リハビリテーションにおいて、筋力や筋持久力を高めるのは運動だけではありません。運動に加えて、栄養面の知識を持ち合わせることにより、その効果を高めることができます。今回、リハビリテーションにおける筋力・筋持久力とたんぱく質・アミノ酸についてまとめていきたいと思います。
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目次
PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養第2版栄養ケアがリハを変える
若林 秀隆 医歯薬出版 2015-04-01
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褥瘡予防・管理ガイドライン(第3版)http://www.jspu.org/jpn/info/pdf/guideline3.pdf
http://www.kkr-ta-hp.gr.jp/information/nmedical/pdf/care01.pdf
http://gakken-mesh.jp/info/wp-content/uploads/2011/03/1011_01.pdf
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筋力を向上させるためには、筋肉の中にあるたんぱく質を増やすことが重要になります。
たんぱく質は、普段の食事からしっかり摂ることがまずは第一に重要なことです。
患者さんの中には食事を全量食べれない、または好き嫌いのために食べない方がいますが、これでは理想的な栄養を摂取することができません。
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リハビリテーションにおける運動とたんぱく質に関しては、いくつか言われていることがあります。
リハビリテーションにおける運動の効果を高めるためには、たんぱく質・アミノ酸・糖の摂取が必要になります。
これは筋力向上における大原則です。
筋力向上を期待するための栄養摂取の仕方としては、運動を実施する前にアミノ酸やたんぱく質の摂取を行うことが大切だとされています。これにより、筋肉内のたんぱく質合成が促進されます。
また、たんぱく質+糖質を同時に摂取することにより、筋肉内のたんぱく質合成が促進されるとされています。
リハビリテーション場面ではあまり行われていないかもしれませんが、運動中に上記の栄養を摂取することで筋肉内たんぱく質合成が促進されるとも言われています。
運動の合間の休憩中にプロテインなどを摂取することも、今後はスタンダードになるのかもしれません。
これはよく知られていることですが、運動後(直後)のアミノ酸やたんぱく質の摂取が筋肉内たんぱく質合成を促進するとされています。
そのため栄養摂取も考慮すると、昼食前のリハビリテーションのような、スケジュール調整が必要になることもあるでしょう。
人間のエネルギー源はグリコーゲンです。そのため、持久力を発揮するには肝臓や筋肉内にグリコーゲンをしっかりと貯蔵することが必要になります。
貧血は全身持久力への影響が大きいとされており、貧血がある場合には鉄分やたんぱく質の摂取が重要になるとされています。
持久力が低下していると考えた場合に、鉄欠乏性貧血などが影響していないかを考慮する必要があるというのは知識として知っておく必要があるといえます。
グリコーゲンの合成を促進するには糖質摂取が重要とされており、特にクエン酸を摂取することもグリコーゲン合成に役立つことがわかっています。
運動前(3〜4時間前)に糖質、たんぱく質を多く含むものを摂取することで、グリコーゲンの貯蔵量が増加します。
運動では短時間であれば糖の補給は必要ありませんが、1時間以上の運動ではグリコーゲンの減少があるため、運動中の糖質摂取を行う方がよいです。
リハビリテーション場面ではあまり行われないかもしれませんが、運動前と運動中の栄養摂取は筋持久力向上において重要な因子となることが考えられます。
筋持久力が必要なスポーツにはマラソンなどが代表的です。
ランナーは、持久力向上のためにプロテインなどによるたんぱく質摂取を積極的に行っています。
タンパク質は糖と同時にとることで、筋肉の回復にも助けになります。
筋肉の損傷予防の為にタンパク質摂取をとることが推奨されています。
リハビリテーションとランナーでは運動強度やレベルが異なりますが、筋持久力向上という視点から考えると、たんぱく質摂取がいかに重要なのかを知ることができます。
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患者さんの話を聞いていると、朝の時間帯(特に起床後)は体が動きにくいということはよく耳にします。
起床後すぐは、脳も目覚めてはおらず、筋肉も運動の準備ができていない状態であり、身体機能としては1日の中でも最も低い状態にあるといえます。
関節リウマチの方では「朝のこわばり」ということもあり、起床後すぐは体が動きにくい状態といえます。
一般的に、起床後は動きずらい時間帯であり、その後徐々に動きやすくなっていきますが、最も身体機能が発揮されやすいのは午後から夕方にかけての時間帯だとされています。
そのため、身体機能が低下している患者さんの訓練を行う時間帯としては、午後から夕方にかけて行うことが良いと考えることができます。
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カタボリック(異化)は、体の組織が壊され分解されることをさします。
異化は、細胞が新しいものに入れ替わるのに必要な仕組みです。
アナボリック(同化)は、体の組織が新たに合成されることをさします。
同化>異化となると筋肉は増えます。
一方、同化<異化となれば筋肉は減少します。
起床時は前日食事を食べてからの時間が経っており、肝臓・筋肉内のグリコーゲンが減少しています。
朝食を食べることで、同化が促進されるのですが、朝の食事が満足して取れない場合には、グリコーゲンが貯蔵されないために、午前中の持久力が発揮されない状態になってしまいます。
栄養状態が悪い方においては、朝食の摂取状態も確認した上で訓練スケジュールを組むことが大切になります。
食事の摂取などにより血糖値が上昇すると、膵臓よりインスリンが分泌されます。
インスリンの作用は、糖質をそれぞれの組織に運ぶことですが、アミノ酸を筋肉に運ぶ作用も有しています。
インスリンが分泌されている最中は筋肉の合成が行われており、これはアナボリック(同化)になります。
食事直後は消化吸収のために内蔵血流量が増加しているため、運動には適さない時間帯といえます。
できれば、食後1〜3時間運動を控えることが望ましいとされています。
食後4〜5時間後には、血糖値低下を防ぐため、カタボリック(異化)状態になります。
すると、筋肉は減りやすい状態になります。
筋力や筋持久力を高めるには、たんぱく質、アミノ酸、糖質の摂取が重要になります。
よく、「運動後30分以内にたんぱく質を摂取しよう!」などとアドバイスをすることがあると思いますが、これにはわけがあります。
運動と食事タイミングには様々な研究があるようですが、運動後にアミノ酸あるいはたんぱく質の摂取をすることで筋肉のたんぱく質の合成が促進されるという報告があります。
このことから、運動後に食事をすることが大切だと言われているのです。
病院や施設の場合食事の時間は決まっているはずですから、訓練スケジュールを昼食前、夕食前などに行うことが大切になります。
また、前途したカタボリックの事を考慮すると、運動前にもアミノ酸やたんぱく質を摂取する事が重要になると考えられます。
そこに糖質を加えることでさらに筋肉のたんぱく質合成が促進されるといわれています。
筋持久力を考えると、肝臓・筋肉にグリコーゲンをしっかりと貯蔵することと、貧血予防をすることが大切になります。
運動前(3〜4時間前)に糖質、たんぱく質を多く含むものを摂取することで、グリコーゲンの貯蔵量が増加するとされています。。
長時間の運動では、グリコーゲンの低下が確認されるので、3単位(1時間)以上の運動では、運動中に栄養補給を行うことも必要になります。
運動後はなるべく早く食事をとるようにし、グリコーゲンの貯蔵を高めるようにします。
機能維持が目的であれば訓練時間を考慮する必要はなく、機能改善を目的とする低栄養状態の患者であれば、食前に訓練をおこなうようスケジュールした方がよいと思われます。
私は日頃プロテインを摂取していますが、リハビリ対象の患者さんにはプロテインは必要になるのでしょうか。
答えはわかりませんが、そのあたりは管理栄養士の方や医師と相談するのがよいのではないでしょうか。
プロテインは、アミノ酸スコア100のものが個人的にはオススメです。
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代謝の異化と同化について、
同化とは、生体内でエネルギーを用いて、糖質、脂質、蛋白質、核酸などを合成する過程で、細胞の成長やすべての組織、臓器の維持に必要である。同化がなければ筋肉などあらゆる生体構成成分を合成できず、生命として成立しない。
一方、異化とは、糖質、脂質、蛋白質などを分解して、エネルギーを得る過程である。
食事からエネルギーを得る過程も、生体構成成分を壊してエネルギーを得る過程も異化である。
PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養 P7
とあります。
異化と同化のバランスがとれていれば体重の変化はないことになります。
同化や異化の程度は、食事の摂取量や栄養状態によって異なります。
運動をせずに生体内に貯蔵できるのは脂肪とグリコーゲンであり、筋肉量を増やすには、蛋白質をとりながら運動も行う必要があります。
筋力トレーニングでは筋肉量の増加と蛋白の同化を目的としていますが、そのためにはアミノ酸(筋肉の原材料)とエネルギーが必要になります。
飢餓状態では、筋力トレーニングを行ってもアミノ酸やエネルギーを得るために筋肉の蛋白が分解されるため、筋肉量は増加せず、かえって減少することになります。
5大栄養素は糖質、脂質、蛋白質、ビタミン、ミネラルです。
糖質で重要なのはグルコースであり、脳での利用やグリコーゲン(貯蔵される糖質)の低下では持久力が低下するため、訓練前に食事でグリコーゲンの貯蔵が大切になります。
飢餓状態での筋肉量の減少には、栄養投与が必要となります。
脂質は過剰栄養で中性脂肪として体内に蓄積されますが、過剰な体脂肪はリハビリテーションの阻害因子となります。
蛋白質は筋肉で貯蔵され、飢餓や侵襲の際には筋肉の蛋白質を分解してアミノ酸が供給されます。
このときに筋力トレーニングを行うとさらに筋肉を壊すこととなります。
基礎エネルギー消費の1/3は筋肉で行われており、筋肉量の増加は消費エネルギーの増大につながら、太りにくい体質になります。
ミネラルの欠乏で筋力低下に関連するのは、カリウム、リンがあります。
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飢餓状態の代謝について、
短期の飢餓では肝臓のグリコーゲンと脂肪組織の脂肪の異化(分解)が行われる。
しかし、グリコーゲンは12〜24時間で枯渇するため、その後は筋肉や腸管の蛋白質の異化で生じた糖源性アミノ酸からグルコースが合成される(糖新生)。
長期の飢餓では、多くの組織がグルコースではなく、遊離脂肪酸から産生したケトン体からエネルギーを獲得する。
PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養 P11
とあります。
飢餓では体重減少によりエネルギー消費量が低下し、免疫機能低下や創傷治癒が遅れたり、臓器障害も起こり除脂肪体重の30%を失うと窒息死(餓死)に至ります。
このことから、同化よりも異化が優位の患者に筋力トレーニングを行うと逆効果となります。
侵襲時(手術、外傷、骨折、感染症、熱傷など)の代謝の変化について、
傷害気、異化期、同化期に分けられる。
傷害期は短いが、エネルギー消費量が低下する。異化期では筋肉の蛋白質や脂肪の異化で、治療反応への内因性エネルギーが供給される。
異化期では適切な栄養療法で一部、異化の抑制が可能である。一方、同化期では適切な栄養投与と運動療法の併用が必要である。
PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養 P12
とあります。
このことから、異化期に筋力トレーニングを行っても筋蛋白質は増加せず、この時期には安静などの二次的な合併症予防が大切です。
同化期では適切な栄養管理の元トレーニングを行うことにより、筋蛋白質は増加します。この時期は筋力や持久力の向上が大切になります。
侵襲時の筋肉の状態について、
侵襲時、ほとんどのアミノ酸は筋肉から供給される。
高度の侵襲では、1日250g以上のアミノ酸が供給される。
そのすべてが筋肉から供給される場合、1日1kg以上の筋肉量の減少となる。高度の侵襲後のリハでは、筋肉の喪失が著しいため、侵襲前の栄養状態が良好でも回復には時間を要する。
PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養 P12
とあります。
高度の侵襲ではエネルギーや蛋白質を投与しても、異化をすべて防ぐことはできません。
余分なエネルギーは脂肪となるため、体重が維持できていたとしても筋肉量が減っている分、脂肪が増えただけになります。
中等度の侵襲では、侵襲前の栄養状態が良好であれば筋力低下は軽度〜なし、栄養状態が中等度障害されていれば筋力低下は中等度、栄養状態が重度障害されていれば筋力低下は重度となります。
このことから、侵襲前の栄養状態と、侵襲の程度を把握することで、適切な訓練を立案することが可能となります。
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褥瘡発生の危険因子には様々なものがあります。
活動性の低下や関節の可動性低下、知覚障害があると、同じ身体部位や長時間の圧迫につながり、褥瘡発生を高めてしまいます。
外的な要因として、摩擦によるせん断力の発生や、過度の湿潤は組織の耐久性に関与します。
また内的な要因として、栄養不良、加齢、低血圧、低酸素分圧、各臓器の障害なども、組織の耐久性に関与し、褥瘡発生の危険を高めます。
栄養不良との関連では、骨突出は筋萎縮に加えて栄養不良での皮下脂肪の減少にも原因があると言われています。
褥瘡発生の危険因子である低栄養状態の評価としては、
①炎症、脱水がなければアルブミン値を用いてもよい
②体重減少率を用いてもよい
③喫食率(食事摂取量)を用いてもよい
④主観的包括的栄養評価(SGA)を用いてもよい
⑤高齢者にはNMA®を用いてもよい
とされており、推奨度はいずれもC1となっています。
栄養補給に対する評価では、浮腫、脱水がなければ体重増加量を用いることが勧められます(推奨度B)。
体重が減少した場合、エネルギー摂取量を増やす必要がありますが、体重は浮腫や脱水により変化するため、それらがないことを確認してから評価に用いるようにします。
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蛋白質・エネルギー低栄養状態(PEM)の患者には、疾患を考慮したうえで高エネルギー・タンパクのサプリメントを追加することが推奨されています(推奨度B)。
経口摂取が不可能な患者であれば、経腸栄養を行いますが、それも不可能な場合は静脈栄養を行います。
褥瘡治療に必要なエネルギー摂取量としては、基礎エネルギー消費量(BEE)の1.5倍以上を補給することが勧められています(推奨度B)。
数値としては、NPUAP/EPUAPガイドラインでは30〜35kcal/kgとされています。
必要量に見合った蛋白質の摂取が勧められますが、具体的な数値でのエビデンスはありません(NPUAP/EPUAPガイドラインでは疾患に考慮しながら1.25〜1.5g/kg/日とされています)。
亜鉛、アルギニン、アスコルビン酸などが欠乏しないように栄養補給をしてもよい(推奨度C)とあります。
亜鉛と褥瘡の関係では、PEM患者では亜鉛が欠乏していることが多いとの報告があります。
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体重に関する項目では、体重とBMIだけでなく、体重減少率と通常体重比も確認するようにします。
BMIは現体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出されます。
判定では、18.5未満で「低体重」、18.5以上25.0未満で「普通体重」、25.0以上30.0未満で「肥満(1度)」、30.0以上35.0未満で「肥満(2度)」、35.0以上40.0未満で「肥満(3度)」、40.0以上で「肥満(4度)」となります。
現体重でBMIが18.5未満でも、体重が増加傾向の場合は機能改善を目的とした訓練を実施でき、逆にBMI25以上でも、体重減少が著名な場合は機能維持を目的とした訓練を実施します。
体重減少率(%)は、(通常体重−現体重)÷健常時体重×100で算出されます。
判定は、1週間で2%、1ヶ月で5%、3ヶ月で7.5%、6ヶ月で10%以上の減少で中等度栄養障害が疑われます。
体重減少率は栄養障害の予後の判定に利用されます。
通常体重比(%)は現体重÷通常体重×100で算出されます。
判定は、85〜95%で軽度栄養障害、75〜85%で中等度栄養障害、74%以下で重度栄養障害となります。
標準体重は身長×身長×22で算出されます。
切断患者の場合、総体重に対して標準体重補正を用いて計算します。
一側上肢切断
肩関節離断:6.5% |
一側下肢切断
股関節離断:18.5% 大腿切断:12.8%±α(断端長で異なる) |
例 身長160㎝で左大腿切断(大腿の中央で)の場合 標準体重=1.6×1.6×22=56.3kg 標準体重補正=56.3×(100-12.8)÷100=49.1kg |
これらの補正値は上腕、前腕、大腿、下腿の体積がほぼ中央で切断した場合にはそのまま用いることができ、断端長が長い場合体重補正値は小さくなり、短い場合体重補正値は大きくなります。
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上腕周囲長(AC)、上腕三頭筋皮下脂肪(TSF)、下腿周囲長(CC)があります。
上腕周囲長(AC)、上腕三頭筋皮下脂肪(TSF)から、上腕筋囲(AMC)と上腕筋断面積(AMA)の計算が可能となり、これらは全身の筋肉量の目安となります。
AMC(cm)=AC(cm)−TSF(cm)×3.14で算出されます。
AMA(㎠)=(AC− TSF×3.14)×(AC−TSF×3.14)÷(4×3.14)で算出されます。
これらの計測値を各年齢の基準値に対する%で算出し、栄養状態を判定します。
各基準値については下記をご参照ください。
http://www5f.biglobe.ne.jp/~rokky/siki/tani.htm
110%以上:筋肉、脂肪が多い 90〜110%:標準 80〜90%:軽度栄養障害 60〜80%:中等度栄養障害 60%以下:重度栄養障害 |
例 67歳男性、AC20cm、TSF0.8cm、AMC17.5cm、AMA24.4㎠。 65〜69歳の基準値はTSF1.064cm,AMC23.94cm、AMA46.06㎠。 %TSF=0.8÷1.064×100=75.2%%AMC=17.5÷23.94×100=73.1% %AMA=24.4÷46.06×100=53.0%これらより、中等度(〜重度)栄養障害となる |
重要な項目は、全身の筋肉量の目安である上腕筋囲、上腕筋面積となります。
上腕三頭筋皮下脂肪厚は60%以下になりやすいですが、上腕筋囲と上腕筋面積が保たれている場合大きな問題とはなりません。
上腕三頭筋皮下脂肪厚が保たれていても、上腕筋囲と上腕筋面積の値が低い場合は問題となります。
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SGA(主観的包括的評価)とは、Subjective Global Assessmentの略で、栄養状態のスクリーニングに用いれれることが多いものです。
SGAは主に病歴の問診と身体検査から成ります。
病歴の主な項目は、
①年齢、性別
②身長、体重、体重変化(過去6ヶ月間と過去2週間)
③食物摂取量の変化(期間、食形態)
④消化器症状(2週間以上の持続:悪心、嘔吐、下痢、食欲不振)
⑤ADL(期間、日常生活可能、歩行可能、寝たきり)
⑥疾患と栄養必要量との関係(代謝ストレス:なし、軽度、中等度、高度)
があります。
体重変化については、過去6ヶ月での体重減少は慢性進行性疾患、食生活の変化が要因で、過去2週間の体重減少では栄養不良が要因と考えられます。
体重減少率(体重の減少分÷元の体重×100)では、病的な減少率は1ヶ月で5%、3ヶ月で7.5%、6ヶ月で10%以上となります。
そのため、問診では体重がどの程度減っているか、減り続けているか、減った体重は増えているか、本人に数字(体重)での自覚はあるかといった事を把握します。
栄養不良が疑われる場合には、食習慣の変化、何をどの程度の量食べているか、食形態に変化はあったかなどを把握します。
食物摂取量の変化では、健康な時を10とした時の、現在の摂取量を聞くか、10㎝の横線が書いた紙を用意し、健康な時を10として、現在はどの程度かをチェックしてもらうことも考えられます。
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消化器症状について、2週間以上の症状がある場合には栄養不良の可能性が高くなります。各症状の有無、頻度、継続期間を把握します。
ADLでは、疾患により持久力低下や意欲低下が見られることがあるため、身体機能が低下しやすくなり、ADLにも影響が出てきます。ADLには患者の筋肉量(除脂肪蛋白量)が反映されています。
疾患と栄養必要量との関係では、疾患により必要な代謝量に変化が見られ、多くの患者でカロリーの必要量と蛋白質の必要量が増加します(重症なほど必要量が増加する)。
それぞれの疾患により代謝ストレスが異なります。
身体検査では、
①皮下脂肪の減少(上腕三頭筋、胸部)
②筋肉の損失(大腿四頭筋、三角筋)
③浮腫(くるぶし、仙骨部)
④腹水
があります。
浮腫や腹水も評価項目にありますが、参考程度でも構わないと言われています。
握手(握力)をすることで、握り返す力や皮膚の状態(脱水が見られないか)が大まかにわかり、前腕、上腕の触診・計測で筋肉量が把握できます。
出典:http://www.kkr-ta-hp.gr.jp/information/nmedical/pdf/care01.pdf
判定には、栄養状態良好、中等度栄養不良、高度栄養不良を主観的に判定することになります。
栄養状態良好では、問題が見られず放置しても構いません。
中等度栄養不良や高度栄養不良では栄養アセスメントを本格的に行います。
AGAは、検査値がなくても栄養状態をある程度判定できますが、一定の期間が必要になります。
出典:http://www.kkr-ta-hp.gr.jp/information/nmedical/pdf/care01.pdf
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各種疾患の罹患による食欲不振、摂食量減少、脱水や体力低下が起こると、低栄養状態となり免疫力の低下につながります。
免疫力低下は感染症につながり、またサルコペニアなどの筋肉力の減少を引き起こし体重低下となります。
そのことでADLが低下すると転倒のリスクが高まり、骨折などの運動器疾患を招くことにつながります。
全身的な影響では、体重の減少、皮膚・爪の状態、浮腫、褥瘡、骨粗鬆症に影響があります。
口腔機能では歯牙の欠損、唾液分泌の低下、味覚障害、咀嚼能力の低下、嚥下障害に影響があります。
MNA®は高齢者の栄養状態を評価するツールとして検討されたことが始まりです。
様々な国の言語に翻訳されて使用されています。
6つの予診項目(食事量の減少、体重減少、運動能力、精神的ストレス・急性疾患、神経・精神的問題、BMIで最大14ポイント)と12の問診項目(入所・入院の有無、3種類以上の処方薬の内容、圧痛・皮膚の潰瘍、食事回数、蛋白質摂取状態、果物・野菜の摂取、水分摂取量、食事の摂取方法(介助の有無)、栄養状態の自己評価、他者との健康状態の比較、上腕中央の周囲値、ふくらはぎの周囲値で最大16ポイント)があります。
なお、予診項目の合計得点が12ポイント以上であれば、問診項目に進む必要はありません。
総合評価(最大30ポイント)では、17〜23.5ポイントでは「栄養が不足しているおそれあり」となり、17ポイント未満では「低栄養状態にある」という評価となります。
MNA®のメリットは簡便に実施できることと、ポイントによる低栄養のおそれのあることを明確に示せることです。
栄養スクリーニングとして用いられているSGAと比較すると、リスクが予測される対象者の割合が高く出現することもいわれています。
出典:
http://www.mna-elderly.com/forms/MNA_japanese.pdf
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整形疾患では低栄養状態の患者は少ないですが、入院後2週から4週の経過で栄養状態良好者が減る傾向にあることが言われています(病院低栄養)。
高齢者は筋肉量が少なく、動かない期間が少しでもあれば相当の影響を受けることになります。
創傷治癒はMNA®で低栄養やリスクがあると評価された患者は治癒が遅くなるというデータがあります。
またせん妄や褥瘡ではMNA®でポイントが低い患者の方が発症率が高いというデータがあります。
MNA®-Short Formは6項目(過去3ヶ月での食事量の減少、過去3ヶ月での体重減少、歩行能力、精神的ストレス・急性疾患、神経・精神的問題、BMIの最大14ポイント)で構成されています。
12〜14ポイントで「栄養状態良好」、8〜11ポイントで「低栄養のおそれあり」、0〜7ポイントで「低栄養」の評価となります。
専門知識がなくても誰でも行え、4分以内に実施可能です。
ポイントによる評価となっているため、継時的な変化を追うことができます。
MNA®とMNA®-Short Formは強い相関があることが確認されています。
出典: