半側空間無視の治療的介入には様々なものがあります。今回、半側空間無視の病態理解から評価、リハビリテーションアプローチを文献を参考にして整理していきたいと思います。

目次

半側空間無視の病態理解と評価、リハビリテーションアプローチ

参考・引用文献

 

 

半側空間無視の病態の理解

半側空間無視について

半側空間無視とは、

大脳半球病巣と反対側の刺激に対して、発見して報告したり、反応したり、その方向を向いたりすることが障害される病態である。

高次脳機能障害学 第2版 P151

とあります。

半側空間無視は、その多くが左側を無視してしまう、いわゆる「左無視」の症状が出現します。

これは、脳の右半球の損傷によるものです。

A-ONEの講習会では、右半側空間無視という症状は、無視ではなく、他の要素から生じているのかもしれないと話をされていたような記憶があります(曖昧ですみません)。

頭や視線を左側にしても半側空間無視は生じることから、半盲などの視野障害とは鑑別が重要になります。

半側空間無視では、自身の症状に対する認識力(アウェアネス)が低下しているとされています。

そのため、なかなか代償方法を獲得しにくいということがあります。

視野障害の場合では、対座法にて1点を固視した時に、一部の視野にある視覚的刺激に気づくことができないという症状が生じます。

先ほども述べましたが、半側空間無視では、視線の場所に限らず無視症状が起こります。

また、半側空間無視と半盲は同時に存在していることもあります。

無視のパターン(色々な状況で無視が起こる)

半側空間無視では、色々な状況において無視が生じます。

まず、自分の体を中心として、左右の空間を無視する場合です。

無視の境界線みたいなものはなく、その時の課題の状況ににより無視が生じる範囲は変化します。

また、ひとつの物や枠組みに対する無視も生じることがあります(物体中心の無視)。

例えば、ご飯を食べていて、お皿の中の左半分を残しているような場合です。

最初の説明での無視の場合、自分の真ん中よりも左側にあるおさらに気がつかないといった症状になります。

半側空間無視の症状

①急性期
重度の症状では、ベッド上臥位で頭部、眼球が右方向へ向いていることがあります。

正面を向いていても、左側に気づかず、声かけに対して右側ばかり探索することがあります。

②ベッド上、車椅子座位
左側に置かれたナースコール、リモコンなどが見つけられなくなります。

食事では左空間の皿に手をつけなかったり、皿の左半分を残したりします。

服の着替えでは、服の上下左右がわからなかったり、左側の袖を通さず放置していることがあります。

本を読むと左側を見落としたり、電話では電話番号をうまく押せなかったりします。

電話番号を押す課題はBITの検査課題でもありますね。

③移動
移乗では左側ブレーキのかけ忘れ、フットレストの上げ下げを忘れることで転倒のリスクが高まります。

車椅子駆動では左側をぶつけやすく、歩行場面では体の左側をぶつけやすくなります。

また、左に曲げるべき箇所を見逃したりします。

④病識
左側の見落としの病態に対して無関心であることが多いです。

日常場面で左側の見落としを指摘されることで、「注意して左を見るようにしています」と言うようにはなるが、自分でそう思うかを問うと「自分では見ているつもり」「見えることは見える」など、病識の乏しさが目立ちます。

半側空間無視で半盲等の視野障害に気づく者もいますが、代償動作として左への視線移動はない、または乏しいことが多いです。

⑤物品認知
半側空間無視では、まとまりのよいものや顔は認知できることが多いです。

しかし、右側だけ見ても判断できないもの(例えば金槌)では、提示の仕方により「棒」と答えることがあります。

一方で、右側だけでは何かわからない場合には、左側まで見ようとすることがあります。

これは、脳内の物品イメージは保たれていることが示唆されます。

⑥自己身体の認知
指示により自分の身体の左側を指し示したり、触ることができないことがあります。

急性期に多い病態ですが、慢性期まで残ることは少ないと言われています。

症状は以上のようなものがあり、それぞれに対してアプローチしていく必要があります。

また、家族に対しても、半側空間無視の症状や日常生活への影響、普段の接し方などの注意点を共有しておくことが大切です。

家族は不安だらけだと思いますので、積極的にコミュニケーションをとり、対象者の状況を伝え、家族の思い、感じ方など精神面のフォローも行ってほしいと思います。

ADL遂行中における半空間無視の種類と例

個人空間、あるいは身体無視:

顔の左側を洗わない
顔の左側を剃らない
身体の左側を洗わない
移乗動作で身体の左側を組み込まない
身体の左側を使わない

近位個人外空間(リーチできる範囲)の無視:

洗面台の左側で対象物が見つからない
テーブルの左側の対象物が見つからない
読めない
電話ダイヤルの左側が見つからない
皿の左側の食べ物を食べない
車椅子の左側のブレーキを探せない

遠位個人外空間無視:

壁の左側にある時計を見つけられない
移動で道に迷いやすい
玄関口を進めない
テレビを見ることが困難
声を出した人を見つけられない

半側空間無視の病巣についての理解

側頭ー頭頂接合部

この部位では下頭頂小葉が重要と考えられており、とくに下頭頂小葉のうち角回が責任病巣となります。

 

下頭頂小葉と下前頭回後部は上縦束(ⅡとⅢで結ばれる)。

また内包後脚は視床と下頭頂小葉とを連絡する繊維を、内包前脚は視床と前頭葉・帯状回とを連絡する繊維を含む。

下頭頂小葉または前頭葉の皮質・皮質下病巣は上縦側を損傷し、また、視床との連絡繊維も損傷する。

このため、空間性注意のネットワークの広範な機能低下により、半側空間無視が慢性化しやすい。

下前頭後頭束の病巣も半側空間無視発現に一部関与すると思われるが、それのみで無視が起こるかどうかは明らかでない。

高次脳機能障害学 第2版 P165

前頭葉

頭頂葉に前頭葉病巣も含むと半側空間無視は重症化、慢性化しやすくなります。

前頭葉のみの病巣でも半側空間無視は起こることがあり、この場合は下頭頂小葉に比べ、程度は軽い場合が多くなります。

部位としては、背外側面後部の下方、その深部が広く損傷された場合が多くなります。

前頭葉内側面(帯状回含む)では半側空間無視がみられることはまれです。

視床、基底核

視床梗塞よりも視床出血例に半側空間無視がみられることが多くなります。

視床の中でも、視床枕との関係が大きく、後大脳動脈領域梗塞で視床後部の穿通枝梗塞を伴う場合に生じやすくなると考えられています。

基底核では被殻の役割が大きく、尾状核も関与しており、出血例で半側空間無視が多くみられます。

側頭葉

上側頭回が関与するという報告もありますが、異論もあるようです。

後大脳動脈領域の梗塞において、側頭葉内側部の海馬傍回が病巣に含むことが重要とされているようです。

皮質下白質

深部白質の病巣部位としては、内包後脚、外側膝状体、視放起始部を損傷する前脈絡叢動脈領域です。

これには、頭頂葉と前頭葉を連絡する上縦束と、下頭頂小葉の縁上回の重要性が言われています。

また上縦束を含む側頭頭頂領域と前頭葉外側を結ぶ白質との関連も言われています。

半側空間無視の3要素と病巣の関係

1つ目の要素は線分二等分試験などと関連のある知覚性、視空間要素です。

2つ目の要素は対象中心、物体中心の要素です。3つ目の要素は抹消試験などの探索的、視覚運動要素です。

これらと病巣の関係について、

第1の要素、知覚性/視空間性要素の無視は右下頭頂小葉の縁上回付近の病巣と関連した。

第2の要素、対象中心/物体中心の要素の無視は右側頭葉の海馬傍回に中心を持ち、中側頭回に向かって白質内に伸びる病巣と関連した。

第3の要素、探索的/視覚運動性要素の無視は、右下前頭回、より前方の背外側部前頭前皮質、中前頭回後部と関連した。

高次脳機能障害学 第2版 P166

と言われています。

評価:視野検査(対座法)の正しい方法の理解と半側空間無視との関係

半側空間無視と視野障害の違い

半側空間無視は、視線や頭部の動きを許している時に、大脳半球病巣と反対側の刺激に対して、発見したり、反応したり、その方向を向いたりすることに困難さを生じます。

一方、視野障害(半盲)はある1点を固視した状況において、一部の視野に提示されている視覚刺激を検出することに困難さを生じます。

視野障害では視野が検出できない側に頭頸部を向けることで視覚刺激を検出することができますが、半側空間無視ではそういった代償方略の獲得が困難な事が多いです。

視野検査(対座法)の方法

視野検査の方法について説明していきます。

急性期の視野障害の検出については確定診断はできませんが、右目の直前右側と左目の直前左側で検者の指を動かして、瞬きが見られない側に視野障害が疑われます。

次に対座法です。

半側空間無視がある場合、固視が安定しないことが多く見られます。そのため検者と患者が向き合って座り、視線の動きを観察しながら実施する方法をとります。

①患者と検者の眼が約80㎝になるように向き合う。
②左の眼を左手で覆わせる。
③右目は検者の左目を見つめさせる。
④検者は両手を前側方に自分の視野いっぱいに広げる(指は垂直に立て、指の位置は患者と検者との中央にあるようにする)。
⑤指を動かし、左右どちらが動いたかを指摘させる(左右で答えるよりも、動いている法を指で示させる)。左右同時に動かしてそれがわかるか(視覚消去現象:はっきりした半盲はないが、対座法で左右の指を同時に動かしたときに一方のみを無視する現象。障害側の視覚が、健側の視覚により消去されるために起こり、軽度な半側空間無視となる)も確認する。

*検査中、患者の眼球が固定されているかどうかを常に確認します。
*目の中心より鼻側、耳側、上下の視野を知ることが可能になります。
*視野欠損・縮小がある場合は、視野の周辺部より指を中心に動かしていき、どこで見えるようになったか調べます。半盲があれば、障害側へ物体を近づけると中心線で初めて見えるようになります。
*失語症や認知症があり検査の内容が理解できない場合、視野周辺から患者の眼を引きそうな物を近づけた時の眼球の動きから視野の大まかな状態を知ることができます。
*軽い意識障害で視野を検査する場合、患者が開眼している時に眼に向かい検者の指をつっこむような動作をすると閉眼する(視覚性おどし反射)ことがあり、この方法で半盲の有無を判定します。

視覚消去現象について

左右視野でほぼ同等に見える範囲がある場合には、視覚消去現象についての検査も行います。検査は対座法と同じく対面座位で行います。

①左右対称の位置に検者の指を提示し、右、左、左右両方の指をランダムな順序で動かし、動いた側を答えさせます。

この際、左右どちらかが動いたことが検出できても、左右同時に指が動いた場合に一側を検出できない現象を、視覚消現象といいます。

半側空間無視では、視野が保たれている場合の左側の、また左上1/4の視野において視覚消去現象が見られる事が多いです。しかし、その現象は必ずおこるというわけではありません。

半盲との判別のヒント

視野欠損

無視

対座法や視野測定検査により客観的に評価される

個人空間、近位個人外空間、遠位個人外空間、運動無視特定のための評価により検査される

回復過程で早期に障害への気づきが現れる

障害への気づきが重篤で持続する

頭部の動きによる代償が早期に観察され、指導もしやすい

代償による介入は困難で、回復には多くの期間が必要かもしれないし、効果がないかもしれない

姿勢の影響を受けないことが多い

頭部、頸部、体幹姿勢が右に傾くことがある

感覚に基づく障害

注意に基づく障害

視覚的障害のみ

視覚、聴覚、触覚などの感覚系の関与

効果的な代償により良好な機能効果がある

機能的効果は、無視のない患者と比較すると少ない

現実世界全体のイメージは問題がない

記憶により部屋の説明をする際、空間の左側のイメージが減少している

消去減少(左右の刺激を同時に呈示されるとどちらか一方を知覚することができなくなる減少)はない

消去減少がある可能性あり

左側への早い眼球運動がある

右側にかたよった眼球運動

両方の半側視野運動も影響なし

左側視野への自動的な運動、もしくは他動的な運動への抵抗感
障害側視野への運動に関連した遅延(運動機能低下)

一貫した視覚的操作パターン

右側へ偏った無計画な視覚的操作パターン

比較的重篤な障害でない

重篤な障害

ADLの観察評価評価:A-ONE

ADL遂行場面での評価では、A-ONEがあります。

A-ONEにおいて、半側空間無視は以下のように定義されています。

視知覚障害あるいは注意障害による脳の損傷と反対側の外空間に存在する視覚的刺激に対する不注意あるいは無視

視覚障害や半盲を伴い、単独で生じるかもしれない

脳卒中のリハビリテーション P494

ADL遂行場面では、上記のような遂行エラーが観察されます。

同名半盲については、以下のように定義されています。

脳の損傷部位と反対側の半分の視野の欠損

脳卒中のリハビリテーション P492

半盲では通常、障害に気づいていることが多く、両側の視野を見るのに頭部の動きを利用する(代償)動きがみられます。

行動評価: CBS

半側無視の検査による結果の違い

半側無視の代表的な検査として、

・BIT
・CBS

があります。

BITは机上検査であり、CBSは行動評価により半側無視の存在を把握することになります。

雑誌「作業療法」に掲載されている論文を最近読んだのですが、「半側無視」と「半側空間無視」は異なる意味を持つことが書かれていました。

同じ無視でも、空間性の無視と自己身体の無視に分けられるとされ、半側無視の下位分類として半側空間無視があると書かれていました。

詳しくは「作業療法」37巻1号を参照してください。

BITによる検査では半側空間無視が軽度であっても、CBSで評価を行うと重度の半側無視があるというような、乖離が見られることが報告されているようです。

そのため、検査・評価ではBIT、CBSの両者を用いることが必要となりそうです。

先ほど半側空間無視と半側無視の違いを少し説明しましたが、この観点からすると、BITのような半側空間無視を検査する机上課題を用いるだけでは、半側無視を特定することが難しくなることが予測されます。

CBS(Cathrine Bergego Scale)の概要と評価方法

CBS(Cathrine Bergego Scale)は10項目から構成される観察評価です。

各項目に対し、

0=無視がない(空間的偏りがない)
1=軽度無視あり(はじめ右側を探索し、左側をゆっくりためらいがちに探索し、時に左側の見落としが起こる)
2=中等度無視あり(左側の見落としや衝突が明らかに起こる)
3=重度無視あり(左空間探索ができない)

をつけていき、合計点は30点になり、高得点ほど無視が重症なことを表します。

評価項目

1顔の左側をきれいにしたり髭を剃るのを忘れる
2左袖や左足のスリッパ(靴)を扱うのに困難がある
3皿の左側にある食べ物を忘れる
4食べた後で口の左側をふくのを忘れる
5左方向を見るのに困難がある
6体の左側を忘れている(左下肢を車椅子フットレストに載せないなど)
7自分の左側から来る人や音に注意を払えない
8歩行や車椅子駆動で左側の人やものにぶつかる
9見知った場所などを移動するとき、左に向かう進路を見つけるのが難しい
10室内や浴室内で物品が左側にあるとき、見つけにくい

CBS(Cathrine Bergego Scale)の結果の解釈

各項目を採点し、合計点を算出します。

合計点が高いほど、重度の「半側無視」があると解釈されます。

カットオフは、1点でも得点があれば「半側無視」があると解釈されます。

観察評価が行えない項目があった場合、その項目を除外して合計点を算出し、30点満点に換算する方法がとられることがあります。

CBSはアウェアネスの評価としても用いられることがあります。

そのような場合、観察者による評価と、患者様自身による評価を行い、その乖離が大きいほど、アウェアネスが低下していると解釈されます。

机上検査では、自分の体に近い空間内での無視症状を検出するのに優れていますが、ADL全般を考えると、もっと広い遠位の空間を含めることが必要になります。

そのような場合に、CBSのような行動観察による無視症状の評価を用いることは非常に大きな意味を持つといえます。

評価:BIT行動性無視検査日本版(BIT)の検査項目の特徴と結果の捉え方

BIT通常検査における半側空間無視の捉え方

BIT通常検査の6つの下位検査項目での合計得点に対するカットオフ点は131点です。検査取り組みへの集中力維持に問題がない場合、131点以下では無視が確実に存在すると言えます。

132点以上でも下位検査項目のひとつでもカットオフ点以下のものがあれば、無視があるかもしれません。

慢性期で左側探索を代償的に行おうとする場合には、右側や全体に見落としがある場合があります。

BITでは抹消試験の比重が高いため、カットオフ点以下になった下位検査項目数が1〜2を軽度、3〜4を中等度、5〜6を重度とする分類もあります。

軽度症例では、模写試験、文字抹消試験、星印抹消試験が無視を検出しやすくなります。重症度に関わらず、線分抹消試験の検出率が最も低くなります。

BIT行動検査における半側空間無視の捉え方

BIT行動検査では一つでもカットオフ点以下のものがあれば無視の存在を考える必要が有ります。

検査では無視の存在がはっきりしていても、慣れた生活場面での適応が可能な場合もあるため、ADL場面での観察評価が大切になります。

また、検査で少しでも異常がある場合、慣れない場面やiADL場面において、問題やリスクが発生しやすくなる可能性があるため、注意が必要になります。

抹消試験

①線分抹消試験
BITでは線の全体の範囲を示してから抹消を始めますが、刺激の範囲を示しても、この程度では無視は消失しません。

軽度例では左下の見落としが多くなります。一度印をつけた所に再度印をつける例も存在します。

②選択的抹消試験
文字抹消試験では重症例では開始点が左端にならない場合や、右から印をつけて左側を見落とす場合があります。

また左から開始できても、通り過ぎて見落とすこともあります。

文字抹消検査では負荷が高く、左側に加えて右側の見落としが生じやすくなります。

星印抹消試験では軽症例では左下に見落としが多く、文字抹消試験ほどではありませんが、中央や右側にもみられます。

線分抹消試験が最も易しく、選択的抹消試験では負荷が高くなるほど見落としが増えます。

無視のリハビリテーションを受けた維持期の患者の場合、代償的な左探索行動が起こる一方、右側に注意が向かず、見落としが右側に起こる場合もあります。

BITには制限時間がないため、時間をかければすべて抹消できる可能性も考えられます。

そのため、健常人の所要時間を参考にすると良いでしょう。

模写試験

模写は結果の左右差に注目します。

左側の脱落が典型的な無視です。

立方体の模写では右側の構成が良好であるが、左側の脱落や誤りがあれば無視と言えます。

立体的な構成ができず、左右差がはっきりしない場合には、他の検査結果からも判断していきます。

BITでは模写が正しく書けているかで採点しますが、左右の結果に重み付けをした採点法もあります。

立方体透視図では、無視と言語性知能低下により低下しますが、無視の重症度においては左側の正しい頂点の数と負の相関があると言われています。

描画試験

時計の描写では、右側に時刻の数字を集めるように書き、左側に空白が目立つ場合、言語性知能低下が関係していると言えます。

一方、右側の時刻は正しい配列だが左側の時刻が脱落している場合、無視が関係していると言えます。

無視があっても言語性IQが90以上の症例では、12→6→3→9と基準になる時刻を書いた上で、残りの時間を埋めていくことで正しい配分が可能なことがあります。

BITでは左右バランスの観点で正しく書けているかで採点しますが、左右に重み付けした採点方法もあります。

描画では脱落は左側の一部になることが多く、人の顔では輪郭の中で目が向かって左の位置に偏ることが多いです。

線分二等分試験

BITの採点方法の他に、日本人健常人における正常値があります。

臨床的に半側空間無視を検出する場合にはBIT線分二等分試験が検出率が高くなっています。

 

半側空間無視では、能動的注意と受動的注意の関係性から、BITの解釈には注意することがあります。
詳しくは以下の記事を参照してください。
能動的注意と受動的注意!その違いと神経機構!
BIT行動性無視検査日本版の結果の解釈!受動的・能動的注意を踏まえた解釈ができているか!

評価:病識(自覚、アウェアネス)低下に対する知識と評価

患者の障害発見に至るプロセス

患者自身で障害発見に至るプロセスには共通する要素があると言われています。

①未知の事態の経験
自己の身体・空間・時間感覚に異変があると感じますが、内容が把握できず、対処方法も知らない状態です。

この時期は不安を抱きやすく、他者から左の見落としについて指摘されますが、理由がわからず怒られているように感じます。

②新旧比較
病前のようにできなくなったと感じますが、それはなぜかまだわかりません。

失敗の経験から怒りの感情が湧いてきます。

③説明探し
できないことがなぜ起こるかを考えるようになります。

それはおそらく自宅と異なる環境にいるためだと考えます。

④新事態への馴染み
病前と違う生活に慣れ始めたことと、左半側に対する問題があるらしいと思い始めたことを示すようになります。

左下肢は自己所有感をかなり取り戻しますが、左上肢は違和感があっても自分で持ち歩かなければならないものだと考えるようになります。

⑤障害の理解
左半側に対する障害があることを理解するようになります。

それは直感的な理解ではありません(頭の中で理解している状態)。

克服のための方策や対処を探したり用いるようになります。

⑥生活での対処方法の実践
左半側無視を代償する方法を意識的に使い始めます。

推理・段取り(イメージ、リハーサル)考え、試行錯誤により自分なりの対処方法を発見します。

事が重要・重大で見知った状況なほど探索は成功しやすくなります。

⑦新たな戦略の消化
様々な経験から、左方向への探索の意識が自動化します。

 

このような経過をたどりますが、中には、代償方法を用いる意識を呼び起こせない事もあります。

左空間探索の意識の自動化には、身体的、心理的、知的能力がある程度高い必要があります。

また訓練や日常生活の中で、様々な作業体験と左空間に対するフィードバックが適切になされなければいけません。

病識(自覚、アウェアネス)の評価

先ほど紹介した、CBSがあります。

またADD(the Assessment of Awareness of Disability)を参考に、作業遂行に対する主観的な評価を行う事もひとつです。項目としては、

1今行った作業の進め具合は病気の前にあなたが家で行っていたのと比べてどのようなものだったか
2作業中に何か難しい事はあったか
3以前に家でしていたのとは異なる方法で作業を行う必要があったか
4作業の中で右手を左手をどのように使ったか、困難があったか
5作業中の移動をどのようにしたか(立つ、歩く、車椅子駆動など)、何か困難があったか
6やるべきことを思い出したり、作業の段取りを正しくするのに困難があったか
7作業中、見たり、見つけたり、物を探すのに困難があったか

があります。

このような質問から、患者が自分の能力と障害について現実的な考えを持っているか、大まかには現実的な考えを持っているが細かくは説明できないか、非現実的な考えを持っているか(能力の過大評価or過小評価)、非常に非現実的な考えを持っているかを評価します。

アウェアネスには3つのレベルがあると言われており、患者がこのうちのどこに属しているかを考えていくことも、評価の視点として有効になります。

1知的アウェアネス:
障害の認識を様々なレベルで理解する力。何がまずいかの認識や、障害の意味の理解など。

2即時的アウェアネス:
問題が起きたときに、その場でその問題を認める力。

3予見的アウェアネス
問題が起こるかもしれないということを予見する力。

評価:Fluff test

Fluff testは、半側空間無視の中でも、身体空間に対する無視を検出するのに有効な評価方法となります。

ステッカー計24枚を、対象者の

・体幹正中を挟んで左右3枚ずつ

・右下肢に6枚

・左下肢に6枚

・左上肢に6枚

に貼り付け、それを視覚を遮断する状態で取っていってもらうものです。

詳しくは、以下の記事を参照してください。
半側空間無視の評価!Fluff testの概要と評価方法!

半側空間無視に対するリハビリテーションアプローチ

視覚操作訓練

半側空間無視患者は左側の刺激を探索しようとせず、右側の刺激に引き付けられるという特徴があります。

このような視覚探索について、その訓練方法の基本と留意点を示します。

・左側を見るように合図を出す
・探索する空間枠の左端に目印をつける
・レベルに合わせて刺激の密度、難易度を段階付けをする
・視覚探索右に跳躍しないように工夫する
・右側の視覚刺激に反応したら視界からなくす
・すぐ探索をやめないように声かけなどで工夫をする
・課題に適した探索を組織化する
・日常生活に即した課題を取り入れる
・繰り返訓練する

といった点を意識して訓練を行っていきます。

基本的にはわかる物品、用紙などをわかる空間から提供し、左方向へずらしていき、気づきを促していくことが重要であると考えています。

上肢強制使用(四肢活性化)

ある程度随意運動が見られる場合、無視側上肢を強制使用させることも治療に取り入れてみると良いと思われます。

たんに左側を見るだけでなく、左上肢を左空間内で動かして、それを見ることで無視が改善したとの報告もあります。

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体幹回旋

頭部や視線だけでなく、体幹の回旋も加えることで半側空間無視が改善されたとの報告があります。

後に説明する頸部振動刺激との組み合わせ、視覚探索課題との組み合わせなどで訓練効果が高まる可能性があります。

頸部振動刺激

頸部振動刺激と半側空間無視に関して、

左後頸部筋に振動刺激を与えると、筋紡錘を通じて筋が伸張されたという求心性感覚入力が生じ、体幹が頭部に対して相対的に左方に向いた錯覚が起こる。

これによって、身体中心の座標系の右方偏倚が矯正される可能性がある。

後頸部振動刺激は、視覚走査訓練と組み合わせると無視が改善し、リハビリテーションへの応用の可能性が示された。

高次脳機能障害学 第2版 P173

とあります。

身体中心座標系の正面が左方向に向くことで、正面と思うところを指差すと左方向に移ります。

アイパッチ訓練

半側空間無視患者の視線は右方向を向く(眼球が右を向いている)ことが多いです。

そこで、メガネのレンズ部分の右側を覆い、強制的に視線が左方向を向くようにすることで、左への気づきを促していくことを期待して行います。

これにより、頸部、体幹の左回旋も入りやすくなる可能性があります。

アイパッチを行いながら、車椅子駆動練習等を行います。

側方ミラーアプローチ

側方ミラーアプローチは視覚と体性感覚の統合を図り、身体図式を高めることを期待して行います。

①患者の右側に矢状面方向で鏡を置きます。
②患者は鏡を確認します。
③体の左側にボール等目印を提示し、鏡像であることを確認します。
④患者はリーチしてボールを掴みに行きます。
⑤掴めない場合ボールを近づけます。
⑥ボールを掴めるようになったら徐々に離していきます。
⑦リーチ動作を繰り返します。

動作的アプローチ

日常生活で患者が重要度が高いと思う課題の反復練習を行います。

必要性、重要度が高く、患者自ら決定した課題であれば、受け入れもよく、反復訓練も積極的に取り組む可能性が高くなります。

動作的アプローチでは半側空間無視があるなりの方法を学習してもらうアプローチであり、半側空間無視における空間性注意の偏りに注目したものではありません。

そのため、他の課題では無視が残る可能性もあります。

なお、半側空間無視があると向上しにくいADLとしては更衣、移乗動作が挙げられます。

病識(自覚、アウェアネス)低下に対するアプローチ

左半側無視のアプローチには様々なものがありますが、どれも十分とは言えません。

様々なものの組み合わせから、対象者に合ったアプローチを行うことが重要です。

文献の中で、気になるアプローチがあるので紹介します。

患者にとって「意味ある(重要な)作業を」選択し実行してもらい、その中でアウェアネスを促していくアプローチです。

この取り組みでは、作業を実施する前後に困難さの予測と結果の振り返りを行っています。

そしてセラピストのフィードバックを受け一緒に代償方法を考えて実際に試していきます。

この他に外泊を通して病前と現在の作業との比較の機会を作ったり、患者自身の作業遂行の内省などが含まれています。

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