浮腫といっても様々な種類があり、その特徴を把握しておくと、リハビリにおいて浮腫を呈した対象者をみていくときの助けになります。今回、浮腫の種類、評価、リハビリテーションにおける注意点について、まとめていきたいと思います。
目次
浮腫の種類、評価、リハビリテーションにおける注意点
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浮腫の分類
日常生活で浮腫に気づくときはどんな時か
リハビリテーション場面だけではなく、日常生活において、浮腫はどのような時に存在を疑われるのでしょうか。
・まぶたが重い
・手足がだるい
・まぶたがはれぼったい
・物が握りにくい
・指輪がとれない
・靴がはけない
など、日常の何気ない場面や観察により浮腫の存在を知ることがあります。
浮腫のメカニズムを簡単に説明すると
毛細血管には穴が空いており、血圧がかかっています。
そのため、血管内の水分は血管外(間質と呼ばれる)に出ようとします。
血管内のたんぱく質(アルブミン等)は、水分を引きつける作用(浸透圧と呼ぶ)があります。
また、間質液中のたんぱく質も浸透圧の作用があります。
たんぱく濃度は、血液>間質液で高く、 両者の浸透圧差が、水分を血管の内にとどめようとします。
浮腫が生じるということは、毛細血管の血圧と浸透圧のバランスが崩れ差が生じているということです。
その原因には、
・毛細血管の血圧が上昇する(毛細血管圧の上昇)
・血管の中のたんぱく質の濃度が低下する(低タンパク血症)
・毛細血管がたんぱく質や水分を通しやすくなる(血管透過性の亢進)
があります。
浮腫については以下の記事も参照してください。
手のアーチの解剖・運動学的特徴と浮腫のリハビリテーション
浮腫は局所的かそれとも全身的か
浮腫は局所性と全身性に分けることができます。
その名の通り、局所性浮腫は限られた部分にある浮腫で、出現は左右非対称です。
全身性浮腫は、初めこそ顔面・下肢などにみられますが、それは左右対称です。
全身性浮腫は歩行可能な方は下肢に、臥位を多く取る方では背中や後頭部に多く見られます。
リハ場面では手指や下肢(脛骨前面)に浮腫を発見することが多いですが、手指や下腿は組織圧が低いため浮腫が生じやすくなっています。
全身性浮腫はどのような疾患に起こりやすいか
全身性浮腫は、以下のような疾患に起こりやすいとされています。
・肝硬変
・心不全
蛋白が尿中に排出されてしまうと、血管の中に水分を保っておく働きのあるアルブミンという蛋白質が少なくなる低アルブミン血症と呼ばれる状態になり、血漿膠質浸透圧が下降し、水分が血管内から周りの組織間へ漏れ出ます。また、塩分や水分を尿に排泄する機能が低下していると、組織間液が増加し、身体に水分が溜まってしまいます。これにより浮腫が生じ、同時に高血圧や肺うっ血などの症状がでてきます。
https://www.jinlab.jp/glossary/glossary.html?glossaryid=782
・右心拍出量低下
↓
・残血量増加
↓
・右室拡大し、後方障害も起こる
↓
・右房圧上昇(右房から血液を送れない)
↓
・体循環系の拡張と圧上昇(逆行性に体循環系に圧が伝わる)
↓
・全身うっ血
↓
・全身浮腫(肺を除く。胸水貯留はみられる)
詳しくは、以下の記事を参照してください。
心臓リハビリと虚血性心疾患、心不全!リスク管理のための症状の理解!
局所性浮腫はどのような疾患に起こりやすいか
局所性浮腫は、圧痕性浮腫としては、
・静脈性(上・下大静脈症候群、四肢静脈血栓症、静脈瘤)
・炎症性(炎症、血管炎 )
非圧痕性浮腫としては、
・リンパ性
・血管神経浮腫(クインケ浮腫)
があります。
静脈性浮腫は、毛細血管圧の上昇が浮腫の原因となります。
炎症性浮腫は、血管透過性の亢進が浮腫の原因となります。
ヒスタミン、キニン、ロイコトリエンなどの働きで毛細血管透過性が増すため、当該部位に血流が増大し、通常血管内にとどまる物質も組織液に流出し、腫脹が生じる。
Wikipedia
リンパ性浮腫は、間質の浸透圧上昇とリンパ管閉塞が浮腫の原因となります。
なお、血管神経浮腫(クインケ浮腫)は以下のようなものをさします。
皮膚、気道、消化管などに反復する局所的な血管性浮腫である。蕁麻疹と異なり境界不明瞭で局所がパンパンに腫れるが、数日で症状が消失するため未診断のまま放置されることもある。
月に何度も起こることもあれば、数年ぶりに起こるようなこともある。
上気道に浮腫が生じると窒息の危険があり、診断は重要である。
http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu07-4.html
圧痕性浮腫と非圧痕性浮腫
圧痕性浮腫とは、浮腫により腫脹しており圧痕が残るものをさします。
非圧痕性浮腫とは、浮腫により腫脹しているが圧痕が残らないものをさします。
前途しましたが、腎疾患(ネフローゼ症候群,腎不全,急性糸球体腎炎)、肝硬変、心不全、静脈性(上・下大静脈症候群、四肢静脈血栓症、静脈瘤)、炎症性(炎症、血管炎 )は圧痕性浮腫になります。
非圧痕性浮腫としては、リンパ性、血管神経浮腫(クインケ浮腫)、 甲状腺機能低下症(粘液水腫)などがあります。
圧痕の確認方法
1分程度圧迫し続け、指を離した後に圧痕が残らないかを確認します。
圧痕性浮腫の場合、その回復時間により分類がなされています。
40秒未満のfast edemaと40秒以上のslow edemaに分類されます。
約10秒間約5mmの深さで圧迫して回復を確認します。
一般にfast edemaを呈するのは低アルブミン血症(2.5g/dl以下)に伴う浮腫です。
https://www.igaku.co.jp/pdf/resident0806-3.pdf
圧痕性浮腫の評価指標
脛骨前面を指で10秒以上圧迫し、表面の圧痕の有無を観察する方法があり、以下の基準に照らし合わせて評価を行います。
+1:2mmのくぼみ、正常な外形
+2:4mmのくぼみ、+1よりも長い持続
+3:6mmのくぼみ、圧痕あり
+4:8mmのくぼみ、秒計可能な圧痕あり稲葉佳江編:看護ヘルスアセスメント,193,東京,メヂカルフレンド,2011
非圧痕性浮腫の評価指標(AFTD-Pittingテストの深沢変法)
AFTD-Pittingテストとは部位、圧力、時間、浮腫の定義を統一した中での浮腫の評価法です。
深沢変法は、以下のような指標です。
grade0:圧痕なし、腫脹なし
grade1:圧迫の解除でわずかにくぼみの輪郭がわかる程度で、時に見逃されてしまいそうな圧痕
grade2:圧迫開始時にはっきりしないが、圧迫とともに明らかとなり、解除後に圧痕が残るもの
grade3:圧迫開始時の視診や触診ですでに浮腫が明らかなもので、圧迫解除後に深い圧痕が残るもの
NPE:圧痕を認めないが、腫脹しているもの(non-pitting edema)
なお、浮腫ありと認められるものは、grade2〜となります。
高齢者は浮腫が生じやすい?
高齢者はなぜ浮腫が生じやすいのでしょうか?
年齢を重ねることにより、基礎代謝量や身体活動量の低下、栄養摂取量の減少・消化機能の低下などによる低蛋白血症が生じると、膠質浸透圧低下(血清中のアルブミンを主とした蛋白質は、膠質浸透圧として毛細血管内に体液を保持する作用をもつ)につながります。
心機能・腎機能の低下による静脈圧亢進、身体活動量の低下による下肢筋ポンプ機能の低下や下肢静脈不全があるとことでも、浮腫を生じやすくなります。
足のむくみは、普段座位で過ごす時間が多い方では、下肢筋力低下によるポンプ機能不全や、重力による下肢遠位への浮腫が生じやすくもなります。
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術後の弾性ストッキングはなぜ履くのか
手術後においては弾性ストッキングを履くことがありますが、そのメカニズムを理解していきます。
弾性ストッキングは、下肢の静脈血、リンパ液のうっ滞を軽減又は予防する等、静脈還流の促進を目的に使用されます。
静脈還流の障害と弾性ストッキングによる圧迫
静脈血のうっ滞が生じると、血管内の圧力が高まり血管が膨張します。
すると、静脈の血管径が大きくなります。
静脈には逆流防止弁がついていますが、血管径が大きくなることでその機能が阻害され、血液の逆流が生じる可能性が高まります。
この状態を、静脈還流の障害と呼んでいます。
弾性ストッキングは、皮膚の上から圧迫を加えるものです。
皮膚上から静脈血管を圧迫することで、静脈血管径が狭くなり、逆流防止弁の本来の機能を促すことが期待できます。
これにより、血液は心臓へと戻りやすくなります。
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リンパ浮腫の概要と評価、リハビリアプローチ
近年、がんリハなどにおいて、リンパドレナージの有効性が言われています。
ここでは、リンパ浮腫について、最低限知っておきたい知識をまとめていきます。
リンパ浮腫のメカニズム
体液の種類にリンパがありますが、リンパはリンパ菅を通って運搬されます。
リンパ管は皮膚直下で毛細リンパ管から始まり,全身の末梢組織に網目状に広がりながら皮下組織の中を走行し,集合管→リンパ本管→リンパ節を経て深部リンパ管となり徐々に合流しながら最終的に静脈へと流入する
細川賀乃子他「リンパ浮腫に対するリハビリテーション・アプローチ」リハビリテーション医学2006 ;43:51―62
リンパ浮腫が認められる基準
リンパ浮腫は、その周径がを計測することで把握できます。
計測時には、常に同じ場所の周径をとることで、時間を追った中での変化が確認できます。
上肢では、左右差が2㎝以上、下肢では2〜3㎝以上あるとリンパ浮腫とされます。
リンパ浮腫は緩徐進行性の痛みのない浮腫であるが,発症初期や急激に浮腫が進行した際には, 皮膚の緊満感やピリピリとした痛みを自覚することもある.
また経過が長くなると重量感と共にだるさ, 患肢の挙上困難なども出現する場合があり, 周径以外の症状にも注意を要する.
細川賀乃子他「リンパ浮腫に対するリハビリテーション・アプローチ」リハビリテーション医学2006 ;43:51―62
下肢の浮腫をどう見分けるか
下肢の浮腫を見る際には、
・リンパ浮腫
・静脈性浮腫
・心性浮腫
の3点のどれかであることが多いです。
その違いとしては、
リンパ浮腫:肢全体にあり時に両側性。初期は圧痕ができるが進行すると圧痕のできない固いむくみ。色は基本的には白。皮膚は肥厚、進行すると象皮様、多毛。疼痛は無しまたは軽度。
静脈性浮腫:通常は片側性。緊満感あり。色素沈着あり、潰瘍などが認められることもある。重量感。
心性浮腫:全身性で末梢に高度な浮腫。圧痕ができる柔らかなむくみ。光沢、軽度の色素沈着。疼痛無し。
が挙げられます。
このような特徴を意識しながら、目の前にいる対象者の状態を確認していくと良いと思います。
リンパ浮腫はどうして圧痕ができないのか
リンパ浮腫の特徴としては、非圧痕性だと言われています。
しかし、発症の初期段階では、柔らかさがあり、指で押すとくぼみも確認できます。
時間経過とともに、皮下組織の繊維化が起こり、浮腫に硬さが生じ、圧迫してもくぼみが確認できないようになります。
圧痕が確認できるうちは、初期段階のため、浮腫が見られる側の四肢を挙上することでその軽減が期待できます。
しかし圧痕が確認されないようになると、四肢挙上による浮腫軽減は期待できなくなってしまいます。
がん手術後の方などでは、浮腫が生じてくる前に四肢のだるさや張りを感じることがあるので、前兆として把握し、早め早めの対策を取るようにしていかなければなりません。
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リンパ浮腫におけるADL指導
以下の指導が参考になります。
・正座を長い時間行わない
・重い買い物袋を肘や肩にかけない
・跡が付くような下着や時計,輪ゴムや指輪などを避ける
・靴はきつすぎないものを選ぶ ・庭の手入れや草取りなど感染が予想されるところでの作業は手袋を着用する
・日焼けなどを避け,炎症を起こす危険性がある場合は日焼け止めや長袖,丈の長い ズボンを着用する
・皮膚が乾燥しやすくひび割れなどを起こしやすいため,尿素軟膏やローションを適 宜使用する
・白癬予防のため清潔にし,罹患した場合はすぐに治療をする
・皮下に栄養が多く多毛となりやすいが,処理は電気カミソリを使用する
・点滴や血圧測定などは患肢では行わない(二次性の片側下肢浮腫患者では,浮腫発 症の危険性があるため浮腫のない側でも原則的に行わない方がよい)
・鍼灸などの治療は患肢~所属リンパ領域は避ける細川賀乃子他「リンパ浮腫に対するリハビリテーション・アプローチ」リハビリテーション医学2006 ;43:51―62
リンパドレナージはなぜ心疾患、心不全、深部静脈血栓症などでは禁忌なのか
リンパドレナージは、心疾患、心不全、深部静脈血栓症などでは禁忌とされています。
それは、静脈環流を一気に増やしてしまい、心臓に大きな負荷を与えてしまうためです。
そのため、弾性ストッキング、軽いマッサージ、足浴などを行うことも、対象者のかたの状態によっては禁忌となるので注意を要します。
リンパドレナージの概要
リンパドレナージは、リンパ液を毛細リンパ管へ取り込みリンパ管内で移動させることで、静脈へ戻していき浮腫を軽減させることが期待できます。
前途しましたが、時間経過が長くなると挙上のみでは浮腫が軽減できなくなるので、それをリンパドレナージを用いて浮腫を軽減させていきます。
リンパはどこに流すか
リンパを流す部位は、浮腫がどこにあるかによって異なります。
右上肢→左腋窩、右鼠径部
左上肢→右腋窩、左鼠径部
右下肢→右腋窩
左下肢→左腋窩
両下肢→右下肢は右腋窩、左下肢は左腋窩
となっています。
四肢別のセルフドレナージ
基本的には、手技をしっかりと理解している療法士の指導のもと、セルフドレナージを行う必要があります。
以下の出典:http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/kth/kak/gan/gan_lymphmanual.pdf(リンパ浮腫簡易指導マニュアル)
右上肢
左上肢
右下肢
左下肢
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