構成障害に対するリハビリテーションでは、構成障害がどの要素から生じているかを分析し、その要素に対して具体的にアプローチすることが重要になります。今回、構成障害に対するリハビリテーションアプローチについて、文献を参考にしながらまとめていきたいと思います。
目次
構成障害に対するリハビリテーションアプローチ
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参考文献
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構成課題における誤りの分類と構成障害のメカニズム(病巣との関係)
構成課題における誤りの分類
単純化:描画の細部の省略、積み木模様の細部の省略がみられます。
密着現象:再生図が見本図に接近して描かれている、または見本図の上に重ねて描かれることがみられます。
積み木課題においても、見本図または見本の積み木に密着させて置いたり、見本図や見本の積み木の上に重ねて置くことがみられます。
空間的失見当識:見本図と比較し、描画図が空間的に異なって(逆転、回転)描かれます。積み木課題においても、逆転や回転がみられます。
垂直軸or水平軸の崩壊:空間の基準(垂直軸、水平軸)に対して、歪んだ描画となります。
積み木課題においても、垂直・水平軸の関係を歪めて構成されます。
回転:全体や背景に対して構成要素部分を適切な位置に構成できない。
45°以上回転して描いたり配置したりします(空間的失見当と同義)。
保続:全体、または図形の部分を反復して描いたり配置したりします。
断片化と省略化:図形の要素部分を省略したり、断片的に描いたりします。(単純化と同義)
統合と配置の困難:構成要素部分を適切な位置に配置できません(空間的失見当、回転と同義)。
置換と付加:違った図形や描画を描く、図形や描画に余計なものを付け加えています。
不注意による誤り:本来の構成障害による誤りでなく、健常者にもみられる不注意による誤り。
無視による誤り:半側空間無視による誤り。構成要素の単純化、歪曲、抜け落ちなどが見られます。
構成障害というよりも、視空間認知の障害による誤り。
並べ上げ:積み木構成課題で、垂直方向や奥行きを無視して積み木を横に並べます。
取り壊し:積み木構成課題で、見本の積み木を壊してしまいます。
無目的な反応:構成活動とは関係のない無目的な反応が見られます。
積み木を構成するという目的的な動きがみられません。
自己修正の失敗や欠如:構成活動の誤りを修正することができません。
解決できないことに困惑し、遂行できないことに気づいても誤りを自ら修正することができません。
病巣部位と誤りの傾向
構成障害は左右どちらの大脳半球が損傷されても生じる可能性があります。
頭頂葉との関連が深く指摘されており、一般に左よりも右大脳半球損傷後に構成障害が多くみられ、重症化するという報告が多くあります(一部批判もあり)。
損傷側や損傷部位により構成障害の誤りに質的な違いがあると言われています。
左大脳半球損傷
左大脳半球では、構成活動の実行手順の段取りや計画の困難さ(行為的側面)における障害の要素が強いと言われています。
左大脳半球損傷での誤りの特徴として、単純化を起こしやすいことが挙げられます。
図案や積木の模様などの外側の全体的な枠組み(輪郭)や構成要素間の空間的配置関係は維持されやすいが、内側のより詳細な細部の構成に困難を示しやすい。
ほかにも、構成物を完成させるまでに要する手順が多い構成課題で困難を呈しやすい。
また手本を提示することによって、構成課題の実行が改善されやすいという特徴が指摘されている。
よくわかる失語症と高次脳機能障害 P309
不正確さや誤りに対する洞察は、右半球損傷に比べると保持されていることが多くなっています。
右大脳半球損傷
右大脳半球では、視知覚的・視空間的分析(図案や積木模様の構成要素の相互関係の知覚)が困難となります。
構成活動を秩序立てて組織的に行うことが困難になりやすい。
単純な形よりも、複雑で立体的な形の構成に困難を示しやすい。
描画課題では図形や図案の構成要素自体は正確に再現するが、構成要素間の空間関係が歪んでしまう。
構成要素の配置位置の間違いが生じやすかったり、余計な線を付加して描いたりしやすい。
また半側空間無視に起因する構成要素の脱落や、構成要素を右側部分に偏らせて混み合って描くなどの誤りが生じやすい。
二次元の構成課題では、図案模様の内側の特徴は保持されるが、外側の輪郭が崩壊しやすい。
よくわかる失語症と高次脳機能障害 P310
不正確さや誤りに対する洞察を欠き、気にしないことが多くあります。
前頭葉損傷
前頭葉では、構成活動の手順を意図・計画・組織化・修正したりすることにおいて困難さがあります。
このような遂行機能障害が構成的誤りを生じさせます。
構成障害のメカニズム
構成障害のメカニズムには、いくつかの考えがあると言われています。
右大脳半球損傷による構成障害では視空間情報処理での障害が強調されており、左半球損傷による構成障害では運動過程の障害(行為実行の手順のプログラム設定)が強調されています。
一方で、知覚過程と運動過程を明確に区別することは困難という視点から、空間形態の視覚的イメージの構成が障害され知覚・運動が未分化(失行=失認)な状態に退行したと考える立場もあります。
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構成障害と評価、解釈ー構成が崩れる要素とはー
構成障害の症状
図形の模写、ブロックデザインの組み合わせ課題、積み木課題などがうまく行えない症状です。
構成障害による生活障害に決まりきったものはありませんが、その中心となる症状は「視覚対象の位置関係を捉え、空間操作をすることの障害」です。
構成能力が必要な日常生活動作としては以下の様なものが挙げられます。
書字 | 字の形を整えにくい ハガキに宛名を書くとき、書く場所が定まりにくい |
更衣 | 衣服をうまく着られない ボタンを掛け違える 衣服をたたむのが苦手 |
家事 | 部屋の整理整頓が苦手 布団をきちんとたためない 布団にシーツカバーをかけられない 包丁で等間隔に物を切れない 食器棚に食器を戻すとき、元の位置に戻せない |
仕事 | パソコンのキー配列が覚えられない 設計図がうまく書けない 地図を見て、現在地と周りの建物との関係がわかりにくい 品物の包装がうまくできない |
自動車運転 | 車庫入れで車幅がわかりにくい |
これは考えられる症状であり、必ず見られる生活障害ではありません。
構成が崩れる要素
構成が崩れる原因としては、半側空間無視、全般的知能低下、分析能力や計画性の問題などが考えられます。
模写課題による構成の誤反応の例としては
①構成要素の省略
②手本の上に重ねる
③回転した向きで書く
④余分な線が書かれる
などがあります。
このような誤反応に対して、途中でどこを書いているかわからない場合は、書き写す対象への視覚的な注意や記憶の保持ができないことに起因するかもしれません。
構成要素の部分から書く場合は、全体的処理が困難で空間的配置に誤りが出てしまっているかもしれません。
あるいは、位置や方向性などの空間認知障害のためかもしれません。
これらを評価するためには、書いた結果だけではなく、書く過程にも注目する必要があります。
構成障害の検査
模写課題では標準高次動作性検査にある透過立方体がよく用いられます。
立方体で障害が見られる場合、ベントン視覚記名検査の図版や△◇などの単純図形の平面図にも障害があるか評価します。
また、構成の阻害要因を把握するために、フロスティッグ視知覚発達検査や、Reyの複雑図形などの標準化された検査を用いる場合もあります。
半側空間無視についてはBIT行動性無視検査、知能低下に関しては最低限HDS-RやMMSEを実施します。
またコース立方体テストでも構成要素の評価が可能となります。
病巣
構成障害は右・左半球どちらの損傷でも生じ、後方病巣の他前頭葉損傷でも生じる可能性があり、大脳、または基底核、視床病巣であればどの部位でも生じる可能性があります。
右半球の損傷では半側空間無視を伴っている可能性があり、無視がない場合は知能低下を引き起こすような広範な、もしくは左半球を含む機能低下を伴う可能性があります。
画像上の主病巣の他、多発性脳梗塞、脳萎縮、脳血流の低下がないかにも注目します。
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構成障害のリハビリテーションアプローチ
構成障害を生じさせている要素の分析
リハビリテーションアプローチを根拠あるものにするためには、構成障害を生じさせてる要素を分析する必要があります。
まず、構成障害と知能障害の関係性についてみていきます。
構成能力は大脳半球の頭頂葉の領域を中心としますが、構成能力は大脳皮質の統合機能を反映することから、他の皮質領域の損傷でも構成能力は低下することがあります。
認知症(特にアルツハイマー型)では、比較的早期より頭頂葉領域の萎縮がみられ、描画課題において図形や図案の単純化、歪曲、見本への密着、重複などがよく観察されます。
構成課題は動作性(非言語性)知能と流動性知能(推論、思考力など)の要素が強く、加齢による低下を受けやすくなっています。
このことから、知的能力の低下による構成障害と、知的能力は維持されているが構成能力が特異的に低下しているものとを鑑別することが必要になります。
そのため、知的能力の評価や、構成活動に関連した各能力の評価が重要になります。
左大脳半球では、構成活動の実行手順の段取りや計画の困難さ(行為的側面)における障害の要素があるかどうかを把握していきます。
右大脳半球では、視知覚的・視空間的分析(図案や積木模様の構成要素の相互関係の知覚)の要素があるかどうかを把握していきます。
書き写す対象への視覚的な注意や記憶の保持ができないことが原因となっている場合もあります。
リハビリテーションアプローチの視点
リハビリテーションアプローチの基本的な視点としては、
①障害された機能や能力の反復練習(直接的介入)
②障害された機能に他の機能や構成要素を介在させ、障害された機能や能力を達成する(代償的治療介入)
③外的補助手段を利用して障害された機能や能力を補う(補填的治療介入)
④日常生活上の適応行動の増加や問題行動の予防・減少を目的とする(行動的治療介入)
⑤患者の機能や能力に適合するように生活環境を整える(環境設定的治療介入)
があります。
構成障害を生じさせている要因の分析からそれを同定し、個別介入するボトムアップ式とアプローチと、構成能力全体にアプローチするトップダウン式のアプローチがあります。
トップダウン式では、構成課題解決への見通しや洞察が必要とされるために、対象者の知的能力が保たれている必要があります。知的能力が良くない場合にはボトムアップ方式が選択されることが多くなります。
構成障害のアプローチには、直接的治療介入、代償的治療介入、補填的治療介入を実施することが多いですが、効率的に学習できるよう様々な工夫を加えながらアプローチを行っていきます。
直接的治療介入
構成課題を反復練習するなかで構成能力を刺激し賦活することで回復・改善を図ります。
対象者に合ったレベルから開始し、徐々に難易度を上げていきます。
代償的治療介入
構成課題に解決に必要な視空間分析能力の低下に対し、触覚や運動覚により代償させます。
模写では見本を指でなぞらせ、触覚や運動覚を活用します。
三次元課題では、対象物を手で探索して、構成部分の位置関係を視覚・触運動覚を通して把握します。
補填的治療介入
構成課題の実行手順を理解するために、外的補助(構成部分への数字の添付、あらかじめ図案や模様の一部を記しておくなど)をすることで解決に導きます。
また、患者の手を誘導しながら、実行手順を時間的順序に従って導いていく方法もあります。
学習を促すための方法
①手がかり漸増法
必要な手がかりを最大限から、徐々に減らしていく方法。課題達成状況に合わせて、適切に手がかりを調整する必要があります。
②無誤謬学習法
課題実行時に誤り反応が出現しないように課題レベルを調整(段階付け)します。
課題の途中に発生する誤りは、正しい反応の獲得を妨げるという考えからです。
③逆向的連鎖化
通常の実行手順とは逆に、最終段階の一歩手前から練習していきます。
最終段階の一歩手前からが可能になれば、もう一歩手前から、さらに一歩手前からというように、完成に達するまでの課題を練習します(逆順で行う)。
最終的には、最初の段階から完成できるように学習させていきます。
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