脊髄損傷者の基本動作では、対象車の状態により適した方法が選択されます。リハビリ訓練では、やみくもに訓練を行うだけではなかなか上達にはつながらず、動作のコツを対象者に伝え、感じてもらうことが大切です。
目次
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寝返り動作では、腕をいかに効率よく使用するかが動作のポイントになります。
特に肩関節・肩甲帯・脊柱の可動域を保つことは重要で、可動域が不十分な場合、しっかりとストレッチをすることで、動作の改善につながることが考えられます。
また、ハムストリングの柔軟性は正常可動域以上に保っておく必要があります。
痙性があると、腕と足のスムーズな動きを妨げることがあります。痙性予防には、物理療法やストレッチが有効になります。
脊髄損傷では、全体的に体の柔軟性が失われていくことがあるので、とくに初期からのストレッチは大切な訓練要素になります。
動作の開始前に、まくらがあると頸部の動きを妨げてしまうため、枕は外しておきます。
動きの中で足が開いてしまうと動きがスムーズでなくなるために、足は閉じておきます。
腕は肘関節をしっかりと伸ばし、肩関節90°上げた付近でで強く水平方向で内側と外側に位置させます。
寝返る側から反動をつけることで、肩甲帯が床から浮き上がり、しっかりと反動をつけやすい姿勢になります。
2回分反動をつけて行うということになります。
繰り返しの動作によりパワーとスピードを寝返るエネルギーに変えていく作戦になります。
肩関節90°上げた状態から斜め上方向に大きく腕を振ります。
頸部は曲げ、寝返る側に回旋させます(下図は寝返る前。その後頸部を回旋していきます。)。
肩甲骨の突き出し(プロトラクション)により、腕の振り幅を伸ばすことが可能です。また、この動きにより背中が寝返りに適した形状になり、床面を転がりやすくなります。
肩甲骨の突き出しは、脊髄損傷に関わらず、どの方でも寝返りに必要な要素です。
理学療法士の石井先生は、寝返りに重要なことは腕のリーチングだ!と言っていたくらいです。
床面寸前で上肢の振りを止めることで、大胸筋の作用で上体が引き寄せられます。そのため、床面には接触させないようにすることがポイントです。
一度で寝返りができなくても、その力を利用して反対側に腕を振ることで、さらに反動がつき寝返りしやすくなります。
上記のポイントに従い、何度もチャレンジすること、あきらめない姿勢が重要です。
*胸腰髄損傷者、肘を伸ばすことが可能な頚髄損傷者が適応となる動作です。
*上肢に重りを巻いたり、足を交差(寝返り方向の下肢が下)させることで、動作のタイミングがつかみやすくなります。
*腕を振る力が弱い場合、十分な肩甲帯・体幹の柔軟性が必要になります。
*肩甲骨外転(プロトラクション)の練習も必要になります。
逆に、肩甲骨プロトラクションをしっかりと練習することで、寝返り動作につながることがあります。
ベッド上での寝返りは、体の除圧時やズボン着脱の際に行います。
除圧を自分でできることは脊髄損傷者にとって非常に重要です。
除圧ができない場合、褥瘡発生のリスクを高めてしまいます。
ベッドではマットレスのクッション性により動きを邪魔してしまうことがあるので、訓練室というよりは実際の病棟の環境で練習することが大切になります。
除圧やズボンの着脱を考えると、両側に行えることが望ましい動作になります。
寝返りできるスペースを空けておきます。
背臥位で肩関節内転・外旋させ、ベッド柵上部に前腕回外位(上腕二頭筋が一番働きやすい位置となり、力が入りやすくなる)で手のひらから前腕をかけます。
ベッド柵にかけた肘関節を、手のひらが頭に近づくように曲げて、体をベッド柵の方向に回旋させます。
体を回旋し、反対側の腕を同じように、手のひらをベッド柵にかけます。
腕の力により体を引きつけ、骨盤、足を回転させ、寝返ります。
ゆっくり引きつけても骨盤は回転しにくいので、ある程度の勢いは必要だと思われます。
*肘関節を曲げる筋力が強ければ可能な動作となります。
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寝返って横向き(側臥位)になり、下側の腕を頭の下に入れます。
頭部を上方に浮かせ、移動させながら、肘で床を強く押し、上体を起こしていきます。
肘にかかっている体重を反対側の手に移動させていき、肘関節の位置を足の方向へ移動させます。
肘関節が伸ばせない方では、寝返りが困難なことが多くなります。
胸腰髄損傷者、肘を伸ばす動きが難しい頚髄損傷者もこの方法で起き上がることができ、肘が伸ばせるのでああれば、腕での体重移動を伴わないで肘を伸ばせるため動作が行いやすくなります。
臀部の下やポケットに手を入れて固定します。肩甲骨をあらかじめ頭方向に引き上げておき、肘関節をできるだけ頭側に位置させます。
肘関節を曲げることで、上部体幹を起こします。
両肘関節ポケットから出し、移動させ、肘立て位となります。
片方の腕を反動をつけて肘を伸ばし、その状態で肘関節を保持させます(肩関節内転したまま外旋させます)。
伸展した上肢を体幹後方で体の真ん中に近い位置に移動させ、反対側の肘関節にかかっている体重を減らします。反対側の腕に反動をつけ、肘関節を伸ばした状態で保持させます。
・両腕を移動させながら、長座位になっていきます。
*この方法では肩関節の関節可動域が必要で、高齢者や女性の場合、肩を痛めるリスクが高く怪我につながることがあるため注意を要します。
*伸ばした腕を体幹後方の体の真ん中に移動させるには、肩関節伸展、水平外転、肩甲骨内転の可動域が必要です。
そのため、可動域が不十分な場合はしっかりとストレッチを行う必要があります。
*体幹屈曲の可動域が十分であれば、動作が行いやすくなります。
*上肢の筋力に左右差がある場合、力が弱い側から腕を伸ばさせることで、動作が行いやすくなります。
臀部の下やポケットに手を入れて固定します。肩甲帯をあらかじめ頭側に近づけておき、肘関節をできるだけ頭側に位置させます。
肘立て位になるまでは先ほどの過程と同じ方法をとります。
肘関節屈曲させ、上部体幹を起こします。
両肘関節を移動させ、肘立て位となります。
寝返る側の肘に体重をかけ、反対側の腕の反動で寝返ります。
・頭をゆっくりと床につけ、下側の腕と肘をロックし、足側へ頭部、体幹を移動させます。
このとき、肩関節外転45°以下程度に押し(痛みを引き起こさないため)、多きく円を描くように移動します。
太もも裏からふくらはぎにかけて腕を足を引きつけ、反対側の肘関節にロックをかけ、床を押し、長座位となります。
*ハムストリング、肩関節の柔軟性が必要になります。
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脊髄損傷、特に頚髄損傷者で完全麻痺の場合、腹筋や背筋などの体幹筋を使用しての座位保持が困難です。
そのため、脊椎椎間関節での骨によるロッキングや、靭帯によるロッキングにより、麻痺域の上に乗った非麻痺域(上肢、肩甲帯、頭頸部)の位置調整を行い重心をコントロールして座位保持を行います。
座位安定には脊柱の適度な後弯姿勢も大切で、そのための脊柱や下肢の柔軟性を保つ必要があります。
Nomal(正常):正常な安定した座位可能。体を押しても立ち直り可能。
Good(優):ある程度、体を押しても座位保持可能。体幹の回旋可能。
Fair(良):上肢を前方挙上しても座位保持可能。体の押しに不安定。
Poor(可):座位保持可能。上肢前方挙上不能。体の押しに抵抗不能。
Trace(不可):安定した座位不能。ごく短時間のみ可能。
Zero(なし):全く座位不能。
体幹と下肢の可動域、柔軟性は、どちらかが過剰に大きくなることは、他の可動域や柔軟性を阻害する可能性があります。
そのため、体幹・下肢の柔軟性と座位バランスの双方を考慮していく必要があります。
体幹筋は麻痺しており、脊椎の骨、靭帯などに支持により座位を保ちます。
座位バランス不良例では、ハムストリングの伸長を120°程度にしておくと座位バランスが良好になることがあります。
C8,胸髄上位(Th7より上位)レベル
体幹が円背傾向で仙骨部で座面を受けることになり、仙骨座りにならないように注意します。
できる限り体幹筋を機能させ、動的バランスを促していきます。
座位バランス練習は、長座位から始め、良好になれば端座位で行います。
長座位の練習段階
①両上肢を前側方(大腿中部外側)につき、上肢は外旋回外位で肘関節を伸展位でロックします。
②上肢支持を中央に寄せていき、手を大腿部に乗せます。
③上肢を片方ずつ挙上し、最終的に両上肢を前方挙上させます。
起き上がりやいざり動作の準備として、両上肢を後方で支持させる訓練も行います。
④上肢の保護伸展活動の練習を行います。
セラピストは対象者の前方で上肢を保持し、そこから片方ずつ前方、側方、後方へ向けて手をつく練習を行います。
次に両上肢同時に手をつけるようにします。
⑤動的な練習につなげるには、ボール保持やボールパスを行います。
*上肢の支持性が弱い場合、下肢の間にボールを置き姿勢保持を行います。
端座位の練習
・座位バランスの状態により、セラピストは体幹・肩甲帯の支持の場所を変えていきます(肩甲帯→胸部→腰部)。
・手をつく際、手関節は背屈位、上肢は外旋位にすると、肘関節を伸展位で固定しやすくなります。
・両上肢を伸展位保持しながら、肩をすくめることで前方への重心移動を学習します。
・安定した姿勢から徐々に後方に手を移動し、体幹を後傾させ重心移動を学習します。
*端座位では、腕の屈伸ではなく肩の挙上、下制にて制御します。
・円背が強い場合、頭部伸に対して抵抗をかけ、僧帽筋や固有背筋を働きを促します。
座位バランスが比較的良い場合
座位バランスが比較的良い場合、端座位においても両上肢を上げてフリーにできることもあるかと思います。
そのような場合、風船を打ち合ったりすることで、動的なバランス能力を向上させていきます。
また、左右や回旋を伴うリーチを行うことで、体幹制御の学習を促していきます。
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プッシュアップ動作では人間の体を空中に持ち上げるので、上肢の筋力とともに、肩甲骨の運動が大切になります。
肩甲骨は上肢を支える土台であり、その可動域や筋力を発揮してこそ、上肢の筋力も効率よく発揮することが可能になります。
プッシュアップ動作の遂行には、筋力、関節可動域が必要で、姿勢を保持しながら動作を遂行できるバランス能力も必要になります。
プッシュアップには4つの相があり、それに分けて練習することで、動作のイメージが理解しやすくなります。
①上肢への体重移動
②殿部浮上
③殿部押し上げ
④殿部下降
・このレベルでは、重心を臀部から上肢(手掌)側に移動するために、体幹の前傾が必要になります。
・上腕三頭筋の筋力により肘関節を伸展を保持し、頸部や体幹の屈曲を伴います。
*長座位でのプッシュアップでは、前鋸筋による肩甲骨外転を利用できるため、その練習を行います(腹臥位、on elbowsで練習すると運動感覚がつかみやすい)。
*頸部、体幹の柔軟性、股関節屈曲(SLR)は100°以上を目標にします。
普段からのストレッチは重要なため、プッシュアップに必要な要素を知り、その部分をストレッチしていきます。
C6レベル以上
・このレベルでは、重心を臀部から上肢(手掌)側に移動するために、できるだけ臀部を上肢側に移動させます。
・肘関節伸展を保持し、肩甲骨下制、内転、頸部・体幹伸展を伴います。
*骨盤前傾位をとりやすい端座位で練習を行います。
*長座位でのプッシュアップでは、肩甲骨下制、内転を意識するための練習を行います(腹臥位、on elbowsで練習すると運動感覚がつかみやすい)
C7レベル以下とC6レベル以上では、行う方法に違いがあります。
不全麻痺の場合もあるかと思いますが、その場合対象者の評価を行い、どの程度の動作能力があるかを予想し、適切な動作方法を見つけていきます。
・上腕三頭筋の筋力により肘関節伸展位を保持します。
・前鋸筋による肩甲骨外転を中心に、前下方向へのプッシングを行います。
・大胸筋や広背筋による同時収縮を意識させます。
意識させるには、声かけや意識してほしい部分を触るなどを行います。
・広背筋による骨盤起始部への引き付けを意識させます。
意識させるには、声かけや意識してほしい部分を触るなどを行います。
*セラピストは肘屈曲の代償を防ぐようにします。
C6レベル以上
・前下方にプッシングしますが、体幹、上肢が前に傾かないように、三角筋前・中部線維を意識しながら肩関節を保持します。
・頸部屈曲の動きにより、両側肩関節を軸にして肩甲骨の前方回転を行います。
・僧帽筋下部線維の張力によって、骨盤が浮上します。
*セラピストは肘のロックが外れないように肩関節外旋を補助します。
練習初期ではセラピストは介助を行い臀部挙上の経験をさせ、プッシュアップのイメージを定着させます。
・臀部を後方に押し上げるのに、三角筋前部線維などによる肩関節屈曲の反作用(肩が屈曲すると、バランスをとるために同じ大きさで反対方向の運動が生じる)を利用します。
・上腕三頭筋の筋力による肘関節伸展位、前鋸筋の筋力による肩甲骨外転を保持します。
・体幹前傾増し、大胸筋や広背筋の同時収縮を意識します。
意識させるには、声かけや意識してほしい部分を触るなどを行います。
・広背筋による骨盤起始部への引き付けを意識させます。
意識させるには、声かけや意識してほしい部分を触るなどを行います。
*臀部をしっかりと押し上げるには体幹の前傾が重要で、バランスを保持しながら行えるかどうかが重要になります。
C6レベル以上
・前下方へのプッシングの意識を継続し、三角筋前部線維などによる肩関節屈曲の反作用を利用します。
・この際上肢が前に倒れないように肩関節の軸の位置を保ちます。
・骨盤は、振り子のように後上方に押し上げられます。
*骨盤を上げた状態での保持は難しく、肩甲骨前方回転による遠心力で骨盤を持ち上げます。
・上腕三頭筋により肘関節伸展位を保持します。
・筋の遠心性収縮を用いて、ゆっくりと臀部を下ろします。
C6レベル以上
・前下方へのプッシングは意識したままにし、肩甲骨や肩関節の力を抜くことで、臀部を後方に着地させます。
*プッシュアップ動作終了段階で、肘関節を屈曲させて臀部を下ろす動作は避けるようにします。
これは、移乗動作移行時に前方への倒れこみが起こりやすくなってしまうからです。
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側方移乗は、ベッドに対して車椅子を真横につけておこなう方法です。
脊髄損傷者だけでなく、様々な方々がおこなう方法でもあります。
脊髄損傷者にとって側方移乗は、ベッドへの乗り移りだけではなく、車への乗り移りにも関わるため、獲得しておきたい動作になります。
脊髄損傷では、損傷部位にもよりますが、多くの方が手足の麻痺や感覚障害を抱えています。
麻痺があると自分が思うように体が動かないために、動作練習においてもなかなか上達しないという焦りや歯がゆさを感じてしまいます。
そのため、セラピストは移乗動作に必要な動作のポイントを伝えるとともに、対象者に焦る必要がない(徐々に上達していく)ことをわかってもらう必要があります。
側方移乗では、ベッドに対しての車椅子の置く位置がポイントになります。
ベッドに対しては角度を斜め約30度とします。
乗り移る際に車椅子の前方に体重がかかり、後輪が浮くことを防ぐために、以下のことにも気をつけます。
バックして車椅子を斜めにつけることで、車椅子の前輪が進行方向と逆向きになり、車椅子の安定につながります。
手の置く位置、置き方によって、移乗動作が格段に安定します。
まず、力源を生むためには、片方の手を車椅子の前方のパイプでしっかりと握ります。
そして、ベッドにつくては指をしっかり開き(支持面が広く安定する)、手首をしっかりとそらせて置きます。
手を置く距離ですが、自分のお尻分の幅を開けておくと、行いやすいことが多いです。
手首の損傷をさけるためにも、はじめは手首を反った(背屈)状態でおこなう方がベターです。
移乗の際に、足はどうすればよいのかも、対象者の状態により異なります。
車椅子の足置きを上げて足を床につける方法がオーソドックスです。
ベッド側の足だけ足置きに乗せる場合、ベッドと車椅子の高さが異なる場合にメリットがあります。
両足を足置きに乗せる場合、足の痙性が高く、足が伸びる傾向にあるときに用いられます。
ただし、足を乗せたままの方法では、プッシュアップ動作が正確に行えないと車椅子が動いてしまい転倒のリスクが高まってしまいます。
移乗を行うとときに痙性により膝が伸びる、曲がるなどが見られる場合、転倒リスクが高まるため注意します。
移乗動作では靴を履いて行わないと、足の外傷を招く危険性があります。
足のかかとをベッドの方向に向けておくことで、お尻の回転がスムーズに行いやすくなります。足の回転が妨げられると、回転不足により動作が完了できません。
移乗動作において一番大切なポイントになります。
動作前に体を前にずらしておくことで、アームレストに体がひっかっかることがなくなり、動作が行いやすくなります。
プッシュアップを行う際には、パイプを持つ側の肘の曲がりを強めすぎないようにします。
肘が曲がりすぎていると、肩甲骨下制が出にくくなり、また広背筋や大胸筋といった、体幹の前後から安定性に関与する筋肉が働きにくくなるためです。
体幹前屈は20〜30程度であれば許しますが、これ以上大きくなると危険になるため注意します。
体幹前屈の目安については、
肩峰から床に下ろした垂線が膝より前方に出ないことである。
脊髄損傷理学療法マニュアル
となっています。
側方移乗で、一度で殿部がベッドに乗らないのであれば動作を2度行うことで完了できるようにします。
この場合、殿部が車椅子のパイプに乗ってしまう恐れがあり、外傷などにつながりやすくなるため注意が必要です。
これを防ぐにはパイプ部分にタオルを巻いたりすることで防ぐことが多少は可能になります。
プッシュアップが不十分であればトランスファーボードを使用すると、殿部を滑らせながら移乗動作が行えるため、動作が完了しやすくなります。
トランスファーボードには、殿部に差し込んで使用するタイプと、アームレスト部分に金具で引っ掛けるタイプなど、様々なものがあります。
対象者と試行錯誤を繰り返しながら、最も安全で効率の良い動作方法を習得していく必要があります。
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脊髄損傷者の移乗動作には、直角移乗、側方移乗があります。
脊髄損傷では同じ機能レベルでも、年齢、性別、運動歴、筋力、関節可動域、痙性、体型、体力、バランス学習能力、恐怖心・不安感などにより個人差があります。
対象者の状態を見極めながら動作練習をおこなっていく必要があります。
直角移乗は以下のような移乗方法です(あくまでイメージ)。
出典:http://arizono.co.jp/wp-content/uploads/2017/10/transfar02.pdf
直角移乗では、車いすをベッドに対して30cm程度あけてアプローチします。
これは、下肢をベッド上に乗せる際に下肢を持ち上げるためです。
間が狭すぎると、足が引っかかる恐れがあります。
足を引っ掛けると、足に傷ができてしまうことがあるため注意が必要です。
足を上げる前段階として、殿部を前方にずらす必要があります。
殿部を前方にずらすことで、体幹が後方に倒れにくくなり、足の挙上が行いやすくなります。
また殿部が前方にあることで、移動距離が少なくてすみます。
片側ずつ交互にずらす
片方の腕ををグリップにかけ、体幹を固定するポイントを作り、バランスを保ちやすくします。
反対側の体幹を回旋、伸展させながら殿部を前方にずらします。
両側を同時にずらす
両肘を屈曲、手関節背屈させアームレストに引っ掛け固定します。
体幹を伸展させ殿部を前方にずらします。
*体幹を伸展させる動作は恐怖感を伴うので、開始時は片側ずつ交互にずらす方法から始めることが推奨されています。
一気にずらすと恐怖感を伴うので、ゆっくりとずらすことで恐怖感を減らしながら動作を行うことができます。
片方の腕をグリップにかけ、体幹の固定をつくり、バランスが保ちやすいようにします。
反対側の手首を膝下に入れ、肘を曲げ、手関節背屈させながら足を持ち上げます。
引き上げた足を反対側の足に乗せ(足組動作:股関節屈曲、外転、外旋の可動域が必要)、靴の着脱を行う。
足組動作が行えない場合、しっかりとストレッチを行う必要があります。
足がベッドに乗ったら、足を伸ばしベッド上に乗せ、反対側の足も同様に行います。
*手関節背屈が不十分な場合、足上げループを前足部にひっかけ上肢で持ち上げます。
ベッドに足が乗ったら、車椅子をベッドにできる限り近づけます。
両側肩関節伸展、肘を伸ばした状態で保持し、ハンドリムを押して体幹を前屈します。
殿部の位置が進めば、手の位置をハンドリムやアームレスト、ベッド上などに置き換えプッシュアップしていきます。
長座位で体幹を前屈させ、手での押し出しにより動作開始し、プッシュアップにより殿部を前方移動させます。
後方移動ではお尻が浮いた側の肩を後方に引く動作をリズムよく行い殿部を移動させます。
*SLR(仰向けで、膝を伸ばして股関節を曲げる動作)は約100°が理想です。
SLRが100°未満だと、骨盤後傾により代償的に体幹、膝関節が大きく曲がり、座位バランスが崩れるほか、足とマットとの摩擦抵抗が強くなってしまいます。
*体幹前屈位をとると、座位が安定しプッシュアップ動作が行いやすくなります。
*ベッドから車いすの後方移動では、ベッド側を少し高くすることで重力を利用します。
・頭を受けるためのブロック(ウレタン製、1辺が20〜30cm程度)を使用します
プッシュアップ能力が低い場合、殿部が車いすとベッドの間から落ちてしまう危険性があるため、トランスファーボードを使用することがあります。
出典:http://arizono.co.jp/wp-content/uploads/2017/10/transfar02.pdf
通常のトランスファーボードを殿部に差し込み行う場合もあります。
ベッドにすべり布(スライディングシート)を設置すると、さらに行いやすくなります。
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この動作では中高年の女性胸腰髄損傷者も適応とされる動作です。
まずは、床に移るための準備としてお尻を前方に移動させる必要があります。
そのためには、体を左右に回す動きなどを利用しながら、少しずつ体を移動させていきます。
前方にお尻が移動しすぎると滑り落ちてしまう恐怖感も強くなるため、後方の介助バーに片腕をかけるなどして体を安定させた状態で行うと安心感が得られます。
次に足を下ろしていきますが、この時は後方の介助バーに腕をかけて行う必要があります。
介助バーに腕をかけて体幹を安定させながら、もう一方の手で太ももの裏側から手を通して足を操作し、ふくらはぎの後ろから足を前方に押し出し、膝関節を伸ばすようにします。
膝関節を伸ばすのを誘発するのに、膝関節の上から強く押したり、太ももの前面を軽く叩いたりしながら、伸展の痙性を促すようにします。
殿部を下ろしていく動作では、背もたれにしっかりともたれこみながら、アームレストや後輪に手をかけて引くことで、お尻を滑らせるように降りていきます。
このとき、膝関節が曲がってしまうとブレーキがかかり、体が滑らなくなってしまうため、膝関節は伸びた状態のままで動作が行えるように注意します。
そのまま滑り下ろしていくと、足置きの上にお尻が乗ることで滑るのにブレーキがかかりお尻の移動が止まります。
最後に、プッシュアップ動作によりお尻を床に移動させて動作を完了します。
*動作における注意点としては、ゆっくりと滑り降りることで恐怖感が少なく動作が行えます。
そのためには、後ろの背もたれにしっかりと倒れ込むことで、背中と背もたれとの摩擦が大きくなりブレーキがかかりながらすべっていけるため、ゆっくりと動作を行うことができます。
床から車椅子への移乗では、肘を伸ばす筋力がしっかりしている男性の頸髄損傷者では行うことができる動作になります。
まず、長座位となり車椅子に対して体を横に向けます。
床についている手でしっかりと体を支えながら、車椅子に近い側の足を曲げ、かかととお尻が接触するまで足を曲げます。
これにより、お尻を上げる動作が行いやすくなります。
次にお尻を上げていきますが、体重を前に移動させることで曲げた側の足に体重をかけていきます。
これによりお尻をあげるのに引きあげる力が少なく動作ができるようになります。
片方の手は床に、もう一方の手は車椅子のパイプを持ち、頭を前に倒すようにしながらお尻を持ち上げていきます。
お尻が座面の上に乗ったら、さらにお尻を左右に振りながらお尻を奥に移動させていきます。
お尻がしっかりと座面に乗ったことを確認できたら、車椅子の左右のパイプを両手で持ち、腕を伸ばすことで体を起こしていくことで動作を完了させます。
*片足を曲げることでお尻は上がりやすくなりますが、それでもお尻をあげきれない場合、両足を曲げることでさらにお尻を上げやすくなります。
しかし、この状態では体のバランスを保つことが難しくなるため、転倒のリスクが高まります。
また、足が開かないようにベルトで足に巻くなどの対処が必要になります。
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いきなり床⇄車椅子の間で練習を行うことは恐怖感や不安感を伴いますし、なにより動作自体が大変なため、段階付けられた練習が必要になります。
まずは訓練室などのベッドに、高さ調節ができるベッドを使用し、20〜40cmの高さの移乗動作を行えるようにしていくと、よいかと思います。
また、プッシュアップ代を用いると動作が行いやすくなります。
この移乗動作を練習することで、腕の筋力向上や体幹でのバランス向上などが強化され、他の場面での動作においての向上が期待できるため、行うメリットは大きいといえます。
車椅子から床に降りるには、まず自分の体を車椅子の前方ギリギリにまで移動させる必要があります。
これは、車椅子前方のパイプを握り、プッシュアップをすることでお尻を浮かことで行います。
次に、足を床に下ろす動作が必要になります。
片方の手はパイプを握り、バランスを保持しながら、もう一方の手で両方の足を下ろし、膝関節をしっかりと伸ばした状態に位置させます。
そこから、片方の手を足を伝いながら、ゆっくりと床に手をつけるように下ろしていきます。
このとき、かなりの恐怖感があり、またバランス保持が必要なため、車椅子のパイプはしっかりと握っておく必要があります。
片方の手はパイプ、もう一方の手は床に手をついたまま、お尻を前方(または斜め前方)に移動させていきます。
お尻が車椅子の座面を離れる際に、膝が曲がっている状態だとうまく降りることができないため、膝はまっすぐ伸びているか確認する必要があります。
足を伸ばした状態で動作できるように、足の伸展の痙性を高める手技(膝関節を上から押さえつける、太ももの前面を軽く叩くなど)を用いると、膝の伸展が誘発されやすくなります。
*車椅子は、普通型のようなアームレストが高い位置にある構造では、パイプを持っても、うまく腕の力が発揮できないため、動作が行えません。
この場合に適しているのは、座面と同じ高さにパイプがあり、持つことができるタイプの車椅子になります。
*練習段階では、足の摩擦を減らすことで、動作がスムーズになり、運動感覚がつかみやすくなります。
この動作では、パワーのある男性の対象者が主に行うための方法になります。
そのため、腕の筋力がかなり必要になる動作です。
この動作を通して筋力強化を図ることも可能ですが、腕を痛めやすい動作でもあるため、対象者の状態を確認しながら行っていく必要があります。
まず、長座位になりますが、足は車椅子に対して斜め前方に位置させます。
足の向きにより腕の力の入りやすさが異なるため、対象者と確認しながら最適な位置を探していきます。
次にできる限り車椅子の近くに寄りパイプを持ち、もう一方の手は床で股関節のやや前方に位置させます(こちらも車椅子にできるだけ近い位置がよい)。
プッシュアップによりお尻を持ち上げていきますが、床についている手は体を支えるためにかなり強い筋力が必要になります。
うまくお尻を持ち上げるには、頭を足に近づける(前に倒す)イメージでお尻を後ろに振ることです。
この動きにより座面にお尻を乗せていきます。
このとき、なかなか自分のお尻がどのような位置にあるかが把握できず、車椅子にぶつけてしまうことがあるため、対象者自身で感じることと、それを助けるためにセラピストが的確にフィードバックすることが大切になります。
頭は床についている手の方向に倒します。
座面にお尻が乗ったら、お尻を左右に振りながら奥に座っていきます。
座面の奥までお尻が乗れば、床についている手を順次足から太ももまで上げていき、体を起こしていくことで動作が完了します。
*始めは20〜40cm程度の高さから行います。プッシュアップ台を用いることで動作が行いやすくなります。
*車椅子側の足を曲げておくことで、足への抵抗が軽減され、お尻を持ち上げやすくなります。
この動作では、あまり筋力がなくても動作が行える(プッシュアップでお尻を垂直に浮かすことができる程度の筋力は必要)ため、中高年者や女性が取り組みやすい動作です。
この動作では、車椅子の前輪を前向きにさせておく必要があります。
これにより、車椅子が前に倒れてこないようにする役割があります。
動作では、まず少し斜め前方から、片方の手は車椅子のパイプを持ち、もう片方は床について、プッシュアップすることでお尻を足置きに乗せます。
お尻が足置きに乗ったら、両手で左右それぞれのパイプを持ち、体のバランスを保ちながらお尻を持ち上げていき、座面の上に乗せていきます。
お尻を座面に乗せられない場合、後ろの背もたれに一度倒れこみ、持ち手を後輪やアームレストに持ち替えてお尻を引き上げます。
*お尻をうまく上げるには、できるのであれば両足を途中で足置きに乗せることで上がりやすくなります。
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