脳卒中片麻痺者では、目標を立てる際に予後予測を行う必要があり、それに基づいてリハビリテーションアプローチやプログラムが選択されます。今回、脳卒中片麻痺の予後予測(急性期、上肢、歩行、失語)の方法についてまとめていきたいと思います。
目次
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・NIHSS
・MI(Motricity Index)
・FMA(Fugl-meyer Assessment)
・TCT(trunk Control Test)
・FIM
発症時のNIHSSを用いた機能予後予測の研究があります。
3ヶ月後のmRs 0-2のカットオフ値を設定し、
前方循環では、発症時のNIHSS≦8
後方循環では、発症時のNIHSS≦5
が予後良好としています。
つまり、前頭葉・側頭葉・頭頂葉は発症時NIHSSが8点以下、後頭葉・小脳・脳幹は発症時NIHSSが5点以下で予後良好とされています。
NIHSSは脳卒中の重症度を評価するスケールのひとつで、tPA(脳梗塞の治療法)の適応判断に重要とされています。
NIHSSで5ー15点がtPAを積極的に適応することとされており、満点は42点で最重度となります。
新版は項目数が少ないため、旧版が用いられることが多いです。
5分以内に評価可能で、rt-PA静注療法ではrt-PA静注中の1時間においては15分ごと、その後投与開始から7時間(投与後6時間)は30分ごと、その後24時間までは1時間ごとにNIHSSを施行する管理指針があります。
急性期用ではあるが、リハビリで応用もできるのではないかという意見もあります。
評価ではリストの順番で実施します。
患者ができるだろうと推測して評価を行ってはいけません。
指示されていること以外で誘導してはいけません。
なんらかの理由で実施できない項目があった場合にはその理由を記載します。
①意識障害ー質問
②意識障害ー従命
③注視
④視野
⑤顔面麻痺
⑥左上肢運動
⑦右上肢運動
⑧左下肢運動
⑨右下肢運動
⑩運動失調
⑪感覚
⑫感覚
⑬言語
⑭構音障害
⑮消去現象/無視
評価用紙はこちらを参照してください
満点は42点(最重症)ですが、最重症では失調症の評価は実施できないため、最重症は40点となります。
意識障害がありJCSⅢ-300の場合、各項目は高得点となります(失調は0点)。
脳神経項目が少なく後方循環の評価が不十分になりやすい、言語機能の点数配分が高く、左半球障害で高得点になりやすい、軽い麻痺は見逃されやすい、同じ点数でも、症例によりADLの状態が異なる場合があることが注意点となります。
急性期脳卒中における予後予測として、発症時NIHSSから機能予後を予測する研究があります。
それによると前方循環、すなわち前頭葉、後頭葉、頭頂葉は発症時NIHSS8点以下で予後良好、後方循環、すなわち後頭葉、小脳、脳幹は発症時NIHSS5点以下で予後良好とされています。
発症後3日以内の予後予測において、6ヶ月後の上肢機能の予後決定因子となるものに、MI(Motricity Index)と、FMA(Fugl-meyer Assessment)があります。
発症後3日以内のMI(Motricity Index)shoulder Abduction≧9、FMA(Fugl-meyer Assessment)Finger Extension≧1、すなわち肩外転MMT1以上、手指伸展MMT1以上であれば6ヶ月後の上肢機能の予後は比較的良好とされています。
発症後3日以内の予後予測において、6ヶ月後の歩行能力の予後決定因子となるものに、TCT(trunk Control Test)とMI(Motricity Index)があります。
発症後3日以内のTCT(trunk Control Test)sitting≧25、MI(Motricity Index)leg≧25、すなわち座位保持時間30秒以上、下肢3関節MMT1以上もしくは下肢1関節MMT4以上であれば、6ヶ月後の歩行能力の予後は比較的良好とされています。
発症後2週間以内の予後予測において、FIM運動項目の合計点から歩行能力(FIM≧5)を予後予測する研究があります。
発症後2週間のFIM運動項目の合計点が50点以上であれば、歩行予後は良好とされています。
また、発症後2週間のFIM運動項目の合計点が50点未満でも、認知項目の点数が高ければ、退院時のFIM運動項目が改善する可能性も示唆されています。
他にも、発症後2週間の体幹バランスが良好なほど、6ヶ月後のADLの予後が良好とされています。
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Brunnstromによると、stageⅥに到達するのは発症後比較的早く回復する症例のみだとしています。
また、発症後7週間でstageⅣの運動が終了し、stageⅤに入り、そこからstageⅥに進んだとしています。発症後6ヶ月後で四肢のコントロールはだいたい正常になったが、手のぎこちなさは残存しているとしています。
服部は、発症後1ヶ月以内に指の総握りが不可、あるいは3ヶ月以内に総開きができない場合、廃用手に終わるとしています。
福井は、実用手(stageⅥ)に達するには、発症直後にstageⅢ〜Ⅳレベルが保たれている不全麻痺、もしくは発症後1〜3ヶ月で上肢、手指がともにstageⅤに入ることが必要としています(1-3-5の法則)。
補助手以上のレベルへの到達には、発症後4ヶ月以内に上肢Ⅳ、手指Ⅳ以上に入ることが必要としています(1-3-5の法則)。
発症後4ヶ月経過して上肢、手指ともにstage4に到達しない場合、廃用手に終わるとしています。
実用手になるための必要条件(上肢、手指)としては、N÷(3+3/4m)≧1としています(N:Br-stage、m:発症後月数(0.5≦m≦4))。これが十分条件となるには、知覚障害、不随意運動、小脳生失調がないことを加えます。
廃用手になる十分条件として、N÷(1+m/2)≦1としています(1≦m≦4)。
これらの中間になるものが準実用手、補助手、準補助手となるとしています。
初期回復(脳内血腫吸収、浮腫の消退によるもの)について、1ヶ月以内でほぼ完全回復する例があるとしており、上下肢について、1ヶ月以内で10%内外、2ヶ月以内で12〜15%、手指ではそれぞれ7%、8%としています。
真の回復について、初期回復の良好例を除くと、6ヶ月以内にプラトーに達したのは下肢で58%、上肢で27%、手指で31%となり、残は7 ヶ月以降も改善が見られたとしています。
プラトー到達平均期間は下肢では約8ヶ月、上肢では約10〜11ヶ月、手指では約14ヶ月とし約1%には例外的に発症後2年半以降も上下肢・手指に回復がみられたとしています。
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①画像
②随意性と筋緊張の観察
③SIAS
④Copenhagen Stroke Study
脳卒中片麻痺者の上肢機能予後予測に画像所見を用いることで予測精度が向上することはよく知られています。
画像所見では、病巣の大きさよりも部位の方が重要と言われています。
病巣が予後に与える影響としては、
①小さい病巣でも運動予後不良な部位
放線冠(中大脳動脈穿通枝領域)の梗塞
内包後脚
脳幹(中脳、橋、延髄前方病巣)
視床(後外側の病巣で深部関節覚が脱失のもの)
②病巣の大きさと比例して運動予後がおおよそ決まるもの
被殻出血
視床出血
前頭葉皮質下出血
中大脳動脈領域の梗塞
前大脳動脈領域の梗塞
③大きい病巣でも運動予後が良いもの
前頭葉前方の梗塞・皮質下出血
中大脳動脈後方の梗塞
後大脳動脈領域の梗塞
頭頂葉後方〜頭頂葉、側頭葉の皮質下出血
小脳半球に限局した片側性の梗塞・出血
発症後1〜3週間前後で随意運動が改善して、筋緊張があまり亢進しない例は回復良好。
随意運動回復よりも連合反応、深部腱反射亢進や筋緊張亢進が顕著な例では回復不良。
最終的に実用手となるための条件
・発症当日に完全麻痺ではない
・数日以内に随意運動回復が見られる
・1ヶ月以内に準実用手レベルに達する
発症1ヶ月の時点で、
手指SIAS3:5割以上の確率で実用手
手指SIAS4以上:8割が実用手
手指SIAS0:7割が全廃
Copenhagen Stroke Studyでは、Scandinavian Stroke Scaleを用いて上肢、手指機能を評価することで重症度を分け、重症度別に実用手、準実用手、実用性なしの割合と、回復期間の目安を把握することができます。
Scandinavian Stroke Scaleの上肢、手指の評価(勝手に翻訳したものです)
上肢:
raises arm with normal strength(通常の強さで腕を上げる) 6
raises arm with reduced strength(強度を落として腕を上げる) 5
raises arm with flexion in elbow(肘の屈曲で腕を上げる) 4
can move, but not against gravity(重力に反して動くことはできない) 2
paralysis(麻痺) 0
手指:
normal strength(通常の強度) 6
reduced strength in full range(フルレンジでの強度低下)4
some movement, fingertips do not reach palm(いくつかの動き、指先は手のひらに届かない) 2
paralysis(麻痺) 0
以上を元に、重症度を判定していきます。
運動麻痺 | Scandinavian Stroke Scaleのスコア |
なし | 上肢、手指が6点 |
軽度 | 上肢4〜6点かつ手指4〜5点
もしくは 手指4〜6点かつ上肢4点 |
重度 | 上肢または手≦2点 |
次に、重症度をもとにCopenhagen Stroke Studyに基づいて、上肢機能の実用性と回復期間の目安を見ていきます。
実用的 | 準実用的 | 実用性なし | 死亡 | 80%回復 | 95%回復 | |
重度 | 11% | 24% | 20% | 45% | 6週 | 11週 |
軽度 | 77% | 10% | 5% | 8% | 2週 | 6週 |
麻痺なし | 80% | 14% | 1% | 5% | 2週 | 6週 |
補助手以上の回復には、発症4ヶ月以内でBrunnstrom Stage上肢4、手指4以上が必要と言われています。
実用手に達するためには、3ヶ月以内に上肢、手指がともにstage5に達し、深部感覚、失調、不随意運動がないものと限定されています。
なお実用手とは、Brunnstrom Stage手指、上肢とも正常、感覚ほぼ正常、不随意運動なし、簡易上肢機能検査で健側の90%以上の成績、の4点を全て満たし、日常場面で意識しなくても自然に手が出て、書字、箸操作が行え、その耐久性があるものとされています。
脳卒中上肢機能予後予測のポイントとして、麻痺の重症度では、発症時に完全麻痺ではなかったか、手指機能は保たれていたかの2点が重要です。
改善経過では、発症早期からの回復傾向がみられたか、随意性回復前に痙性亢進がなかったかの2点が重要になります。
しかしながら、現在の脳卒中上肢リハビリテーション技術は進歩しているため、一概に回復しないと決め付けずにリハビリを行うことも重要かと思われます。
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・画像による予後予測
・年齢による予後予測
・二木の予後予測
・SIASを用いた予後予測
・体幹機能を用いた予後予測
画像による予後予測では損傷部の大きさよりも、むしろ損傷部位の方が大切だとされています。
年齢が歩行に与える影響としては、若年者ほど良好な歩行能力が得られるとされています。
講習会で、宮越浩一先生は、印象としては80歳以上では歩行の獲得が困難になりやすいと言われていました。
二木による歩行の予後予測では、入院2週間後、入院1ヶ月の時点で評価を行います。
評価項目は基礎的ADL(食事、尿意の訴え、寝返り)、運動障害軽度(Brs stage4以上)、運動障害重度(Brs stage3以下)です。
予測不能な症例も発生することがあります。
入院時の予測:
①ベッド上生活自立(介助なしで起座、座位保持可能)
(YES)→歩行自立(大部分が屋外歩行可能で、かつ1ヶ月以内に屋内歩行自立)
②基礎的ADLのうち2項目以上実行
(YES)→→歩行自立(その多くが屋外歩行かつ大部分が2ヶ月以内に歩行自立)
③運動障害軽度
(YES)→歩行自立(その多くが屋外歩行かつ大部分が2ヶ月以内に歩行自立)
④発症前の自立度が屋内歩行以下かつ運動障害重度かつ60歳以上
(YES)→自立歩行不能、大部分が全介助
(NO)→2週目に再評価
⑤Ⅱ桁以上の意識障害かつ運動障害重度かつ70歳以上
(YES)→自立歩行不能、大部分が全介助
(NO)→2週目に再評価
入院2週間後の予測:
①ベッド上生活自立(介助なしで起座、座位保持可能)
(YES)→歩行自立(大部分が屋外歩行可能で、かつ2ヶ月以内に屋内歩行自立)
②基礎的ADL3項目とも介助かつ60歳以上
(YES)→自立歩行不能、大部分が全介助
(NO)→1ヶ月目に再評価
③Ⅱ桁以上の遷延性意識障害、重度の認知症、夜間せん妄を伴った中等度の認知症があり、かつ60歳以上
(YES)→自立歩行不能、大部分が全介助
(NO)→1ヶ月目に再評価
入院1ヶ月後の予測:
①ベッド上生活自立(介助なしで起座、座位保持可能)
(YES)→歩行自立(その半数が屋外歩行かつ大部分が3ヶ月以内に歩行自立)
②基礎的ADLの実行が1項目以下かつ60歳以上
(YES)→自立歩行不能、大部分が全介助
③Ⅱ桁以上の遷延性意識障害、中等度の認知症、両側障害、高度の心疾患などがありかつ60歳以上
(YES)→自立歩行不能、大部分が全介助
SIASの下肢近位(股関節)テスト、垂直性テストの項目を用いることで、退院時の移動・移乗FIM5項目すべての自立を予測する試みがあります。
急性期において、初診時座位保持能力から予後予測を行います。
方法は他動的にベッドに座らせ、足を床につけた状態で座位保持ができるかどうかを評価します。
初診時座位保持可能→独歩可能(入院リハ3〜4週間)
初診時座位保持不能→監視・介助歩行(入院リハ8〜12週間)
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前頭葉を中心とした失語症に関しては、予後予測としては良好な経過をたどりやすいとされています。
失語症状はしっかりと訓練を行うことで改善することが言われています。
しかし、構音障害に関しては残存する可能性があり、早期から構音障害に対するリハビリテーションを継続的に行っていくことが大切になります。
構音障害は運動機能障害でもあるので、訓練は継続的に行っていくことが大切です。
常に誰かとしゃべる機会があれば別ですが、やはりコミュニケーションをとる機会が減ればそれだけ運動機能も低下してしまいます。
そのため、自ら積極的に構音障害に対するトレーニングを行っていくことが大切になります。
これは、対象者本人だけでなく、周りの家族や療法士も継続的に励ましながらサポートし続けることが重要です。
側頭葉、頭頂葉、後頭葉を中心とした失語症は、様々な経過をたどることが多い様です。
画像所見から、どの部分の損傷があるかを確認していくことが大切なポイントになります。
まず、上側頭回や縁上回の損傷がみられる場合、機能的予後は良好な場合が多い様です。
この部分の損傷では、「伝導失語」がみられます。
伝導失語については、
言葉の理解も表出も比較的良好だが、音韻(字)性錯語(「りんご」→「でんご」のように言葉の音を間違える)と聴覚的把持力の低下(聞いた言葉を短期間覚えておく力の低下、言語性短期記憶の低下)を特徴とする障害。
特に復唱にて誤りが出現する。
自らの誤りに気づき自己修正を行う(接近行為)が、聴覚的把持力の低下のために発語すべきことばを忘れてしまい、正しい発語に至らないことも多い。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%B1%E8%AA%9E%E7%97%87#%E4%BC%9D%E5%B0%8E%E5%A4%B1%E8%AA%9E
とあります。
下側頭回、後頭葉などに損傷がある場合、予後不良となる場合がお多いようです。
また、島の損傷がみられる場合も予後不良となる場合が多いようです。
広範囲に渡る病巣があると、基本的には機能的予後は不良になります。
しかし、発症からの経過により少しずつ回復がみられたり、急速に下回復する例が多少ならずともあるようなので、積極的にリハビリテーションを継続して行っていくことも大切になります。
被殻出血などによる基底核損傷の失語症では、基底核のみの小さな出血であれば、機能的予後は良好になります。
出血により脳室拡大がみられる場合や、皮質にまで影響を与えている場合には、回復はみられるものの失語症状は残存すると言われています。
回復は基本的には急速にみられるとされています。
視床出血においては、損傷が視床のみのような場合では、機能的予後も良好で、回復も急速にみられることが多いようです。
視床損傷例では、失語に関することだけではなく、注意障害などの他の高次脳機能障害についても考慮する必要があります。
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リハビリテーションは日々進化しており、ニューロリハビリテーションの考え方を用いたり、電気刺激、ロボティクスなどを組み合わせることで、予後予測以上の回復が可能になることもあります。
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