呼吸リハビリテーションにおいては、リハビリで行っていることをいかに生活の場であるADL場面に汎化させていくかが大切になります。今回、呼吸リハビリにおけるADL指導のための知識と実践法についてまとめていきたいと思います。
目次
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呼吸器疾患において、4大疾患と呼ばれているものがあります。
・気管支喘息
・慢性閉塞性肺疾患
・肺ガン
・呼吸器感染症
この4疾患です。
日本の死因の第1位は悪性新生物ですが、慢性閉塞性肺疾患は患者や死亡率の増加において近年かなり多くなってきています。
それだけ、リハビリテーションにおいても関わる機会は多く、合併症として呼吸器疾患を併せ持っておられる方も多数存在します。
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呼吸リハビリと聞くと、息苦しさの改善など、呼吸機能の改善のみをイメージするかもしれません。
もちろん呼吸リハビリにおいて、その考え方は大切にはなりますが、一番重要なことは生活場面においていかにリハビリの成果を適応させていくかだと思います。
実際、呼吸リハビリテーションの定義を確認すると、
・運動トレーニング
・教育
・行動変容
・心理状態の改善
・アドヒアランスの推進
などが含まれます。
なお、アドヒアランスとは、
患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けることを意味しています。
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COPDがどのように進行、全身への影響を与えていくのかを簡単に説明します。
COPDにおいて、息切れや呼吸困難感が生じるのには、
・気流閉塞
・エアートラッピング、肺過膨張
が関係します。
気流閉塞とは空気の通り道である気道・気管支が狭くなり、息を素早く吐き出せなくなることをいいます。
http://www.chest-mi.co.jp/copd/copd03.html
呼気時間が延長し,肺の空気を吐き切るために必要な時間が長くなる。呼気が完全に終了する前に次の吸気に切り替わると,肺に空気が残存する。これをエアートラッピングという。
http://www.m-review.co.jp/files/tachiyomi_J0013_2404_0048-0052.pdf
吸った空気が吐き出せず、肺が膨らんだ状態のままになることで、息切れや呼吸困難感が生じるのです。
これらが増悪していくことで、体調不良に陥り、活動性も低下していくことで、運動耐用能も低下していくことにつながります。
また、生活の質も低下していくため、心理面への影響も出現してくることになります。
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呼吸器疾患において、機能低下を招きやすい原因は主に2つが挙げられます。
・廃用
・過用
です。
廃用の状態では、息切れや呼吸困難感に対する自覚症状が強い状態であり、楽に過ごすためにできるだけ活動を行わないようになることで廃用状態となってしまいます。
過用の状態では、病態が進行しているにも関わらず、それまでの生活習慣を続けることで肺・循環系に負担がかかり過用の状態になってしまいます。
廃用、過用では、初めはオーバーワークから始まることがほとんどだと思います。
これは、病識の問題や社会的役割の問題も関係しています。
また、健康価値観、自己効力感、環境(社会・物理的)面も強く影響します。
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呼吸器疾患の対象者は、呼吸困難感じますが、それに対してどのようにすれば楽に活動を行うことができるか、また息切れが生じずに活動することができるかと考えたり、試したり、気づいたりすることは少ない傾向にあります。
これは、対象者が持つ知識が足りず、問題解決能力の低さが根本にあり、悪循環に陥っているといえます。
また、対象者は自分自身の病態、状態(重症度)を過小評価する傾向にあります。
問題解決のための知識や技術がないため、「苦しいのは仕方がない」といような負の思い込みにより、活動性が低下したり、あるいは過活動になってしまうことがあります。
それが心肺機能の悪化や低下につながり、全身の廃用が進行することにつながります。
このような負のループがあると、どうすれば楽に動けるか、あるいは息切れが生じず活動できるかということを考えることができなくなってしまいます。
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呼吸器疾患では、対象者の状態変化による心理・情緒的変化についても把握できることは重要です。
呼吸器疾患の対象者は、疾患の進行に伴い呼吸困難感による日常生活動作の低下や社会的な役割の喪失体験が起こります。
また、状態の悪化や急性増悪が繰り返されることで、心理的に不安状態が生じてしまう可能性はあります。
このような状態が続くと、抑うつといった情緒の障害につながてしまうことも考えられます。
不安は換気デマンド(換気需要)を増加させるため、不安やストレスなどへのケアは非常に大切だと言えます。
情緒、心理的に影響を与える要因として、
医学的
・呼吸困難
・疾患の進行
・併発疾患
・術後合併症
・副作用
・治療による制限
・睡眠障害
心理社会的
・死への恐怖、不安
・社会的役割、交流の変化
・他者の反応
・HOT(在宅酸素療法:Home Oxygen Therapy)による外見上の問題
などが挙げられます。
このような、心理・情緒的に影響を与えうる要因を把握しておくと、対象者の状態を捉えやすくなります。
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呼吸リハビリテーションは、生命予後にも影響を与えることが知られています。
在宅酸素療法(HOT)のみの群と、理学+作業療法+在宅酸素療法の複合した群では、後者の方が生命予後が良いことがわかっています。
またCOPDにおいては、生命予後と関連が強い要因として身体活動レベルが挙げられています。
オーバーワークにならず、かつ廃用に至らないような生活方法の指導をリハビリテーションで学習することにより、急性増悪が防止され、生命予後の延長にもつながります。
そのため、呼吸リハビリテーションでは教育指導が重要だと言われています。
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呼吸器疾患、特に慢性期の対象者においては、急性増悪を防ぎながら生活を維持していくことが大切になります。
地域での生活の中で急性増悪を予防していくためには、自己管理の重要性が挙げられ、そのためには、いかに対象者が中心となり自己管理に向けて参加していくかがポイントになります。
そのためには、対象者が自己管理するのに必要な知識や情報を十分に持っていることが必要になります。
自己管理に必要な知識として、
・病気やその症状に対する理解
・服薬管理
・禁煙の重要性
・栄養状態と疾患の関係性
・運動の仕方
・日常生活における活動の工夫
・病態や症状の悪化に対する気づき
・病態や症状の悪化に対する対処方法
などが挙げられます。
対象者の自己管理能力を高める、または、指導したことを汎化させるために必要なこととして、自己効力感を高めることが必要です。
慢性期の呼吸器疾患における自己管理の重要性は前途しました。
おそらく、リハビリテーションの場面では自己管理の重要性を説明したり、知識や技術を指導することもあると思います。
ここで、それを汎化させるために必要なのが自己効力感なのです。
人がある状況において必要な行動を効果的に遂行できる可能性の認知を指す。
ある問題や課題に対する自己効力感を自分がどの程度持っているか(perceived self-efficacy)、個人の行動の変容を予測し、不適応な情動反応や行動を変化させる。
特性的自己効力感尺度の検討ー生涯発達的利用の可能性を探る
特性的自己効力感とは、課題や状況に関わらず、長期的で一般化された日常における行動に影響する自己効力感をさします。
特性的自己効力感には個人差があり、それにより行動に影響を及ぼすことが考えられます。
過去の成功、失敗体験から形成されることが考えられます。
特性的自己効力感は、未経験の新しい状況に適応的に処理できるかの期待に対しても影響を与えることが示唆されています。
リハビリテーション場面で考えると、身体的・精神的要因により転倒リスクの高い対象者が、自己効力感が高いために何でもできると考え行動し、転倒してしまうことがあります。
また逆に、自己効力感が低いためにあまり動かず、廃用を高めてしまうことも考えられます。
自己効力感については以下の記事も参照してください。
特性的自己効力感尺度の概要と評価方法、結果の解釈
医療的介入により得た知識や技術を、生活の中で実践し、成功体験を得ることで、認識や気づきも高まり、結果として行動変容が起き、それが定着しやすくなると考えられます。
このような好循環は、治療効果をより一層高めることにつながります。
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ADLモニタリングとは、呼吸器疾患の方がADL動作を行っている中で、呼吸器症状の影響を評価することで、どのようにすれば安全に、長く、安心して、楽に生活を送れるようになるのかを検討するための評価になります。
この評価では、介助量が問題になるのではなく、なぜ動作中に呼吸困難が生じるのかということを主眼においています。
ADLをモニタリングする中で、バイタルサインの変動や呼吸パターンの変動を把握し、動作遂行の中でどのような影響を及ぼしているかを確認していきます。
呼吸器症状に影響する要因としては、大きくは、
・動作が速い
・休息が少ない
・無駄が多い
・息を止めている
などが挙げられます。
ここで、呼吸困難についての解釈を考えていきます。
呼吸困難とは様々な強度のいくつかの質的に異なる感覚によって構成される「呼吸の不快感の主観的な経験」を指し示す用語である。
この経験は多くの生理学的、心理学的、社会的、あるいは環境的要因の相互作用によって生じ、また二次的な生理学的、行動反応を引き起こすであろう。
ATS statement 1998
呼吸困難感は、複合感覚であり、過去の記憶や感情なども加わって形成されます。
呼吸困難の発生機序としては、以下のような要因があります。
・換気能力の低下
・換気仕事量の増大(呼吸補助筋の増大)
・換気需要の病的亢進
さらに細かくみていくと、
換気能力の低下に関連する因子としては、
・気流制限
・動的過膨張
・肺、胸郭のコンプライアンスの低下
が挙げられます。
息を(換気)をする時、呼吸筋(横隔膜・肋間筋など)は、吸気に筋肉を収縮させて胸郭を拡げて息を吸い込み、次に筋肉を弛緩させて呼気を排出します。
それが、COPDになると気流制限(1秒量の低下)が起こり、吸い込んだ息が十分排出されず、 肺に空気が溜ることで肺胞壁が破壊 されていきます。これが 「肺気腫」で、肺が空気で腫れると書きます。
このために肺は過膨張し、横隔膜が下へ進展されて動きが制限され、 吸い込みが浅く大きな呼吸ができなくなります。
https://www.fukuda.co.jp/medical/inhome_medical/pdf/hotikiiki001.pdf
肺のコンプライアンスとは、簡単に言うと肺の膨らみやすさのことを指します。
肺や胸郭のコンプライアンスが低下するということは、肺がふくらみにくくなるということです。
コンプライアンスが低下している状態では、1回換気量(1回の呼吸により肺を出入りするガスの総量)が低下します。
換気仕事量の増大(呼吸補助筋の増大)に関連する因子としては、
・動的過膨張による弾性仕事量の増大
・末梢気道抵抗の増大
が挙げられます。
過膨張している肺では、COPDの方でみられるように、肺胞壁が破壊されている状態です。
胞壁が破壊されると肺胞内に空気が換気されていても、酸素を血液中に取り込むことが出来ず、二酸化炭素の排出も出来なくなります。
逆に、肺胞構造と血流が保たれて いても、喀痰や気道狭窄にり気道が閉塞されれば肺胞低換気となり、酸素を血液中に取り込むことが出来ず、二酸化炭素の排出も出来なくなります(ガス交換障害)。
ガス交換能の低下は、安静時も運動時も同じ量の酸素を体内に取り込むのに、健常人の倍以上の空気を換気することが必要となります。
https://www.fukuda.co.jp/medical/inhome_medical/pdf/hotikiiki001.pdf
これが、呼吸筋の仕事量が増え、エネルギーを消費しやすい状態になる原因といえます。
末梢気道抵抗の上昇ですが、例えば気管支喘息であれば末梢気道の抵抗上昇によって、呼吸仕事量は増大します。
また、喀痰などが気管内に付着すると気道半径が小さくなり、気道抵抗は気道半径の4乗に反比例するので、 気道抵抗が急激に増大します。
気道抵抗が大きくなるということは、それだけ抵抗に逆らって空気を肺内に吸い込むことが必要になるため、呼吸筋の仕事量が増大します。
低酸素血症は、PaO2≦60Torrの状態をいいます。
これは、呼吸不全の状態を指す指標であり、呼吸困難感とは違うものなので覚えておきたいところです。
低酸素血漿の要因としては、換気障害として、十分なガス交換ができず肺胞が低換気となることが挙げられます。
また、低換気状態の肺胞では、血液の酸素化が十分にはできません。
そのために低酸素状態を引き起こします。これを換気血流比不均等と言います。
他にもシャントと言い、ガス交換がなされずに心臓に還流する状態においても低酸素血漿は起こります。
拡散障害では、肺胞毛細血管膜が厚くなったり、間質に水分が貯留したりすることで、肺胞内の酸素・二酸化炭素が通過できず、ガス交換が出来なくなった状態になります。
運動を行うとそれに伴い血流速度が増加します。
また肺胞換気・血管接触時間の短縮が生じます。
そのような状態では、間質病変があると、代償的に心拍数を増加させます。
そのため、モニタリングを行う際には、SpO2のみではなく脈のモニタリングも行う必要があります。
酸素負債とは、運動を止めた後にしばらくの間継続する安静時より高い酸素摂取量のことをさします。
呼吸器疾患の対象者では酸素負債を考慮し、安静時に酸素流入量を増加させるなど、酸素流量の設定が必要になります。
・気管支拡張剤
薬物療法です。気管支拡張剤により、最大換気量の増加、また動的過膨張が抑制されます。
それにより、同じVE(分時換気量:1分間当たりに肺を出入りするガスの総量)での症状が緩和され、peakVo2(最高酸素摂取量)が増加します。
最高酸素摂取量とは、
最大運動時に空気中に存在する酸素を利用して体内(おもに骨格筋)でATP(筋肉を動かす時のエネルギー源となる物質)を産生できる能力を意味します。一般にpeak VO2が高いほど持久力が高いと考えられます。
http://www.aurora-net.or.jp/life/heart/undou/130/index.html
とあります。
・歩行などの反復機能的動作刺激
このような運動は、動作効率を改善させ、同じ仕事量での分時換気量を減少させ、同じ酸素摂取量での分時換気量を減少させます。それにより最高酸素摂取量が増加し、また最大仕事量も増加します。
・自転車こぎなどの強度の強い運動刺激は、心循環系機能を改善させ、最大仕事量が増加します。また、骨格筋の酸化能力が改善し、同じ仕事量での分時換気量を減少させ、同じ酸素摂取量での分時換気量を減少させます。そして、運動耐用能も改善します。
・筋力トレーニング
筋力トレーニングを行うと、筋力が改善し、活動能力が向上します。
ADLモニタリングに必要な物品としては、
・ADL評価表
・修正ボルグスケール
・ストップウォッチ2個(課題遂行時間、呼吸数カウント用)
・パルスオキシメーター
・血圧計
が必要になります。
SpO2 | Pulse | RR | BS | Time | |
安静時 | |||||
浴室移動時 | |||||
脱衣後 | |||||
掛け湯、入浴後 | |||||
入浴中 | |||||
浴槽から出た後 | |||||
洗体後:上半身 | |||||
洗体後:下半身 | |||||
洗顔、洗髪後 | |||||
再入浴後 | |||||
浴室から出た後 | |||||
体を拭いた後 | |||||
着衣後 | |||||
ベッドサイド |
上記の表は、入浴動作についてのADLモニタリングに使用するものです。
入浴動作に対して、各工程終了時に、
・SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度:血液中にどの程度の酸素が含まれているか)
・Pulse(PR:脈)
・RR(respiration rate:呼吸回数)
・BS(Borg Scale)
・Time(遂行時間)
を記録していきます。
ちなみに、PRは脈拍数ですが、HRは心拍数になります。心疾患がある方などでは、PR=HRとは限らないので注意が必要です。
これらのデータを分析する際には、全体的な経過としての変化を捉えることが大切になります。
また、酸素負債がある方では、時間が経ってから数値が下がることもあるため注意が必要です。
各動作では、質的評価も必要なため、
・動作姿勢
・上肢操作パターン
・動作速度
・呼吸パターン
なども観察します。
また、
・介助量
・環境
も評価し、総合的にADLモニタリングを行います。
各課題、各工程にはどのような運動や姿勢が必要なのかという作業分析を行い、呼吸と動作の同調の有無を観察、分析します。
パルスオキシメーターは、酸素飽和度(SpO2)を測定する際に使用します。
パルスオキシメーターは、循環や呼吸パターンの影響を受けることがあり、計測値の解釈には注意が必要です。
解釈時の注意点として、
・指先の循環が悪い
・爪に濃いマニキュアをつけている
・屋外での測定
・貧血(酸素とヘモグロビンの結合割合を示すので、ヘモグロビンが少ない貧血では低値になる可能性がある)
・心不全などの心疾患による酸素の運搬量不足
などが挙げられます。
なお、脈波が変動している間は数値の妥当性が低いため、脈波が安定してからの数値を採用するようにしてください。
その他把握しておきたいことととしては、
・健常者のSpO2はおおむね96~99%の範囲
・SpO2=90%はおおむねPaO2=60Torrに相当
・平素のSpO2よりも3~4%低下していれば、急性増悪の存在を疑う
などがあります。
パルスオキシメーターについては、以下の資料が参考になります。
https://www.jrs.or.jp/uploads/uploads/files/guidelines/pulse-oximeter_general.pdf
https://www.jrs.or.jp/uploads/uploads/files/guidelines/pulse-oximeter_medical.pdf
自分の息切れの程度を0の「何も感じない」から10の「非常に強い」の10段階で表します。
0 何も感じない
0.5非常に弱い 1 やや弱い 2弱い 3ちょうど良い(楽である) 4ややきつい 5きつい( 強い ) 6 7 かなりきつい 8 9 10非常にきつい |
Borg Scaleの評価では、呼吸困難感、動悸、四肢疲労感を分けて行います。
息切れしやすい動作には、いくつかのパターンがあります。
上肢の挙上動作
上肢を上に挙げるような動作では、呼吸補助筋がそれに動員され、換気を阻害してしまいます。
動作としては、洗濯物干しや洗髪などがあります。
上肢の反復動作
上肢を反復する動作では、動作強度が高まることから、換気需要が亢進し、呼吸パターンを乱します。
動作としては、窓拭きや洗体動作などがあります。
腹部の圧迫、下肢の挙上
お腹を圧迫したり、下肢を挙げる動作では肋間の可動性や横隔膜の活動性が阻害されます。
動作としては、靴下を履く、足の爪切りなどがあります。
息を止める動作
息を止める動作では、呼吸パターンを乱しやすくなります。
動作としては、床からの立ち上がりや重い物を持つなどがあります。
ADL動作を遂行している際に、観察項目として重要になるのが呼吸パターンです。
呼吸パターンにおける観察項目としては、
・呼吸数
・呼吸リズム(吸気、呼気の比率)
・呼吸補助筋の動員
・鎖骨、甲状軟骨の動き
・下部肋骨(フーバー兆候):横隔膜の効率化低下
・頸静脈怒張:過膨張による静脈還流阻害
などがあります。
これらの指標は、休息のタイミングを知る上で重要な観察ポイントです。
呼吸補助筋について、
努力呼吸時には、吸気には胸鎖乳突筋、前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋が、呼気には内肋間筋、腹直筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹横筋といった呼吸補助筋が補助的に用いられる。
Wikipedia
とあります。
一般的に、COPDの方では、呼吸補助筋は肥厚していることが多くあります。
鎖骨の動きとしては、吸気時の肋間や鎖骨上窩の陥入がみられます。
フーバー兆候では、吸気時の下部肋間の陥凹がみられます。
頸静脈怒張ですが、肺の過膨張は呼気時の胸腔内圧の上昇につながり、中心静脈圧を上昇させることで、頸静脈怒張がみられます。
次に、循環状態における観察ポイントを挙げます。
心拍出量低下による四肢末梢の冷感や、低酸素刺激による肺動脈圧亢進がポイントです。
肺動脈は右心から肺へ血液を送る動脈で、この動脈圧が上昇すると、右心の機能不全が起こりやすくなります。
そのため、咳、痰、喘鳴、浮腫、チアノーゼ、四肢末梢の冷感などの症状の観察が必要になります。
前途しましたが、SpO2、HR、RRなどの各指標のみではなく、呼吸パターンの観察が重要になります。
ここで、COPDにおける換気応答パターンをみていきます。
COPDでは、
換気需要増加→呼出制限→IC(最大吸気量)低下、FRC(機能的残気量:息を吐ききった後に肺に残っている空気の量)増加→TV(1回換気量)制限、RR(呼吸数)増加→動的過膨張→換気需要増加
というようなパターンになります。
このことから、まず1回換気量を上げて、頭打ちになると呼吸数が上がることがわかります。
次に、間質性肺炎における換気応答パターンをみていきます。
間質性肺炎では、
・肺コンプライアンス低下(肺の膨らみやすさ)→一回換気量低下→呼吸数増加
・呼吸数増加→乾性咳嗽→呼吸調整妨害
・拡散障害(肺胞内の酸素・二酸化炭素が通過できず、ガス交換が出来なくなった状態)→酸素飽和度低下による換気亢進→呼吸数増加、労作時呼吸困難、心拍上昇
・心拍上昇→労作時呼吸困難
というようなパターンになります。
このことから、間質性肺炎ではすぐに呼吸数が上がることがわかります。
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ADL指導、またはトレーニングを行う目的は、
・エネルギー消費の少ない効率的な動作方法を習得する
・労作に伴う呼吸困難感の軽減(パニックコントロール)
・ADL動作遂行時のSafe range(低酸素血症、交感神経の緊張をきたさずに実施できる範囲)を把握し、廃用あるいは過用に陥らないようにするための行動調整法を習得する
・HOT(在宅酸素療法)の管理能力の向上
が挙げられます。
ADL指導、またはトレーニングでは、
・呼吸−運動同調練習
・活動量調整
・姿勢、動作指導
・環境調整
を基本軸として、アプローチを展開していきます。
呼吸−運動同調とは、リズミカルな運動をしているときに、呼吸のリズムが運動のテンポに同調してくる現象のことです。
これがなぜ有益かというと、酸素消費量が低下したり、呼吸困難感の軽減、交感神経の緊張低下などの効果が報告されているからです。
単位時間当たりの呼吸仕事量を減少させ、呼吸困難感や低酸酸素血症を軽減させることが期待できます。
エネルギー消費量は、動作速度に依存して変化することから、動作のペースを調整することで、酸素消費量を抑えることが可能になります。
動作速度が速いと、換気需要に応じた呼吸法のリズムが合わず、呼吸と動作が同調しにくくなると言えます。
安静時に呼吸法を学び、単純動作として最初は歩行から同調練習を行うことが多くあります。
動作のペーシングについて、閉塞・拘束性換気障害別にみていきたいと思います。
閉塞性換気障害では、以下のようなことを考慮します。
・slow deepな呼吸
・呼吸法は口すぼめ呼吸
・指標は呼吸パターンが切り替わる呼吸数の限界点
・一定のリズム・強度の動作では変化しにくいが、動作切り替えの瞬間にいきんだり呼吸の深さに変化が生じてしまいやすいので注意が必要
口すぼめ呼吸:
口をすぼめてゆっくり息を吐くことで 圧を高めて、空気の通り道(気道)を奥の細いところまで開いた状態に保ち、空気の出入り(換気) を し やすくし ます。これによって「はき残し」を減らすことができます。
1、2で吸って、お腹を膨らまし、3、4、5、6で口笛を吹くように口をすぼめながら吐きます。
拘束性換気障害では、以下のようなことに考慮します。
・呼吸数の増加はある程度は必要
・slow deepな呼吸では、VE(分時換気量:1分間当たりに肺を出入りするガスの総量)が低下し、低酸素血症に陥る
・呼吸法を行うというよりは、動作のペース調整や休息を入れるタイミング、姿勢指導を行う
活動量を調整したり、休息を入れたりすることで、単位時間当たりの仕事量を調整することができます。
そのために、対象者に休息のタイミングやその指標を学んでもらう必要があります。
低酸素血症、交感神経の緊張をきたさずに実施できる範囲の活動に調整することで、肺過膨張や呼吸困難、低酸素血症の予防、改善を図ります。
・休息のタイミングは、修正ボルグスケールにて3〜4(中〜やや苦しい)がベターなタイミングで、呼吸数が上がったところで休ませるとよい
・自覚症状がない場合は、パルスオキシメーター、脈の状態などを指標にしたり、作業工程自体を調節する必要がある
・各動作だけでなく、1日のスケジュールや1週間のスケジュールとしての活動調整も行えることが重要
・休息がありすぎると、活動自体を遂行できなくなるため注意する
・調子の良い時だけでなく、調子の悪い時にどのようにペーシングするかというプランも持つことは重要
・身体活動量計も用いることがある
普段、私たちは意識しない限り、姿勢は無意識にコントロールされています。
そのため、対象者は動作遂行中の姿勢や、呼吸との関連性については意識しにくくなっています。
そこで、動作や姿勢の指導や環境調整を行うことで呼吸困難感に対処していきます。
前途しましたが、上肢の挙上、上肢の反復動作、腹部の圧迫、下肢の挙上、息を止めることが呼吸困難感につながります。
そのため、上記の運動や姿勢をとらせないようにすることが基本になります。
・机に肘をついて動作を行い、腕の運動を少なくする
・1口量の調整をする
・1回の食事量を少なく、回数を多くする
・電動歯ブラシを使用する
・腕をなるべく下げる
・洗顔の時は、酸素は外さない
・濡れタオルで拭く
・顔に水をかけるとき息を吐く
・椅子に座って行う
・上肢を低くして袖を通す
・足を組んで靴下をはく
・着る前にズボンと下着を合わせておき一度に履く
・前あきの服や靴ひもの無い靴を選択する
・掃除機をかける時に前かがみにならない
・洗濯物干しは腕を挙げすぎないでもできる高さで行う
・調理は椅子に座って行う
・電子レンジなどを有効活用する
・重い鍋は両手で体幹に引き寄せて持つ
・コンロに鍋を置いてから少しずつ水を入れる
・使用頻度の多い物は取り出しやすい場所に置く
・動線の簡略化のための環境調整をする
・在宅酸素使用中の方はガスから電気コンロへ変更する
・簡易な掃除用具(粘着ローラー・簡易モップ)を利用する
・計画的に少しずつ分けて行う
・雑巾絞りの際は呼気に合わせる
・干す衣類は予めハンガーなどの上に置く
・干す際は洗濯カゴは台などの上に置く
・洗濯ネットを利用し、洗濯機から取り出しやすくする
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