脊髄損傷者では、住宅改修を適切に行うことで、自立した生活が可能になったり、支援を受けながら自宅で生活することが可能になります。今回、脊髄損傷者の住宅改修のポイントについて、文献を参考にしながらまとめていきたいと思います。
目次
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松尾 清美「住宅改造-脊髄損傷者の加齢やライフスタイルの変化に対応した住宅改造におけるポイント-」総合リハ・39巻7号・643〜650・2011年7月
道木 恭子「女性脊髄損傷者の妊娠・出産・育児」総合リハ・39巻7号・639〜642・2011年7月
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移動、移乗に関しては、入院中にどのような移動、移乗方法をとっているかで在宅復帰において考えるべきことが違ってきます。
例えば、独力での移乗、トランスファーボードを使用しての移乗、リフトを使用しての移乗などがあります。
在宅でトランスファーボードを使用せずに移乗を行うのであれば、
・ベッドの高さ調節
・起き上がり動作
・下肢の上げ下ろし
・ベッドサイド座位保持(靴の着脱)
・移動
・車いす座位の調節(臀部位置の調整)
・フットレストの管理
などを考えていかなければなりません。
そして、それに必要な車椅子、ベッドも準備する必要があります。
また、これらは不調時の対応も考えていく必要があります。
その場合、家人への介助指導やヘルパーサービスの導入が必要になるでしょう。
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自宅内の移動・移乗だけでなく、外出時の方法も検討することが必要です。
・家人の車の車種は何か
・福祉タクシーや介護タクシーの利用
・自己での自動車の運転(そのための運転免許の申請や自動車の改造)
・車椅子⇄座席への移動
について考えていきますが、その際には安全面に考慮しながら検討を進めていく必要があります。
排泄動作では、現在の動作方法から、在宅においてはどのような方法で排泄を行うかを検討していきます。
排泄場所として、
・ベッド上
・トイレ
・ポータブルトイレ
について、どの方法が安全かつ効率的に行えるかを検討していきます。
また、車椅子⇄便座への移乗や下衣の着脱ができるかどうかも検討する必要があります。
導尿については、自己導尿ができるように練習を行いますが、その後の後始末をどうするのかも考える必要があります。
・尿捨て
・カテーテル洗浄
・グリセリン液交換
・滅菌水の交換
・ウロガード内の尿捨て
・ウロガード洗浄
またこれらを、
・本人
・家人
・不調時のみ家人またはサービス利用
など、誰が行うのかを検討する必要があります。
サービスの利用であれば訪問看護、家人が行うのであれば、家人への導尿指導が必要になります。
そのために泌尿器科フォロー先を決めることも必要です。
排便については、排便パターンが確立されていることが重要です。
そのために、
・内服薬の検討
・座薬の使用
・それらを誰が行うのか
ということを検討します。
サービスを利用するのであれば、ヘルパーが来る前に座薬を入れておく必要があるでしょう。
また、便チェックについて、
・家人への摘便指導
・訪問看護
の必要性を検討します。
パット内への排便があった際にどのように対応するのかも検討しておく必要があるかもしれません。
食事は、
・自分で調理
・家人の協力を得る
・配食サービスの利用
などが考えられます。
自分で調理する場合でも、不調時に家人の協力が得られるのかについて検討しておく必要があります。
更衣は、自分で更衣動作を行える場合、自分では行えない場合により対応方法が変わります。
・自分で行う
・家人、またはヘルパーが介助する
・不調時のみ手伝ってもらう、または不調時には着替えない
などが考えられます。
自分で入浴できない場合、サービスを毎日利用して入浴することは難しいかもしれません。
できるだけ介助量が少なくて、安全に入浴できる方法を検討していく必要があります。
排便時や陰嚢部のただれがある場合には、陰部洗浄も必要になります。
陰部洗浄をどうするかについては、
・ベッド上で陰洗ボトルを使用する
・便座に移ることができる場合にはウォシュレットの使用
などを検討します。
褥瘡予防では、臥床時の姿勢やポジショニングを自己にて行えるかどうかということが大切になります。
そのためには、
・除圧用具を自分で込むことができるか
・下肢挙上が行えるか
ということが必要になります。
また、体位変換については、特に夜間が重要です。
自分でタイマーを設定して起きて除圧ができるかどうかですが、
・毎日継続して行えるか
・不調時の対応はどうするのか
ということを検討します。
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さらに、褥瘡予防では皮膚観察が大切になります。
皮膚観察が自分でできるように練習する必要があり、
・手鏡を使用して臀部の観察が行えるか
・踵や足先の観察が自分で行えるか
ということが必要になります。
これらが自己にて行えない場合、
・家人への介護指導
・訪問看護の利用
を検討します。
また、除圧用具(ベッド、車椅子、体位変換用)の準備も必要です。
褥瘡予防については以下の記事も参照してください。
脊髄損傷の褥瘡評価と褥瘡予防
しびれによる痛みや発熱時の対応など、医学的管理が必要な場合もあります。
その際には、
・通院方法の確立(家人またはサービスの利用)
・外来での通院リハビリ
・かかりつけ医への受診
を検討します。
かかりつけ医を決める際には、往診可能かどうかも対象者の状態によっては検討する必要があると言えるでしょう。
車椅子での生活が必要であれば、それに必要なスペースの確保が必要になり、場合によっては大掛かりな住宅改修が必要になることが考えられます。
住環境が整えば、外出や外泊を行い、そこでの問題点を解決できるようにさらに訓練や環境整備を進めていくことが可能になります。
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高位頸髄損傷者でも、電動車椅子リクライニング車椅子を使用することで、自分で行えることは増えます。
四肢麻痺があっても、随意的に動かすことが可能な頭、顎、頬、眼球、肘、足などにより電動車椅子での走行が可能になります。
ベッド−車椅子間の移乗方法、呼吸に問題がある場合は呼吸器や吸引器と操作者の獲得、ADLの生活方法を獲得すれば自宅での生活は可能になります。
①移乗・移動
介助者による移乗は、介助者の身体的・精神的負担が大きく、車椅子への移乗機会が減少してしまうことが考えられます。
吊り上げ式のリフトを選択することがポイントです。
電動車椅子移動ではその重量に耐えれるように床材を補強する。
ドアの幅を80cm以上にする。
敷居などの段差をなくす。
自動ドア、または電動車椅子の操作でドアを閉開できるようにする。
スロープや段差解消リフトを設置する。
自動車への移乗方法、雨に濡れないで自動車に移乗するための駐車場の改造。
②呼吸器の停電時の対応
呼吸器や吸引器の使用では、停電時の対応を考える必要があります。
停電後もバッテリーにより短時間は使用可能ですが、自宅内に自家発装置を設置し、その操作方法や暗闇での介助呼吸方法を身につけておく必要があります。
自宅周辺の人に、緊急時の依頼を行っておくことも必要です。
③入浴
車椅子から洗い場、浴槽への移乗は、介助者が独力で行うと身体・精神的負担が大きくなるため、吊り上げ式リフトの設置を考える必要があります。
浴室用リフトでは、脱衣場までリフトで移動できるものがあります。
介助方法、公的支援や自己負担額も含めてどうのようにするか選択していきます。
④排泄
大便では、ベッド上横向きで座薬や浣腸を使用する方法があります。
この場合、寝室に換気扇や消臭設備の設置、便のついた衣服を一時洗いする洗濯槽の設置を行います。
トイレキャリーで洋式便座上に移動してもらう方法もあります。
この場合、介助者による摘便や後始末の介助が必要です。
また、便座の種類と配置、便所の広さも考える必要があります。
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若くして受傷した場合、高齢に伴う身体機能の低下を想定して改造するか、身体的な変化があったときに改めて改造するかを考える必要があります。
①玄関、出入り口
胸・腰髄損傷者では、玄関にて室内用と屋外用車椅子に乗り換えることがあります。
身体機能の低下に伴い、移乗場所の段差と隙間を狭くすることで移乗動作が行えるようにします。
玄関での乗り換えができなくなったら、1台の車椅子で生活をします。
その場合、玄関マット上で回転し、タイヤの汚れを落とすなど、タイヤの清拭方法の検討が必要になります。
スロープを登れなくなると、段差解消リフトの設置を検討します。
②トイレ
トイレへの移乗方法では、直角、斜め前方、平行、正面、トイレッタブル移乗の5つがあります。
隙間と段差をなくすことで移乗動作の自立を確立します。
移乗が自立して行えなくなると、吊り上げ式リフトでの移乗やトイレキャリーでの方法を検討します。
a.斜め前方アプローチ
出典:総合リハ・39巻7号・643〜650・2011年7月
b.直角アプローチ
出典:総合リハ・39巻7号・643〜650・2011年7月
c.平行アプローチ
出典:総合リハ・39巻7号・643〜650・2011年7月
d.正面アプローチ
出典:総合リハ・39巻7号・643〜650・2011年7月
e.トイレッタブル
出典:総合リハ・39巻7号・643〜650・2011年7月
③浴室
浴室の洗い場は、足や臀部を洗う姿勢や洗体方法によりことなります。
洗い台への移乗は台の高さや広さで異なります。
浴槽から洗い台へ出ることが困難になったり、転倒の危険性があれば、バスリフトの使用を検討します。
この方法でも困難になれば、吊り上げ式リフトの使用を検討します。
a.床に降りて洗体する場合
出典:総合リハ・39巻7号・643〜650・2011年7月
b.台の上で洗体する場合
出典:総合リハ・39巻7号・643〜650・2011年7月
c.浴槽内で洗体する場合
出典:総合リハ・39巻7号・643〜650・2011年7月
バスリフトでの入浴方法
出典:総合リハ・39巻7号・643〜650・2011年7月
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妊娠期の身体的な問題としては、
貧血
尿路感染症
自律神経過反射
褥瘡
切迫流産
切迫早産
妊娠高血圧症候群
前期破水
膣感染症
便秘
尿もれ
などがあります。
特に、貧血、尿路感染症、便秘、尿もれのある方が多いとされています。
妊娠中期では移乗動作が困難になることがあります。
排泄では、排便時にお尻に手が届きにくく座薬挿入、摘便、後始末の動作が困難になります。
排尿は、膀胱圧迫により尿もれが多くなります。
導尿回数を増やすことになりますが、その動作も難しくなります。
入浴は自立して浴槽に入ることが難しくなります。
家事動作全般、外出なども行いにくくなります。
自動車の運転や車椅子の積み下ろし、座席への移乗が困難となり、外出が困難となります。
内診台のある診察室に車椅子で入れないことも多く、診察には多数の介助により内診台に移乗しなくてはならないこともあります。
身障者用トイレがないと導尿を行えません。
車椅子用体重計がなければ、体重管理が行えなくなります。
身体的問題に関しては、本人や家族に説明しておくことで、起こりうる問題点について理解してもらうことが重要です。
尿路感染症、膣感染症は正しい排尿管理と清潔保持により予防可能です。
貧血や下肢の浮腫に対しては、食事内容や塩分摂取に注意することで軽減も可能です。
産科スタッッフと、本人、家族、リハビリテーション従事者が連携できることが大切です。
日常生活上の問題に対しては、家族の支援が受けれない場合、福祉サービスや民間サービスを確認します。
本人、家族のみで頑張りすぎないようにすることが重要です。
分娩時のリスクには、自律神経過反射(高位損傷者)による血圧上昇があります。
褥瘡、深部静脈血栓症などに対する管理も重要です。
自律神経過反射、貧血、切迫早産などで早期から入院する場合、安静によるADL低下が考えられます。
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a.散歩、外出
赤ちゃんを抱きながらの車椅子移動はリスクがあります。
段差のつまづきや、赤ちゃんが激しく動いた時に赤ちゃんを落とす危険性が高くなります。
子供が歩くようになると、車椅子では追いつけないという可能性もあります。
工夫点:
①家族や友人、ママ友と出かける
②赤ちゃんを前向きに抱き、抱っこひもで車椅子に固定する
③こどもが立てるようになったら、車椅子のステップに立たせ、自分の体に紐で固定する
b.沐浴
床にベビーバスを置くことは車椅子では困難なことが多く、手が不自由だと湯の中で赤ちゃんを支えることも困難です。
工夫点:
①家族やママ友に手伝ってもらう
②臀部ずり落ち防止と頭部サポートつきのベビーバスの使用
③キッチンにベビーバスを入れて沐浴し、キャスターつきワゴンにタオルを敷いて、その上で着替えを行う
c.着替え、おむつ交換
乳児の動きが激しいことで、困難なことが多くなります。
ベビー服は紐で結ぶタイプが多く、手が不自由だと扱いにくくなります。
工夫点:
①車椅子で膝上にクッションを固定し、その上に子供をのせて交換する
②ベビーベッドの工夫(車椅子で直角に入れるように)
・市販ベビーベッドの脚部分を切り取り、柵は観音開きにする
・パイプ机をベッドの代わりに使用する。柵はブックスタンドを厚手の布で覆う。
③ベビー服の紐部分をマジックテープにする
d.授乳
赤ちゃんを安定した姿勢で抱き、授乳させることが困難になります。
工夫点:
①本人がベッド臥床し、赤ちゃんを胸の上に抱き授乳させる
②車椅子で、膝上にクッションを固定し、赤ちゃんを乗せる
e.その他の問題や工夫点
①排便では時間がかかるため、その間家族や友人に世話をしてもらう
②自動車のチャイルドシートに乗せることが難しい
③子供が車椅子のしたに入り込み、身動きがとれなくなる。車椅子にぶつかり怪我をしてしまう
④車椅子やベッドから落ちたときに抱き上げられない
⑤本人や子供が病気のときに病院に行けない
⑥授業参観などでは、移動を先生や参加している父母に支援してもらう
①移動では、介護タクシーを使用し、自室から病院玄関までの送迎介助をしてもらう
②家事では、宅配サービスを使用する
③電動ベッドをレンタルする。
④電動昇降椅子を利用し、車椅子から床に一人で移る(赤ちゃんを床から抱き上げれるように)
⑤自立支援法や自治体のサービス:
自立支援法にて授乳、沐浴、子供が病気の際に病院につれていくサービスの利用
産前産後ヘルパー、産褥サポート、個人保育、シルバー人材センターの利用
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脊髄損傷などで両足の運動麻痺があると、自動車運転においてアクセル・ブレーキ操作が困難になります。
自動車の改造により、手でアクセル・ブレーキを操作できるようにすることも可能です。
「手動運転装置」 と呼ばれ、一般的には乗降性を考慮し、右ハンドルの場合はハンドルの左に設置し、左手で操作を行います。
「手動運転装置」は、操作部を前方へ押すとブレーキ、 後方へ引くとアクセル操作が出来るようになっています。
様々な商品があるため、自分に合ったものを選択します。
前途した手動運転装置は、自家用車に取り付けるものですが、「ハンドコントロール」は車の種類を選ばず取り付けが可能です。
そのため、自家用車、レンタカー、家族の自動車などに取り付け可能となっています。
最大のメリットは、旅行先で、レンタカーを借りても、自分で運転することが可能なことです。
重さも約900gと持ち運びも負担が少ないことが特徴です。
取り付け工事は不要で、自己にて取り付けや取り外しが行え、5分程度で可能です。
押してブレーキ、引いてアクセル操作となっています。
ウインカーは元々設置しているもので操作を行います。
片手によるハンドル操作となるため、旋回装置(旋回ノブ)を用いると、ハンドル操作をスムーズに行うことが可能です。
値段は108,000円(税込)で、保証期間は1年間となっています。
今までの手動運転装置が20万から数十万円していたことと比べると、かなり安い値段設定になっています。
一部地域では、自動車改造の補助金が受け取れます(住んでいる地域の福祉課に確認必要)。
関西では、大阪福祉車輌株式会社、ココロ・ウェルカーサポート(輝自動車工業株式会社)が取り扱いをしています。
ニコ・ドライブ|下肢障害者の自動車手動運転補助装置|よくあるご質問(Q&A)|ニコ・ドライブ
1分でわかるハンドコントロール
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ハンドコントロールで運転してみた。~光岡自動車 ライクT3編~
今まで手動運転装置付きの自家用車で旅行に行っていた場合、疲労などを考慮して遠方に行けなかったのが、新幹線や飛行機などを利用し、遠方まで行っても、そこからレンタカーにハンドコントロールを取り付けることで、自分の運転で好きな観光地を回ることができます。
飛行機や新幹線を利用することで移動の負担も軽減されるかもしれません。
左ハンドルの車にも取り付け可能なことから、海外の輸入車の運転も可能です。
普通の試乗車に「ハンドコントロール」を取り付けば、最新の車の試運転も可能になります。
車検などで代車を使うときに、手動運転装置付きの代車を探さなくても良いというメリットもあります。