リハビリテーションにおいては、「感覚入力」が重要だということが言われています。しかし、「感覚入力」ってそもそもどのようなことを示しており、それがどのような影響を与えるかを理解しにくい方もいるのではないでしょうか。今回、リハビリテーションと感覚入力についてまとめていきたいと思います。
目次
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私たちの生活場面において、様々な感覚が役立っています。
例えば立位バランスを保持することを考えましょう。
立位を保持するには、
・視覚からの情報
・体性感覚からの情報
・前庭からの情報
を基礎にしています。
例えば目隠しをして視覚からの入力を遮断すると、バランス保持は難しくなります。
足元に柔らかいクッションなどを置くと、足元からの体性感覚情報が入力されにくくなり、バランス保持が難しくなります。
この例のように、私たちは様々な感覚情報を頼りにして、バランス保持を行っていることがわかります。
リハビリテーションにおいては、様々な感覚刺激の中から、動作遂行を助けるような刺激が入力される(または入力する)ことを「感覚入力」と捉えてよいと思います。
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感覚系では、前庭迷路はバランス制御にとって重要で、5つの伝導路により中枢へ情報伝達されます。
頭部回転に対する情報は三半規管(前・外側・後半規管)により、前後上下方向の加速情報は耳石器で検出され、前庭神経によって前庭神経核に伝達されます。これらの情報は,緊張性迷路反射など多くの姿勢反射に関わっています。
固有受容器からの情報の一部は、脊髄小脳路により小脳(脊髄小脳)へ伝達され、バランス制御や巧級性運動に関わっています。
視覚情報は立ち直り反応、リーチ動作などの巧級性動作に関わっています。
視覚情報は視神経、外側膝状体から一次視覚皮質領(第17 野)から 頭項葉を経て運動前野に至り、運動・バランスに関わります。
中枢神経系では脊髄、脳幹、小脳、大脳基底核、視床、大脳皮質が関与しています。
脳幹は姿勢調節にとって重要です。
小脳は脊髄、前庭、 大脳皮質からの入力を受け、各投射部位は脊髄小脳、前庭小脳、大脳皮質小脳と呼ばれ、 バランス制御に関わっています。
大脳基底核はバランス制御・随意運動に関係していますが、 淡蒼球内節・黒質網様部から脚橋被蓋核への抑制性出力を介して前庭脊髄路、網様体脊髄路に影響を与えてバランス制御に関わっています。
バランス制御にとって基本となる伸張反射(脊髄の単シナプス反射)では、α-γ連関に よって調節され上位中枢からの影響も受けています。
姿勢・粗大運動に関わる内側活性化システムと四肢・巧緻運動に関わる外側活性化システムが筋格系を制御し、適切な姿勢保持を実現しています。
視覚系では中心視機能より周辺視機能がバランス保持に重要とされています。
周辺視野の遮蔽では、遮蔽される周辺視野面積が増えるに従い重心動揺の増加がみられ、周辺視野がバランス保持に関与していることがわかっています。
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実際に感覚入力されることにより、動作遂行の質が向上するのを体感することによって、感覚入力の大切さを実感してもらうことが大切です。
脳卒中片麻痺の方においては、感覚障害があっても運動麻痺自体は改善させることができるということが言われていますが、動作の質を上げていこうと思うと、感覚の問題は切っても切れない関係性にあるからです。
感覚入力の体感としては、以下のような実験が有名です。
①目隠しをして立位をとる
②目隠しをして立位をとり、指先に感覚刺激を与える
この2つの条件で体の動揺を比較すると、②の指先に感覚刺激を与える方が動揺が少ないことがわかっています。
臨床場面で、足が浮腫によりパンパンに腫れている方がいることもしばしば経験します。
このとき、浮腫を軽減させてあげると、立位などにおいて足底面からの触圧覚情報が感じやすくなり、立位バランスが向上することを経験します。
上肢でのリーチ場面で、骨盤や体幹の動きを出したいときには、物品操作を伴ったリーチの方が動きを促しやすいことを経験します。
これらの例においては、全て様々な感覚刺激入力が動作遂行の質を高めたり、もしくはセラピストが獲得させたい動作を促せることが期待できます。
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リーチ動作には上肢の運動と、骨盤・体幹の運動が共に協調していることが重要になります。
その際、神経学的に重要なことが「腹内側系」と言われている、抗重力筋を制御する回路との関係になります。
神経伝導路には様々なものがありますが、脊髄のどの位置を通るかにより、「内側系」と「外側系」に分けられています。
内側系に分類される下行性伝導路は、脊髄の前索や前側索を通ります。
内側系の運動制御では、両側の頭・頸部,体幹,上下肢の近位筋の運動に関与することがわかっています。
内側系の働きにより、姿勢の調整がなされ、動きの安定性が保証されます。
このとき重要とされているのが網様体脊髄路と前庭脊髄路の存在です。
網様体脊髄路と前庭脊髄路は、視覚系、体性感覚系、前庭系からの入力によって活性化することがわかっています。
リーチ動作においては、フィードフォワード制御が重要です。
フィードフォワード制御とは、簡単に説明すると、
前もって様々な影響に対して修正を行う制御です。
「様々な影響」とは、リーチ動作においては、距離、方向、速度、手の構え、骨盤・体幹運動などが当てはまります。
フィードフォワード制御を活性化させるためには、視覚情報や体制感覚情報の入力が必要とされています。
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リーチ動作の改善に、サンディング作業がよく用いられます。
前途した神経学的な話から、サンディング活動について分析してみたいと思います。
サンディングは、斜面に対して上肢の接触面(主に前腕から手)を滑らせていく活動です。
ここで、視覚情報、体性・固有感覚情報、前庭情報をもとに考えていきます。
視覚情報:上肢の動きを目で追う視覚的感覚入力(追視)
体性・固有感覚情報:関節運動による運動・位置覚の感覚入力、斜面を滑らせることによる触圧覚情報入力
前庭情報:上肢運動に伴う骨盤・体幹運動での立ち直り反応による前庭感覚情報入力
このように、サンディング活動は神経学的に分析すると、「腹内側系」を促通する要素が多く含まれていることがわかります。
さらに、サンディング活動では、手掌面からの感覚情報を変更することもできます。
それは、例えばサンディングブロックを使用するか、タオルを使用するか、お手玉を使用するか、などにより手掌面からの感覚刺激入力の質や量を変化させることができます。
これは、対象者の良い反応を引き出すための段階付けに有用であるといえるでしょう。
リーチ動作を改善させたい場合、どのような作業活動を用いるかは自由ですが、運動学的側面に加えて、神経学的な側面を加味できると、自分の行っているリハビリテーションが深いものとなっていきます。
サンディングについては以下の記事も参照してください。
上肢筋力向上、分離運動促進のためのサンディング作業の筋活動とその設定
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