脊髄損傷のレベルと運動麻痺、自律神経・排尿排便障害、褥瘡、痛みへの対応などについてまとめていきたいと思います。
目次
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池田 篤志「褥瘡予防と対応」CLINICAL REHABILITATION Vol.26 No.5 2017.5
美津島 隆「自律神経障害への対応」CLINICAL REHABILITATION Vol.26 No.5 2017.5
栗田 英明ら「不全型脊髄損傷に伴う痛み・異常感覚と理学療法」PTジャーナル・第43巻第3号・2009年3月
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頸髄損傷では両上下、体幹に麻痺があり、四肢麻痺と呼びます。
胸髄損傷では上肢は正常で、体幹、下肢が麻痺します。
腰髄損傷では両下肢が麻痺します。
上肢が正常で、体幹や両下肢が麻痺した状態を対麻痺と呼びます。
完全麻痺:
運動も感覚もあるレベル以下で完全に左右とも麻痺している状態。
不全麻痺:
損傷部位以下でわずかに、あるいはかなり運動や感覚が残って随意的に動かせたり、感覚を感じれる状態。
完全麻痺か不全麻痺かの決定には、脊髄ショック期から離脱した時点での検査が重要です。
不全損傷診断の根拠として、仙髄節残存の神経学的兆候があります。
①肛門周囲の感覚温存
②足指の底屈が可能
③肛門括約筋の随意収縮がある
脊髄のどのレベルの損傷でも、この3つのうち、1つでも認められれば不全損傷であり、麻痺の回復の可能性があります。
脊髄が損傷を受けたとき、頭側から見てどの高さ(レベル)までが機能的に残存しているかにより診断を下します。
機能的に見て、脊髄機能が正常である最下位の髄節が麻痺レベルの呼び方になります。
感覚では、C5では上腕外側部の感覚は正常で、C6レベルの感覚(前腕母指側と母指)が感覚を感じ取れません。
もちろん、C6以下の運動、感覚は麻痺が生じます。
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異所性骨化は、本来なら存在しない部位に、新たな骨が形成されたものです。
異所性骨化において成熟した骨は、正常の骨と同様にハーバース管と骨皮質、骨髄腔などがあります。
異所性骨化の発生率には報告者により大きくことなります。
異所性骨化に注意が向いているとX線検査により発見されやすいですが、小さな異所性骨化はADLに支障をきたさないことも多く、X線チェックが行われないこともあります。
異所性骨化の発生メカニズムは、
脊髄損傷は自律神経障害を伴っており、さらに長期臥床と麻痺筋の自動運動の不能により、患側の浮腫、うっ血が起きて、組織の異栄養(酸素の少ない静脈血で栄養される)、結合組織の増加、およびカルシウム沈着の条件が伴うことにより骨の異常形成につながるとされています。
頸髄損傷のリハビリテーション
とされています。
異所性骨化は股関節、膝関節、肩関節、肘関節、足関節などに発生します。
股関節では腸腰筋、内転筋、坐骨結節に、膝関節では内側広筋、大腿四頭筋、膝蓋靱帯などに、肘関節では内顆部、外顆部、上腕三頭筋の尺骨頭付近などが代表的です。
脊髄損傷受傷後1〜6ヶ月の間で、平均2ヶ月くらいに多く発生するとされています。
大多数は2年以内に出現します。
胸髄損傷よりも頸髄損傷、不全麻痺より完全麻痺の方が発生率が高くなっています。
関節周囲や局所的な熱感、腫脹、発赤が出現します。
鑑別として、蜂窩織炎、血栓性静脈炎、化膿性関節炎、骨髄炎、骨腫瘍、尿路感染症などがあります。
上記症状が消失すると、関節周囲の皮下に硬い塊を触れるようになり、徐々に関節の運動制限が生じてきます。
異所性骨化の診断には、X線、血液生化学検査、RI骨シンチグラム、CTスキャンなどが行われます。
異所性骨化の治療では、薬物療法、運動療法、手術療法が行われます。
運動療法では、異所性骨化が大きくなると関節可動域の制限が生じるため、愛護的な関節可動域運動に努めます。
また、機能が残存している関節運動をもとにADL動作が行えるようにしていきます。
手術療法では、異所性骨化が関節運動を阻害している場合には切除を行います。
骨が未成熟な時期に切除すると、再形成を促すことがあるため、骨の成熟(通常出現から1〜2年以上)を待ちます。
骨切除後の再発予防のため、骨代謝改善薬を服用し、関節の腫脹消失後に徐々に愛護的な関節運動を開始します。
脊髄損傷初期の過度な関節運動を避け、異所性骨化を誘発しないようにすることが大切です。
関節周囲の熱感、腫脹、違和感があれば、検査を行います。
そのため、セラピストは日頃から症状に注意をしておく必要があります。
異所性骨化発見後は、強い関節運動は避け、軽い運動を行うようにします。
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拘縮は、関節外の腱、筋肉、靭帯、神経、皮膚などの軟部組織の柔軟性や伸縮性が失われた状態です。
脊髄損傷では、筋肉の不動による局所循環不全と浮腫、過度な訓練での関節周囲の小出血と細胞浸潤、不良肢位での固定や放置などが原因となります。
関節の周囲に繊維素と結合織が増殖して柔軟性を次第に失い、関節裂隙が狭くなり関節の屈曲、伸展が不良となり拘縮となります。
さらに進行すると関節内圧が高まり、関節軟骨が変性して結合織が増殖して関節が動きにくくなります。
一般的には、関節を3〜4週間前後固定したままにすると拘縮が発生します。
頸髄損傷のリハビリテーション
関節固定以外の誘因として
・弛緩性麻痺での上下肢の重さ、体位、寝具の重さ
・痙性麻痺での筋緊張亢進による筋短縮
・麻痺・非麻痺筋の筋力不均衡
・痛みによる逃避肢位による筋肉の拘縮
・筋以外の関節周囲の軟部組織の炎症や異所性骨化、関節自体の変性
があります。
C4:肩甲骨挙上拘縮
C5:肩外転拘縮、肘屈曲位拘縮
C6:肘屈曲位拘縮、回外拘縮、手関節背屈位拘縮、手指屈曲位拘縮
C7:手指伸展位拘縮
下肢:股関節屈曲・内転拘縮、膝関節屈曲拘縮、足関節内反・底屈拘縮、足指屈曲拘縮
C4:呼吸補助筋の僧帽筋や胸鎖乳突筋がスムーズに働かず、肺活量が減少する
C5:整容動作が自立→部分介助へ、更衣は部分介助→全介助となる
C6:更衣、移乗動作自立→部分介助へ、車椅子駆動はやや不自由になる
C7:更衣動作自立→部分介助になる
股関節や膝関節、体幹の拘縮もADLに支障をきたします。
中心型の麻痺では、中高年者で元々の筋力が低下しているところで上肢の拘縮が生じると、すべてのADLに影響を及ぼします。
保存療法が原則になります。
物理療法:
健常部では関節・筋肉の局所血流改善や代謝改善として、ホットパックや低周波、超音波を用います。
麻痺域では冷却療法を10〜15分行います。
温熱療法の場合、熱傷に注意します。
運動療法:
物理療法と併用します。
四肢麻痺では生理的関節運動内で動かします。
痙性がある場合、拮抗筋を刺激しないように軽い運動から行います。
手術療法:
関節授動術、切腱術、腱延長術などがあります。
他動運動と伸張運動により、浮腫改善と拘縮予防を行います。
過度な関節運動は異所性骨化を引き起こすことがあるため注意が必要です。
関節可動域訓練は各関節を全可動域に渡り5〜10回、全体で10〜15分、1日1回は最低限行います。
愛護的に、末梢から中枢へ行います。
装具を用いる場合、手関節背屈位、手指軽度屈曲、母指掌側対立位の保持のためにスプリントを使用することがあります。
感覚障害がある皮膚では、内面にクッション材を用いることで対処します。
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脊髄損傷者において、麻痺した手をベッド上に置くことには注意が必要です。
ベッド上に、手掌を上にして置くと、手関節は中間位、MP関節は伸展位、PIP・DIP関節は屈曲位となります。
親指は重力により手掌と同一平面上にあり、手掌のアーチは失われます。
手掌を下にして置くと、手掌のアーチは失われ、親指は手掌の横に来ます。
深指屈筋、浅指屈筋の腱は引っ張られ、PIP・DIP関節は屈曲します。
指先の位置に伴い、MP関節は過伸展します。
指の間はだんだんと広がらなくなります。
このような状態が続くと拘縮が起こります。
MP関節は過伸展となり屈曲しにくくなります。
PIP・MP関節は屈曲拘縮となり、伸展ができなくなります。
深指屈筋や浅指屈筋は引き延ばされて弾力を失います。
手の拘縮を防ぐための関節可動域訓練と、手の良肢位保持が必要です。
手関節やや背屈、MP・IP関節屈曲位とします。
動的腱固定効果(ダイナミック・テノデーシス効果)とは、手関節を背屈することにより自然と指が曲がる動きをさします。
これは、手関節背屈により深指屈筋、浅指屈筋の距離が長くなり、結果として筋肉がついている指の先端が引きつけられます。
また、重力の作用で指が垂れ下がります。
それにより、MP・PIP・DIP関節は屈曲し、物の把持が可能になります。
母指も同様で、手関節背屈により側方つまみが可能になります。
C6頸髄損傷者では、手関節背屈は可能ですが、手指の筋収縮が行えないため、テノデーシスを利用して物品の把持を行います。
実用的で機能的な手のためには、関節拘縮を予防し、腱が適当な長さを保ち、手関節背屈時に手指が曲がり緊張が保たれる必要があります。
C6、C7機能レベルのROM訓練では、テノデーシスを助長できるようにします。
手指屈曲時には手関節を背屈し、手指伸展時には手関節を屈曲します。
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脊髄損傷における褥瘡発生率は、若年者のほうが優位に高く、四肢麻痺よりも対麻痺のほうが優位に高いとされており、手術が必要な褥瘡を発生した割合も対麻痺のほうが高いとされています(後期脊損データベースより)。
このことから、若くて比較的自由に動くことができる対象者が重度の褥瘡を発生する傾向にあると言えます。
Spinal Cord Injury Pressure Ulcer Scale(SCIPUSスケール)は、日本褥瘡学会ガイドラインにおいて発生予測として推奨度C1となっています。
15項目から構成され、各項目の点数に応じ計25点で評価します。
褥瘡発生リスクは、2点以下は低い、3〜5点は中等度、6〜8点で高い、9点以上でとても高いとなっています。
評価項目の「尿失禁または常時湿潤」の項目に加え、便失禁にも注意する必要があります。
便失禁があると、褥瘡発生リスクが22倍高くなるとの報告があります。
「自律神経失調または重度な痙縮」の項目がありますが、弛緩性麻痺では筋委縮から骨突出部における褥瘡発生リスクが高くなります。
認知機能では、認知症だけでなく、精神疾患や知的障害など、本人自ら褥瘡予防ができるかどうかを把握します。
1.活動レベル 0:歩行 1:車椅子 4:ベッド
2.可動性 0:可能 1:限界あり 3:不動
3.完全脊髄損傷 0:いいえ 1:はい
4.尿失禁または常時湿潤 0:いいえ 1:はい
5.自律神経失調または重度な痙縮 0:いいえ 1:はい
6.年齢(歳) 0:≦34 1:35〜64 2:65≧
7.喫煙 0:なし 1:以前あり 3:現在あり
8.呼吸器疾患 0:いいえ 2:はい
9.心疾患または心電図 0:いいえ 1:はい
10.糖尿病または血糖値≧110mg/dl 0:いいえ 1:はい
11.腎疾患 0:いいえ 1:はい
12.認知機能障害 0:いいえ 1:はい
13.ナーシングホームまたは病院 0:いいえ 2:はい
14.アルブミン<3.4g/dlまたは総蛋白<6.4g/dl 0:いいえ 1:はい
15.ヘマトクリット<36.0%(ヘモグロビン<12.0g/dl) 0:いいえ 1:はい
後期脊損データベースでは、肺疾患、肝疾患との関連があり、心疾患や腎疾患、糖尿病との関連がなかったとなっており、前期脊損データベースでも肝疾患の関連はあり、低アルブミン血漿との関連が考えられます。
日本、アメリカのデータベースからは、尾仙骨部が最も多い部位となっています。
高位頸髄損傷では肩の痛みにより側臥位をとることが困難なことが多く、車イス主体の生活により股関節伸展制限が生じ、臥位にて仙骨部への負担が大きくなる傾向にあります。
座位にて仙骨座りだと、尾仙骨部の褥瘡発生率が高くなります。
ウレタンマットレス使用環境では、長座位、ギャッジアップ75°姿勢にて尾仙骨部に当たる周辺のへたりが大きくなったとの報告があります。
臀部褥瘡では、肛囲皮膚炎やオムツかぶれ、白癬症などの皮膚疾患と褥瘡の混在パターンがみられることがあります。
脊髄損傷者の仙骨部皮膚血流は、急性期では加重時の血流が非加重時と比べ低下しているとの報告があります。
また、麻痺部の微小循環圧が健常者と比較し有意に低いとの報告もあり、血管運動障害による褥瘡発生リスクが高まります。
そのため、弾性ストッキングや装具、尿道留置カテーテルや点滴チューブ、生地の硬いズボンのしわも褥瘡発生リスクを高めます。
損傷レベルにより生じやすい関節拘縮の肢位があります。
C4:肩甲骨挙上位
C5:肩甲骨挙上位、肩関節外転位、肘関節屈曲位、前腕回外位
C6:肩関節外転外旋位、肘関節屈曲位、前腕回外位、手関節背屈位、手指屈曲位、
C7:手指伸展位
長期の車椅子生活では、股関節伸展制限により腹臥位姿勢をとることが困難になる傾向があります。
大腿筋膜張筋や縫工筋の短縮では、膝屈曲位では股関節を閉じれても、膝伸展位では股関節外転位をとり、ベッド上での安楽姿勢をとれないこともあります。
足部内反尖足があると車椅子のフレームに下腿外側があたり、褥瘡発生につながることがあります。ハムストリングスの拘縮は仙骨座りを悪化させ、尾仙骨部の褥瘡発生率を高めます。
高位損傷では、ある程度の関節拘縮が動きの単純化を促し、動作獲得につながることもあり、ROM訓練の調整をします。
脊髄損傷者では、感覚障害により皮膚の異常に気づかないことも多く、また麻痺領域の痛みがわかるとの自覚があっても、正確には侵害受容を把握していないこともあるため注意が必要です。
日常生活上では、長時間の同一姿勢、坂道などの車椅子駆動、座位での移動や方向転換、高低差のある移乗動作などを行うと、坐骨や尾骨などに圧縮応力や摩擦、剪断ストレスが加わり、軟部組織がダメージを受けることになります。
動作は自立していても、動作の質が悪いと大きなダメージを受けやすくなります。
座位をとる場所は車椅子やベッド上だけでなく、トイレや風呂など、様々な機会があり、褥瘡予防の教育が大切になります。
基本戦略は除圧をいかに行うかになります。
急性期では褥瘡発生予防を第一に考え、回復期や生活期では褥瘡予防と動作の自立の両方から福祉用具の選択を行う必要があります。
マットレス:
褥瘡予防効果が高い製品(商品名:ロンボケアマットレス)と低い製品(商品名:クレーターマットレス)で健常者によるプッシュアップでの手の沈み込み量を比較した研究では、予防効果の高い製品では約20〜30mm程度大きく、手の置き方は手を開いた状態よりも握り込んだ状態では20〜30mm大きかったとの報告があります。
このような差は、ベッド上の座位移動やベッド-車椅子間の移乗動作自立に関係すると考えられます。
沈み込みの小さいマットレスを使用するのであれば、滑りやすいシーツやズボンなどを利用することも必要になるかもしれません。
車椅子、クッション:
車椅子姿勢では、座面が平坦なほど姿勢の崩れが起こりやすくなり、座角をつけた方が安定します。
頚髄損傷者では、座角があると車椅子座面上での移動が困難となることがあり、移乗動作の自立を妨げることがあります。
自動車運転では、車内への車椅子の積み込みを自分で行うのであれば重量も考慮する必要があります。
バックレストの高さはある程度必要で、不十分だと臀部に加えて胸腰椎部にも褥瘡や滑液包炎が発生しやすくなります。
肥満によりスカートガードに大腿部が接触することで褥瘡が発生する可能性もあります。
高位頚髄損傷者では、起立性低血圧との関連から座位変換型の車椅子(ティルト式、リクライニング式)が必要になります。
リクライニング式はバックサポートのみが傾斜するため、仙骨座り傾向になりやすく、自力での除圧ができずに残留ずれ力・圧が残ったままになりやすい特徴があります。
痙縮による身体のずれや、リクライニング操作により自力での電動操作ができない場合もあります。
一方、ティルト式では同じ姿勢が続くことで関節拘縮を生じやすいデメリットもあります。
車椅子用クッションは体圧分散できるものや剪断力防止効果の高いものが選択されることが多いです。
空気調整機構付きのクッションではゲルやウレタンと比較し座位が不安定になりやすいため、初期から対象者導入しておかないと使用を希望しないようなことも考えられます。
座位安定性を考慮した形状のクッションも製品もあり、車椅子の条件が悪くてもある程度対応が可能になっています。
ロホクッションはバルブが一つの平坦なタイプに加え、大腿部と坐骨結節の空気量が個別調整できる2バルブタイプのものや、複数のバルブによりエリアごとに空気量が調整できるものまで様々なものがあります。
トイレ環境:
便座前方に座る場合、便座にはまり込むような姿勢となり、転子部後面や尾仙骨部に圧迫や局所の剪断力が大きくかかります。
座面が低すぎると膝が持ち上がり、さらに臀部のはまり込みが起こりやすくなります。
便座後方に座る場合、坐骨部に圧が集中しやすくなります。
便座移乗の際やズボン着脱の際、臀部の摩擦や剪断力に注意し、便座用クッションの使用も必要と考えられます。
温便座は熱傷や局所の軟部組織の障害を引き起こすこともあるため使用しないほうがよいとされています。
入浴環境:
入浴動作にて安全性を考慮すると滑りにくいマット(褥瘡には良くない)が必要となります。
浴槽用マットレスではないですが、パシフィックサプライ社のエアレックスマットレスは適度な弾力性、滑りにくさ、水への強さが備わっているといえます。
浴室での座位移動をできるか限り行わない環境設定も必要となります。
リハビリテーションでは、退院後に褥瘡が発生しないように、初期から将来を見据えた環境設定や動作指導が必要になります。
また、褥瘡が発生したとしても、発生の誘因の確認とリスク評価を行い、必要以上安静しないようにし、廃用症候群を防ぐようにすることが大切になります。
排尿障害があると細菌尿となっている場合が多く、尿失禁は蒸れの問題だけではなく局所の感染リスクを高めることとなる。
池田 篤志「褥瘡予防と対応」CLINICAL REHABILITATION Vol.26 No.5 2017.5
排便時間は胸腰髄損傷者では20〜90分(平均38.8分)、頚髄損傷者で10〜90分(平均48.2分)との報告があり、排便を短時間で行えるように内服薬、坐剤、浣腸などの調整が重要となります。
失禁が少なければオムツからパンツに変更し、局所的な蒸れを抑えれますが、排便反射が消失している場合、坐剤や浣腸の反応が悪いことがあります。
日本褥瘡学会ガイドラインでは、自分で姿勢変換が行える場合、15分ごとに姿勢変換を行ってよいとありますが(推奨度C1)、明確なエビデンスはありません。
数秒〜数十秒のプッシュアップでは除圧には不十分で、坐骨部の組織還流が改善するほどの除圧効果がないことがわかっています。
評価では通常の車椅子座位姿勢に加え、前屈姿勢や側屈姿勢、フットレストから足を投げ出した姿勢、足を組んだ姿勢などの除圧効果も評価する必要があります。
また評価結果から、除圧効果の高い姿勢を行うよう指導する必要もあります。
座圧測定で接触圧に問題がなくても褥瘡を発生する者もいるため注意が必要になります。
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褥瘡予防対策としては、以下のようなものがあります。
①特殊マットの使用
②定期的な体位交換
③尿・便失禁による皮膚汚染や湿潤を避ける
④小枕の使用
⑤体重チェック、食事量の確認、採血による栄養状態の確認
局所的な圧迫、応力には、体圧分散マットレスかエアーマットなどの特殊マットを使用します。
特殊マットを用いても、定期的な体位交換や褥瘡の確認は必要になります。
自動で体位変換できるマットもありますが、適切な体位とならないこともあるため、体位確認や小枕を使用する必要があります。
マットに敷くシーツは、しわや尿による湿潤が褥瘡を発生させる要因になることがあるため注意が必要です。
局所的な圧迫や応力への対策に必要です。
背臥位、左右側臥位、腹臥位の4つの体位があります。
急性期では腹臥位は不可能な場合が多いです。
体位交換は2〜3時間ごとに行うとよいとされています。
体位変換時に、褥瘡発生の有無を確認することが望ましいです。
尿・便失禁は褥瘡発生の要因となりえます。
便失禁をさせないために、排便表による排便状況の確認を行います。
骨突出部の圧迫を予防するために、小枕(スポンジが詰まったもの)を用いて圧迫予防を行います。
体位により小枕の位置を調整します。
全身状態の悪さは、褥瘡発生のリスクを高めます。
体重、食事量、採血による総タンパク、アルブミンなどを確認します。
内科疾患の既往も確認しながら、適切な治療を行います。
褥瘡予防では、全身観察が非常に重要です。
褥瘡好発部位の少しの赤みも見逃さないようにすれば、褥瘡発生は回避可能です。
褥瘡の状態の分類にはNPUAP(National Pressure Ulcer Advisory Panel)があります。
分類 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ |
説明 | 圧迫が関連した(表皮が欠損していない)皮膚の変性。 周囲皮膚または反対皮膚と比較して示される以下の一つ以上の変化。皮膚温(暖かい、または冷たい)組織密度(硬いまたは泥のような感じ)知覚(痛み、搔痒)ステージⅠの褥瘡は、皮膚の色によって異なるので、白い皮膚の場合は持続する赤色の、黒い皮膚の場合は持続する赤色、青または紫色の色調変化として出現する場合もある。 |
部分層創傷で皮膚の損傷は表面的である。表皮剥離、水疱、浅い潰瘍の状態。 | 筋膜まで及ぶが筋膜を越えない皮下組織に至る全層創傷で組織の壊死や損傷を含む。 深さのあるクレーターポケットがみられることもある。 |
皮膚全層の欠損に加え、広範な組織壊死、壊死、さらに筋肉、骨、支持組織に及ぶ、ポケットの形成や広範囲な空洞がみられる。 |
この分類のⅠ度も見逃さないようにすれば、褥瘡発生の回避が行えます。
万一、Ⅰ度の褥瘡が発生しても、この段階であれば除圧と簡単な褥瘡被覆剤のみで治療が可能です。
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食物は消化されて小腸から大腸に送られます。
はじめは水分を含んでいますが、大腸を通るうちに水分が吸収されて固まった便となります。
腸の壁の中には壁内神経叢があり、さらに副交感神経と交感神経があります。
副交感神経は迷走神経(脳神経)と仙髄(S2〜4)からの骨盤神経が分布しています。
交感神経は胸腰髄(Th10〜L2)から出ます。
腸の運動は副交感神経と交感神経の調整により、壁内神経叢の働きで行われます。
1日1、2回大蠕動という大腸の運動が起こり、便は直腸に運ばれます。
便が直腸内に移動しその内圧が上昇すると、刺激が骨盤神経を介して脊髄に入り、脳に伝達され便意を感じます。
肛門には内肛門括約筋と外肛門括約筋があります。
内肛門括約筋:
平滑筋。交感神経の働きで持続的に収縮している。
外肛門括約筋:
横紋筋。体性神経(陰部神経)の働きで意識的に収縮・弛緩できる。
便が直腸に下りると、反射により内肛門括約筋が弛緩します(直腸肛門抑制反射)が、外肛門括約筋の収縮により便を保持します。
便排出時は、意識的に外肛門括約筋を弛緩させ肛門を緩め、さらに自律神経の働きで直腸が収縮し、意識的にも腹圧を高めて排便します。
脊髄損傷では脳による意識的な排便コントロールができなくなります。
意識的に外肛門括約筋を働かせることができなくなり、腹圧もかにくくなります。
便意も感じにくくなります。
損傷部位より下の脊髄反射残るので、外肛門括約筋は痙性に収縮します。
そのため便の保持はできますが、排便が難しくなります。
直腸収縮や腹圧上昇により外肛門括約筋がさらに収縮する「肛門直腸協調不全」が多く見られます。
直腸粘膜を指や坐薬などで刺激することにより、大腸の蠕動運動が誘発され、内肛門括約筋と外肛門括約筋が反射的に弛緩し、排便反射が起きます。
外肛門括約筋がうまく弛緩しないと反射排便は困難になります。
急性期では腸管運動の低下し、便が硬くなり、便秘になります。
慢性期でも便秘が起こります。
壁内神経叢の働きにより腸の運動は保たれますが、運動リズムに変化があり、便の通過時間が長くなります。
大腸では壁の緊張が高くなり、便が大腸を通過する時間が長くなり便秘になります。
便秘が続くと宿便と呼ばれる状態になります。
自律神経による反射で頭痛、動悸、発汗などを「代償便意」として感じることが可能です。
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正常の排尿は、膀胱と尿道が強調して働きます。
これは、大脳のコントロールにより脳幹部の橋排尿中枢と脊髄反射により行われます。
排尿に関わる神経は、副交感神経、交感神経、体性神経の3種類があります。
副交感神経、体性神経の脊髄中枢は仙髄(S2〜S4)にあります。
交感神経の脊髄中枢は胸腰髄(Th10〜L2)にあります。
交感神経、体性神経:
膀胱に尿をためている時に、膀胱を弛緩させ、膀胱の出口や外尿道括約筋を収縮させます。
副交感神経:
尿を排出するときに、橋排尿中枢からの指令で膀胱収縮、膀胱の出口や外尿道括約筋を弛緩させ開きます。
尿意は骨盤神経を通り脊髄に入り脳に伝えられます。
脊髄損傷では、脳幹部と脊髄中枢をつなぐ経路が切れ、脳で考えて排尿をコントロールすることができなくなります。
また尿意も脳に伝わらなくなります。
新しい脊髄反射ができます。
正常の場合より細い神経線維によって尿意が伝えられるようになり、仙髄の副交感神経中枢を直接興奮させて、膀胱に尿がたまると自動的に膀胱の収縮を起こすようになります(排尿筋過活動)。
このため、反射排尿が可能になりますが、この膀胱収縮は持続しないことが多く、しばしば残尿が見られます。
また、体性神経中枢も一緒に興奮させて、膀胱収縮と同時に外尿道括約筋が収縮する排尿筋外尿道括約筋協調不全が起きることが多くなります。
頸髄損傷のリハビリテーション
外尿道括約筋の収縮は、膀胱の出口が開かないため、スムーズな排尿ができなくなります。
膀胱内圧も上昇するため、膀胱壁損傷により腎障害が生じることがあります。
前途したように、尿意を伝える神経が遮断されるため、膀胱が尿で充満しても尿意がなくなります。
尿がたまると、自律神経の反射により、血圧上昇や首から上部の発汗、寒気、頭痛を感じ、それを「代償尿意」として利用できます。
脊髄ショック期では排尿神経の麻痺により膀胱が収縮せず、尿が出なくなります。
外尿道筋も働きません。
尿が溜まり過ぎると、尿毒症になる可能性があり、尿道にカテーテルを入れるようにします。
また数時間ごとの導尿も行います。
慢性期では多くの場合反射的に排尿が起こります。
反射性排尿は、尿が一定以上にたまると反射的に尿が出る現象です。
自分ではコントロールができません。
失禁が起こる時期は受傷後3ヶ月から1年くらいで、以後続きます。
尿漏れは受傷からの経過期間によりますが、一般に200〜300mlたまると漏れることが多いようです。
尿失禁の一方、尿の出にくさも起こります。
膀胱の筋肉は収縮しますが、外尿道括約筋が開かないためです。
これを「利尿筋括約筋協調不全」といいます。
尿がたまったままだと自律神経過反射が起こり、血圧上昇、寒気や発汗、頭痛や動悸が起こります。
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自律神経過反射は、一般的に第5、6胸髄以上の高位脊髄損傷でみられる自律神経障害をさします。
具体的な症状は、麻痺域への侵害刺激に対し、収縮期血圧が20-30mmHg上昇することになります。
発症機序としては,急性期の脊髄ショック期から亜急性期において、損傷レベル以下の遠位性交感神経と脊髄の間の反射弓が,上位中枢のコントロール から逸脱することによるといわれている.
すなわち, 麻痺域に対する侵害刺激に対して交感神経が興奮状態になり,麻痺域の血管が収縮するが,脊髄の損傷によって,麻痺域からの侵害情報が中枢まで伝達されないため上位中枢からの血圧調節ができず,残存脊髄との間の反射弓が強調され,さらに血圧が上昇する.
美津島 隆「自律神経障害への対応」CLINICAL REHABILITATION Vol.26 No.5 2017.5
侵害刺激の原因は損傷レベル以下の皮膚や筋、内臓等への刺激で、主に膀胱や直腸等の充満によることが多い傾向にあります。
侵害刺激に対し、損傷レベル以下の皮膚、筋、腎、腹部内臓などを支配する交感神経の過剰に興奮により、その部位の血管が収縮し、時には300mmHgを超えるような血圧上昇がみられることがあります。
心拍数では、一般的に心臓に向かう交感神経はは第5、6胸髄以上の脊髄より出ているため、 血圧上昇の反応として、徐脈となる場合が多い傾向にあります。
しかし損傷部位によっては、頻脈(心臓に向かう交感神経が損傷部位より低位から出ている場合)となることもあります。
損傷レベル以上の領域では、血管拡張に伴う顔面紅潮、発汗、皮膚温の上昇、鼻閉等が認められます。
発汗はコリン作動性交感神経の過活動によるもので、頭痛も頭蓋内動脈拡張の結果といされています。
脊髄損傷後の脊髄内の交感神経ニューロンや求心路が変化により、心循環器系異常や過反射を誘発しているという報告もあります。
末梢血管で交感神経系の受容体(α受容体)の感受性の変化を指摘する報告もあります。
過反射の発生頻度はの完全四肢麻痺では発症率91%に達します。
過反射を放置すると、脳内出血や網膜剥離、てんかん発作など死に至る合併症を生じさせる可能性があります。
高位完全脊髄損傷者では自律神経過反射によるリスクの認識が重要となります。
過反射が起こった場合、過反射を誘発している侵害刺激の除去が必要になります。
過反射の誘因のうち、膀胱または直腸の充満が過反射の85%を占めるとされており、尿閉により膀胱に尿がたまりすぎていたり、便秘により直腸に糞便がたまりすぎている等です。
状況に応じて間欠的無菌的導尿や留置カテーテルの挿入、摘便等を行い、原因除去を行えば症状改善に向かうことが多くあります。
一方で、処置自体が膀胱、直腸への刺激となり、 過反射を逆に誘発させてしまうこともあります。
患者が臥位であれば座位をとらせます。
これは、体を起こすことでわざと起立性低血圧を誘発させ血圧を低下させます。
体を締め付ける衣服等を緩めることは、損傷レベル以下の血管床に血液を貯留させることと、損傷レベル以下からの感覚刺激を軽減させることを目的としています。
症状が落ち着くまでは、少なくとも5分おきに血圧を測定を行います。
収縮期圧が成人で150mmHg以上(青年では140mmHg以上)、6-12歳で130mmHg以上、6歳以下は120mmHg以上が続けば、降圧薬を用いることもあります。
原因がすぐにわからない場合、血圧を下げる目的で降圧薬を用いることもあります。
薬物以外の方法を行っても収縮期血圧150mmHgを超える場合、降圧薬が適応されます。
起立性低血圧は起立位3分以内に収縮期血圧の低下が20mmHg以上,あるいは拡張期血圧の低下が10mmHg以上認められた場合と定義される.
美津島 隆「自律神経障害への対応」CLINICAL REHABILITATION Vol.26 No.5 2017.5
脊髄損傷後の急性期では、起立性低血圧はよくにみられ、四肢麻痺では82%、対麻痺では50%に発生するとされています。
原因は脊髄障害による遠位性交感神経活動レベルの低下、それに伴う反射性の末梢血管収縮の欠如です。
交感神経活動の障害のため下肢末梢血管収縮反応が不十分となり, 麻痺域以下に血液が過剰に貯留され,静脈還流量が減少した状態となる.
さらに,運動麻痺により下肢骨格筋の収縮による筋ポンプ作用が期待でき ないことである.
これにより,心臓に還流されてくる血液量が減少するため,拡張末期心室容積も減少し,Frank-Starlingの法則により,一回心拍出量の低下をまねく.
その場合, 健常者では心拍数を増加させることで血圧を維持しようとするが, 特に第5, 6胸髄レベル以上の高位脊髄損傷者の場合,損傷による交感神経系の障害のため徐脈に なることが多く, 心拍数の増加による代償が不十分であり,心拍出量が減少してしまう.
この結果,血圧の低下をもたらし,脳血流の低下を招き,起立性低血圧に伴う諸症状を引き起こすことになる.
美津島 隆「自律神経障害への対応」CLINICAL REHABILITATION Vol.26 No.5 2017.5
最近では、遠位性交感神経活動の障害による末梢血管収縮不全の他に、末梢血管自体にも問題があるされています。
最近では、脊髄損傷者では、一酸化窒素が末梢血管において過剰分泌されている可能性が示唆されれています。
そのため末梢血管に血液貯留が起こり、血圧低下をきたすことになります。
他にも要因としては、脊髄損傷により腎への交感神経が断たれ、腎交感神経活動に障害をきたすと、腎血流量増加によりNa利尿がつき,Naが排泄されます。
結果として細胞 外液の低下、低Na血症となり起立性低血圧が起こりやすくなります。
長期臥床による圧受容体の感度の障害等も原因となりえます。
薬物と薬物以外の治療があります。
薬物以外の治療法としては、 腹帯、弾性ストッキングの利用、FES (functional electrical stimulation)、運動、水分と塩分の摂取等による体液量の調整等があります。
腹帯や下肢弾性ストッキングは、立位時に血液が貯留しやすい腹部血管床や下肢に対し、外部から圧迫を加えて静脈還流量を増加させ、血圧を上昇させます。
腹帯のみでは心循環器系にほとんど影響がないとの報告があります。
また長期装着による効果や装着期間などについてもほとんどエビデンスはありません。
FESは下肢血管周囲筋を一定時間毎に収縮させることで、筋ポンプ活発により静脈還流を増加させる方法です。
randomized controlled studyでは,起立ストレスに対して心循環応答の変化を最小限にする有力な治療法であると報告されている.
美津島 隆「自律神経障害への対応」CLINICAL REHABILITATION Vol.26 No.5 2017.5
下肢の運動は自動運動、他動運動いずれの場合でも起立に伴う中心静脈量の減少を補う効果が認められています。
脊髄損傷患者の起立性低血圧に対する運動の効果については,四肢麻痺者における上肢の運動では,座位に対する耐性はないのに対し,下肢の受動的な運動では血圧が上昇したという報告がある .
また水分と塩分の摂取による体液量の調節につ いての効果は,細胞外液量を増加させ,座位に対する耐性を高めることにある.脊髄損傷以外の起 立性低血圧には効果があるとされているのだが, 脊髄損傷者の起立性低血圧に対する単独の治療法 としてはまだ十分なエビデンスが得られていない.
美津島 隆「自律神経障害への対応」CLINICAL REHABILITATION Vol.26 No.5 2017.5
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脊髄損傷者の痛みには、侵害受容性疼痛と神経因性疼痛の2つに分けられます。
侵害受容性疼痛は筋骨格系に生じる痛みと内臓痛に分けられます。
神経因性疼痛は損傷髄節レベルよりも上位、損傷髄節レベル、損傷髄節レベルよりも下位レベルに分けられます。
筋骨格系の痛みは脊柱の不安定性からくるものや、使いすぎによる上肢の痛み、痙縮による痛みなどがあります。
内臓痛は排尿、排便時の腹部の痛みや、自律神経過反射による頭痛などがあります。
神経因性疼痛で、損傷髄節レベルよりも上位の痛みでは、手根管症候群などの末梢神経による痛みと複合性局所疼痛症候群(CRPS)があります。
損傷髄節レベルの痛みでは、神経根の痛みと脊髄由来の痛みがあります。
損傷髄節レベルよりも下位レベルの痛みでは、脊髄由来の痛みがあります。
神経因性疼痛を求心路遮断痛とそれ以外に分けることが重要とされています。
求心路遮断痛は、
正常な痛覚求心路、主に脊髄視床路系が、その伝導路のいずれかのレベルで遮断された結果として生じる痛みである。
栗田 英明ら「不全型脊髄損傷に伴う痛み・異常感覚と理学療法」PTジャーナル・第43巻第3号・2009年3月
とあります。
求心路遮断痛の臨床的特徴には以下のようなものがあります。
①脊髄視床路系の遮断:
損傷髄節レベル以下での温痛覚鈍麻がみられる
②遮断されたレベルよりも口に近い側の脊髄視床路系の活動過敏
損傷髄節レベル以下で異常な自発痛がある
③脊髄後索内側毛帯系の痛み抑制機能が失われる
損傷髄節レベル以下での誘発痛がある
求心路遮断痛はさらに2つに分けられます。
神経根を含むそれよりも末梢での障害の場合(馬尾損傷、神経引き抜き損傷など)と、脊髄後角を含むそれよりも中枢側での障害の場合(脊髄損傷後の痛み、視床痛など)です。
損傷髄節レベルより上位に起こる痛みは、一般的な疼痛の問題と考えます。
損傷髄節レベルでの帯状の痛みは脊髄後角由来の痛みとされています。
損傷髄節レベルより下位の痛みは脊髄視床路や精髄網様体路由来の痛みとされています。
①Wind-up現象
可塑的現象のひとつで、C繊維に低頻度の刺激を行うと脊髄後角レベルの深層の細胞の応答が徐々に増え、発火頻度が高くなる現象です。
刺激をやめても発火の持続が確認されています。
皮膚に痛み刺激を繰り返した際の痛みの強さが徐々に大きくなる反応と似ています。
②軸索発芽
座骨神経を切断したラットで、非侵害性感覚情報を伝えるAβ繊維が軸索発芽を起こすことが確認されています。
Aβ繊維は脊髄後角の第Ⅲ層以下に終末しますが、損傷により軸索発芽を起こし、第Ⅱ層の膠様質に侵入します。
このことは、触刺激が痛みを誘発するアロディニアの発生機序と関連があると考えられています。
③Ephase形成
末梢神経の損傷では、近くの交感神経が神経突起を作り、C繊維との間に架橋(Ephase)を作ります。
Ephaseが形成されると、交感神経は常に発火している状態となり、慢性疼痛を感じることになります。
④長期増強、長期抑制
長期増強は、海馬でシナプスが長期間増強する現象で確認されます。
ラットの実験では、海馬でみられる長期増強が、脊髄膠様質細胞でも誘発されるとの報告があります。
長期増強は、脊髄後根で頻回刺激を行った後に、興奮性シナプス後電位の振幅増大が数時間以上持続することから、痛覚過敏などの病的状態の発生原因となる可能性がある。
栗田 英明ら「不全型脊髄損傷に伴う痛み・異常感覚と理学療法」PTジャーナル・第43巻第3号・2009年3月
長期抑制は低頻度でAδ繊維を刺激すると誘発されるとされています。
しかし、これがどのような症状と関係あるかはわかっていません。
⑤下行性痛覚抑制機構の可塑的変化
下行性痛覚抑制機構では、痛みを選択的に抑制しています。
卵巣摘出ラットでの神経繊維終末のセロトニン受容体数は変化なく、C繊維終末のセロトニン受容体数が減少したとの報告があります。
このことは、C繊維に対する下行性痛覚抑制機構の機能低下が起こり、伝達物質放出の抑制がされなくなり、知覚過敏の原因になる可能性があると考えられています。
⑥中枢神経系の可塑的変化
髄節レベルよりも下位に痛みを有する患者では、正常な感覚入力がなされない視床の活動が亢進し、その視床部
は異上感覚を引き起こしているとの報告があります。
神経因性疼痛患者では、視床や内包に電気刺激を入力すると痛みを感じ、時に痛みを再現することもあるとされています。
健常者ではそのようなことは滅多にみられないことから、視床における可塑的変化が関与していると考えられます。
①経皮的電気刺激療法(TENS)
有効性は不確かとされています。
筋の痛みや損傷髄節に起こる痛みには効果を認めることもありますが、損傷髄節レベルよりも下位レベルの痛みでは効果がないとの報告があります。
②運動療法
慢性痛から活動量低下が起こり、廃用症候群を起こしていることがあります。
そのような場合、運動療法により廃用症候群を改善す必要があります。
これが、心理的側面の関与による痛みの影響を少なくすることにつながると考えられます。
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