前頭葉損傷で問題となるのは、注意障害、遂行機能障害、脱抑制による反社会的行為などが挙げられます。今回、前頭葉損傷(遂行機能障害)に対する評価と作業療法、リハビリテーションアプローチについてまとめていきたいと思います。

目次

前頭葉損傷(遂行機能障害)に対する評価と作業療法、リハビリテーションアプローチ

前頭葉損傷と高次脳機能障害

前頭葉における皮質での情報伝達の流れ

前頭葉における皮質での情報伝達の流れは、
前頭前皮質(背外側領域、眼腋前頭野)

運動前皮質

一次運動野
となっています。

前頭葉の障害部位と出現する機能障害(運動前皮質)

運動前皮質の損傷による機能障害には以下のものが考えられます。

・失行
  運動性失行
  観念運動失行
  観念性失行
・注意持続障害
・運動に関するプランニンングと順序立ての障害
・保続
  運動前野性:運動の反復
・発話と言語の障害
  ブローカ失語
  口腔失行
  無言症
・眼球運動の障害
  眼の一側への偏位

前頭葉の障害部位と出現する機能障害(前頭前皮質(背外側領域))

前頭前皮質(背外側領域)の損傷による機能障害には以下のものが考えられます。

・全般的覚醒レベルの障害
  遂行のための注意持続障害
  刺激に対する注意の転導
  場への依存
  運動遅延(遂行の遅さ)
・知的障害
・抽象化/概念的柔軟性の障害
・失行
  観念性失行
  構成失行
・プランニングと順序立て
  行動に関連した問題
・保続
  前頭前野性:行動プログラム
・発話障害
  反響言語
  無言症
  思考の発話保続
  失名詞
  錯誤

前頭葉の障害部位と出現する機能障害(前頭前皮質(眼窩前頭野))

前頭前皮質(眼窩前頭野)の損傷による機能障害には以下のものが考えられます。

・情動/感情障害
  攻撃性
  アパシー
  多幸症
  仮性うつ
  欲求不満
  易刺激性、易起性
  不穏
・認知
  抽象化の欠如
  計算の障害
  判断の障害
  洞察力の低下
・覚醒の障害
  覚醒度の低下
  注意の低下
  注意散漫
  場への依存
  指向的反応の障害
  動機付けの障害
  反応の遅延
  放心状態
・記憶
  短期記憶障害
・行動の組織化と順序立ての障害
・人格の変化
・感情失禁
・性的欲求の減少
・食欲の低下、異常な増加
・異常反射と固縮

用語の説明

・抽象化の障害
柔軟性のない思考の状態です。
思考の柔軟性がないと、一つの状況から、他の状況へ応用したりすることが困難になります。
例えば、私たちは朝食を食べているからだいたい何時頃かを推測することができますが、そのようなことができなくなります。
ことわざをを言葉の通りに受け取ってしまうこともあります。

・判断力の障害
周りの情報から、適切な決定や行動が行えない状態です。
ADLでは、蛇口をひねりっぱなし、移乗でブレーキのかけ忘れ、ゴミ箱に排尿してしまうなどが観察されます。
自分自身の間違いからフィードバックし、次の行動を修正することができません。

・洞察力の障害
洞察力は、対象者が自身の状況や状態の認識(アウェアネス)をどの程度できているかに関与します。
洞察力を評価するには、対象者本人にどう考えているのかを質問しないと評価できません。
洞察力の障害があると、将来の計画や能力障害に対して非現実的な発言がみられることがあります。

・混乱
混乱の状態では、時間や人、場所に関する認識と見当識の障害がみられます。
そのため、過去と現在の区別がつかなかったり、セラピストを他の誰かだと思いこんだりします。
また、外部からの情報(特に言語刺激)に対する反応が遅れることがあります。

・攻撃性
活動や人に対しての敵意や攻撃性を示します。

・欲求不満
課題遂行において頑張ったり、頑張ったができない時などに、興奮したり耐えられなく様子が確認されることがあります。
言語的、感情的、身体的に表現されることがあります。

・易怒的
苛立ち、焦り、怒りなどがすぐに出てしまう状態です。

・不安定
情緒不安定な状態です(感情失禁)。
不適切に泣いたり笑ったりします。

・不穏
不安や苛立ちなどにより、落ち着きがなく動き回ったり、待つことができない、体の一部を絶えず動かしたり(貧乏ゆすり)、物をトントンと叩いているかもしれません。

・保続、反響言語
運動や行動を繰り返すことが見られます。
反響言語は保続の一種で、おうむ返しと言われるように、言葉をそのまま返してしまうことが観察されます。

・組織化と順序立ての障害
活動の手順や動作の性急さ(タイミングの悪さ)、ペース配分、動作の質(例:早すぎて質が悪い)などに関連します。
ご飯をくちいっぱいになるまで詰め込みすぎてしまう、歯磨きを終えるのが早すぎるなどが観察されます。
前頭前野は大脳基底核とのループがあり、大脳基底核の障害によっても、組織化と順序立ての障害は起こることが考えられます。

 

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前頭葉損傷(遂行機能障害)における評価

FAB(前頭葉機能検査

FABの概要と遂行機能の何をみているか

FABの実施時間の目安は10分程度で、6つの項目からなる面接形式の検査です。
高齢者や中等度以上の認知機能障害がある方にも実施が容易であると思われ、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病、前頭側頭型認知症などの神経変性疾患で、前頭葉機能のスクリーニングに検査にFAB が有用であるとの報告もあります。
なお、MMSEは脳の後方の機能を反映していると言われています。

FABの結果の解釈

各項目最高点は3点で、合計18点満点になります。健常者では約8歳以上で満点がとれると言われています。明確なカットオフ値は定められていません。
前頭葉機能は、加齢による影響も受けると言われていることから、結果の解釈には年齢も考慮する必要があると思われます。
寺田が行った、22歳から78歳までの健常者に行った調査報告によると、対象者の平均年齢50.6±16.6歳で、年齢別の平均は以下(寺田ら:Frontal Assessment Battery(FAB)の年齢による効果. 神経心理 2009;25(1):51-56. )になります。

 

全体

20-29

30-39

40-49

50-59

60-69

70-79

50-79

得点

15.6±1.4

16.7±0.8

17.0±0.8

16.1±1.0

15.3±1.4

14.6±0.9

14.4±1.3

14.7±1.3

FABの得点は年齢を重ねることで低下する傾向があることがわかります。このことから、年齢も考慮に入れた結果の解釈を行わなければなりません。
前頭葉機能障害は他の認知機能障害により二次的に生じることもあるため、前頭葉機能の評価には全般的な認知機能と他の要素的な認知機能が保たれている必要があります。

前頭葉性行動質問紙(FBI)

前頭葉性行動質問紙(FBI)の概要

FBIは、Karteszらにより作成された前頭側頭型認知症の簡易評価の日本語版になります。
FBIは主に前頭側頭型認知症の示す認知行動障害を臨床的に検出するための簡便な介護者(家族等)による自記式の質問紙としてもともとは開発されました。
FBIは日常生活上の障害に関する 24項目の質問に
「ない」0点
「ときどきある」1点
「しばしばある」2点
「いつもある」3点
の4 段階の選択肢から回答する質問紙になります。

評価項目

詳しくはこちらを参照してください。

前頭葉性行動質問紙(FBI)の結果の解釈

24項目の合計得点(0〜72点)を算出します。

FBIは前頭葉障害でみられる臨床的な特徴がほとんど把握できるため、リハ介入後の治療効果を判定に用いることも可能となります。

BADS(遂行機能障害症候群の行動評価法)

BADS(遂行機能障害症候群の行動評価法)の概要

BADSは前頭葉症状の中核となる遂行機能障害を症候群として捉えていることに特徴があり、様々な行動面に対する評価を系統的・包括的に行えるバッテリーです。
BADSにより遂行機能障害を定量的に示すことが可能になります。
検査の教示方法や採点方法は説明書に詳しく記されており、下位検査の成績はプロフィール得点として換算され、合計点を算出します。このスコアにより、患者群と対照群の得点分布が明らかになっており、「障害あり」「境界域」「平均以下」「平均」「平均以上」「優秀」「きわめて優秀」と区分されています。
BADSは容易な検査ではなく、患者にある程度の認知力がないと各検査課題を実行することが難しくなります。
所要時間は約40分程度となります。

 BADS(遂行機能障害症候群の行動評価法)の結果の解釈

各検査の採点では、0〜4点のプロフィール得点が算出されます。各検査の合計点がそうプロフィール得点となります(0〜24点)。
各検査場面において、その様子を記載しておくことは、患者の臨床像を把握するのに役立ちます。
田渕らのデータによると健常者群、前頭葉損傷群、後部脳損傷群、脳損傷群全体に分けてBADSの成績が示されています。

 

健常

前頭葉

後部

脳損傷全体

得点

18.11±2.36

9.45±3.05

13.31±4.13

11.54±4.10

結果の解釈においては、患者がある検査で成績不良であっても、他の検査で得点が高ければ「平均」となるため、各検査における違いがある場合、全体の区分分けには慎重な態度をとり、さらに評価を行っていく必要があります。
BADSには、付録としてDEX(遂行機能障害の質問票)があり、BADSの成績に加えて患者の遂行機能障害を質的な面から補足することに役立ちます。

Wisconsin Card Sorting Test(WCST:ウィスコンシンカードソーティングテスト)

Wisconsin Card Sorting Test(WCST:ウィスコンシンカードソーティングテスト)の概要

Wisconsin Card Sorting Testでは情報に基づきセットを維持し、できるだけ少ない試行錯誤により新しいセットを見出し転換する機能を評価します。

前頭葉の働きののひとつに、セットの転換(認知の柔軟性)があります。セットの転換とは、最新の情報と以前の情報を頭に保持し、適切な対象・判断を選択しながらセットを維持し、さらなる情報に従って転換していくことを指します。
この機能は前頭葉背外側部が関係していると言われています。
ワーキングメモリとも関与し、短期間ある情報を保持し、注意を配分しながら次の情報と照らし合せていくことになります。

もともとは健常者の抽象的推理力と、状況に合わせた戦略の転換能力を評価する目的で開発され、後に前頭葉損傷者に使用されるようになりました。

Wisconsin Card Sorting Test(WCST:ウィスコンシンカードソーティングテスト)の結果の解釈

慶応F-S versionでは、達成カテゴリーの正常値は64歳以下では4以上、65歳以上では3以上とされています。

健常者基礎統計値

年代

度数

セッション

カテゴリー達成数

保続性エラー数

エラー総数

平均値

標準偏差

平均値

標準偏差

平均値

標準偏差

20代

52

1

3.6

2.0

6.6

7.5

19.5

9.5

2

3.4

1. 6

5 .5

7 .1

17.9

8 .4

3

5.5

1.9

1.5

2.4

8.2

6.9

30代

51

1

4.0

1. 7

6. 1

5.7

17.9

8.0

2

4.5

1. 6

3.5

4.0

14.2

7.5

3

5.8

1.8

1.5

2.1

7.0

6 .4

40代

52

1

3.2

1.8  

7 .4

5 .2

21.5

8.4

2

4 .2

1.5

4.0

3. 4

15.5

6.0

3

5.2

1. 4

1.8

1. 8

9 .9

5.0

50代以上

47

1

2.9

2.2

11. 1

9.0

24.7

11 .3

2

3.9

1. 6

4.7

4.1

16.9

6.5

3

4.8

1.9

3. 1

4.3

12.8

8.5

全体

202

1

3.4

2 .0

7.7

7 .2

20.8

9 .6

2

4.0

1. 6

4.4

4.9

16.1

7.3

3

5. 4

1. 8

1.9

2.8

9. 4

7.0

ストループテスト

ストループテストの概要

遂行機能としての選択的注意には、

一般的に注意を引きつける刺激・情報への反応傾向を抑制しつつ比較的難しい処理を持続して行う注意集中力、あるいは、葛藤条件の監視機能をさしている。

高次脳機能障害学 第2版

のような機能があります。
目標到達のために、必要な情報と反応を選択する集中力や選択的注意が必要となります(他の機能も必要)。

ストループテストには様々な方法がありますが、主に用いられているものには、「赤」「青」「緑」などのの色名の単語の意味するものとは別の色で書いているものに対し、単語ではなく印刷した色を読んでいく課題です。

ストループテストの神経心理学的解釈には様々なものがあり、反応抗争、習慣的反応の抑制、選択的注意などがあります。
色名を表す単語がそれとは異なる色のインクで印刷されてる時に、その単語ではなくインクの色を読んでいくためには、「インクの色」に対して選択的に意識を集中し、文字の形には注意を払わないと考えると、選択的注意課題であると言えます。

Comalliらのバージョンでは、「赤、青、緑」の語の意味と一致しない赤青緑のインクで印刷された10行×10列計100個の課題では、正常値(平均値)の例が示されています。

年齢

50〜59

60〜69

70〜79

時間

120.79±38.07

135.50±29.81

148.67±41.09

誤反応

1.75±1.42

2.20±2.12

1.60±1.05

語流暢性課題(語想起)

流暢性課題と必要な機能

流暢性とは、ある機銃に合う対象を自らの方略、戦略により探し出し、できるだけ多くを表出することをさします。
流暢性課題では、探索しながら自らの方略、戦略を見出し、可能な限り多くの語を表出することが求められています。

 一定の正解に達するために回答を絞っていく「収束的思考」だけでなく、「発散的思考」の能力が問題となる。また、思考の柔軟さや同じ語の繰り返しを避けるためにワーキングメモリと自己監視の能力も反映すると考えられる。

高次脳機能障害学 第2版 P227

思考の柔軟性では、例えば「動物の名前をできるだけ多くあげる」課題が出された場合に、思考過程で「哺乳類」「鳥類」などの中から選んでいこうとしたり、動物園を思い浮かべてそこから回答を導き出そうとするような思考をさします。

語の流暢性

語の流暢性では、頭文字を指定する「文字流暢性」と意味的カテゴリーを指定する「意味流暢性」に分けられます。
これらの検査では、明らかな失語症がないことが適応条件となっています。
日常物品における呼称が困難な場合、どちらの成績は低下します。
発語失行、構音障害、音韻性錯誤により表出困難や表出遅延がある場合も制限時間のために適応しにくくなります。

文字流暢性課題

日本では頭文字の指定はありませんが、名詞(人の名前や地名、(固有名詞)、数は除く)で行います。日本語では頭文字での産出数は少ないこともあり、事前説明の際に注意を必要とします。具体例を以下に挙げます。

これから1分間に、ある文字で始まる名詞をできるだけたくさん言っていただきます。ただし、地名、人名のような固有名詞は避けてください。例えば、「そ」で始まることばなら、「そば」、「そり」のような物の名前だけでなく、「速度」、「尊敬」のような名詞でも結構です。それでは、「◯」で始まることばを言ってください」

高次脳機能障害学 第2版 P228

意味流暢性課題

意味流暢性課題では、1分間にできるだけ多くの動物名を言ってもらう方法が多くとられています。必ず4本足でなくてもよいことを説明する場合もあります。
通常、動物園にいる動物、鳥、魚などと動物の下位のカテゴリーを探索しながら表出していきますが、干支を順番に言うこともあり、これは自動的な語呂と考えられるため、普段呼ぶ動物の名称で表出するようにさせます。

語流暢性課題(語想起)の結果の解釈

こちらを参照してください。

Trail Making Test(TMT)

Trail Making Test(TMT)の概要

遂行機能や注意機能検査として用いられるTrail Making Test(TMT)は、

2つの反応パターンを交互に切り替えることが決まっており、両方の遂行過程の情報を保持しながら適切に遂行することを求める検査。

高次脳機能障害学 第2版 P224

となっています。
脳損傷者では健常者と比較して有意に成績の低下がみられ、特に前頭葉と成績低下に関連があるという報告があります。

Trail Bでは、1から13までの数字と、あ〜しまでの仮名12文字が散らばっている用紙で、1ーあー2ーい−3ーうというように、交互に結んでいく検査です。
認知の変換、課題の切り替え、注意の切り替えを評価することが可能です。
2つの反応パターンの交互切り替えと、2つの系列の順番がどこまで進んでいるかを保持しておくことが、課題の処理速度には必要になります。

Trail Making Test(TMT)の結果の解釈

こちらを参照してください。

ギャンブリング課題

ギャンブリング課題の概要

ギャンブリング課題では、被験者が1 回カードを引くと、即時の報酬とその後の(遅延した)罰が1施行ごとに与えられます。
健常例では回数を重ねるにつれgood deck(得をする方)を引くことが徐々に学習され、後半にその傾向が強く認められます。
反対に前頭葉眼窩部(腹内側部)損傷例では、bad deck の総選択数が多く、特に後半での選択が目立って多くなります。

ギャンブリング課題の実施方法や結果の解釈

こちらを参照してください。

ハノイの塔課題

ハノイの塔課題の概要

ハノイの塔課題は、3本の棒のうち1本にある、大きさの異なる5枚の円盤を別の棒に移し替える課題です。
このような問題解決課題を前方病変患者に行うと、後方病変患者よりも明らかに成績が低下すると言われています。
課題には下記のルールがあります。
①円盤は1回に1枚ずつしか動かすことができない
②小さい円盤の上に大きな円盤を置くことはできない
このルールに従いながら、できるだけ少ない手数で円盤を目標の位置に移すことが求められます。

ハノイの塔の結果の解釈

結果の解釈

ハノイの塔課題では、問題解決の分野では変換問題に分類されるもので、一定のルールに従った操作により、初期状態から目標状態へと変換するというものである。この課題を解決するために要求される能力は、「どれだけ先まで移動プランを立てることができるか」ということ、 すなわち、自分の行動のプランニングである。

 「ハノイの塔」パズルを用いた高齢者の問題解決過程の分析

詳しくはこちらを参照してください。

ティンカートイテスト(TTT)

ティンカートイテスト(TTT)の概要

ティンカートイ®はホイール、スティック、コネクターなどの部品を用いて創作を行う子供の教育玩具です。
テストでは、決められた50ピースの部品を組み合わせて、制限時間なしで、自分で考えて好きなものを自由に作ってもらいます。
この検査は対象者をあまり選ばず実施可能で、課題の説明や操作方法も行いやすく導入しやすいものです。
得点化による遂行機能のある程度の定量化も可能です。
検査者間の得点誤差もほとんど生じないとされています。
「これであなたの作りたいと思うものを作ってくだ さい。制限時間はありません。」 と教示します。 作品完成後、検者は作られた作品が何を表しているかを尋ねます。

この検査で作品を作るには、以下のような機能が必要になります。
①何を作るかの目標を決める
②計画立案(どの部品を使用するか)
③課題遂行(組み立てる)
④効果的な行動(失敗の修正能力)
が必要になります。

ティンカートイテスト(TTT)の実施方法、結果の解釈

こちらを参照してください。

 

前頭葉損傷(遂行機能障害)に対する作業療法、リハビリテーションアプローチ

タイムプレッシャーマネージメント

タイムプレッシャーマネージメントの概要

タイムプレッシャーマネージメントでは、脳損傷により情報処理速度の低下がみられる場合、行うべき作業を目の前にして、時間を十分に確保しておく工夫が必要になるという考え方をもとにして行われます。
「作業をするときに時間がかかる」「うまく事を処理するのに時間が必要である」といった事を自覚し、周囲の者に伝えられるようにし、気づきへの支援を行いながら、他の日常生活での行動においても適応できるように訓練をしていきます。このような考え方が身につけることができると、注意障害があっても日常生活上のミスがすくなくなるとされています。

タイムプレッシャーメンージメントの実施方法

①誤反応と障害の気づき:自身の情報法処理の遅れ(=精神活動の遅さ)と課題遂行においての関係性についての気づきを促す。
②タイムプレッシャーマネージメントの受容と獲得:
下記方略を使用し、その使用を促進させる。

1.目前の課題におけるタイムプレッシャーを認識する:
充分な時間がない状況で、同時におこなうべき2つ以上の課題がありますか?
そうであるならば第2段階へ、そうでなければ単にその課題をおこないなさい。

2.タイムプレッシャーをできるだけ避ける:
課題を始める前に、すべきことに関する短いプランを立てなさい 。

3.できるだけ速く、効果的にタイムプレッシャーを処理する
時間が足りなくなった場合におこなう緊急プランを立てなさい。

4.TPM方略を使用している間の自己モニタリングを促す
プランと緊急プランの準備ができましたか?では、それを適切に使用してみましょう。

③タイムプレッシャーメネージメント方略の適応と維持:
ラジオ音声などの妨害刺激がる条件下でTPM方略の適応を促します。
の3つの段階に沿って進めていきます。

GMT(Goal Management Training:目標管理訓練)

GMT(Goal Management Training:目標管理訓練)の概要、実施方法

行動の遂行には、目標や目標と下位目標リストによって整理し、まとめられていると考えられています。
Duncanは、前頭葉損傷者が行動を計画的に、効率的に遂行できないのには、目標リストがうまく作れず、その利用もうまくできないと考えました(目標無視=課題から要求されていることが頭からすり抜けること)。
GMT(Goal Management Training:目標管理訓練)は、この考えに基づいてRobertsonが、遂行機能障害のリハビリテーション方法として開発したものです。
GMTは5つの段階に分かれており、ひとつずつ実施されます。

 

第1段階「立ち止まる!」:
オリエンテーションです。参加者には現在の状況を評価・把握し、これからすることへ意識を向けていきます。
自分の状況を把握することで、今自分にどうのような問題点があるのか、どのような点が困っているのか、どのように行動を変えていく必要があるのかといったことに変化を与えるきっかけになります。
この段階はとても重要で、自分が思っていることと周りから思われている状況にはギャップがあるかもしれません。

第2段階 「定義する」:
目標の選択を行ない、主な課題を定めます。
前途しましたが、自分の問題点、改善したい点、これからどうなりたいかというようなキーワードが重要になります。
自分の興味、関心、必要度、重要度といったことに目標設定は左右されます。

第3段階「リストを作る」:
第2段階での目標を下位目標(=ステップ)に分け、ステップのリスト化を行います。
目標を達成するには、それまでに細かい段階に分けることで自分が何を行うべきなのかがわかりやすくなります。
細かい段階に分けることで、できたときに何が一番良かったのか、どれができていないから行動が達成できていなかったのかなどを振り返りやすくもなり、次回の計画作成にも役立ちます。

第4段階「憶える」:
目標と下位目標 (=ステップ)を記憶し、課題を実行します。
段階は細かすぎると大変ですが、自分の記憶、実行できる範囲で設定できると、行動がスムーズに遂行しやすくなります。

第5段階「点検する」:
実施した結果と決めた目標を比較します。うまくいかなければ、最初の段階からやり直します。
最初からうまくいくことはないかもしれません。しかし、うまくいかないことは振り返る機会があるということです。
振り返ることによって、良かった点や悪かった点、良かった点のなかでもさらに改善できる点というように様々な発見があります。
その発見を、計画に利用することで、さらによい行動が行えるようになります。

訓練は実際の課題を通して行いますが、課題にはセラピストが提供する例題や対象者が実生活の中で行うこと、困難なこと、解決したいことを問題として用います。

問題解決訓練(PST)

問題解決訓練の概要と実施方法

problem-Solving training ; PST (問題解決訓練)は、von Cramonらにより脳損傷者の訓練方法として開発されました。
問題解決訓練では、認知治療と行動療法を組み合わせたものだとされています。
前頭葉損傷者では、脈略がなく、行き当たりばったりな行動をする患者が多く見られますが、思路を整えて行動に移る訓練を行うための訓練方法です。
問題解決訓練の目標は、問題解決行動の5つの側面を強化することにあります。

①Problem Orientation (問題の見当づけ):
患者は問題を単純視する傾向があるため、与えられた課題を簡単には解けない“問題として認識するのを助けます。

 

②Problem Definition and Formulation(問題の定義と公式化):
情報をくり返し読みこみ、全体を理解したうえで、問題の主要点を書き出すことを学ばせます。

③Generating  Alternatives(代替案の案出):
できるだけたくさんの代替案を考えさせます。 ブレインストーミングのひとり版を行なわせるようなものです。

④Decision-making (決断):
複数の候補案の長所と短所、実現可能性をしっかりと考えたうえで決断することを学ばせます。

⑤Solution Verification (解決の検証):
失敗に気づくこと、それを修正すること、 最初の仮説にもどることを学ばせます。

これらの強化したい側面を学ばせるために、あらかじめ用意した課題が与えられます。①アイデアの産出、 ②関連、非関連情報の選別、 ③複合情報の処理などを行なう課題となりますが、具体的には、連想ゲーム・ある話題の賛成論と反対論を集めること(アイデアの産出)、”求む”広告の作成・ 聴講ノート作成(関連、非関連情報の選別)、時刻表/予定表の読み解き・短編探偵小説・クロスワードパズルなど(複合情報の処理)
です。
課題実施の際にはセラピストが付きさまざまなレベル・種類のキュー (促し、暗示、 手がかり、ヒントの類)を与え、解決に向かっていきます。
この技術を対象者が獲得できれば、複雑な問題解決過程の細分化や簡略化して対処しやすくなることが期待できます。
考えやすい課題内容として、「いくつかの旅行会社のパンフレットから、目的にあった家族旅行をみつける」などの課題があります。

自己教示法

自己教示法の概要

自己教示法は、元々多動児に対して行われていたものを、前頭葉損傷者に適応したものです。通常内的に行われる自己モニタリング過程を代償する内的補償の1つとなります。

 

内言による行動調整を重視したLuria(1981)の理論を基盤としたもので,これを用いた訓練では,課題遂行中の患者にその実行手順を逐次明瞭に外言化させることから始まり,訓練経過ともに徐々に外言化を弱め,内言化を導いていく.

柴崎 光世「前頭葉機能障害の認知リハビリテーション」明星大学心理学年報 2012,No.30,23―40

自己教示法では、他の場面への般化も起こりやすいとされています。

Aldermanetal.(1995)は,自己モニタリング訓練による訓練効果は比較的ゆっくりとあらわれるものの,TOOTSやレスポンスコストといった行動療法的手法と違って,他の環境への訓練効果の般化が起こりやすいと述べている。

柴崎 光世「前頭葉機能障害の認知リハビリテーション」明星大学心理学年報 2012,No.30,23―40

自己教示法の実施方法

Ciceroneらの症例(プランニング障害)では、自己教示法を週2回、1時間のセッションを計8週間行い、対象者に訓練課題を与え、それを実行する前と最中に、意中のプランを言葉に出して言うことを求めるようにしています。課題には「ロンドンの塔」を用いています。

自己教示法は3段階からなります。
第1段階:動かそうとするリングの動きとその理由を声を出して言うように対象者に説明します。実際に動かす時も、その動きを言語化させます(公然自己誘導)。

第2段階:同様に行いますが、今度は大声で言わずに、ささやき声で言うように説明します(公然自己誘導の漸減と内在化の漸増)。

第3段階:第1、第2段階と同様に行いますが、今度は声に出さずに自分自身に話しかけさせるように説明します(潜伏的、内的自己誘導)。

*全行程を通じて、対象者にプランニングと問題解決の各相(問題の明確化、目標設定、下位目標の同定、代替法の検討、結果の自己評価など)について、詳しく説明します。

管理されるべきエラーについては、①課題実施中の自己刺激的発声(口笛など)、②課題から外れた会話③課題から外れた行動④予定外のリング移動⑤不正な移動としています。

行動開始困難に対するリハビリテーション

チェックリストの利用

チェックリストを利用したアプローチでは、食事の際の準備や台所の掃除など、日常生活課題がリストアップされたチェックリストを使用します。
課題ごとに、うまくできれば褒める、決められた時間内に動作が起こらい、または不適切動作が起こる場合はキュー(促し、暗示、手がかり、ヒントなど)を与える、などの訓練があります。
Katzmannらによると、このような訓練においては、毎回の褒め言葉や強化報酬がなくても、成功それ自体が報酬として働くとされています。
褒める場合は、さりげなく、どこが良かったか具体的に伝えると有効です。
成功自体が報酬となるような内的要因のものは、次のステップへの意欲向上につながります。

言語的促しと強化報酬の組み合わせ

「◯◯をしてください」というように言葉による指示で動作を促し、よい反応(行動)が起こらない場合、身体的介助(誘導やポインティング)を行います。このとき、あまりコミュニケーションをとらないようにしていきます。
身体的介助によりよい反応が生じると言葉による賞賛(具体的に、さりげなく)を与えて、さらにチョコレートや外出できる特典(何枚貯まったら外出できるというような交換制のチケット)などの報酬を与えます。
動作が改善してきたら、それまでは細かな促しだったものを大きなステップでの促しに変更していきます。
あまりに不適切な行動を行った場合、その場から一旦作業遂行をやめる、暴力などの行為が見られた場合、その場から去るなどの処置をとります。

モデリング(動作見本)

行動開始障害に対し、動作見本を示し、改善を期待するものです。
前頭葉損傷者ではしばしば見られる模倣行動を利用したものになります。
日常生活活動において、身体機能的には動作遂行が可能ですが、食事以外には指示が必要というような場合が臨床場面でもよくみられると思います。
例えば、様々な動作でスタッフなどから促しがあり、その動作の最初の動きを行えば、後の動作は自分で完了でき、終了できるというような場合、それは開始の困難さが問題点となります。
例えば、メガネをかける場合、ベッド近くの決まった位置にセットしておけば、それを自分で手に取りかけるという行動がみられるかもしれません。
この場合、目につくところ、いかに手の伸ばしやすいところにメガネを置いておくかがポイントとなるでしょう。
成功すれば賞賛を与え、それが次の行動にもつながることを期待します。
歯磨き動作では、他の患者が歯磨きを行っている横に位置させることで、本人が洗面所に向かい、歯磨きを開始することを期待します。
このようなことを繰り返していくと、もしかすると、洗面所に連れて行き、歯磨きセットが置かれている状況を見るだけで歯磨きが開始されるかもしれません。

行なうべきことを自身で考え行なうための質問法

前田ら(2009)は、行動開始障害を呈した脳炎後遺症者の復職へのアプローチを行っています。
対象者が復職に向けて行なうべきことを自分自身で考え、自ら行動に移すために、初めから対象者に対して具体的な行動を提示・提案するのではなく、まずは復職に関する漠然とした質問を行い、それに対して答えが得られない場合、より具体的な質問を行っていき、それでも答えが得られない場合「◯◯をしてみてはどうか」と提案するという訓練を行いました。
訓練開始2週目から支援者からの提案は必要ではありましたが、提案された内容を対象者自ら工夫して行なう様子がみられ、開始1か月半後には具体的な提案がなくても対象者自ら主治医や会社の上司と連絡をとり、復職に向けた調整を行なうようになりました。

アウェアネス強化(障害への気づき・認識)のアプローチ

障害への気づきを促進させるリハビリ:遂行の予測と結果のギャップの自覚を促す

障害への気づきを促進させる方法として、対象者が課題実施前にそれに対する遂行の予測をさせ、課題終了後に予測と遂行の結果のギャップを比較し、対象者に自覚させることを通して、対象者の自己意識の修正を図るものがあります。
 Youngjohn&Altman(1989)の症例(グループで行う)では、上記の方法を用いて検証されています。

遂行の予測:
対象者が行う課題(自由再生課題または計算課題)を提示し、課題に対する遂行レベル(記憶課題の再生数または計算問題の正答数)を予測させます。

課題実施:
課題を実際に遂行します。

結果の比較:
予測値と実際の成績を記したものをみて、遂行の予測と実際の成績のギャップ(不一致)について、対象者同士で議論します。

このような課題を通し、自由再生課題、計算課題で各2試行ずつ行ったところ、2課題ともに、1回目では予測値が実際の成績を大きく上回っていましたが、2回目では予測と実際の成績の不一致が小さくなり、予測精度が有意に向上したとされています。

Youngjohn&Alt-man(1989)において観察されたこのような課題遂行の予測の改善は,患者の自己の認知障害に対する気づきの増加を示唆していると考えられる。

柴崎 光世「前頭葉機能障害の認知リハビリテーション」明星大学心理学年報 2012,No.30,23―40

障害への気づきを促進させるリハビリ:役割交換法

Own-sworth,et al.(2006)では障害への気づきを促進させる方法として役割交換法が用いられています。
この訓練では調理課題が選択されており、まず、対象者の母親が調理を行い、ベースラインで対象者が失敗したのと同じエラーを行うのを対象者に観察させます。
母親がエラーを起こしたら、対象者は母親を止めてエラーを説明し、修正した正しい行動に導きます。
次の段階では、ベースラインで対象者が調理を遂行している場面をビデオにて観察させ、ビデオ再生中に対象者がエラーを起こすとそれを同定し、修正するように求めます。
また、これらに合わせ、タイマーを使用し3分おきにレシピ確認を行ったり、調理後に対象者と遂行状態について議論・フィードバックする機会を設けます。
このような訓練を8週間行ったところ、誤反応の発生頻度が減少し、誤反応に対する自己修正の頻度が増加したとされています。またその効果は介入後4週間維持され、同様の介入が他の活動においても効果的であったとされています。

Own-sworth,Quinn,Fleming,Kendall,&Shum(2010)によると,メタ認知訓練は反復訓練よりも誤反応への気づきや誤反応の自己修正の改善に有効である。他方,先のOwnsworth,et al.(2006)では,メタ認知訓練により患者の誤反応への気づきが増加した後でも,自身の障害全般に対する患者の気づきについては大きな変化が認めれなかった。 したがって,特定の課題条件下での誤反応への気づきが認知リハ的な介入によって促進されても,そのことが患者の抱える障害全般に対する気づきへと発展していくのは難しいように思われる。

柴崎 光世「前頭葉機能障害の認知リハビリテーション」明星大学心理学年報 2012,No.30,23―40

社会的行動障害(無力・抑うつ・易怒性)への対応

負の心理反応に対する対応の基本方針

負の心理反応(感情の状態)は、社会(環境)との円滑な交流が妨げられることによって生じます。

負の心理反応が生じる要因としては、
①身体要因:
視力・聴力の低下、疲労、 痛み、病気、不快な室温、生理的欲求が満たされていないなどがあります。
②対人要因:
家族や関係者とのコミュニケーションにおいて、表情や感情に暖かみがない、接する態度の画一で厳密さがある、生活空間への無遠慮な侵入等があります。
③環境要因:周囲の刺激入力の過剰あるいは過少、日常生活行動の急な変更、能力を超 えた要求等があります。

対応では環境との交流を適切にしていくことが基本方針になります。
リハビリテーションにより遂行機能や制御機能障害などの回復や代償・補償を行いながら、高次脳機能障害への理解のを促し、負の心理反応への配慮も欠かさず行っていきます。
高次脳機能障害の状態に合わせた症状のわかりやすい説明は気づきを促していくためにも重要になります。  対象者から出た会話や働きかけを適切に受けとめ、負の心理反応の誘発要因への配慮も重要になります。何に負担を感じているのかを把握していきます。

具体的対応例:無力・抑うつ

無力・抑うつは行動に何らかの結果が伴わないことで生じる心理反応です。
能力に合わない課題、活動の要求レベルが高すぎることによる失敗体験の積み重ね、コミュニケーションの失敗、家族や関係者の強要的な態度(短気・性急さ・焦燥感等)、対象者の反応に対して無関心な態度をとり、主体性の軽視するような行動は自己効力感を低下させ、無力・抑うつを発生させる要因になります。
対応としては、日常生活活動や課題解決を通して、ポジティブな結果の経験(正のフィードバックを受ける体験も含む)と自己効力感を高めることが基本になります。
無力・抑うつ症状や日常生活での現れ方を対象者にわかりやすく説明することも気づきを促していく上では重要です。

他にも、

障害に強制的に対時させる言動を避ける.
自発性を尊重して活動への主体者意識を高める.
自発性が低い場合には課題や活動への取り組みにプロンプト(促し)をきめ細かく提供する.
能力に 合わせた要求を心がける.
課題や活動を解決しやすくスモール・ステップ化する.
課題解決や活動に十分な時間を提供する.
課題解決の手がかりを適宜に提供する.
活動の仕方を具体的に例示する.
指示や要求は理解しやすく単純化して必要に応じて反復する.
課題解決や活動を妨害する要因(例: 騒音等)を排除する.
生活に役割や余暇活動を無理強いせずに取り入れて喜びや楽しさを体感させる. 

坂爪 一幸「前頭葉損傷に起因する社会的行動障害への対応」Journal of CLINICAL RRHABILITATION Vol.26 No.3

などが挙げられます。

具体的対応例:易怒性

易怒性は攻撃・興奮行動のひとつで欲求不満がある時に生じる傾向があります。
欲求不満は欲求・要求が満たされていない、 コミユニケーションが上手く取れてない、活動の未達成などで生じます。
身体疾患や疼痛、不快感、過剰刺激での過緊張、家族・関係者からの負の感情や態度、過大要求や期待による心的負担と失敗への恐怖、選択・判断の困難さに伴う葛藤等の精 神・身体的負担が欲求不満を招き、易怒性を生じやすくさせます。
対応では、欲求不満の発生の予防と解消が基本に考えていきます。
対象者に欲求不満が生じる原因や生じやすい行動をわかりやすく説明していきます。
空腹の訴え等の生理的欲求や要求に配慮いていくことも大切です。 不快感、痛み等など身体的不調の訴えの有無を確認し、可能であればそれを除去し、快適に過ごすことができるようにします。
本人の生活のペースを保てるようにする必要もあります。

生活の急な変化を避ける.
休息を適切に取り入れる.
押しつけや強要する態度は避けて受容的な態度で接する.
過剰な要求や過大な期待は避ける.
解決や選択や判断が難しい葛藤する状況に過度に曝さない.
適度な運動や気分転換の活動で過緊張を発散する.
易怒性やそれに伴う行動には過剰に注目しないで沈静後に対応する.
易怒性の出現時には他の活動に注意を転換するよう促す.
易怒性の沈静後に振り返りの話し合いを行う.

坂爪 一幸「前頭葉損傷に起因する社会的行動障害への対応」Journal of CLINICAL RRHABILITATION Vol.26 No.3

などがあります。

行動療法的アプローチ

技法の組み合わせ

望ましくない行動の修正には、通常「正の強化」や「タイム・アウト」などの技法が使用されることが多いですが、遂行機能障害の対象者にはこれらが有効でないことが少なくありません。
そのため、遂行機能障害の対象者には様々な技法を組み合わせることで行動の修正を図っていきます。
以下では、各技法の例を示します。

レスポンス・コスト

レスポンス・コストの例:
はじめに10円硬貨50枚を与えます。そして、次のように説明を加えます。
「15分後にチョコレートを買うことができますが、それまでの間に◯◯(修正したい行動)があれば硬貨を失います。◯◯(修正したい行動)があると、そのたびにセラピストが今何をしたかを尋ねるので、対象者は◯◯(修正したい行動)をしました」と言い、硬貨を1枚差し出さなければなりません。15分後に、36枚以上残っている場合に、チョコレートを買うことができます。」
36枚というのはあくまでも例で、はじめにベースラインを測定した上で枚数を決定します。

レスポンスコストと認知学習過程の組み合わせ

前途したレスポンス・コストに認知学習過程を組み合わせます。
具体的には、「私は◯◯(修正したい行動)の繰り返しました」と言い、その後1分間「私は◯◯(修正したい行動)をしてはいけない」と言い続けなければなりません。指示を紙に書いたものを目の前に提示します。

Aldermanらの実験

Aldermanらの実験では、3つの介入が検討されています。

トークンエコノミーとタイム・アウトの組み合わせ:
トークンとは擬似貨幣のことで、15分間隔で望ましい行動がみられればそれに対する報酬としてトークンを1枚与えます。トークンを貯めることで、その日のうちに好きなものと交換することができます。
タイムアウトとは望ましくない行動がみられた場合に、対象者をすぐにその場から連れ去り、別室に待機させる技法です。タイムアウトでは、スタッフに注目されることが報酬として作用しないようにするためです。
この方法では効果はみられなかったとされています。

個別の正の強化法:
課題の目標(修正を期待する行動)を続けることができれば賞賛とトークンを獲得できます。
トークンを10個獲得できれば好きな商品と交換できるルールです。また、10個獲得できるまでセッションを続けなければならないルールです。

レスポンス・コスト:
前途したようなルールに基づき様々な課題を行います。

3つの方法の中では、レスポンス・コストが一番有効であったとあります。
通常の強化技法やタイム・アウト法では有効な者と有効でない者に分かれますが、これらの間では、2重課題の処理能力に差があるとされており、有効でない者は2重課題の処理能力(ワーキングメモリ)が低いとされています。
レスポンス・コストは有効な技法ですが、トークンの準備や公の場で実践することが困難な場合もあります。

セルフ・モニタリング(自己監視)

Aldermanらの実験で、不適切発話に対するセルフモニタリングについて、5つの段階から構成された訓練を行っています。
第1段階(ベースライン):
スタッフが対象者を20分外出させ、不適切発話の頻度評価します。 

第2段階(自発的な自己監視):
対象者自ら開始した不適切発話の回数を正確にカウントできるかを評価します。 この旨を正確に対象者に伝えてから20分の外出を行います。
自分側から開始していない発話をカウントしないよう注意させます。 散歩始開始後はスタッフは計数を促すことはしません。帰ってから2人の計数を比較します。

第3段階(自己監視の促進):
不適切発話の自己監視を正確に行ない、それを習慣的に計測できることを目的とします。 対象者が計測を怠った場合は直ちに計測するよう言葉で促します。

第4段階(自立的自己監視、正確度改善の強化 ):
外的介入を受けなくても自己監視を高めることが目的となります。20分外出中の計数がセラピストの計数と比較し、±50%の範囲内であったら、強化報酬を与える約束をします。 

第5段階(自立的自己監視、差異強化技法):
対象者が発する不適切発話の頻度を抑制することが目的となります。差異強化技法は、
標的行動の低頻度発生の強化を目指して行われます。発生頻度の許容上限を設定し、それを超えなければ強化報酬が得られることを約束します。徐々に許容上限を調整していきます。

認知リハビリテーション

認知リハビリテーションの考え方

高次脳機能障害のリハビリテーションでは、自己の状況を理解・認識し、回復のために低下した機能を改善させ脳機能のネットワークを賦活することの必要性を認識することは難しい傾向にあります。
そのため、高次脳機能障害のリハビリテーションでは、どのように病識(自己モニタリング)を改善させるかということが効果に大きく影響します。
リハビリテーションでは自己モニタリングを改善させながらも、そのことで心理的な落ち込みや抑うつにならないための心理的支援も必要になります(機能回復と情動支援)。
リハビリテーションへの動機付けとしては、見通しのある適切な目標設定を行い、目標達成を意欲的に続けていけるような説明が重要となります。

遂行機能改善に向けての方策

Mateerらの遂行機能の臨床モデルでは、遂行機能の対象となる機能を「行動の開始」「行動の中止」「行動の維持」「順序化と時間的調整行動」「創造性、流暢性、問題解決スキル」「自己評価と洞察」としています。
起床から就寝までの自動化した日常生活動作の遂行では前頭前野の活性は見られず、新規行動(新しい課題、変更、急な対応)の遂行時には前頭前野の活性が見られます。
このことから遂行機能では、課題がいくつかあるとき、課題の優先順位決定、新規の解決方法の考案、計画の効率的な実施などすでに学習しておらず、日課でない目的志向活動の遂行に必要な能力といえます。
遂行機能改善には、Ciceroneの自己教示法やCrammonの問題解決法が有効だとされています。

自己教示法

Ciceroneの自己教示法では、交通事故による右前頭葉損傷者(20歳)のplanning障害に対して、週2回各1時間を8週間、下記の方法を行い、週1回1時間実生活上の問題について自己教示法の汎化の指導を行い、その結果、自己コントロールの改善が見られたとの報告があります。
目的:Planningや実際の行動を明確な言語的な統制下に置くことで、自分の思考や行動に対する制御を強化し、さらに外的な言語統制を順次内的な言語統制に移行させます。
方法:トロントの塔課題を規則のもとで最小手数で実施します。はじめにモデル提示をし、具体的な手順を述べ、実際に解決行動を言語化しながら課題遂行していきます。言語化した課題を声に出さずに行えるまで実施します。
円盤を3個から始め、10回連続施行できたら円盤の数を増やします。
間違えた箇所に対し、具体的な疑問を作ることで、自己洞察を行いやすくしていきます。

問題解決法

Crammonの問題解決法では、頭部外傷者の問題解決能力の改善のために週2回各1時間を6週間、問題分析→問題解決→評価の手順で実施し、日常生活においても施行の柔軟性や問題同定に改善を認めたとの報告があります。
目的:問題解決能力の改善。解決法の言語化による類推過程の意識化を行い、結果を確認をしっかりと行い行動観察評価の意識化を促します。そこから誤答に対する解決への手がかりを利用します。
方法:レーブン色彩マトリックス検査課題を用いて、規則性を見出し、規則性に適合する回答を選択肢から、問題解決過程を言語化させながら類推します。解決が困難な場合はヒントや手がかりを与えます。
課題での気づきや洞察を、対象者が困っていることや解決したいこと、重要と考えている作業に結びつけ、対処法を一緒に考えていくこともあります。
課題遂行が十分でない時に、どのような考え方をしたのか、注意していたのか、などを自己の言葉で表現させ、それが重要な作業や解決したいことにどのような影響があるのかについて考えていきます。

 

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高次脳機能障害と心理反応

負の心理反応が発生するメカニズム

負の心理反応(感情の状態)は、社会(環境)との円滑な交流が妨げられることによって生じます。
言語理解、認知、注意、 記憶等の機能障害の存在は、社会(環境)からの情報に対する理解度の低下を招きます。
会話の理解や状況把握と見通しが立てにくい、情報が理解できないことにより困惑や不安が生じます。
言語発話、 注意、行為、遂行機能障害などがあると、 社会(環境)への情報表現能力が低下します。 また会話表現や状況に即した臨機応変な行動ができなくなります。
情報表現が不十分な場合、欲求不満が発生ることが多くあります。
情報表現に失敗すると自己効力感を喪失により無力・抑うつが生じる可能性が高くなります。また不安、欲求不満、 無力・抑うつに加えて、孤独、悲嘆、退屈、焦燥、偏執、妄想等生じることがあります。
困惑や不安、 うまくいかないときの欲求不満、無力・抑うつが生じることは、人間や動物に共通する学習機序によるものです。

ヒトや動物は経験した環境に既知感を持ち (馴化型学習),環境の変化を予測し(パブロフ型学習),そして環境への行動を変える(オペラント 型学習). これらは環境に適応する基本的な学習機序であり,神経基盤は大脳皮質下が中心で,通常は非意識的に機能している.

坂爪 一幸「前頭葉損傷に起因する社会的行動障害への対応」Journal of CLINICAL RRHABILITATION Vol.26 No.3

本来であれば、この負の心理反応は行動を適応的に変えるためのものです。
わからない状況に困惑・ 不安を感じるため探索して状況を確かめる、現在の行動が不十分なため欲求不満を感じるので別の行動を試してみる、 結果が出ずに無力・抑うつを感 じるためうまくいかない行動をやめるなどの適応行動をとります。

詳しくはこちらの記事を参照してください。

家族の心理への配慮

 

家族指導(説明)のポイント

社会的行動障害の診断名を説明するだけでは家族は何に注意をすればよいかはわからず、イメージも湧きません。
具体的な説明と実践的指導のポイントには以下のようなことが含まれます。
①社会的行動障害の基盤にある症状
②負の心理反応と逃避・回避行動の発生のメカニズム
③日常場面での問題の生じ方
④問題への具体的な対応方法
⑤家族が陥りやすい心理反応と対象者への態度
⑥日常で生じやすい問題解決のためのマニュアル作成
⑦心理的安定のための相談相手・場所や拠り所(家族会など)の紹介・確保

介護、援助者の関わり方

遂行機能障害や社会的行動障害では、問題点を家族から指摘したことにより、それを受け入れにくい本人との間に軋轢が生じることがあります。
このような状況の解消には、家族・周囲の人が具体的な対処方法を身につけておくことが必要になります。
介護者コミュニケーション法では、
①選択的に行動を無視する
②注意を別のところに向けさせる
③選択肢を提供する
④期待を下げる
⑤引き下がりもう一度試みる
⑥静かに話し、中立的な立場を維持する
⑦対象者の不快感が増している兆候を見分ける
⑧対立と喧嘩を避ける
ことを念頭に置いてコミュニケーションを図ります。
この技法では、家族や周囲の人が持つ期待を変容させ、コニュニケーションのパターンを修正していきます。効果がありますが、技法を身につけるにはかなりの根気・努力とコツが必要になります。
なお、この技法の実践においては、前もってモデリングや演習を十分に行う必要があります。