肩関節の痛みがある肩で、上腕二頭筋長頭の収縮時痛が疑われる方のリハビリテーションを担当する機会がありました。その際の評価から治療のポイントになったことをまとめていきたいと思います。
目次
上腕二頭筋長頭は、肩関節に対してどのような役割を有しているのでしょうか。
上腕二頭筋長頭腱の関節包内の部分では、肩挙上時の支点形成の役割や、各運動方向に対しての制動作用があります。
上腕二頭筋長頭腱は、肩関節の肢位により滑走方向が変化し、外旋・内転の肢位において緊張します。
【スポンサーリンク】
上腕二頭筋長頭は結節間溝(大結節と小結節の間)に位置しています。
上腕骨を内外旋中間位とした場合、結節間溝は前方に位置します。
上腕骨を内旋位とした場合、大結節が前方に位置します。
上腕骨を外旋位とした場合、小結節が前方に位置します。
上腕骨内外旋中間位。
烏口突起(鎖骨外側1/3から下に1横指程度下に位置する)と小結節は同じ高さのレベルにあります。
前腕回外運動を行い、上腕二頭筋長頭の収縮をたどっていくと、小結節の内側に収縮する長頭腱を確認できます。
肩関節の挙げ始め(0-60°)における痛みの原因として、腱板筋や上腕二頭筋長頭が挙がることがあります。
このような収縮時痛を調べるには、上腕骨を内外旋中間位、内旋位、外旋位で肩甲骨面上外転0°における等尺性収縮運動により痛みが生じるかを確認します。
テストの結果として外旋位で痛みが生じた場合には、肩甲下筋上部、棘上筋前部、上腕二頭筋長頭がおおよその原因として考えられます。
次に、スピードテストを行い、上腕二頭筋長頭に痛みが出現するかどうかを確認します。
痛みが出現すれば、上腕二頭筋長頭になんらかの問題が生じている可能性が高いと判断できます。
上腕二頭筋腱の炎症、腱鞘の肥大、変性によりストレスがかかり痛みが生じることがあります。
上腕骨頭が関節窩に対して前方に位置していると、上腕二頭筋長頭は伸張されるために、その位置で肩関節の運動を行うとストレスがかかり痛みが生じやすくなります。
肩後方の関節包や筋(棘下筋・小円筋)などに短縮が生じると、上腕骨の内旋に制限をきたします。
前途したように、上腕二頭筋長頭腱は外旋位にて伸張されますが、内旋が制限されている状態だと、上腕二頭筋長頭には常にストレスがかかりやすくなってしまい、痛みの出現につながります。
【スポンサーリンク】
上腕骨頭が前方偏位している可能性がある例に対しては上腕骨頭を後方に押し込むことで、肩関節運動時の違和感や痛みが消失するかを確認します。
私が担当した方では、肩関節外旋時に痛みや可動域制限がありましたが、骨頭を後方に押し込むことで痛みの消失や可動域改善がみられました。
後方関節包の短縮を評価する場合、肩甲骨固定にて3rd内旋の可動域制限を確認します。
文献により記載は異なりますが、内旋50°が基準値となっていたり、健側と比較して20°以上の制限がある場合に陽性とすることがあるようです。
後方関節包の伸張性を評価する時には、棘下筋下部繊維の筋緊張が亢進していないかを確認する必要があります。
私が担当した方では、上腕骨頭の前方偏位により、上腕二頭筋長頭にストレスがかかっていることが考えられました。
上腕骨頭を関節窩に対して求心位とするためには、腱板筋の働きが重要になります。
そこで肩関節をゼロポジションとし、その位置で上腕骨内転の等尺性収縮運動を行ってもらうようにしました。
ゼロポジションは、
上腕骨側の結節間溝と肩甲骨側の関節上結節は最接近する肢位となるとともに、インナーマッスルやアウターマッスルの収縮力は、そのほとんどが求心位として作用する
肩関節拘縮の評価と運動療法
とあり、ゼロポジションでの内転の等尺性収縮運動ば腱板筋の同時収縮が促せるといえます。
上腕骨頭の前方偏位が軽減できれば(上腕骨頭が関節窩に対して求心位をとることができれば)、上腕二頭筋長頭へのストレスは軽減できるため、収縮時痛も出現しなくなることが期待できます。
前途した上腕骨外旋位における肩甲骨面上外転0°の等尺性収縮検査により、肩甲下筋上部や棘上筋前部の機能低下も考えられていましたが、この腱板の機能低下は骨頭を前方偏位させる要因にもなります。
そのため、各腱板の機能も評価しておく必要はあります。
後方関節包に対しては、肩関節挙上位での内旋や水平屈曲方向のストレッチを行います。
徒手的な関節包の伸張については、以下のDVDを見るとかなりわかりやすいです。