前頭葉損傷で問題となるのは、注意障害、遂行機能障害、脱抑制による反社会的行為などが挙げられます。今回、前頭葉損傷(遂行機能障害)に対する評価と作業療法、リハビリテーションアプローチについてまとめていきたいと思います。
目次
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鎌倉 矩子,本多 留美 三輪書店 2010-06-20
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柴崎 光世「前頭葉機能障害の認知リハビリテーション」明星大学心理学年報 2012,No.30,23―40
松井 三枝ら「日本版前頭葉性行動質問紙 Frontal Behavioral Inventor y (FBI)の作成」高次脳機能研究 28 ( 4 ): 373 ~ 382 , 2008
中島 恵子「注意障害・遂行機能障害を改善させるには」Journal of CLINICAL RRHABILITATION Vol.26 No.3
村田 和香「ハノイの塔」パズルを用いた高齢者の問題解決過程の分析 北海道大学医療技術短期大学部紀要, 7: 81-87
高次脳機能障害のリハビリテーションVer.2 江藤文夫編 医歯薬出版 2004
BADS 遂行機能障害症候群の行動評価 日本版
ウィスコンシンカードソーティングテストVer.2.0 「必ずお読みください」(textファイル)http://www.nivr.jeed.or.jp/download/kyouzai/kyouzai21-n2.pdf
坂爪 一幸「前頭葉損傷に起因する社会的行動障害への対応」Journal of CLINICAL RRHABILITATION Vol.26 No.3
中島 恵子「注意障害・遂行機能障害を改善させるには」Journal of CLINICAL RRHABILITATION Vol.26 No.3
大嶋 伸雄ら「前頭葉損傷者の評価と生活支援」Journal of CLINICAL RRHABILITATION Vol.26 No.3
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前頭葉における皮質での情報伝達の流れは、
前頭前皮質(背外側領域、眼腋前頭野)
↓
運動前皮質
↓
一次運動野
となっています。
運動前皮質の損傷による機能障害には以下のものが考えられます。
・失行
運動性失行
観念運動失行
観念性失行
・注意持続障害
・運動に関するプランニンングと順序立ての障害
・保続
運動前野性:運動の反復
・発話と言語の障害
ブローカ失語
口腔失行
無言症
・眼球運動の障害
眼の一側への偏位
前頭前皮質(背外側領域)の損傷による機能障害には以下のものが考えられます。
・全般的覚醒レベルの障害
遂行のための注意持続障害
刺激に対する注意の転導
場への依存
運動遅延(遂行の遅さ)
・知的障害
・抽象化/概念的柔軟性の障害
・失行
観念性失行
構成失行
・プランニングと順序立て
行動に関連した問題
・保続
前頭前野性:行動プログラム
・発話障害
反響言語
無言症
思考の発話保続
失名詞
錯誤
前頭前皮質(眼窩前頭野)の損傷による機能障害には以下のものが考えられます。
・情動/感情障害
攻撃性
アパシー
多幸症
仮性うつ
欲求不満
易刺激性、易起性
不穏
・認知
抽象化の欠如
計算の障害
判断の障害
洞察力の低下
・覚醒の障害
覚醒度の低下
注意の低下
注意散漫
場への依存
指向的反応の障害
動機付けの障害
反応の遅延
放心状態
・記憶
短期記憶障害
・行動の組織化と順序立ての障害
・人格の変化
・感情失禁
・性的欲求の減少
・食欲の低下、異常な増加
・異常反射と固縮
・抽象化の障害
柔軟性のない思考の状態です。
思考の柔軟性がないと、一つの状況から、他の状況へ応用したりすることが困難になります。
例えば、私たちは朝食を食べているからだいたい何時頃かを推測することができますが、そのようなことができなくなります。
ことわざをを言葉の通りに受け取ってしまうこともあります。
・判断力の障害
周りの情報から、適切な決定や行動が行えない状態です。
ADLでは、蛇口をひねりっぱなし、移乗でブレーキのかけ忘れ、ゴミ箱に排尿してしまうなどが観察されます。
自分自身の間違いからフィードバックし、次の行動を修正することができません。
・洞察力の障害
洞察力は、対象者が自身の状況や状態の認識(アウェアネス)をどの程度できているかに関与します。
洞察力を評価するには、対象者本人にどう考えているのかを質問しないと評価できません。
洞察力の障害があると、将来の計画や能力障害に対して非現実的な発言がみられることがあります。
・混乱
混乱の状態では、時間や人、場所に関する認識と見当識の障害がみられます。
そのため、過去と現在の区別がつかなかったり、セラピストを他の誰かだと思いこんだりします。
また、外部からの情報(特に言語刺激)に対する反応が遅れることがあります。
・攻撃性
活動や人に対しての敵意や攻撃性を示します。
・欲求不満
課題遂行において頑張ったり、頑張ったができない時などに、興奮したり耐えられなく様子が確認されることがあります。
言語的、感情的、身体的に表現されることがあります。
・易怒的
苛立ち、焦り、怒りなどがすぐに出てしまう状態です。
・不安定
情緒不安定な状態です(感情失禁)。
不適切に泣いたり笑ったりします。
・不穏
不安や苛立ちなどにより、落ち着きがなく動き回ったり、待つことができない、体の一部を絶えず動かしたり(貧乏ゆすり)、物をトントンと叩いているかもしれません。
・保続、反響言語
運動や行動を繰り返すことが見られます。
反響言語は保続の一種で、おうむ返しと言われるように、言葉をそのまま返してしまうことが観察されます。
・組織化と順序立ての障害
活動の手順や動作の性急さ(タイミングの悪さ)、ペース配分、動作の質(例:早すぎて質が悪い)などに関連します。
ご飯をくちいっぱいになるまで詰め込みすぎてしまう、歯磨きを終えるのが早すぎるなどが観察されます。
前頭前野は大脳基底核とのループがあり、大脳基底核の障害によっても、組織化と順序立ての障害は起こることが考えられます。
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FABの実施時間の目安は10分程度で、6つの項目からなる面接形式の検査です。
高齢者や中等度以上の認知機能障害がある方にも実施が容易であると思われ、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病、前頭側頭型認知症などの神経変性疾患で、前頭葉機能のスクリーニングに検査にFAB が有用であるとの報告もあります。
なお、MMSEは脳の後方の機能を反映していると言われています。
質問される項目には、
①概念化課題(異なる物品間の類似点)
この課題では2つの単語において、口頭でどかが似ているかを答えます。言語による概念操作に関連し、前頭前野の活動を反映します。
②知的柔軟性課題(音韻性語想起)
語の流暢性を調べる課題です。前頭前野の活動を反映します。
③行動プログラム課題(動作計画性)
前頭葉の運動プログラムに関与する高次運動野の活動を反映します。
④反応の選択課題(干渉に対する反応)
ルールに従った運動の発言を評価します。前頭葉の高次運動野、前頭前野内側面、短期記憶も必要で、前頭前野の機能を見ています。
⑤GO/NO-GO課題(抑制的コントロール)
反応の選択課題で必要な機能に加え、行動を抑制する両側半球の前頭前野の機能を見ています。
⑥把握行動課題(把握反射)
把握反射の有無を見ます。行動の抑制を評価し、両側半球の前頭前野機能を見ています。
高次脳機能障害の検査をする上での全体的な注意点については以下の記事を参照してください。
高次脳機能検査を行う際に注意しておきたいこと!
各項目最高点は3点で、合計18点満点になります。健常者では約8歳以上で満点がとれると言われています。
明確なカットオフ値は定められていません。
前頭葉機能は、加齢による影響も受けると言われていることから、結果の解釈には年齢も考慮する必要があると思われます。
寺田が行った、22歳から78歳までの健常者に行った調査報告によると、対象者の平均年齢50.6±16.6歳で、年齢別の平均は以下になります。
全体 | 20-29 | 30-39 | 40-49 | 50-59 | 60-69 | 70-79 | 50-79 | |
得点 | 15.6±1.4 | 16.7±0.8 | 17.0±0.8 | 16.1±1.0 | 15.3±1.4 | 14.6±0.9 | 14.4±1.3 | 14.7±1.3 |
FABの得点は年齢を重ねることで低下する傾向があることがわかります。このことから、年齢も考慮に入れた結果の解釈を行わなければなりません。
前頭葉機能障害は他の認知機能障害により二次的に生じることもあるため、前頭葉機能の評価には全般的な認知機能と他の要素的な認知機能が保たれている必要があります。
認知症患者(アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症)のFAB疾患別得点については、岡山大学 精神神経病態学 老年精神疾患研究グループのデータがあります(
日本語版FABについて – 岡山大学 精神神経病態学教室 老年精神疾患研究グループ
)。
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FBIは、Karteszらにより作成された前頭側頭型認知症の簡易評価の日本語版になります。
FBIは主に前頭側頭型認知症の示す認知行動障害を臨床的に検出するための簡便な介護者(家族等)による自記式の質問紙としてもともとは開発されました。
FBIは日常生活上の障害に関する 24項目の質問に
「ない」0点
「ときどきある」1点
「しばしばある」2点
「いつもある」3点
の4段階の選択肢から回答する質問紙になります。
評価項目
1.友人づきあいや日常生活に無関心になっていますか?(無気力)
2.促されないと,自分で何かを始められないことがありますか?(自発性の欠如)
3.嬉しいことや悲しいことに以前よりも感情を表さなくなりましたか? (無関心)
4.最近,頑固になったり,合理的に自分の考えを変えられないことがありますか?(柔軟性のなさ )
5.言われたことのごく一部の具体的な内容だけにとらわれて,意味を適切に理解できないことがありますか? (具体的思考)
6.清潔さや身だしなみに以前より気をつかわなくなったと思うことがありますか?(無頓着)
7.複雑な行動を計画したり,組織立てて行うことができなくなりましたか?
根気がなく,すぐに気が散って,やりかけたことを最後までできないことがあります
か? (解体)
8.進行中のことに集中できず,脱線したり,ついていけなくなったりすることがありますか? (不注意)
9.自分の問題点や変化に気がつかなかったり,指摘されてもそれを否定したりすることがありますか?(洞察のなさ)
10.話す量が以前よりも減ったと思うことがありますか?(発話量の減少)
11.発音が不明瞭になったり,音の間違いや,言いよどみに気づくことがありますか? (発語失行)
12.同じ行動や発言を繰り返すことがありますか?(保続)
13.日頃のストレスや欲求不満に対して,苛立ったり,かっとなったりすることがありますか? (いらいら)
14.行き過ぎた冗談,人を不愉快にさせる冗談,その場に不適切な冗談を言うことがありますか?(いき過ぎた冗談)
15.物事を決めたり,車を運転したりするとき,無責任な,あるいはなげやりな行動をとったり, 不適切な判断をすることがありますか? (判断の悪さ)
16.社会のルールを守らず,常識から逸脱したことをしたり,言ったりすることがありますか? 乱暴になったり,子供っぽい態度をとったりすることがありますか? (不適切さ)
17.一時の思いつきで,結果を考えない行動や発言をすることがありますか? (衝動性)
18.落ち着きがなく,じっとしていないことがありますか? (落ち着きのなさ)
19.攻撃的になったり,他人を怒鳴りつけたり,人に怪我をさせたりすることがありますか? (攻撃性)
20.普段よりも多くの水分をとったり,やたらと食べ過ぎたり,食べられないものでさえ口に 入れたりすることがありますか? (口唇傾向)
21.性的な行動が普通でなかったり,または過剰になることがありますか? (性的亢進)
22.手の届くものや目に入るものを触ったり,いじったり,手にとって調べたりせずにいられ ないことがありますか?(使用行動)
23.尿や便をもらしてしまうことがありますか?(膀胱炎や動けないなど,病気による場合を除く)か? (失禁)
24.関節炎,怪我,麻痺などがないのに,一方の手がもう一方の手を邪魔してうまく使えない ことがありますか? (他人の手兆候)
24項目の合計得点(0〜72点)を算出します。
前頭葉機能検査を含めた基礎的神経心理検査成績とFBI 得点との間には明らかな関連を認めなかった。
したがって,このような日常生活での問題点の評価は神経心理学的検査の成績に示される認知障害とは異なる側面の問題であると考えられた。
特に, WCSTとFBIとの関連がなかったことは特 記すべきことであり,前頭葉機能の多面性を示唆しているといえる。
松井 三枝ら「日本版前頭葉性行動質問紙 Frontal Behavioral Inventor y (FBI)の作成」高次脳機能研究 28 ( 4 ): 373 ~ 382 , 2008
FBIは前頭葉障害に限局した臨床的特徴を簡潔に評価できるように質問紙にしたものです。
各項目がそれぞれ個別の特徴的な行動に注目するものであり、各項目の評定の比較検討も必要と考えられます。
FBIは前頭葉障害でみられる臨床的な特徴がほとんど把握できるため、リハ介入後の治療効果を判定に用いることも可能となります。
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前頭葉の働きののひとつに、セットの転換(認知の柔軟性)があります。
セットの転換とは、最新の情報と以前の情報を頭に保持し、適切な対象・判断を選択しながらセットを維持し、さらなる情報に従って転換していくことを指します。
この機能は前頭葉背外側部が関係していると言われています。
ワーキングメモリとも関与し、短期間ある情報を保持し、注意を配分しながら次の情報と照らし合せていくことになります。
Wisconsin Card Sorting Testでは前途したように、情報に基づきセットを維持し、できるだけ少ない試行錯誤により新しいセットを見出し転換する機能を評価します。
もともとは健常者の抽象的推理力と、状況に合わせた戦略の転換能力を評価する目的で開発され、後に前頭葉損傷者に使用されるようになりました。
検査の適応は、明らかな失語症がなく言語理解が良好、WAIS-Ⅲの動作性IQが正常範囲、半側空間無視がないことが挙げられ、言語性IQも正常範囲であるとなお望ましいといえます。
日本では、パソコンで評価可能な「ウィスコンシンカードソーティングテスト 慶応F-S version」が用いられることが多く、脳卒中データバンクからダウンロード可能です。
慶応版は原法と異なり試行回数が少なくなっています。
また実施における指示の与え方では、第1段階では「色」「数」「形」の3つのうちいずれかの分類に従って分類していくことが示されます。
第2段階では、実施途中に分類方法が時々変更されることを示します。
検査では練習時から声を出して分類するようにします(言語性調節)。
言語性調節の評価では、13枚目から36枚目のカードにおいて評価していきます。
この際には、選んだカテゴリーと言語化された分類両方の正誤をメモしておきます。
連続6枚正答した場合にカテゴリー達成とし、各段階において48枚終了するまで実施されます。
評価項目には以下のものがあります。
1)CA(categories achieved, 達成カテゴリー数):連続6正答が達成された分類カテゴリーの数。検査成績を総体として表す。
2)NUCA(numbers of response cards used until the first category achieved, 第1カテゴリー達成までに使用された反応カード数):最初の6連続正答が形成されるまでの試行錯誤の段階の評価値。
3)TE (total errors, 全誤反応数)
4)PEM (perseverative errors of Milner, Milner型の保続性の誤り) :カテゴリーが変更されたにも関わらず、直前に達成されたカテゴリーに固執し、それへの分類を続ける場合の誤反応数。達成されたカテゴリーの保続傾向の評価値。[第1カテゴリー達成までは一度誤っていると指摘されたにも関わらずその分類基準を使用した場合の誤反応数を使用する]
5)PEN (perseverative errors of Nelson: Nelson型の保続性の誤り) :直前の誤反応と同じカテゴリーに続けて分類された誤反応数。直前の誤反応の保続傾向ないし前反応の抑制障害の評価額。
6)EEPM(errors except perseverative errors of Milner, Milner型の保続以外の誤り):TEからPEMを減じた値。
7)EEPN(errors except perseverative errors of Nelson, Nelson型の保続以外の誤り):TEからPENを減じた値。
8)MSC(maximum classification scores, 最大分類数):連続6正答を除いた反応の中で、色、形、数のうち一つの分類カテゴリーに最も多く準拠した反応数。
9)DMS (difficulty maintaining set, setの把持障害):2以上5以下の連続正反応後に誤反応が生じた回数。(準拠している概念を見失う程度の定量的評価値)
10)UE (unique errors, 特殊な誤り):どの分類カテゴリーにも一致しない誤反応数。(色、形、数のいずれでもないものを選んだ反応数)
11)BR (bizarre response, 奇妙な応答):分類カテゴリーを行う際に色、形、数以外の奇妙な応答、例えば1+3=4だからというような応答がなされた場合。(本検査法ではBRの計算は出来ないので評価表に検者がその数を記載する)
12)%PEM:PEMのTEに対する比率
13)%PEN:PENのTEに対する比率
14)反応時間計:各々の刺激カード提示からカードを選択するまでの時間の合計(時:分:秒)
15)テストの所要時間:説明を開始した時点から検査終了までの時間(時:分:秒)ウィスコンシンカードソーティングテストVer.2.0 「必ずお読みください」(textファイル)
慶応F-S versionでは、達成カテゴリーの正常値は64歳以下では4以上、65歳以上では3以上とされています。
健常者基礎統計値
年代 | 度数 | セッション | カテゴリー達成数 | 保続性エラー数 | エラー総数 | |||
平均値 | 標準偏差 | 平均値 | 標準偏差 | 平均値 | 標準偏差 | |||
20代 | 52 | 1 | 3.6 | 2.0 | 6.6 | 7.5 | 19.5 | 9.5 |
2 | 3.4 | 1. 6 | 5 .5 | 7 .1 | 17.9 | 8 .4 | ||
3 | 5.5 | 1.9 | 1.5 | 2.4 | 8.2 | 6.9 | ||
30代 | 51 | 1 | 4.0 | 1. 7 | 6. 1 | 5.7 | 17.9 | 8.0 |
2 | 4.5 | 1. 6 | 3.5 | 4.0 | 14.2 | 7.5 | ||
3 | 5.8 | 1.8 | 1.5 | 2.1 | 7.0 | 6 .4 | ||
40代 | 52 | 1 | 3.2 | 1.8 | 7 .4 | 5 .2 | 21.5 | 8.4 |
2 | 4 .2 | 1.5 | 4.0 | 3. 4 | 15.5 | 6.0 | ||
3 | 5.2 | 1. 4 | 1.8 | 1. 8 | 9 .9 | 5.0 | ||
50代以上 | 47 | 1 | 2.9 | 2.2 | 11. 1 | 9.0 | 24.7 | 11 .3 |
2 | 3.9 | 1. 6 | 4.7 | 4.1 | 16.9 | 6.5 | ||
3 | 4.8 | 1.9 | 3. 1 | 4.3 | 12.8 | 8.5 | ||
全体 | 202 | 1 | 3.4 | 2 .0 | 7.7 | 7 .2 | 20.8 | 9 .6 |
2 | 4.0 | 1. 6 | 4.4 | 4.9 | 16.1 | 7.3 | ||
3 | 5. 4 | 1. 8 | 1.9 | 2.8 | 9. 4 | 7.0 |
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遂行機能としての選択的注意には、
一般的に注意を引きつける刺激・情報への反応傾向を抑制しつつ比較的難しい処理を持続して行う注意集中力、あるいは、葛藤条件の監視機能をさしている。
高次脳機能障害学 第2版
のような機能があります。
目標到達のために、必要な情報と反応を選択する集中力や選択的注意が必要となります(他の機能も必要)。
ストループテストには様々な方法がありますが、主に用いられているものには、「赤」「青」「緑」などのの色名の単語の意味するものとは別の色で書いているものに対し、単語ではなく印刷した色を読んでいく課題です。
ストループテストの神経心理学的解釈には様々なものがあり、反応抗争、習慣的反応の抑制、選択的注意などがあります。
色名を表す単語がそれとは異なる色のインクで印刷されてる時に、その単語ではなくインクの色を読んでいくためには、「インクの色」に対して選択的に意識を集中し、文字の形には注意を払わないと考えると、選択的注意課題であると言えます。
ストループテストの適応条件は、明らかな失語がなく検査の説明が理解でき、読みが保たれていること、色盲がないこと、十分な視力があること、半側空間無視がないことです。
この検査は精神的に疲労しやすく、時間がかかる場合には5分で中止したほうが良いとも言われています。
標準的な実施方法のマニュアルがあるわけではなく、様々なものが利用されています。
Comalliらのバージョンでは、「赤、青、緑」の語の意味と一致しない赤青緑のインクで印刷された10行×10列計100個の課題では、正常値(平均値)の例が示されています。
年齢 | 50〜59 | 60〜69 | 70〜79 |
時間 | 120.79±38.07 | 135.50±29.81 | 148.67±41.09 |
誤反応 | 1.75±1.42 | 2.20±2.12 | 1.60±1.05 |
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流暢性とは、ある機銃に合う対象を自らの方略、戦略により探し出し、できるだけ多くを表出することをさします。
流暢性課題では、探索しながら自らの方略、戦略を見出し、可能な限り多くの語を表出することが求められています。
一定の正解に達するために回答を絞っていく「収束的思考」だけでなく、「発散的思考」の能力が問題となる。また、思考の柔軟さや同じ語の繰り返しを避けるためにワーキングメモリと自己監視の能力も反映すると考えられる。
高次脳機能障害学 第2版 P227
思考の柔軟性では、例えば「動物の名前をできるだけ多くあげる」課題が出された場合に、思考過程で「哺乳類」「鳥類」などの中から選んでいこうとしたり、動物園を思い浮かべてそこから回答を導き出そうとするような思考をさします。
語の流暢性では、頭文字を指定する「文字流暢性」と意味的カテゴリーを指定する「意味流暢性」に分けられます。
これらの検査では、明らかな失語症がないことが適応条件となっています。
日常物品における呼称が困難な場合、どちらの成績は低下します。
発語失行、構音障害、音韻性錯誤により表出困難や表出遅延がある場合も制限時間のために適応しにくくなります。
日本では頭文字の指定はありませんが、名詞(人の名前や地名、(固有名詞)、数は除く)で行います。
日本語では頭文字での産出数は少ないこともあり、事前説明の際に注意を必要とします。
具体例を以下に挙げます。
これから1分間に、ある文字で始まる名詞をできるだけたくさん言っていただきます。
ただし、地名、人名のような固有名詞は避けてください。
例えば、「そ」で始まることばなら、「そば」、「そり」のような物の名前だけでなく、「速度」、「尊敬」のような名詞でも結構です。それでは、「◯」で始まることばを言ってください」
高次脳機能障害学 第2版 P228
石合らのデータでは、「か」で平均12個、「せ」で平均10.1個、「あ」で平均9.7個となっています。
産出数のばらつきも大きく、文字流暢性検査を実施して0〜2個なら明らかに異常と言えるような程度になります。
この検査では病前との比較が困難であり、個人差も大きいことから、リハビリテーション経過を評価していくためには有用と考えられます。
意味流暢性課題では、1分間にできるだけ多くの動物名を言ってもらう方法が多くとられています。
必ず4本足でなくてもよいことを説明する場合もあります。
通常、動物園にいる動物、鳥、魚などと動物の下位のカテゴリーを探索しながら表出していきますが、干支を順番に言うこともあり、これは自動的な語呂と考えられるため、普段呼ぶ動物の名称で表出するようにさせます。
健常者では、41〜50歳で平均14.8個、51〜60歳で平均14.3個、61〜70歳で平均14.4個となっています。10個は表出できるのが正常ではないかと考えられています。
文字流暢性は前頭葉病巣で低下すると言われており、また左頭頂葉損傷でも低下がみられることがあります。
語流暢性の結果の解釈には、病巣部位との関連や、失語症との関連を考えた上で捉えていく必要があります。
語流暢性は、早期の前頭側頭型認知症、アルツハイマー型認知症、進行したパーキンソン病でも低下します。
HDS-Rでは、語流暢性(野菜)の項目がありますが、次の語想起までの間隔が10秒以上あることを中止基準としています。
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遂行機能や注意機能検査として用いられるTrail Making Test(TMT)は、
2つの反応パターンを交互に切り替えることが決まっており、両方の遂行過程の情報を保持しながら適切に遂行することを求める検査。
高次脳機能障害学 第2版 P224
となっています。
脳損傷者では健常者と比較して有意に成績の低下がみられ、特に前頭葉と成績低下に関連があるという報告があります。
Trail Aでは、1から25までの数字が散らばっている用紙で、その順番に結んでいく検査です。
視覚・運動性探索の速度を評価することが可能です。
Trail Bでは、1から13までの数字と、あ〜しまでの仮名12文字が散らばっている用紙で、1ーあー2ーい−3ーうというように、交互に結んでいく検査です。
認知の変換、課題の切り替え、注意の切り替えを評価することが可能です。
2つの反応パターンの交互切り替えと、2つの系列の順番がどこまで進んでいるかを保持しておくことが、課題の処理速度には必要になります。
TMTの適応条件:
明らかな失語症がないこと、半側空間無視がないことが挙げられます。
負荷が大きい視覚性探索課題であり、速度を問題とするため、軽度の半側空間無視でも影響を与える可能性が大きくなります。
そのような場合、半側空間無視検査も行う中で、総合的な評価が必要になります。
BIT行動性無視検査日本版(BIT)は以下の記事をご参照ください。
TMTには日本語A4縦版とA4横版があります。
一般的にA→Bで実施しますが、それぞれの検査前に、6つ程度を結ぶ練習課題を行い手順を理解させる必要があります。
用紙から鉛筆を離さないように、できるだけ速く、正しい順に結ぶように指示します。
順番が違うことがみられる場合には、その場で誤っていることを指摘して訂正させます。その際時計は止めずに行います。
全体の所要時間と誤反応数を記録していきます。
健常若年者における年齢別成績
群 | Part A(秒) | Part B(秒) | B/A比 |
15-19歳群(n=35) | 中央値:30.5
平均値(標準偏差):28.7(10.3) |
中央値:50.4
平均値(標準偏差):56.2(19.4) |
中央値:1.98
平均値(標準偏差):2.05(0.61) |
20-24歳群(n=49) | 中央値:23.8
平均値(標準偏差):24.2(7.0) |
中央値:46.5
平均値(標準偏差):47.6(15.1) |
中央値:1.84
平均値(標準偏差):2.03(0.65) |
25-30歳群(n=40) | 中央値:22.8
平均値(標準偏差):24.2(6.8) |
中央値:45.1
平均値(標準偏差):47.3(15.1) |
中央値:1.92
平均値(標準偏差):2.04(0.62) |
合計(N=124) | 中央値:23.8
平均値(標準偏差):25.5(8.2) |
中央値:49.1
平均値(標準偏差):49.9(16.1) |
中央値:1.86
平均値(標準偏差):2.04(0.62) |
健常中高年者における成績
年齢 | Part A(秒)
平均±標準偏差 |
Part B(秒
平均±標準偏差 |
45-54(n=26) | 32.0±8.4 | 76.0±27.9 |
55-64(n=32) | 32.1±6.6 | 83.3±25.5 |
65-74(n=18) | 47.8±14.3 | 112.7±31.7 |
出典:高次脳機能障害者の自動車運転再開とリハビリテーション2より
TMTは、確実な病症部位の特定が困難な軽度頭部外傷例における障害の検出に有効との報告があります。
前頭葉の損傷部位別に見ていくと、TMTの成績低下と対応がみられることが報告されています。
前頭葉腹内側部では、成績低下はみられにくくなります。
前頭葉背外側部ではTrail Bの誤反応数と遂行時間の延長として成績低下がみられます。
この場合、数字と文字を交互に反応するセットの転換障害(保続性の誤り)と数字や文字の順番の間違いが見られます。
数字や文字の順番に関しては、ワーキングメモリの障害も関与していると考えられています。
誤反応の仕方により、日常生活面での問題点を予測することも可能です。
2つの作業を同時並行的に行う際に、必要な情報を保持しながら、柔軟に頭を切り替えて作業遂行していく場合への影響を考えることが可能です。
以下は注意障害に関するおすすめ記事です。
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知的障害のない脱抑制、易刺激的などの人格変化があります。
検査では知能、言語、記憶、知覚、ワーキングメモリ課題も正常です。
社会的行動障害、意思決定の障害が出現し、仕事を継続できず、不適切な反応を示すことが多くなります。
ギャンブリング課題では、「い、ろ、は、に」と名前をつけた同じトラン プ(1 組52 枚)を4組使用します。
4組のトランプはすべて裏向きの山で、被検者の前に等間隔で、被検者から向かって左から右に 「い、ろ、は、に」の順に並べられます。
①検査前に、被検者には総額20万円の擬似紙幣とコインが渡され、検者が「親(胴元)になってゲームをすること」が告げられます。
②「ここにある4つの山のトランプから1回に1枚のカードを引いてもらう」こと、「検査では何回もカードを続けて引いてもらうもので、一種の賭けであること」を説明します。
③被検者がカードを 1回引くと「親からお金が支払われる」
「時々罰金(ペナルティー)がある」
「自分の持つお金を増やして最大にする」を説明します。
「どのトランプから引いてもよい」
「どの山から選ぶか、いつ何回でも変更してよい」ことも説明されます。
④カー ドをめくり、それを表向きにして、山の被検者側に置くよう指示します。
検者も被検者に支払うために相当額のお金を持ちます。
検者の紙幣は被検者にも見えるようにします。
⑤検査は被検者が100回カードを引くと終了します。
*被検者には説明しません(「やめ」と言われるまで続けるように説明します)。
⑥被検者はカードを引くたび、「い、ろ、は、に」 のそれぞれに示された報酬を受け取ります。+ 10,000 および+5,000とは、それぞれ1万円、5千円の報酬を示しています。また、用紙の決められたスケジュールに従い罰金(ペナルティー)が課します。
評価用紙の−数字が、 山の選択回数におけるペナルティーの金額になります。
報酬、ペナルティー金額と順序は、被検者に知らされず、引く山との関連性も説明しません(繰り返し聴かれても説明はしません)。
「は」と「に」の山は最終的に得をする山で、good deck と呼ばれます。
「い」と「ろ」の山は最終的に損をする山で、bad deckと呼ばれます。
ギャンブリング課題では、被験者が1 回カードを引くと、即時の報酬とその後の(遅延した)罰が1施行ごとに与えられます。
健常例では回数を重ねるにつれgood deckを引くことが徐々に学習され、後半にその傾向が強く認められます。
反対に前頭葉眼窩部(腹内側部)損傷例では、bad deck の総選択数が多く、特に後半での選択が目立って多くなります。
ギャンブリング課題の成績低下はワーキングメモリ障害とは乖離して出現するとされています。
前頭葉腹内側部損傷では、健常者では無意識的な段階においても生じる情動的な警告信号がなく、このためにカード選択に際して、このカードは「良い」「悪い」 ということを示すソマティック・マーカーが欠如し、その結果bad deck を引き続けると解釈している。
よくわかる失語症と高次脳機能障害 P434
ソマティック・マーカーは、意思決定や行動選択のための重みづけ信号で、自動的な警告信号であると考えられています。
これは意識されることもあれば、意識されないこともあります。
前頭葉腹内側部は、身体内部に生じるソマティック・マーカーと外部環境の認知とを結びつける記憶装置だと言われています。
行動の将来の帰結・結果を「良い」 ないしは「悪い」でマークしているというのが、ソマティック・マーカー仮説になります。
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ハノイの塔課題は、3本の棒のうち1本にある、大きさの異なる5枚の円盤を別の棒に移し替える課題です。
このような問題解決課題を前方病変患者に行うと、後方病変患者よりも明らかに成績が低下すると言われています。
課題には下記のルールがあります。
①円盤は1回に1枚ずつしか動かすことができない
②小さい円盤の上に大きな円盤を置くことはできない
このルールに従いながら、できるだけ少ない手数で円盤を目標の位置に移すことが求められます。
ハノイの塔課題の問題解決には、プランニング、計画の実行、フィードバック過程を繰り返しながら、解決への道を探索することが必要になります。
ハノイの塔課題の実用的な解法として、以下のものがあります。
・いちばん小さい円盤とそれ以外の円盤を交互に動かす。
・いちばん小さい円盤は常にB→C→A→B(円盤の数が偶数の場合)またはC→B→A→C(円盤の数が奇数の場合)の順に動かす。
・いちばん小さな円盤以外の円盤を動かす場面では、動かせる方法は1通りしかない。
このような単純なアルゴリズムで表記されるにもかかわらず、実際には 2n – 1 手かかる。
ハノイの塔の原法を用いると、脳損傷者にとっては難易度が高く、中間段階から開始する10パターンの低難易度の課題を設定することもあります。
ハノイの塔課題では、問題解決の分野では変換問題に分類されるもので、一定のルールに従った操作により、初期状態から目標状態へと変換するというものである。この課題を解決するために要求される能力は、「どれだけ先まで移動プランを立てることができるか」ということ、 すなわち、自分の行動のプランニングである。
「ハノイの塔」パズルを用いた高齢者の問題解決過程の分析
課題達成への操作数の少なさ、所要時間の短さは、問題解決の能力の保持を意味しています。
認知症者においても、行為のプランニングに障害があるため、ハノイの塔課題達成が困難になることがみられます。
認知症者では、問題解決方法の探索に問題があるためと考えられます。
「探索」とは、当面の下位目標を達成するために操作を頭の中で考えることになります。
つまり、どれだけ先を見越してプランを立案することが可能かということです。
題解決の過程は、「問題の理解」の過程と、「解決方法の探索」と 「操作」の過程に分けて考えられる。問題解決は操作によって実現されるものであり、この操作過程の成分のどれかに問題があれば、結果として低い成績を示すことになる。
「ハノイの塔」パズルを用いた高齢者の問題解決過程の分析
ハノイの塔課題は、1回のみの施行では遂行機能の評価として使用することが可能ですが、繰り返し課題を繰り返して行うことは手続き記憶の評価としても使用可能かと思われます。
このようなことから、ハノイの塔課題を何回か施行することは、認知的技能の獲得の評価と捉えることができると思われます。
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ティンカートイ®はホイール、スティック、コネクターなどの部品を用いて創作を行う子供の教育玩具です。
テストでは、決められた50ピースの部品を組み合わせて、制限時間なしで、自分で考えて好きなものを自由に作ってもらいます。
この検査は対象者をあまり選ばず実施可能で、課題の説明や操作方法も行いやすく導入しやすいものです。
得点化による遂行機能のある程度の定量化も可能です。
検査者間の得点誤差もほとんど生じないとされています。
「これであなたの作りたいと思うものを作ってくだ さい。制限時間はありません。」 と教示します。 作品完成後、検者は作られた作品が何を表しているかを尋ねます。
この検査で作品を作るには、以下のような機能が必要になります。
①何を作るかの目標を決める
②計画立案(どの部品を使用するか)
③課題遂行(組み立てる)
④効果的な行動(失敗の修正能力)
が必要になります。
作品に対する評価には、使用した物品数、ふさわしい作品名の有無、可動性、対称性、立体性、作品が立つか、つなぎ方の誤りという項目に従い得点化されます。
採点表
変数 採点基準 最大点 |
物品使用数 n≧20=1、≧30=2、≧40=3、=50=4 4
名称 あり=1、なし=0 1 可動性 全体=1、部分=1 2 対称性 2方向=1、4方向=2 2 立体性 3次元=1 1 安定性 支えずに立っている=1 1 構成 なんらかの組み合わせをした=1 1 誤り 1つ以上の接続の誤り −1 |
ティンカートイテスト(TTT)は比較的自由度の高い検査で、有効で効率的な計画立案能力や行動モニタリング能力を評価することが可能です。
最高得点は12点で、最低得点は−1点となります。
前頭葉損傷例では、使用ピースの少なさが目立ち、画一的で面白みに欠け、一方で構成はきちんとしているようなパターンが観察されます。
どのような過程を経て作品完成に至ったかによって得点は異なり、それを質的に分析することも大切になります。
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タイムプレッシャーマネージメントでは、脳損傷により情報処理速度の低下がみられる場合、行うべき作業を目の前にして、時間を十分に確保しておく工夫が必要になるという考え方をもとにして行われます。
「作業をするときに時間がかかる」「うまく事を処理するのに時間が必要である」といった事を自覚し、周囲の者に伝えられるようにし、気づきへの支援を行いながら、他の日常生活での行動においても適応できるように訓練をしていきます。
このような考え方が身につけることができると、注意障害があっても日常生活上のミスがすくなくなるとされています。
①誤反応と障害の気づき:自身の情報法処理の遅れ(=精神活動の遅さ)と課題遂行においての関係性についての気づきを促す。
②タイムプレッシャーマネージメントの受容と獲得:
下記方略を使用し、その使用を促進させる。
1.:目前の課題におけるタイムプレッシャーを認識する
充分な時間がない状況で、同時におこなうべき2つ以上の課題がありますか?
そうであるならば第2段階へ、そうでなければ単にその課題をおこないなさい。
2.タイムプレッシャーをできるだけ避ける:
課題を始める前に、すべきことに関する短いプランを立てなさい 。
3.できるだけ速く、効果的にタイムプレッシャーを処理する
時間が足りなくなった場合におこなう緊急プランを立てなさい。
4.TPM方略を使用している間の自己モニタリングを促す
プランと緊急プランの準備ができましたか?では、それを適切に使用してみましょう。
③タイムプレッシャーメネージメント方略の適応と維持:
ラジオ音声などの妨害刺激がる条件下でTPM方略の適応を促します。
の3つの段階に沿って進めていきます。
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行動の遂行には、目標や目標と下位目標リストによって整理し、まとめられていると考えられています。
Duncanは、前頭葉損傷者が行動を計画的に、効率的に遂行できないのには、目標リストがうまく作れず、その利用もうまくできないと考えました(目標無視=課題から要求されていることが頭からすり抜けること)。
GMT(Goal Management Training:目標管理訓練)は、この考えに基づいてRobertsonが、遂行機能障害のリハビリテーション方法として開発したものです。
GMTは5つの段階に分かれており、ひとつずつ実施されます。
第1段階「立ち止まる!」:
オリエンテーションです。参加者には現在の状況を評価・把握し、これからすることへ意識を向けていきます。
自分の状況を把握することで、今自分にどうのような問題点があるのか、どのような点が困っているのか、どのように行動を変えていく必要があるのかといったことに変化を与えるきっかけになります。
この段階はとても重要で、自分が思っていることと周りから思われている状況にはギャップがあるかもしれません。
第2段階 「定義する」:
目標の選択を行ない、主な課題を定めます。
前途しましたが、自分の問題点、改善したい点、これからどうなりたいかというようなキーワードが重要になります。
自分の興味、関心、必要度、重要度といったことに目標設定は左右されます。
第3段階「リストを作る」:
第2段階での目標を下位目標(=ステップ)に分け、ステップのリスト化を行います。
目標を達成するには、それまでに細かい段階に分けることで自分が何を行うべきなのかがわかりやすくなります。
細かい段階に分けることで、できたときに何が一番良かったのか、どれができていないから行動が達成できていなかったのかなどを振り返りやすくもなり、次回の計画作成にも役立ちます。
第4段階「憶える」:
目標と下位目標 (=ステップ)を記憶し、課題を実行します。
段階は細かすぎると大変ですが、自分の記憶、実行できる範囲で設定できると、行動がスムーズに遂行しやすくなります。
第5段階「点検する」:
実施した結果と決めた目標を比較します。うまくいかなければ、最初の段階からやり直します。
最初からうまくいくことはないかもしれません。しかし、うまくいかないことは振り返る機会があるということです。
振り返ることによって、良かった点や悪かった点、良かった点のなかでもさらに改善できる点というように様々な発見があります。
その発見を、計画に利用することで、さらによい行動が行えるようになります。
訓練は実際の課題を通して行いますが、課題にはセラピストが提供する例題や対象者が実生活の中で行うこと、困難なこと、解決したいことを問題として用います。
GMTのより具体的な使用方法については以下のコンテンツがおすすめです。
遂行機能障害でGMT(Goal Management Training)って具体的にはどうやるの?例題を元にやってみよう!
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problem-Solving training ; PST (問題解決訓練)は、von Cramonらにより脳損傷者の訓練方法として開発されました。
問題解決訓練では、認知治療と行動療法を組み合わせたものだとされています。
前頭葉損傷者では、脈略がなく、行き当たりばったりな行動をする患者が多く見られますが、思路を整えて行動に移る訓練を行うための訓練方法です。
問題解決訓練の目標は、問題解決行動の5つの側面を強化することにあります。
①Problem Orientation (問題の見当づけ):
患者は問題を単純視する傾向があるため、与えられた課題を簡単には解けない“問題として認識するのを助けます。
②Problem Definition and Formulation(問題の定義と公式化):
情報をくり返し読みこみ、全体を理解したうえで、問題の主要点を書き出すことを学ばせます。
③Generating Alternatives(代替案の案出):
できるだけたくさんの代替案を考えさせます。 ブレインストーミングのひとり版を行なわせるようなものです。
④Decision-making (決断):
複数の候補案の長所と短所、実現可能性をしっかりと考えたうえで決断することを学ばせます。
⑤Solution Verification (解決の検証):
失敗に気づくこと、それを修正すること、 最初の仮説にもどることを学ばせます。
これらの強化したい側面を学ばせるために、あらかじめ用意した課題が与えられます。
①アイデアの産出、 ②関連、非関連情報の選別、 ③複合情報の処理などを行なう課題となりますが、具体的には、連想ゲーム・ある話題の賛成論と反対論を集めること(アイデアの産出)、”求む”広告の作成・ 聴講ノート作成(関連、非関連情報の選別)、時刻表/予定表の読み解き・短編探偵小説・クロスワードパズルなど(複合情報の処理)
です。
課題実施の際にはセラピストが付きさまざまなレベル・種類のキュー (促し、暗示、 手がかり、ヒントの類)を与え、解決に向かっていきます。
この技術を対象者が獲得できれば、複雑な問題解決過程の細分化や簡略化して対処しやすくなることが期待できます。
考えやすい課題内容として、「いくつかの旅行会社のパンフレットから、目的にあった家族旅行をみつける」などの課題があります。
問題解決訓練のより具体的な使用方法については以下のコンテンツがおすすめです。
遂行機能障害で問題解決訓練ってどうやるの?具体例を元にやってみよう!
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自己教示法は、元々多動児に対して行われていたものを、前頭葉損傷者に適応したものです。
通常内的に行われる自己モニタリング過程を代償する内的補償の1つとなります。
内言による行動調整を重視したLuria(1981)の理論を基盤としたもので,これを用いた訓練では,課題遂行中の患者にその実行手順を逐次明瞭に外言化させることから始まり,訓練経過ともに徐々に外言化を弱め,内言化を導いていく.
柴崎 光世「前頭葉機能障害の認知リハビリテーション」明星大学心理学年報 2012,No.30,23―40
自己教示法では、他の場面への般化も起こりやすいとされています。
Aldermanetal.(1995)は,自己モニタリング訓練による訓練効果は比較的ゆっくりとあらわれるものの,TOOTSやレスポンスコストといった行動療法的手法と違って,他の環境への訓練効果の般化が起こりやすいと述べている。
柴崎 光世「前頭葉機能障害の認知リハビリテーション」明星大学心理学年報 2012,No.30,23―40
Ciceroneらの症例(プランニング障害)では、自己教示法を週2回、1時間のセッションを計8週間行い、対象者に訓練課題を与え、それを実行する前と最中に、意中のプランを言葉に出して言うことを求めるようにしています。
課題には「ロンドンの塔」を用いています。
自己教示法は3段階からなります。
第1段階:動かそうとするリングの動きとその理由を声を出して言うように対象者に説明します。実際に動かす時も、その動きを言語化させます(公然自己誘導)。
第2段階:同様に行いますが、今度は大声で言わずに、ささやき声で言うように説明します(公然自己誘導の漸減と内在化の漸増)。
第3段階:第1、第2段階と同様に行いますが、今度は声に出さずに自分自身に話しかけさせるように説明します(潜伏的、内的自己誘導)。
*全行程を通じて、対象者にプランニングと問題解決の各相(問題の明確化、目標設定、下位目標の同定、代替法の検討、結果の自己評価など)について、詳しく説明します。
管理されるべきエラーについては、①課題実施中の自己刺激的発声(口笛など)、②課題から外れた会話③課題から外れた行動④予定外のリング移動⑤不正な移動としています。
自己教示法のより具体的な使用方法については以下のコンテンツがおすすめです。
遂行機能障害に対する自己教示法ってどうやるの?具体例を元にやってみよう!
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チェックリストを利用したアプローチでは、食事の際の準備や台所の掃除など、日常生活課題がリストアップされたチェックリストを使用します。
課題ごとに、うまくできれば褒める、決められた時間内に動作が起こらい、または不適切動作が起こる場合はキュー(促し、暗示、手がかり、ヒントなど)を与える、などの訓練があります。
Katzmannらによると、このような訓練においては、毎回の褒め言葉や強化報酬がなくても、成功それ自体が報酬として働くとされています。
褒める場合は、さりげなく、どこが良かったか具体的に伝えると有効です。
成功自体が報酬となるような内的要因のものは、次のステップへの意欲向上につながります。
「◯◯をしてください」というように言葉による指示で動作を促し、よい反応(行動)が起こらない場合、身体的介助(誘導やポインティング)を行います。
このとき、あまりコミュニケーションをとらないようにしていきます。
身体的介助によりよい反応が生じると言葉による賞賛(具体的に、さりげなく)を与えて、さらにチョコレートや外出できる特典(何枚貯まったら外出できるというような交換制のチケット)などの報酬を与えます。
動作が改善してきたら、それまでは細かな促しだったものを大きなステップでの促しに変更していきます。
あまりに不適切な行動を行った場合、その場から一旦作業遂行をやめる、暴力などの行為が見られた場合、その場から去るなどの処置をとります。
行動開始障害に対し、動作見本を示し、改善を期待するものです。
前頭葉損傷者ではしばしば見られる模倣行動を利用したものになります。
日常生活活動において、身体機能的には動作遂行が可能ですが、食事以外には指示が必要というような場合が臨床場面でもよくみられると思います。
例えば、様々な動作でスタッフなどから促しがあり、その動作の最初の動きを行えば、後の動作は自分で完了でき、終了できるというような場合、それは開始の困難さが問題点となります。
例えば、メガネをかける場合、ベッド近くの決まった位置にセットしておけば、それを自分で手に取りかけるという行動がみられるかもしれません。
この場合、目につくところ、いかに手の伸ばしやすいところにメガネを置いておくかがポイントとなるでしょう。
成功すれば賞賛を与え、それが次の行動にもつながることを期待します。
歯磨き動作では、他の患者が歯磨きを行っている横に位置させることで、本人が洗面所に向かい、歯磨きを開始することを期待します。
このようなことを繰り返していくと、もしかすると、洗面所に連れて行き、歯磨きセットが置かれている状況を見るだけで歯磨きが開始されるかもしれません。
前田ら(2009)は、行動開始障害を呈した脳炎後遺症者の復職へのアプローチを行っています。
対象者が復職に向けて行なうべきことを自分自身で考え、自ら行動に移すために、初めから対象者に対して具体的な行動を提示・提案するのではなく、まずは復職に関する漠然とした質問を行い、それに対して答えが得られない場合、より具体的な質問を行っていき、それでも答えが得られない場合「◯◯をしてみてはどうか」と提案するという訓練を行いました。
訓練開始2週目から支援者からの提案は必要ではありましたが、提案された内容を対象者自ら工夫して行なう様子がみられ、開始1か月半後には具体的な提案がなくても対象者自ら主治医や会社の上司と連絡をとり、復職に向けた調整を行なうようになりました。
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メタ認知過程(meta-cognitiveprocess)とは、
自己の内的状況の理解(自己意識,想起意識,認知と情動の統合)と,それを基盤として生じる他者認知(心の理論)や社会的認知を担う。
この機能に障害をもつ患者は,社会的判断を適切におこなうことができず,さらには,共感性の欠如,無関心,自己投影を必要とするユーモアの無理解,といった症状を示す。前頭極(ブロードマンの10野)との関係が想定されている。
柴崎 光世「前頭葉機能障害の認知リハビリテーション」明星大学心理学年報 2012,No.30,23―40
とあります。
メタ認知過程に障害が生じると、障害への気づきや、自己モニタリンング、誤反応の修正が行えない、自身の自己評価と他者の他者の客観的評価の不一致が起こるなど、日常生活を遂行する上で困難が生じることがあります。
障害への気づきを促進させる方法として、対象者が課題実施前にそれに対する遂行の予測をさせ、課題終了後に予測と遂行の結果のギャップを比較し、対象者に自覚させることを通して、対象者の自己意識の修正を図るものがあります。
Youngjohn&Altman(1989)の症例(グループで行う)では、上記の方法を用いて検証されています。
遂行の予測:
対象者が行う課題(自由再生課題または計算課題)を提示し、課題に対する遂行レベル(記憶課題の再生数または計算問題の正答数)を予測させます。
課題実施:
課題を実際に遂行します。
結果の比較:
予測値と実際の成績を記したものをみて、遂行の予測と実際の成績のギャップ(不一致)について、対象者同士で議論します。
このような課題を通し、自由再生課題、計算課題で各2試行ずつ行ったところ、2課題ともに、1回目では予測値が実際の成績を大きく上回っていましたが、2回目では予測と実際の成績の不一致が小さくなり、予測精度が有意に向上したとされています。
Youngjohn&Alt-man(1989)において観察されたこのような課題遂行の予測の改善は,患者の自己の認知障害に対する気づきの増加を示唆していると考えられる。
柴崎 光世「前頭葉機能障害の認知リハビリテーション」明星大学心理学年報 2012,No.30,23―40
Own-sworth,et al.(2006)では障害への気づきを促進させる方法として役割交換法が用いられています。
この訓練では調理課題が選択されており、まず、対象者の母親が調理を行い、ベースラインで対象者が失敗したのと同じエラーを行うのを対象者に観察させます。
母親がエラーを起こしたら、対象者は母親を止めてエラーを説明し、修正した正しい行動に導きます。
次の段階では、ベースラインで対象者が調理を遂行している場面をビデオにて観察させ、ビデオ再生中に対象者がエラーを起こすとそれを同定し、修正するように求めます。
また、これらに合わせ、タイマーを使用し3分おきにレシピ確認を行ったり、調理後に対象者と遂行状態について議論・フィードバックする機会を設けます。
このような訓練を8週間行ったところ、誤反応の発生頻度が減少し、誤反応に対する自己修正の頻度が増加したとされています。またその効果は介入後4週間維持され、同様の介入が他の活動においても効果的であったとされています。
Own-sworth,Quinn,Fleming,Kendall,&Shum(2010)によると,メタ認知訓練は反復訓練よりも誤反応への気づきや誤反応の自己修正の改善に有効である。
他方,先のOwnsworth,et al.(2006)では,メタ認知訓練により患者の誤反応への気づきが増加した後でも,自身の障害全般に対する患者の気づきについては大きな変化が認めれなかった。
したがって,特定の課題条件下での誤反応への気づきが認知リハ的な介入によって促進されても,そのことが患者の抱える障害全般に対する気づきへと発展していくのは難しいように思われる。
柴崎 光世「前頭葉機能障害の認知リハビリテーション」明星大学心理学年報 2012,No.30,23―40
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負の心理反応(感情の状態)は、社会(環境)との円滑な交流が妨げられることによって生じます。
負の心理反応が生じる要因としては、
①身体要因:
視力・聴力の低下、疲労、 痛み、病気、不快な室温、生理的欲求が満たされていないなどがあります。
②対人要因:
家族や関係者とのコミュニケーションにおいて、表情や感情に暖かみがない、接する態度の画一で厳密さがある、生活空間への無遠慮な侵入等があります。
③環境要因:周囲の刺激入力の過剰あるいは過少、日常生活行動の急な変更、能力を超 えた要求等があります。
対応では環境との交流を適切にしていくことが基本方針になります。
リハビリテーションにより遂行機能や制御機能障害などの回復や代償・補償を行いながら、高次脳機能障害への理解のを促し、負の心理反応への配慮も欠かさず行っていきます。
高次脳機能障害の状態に合わせた症状のわかりやすい説明は気づきを促していくためにも重要になります。
対象者から出た会話や働きかけを適切に受けとめ、負の心理反応の誘発要因への配慮も重要になります。
何に負担を感じているのかを把握していきます。
無力・抑うつは行動に何らかの結果が伴わないことで生じる心理反応です。
能力に合わない課題、活動の要求レベルが高すぎることによる失敗体験の積み重ね、コミュニケーションの失敗、家族や関係者の強要的な態度(短気・性急さ・焦燥感等)、対象者の反応に対して無関心な態度をとり、主体性の軽視するような行動は自己効力感を低下させ、無力・抑うつを発生させる要因になります。
対応としては、日常生活活動や課題解決を通して、ポジティブな結果の経験(正のフィードバックを受ける体験も含む)と自己効力感を高めることが基本になります。
無力・抑うつ症状や日常生活での現れ方を対象者にわかりやすく説明することも気づきを促していく上では重要です。
他にも、
障害に強制的に対時させる言動を避ける.
自発性を尊重して活動への主体者意識を高める.
自発性が低い場合には課題や活動への取り組みにプロンプト(促し)をきめ細かく提供する.
能力に 合わせた要求を心がける.
課題や活動を解決しやすくスモール・ステップ化する.
課題解決や活動に十分な時間を提供する.
課題解決の手がかりを適宜に提供する.
活動の仕方を具体的に例示する.
指示や要求は理解しやすく単純化して必要に応じて反復する.
課題解決や活動を妨害する要因(例: 騒音等)を排除する.
生活に役割や余暇活動を無理強いせずに取り入れて喜びや楽しさを体感させる.坂爪 一幸「前頭葉損傷に起因する社会的行動障害への対応」Journal of CLINICAL RRHABILITATION Vol.26 No.3
などが挙げられます。
易怒性は攻撃・興奮行動のひとつで欲求不満がある時に生じる傾向があります。
欲求不満は欲求・要求が満たされていない、 コミユニケーションが上手く取れてない、活動の未達成などで生じます。
身体疾患や疼痛、不快感、過剰刺激での過緊張、家族・関係者からの負の感情や態度、過大要求や期待による心的負担と失敗への恐怖、選択・判断の困難さに伴う葛藤等の精 神・身体的負担が欲求不満を招き、易怒性を生じやすくさせます。
対応では、欲求不満の発生の予防と解消が基本に考えていきます。
対象者に欲求不満が生じる原因や生じやすい行動をわかりやすく説明していきます。
空腹の訴え等の生理的欲求や要求に配慮いていくことも大切です。
不快感、痛み等など身体的不調の訴えの有無を確認し、可能であればそれを除去し、快適に過ごすことができるようにします。
本人の生活のペースを保てるようにする必要もあります。
生活の急な変化を避ける.
休息を適切に取り入れる.
押しつけや強要する態度は避けて受容的な態度で接する.
過剰な要求や過大な期待は避ける.
解決や選択や判断が難しい葛藤する状況に過度に曝さない.
適度な運動や気分転換の活動で過緊張を発散する.
易怒性やそれに伴う行動には過剰に注目しないで沈静後に対応する.
易怒性の出現時には他の活動に注意を転換するよう促す.
易怒性の沈静後に振り返りの話し合いを行う.坂爪 一幸「前頭葉損傷に起因する社会的行動障害への対応」Journal of CLINICAL RRHABILITATION Vol.26 No.3
などがあります。
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望ましくない行動の修正には、通常「正の強化」や「タイム・アウト」などの技法が使用されることが多いですが、遂行機能障害の対象者にはこれらが有効でないことが少なくありません。
そのため、遂行機能障害の対象者には様々な技法を組み合わせることで行動の修正を図っていきます。
以下では、各技法の例を示します。
レスポンス・コストの例:
はじめに10円硬貨50枚を与えます。そして、次のように説明を加えます。
「15分後にチョコレートを買うことができますが、それまでの間に◯◯(修正したい行動)があれば硬貨を失います。◯◯(修正したい行動)があると、そのたびにセラピストが今何をしたかを尋ねるので、対象者は◯◯(修正したい行動)をしました」と言い、硬貨を1枚差し出さなければなりません。15分後に、36枚以上残っている場合に、チョコレートを買うことができます。」
36枚というのはあくまでも例で、はじめにベースラインを測定した上で枚数を決定します。
前途したレスポンス・コストに認知学習過程を組み合わせます。
具体的には、「私は◯◯(修正したい行動)の繰り返しました」と言い、その後1分間「私は◯◯(修正したい行動)をしてはいけない」と言い続けなければなりません。
指示を紙に書いたものを目の前に提示します。
Aldermanらの実験では、3つの介入が検討されています。
トークンエコノミーとタイム・アウトの組み合わせ:
トークンとは擬似貨幣のことで、15分間隔で望ましい行動がみられればそれに対する報酬としてトークンを1枚与えます。
トークンを貯めることで、その日のうちに好きなものと交換することができます。
タイムアウトとは望ましくない行動がみられた場合に、対象者をすぐにその場から連れ去り、別室に待機させる技法です。タイムアウトでは、スタッフに注目されることが報酬として作用しないようにするためです。
この方法では効果はみられなかったとされています。
個別の正の強化法:
課題の目標(修正を期待する行動)を続けることができれば賞賛とトークンを獲得できます。
トークンを10個獲得できれば好きな商品と交換できるルールです。
また、10個獲得できるまでセッションを続けなければならないルールです。
レスポンス・コスト:
前途したようなルールに基づき様々な課題を行います。
3つの方法の中では、レスポンス・コストが一番有効であったとあります。
通常の強化技法やタイム・アウト法では有効な者と有効でない者に分かれますが、これらの間では、2重課題の処理能力に差があるとされており、有効でない者は2重課題の処理能力(ワーキングメモリ)が低いとされています。
レスポンス・コストは有効な技法ですが、トークンの準備や公の場で実践することが困難な場合もあります。
Aldermanらの実験で、不適切発話に対するセルフモニタリングについて、5つの段階から構成された訓練を行っています。
第1段階(ベースライン):
スタッフが対象者を20分外出させ、不適切発話の頻度評価します。
第2段階(自発的な自己監視):
対象者自ら開始した不適切発話の回数を正確にカウントできるかを評価します。 この旨を正確に対象者に伝えてから20分の外出を行います。
自分側から開始していない発話をカウントしないよう注意させます。 散歩始開始後はスタッフは計数を促すことはしません。帰ってから2人の計数を比較します。
第3段階(自己監視の促進):
不適切発話の自己監視を正確に行ない、それを習慣的に計測できることを目的とします。
対象者が計測を怠った場合は直ちに計測するよう言葉で促します。
第4段階(自立的自己監視、正確度改善の強化 ):
外的介入を受けなくても自己監視を高めることが目的となります。
20分外出中の計数がセラピストの計数と比較し、±50%の範囲内であったら、強化報酬を与える約束をします。
第5段階(自立的自己監視、差異強化技法):
対象者が発する不適切発話の頻度を抑制することが目的となります。
差異強化技法は、標的行動の低頻度発生の強化を目指して行われます。
発生頻度の許容上限を設定し、それを超えなければ強化報酬が得られることを約束します。
徐々に許容上限を調整していきます。
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高次脳機能障害のリハビリテーションでは、自己の状況を理解・認識し、回復のために低下した機能を改善させ脳機能のネットワークを賦活することの必要性を認識することは難しい傾向にあります。
そのため、高次脳機能障害のリハビリテーションでは、どのように病識(自己モニタリング)を改善させるかということが効果に大きく影響します。
リハビリテーションでは自己モニタリングを改善させながらも、そのことで心理的な落ち込みや抑うつにならないための心理的支援も必要になります(機能回復と情動支援)。
リハビリテーションへの動機付けとしては、見通しのある適切な目標設定を行い、目標達成を意欲的に続けていけるような説明が重要となります。
Mateerらの遂行機能の臨床モデルでは、遂行機能の対象となる機能を「行動の開始」「行動の中止」「行動の維持」「順序化と時間的調整行動」「創造性、流暢性、問題解決スキル」「自己評価と洞察」としています。
起床から就寝までの自動化した日常生活動作の遂行では前頭前野の活性は見られず、新規行動(新しい課題、変更、急な対応)の遂行時には前頭前野の活性が見られます。
このことから遂行機能では、課題がいくつかあるとき、課題の優先順位決定、新規の解決方法の考案、計画の効率的な実施などすでに学習しておらず、日課でない目的志向活動の遂行に必要な能力といえます。
遂行機能改善には、Ciceroneの自己教示法やCrammonの問題解決法が有効だとされています。
Ciceroneの自己教示法では、交通事故による右前頭葉損傷者(20歳)のplanning障害に対して、週2回各1時間を8週間、下記の方法を行い、週1回1時間実生活上の問題について自己教示法の汎化の指導を行い、その結果、自己コントロールの改善が見られたとの報告があります。
目的:Planningや実際の行動を明確な言語的な統制下に置くことで、自分の思考や行動に対する制御を強化し、さらに外的な言語統制を順次内的な言語統制に移行させます。
方法:トロントの塔課題を規則のもとで最小手数で実施します。
はじめにモデル提示をし、具体的な手順を述べ、実際に解決行動を言語化しながら課題遂行していきます。
言語化した課題を声に出さずに行えるまで実施します。
円盤を3個から始め、10回連続施行できたら円盤の数を増やします。
間違えた箇所に対し、具体的な疑問を作ることで、自己洞察を行いやすくしていきます。
Crammonの問題解決法では、頭部外傷者の問題解決能力の改善のために週2回各1時間を6週間、問題分析→問題解決→評価の手順で実施し、日常生活においても施行の柔軟性や問題同定に改善を認めたとの報告があります。
目的:問題解決能力の改善。解決法の言語化による類推過程の意識化を行い、結果を確認をしっかりと行い行動観察評価の意識化を促します。そこから誤答に対する解決への手がかりを利用します。
方法:レーブン色彩マトリックス検査課題を用いて、規則性を見出し、規則性に適合する回答を選択肢から、問題解決過程を言語化させながら類推します。解決が困難な場合はヒントや手がかりを与えます。
課題での気づきや洞察を、対象者が困っていることや解決したいこと、重要と考えている作業に結びつけ、対処法を一緒に考えていくこともあります。
課題遂行が十分でない時に、どのような考え方をしたのか、注意していたのか、などを自己の言葉で表現させ、それが重要な作業や解決したいことにどのような影響があるのかについて考えていきます。
負の心理反応(感情の状態)は、社会(環境)との円滑な交流が妨げられることによって生じます。
言語理解、認知、注意、 記憶等の機能障害の存在は、社会(環境)からの情報に対する理解度の低下を招きます。
会話の理解や状況把握と見通しが立てにくい、情報が理解できないことにより困惑や不安が生じます。
言語発話、 注意、行為、遂行機能障害などがあると、 社会(環境)への情報表現能力が低下します。 また会話表現や状況に即した臨機応変な行動ができなくなります。
情報表現が不十分な場合、欲求不満が発生ることが多くあります。
情報表現に失敗すると自己効力感を喪失により無力・抑うつが生じる可能性が高くなります。
また不安、欲求不満、 無力・抑うつに加えて、孤独、悲嘆、退屈、焦燥、偏執、妄想等生じることがあります。
困惑や不安、 うまくいかないときの欲求不満、無力・抑うつが生じることは、人間や動物に共通する学習機序によるものです。
ヒトや動物は経験した環境に既知感を持ち (馴化型学習),環境の変化を予測し(パブロフ型学習),そして環境への行動を変える(オペラント 型学習). これらは環境に適応する基本的な学習機序であり,神経基盤は大脳皮質下が中心で,通常は非意識的に機能している.
坂爪 一幸「前頭葉損傷に起因する社会的行動障害への対応」Journal of CLINICAL RRHABILITATION Vol.26 No.3
本来であれば、この負の心理反応は行動を適応的に変えるためのものです。
わからない状況に困惑・ 不安を感じるため探索して状況を確かめる、現在の行動が不十分なため欲求不満を感じるので別の行動を試してみる、 結果が出ずに無力・抑うつを感 じるためうまくいかない行動をやめるなどの適応行動をとります。
負の心理反応は心理的に不安定で過剰緊張状態が続く不快(嫌悪)な状態でもあります。
このような状態では、負の心理反応を誘発する状況に直面しての逃避行動や、事前に避ける回避行動の優先順位が高くなります。
健康な場合、逃避・回避行動はある程度制御されおり目立ちませんが、制御機能の障害により顕著な形で生じることがあります。
逃避・回避行動は直接的で単調で定型的になりやすい. 逃避・回避行動が周囲の基準に合わないと社会的行動障害や間題行動とされる.
坂爪 一幸「前頭葉損傷に起因する社会的行動障害への対応」Journal of CLINICAL RRHABILITATION Vol.26 No.3
・落ち着きのなさ、興奮などがみられ身体を動かして過剰な緊張をまぎらわす(多動)
・歩き回り周囲を確認し安心しようとする(徘徊)
・困惑・不安のない以前の行動を反復し安定を試みる(退行)
・強い刺激を入力して過剰な緊張を紛らわそうとする
・自傷行為
・物の破壊や他者への攻撃による大きな音などの体感により紛らわす(他害)
・慣れた活動を繰り返す(固着・固執)
・高い水準の活動を保てずに未分化になる(退行)
・失敗に伴う自己効力感の喪失、嫌悪を事前に避ける
・あきらめや閉じこもり、引きこもり
逃避・回避行動は過剰な緊張を一時的に低減する.緊張の低減は逃避・回避行動を強める強化因子になる.この過程が繰り返されると,逃避・回 避行動は強固になり習慣化する.また逃避・回避行動が状況に直結して即時に現れる早発化や,似た状況で現れる般化も起きる.
坂爪 一幸「前頭葉損傷に起因する社会的行動障害への対応」Journal of CLINICAL RRHABILITATION Vol.26 No.3
対象者は不安定な心理や過剰な緊張による不快(嫌悪)な状態の原因を考える、負の心理反応を認知的に解釈 (意味づけ)をします。
健康な時には的確に判断できていても、障害により判断力低下や偏執、 妄想等の歪みが現れる場合もあります。
認知的解釈には高次脳機能障害による情報処理の不全や強い疲労も影響する.
感覚を長時間剥奪すると幻覚や妄想が出現する(例:感覚遮断実験).
高次脳機能障害では感覚の遮断はないが,認知機能の障害で環境情報の処理が制限される.
情報の質の劣化や量の低下が大きいと一種の”情報遮断”の状態になる.
情報が限られると思考に低下や偏向,非柔軟性が生じやすい.
坂爪 一幸「前頭葉損傷に起因する社会的行動障害への対応」Journal of CLINICAL RRHABILITATION Vol.26 No.3
強い心理的緊張感や努力感が常に伴っていると、易疲労性をもたらし、それが慢性化すると、偏執的あるいは神経症的な考えになるなど、思考の偏りが見られるようになります。
前頭葉損傷による社会的行動障害などでは、他の高次脳機能障害(失語症など)と比較して障害像がわかりづらいことがあります。
そのため、対象者との接し方やコミュニケーション場面で交流が滞ると家族に負の心理が生じる可能性があります(対象者にも負の心理反応は生じる)。
対象者の言動や行動を理解できないことによる困惑や不安、思うように対応できないことからの欲求不満、様々な対応をしても効果がない場合無力感・抑うつを抱きやすくなります。
そのため、家族への配慮、対応も必要になります。
社会的行動障害の診断名を説明するだけでは家族は何に注意をすればよいかはわからず、イメージも湧きません。
具体的な説明と実践的指導のポイントには以下のようなことが含まれます。
①社会的行動障害の基盤にある症状
②負の心理反応と逃避・回避行動の発生のメカニズム
③日常場面での問題の生じ方
④問題への具体的な対応方法
⑤家族が陥りやすい心理反応と対象者への態度
⑥日常で生じやすい問題解決のためのマニュアル作成
⑦心理的安定のための相談相手・場所や拠り所(家族会など)の紹介・確保
遂行機能障害や社会的行動障害では、問題点を家族から指摘したことにより、それを受け入れにくい本人との間に軋轢が生じることがあります。
このような状況の解消には、家族・周囲の人が具体的な対処方法を身につけておくことが必要になります。
介護者コミュニケーション法では、
①選択的に行動を無視する
②注意を別のところに向けさせる
③選択肢を提供する
④期待を下げる
⑤引き下がりもう一度試みる
⑥静かに話し、中立的な立場を維持する
⑦対象者の不快感が増している兆候を見分ける
⑧対立と喧嘩を避ける
ことを念頭に置いてコミュニケーションを図ります。
この技法では、家族や周囲の人が持つ期待を変容させ、コニュニケーションのパターンを修正していきます。
効果がありますが、技法を身につけるにはかなりの根気・努力とコツが必要になります。
なお、この技法の実践においては、前もってモデリングや演習を十分に行う必要があります。
高次脳機能障害の注意機能や遂行機能の改善には、机上課題や行動課題を通して、病態認識(気づき)を高め、自ら積極的に取り組めるような環境づくりへの協力が必要だということを理解してもらうことが大切になります。
家族の精神的健康の維持のためのカウンセリング(話を聞くだけでも)も重要になります。
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