作業療法士を目指す方にとって、作業療法とはなんぞやという疑問から、作業療法を取り巻く現状についてまとめていきたいと思います。
目次
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出典:医療従事者の需給に関する検討会第1回理学療法士・作業療法士需給分科会 資料6
定義は上記を確認してもらいたいのですが、
作業療法とは、何らかの原因により身体、心、生活における障害を持つ方に対して、対象者の状態を評価し、それに基づいて基本的練習、応用的練習、社会適応練習を行うことで、対象者の方が対象者の方らしく、満足して生活ができるように援助していく職種をさします。
上図にあるADLとは、日常生活活動(Activities of Daily Living)の略で、移動、食事、整容(歯磨き、洗顔、髭剃り、化粧など)、着替え、入浴、トイレ動作などが含まれます。
ちなみに、作業療法は医師の指示に基づいてのみ行える療法です。
医師の指示なく作業療法を行うことは医療法違反になります。
上図を見てもらうとわかりますが、作業療法の対象は幅広いが故に、対象者が重要で価値のある活動に対しては、目標を定めてどのようにすれば満足してその活動が行えるかという視点に立ち遂行できるように関わっていきます。
例えば、「新幹線に乗って孫に会いに行きたい」という目標があるとします。
このような場合、私たちは以下のようなことを考えます。
・駅まではどのような経路で行くのか、またはどのように移動するか
・駅にはエレベーターがあるか、もしくは階段は何段か
・一人で切符を買い、新幹線に間違えずに乗ることができるのか
・新幹線に長時間乗るだけの体力はあるのか
挙げていくとキリがありませんが、このような事項が問題ないかを確認していき、問題がある場合、
・対象者の機能を上げればよいのか
・対象者を取り巻く環境を変えればよいのか
などを検討します。
例えば、歩くバランスが悪ければ、バランスを向上させたり歩く練習を行います。
また、歩くのが不安定であれば、駅までの交通手段を考えたり、誰かのサポートを受けながら孫に会いに行けないか、などを検討します。
このようなことから、作業療法士はマネージャー的な役割もこなし、対象者の重要で意味のある作業を遂行でききるように援助していきます。
作業療法士は国家資格です。
そのため、作業療法の専門性を学べる学校に入学し、国家試験受験資格を得なければなりません。
そして、国家試験に見事入学すれば作業療法士になれるのです。
出典:出典:医療従事者の需給に関する検討会第1回理学療法士・作業療法士需給分科会 資料6
上図は作業療法士国家試験の合格率を示しています。
これは2014年度までの結果ですが、
第50回(2015年)77.5%
第51回(2016年)87.6%
第52回(2017年)83.7%
第53回(2018年)77.6%
となっています。
結果だけを見ていると、合格率としては高めの水準を保っているということになります。
前途した国家試験の合格率については、新卒者と既卒者の両者を含めた合格率になっています。
ここで、新卒者のみの合格率に着目してみると、
第50回(2015年)85.5%
第51回(2016年)94.1%
第52回(2017年)90.5%
第53回(2018年)85.2%
となっています。
このことからわかるのは、新卒者の場合は合格率は高くなる傾向にあるということです。
一度国家試験に落ちてしまうと、その後再受験しても不合格になる方が多いと聞いており、この結果はそれを反映していることがわかります。
出典:医療従事者の需給に関する検討会第1回理学療法士・作業療法士需給分科会 資料6
作業療法士になるには、高校卒業後、作業療法士養成校で3年以上学び、国家試験受験資格を得る必要があります。
上図の通り、大学や専門学校に入学し、作業療法を学問として学んでいくのですが、最近は専門学校が大学に変わることも多く、また新設の学校も増えてきていることも特徴になります。
出典:第1回理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改善検討会 資料5
上図にもありますが、作業療法士養成校では、
・基礎分野
・専門基礎分野
・専門分野
を学びます。
専門基礎分野では、専門分野を学ぶために必要な解剖学、運動学、生理学、心理学などに加え、医学的な知識を学んでいきます。
専門分野では、作業療法を提供するために必要な知識や技術を学び、それを実習を通して実際の患者様を担当させていただくことで作業療法を実践していきます。
下図をみてもらうと、作業療法士養成校における退学率や留年率がわかります。
出典:第1回理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改善検討会 資料5
どのような形態の養成校においても、退学者や留年者はもちろん一定数は存在します。
私の知る方では、養成校入学後、学んでいく中で「自分がやりたいことと違った」「勉強するのがしんどい」「実習がが合格できなかった」などの理由で退学する方が多かったと思います。
下図は、退学理由についての資料です。
出典:第1回理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改善検討会 資料5
精神的、身体的ストレスにより退学された方も一定数いることと、経済的な理由で退学された方もいることがわかります。
経済的なことについては、作業療法士養成校は、学費については高いと思います。
私の場合私学ですが、卒業までに学校に支払った学費は700万円近く?かかったと思います。
さらに、教科書代は専門書なのでかなり高いですし、実習先での食費なども考慮すると、実際にはもっとかかっていたと思われます。
作業療法士に関わらず、医療系の専門職では、実習がつきものです。
私が養成校で勉強していたときには、実習では睡眠不足が当たり前という風潮もまだ残っていたと思います。
もちろん、実習は実際に存在する病院(や施設)に行き、患者様やスタッフとコミュニケーションをとったり、患者様の状態を見させていただいたり実際に作業療法を行うので、しんどくにといえば嘘になります。
近年では、実習が原因で学生が亡くなってしまうというような事例もあったため、実習形態に変化が出てきていることも事実です。
従来型の実習では、一人の患者様を担当させていただく中で、その方の状態を把握し、作業療法を提供し、その結果どのように患者様が満足して生活できるようになったのかというような過程を、実習レポートとして提出することが当たり前でした。
そして、1日見た、得られたことを家に帰ってパソコンでレポートに仕上げる作業を行うことも当たり前でした。
これが、近年では実習施設でその作業を終えるようにし、家では1時間程度の自主学習の時間を設ける程度にするということが流れとなっているようです。
これにより、実習生の負担は減るようになるというのは間違いないと思います。
実習がしんどいのかと聞かれれば、「しんどい」というのは本音ですが、これからの学生については、作業量については「しんどくないかも」しれないということになると思われます。
作業療法士が働く場所は様々です。
出典:医療従事者の需給に関する検討会第1回理学療法士・作業療法士需給分科会 資料6
大きく分類すると、
・医療分野
・介護分野
・福祉分野
・養成教育
・行政
などがあります。
この中では、圧倒的に医療分野(病院)で働く作業療法士が多いことがわかります。
しかし、近年は介護分野で働く作業療法士も増えており、地域で対象者の方を見ていきたいと考える方も増えているようです。
作業療法士は女性が多いんです!
出典:医療従事者の需給に関する検討会第1回理学療法士・作業療法士需給分科会 資料6
オレンジのグラフが女性会員の比率です。
昔より少しずつ女性比率は減少してきていますが、多いときで7割以上を女性の作業療法士が占めるということもあったようです。
出典:医療従事者の需給に関する検討会第2回理学療法士・作業療法士需給分科会 参考資料
ネット検索をすると作業療法士の平均年収はすぐに出てきます。
おおよそ平均年収としては、400万円台中盤だと思います。
上図を見ていくと、年代別のおおよその年収の推移の変化をがわかります。
20歳代については、作業療法士の給料は、他の業種に比べても良いことがわかります。
しかし、30代以降は、他の業種に年収が抜かれています。
これは、まず診療報酬制度の問題が挙げられると思います。
我々は、1日に提供できるリハビリの時間が限られているので、飛び抜けて成績を上げることはまず不可能です。
さらに、昨今の日本の財政難の影響で、年々医療や介護報酬に対する見方が厳しくなっているということも影響しています。
我々の業界が収入源を確保していくためには、消費増税が行われて、医療福祉や介護分野に財源が確保されるということが必要になります。
作業療法士の国家資格を持っていると、間違いなく就職には有利です。
また、全国どこでも働くことができるというのは強みであると思います。
例えば、将来的に結婚をして、今まで住んでいた地域とは違う場所に住むことになったとします。
その際に、作業療法士の国家資格があれば再就職もしやすいという利点があります。
下図を見てください。作業療法士の充足度をあらわす人口10万人あたりの作業療法士数を表すグラフです。
出典:医療従事者の需給に関する検討会第2回理学療法士・作業療法士需給分科会 参考資料
理学療法士に比べて、作業療法士はまだまだ数が足りていないのではないかなというのが現状かなと思います。
このようなことからも、作業療法士の国家資格を持っていれば、働き口としてはまだまだ十分にあるといって良いと思われます。
近年、理学療法士は養成校の増加に伴い、就職において飽和状態であるということも風の噂で聞かれるようになっており、新規事業、働き口の開拓や確保などにも取り組んでいるということを聞いたことがあります(詳しくはわかりません)。
作業療法士に関して言えば、まだまだ飽和状態というわけではないと思われます。
出典:医療従事者の需給に関する検討会第2回理学療法士・作業療法士需給分科会 参考資料
どの地域においても、作業療法士の雇用を増やしていく予定があることが分かっており、作業療法士の働き口が飽和状態というわけではないと言えると思います。
これについては本当にすごいと思います。
「The future of employment: How susceptible are jobs to computerisation?」という論文(雇用の未来:コンピュータライゼイションは雇用にどのような影響をもたらすか?)において、作業療法士はAIにとって代わることができない職種として第6位にランクインしました。
出典:The future of employment: How susceptible are jobs to computerisation?
作業療法は、対象者の方の意味ある活動、または重要な活動をいかに満足して行えるようにするかをサポートしていく職種ではあるので、価値観の違いや多様性に富んだサポートを提供しなければなりません。
身体的、精神的、活動能力、環境調整など、総合的な情報把握とマネージメント能力も必要とされるので、コンピュータが作業療法の技能を全て行うことは不可能と判断されているのかもしれません。
このような視点からみると、作業療法の将来性もまだまだあるように思えます!!
これまでに、作業療法の特徴や作業療法士になるまでの過程、給与面などについて述べてきました。
ここからは、作業療法士の就職活動についてのポイントを考えていきたいと思います。
母校(大学)の教員に話を聞いたところ、最近の学生の就職の傾向としては、
①お世話になった実習先に就職する
②母校の先輩がいる、または母校の教員知り合いがいる
③母校の教員の紹介
などで就職する学生が多いと聞いています。
その他の傾向としては、
①就職先までのアクセス
②就職先の教育体制
が影響するということでした。
確かに、何も知らないところに行くよりも、お世話になった実習先や母校の教員の紹介の方がその後の連携面においても安心ができると思います。
筆者自身の経験からすると、就職先までのアクセスはかなり重要です。
例えば、電車を使って通勤時間1時間と、自転車で10分の通勤時間を比べると、絶対に通勤時間が短い方が楽です。
作業療法士はサービス業ですから、ストレスにさらされることは間違いないですし、通勤時間が短い分を休息や自己学習の時間に充てられます。
また就職先の教育体制ですが、どのように新人に対して教育を行っていき、長期的に見てどのように一人前に育てていくのかということを確認すると良いでしょう。
具体的には、就職後にはまずどのように対象者の方を担当していくのか、勉強会の頻度はどうか、勉強会参加への補助はなるかなどがポイントになるかと思います。
後は、なんだかんだ言って、給与面はとても大切になるかと思います。
初めは基本給が低いですが、長く勤めることによって昇給が徐々にしていくような施設であれば、初めの低い給与という面を意識しすぎるあまり、途中で退職して損をしてしまうということもあるかもしれません。
そういう意味では、短期的な給与と、長期的な給与、福利厚生面などを総合的にみて就職活動をすることが大切なポイントになります。
最近では、作業療法士の就職を、学生の時からサポートしてくれる企業も増えています。
学校の就職相談室などで膨大な資料の中から希望条件に合う施設を探すのは大変手間がかかってしまいますので、そういう点においては、下記のような企業を使用するのも一つの手かと思います。
有名な所では、「マイナビコメディカル」さんなどがあります。
私は転職の際にこちらの企業でサポートを受けましたが、コーディネーターの方に丁寧な対応をしていただき、 希望条件にあった転職先の提案やその施設の特徴を詳しく教えてくれますし、転職まで細やかなフォローをしてもらいました。
大手企業という安心感ももちろんあります。
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晴れて国家試験に合格したあとも、作業療法士として勉強するのは必須です。
日々医療の世界は進歩しており、昨日の最新技術が今日には時代遅れになっているということもあるかもしれません。
特に、初めの2〜3年の間に一生懸命勉強しておくことで、後々のキャリア形成に大きな影響を与えることが考えられます。
出典:医療従事者の需給に関する検討会第1回理学療法士・作業療法士需給分科会 資料6
上図は、日本作業療法士会に入会後(入会が義務化されているわけではない)の作業療法士の卒業教育についての流れです。
大まかなながれについては、
①生涯教育基礎研修
②認定作業療法士
③専門作業療法士
という流れになります。
①→②→③という流れに従って、より専門的な知識と技術を有しているだろう、またはそれだけの勉強をしてきたのではないかということが認められるということになります。
しかしながら、現状では認定作業療法士、専門作業療法士を持っていることによる、施設での経営上のメリットは特にありません。
研修は全国各地で開催されていますが、もちろん研修代金はかかりますし、その時間と労力も費やさなければなりません。
認定・専門作業療法士を取得することのメリットがもっと大きくなれば、取得率も向上してくるのかもしれません。
もちろん、転職先を探す際には、そのような認定資格を取得している方が有利になると考えられます。
作業療法の3本柱は
①臨床
②教育
③研究
です。
この中で、教育についてですが、養成校での教育ということの他に、臨床の場では実習指導というものがあります。
今後、この実習が大きく変わろうとしているのですが、そのために、作業療法士は指定された研修(2日間みっちり)を受ける必要がでてきます。
この研修を受けていないと、養成校が実習先を確保することが難しくなります。
現場では、研修費用は負担できるのか、わざわざ研修を受けに行く時間と気力があるのか、などということも議論されているようです。
しかしながら、この3本柱のことを考えると、作業療法の発展のために臨床家は研修を受けるべきであると筆者としては個人的に考えています。
昨今、企業における副業解禁の流れが時代変化とともに話題になっています。
副業をするメリットとしては、
・給与所得が増える
・様々な社会経験ができる
などが挙げられます。
一方、デメリットとしては、
・勤め先の仕事に集中できなくなる
などが挙げられるでしょう。
作業療法士として、例えば家族4人を養っていくとなると、その給与所得だけでは難しいというのが現状です。
そのため、医療職の方も副業として、
・同業種でのアルバイト
・職種が関連する市町村や都道府県における業務でのアルバイト
・セミナー講師
・ブログ運営
・書籍の執筆
・異業種でのアルバイト
などを行っている方もいます。
勤務先には副業禁止規定がある場合も多いようですが、その場合、副業がばれると解雇ということにもなりかねません。
しかしながら、作業療法士が足りていない職場などでは、解雇をすると逆に困ってしまうようなパターンもありますから、解雇にはつながりにくいのではないのかとも思います。
例えば、私の周りには施設や病院勤務の傍ら、訪問作業療法士としてアルバイトをしている方もいます。
1件60分3500円などというように、時給としては良い方だと思われます。
休日が多く取れる病院や施設に勤めている方では、このような副業を行っている方も多いと思います。
作業療法士の転職については、様々な理由があると思います。
私自身は、今までに2度の転職活動を行いました。
①違う分野での転職活動
②同じ分野での転職活動
①については、初めの2年間は精神障害分野で勤めていたのですが、違う分野も経験してみたいと思い、身体障害分野に転職をしました。
②については、同じ身体障害分野で、違う都道府県での転職を経験しました。
転職すると、初めは慣れるのに時間もかかり、新たな人間関係を構築していかなければならないために、ストレスフルな状態にはなります。
しかし、転職することによるメリットも十分に享受できる可能性もあります。
私自身は、転職することで休日も増えましたし、給与もアップさせることができました。
そして、自由時間を取れるようになった分、今こうしてブログの執筆活動にも余裕を持って取り組めています。
私自身の転職体験の記事もありますので、よければ参照してみてください。
PTOTSTと転職、副業!給与アップのために具体的に実践できること!
作業療法士は、よく「やりがいのある仕事」だと言われます。
確かにその通りです。
対象者の方に「ありがとう」と言われるのはもちろん嬉しいですし、満足して生活を送れるようになってもらえた時には仕事をやっていてよかったとも思えます。
そして、ライフワークバランスの観点からしても、作業療法士はバランス力に優れているとも言えるかもしれません。
残業もあまり多くはありませんし、休養やリフレッシュの時間を取りやすい職業とも言えます。
しかし、給与面から考えると、前途しましたが満足出来る額というわけではありません。
残業代に関しては、施設により規定は様々ですが、カルテ業務や書類作成で残業を申請できる場合もありますし、対象者の治療という点においてのみ残業を申請できるというように違いがあります。
これからの医療福祉、介護分野の動向から見ていくと、高齢者の数は間違いなく増えていくので、働き口はまだまだ確保できるというのが良い点ではありますが、日本の財政面から考えたときに、医療職の給与面の確保という点では不十分になる可能性もあります。
勉強会、研修会に行ったり、勉強をしていくことは作業療法士にとっては必須でありますが、どうしても経済的な事情も絡んでくることがあり、セーブをかけてしまうことも多々あります。
その辺りは自分自身がどのようにキャリアを形成していくかという目標によって変わってきますので、将来を見据えた行動が必要になると考えられます。
作業療法士になるまでの頑張りも必要ですが、「作業療法士になった後にどのように目標を設定し、どのように行動していくか」という点について、将来的なことを見据えながら働いていくことが求められると私は感じています。
とはいえ、作業療法士の仕事は本当にやりがいがあります。
多種多様な価値観をお持ちの対象者の方と接するのはとても勉強になります。ときには本当にありがたいアドバイスをもらえたりすることもあり、逆にこちらが励まされることもあります。
人間は、コミュニケーションをとることで人間たらしめるのではないかと思いますが、まさに作業療法士はそのような人間性も養ってくれる職業だと思います。