脳卒中のリハビリテーションにおいて、ニューロリハビリテーションの原理原則を理解しておくことは、脳の可塑性を高めることにつながります。脳の可塑性を高めるための、ニューロリハ実践の知識と方法についてまとめていきたいと思います。
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ニューロリハビリテーション-脳卒中片麻痺- 講義資料
患者様を変える行動と脳の関係性〜やらされるからやりたいリハビリへ〜 講義資料
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脳卒中のリハビリテーションにおいては、CI療法、川平法、ロボティクス、電気刺激など、様々な治療理論があり、どれが対象者に適応するかを判断することが大切になります。
重度運動麻痺者のリハビリテーションにおいては、随意運動を認めないため、CI療法や川平法は適応しにくく、ロボティクスによるリハビリを行っている施設もまだまだ少ないのが現状です。
重度運動麻痺者の機能回復を目指す上で、ニューロリハビリテーションの知識を知っていることで、どのように治療を展開していけばよいかのヒントを得ることができます。
脳卒中のリハビリテーションにおいて、脳の可塑性を促すには、「情報化」がキーワードになります。
人はあらゆる刺激を受け取り、それを脳の様々な領域で処理、調整されることにより積極的に外部環境と関わります。
この情報処理過程が神経の可塑性を促す要因になります。
人はコップを持ちコーヒーを飲むとき、コップの形、取っ手の有無、重さ、コーヒーの熱さなどの情報に注意を向けて、動作に適した情報を取捨選択しながら、最適な動作を行います。
これは、コップの様々な情報と自分の体の感覚情報を分析、処理した結果としての行動となります。
この例のように、無数にある感覚情報の中から、自らどの情報に注意を向け、どの情報が意味あるものとして使用できる情報なのかということを捉えたときに、初めて脳の可塑性が促されるとされています。
いかに意識的に、自ら意味ある情報に注意を向けていくかを選択していく過程が重要になると考えられています。
これは、いわゆる目的指向型の訓練といえます。
情報化を行うためには、感覚情報が入力される必要があります。
感覚情報を正確に捉えられることで、正確に自分の体の認識が行えるようになります。
外部から入力された感覚情報は、一次体性感覚野(3,1,2野)で処理が行われます。
3野:3a野:深部感覚情報
3b野:触覚情報
1野:複数の関節運動の統合、再現
2野:体性感覚全てを統合(運動感覚も処理される)
*1,2野はアクティブタッチ(自ら自己と外部環境との関係を知ろうとしたり、知覚探索する)の際に活性化する。
これは、対象の認識に必要な感覚情報に注意を向けていることになる。
感覚情報の処理は3→1または3→1→2と処理を終えた情報が4野に投射されます。
感覚情報と運動情報が同時に処理され、統合されることで対象物の認識が行われます。
このことからニューロリハビリテーションでは、3野→1・2野というようにアプローチしていくことが重要になります。
一次運動野(4野)は運動の実行に関与する脳の部位です。
一次運動野は、4a野と4p野に分けられています。
4a野:皮質脊髄路に関与し、脊髄運動ニューロンを興奮させる。
近位筋が支配を受ける。
主に固有感覚入力を受ける。
4p野:複雑な(高度な)運動に関与する。
遠位筋が支配を受ける(手指の神経細胞が豊富)。
主に皮膚感覚入力を受ける。
*麻痺側への体性感覚入力があ4野の興奮性を高めるとされています。
脳梗塞片麻痺者では、道具使用のための知覚探索(アクティブタッチ)の機会が減少することが、回復を阻害する要因と考えられています。
このことから、運動麻痺により手指に動きがない場合でも、他動運動により知覚探索できる機会を持つことが回復を促す可能性があります。
他動ROM訓練でも運動野の活動がみられますが、これは伸張刺激であり、4p野のみの活動が高まると考えられます。
3野と4野の関係性は、3→1野/3→1→2野から、連合野で処理された情報が、4野に入力されます。
固有感覚に伴う運動感覚は直接4a野にも入力が行われます。
運動イメージすることで、4p野の活動が高まる場合、機能回復が起こりやすいとされています。
そのため、運動機能の回復には、運動イメージや運動観察によるシミレーション(脳内で運動を予測する)が必要になることが考えられます。
運動イメージでは、目的的な活動がイメージしやすくなります(例:コップに入っているコーヒーを飲むなど)。
また、複数の条件を出すことでもイメージがしやすくなります(例:マイクを持つ手の位置など)。
体性感覚障害が強いと、イメージしようとしてもイメージしにくいことがあります。
イメージを重ねていくことで、体性感覚を補っていくことも必要になるかもしれません。
運動イメージをさせる際に、その意味や機能回復への関係性を説明していないと、動機付けが乏しくなり、しっかりとイメージしてくれなくなるかもしれません。
オリエンテーションをしっかりと行うことが重要です。
今までの話から脳の可塑性を促すための方略として、
・麻痺側の手を使用した感覚情報処理(3野→1・2野)
・道具使用のための知覚探索
・道具を使用するイメージ、シミュレーション過程
・肩や肘、手の空間内での識別(固有感覚)
・手指の知覚識別
が考えられます。
このような課題を行うことで、一次運動野の興奮性を高め、皮質脊髄路を経由した運動発現を目指していきます。
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脳卒中で感覚障害が生じると、探索・識別障害、固有感覚障害などが起こります。
固有感覚障害では、手のフォームの乱れ、対象物の把持や把持力の維持・調整、物体移動の低下などが生じます。
そのような障害に対して、脳卒中のリハビリテーションでは脳内の情報処理の再構築を目的に訓練が行われます。
アクティブタッチは複雑で推移的な手指の能動的な触探索・認識のための運動のことをいい、ギブソンが命名したものです。
ヒトは、手で物を巧みに操って生活を営んでいる。
対象物の形や大きさにより、触れる手の形、すなわち手の構えが異なり、そのために対象物に触れる皮膚の部分も異なってくる。
皮膚や筋・腱・関節から様々な知覚要素が中枢に情報をもたらし、統合され、運動へのフィードバックがなされる。
知覚をみる・いかす 手の知覚再教育 P127
このような、「能動的触知覚」は、対象物の形の判断や対象物を認知するときに働く知覚であり、能動的に対象物を手探りする「触探索」が必要になります。
手を能動的に動かし対象物を探ると、皮膚の感覚受容器が興奮し、その刺激は求心性に感覚中枢(材質の解析器)に伝わります。
手の探索運動では、運動野の働き(運動制御)により、探索運動の大枠が決定します。次に手指の動きが決定し、さらに個々の筋収縮の量などが決まり、対象物に接触することになります。
運動により関節、皮膚受容器が興奮すると、その情報は運動の分析器と材質の解析器の両方にフィードバックされます。
これらの過程が繰り返されることで、手の動きが調整されながら材質の確認が行われていきます。
中枢神経障害において、アクティブタッチの再学習を行うためのBrs-stageの目安はⅢ〜Ⅳです。
視覚的な代償訓練は知覚再教育が ADLの改善に結びつかなかった時に実施します。
順序としては、まず識別知覚の再教育を行って、ある程度可能になった時点で、積極的なアクティブタッチを用いた内容を導入するのが良いかもしれません。
識別知覚の訓練としては、以下のようなものがあります。
①材質の識別
静的触覚:
スポンジなどの弾力性、圧縮性の異なる物体(2組)に対して、上から手指を押し付けたり、握り込むことで垂直に力を加え同じものを特定させたり圧縮性、反発性、伸展性の程度を識別していきます。
動的触覚:
手触りの異なる材質を用意して指でこすり、平滑性、摩擦性の識別を行っていきます。
サンドペーパーや、布、タオルなどが利用できます。
*指を強く押し付けるように識別する場合があるため、力が入りすぎないように指導していきます。
動的触覚では、指を動かす速度と垂直方向の力のコントロール(押し付けない)を学んでいくことが重要です。
②形態の識別
患者の手指運動機能に合わせて物体の大きさを選択し、数種類の形態を2組ずつ用意します。形態を特定させたり、同じ形態の物品を選んでもらいます。
詳しくは、以下の記事を参照してください。
手の触覚障害に対するリハビリテーション
積極的なアクティブタッチを用いた物品の触覚知覚訓練としては、以下のようなものがあります。
物品探索:
トレー内に複数の物品を入れ、開眼でひとつずつ取ってその物品名を答えて外に出した後、閉眼でも同様に行う。
閉眼でのペグ(小)移動:
小さいペグの移動では、どこを把持すると落とさずに持ち上げることができるか、指先でペグの全体像を知覚する必要があります。またペグを把持しながら、他の他の指で入れる穴を探し出さなければなりません。
重度運動麻痺者では、他動運動による知覚探索(識別)訓練を行います。
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運動覚課題では、
・動いているか、動いていないかがわかる
・どの関節が動いているかわかる
・運動開始、運動終了の瞬間がわかる
・どの方向に動いているかわかる
・どれくらい動いたかわかる
・部位の違う関節を動かした順序がわかる
・部位の違う関節の位置関係がわかる
などが必要な要素になります。
また、非麻痺側と比較してどうか、視覚情報との差異を比較させることも大切な要素になります。
方向、位置、距離などは、認知運動療法で行うような、指標(等間隔で目盛りがついている)を用いることが必要になるかもしれません。
運動覚の課題では、麻痺側で動いている感じを非麻痺側で再生させることも課題の中で行います。
運動覚と視覚情報を統合するのは、頭頂連合野(下頭頂小葉)の機能です。
「運動覚と対象物の関係性がわかる」ことが目標になります。
運動覚と対象物の関係性とは、方向や距離、形態のことを指します。
課題では、関節を単独で動かすのか、複数の関節を同時に動かすのかにより、難易度(注意を向ける数)が異なります。
また、運動覚のみでの知覚課題や、運動覚と触覚の両方を用いることによる知覚課題に分けることができます。
触覚を用いるというには、対象物に体の一部分が触れることを意味しています。
触覚課題では、
・触っているか、触っていないかがわかる
・どの部分を触られているかがわかる
・触り始めと終わりの瞬間がわかる
・素材の違いがわかる
などが必要な要素になります。
また、非麻痺側と比較してどうか、視覚情報との差異を比較させることも大切な要素になります。
触覚と視覚情報を統合するのは、頭頂連合野(下頭頂小葉)の機能です。
「触覚と対象物の関係性がわかる」ことが目標になります。
触覚と対象物の関係性とは、素材、硬さのことを指します。
触覚課題では、触覚のみで素材や硬さを知覚する場合と、関節の動きを通して素材や硬さを知覚する場合に分けることができます。
随意性がある程度ある場合、重量覚に対しても対象物との関係性について知覚させます。
この場合も、単関節または複数の関節が参加するかにより難易度は異なります。
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日常生活を送っていると、かなりの割合で両手動作を行っていることが多いと思います。
今こうして記事を作っている時も、パソコンのキーボードを両手で操作しながら文字を入力しています。
スマホも両手で操作する機会も多いのではないでしょうか。
脳卒中片麻痺者のリハビリテーションにおいては、麻痺側の上肢、手指の運動機能の回復に焦点が当てられますが、回復に伴い両手動作を取り入れていくことが大切です。
もちろん先ほど説明したように、我々はかなり両手動作を行っているというのも理由の一つですし、さらに、脳科学的な視点からも脳卒中片麻痺者には両手動作を取り入れることが大切になります。
脳科学的な話に移りたいのですが、まずは両手動作の分類から行っていきます。
両手動作は大きく分けて3つに分類されます。
①片手で持ち、もう片方を動かす
②両手が同じ運動をする
③各手が異なる運動をする
①では、ペットボトルの蓋を開けるときの動作がイメージしやすいと思います。
②では、麺の生地を棒で伸ばしているときの動作がイメージしやすいと思います。
③では、DJの手の動きは、それぞれの手が異なる動きをしているかなり複雑な動作だと思います。
簡単な例を挙げましたが、日常生活動作を観察していると、上記のように様々な両手の動きをみることができます。
ある実験において、一方の手にカップを持ち、もう一方の手でカップ内にボールを落とす課題が行われました。
すると、ボールがカップに入る前に、カップを持つ手の握力が上がることがわかっています。
このようなことから、両手動作における筋活動のコントロールの獲得には、両手動作の課題を用いることでしか達成されないのです。
両手の練習を行うことで、左右の腕や指の動きのタイミング、筋の出力の再設定が行われます。
脳科学の視点から、脳卒中片麻痺者における両手動作はどのように捉えられるのでしょうか。
脳科学的な視点として、「半球間抑制」という現象があります。
半球間抑制とは、簡単に説明すると、一方の大脳皮質に情報が伝わり活動性が高まると、もう一方の大脳皮質では活動性が抑制される現象のことをいいます。
健常者では半球間抑制が働くことで、左右の大脳が同じ情報を受け取らずに、スムーズに動けるようになります。
詳しくは、理化学研究所の記事を参照してください。
脳卒中と半球間抑制の関係においては、
脳卒中後は損傷側より非損傷側への抑制か弱まるうえに、健側肢を使うことで非損傷側から損傷側に対する抑制がより強くなり抑制の不均衡が起きてしまう。
リハビリテーションのための神経生物学入門
とあり、非麻痺側のみを使用していることで、麻痺側の感覚や運動が抑制されてしまいます。
脳卒中後は非麻痺側上肢を主に使用するようなADL指導となることが多いと思います。
運動麻痺が重度であればあるほど仕方がありませんが、半球間抑制を考慮すると、少しでも麻痺側の上肢・手指が使用できそうな場面があれば、参加させていくように指導する必要があります。
非麻痺側からの情報のみでは半球間抑制が促進されてしまうため、両手を使用するような、麻痺側からの情報も脳に伝えていく必要があるといえます。
半球間抑制の視点から、
・非麻痺側のみを使用させないこと
・麻痺側の積極的な使用。両手動作を取り入れる(半球間協調)
が挙げられます。
両手動作訓練についての具体例については以下の記事をご覧ください。
脳卒中片麻痺者の回復を促すリハビリ・自主トレ!両手動作の練習が絶対に大事!
麻痺側の感覚も抑制されていることから、感覚入力も行う必要があります。
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情動には、喜び、悲しみ、不安、怒りなど、様々なものがあります。
すべての情動が処理されている場所は扁桃体です。
扁桃体は、側頭葉の内側の奥にあり、大脳辺縁系の一部だと考えられています。
外部からの刺激情報が扁桃体に入るには、2つの経路があります。
①低位経路
低位経路では、外部からの刺激情報が、視床から直接扁桃体に向かい、情動反応(攻撃、回避、接近)を起こします。
②高位経路
高位経路では、外部からの刺激情報が、視床から大脳皮質の感覚野を経由して扁桃体に向かい、情動反応(攻撃、回避、接近)を起こします。
低位経路では、情動反応までのスピードが速く、対象を認識するより速く行動が起こります(認識はされない)。
高位経路では、皮質に情報が伝達されるので、考えてから行動を起こします(認識される)。
扁桃体は、ネガティブな感情(恐怖、嫌悪など)に強く反応することが知られています。
扁桃体を過活動にさせる他の要因として、痛みに対する不快感や恐怖感があります。
扁桃体の過活動は、前頭前野の活動減少と関連があります。
前頭前野は意欲や意志決定に関与する部位であり、慢性疼痛や不安・ストレスが高い状態では、リハビリテーションにおいても悪影響を及ぼすことが十分に考えられます。
慢性的なストレスを抱えていると、前頭前野の機能不全が起こりますが、それに伴いネガティブ感情を消去する機能が失われるとされています。
対象者によりストレス耐性には個人差があり、何にストレスを感じているかも異なります。
リハビリの内容、自分の体の状態、仕事の心配、病室の環境など、ストレスの要素を把握することも、セラピストにとっては大切な評価の視点になると思われます。
慢性的に不安を抱えている状態では、扁桃体の感受性が高まるとされています。
不安が高まると、視床下部のストレス中枢を活性化し、扁桃体に作用し、マイナスの記憶(記憶の真偽は関係なし)を固定することが知られています。
水泳ストレス負荷試験において、シナプス形成やネットワークを停止させる、ダークニューロンが発生するとされています。
この実験では、直径30cm、45cmの深さの水(35℃)の中で、ラットを3時間泳がせるというなんとも過酷なものです。
この実験では扁桃体などにダークニューロンが発生したとされており、過剰なストレスは脳の可塑性を妨げるために、過剰な負荷をかけてはいけないことを示唆しています。
この実験では海馬にもダークニューロンが発生したとされていますが、海馬は学習と情報処理に関与する領域でもあり、リハビリテーションにとっても重要な部位となります。
今までの話から、負の情動やストレス、過剰な運動負荷が扁桃体の過活動や前頭前野・海馬などの機能低下を引き起こしたり、ダークニューロンを発生させ、シナプス形成やネットワークを停止させることがわかりました。
リハビリテーションにおいては、
①負の情動を引き起こさせない
②過負荷な運動を避ける
③痛み、過緊張、防御性収縮などが確認された場合、負荷量を調節する
などがポイントとして挙げられます。
セラピストと対象者の何気ない会話においても、対象者を不安にさせるような言葉を発してしまっている可能性もあります。
対象者のストレス要因を把握するために、リハビリテーション場面だけでなく、病棟での生活の様子や対象者のバックグラウンドも把握することが大切になります。
ストレス要因が把握できたら、それをできるだけ取り除くように働きかけることも必要になります。
負の情動を喚起させないことがポイントになりますが、逆に、快の情動を喚起するにはどうすればよいでしょうか。
リハビリテーション場面では、対象者は元の体の状態に戻る事を最大の報酬にしていると考えられます。
その経過の中で、少しでも自分の体の状態の変化に気付けることは、かなりの報酬になるはずです。
高いモチベーションが運動野の活動性を高めることも示唆されています。
目標はスモールステップとすることで、その達成(少しの変化)に対して喜びを共有することが大切だと思われます。
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