人間は失敗体験から多くを学ぶことができると言いますが、リハビリテーションの場面では、失敗体験はそれ以後の行動を抑制させてしまう可能性もあり、成功体験を積ませることの方が大切だという意見もあります。今回、リハビリテーションにおける失敗体験が行動にどう影響するかと、行動促進に必要な課題と難易度設定の考え方についてまとめていきたいと思います。
目次
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リハビリテーション場面では、以下のように失敗体験をさせてしまうことをよく経験します。
これは、評価を行う場面でよく見かけるリハビリテーション失敗体験あるあるです。
例えば、少しは麻痺手が動いているが、まだ機能的ではない方に、
「お箸を持って動かしてみましょう」
と、こちらが見たいがために評価として声をかける場面があります。
そして、対象者の方は一度お箸を持って動かそうとするのですが、
「やっぱりダメだ」
「まだだめでしたね」
と言ったりする場面です。
これも、同じようなことなのですが、チャレンジ精神を大事にと、機能レベルとしては微妙なラインの対象者に
「一度チャレンジしてみましょう」
と言い、やはり失敗させてしまうようなパターンです。
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全ての方がそうだとは言えないとは思いますが、対象者の方は、
作業活動(物品操作課題)<実生活における作業課題(ADL、iADL、趣味活動)
で、失敗体験を大きく感じてしまうような傾向にあると思います。
作業療法でよく用いるペグやお手玉を一つや二つ落としたところで、対象者は失敗に対してあまり気にしませんが、
服を着たり、お茶碗を持ったり、お箸を操作する課題においては、失敗体験を味わうと、より気分状態が落ち込む方が多いと思われます。
このことから、対象者の方は、日常生活レベルに近い課題においては、失敗体験を大きく捉えやすい傾向にあることが予測できます。
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これもリハビリテーション失敗体験あるあるのひとつかもしれません。
例えば、私たちは対象者に遂行して欲しいことがあると、
「体は真っ直ぐにして、手は前に伸ばしてください」
などとアドバイス、またはフィードバックすることがあると思います。
このような助言は、対象者との信頼関係ができていれば大丈夫かもしれませんが、
リハビリ開始後間もないような、信頼関係がまだ十分にとれていない関係においては、
失敗体験だと思ってしまうことがあります。
助言が罰刺激になり、対象者に失敗体験を強く印象付けてしまう可能性があるということです。
初期段階の対象者は、まだまだ成功体験を積み重ねることができていないため、こちが良かれと思って伝えたことが、逆効果となることを覚えておくと良いでしょう。
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失敗体験を重ねると、行動が抑制される可能性があります。
成功体験を重ねると、「側坐核」という、報酬に強く関連する脳部位が働きます。
側坐核はやる気スイッチの部位とも言われており、成功体験が、次の新しいチャレンジや行動を促進することが考えられます。
私たちだって、毎日毎日失敗を繰り返していると、なんだかやる気がなくなってくることがあると思います。
私たちの何気ない行動や言動が、対象者のやる気スイッチを押せるか押せないかに関わっているということをわかっておくことが大切になります。
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前途した、リハビリあるあるから学べることは、
・実生活に近い作業活動を治療に取り入れる場合には、その要素を含む課題が十分に行えるようになってからにする
・最初は簡単な課題から設定し、徐々に難易度を上げていく
・気になること一つ一つを注意するのであれば、課題のレベルを下げて、注意する事を少なくする
・助言と思っていることが、罰になっているかもしれないということを知っておく
と、4つのことを意識して行うことが必要になります。
その中でも、難しい課題を設定すると、どうしてもできないことには代償動作が生じてしまいます。
すると、代償動作一つひとつに注意をしてしまうことになります。
我々療法士の癖として、対象者の悪いところを見つけるのが得意という特徴がありますから、逆に良いところを褒めれるような課題設定をするような考え方も必要でしょう。
罰刺激を与えても運動学習は進みません、罰は減らすように意識します。
アドバイスはある程度の信頼関係(セラピストが言ったことを聞けばもっとよくなると思うくらい)になっていれば、どんどんと伝えても良いと思います。
対象者ができることを課題として設定し、成功体験を積ませることが、特に初期の治療関係では大切になります。
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