プッシャー症状を呈する方の姿勢の改善方法について、文献を参考に、知識の整理と介入の考え方についてまとめていこうと思います。
目次
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プッシャー症候群が見られると、様々な姿勢において、非麻痺側上下肢を強く突っ張り、麻痺側に倒れてしまいます。
また、他動的に姿勢を正中位に正そうと非麻痺側に移動させようとしても、さらに突っ張ってしまうような反応がみられます。
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病巣側については、中〜重度片麻痺では右半球の損傷に多く見られますが、左半球損傷でもみられることがあります。
病巣部位では、視床出血例に多く見られ、皮質病巣では責任病巣は不明確です。
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pusher症候群では、前庭系とは別の重力の方向感覚と身体の垂直位姿勢制御の神経経路に問題があることが示唆される。
体性感覚(固有感覚)だけでは身体の姿勢制御に不十分であり、一方、体性感覚障害自体ではpusher症候群は起こらない。
体幹の重力受容器として、腎(交感)神経を介する求心性入力、横隔神経または迷走神経を介する大血管内の血液ないしは腹部臓器の重力に関する求心性入力を候補にあげる考え方がある。
これらが皮膚や筋・腱からの感覚入力を基盤として機能する上で、視床後部、島皮質、中心後回皮質(pusher症候群を生じる病巣部位)が重要という考え方があるが、仮説の域を出ていない。
高次脳機能障害学 第2版 P183
というように、現状でははっきりとした機序はわかっていないようです。
一方、脳のプログラムを用いてプッシャー症候群を説明する立場もあります。
片麻痺の方は、非麻痺側のinput、outputは十分で(十分でない場合もあります)、麻痺側のinput、outputは不十分であり、姿勢は麻痺側へ傾倒していると認識されます。
そこで、脳のプログラムは左右の均衡を制御するために、麻痺側へ体重を移動させ、かつ麻痺側の支持機能を発揮させるために麻痺側の筋収縮を高めるように運動指令を出します。
しかし、麻痺側の筋収縮は上手く発揮できないため、麻痺側へ移動させた体重を支持することができません。
その結果、麻痺側への傾倒がみられたままになってしまいます。
視覚的垂直認知と身体的垂直認知の観点からも説明されることがあります。
視覚的垂直認知は、開眼時の垂直軸をさし、身体的垂直認知は閉眼時の垂直軸をさします。
プッシャー症候群を呈する方では、開眼時の視覚的垂直認知はほぼまっすぐですが、閉眼時の身体的垂直認知が非麻痺側へ寄ってしまっているとの捉え方があります。
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プッシャー症候群のリハビリテーションにおいて大切なことは、自発的な運動によって、麻痺側に傾いた体幹の姿勢を正していくことにあります。
強制的に左右の均衡をとらされると、危険回避のプログラムの作用が相乗的に加わり、プッシャー症状はさらに増悪します。
ですから、当たり前の動作をする中で、自然に非麻痺側へ体重を偏移させて重心を保持する動作が思わず自動的に作動すれば、非麻痺側で体重を支持し麻痺側へ傾倒しない動作プログラムの基本がその時に起動して、現在の麻痺した状態に適した新たな姿勢の保持・動作、新たな正常へと転換されていくことが設定できます。
片麻痺 能力回復と自立達成の技術 現在の限界を超えて P14
他の介入方法の参考になるものとしては、
1)健側の骨盤で安定した台に寄りかかり、膝装具で麻痺側の膝折れを防止して健側への重心移動が安心して行えるようにする。
2)健側上肢で風船をつく、セラピストの示す部位へリーチ動作を行う等により、pushingを誘発せずに、健側への体重移動を促す。
3)患側に傾くのを矯正せず、倒れそうになるまで傾けた後に、自発的に立ち直らせ、セラピストが伸ばした上肢の向きで示す垂直位などの視覚性手がかりも利用して姿勢を誘導する。高次脳機能障害学 第2版
などがあります。
また、自分の体の垂直性を認知するには、視覚と体性感覚が統合される必要があります。
自分の体の状態に積極的に意識を向け、身体の両側に受容野をもつニューロンが体の正中についての情報を集め、視覚と体性感覚の統合が図られ、空間内での自分の体の傾きを認知していきます。
プッシャー症候群では、感覚障害が重度なほど体軸の傾きが大きいとされており、いかに感覚入力量を増やしていけるか、また感覚入力の認識を高めていけるかという視点も必要になります。
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Scale for Contraversive Pushing(SCP)は、プッシャー症候群を定量化できる評価方法です。
姿勢、伸展、抵抗の項目から構成されおり、座位、立位で評価を行います。
より高い得点はプッシャー症状の重度さを表しています。
各項目、座位、立位にて評価します。
A.姿勢(自発的な姿勢の対称性)
スコア1=麻痺側への傾きが大きく転倒する
スコア0.75=転倒はしないが麻痺側へ大きく傾く
スコア0.25=転倒はなく麻痺側へ軽く傾く
スコア0=傾きはない/直立に身体を定位
合計(最大=2)
B.伸展(地面への物理的な接触面積を拡大するために腕や脚の使用)
スコア1=安静位で実行
スコア0.5=姿勢が変化するまでは実行されない
スコア0=伸展しない
合計(最大=2)
C.抵抗
スコア1=抵抗あり
スコア2=抵抗なし
合計(最大=2)
*Bで座位の場合、マットレス上の臀部を非麻痺側方向へ滑らすよう、ベッドから非麻痺側方向への車椅子へ移乗するよう、またその両方を行わせます。
*Bで立位の場合、歩行を開始するようにさせます。座位からの立ち上がり時ですでに押し込みがある場合、立位の1の数値となります。
*Cでは胸骨と背部で患者に触れ、「私(セラピスト)はあなたの身体を側方に移動します。それを受け入れて(可能に)ください。」と指示を出します。
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プッシャー症状の治療においては、非麻痺側で体重を支持する姿勢を獲得していく必要があります。
これには、非麻痺側の側方いっぱいに手を伸ばして物を掴みとろうとする動きが必要になります。
お金を非麻痺側側方へ提示されると、思わずお金に対して手を伸ばします。その際、遠くへ手を伸ばすため、その方向に重心を移動させる脳のプログラムが働きます。
このような、非麻痺側支持姿勢の保持を常に働くようにしていきます。
使用物品は輪(輪投げの輪など)、輪を入れるポールです。
非麻痺側側方に置いた輪を非麻痺側手で取り、輪をポールへ入れ、それを取り出します。
注意点としては手をポールまで十分にリーチさせること、輪を投げ入れないことです。輪を投げ入れてしまうと、その反動
麻痺側への体重移動が起きてしまいます。
狙いは非麻痺側支持姿勢の保持が常に働くことです。
非麻痺側手で輪を取ろうとして非麻痺側に体重を移しながら非麻痺側臀部・下肢で支持します。
非麻痺側で体重を支持した座位や立位姿勢を保ちながら、輪を持った非麻痺側手をさらに非麻痺側に設置したポールの先端にリーチさせます。
そして、ポールに輪を通して基部に置きますので、動作中は常に非麻痺側で主に体重を支持し続けることになります。
片麻痺 能力回復と自立達成の技術 現在の限界を超えて P18
輪を10本1セットとして、1日3〜5セット行えるようにします。
非麻痺側支持にて非麻痺側へのリーチだけでなく、非麻痺側支持にて麻痺側へのリーチも行うことは、更衣動作での座位バランスにつながっていきます。
また非麻痺側支持にて麻痺側下方にリーチすることは、床の靴をとる動作につながっていきます。
このように、段階付けされた作業により、日常生活上必要とされる座位バランスの獲得も同時に期待できます。
立位でも、座位同様段階付けを行いながら非麻痺側支持姿勢の獲得を図っていきます。
プッシャー症状が強い場合、非麻痺側側方から始めると非麻痺側支持姿勢が促しやすくなります。
立位姿勢での作業に不安がある場合は、スタンディングテーブルにて臀部固定し実施することもあります。
非麻痺側支持にて麻痺側膝付近へのリーチは排泄動作の下衣操作への獲得につながります。
座位、立位とも、非麻痺側支持が安全に、転倒のリスクなく行えるようになれば、麻痺側支持での作業も行なっていきます。
視覚と触覚の統合を図り、プッシャー症状の改善を試みていきます。
必要物品は全身鏡です。
①鏡の前に座り(立ち)、鏡に手を触れ、手と鏡に写った手のとの一致を確認します。
②患者は目で自分の麻痺側の肩を見ながら、非麻痺側手で肩に触れます。
③麻痺側の肩に触れたまま、鏡で身体の状態(麻痺側の肩が下がっているか)を確認します。
④鏡の前にひもを垂直に垂らし、それを見て身体を正中位にもっていきます。
この時、患者にどのくらい傾いているか読み取っているかを確認することも大切です。
答え方は角度、距離、長さ、かなり、少し、だいぶなどと様々です。鏡を見た時点で傾きがわかる方は、鏡に真っ直ぐな基準となる線をイメージできたか、脳内に写された姿の傾きを読み取ったかなどと推測できます。
傾きを読み取れない場合には、④のひもなどで基準線を示す必要があります。
しかし、身体が傾いた状態では視覚的な垂直と実際の垂直が同じになるとは限りません。
そのため、妥当な範囲の基準となる垂直を提示する必要があります。
体幹だけではなく、頭部の傾きに対しても修正していく必要があります。
頭部の傾きは体幹の動きに連動した傾きの場合や、内耳の情報処理に問題がある場合が考えられます。
視覚的に頭部の傾きを修正する場合
①鏡を見ながら、頭部が傾いていることを確認します。
②頭部を立てて、正中位にしてもらいます。(「頭を立ててみて下さい」「(頭を触りながら)一緒に頭を立てましょう」)
③頭を立てることができれば、両肩が水平になるよう声かけ誘導、または肩に手を置き動作を誘導しながら立ち直りを促す。
内耳の感覚で頭部の傾きを修正する場合
①患者の非麻痺側のこめかみ周囲に軽くタップし、非麻痺側へ眼球を移動させる(「非麻痺側方向を見てください」)
②両手で患者の頭部に触れながら、正面に顔を向けるように誘導する(「正面に向いてください」)
③頭を立てることができれば、両肩が水平になるよう声かけ誘導、または肩に手を置き動作を誘導しながら立ち直りを促す。
視覚を頭部の動きに対し先行させることで、視覚と内耳の平衡感覚の乖離を防ぎ、めまいや違和感が生じないようにさせています。
体幹の脊柱起立筋群の筋や腱の感覚、脊椎骨間の関節の感覚、臀部の圧の皮膚感覚などに対し、感覚入力をし姿勢を修正することも考えられます。
①患者の麻痺側肩に手を添え(肩峰から上部僧帽筋停止部)、非麻痺側臀部、坐骨に向かい押し込むようにタップし、手を元の高さに戻します。
このようなタッピングを間欠的に加えることで、体幹の立ち直りが期待できます。
片麻痺患者の場合、麻痺側への入力が減少しているため、これまでと同じように座ると「麻痺側臀部への荷重量が少ないと感じ、そのため非麻痺側に姿勢が傾いていると認識する」のです。
そこで、患者は麻痺側への荷重量を多くして、左右の荷重量を釣り合わせようとします。
しかし実際には、これまで左右が等しい荷重量となっていたとしても、さらに麻痺側への荷重量を上乗せしたため、麻痺側への荷重量が多くなってしまい麻痺側に傾いてしまうのです。
このため、片麻痺患者は麻痺側に傾いた姿勢をとっているのです。
片麻痺 能力回復と自立達成の技術 現在の限界を超えて P30
タッピングで麻痺側への感覚入力を行うと、麻痺側への荷重量が増加したと認識され、体幹を立ち直らせて左右均衡のとれた体重支持にしようとします。
そして立ち直った状態でも、左右の荷重量が等しいと認識し、姿勢の保持を促すことができるようになっていきます。
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