12月14日付の読売新聞朝刊に、通常よく行われている腹筋運動が腰を痛める原因になるとの記事が載っていました。腹筋運動は腰痛予防にも役立ちますが、それがかえって腰痛を促すことにつながっていたとしたらこわいものです。
目次
腹筋運動(上体起こし)を何度も繰り返すことで、腰痛を引き起こす原因になることがわかった。
腹筋運動には膝を伸ばす、伸ばさないものがあるが、どちらも脊椎が圧迫され、椎間板を痛めることがある。
バスケットボール界では上体起こしをやめさせる方向に向いている。
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人間の体は、四肢の働きにより様々な活動を行うことができますが、その土台となる体幹(骨盤含む)の安定性が保証されていないと、力強く、スムーズで協調的な動きは行えません。
その土台を作っているのがコアと呼ばれる部分で、インナーマッスルなどと呼ばれることもあります。
体幹部のインナーマッスルとしては、内腹斜筋、腹横筋などが知られています。
コアがしっかりと働いていることで、人は何か物事を行う前から体の準備を行うことができ、これを予測的姿勢制御と呼んでいます。
腕を伸ばす前や足を振り出す前には前もって体幹の深部にあるコアが働くことで、私たちの体は安定して動作の遂行ができるようになっています。
体幹筋のトレーニング(コアスタビリティトレーニング)は、そのような体幹部の安定性を向上させるトレーニングを行い、動きの安定やしなやかさを作るトレーニングになります。
一般的に行われる腹筋運動は、腹直筋と呼ばれる表層の筋肉を鍛えることになります。
俗に言う「シックスパック」というような、仮面ライダーのお腹が割れている状態を作り出すために必要な運動です。
腹直筋は、寝ている状態から起き上がるときにも必要な筋肉になります。
リハビリにおいては、MMT(徒手筋力検査法)と呼ばれる検査で、腹筋力を評価します。
MMTは6段階(Nomal(5)、Good(4)、Fair(3)、Poor(2)、Trace(1)、zero(0))で評価を行います。
仰向けで寝て、上体を起こしていくのですが、筋力が5の場合図のようになります(肩甲骨の下部が地面から浮いている)。
筋力が4の場合図のようになります(肩甲骨の下部が地面から浮いている)。
筋力が3の場合図のようになります(肩甲骨の下部が地面から浮いている)。
各段階の違いは、手の位置です。
手の位置が、段階5の場合は「頭の後ろ」にあり、段階4の場合は「胸の前」にあり、段階3の場合は「足の方に手を伸ばす」というようになっています。
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先ほどの検査において、肩甲骨の下部が地面から浮くという検査基準は同じでしたが、各段階においての違いは手の位置ということでした。
このことから、手の位置により腹筋運動の行いやすさが異なることになります。
腹筋運動では、頭がまず最初に動き出すのですが、手が動く方向と逆方向にあればあるほど、頭の動きを邪魔することになります。
これは、両手をバンザイした上体で腹筋運動を行うと、さらに難しさを感じることができると思います。
小島先生は、これを「反対の法則」と名付けています。
腹筋運動(上体起こし)が腰痛を引き起こすメカニズムとしては、
背骨の形状などによって個人差はあるが、力がかかった状態で腰を曲げ伸ばしするとヘルニアなどの障害が起きる。
読売新聞 2017年12月14日(木)朝刊
とあります。
椎間板ヘルニアは、
①椎間板突出
髄核が後方に移動し、椎間板が後方に飛び出す
②椎間板脱出
繊維輪が破れて髄核の一部が外に飛び出してくる
③椎間板塊遊離
繊維輪を突き破り、椎間板の組織が外に出て離れた状態となる
のように分けることができます。
椎間板ヘルニアでは繊維輪が裂けたことによる痛みだけでなく、飛び出した組織が背骨の後方にある脊髄神経の根元(神経根)を圧迫します。神経根は坐骨神経となるので神経の通り道に沿って痛みやしびれが出現します。坐骨神経は太もも裏から膝下へと通っており、神経圧迫が強くなると痛み、しびれから麻痺に進行していきます。
リハビリテーションなどで体幹筋力を鍛える際、腰痛疾患があるときに上体起こしを行うと、さらに別の腰部疾患を引き起こしてしまう恐れがあるため、上体を起こし、背中を丸めるような腹筋運動は行わないことが大切になります。
上体を起こし、背中を丸めることで椎間板に負担をかけることから、腹筋運動では背中を丸めないで行う方法をとります。
①腹筋が縮むことをイメージしながら力を入れます。
②背中を丸めず、胸を丸めるようにしながら、肩甲骨の下部が地面から浮くようにします。
図のような背中の状態が理想です。
手の位置はバンザイ→頭の後ろ→胸の前→足の方向の順に負荷が大きくなります。
なお、戻る時に肩甲骨下部から頭を地面につけきらず、再び行うことで負荷量を大きくすることが可能です。
10回1セットとし、10回で限界になるように調整しながら行い、3セット実施することで筋力向上が図れます。