リハビリテーション場面において、対象者の動機づけを行うことは、目標の達成に向けて重要なことです。対象者が能動的に行動を起こすことでリハビリテーションの効果はさらに高めることができます。今回、リハビリテーションでの動機づけの工夫について、文献を参考にまとめていきたいと思います。
目次
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動機づけは、何かを始める際に一歩踏み出すエネルギーを供給するものをさします(発動、喚起)。
また、継続することをためらうときに続けさせるのも動機づけの働きです(維持)。
継続しているうちに能力が向上し、さらに取り組むようになることも動機づけの働きになります(強化)。
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動機づけの分類には、生得的なものと習得的なもの、生体内と生体外、エネルギー的なものと方向づけ的なもの、大脳皮質下から発生するものと皮質から発生するものに分類することができます。
外発的動機づけは賞金などの報酬により行動が引き起こされるもので、内発的動機づけは行動自体が報酬となるものです。
①外発的動機づけ
a.ホメオスタシス性動機
生命維持に必要な生理的安定を保つのに働くものです。例えば、空腹に対して食料を取ろうとしたり、身体的苦痛を回避しようとするなどがあります。
b.社会的動機づけ
親和動機:友情や愛情で他者と交流し、人間関係を作っていく動機です。例えば、春暖スポーツでの行動があります。
獲得動機:賞金などの物質的な報酬を求める動機です。
承認動機:優れた業績を達成するなど、社会的、あるいは自分にとって重要な他者に認められたいという動機です。
優越動機:他者よりすぐれた人でありたいという動機です。
顕示動機:人に注目されたり、有名になりたいなどという動機です。
達成動機:物事をより卓越した水準で達成することを追求する動機です。
②内発的動機づけ
「知りたい」「成し遂げたい」「経験したい」というような、何かに対する興味を満足させたり、達成感を得るために自己目的的に行動している状態です。
③アンダマインニング効果
金銭報酬を与えられた者は、報酬がない状態で次の行動への内発的動機づけが低下するとされており、これをアンダーマインニング効果と呼びます。
これは言語報酬(褒めるなど)では起きず、外的(金銭的)報酬によりコントロールされていると感じると内発的に行動するという感覚を失うためと言われています。
外的要因には制御的・情報的側面があり、制御的側面>情緒的側面となると、他者に統制されていると感じ、自己決定感が低下します。情報的側面>制御的側面となると、行動の結果の情報がもたらされ、自己決定感や有能感が変化します。
金銭的報酬は統制的側面が強く、言語的報酬は情報的側面が強いと言われています。
④動機づけの認知的側面
a.成功に対する信念
人は可能性があることに対する信念は動機づけを決定します。この信念を「期待」と呼び、期待がないところには動機づけは行われないとされています。
b.価値づけ
取り組むに値するという認識は動機づけを高めます。ある行動に対して何らかの意味付け(価値)をしているといえます。価値には、成功への期待、興味、実用性、コストなどの側面があり、これを認識していることが行動やその持続性に影響を与えると言われています。
⑤動機づけと情緒
a.フロー理論
フローとは自然に気分が集中し努力感を伴わず活動に没頭できるというような、目標と現実が調和した状態を指すとしている。そのとき活動は効率的に進行し、本人の能力を伸ばす方向に行為が発展していくような心理状態であるとされている。
作業療法のとらえかた P311
フローが生じる条件には、①自分の能力を伸長させる知覚される行為②明瞭で達成しそうな目標③進行中の即座のフィードバックがあります。
b.リハーサル理論
ある状態から別の状態への「心理的反転」に焦点をあてたものです。例えば、陸上競技でスタート前の緊張・不安からスタート直後に走ることに集中した心理状態にある地点から切り替わるようなことがあります。
⑥動機づけと欲求
a.マズローの欲求段階
最高次の自己実現の欲求は内発的動機づけで外的に動機づけすることはできません。その他の欲求(整理的・安全・所属と愛・他者からの承認と自尊心)は外的に動機づけができます。
b.自己決定理論
人には、生得的に持っている心理的欲求があるとされています。
①有能さへの欲求:環境と関わりながら学んでいこうとするもの
②関係性への欲求:他者やコミュニティと関わろうとするもの
③自律性への欲求:行為を自ら起こそうとするもの
これらが同時に満たされるような条件において、人は意欲的で人格が統合的に発達するとされています。
⑦日本人の動機づけの特性
a.受容的勤勉性
退屈な課題でも真面目に行う傾向で、役割に自分を合わせることをさします。役割が与えられ、それへの適応が目標達成につながることがあります。
b.気持ち主義
相手の気持ちを知る、察しようとする傾向で、他者の感情に配慮して自分の行動を決定していることが考えられます。
c.他者の気持ちに応える
他者からの期待を感じ、それを自己のものとして内面化し、それが原動力となる傾向です。自分が信頼する他者の期待に応えようとする傾向ともいえます。
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①意義の説明
リハビリテーションの意義を示すことが重要です。対象者が理解できる用語を用いて、説明します。また、指標となるデータをしますことも大切です。リハビリテーションを行わなかった場合の望ましくない結果についての説明も必要に応じて説明します。
②達成できる目標設定
対象者が、目標が達成されることに高い価値を感じれることが重要となります。また対象者が達成できると感じることが重要です。
③興味・関心・知的好奇心の利用
興味、関心または意味のある作業を抽出し、それを利用することが重要です。
④気分を良い状態に保つ
課題の難易度を上げるときには、対象者の気分が良い状態のときに進める必要があります。知的機能面が低下しているときには気分に影響しやすいため注意が必要です。
⑤慣れと安心
安全・安心感をもてる工夫行います。リハビリ場面の設定、道具(位置、物品)も同じように準備します。セラピストも、安定した対応を行います。
⑥さりげない賞賛
わざとらしい賞賛ではなく、適切なタイミングでの賞賛は、動機づけになります。
⑦ポジティブな表現
できないことや改善点を伝える際、簡潔に説明し、話の最後には「できるといいですね」などとポジティブな表現を終わるようにします。
⑧明瞭なフィードバック
結果に対して内容とともに明瞭にフィードバックを行います。結果が自分の努力によるものだと認識すると、次への動機づけになります。
⑨作業プロセスの利用
面倒くさいと感じながらも、「ここまではやっておく」というようなことはよくあり、作業活動で区切りのあるものを利用することもひとつの方法です。
⑩集団の利用
他者と一緒であれば取り組んでみようと思うこともあります。自信がない人、意欲低下のある人に有効な方法です。
⑪競争原理
集団などで、競争原理を用いることでやる気を引き出せることがあります。競争が均衡して、決着がつかないような作業を利用すると効果的です。
⑫顕示欲
自己顕示欲が強い、目立ちたがり、承認欲求が強い人では、他者の注目や拍手などで意欲が高まる場合があります。
⑬楽しい事の利用
楽しい事や好きなことを利用しながら、目標とする運動技能などを獲得できるように設定することもひとつの方法です。
⑭賞罰の利用
前途したアンダーマインニングに注意しながら、賞罰を利用し、内発的動機づけにつなげていけるようにフィードバックを行います。
⑮キーパーソンの期待の利用
強い信頼を感じる人(家族など)からの期待を利用することで、意欲を引き出すことも利用できる方法です。
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