記憶障害のリハビリテーションでは、誤りなし学習の効果が高いとされています。しかし、対象者の状態や課題によっては試行錯誤学習を取り入れていく場面も必要になります。今回、記憶障害のリハビリテーションにおける誤りなし学習と試行錯誤学習の使い分けについてまとめていきたいと思います。

記憶障害のリハビリ:誤りなし学習と試行錯誤学習の使い分け

誤りなし学習と試行錯誤学習

エラーレス学習(誤りなし学習)とは、誤りをさせない学習方法です。
一方、誤り(試行錯誤)を通じて学習していく方法は、エラーフル学習(誤りあり学習)になります。

誤りなし学習に適している課題は、知識を覚える、単語を覚える、対連合学習(2つの項目を対として覚える)などとされており、メモリーノートの導入時にも効果的だとされています。

試行錯誤学習では、誤りの中から自身への気づきを高めたい場合などに用いられることがあります。
このような自己認識を高めていくことで、問題解決方法を生み出したり、対処方法を自ら立案していくことにつなげていくことがあります。

記憶障害とリハビリテーションに関する記事は以下を参照してください。
記憶障害のリハビリテーション:PQRST法
ワーキングメモリのリハビリ、鍛え方:Nitendo 3DSを用いて
メモリーノートの使用による記憶障害に対するリハビリテーション
記憶障害のリハビリテーション:間隔伸張法
記憶障害のリハビリテーション:道順を覚える戦略
記憶障害のリハビリテーション:エラーレス学習のすすめ!

試行錯誤学習を用いる場面はどのような時か

論文「記憶障害者への社会生活・復職におけるメモリーノートの汎化に向けた取り組み」では、メモリーノートを社会生活で使用するために試行錯誤学習を用いています。

試行錯誤学習において、様々な状況を通じて「失敗」を体験しますが、この失敗体験により自身の障害への気づきが高まることを期待します。
しかしながら、失敗体験をすることは対象者自身の喪失体験にもつながってしまうため、適切なフィードバックや励まし、賞賛が必要なのは言うまでもありません。

どのような新規課題においても、障害への気づきを高めたい場合には、多少の失敗を伴う試行錯誤学習を導入する方がよいのかもしれません。
注意点としてですが、対象者の精神的機能(ストレス耐性など)を把握した上での導入が必要になります。

試行錯誤学習を用いるのはどのような対象者か

試行錯誤学習を用いることができる対象者の状況としては、ある程度自身の障害認識がある方になるかと思います。
例えば課題遂行後のフィードバックにおいて、セラピストが誤りを指摘してもそれに対して我関せずといったような方には導入が難しいまたは時期尚早と考えられます。
フィードバックに対して誤りに気づけるレベルの方であれば、誤りなし学習を導入して誤りに気付かせないまま課題を進めるよりは、試行錯誤学習により誤りを気付かせる機会を設けた方がよいかもしれません。

記憶障害があっても、注意機能、知的能力や問題解決能力のような前頭葉機能の働きが良好であれば、自身の障害への気づきが高いことが多く見受けられるように思います。
これは、リハビリテーション場面だけではなくて対象者が生活する病棟、家庭、職場などの様々な場面での様子から評価し、得られる情報です。
このような評価情報から対象者のアウェアネスがあるていど高いと判断できれば、試行錯誤学習を用いることもひとつの方法になるかもしれません。

記憶障害者のアウェアネスを評価する方法

さきほど、アウェアネスの高さの評価が試行錯誤学習を導入するための情報だと述べました。
記憶障害者のアウェアネスを評価する方法としては、「KapurとPearsonの記憶評価スケール」があります。

質問項目として、
・日付
・月
・長年の知り合いの顔
・1,2度会った人の名前
・長年の知り合いの顔
・1,2度会った人の顔
・よく知っていた場所への道順
・1,2度行ったことのある場所への道順
・物を置いた場所
・人から言われたこと
・読んだこと
・その他の記憶の問題(記述)
があります。
患者自身と介護者が個別に、各項目に対する現在の能力と病前の能力を比較し、「ほぼ同じ」「やや悪い」「非常に悪い」のどれに当てはまるか判定します。両者の評価結果がよく一致している場合、患者の記憶障害への認識は適切であることが推測されます。
この評価を行うときに、患者と介護者では異なる場面(経験)を根拠にして質問に答えている場合があるため、各質問項目に対して、具体的なエピソードを聞き取りながら行うこともひとつの方法であると思われます(記憶障害のため具体的なエピソードが出て来にくいかもしれませんが)。
詳しくは以下の記事を参照してください。
記憶障害の認識(アウェアネス)を評価するための方法