
患者さんによって、どのような言葉に反応しやすく、行動が促されやすいかは千差万別のため、患者さんの反応をよく見ておくようにすることが大切です。
このエンカレッジメントですが、注意しておきたいこともあります。
セラピスト−患者間では、賞賛を与えても「ほんまに?気を使っているだけじゃないの?」と思われてしまうこともあります。
ここで大切なことが、他者に賞賛を送られることです。
担当セラピストだけでなく、他のリハビリスタッフ、病棟スタッフ、他患者、家族など、様々な方に賞賛や応援をしてもらえると、患者さんのモチベーションは向上しやすくなります。
他の方法としては、患者さんが動作を行っている場面を動画に記録し、それを患者さん自身に確認してもらうことです。
この方法では、客観的に自分の様子をビデオを通して確認することができます。
自分自身の能力が高まったのを確認できたときには、患者さんのモチベーションはかなり向上することが期待できます。
私たちセラピストは、患者さんに対して、親切心から「この関節をこのように動かして!」などと言うことがあります。
このような声かけは、患者さんとの信頼関係がとれており、この人の言うことを聞いていたら効果がある!と思えるような状態であれば効果的であると思われます。
しかし、セラピストと患者さんが出会って間もない頃など、信頼関係が十分に構築されていない状況であれば、上記のような指導は、患者さんにとっては罰刺激になる恐れがあります。
罰刺激は本当にいいことはありません。
リハビリ導入場面においては、まずは成功体験を重ねることです。
成功体験がないなかで、
フィードバックとは、量的な結果を対象者に伝えることです。
結果の知識(KR)と言われるものです。
対象者が自主トレを毎日行うに当たって、その毎日の実施回数をグラフで示したり、自主トレの結果、例えば歩行速度や歩行距離が向上したことをグラフで示したりします。
このとき、歩行速度などの指標となるものは多いにこしたことはないです。
ひとつの指標が向上していなくても、他の指標を判断基準とすると向上していることが考えられるためです。
フィードバックは減らしていく方が良いと言われています。
100%と50%フィードバックをした実験では、フィードバックの量を減らして、対象者の方に考えてもらいながら課題を行うことで、学習が進みやすいとされています。
学習の維持と学習効率に影響を与えることから、フィードバックを提示しすぎるとよくないことが示唆されています。
セラピストが介入する時間を減らしていくことも大切です。
対象者の方に学習の仕方を覚えてもらって、成功体験を積みながら、最終的には自分で問題解決ができるようにする方向性をいかに作っていくかが大切です。
関わりとして最初は時間をかけるが、徐々に関わる時間を減らしていくことがポイントになります。
患者さんのモチベーションが一番向上する場面を思い返してみると、、、
できなかった(もしくはできない)と思っていた動作ができそう(またはできた)というときではないでしょうか。
人間は成功することに対して高い予測が生まれた時にモチベーショ
報酬予測誤差とは、予測とそれに対して帰ってきた報酬との差を示します。
報酬と関係性の高い神経伝達物質としてはドーパミンが挙げられますが、これは非常に強い依存性があるので、それにより人間の行動に
報酬に関わる経路としては、腹側被蓋野からドーパミンが出て側坐核に至ります。
帯状回は報酬予測誤差に関わり(
線条体は行動の評価をしてくれる場所ですが、「いけそう」「やれそう」「できそう」と思うためには、
初めて行うスポーツで練習しているうちにちょっとずつコツをつか
リハビリ場面では、いかにサプライズ効果を出しながら、患者さんのやる気スイッチをONにさせるかということがポイントになります。
外的報酬は、みんなが共通して価値を感じるもので、内的報酬は、個別で価値が異なるものです。
外的報酬で一番わかりやすいのがお金です。
内的動機付けは、
しかも、
基本戦略としては、初めは外的報酬でも構いませんが、徐々に内的報酬に切り替えられるようにアプローチしていくことが大切です。
内発的動機づけによって行われた行為に対して、報酬を与えるなどの外発的動機づけを行うことによって、動機づけが低減する現象をいう。
例えば、好きでしていた仕事に対して褒美を与えると、褒美なしではやらなくなってしまう、などの現象。
https://kotobank.jp/word/アンダーマイニング効果-178707
この観点から言うと、内的動機付けにより自主トレなどをモチベーション高く行っている方においては、外的動機付けはあまり必要がないということになります。
内的動機づけがうまくいっている方は、セルフマネジメントができつつある方です。
運動継続によって、結果が付いて来れば、その結果自体がさらなる報酬になり、内的動機づけを強化してくれるはずです。
そのような場合は、セラピストは患者さんの行動がうまくいっているのかを確認する程度でも良いと思われます。
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