日本の臨床現場では、脳卒中者に対してブルンストロームリカバリーステージを用いることがほとんどだと思います。しかしながら、ブルンストロームリカバリーステージは、筋緊張、分離運動、筋力・スピードの問題が重なっていることもあり、対象者が上記のどの部分に問題があるかをわかりにくくしている原因にもなっています。今回、臨床でブルンストロームリカバリーステージを利用する意義を考えていきたいと思います。
目次
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ブルンストロームリカバリーステージは、脳卒中などによる片麻痺患者の上肢・手. 指・下肢の運動麻痺を評価するために使用される指標で、その経過を追うことで、運動麻痺の回復過程を知ることが可能になります。
ブルンストロームリカバリーステージですが、I〜VIの段階に分けられています。
I:随意運動なし(弛緩)
II:共同運動またはその要素の最初の出現期(痙性発現)
III:共同運動またはその要素を随意的に起こしうる(痙性著明)
IV:基本的共同運動から逸脱した運動(痙性やや弱まる)
V:基本的共同運動から独立した運動(痙性減少)
VI:協調運動ほとんど正常(痙性最小期)
これら6段階のステージの中で、筋緊張、分離運動、筋力・スピードのどの要素が、どの段階との関わりがあるのかを考えると、
筋緊張:ステージI、ステージII
分離運動:ステージII、ステージIII、ステージIV
筋力・スピード:ステージIV、ステージV、ステージVI
となります。
以上のことから、ブルンストロームリカバリーステージの変化を日々把握することで、対象者の運動障害が、どのような要素の問題が大きく関わっているかを知ることができます。
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まずは、脳の自然回復というのがどのような要素から成り立つかを把握することから始めます。
脳を損傷した後の、神経可塑性のメカニズムとしては、
局所的変化として
・脳浮腫の改善
・ペナンブラの改善
・ディアスキシスの改善
脳の再組織化として
・神経伝達物質の変化
・抑制経路の顕在化
・シナプスの形成
が考えられています。
脳の自然回復を考えたときに、重要な要素となるのが
・血腫の吸収
・機能解離の改善
などになります。
上記した、自然回復の中で重要な要素となる機能解離(ディアスキシス)ですが、
ディアスキシスは,脳損傷部位から離れた脳の部位への主要な入力が突然遮断された結果として生じる低反応性や機能低下の状態である.
脳のある部位が損傷を受けると,脳組織の他の領域は,刺激の主な供給源を突然奪われる.
Nudoら(2001)はディアスキシスが損傷後早期に生じ,損傷の中心部と相互に連結している周囲の皮質組織や少し離れた皮質領域の抑制や鎮静であることに注目した.
可逆性はある程度浮腫の改善によるものかもしれず,また自然回復の一部を説明するかもしれない(Nudo et al.2001).
特に脳の連結している領域が損傷を受けていなければ,ニューロンの機能はディアスキシス改善後回復するかもしれない.このことは皮質損傷後,特に非皮質構造に当てはまる(Lo 1986).
http://www.kio.ac.jp/~a.matsuo/pdf/c02.pdf
とあります。
たとえば、皮質脊髄路の損傷を受けると、そことつながりのある一次運動野や脊髄運動ニューロン(運動細胞プール)は、主要な入力が突然遮断され、低反応性や機能低下を起こすことにつながります。
ここで、ブルンストロームリカバリーステージとの関連性について考えていきます。
前途しましたが、各ステージと運動麻痺の要素との関係は、以下のようなものでした。
筋緊張:ステージI、ステージII
分離運動:ステージII、ステージIII、ステージIV
筋力・スピード:ステージIV、ステージV、ステージVI
筋緊張は脊髄レベルの興奮性を反映しているものです。
筋緊張については腱反射を評価することで、脊髄レベルの興奮性を把握することが可能です。
詳しくは以下の記事を参照してください。
脳卒中片麻痺者に腱反射をする意義!脊髄レベルの興奮性をみるのはなぜか!
また分離、筋力・スピードは皮質脊髄路の興奮性を反映しているものです(分離は一次運動野の興奮性も含まれる)。
ということは、ブルンストロームリカバリーステージにおける運動麻痺の回復過程では、ステージII→VIにかけては、皮質脊髄路の興奮性の回復の程度を把握することができるということになります。
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ブルンストロームリカバリーステージは、運動麻痺の回復程度を把握するために使用される。
機能解離(ディアスキシス)により皮質脊髄路や一次運動野など運動発現に関する部位に機能低下が起こる。
脳の自然回復の過程を知るときに、どのステージの状態にあるかを把握することは、それが脊髄レベルの興奮性が回復してきているのか、または皮質脊髄路(または一次運動野)の興奮性が回復してきているのかを判断する資料になる。
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