肩関節屈曲と外転は、同じ肩を挙げるという動作ですが、働く筋肉や、筋活動の度合いも異なります。また、肩関節の屈曲や外転を行う肢位を変えることによっても働く筋活動が変わります。今回、肩関節屈曲と外転の違いを、筋活動の面から考えていきたいと思います。
目次
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肩関節屈曲というのは、別名前方挙上とも呼ばれているように、腕を前方に挙げていく運動です。
肩関節屈曲における筋活動では、主に三角筋前部線維、棘上筋、肩甲下筋、棘下筋の働きが重要になります。
肩関節屈曲運動において、上腕骨の運動が開始されるときには、
・まず棘上筋、肩甲下筋が三角筋前部線維よりも先に収縮する
・棘下筋は棘上筋、肩甲下筋のの活動性の漸減に伴い、入れ替わるように漸増する
ということを理解することが大切になります。
肩関節屈曲において、棘下筋は重要な役割を担っています。
それは、上腕骨頭を後方に回転させることです。
肩関節屈曲運動では、上腕骨頭を後方に回転させることが必要です。
後方回転運動が起こらなければ、上腕骨頭と肩峰において衝突が起き、いわゆるインピンジメントによる痛みが生じてしまうでしょう。
ちなみに棘下筋は、エンプティーカン肢位(母指が下を向く、肩内旋位)で、さらに水平内転120°にて最も棘下筋の筋活動が高まるとされています(Full-can・Empty-canにおける棘下筋の筋活動~第2報~ 小山泰宏、他:船橋整形外科スポーツ医学センター理学診療部 第7回肩の運動機能研究会2010仙台)。
また、棘下筋の挙上位における筋活動は、肩甲骨面挙上位に比べ前方挙上位(肩屈曲位)でより活動しかつ、より筋疲労を招きやすいことが示唆されています。
このことからも、肩屈曲においては棘下筋の働きは重要になることがわかります。
上腕骨頭の後方回転は、後方関節包の拘縮によっても阻害されることがあります。
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肩関節外転というのは、別名側方挙上とも呼ばれているように、腕を側方に挙げていく運動です。
肩関節外転における筋活動では、主に三角筋中部線維、棘上筋、肩甲下筋、棘下筋の働きが重要になります。
肩関節外転運動において、上腕骨の運動が開始されるときには、
・まず棘上筋、が三角筋中部線維よりも先に収縮する
・棘下筋、肩甲下筋は棘上筋の後を追うように活動性を高めていく
ということを理解することが大切になります。
肩関節外転では、肩甲下筋の働きも重要になります。
肩甲下筋について、
肩甲下筋の主な作用は、従来肩関節の内旋および水平内転と考えられてきた。しかし、本研究の結果から、肩甲下筋には少なくとも作用の異なる2つの部位が存在し、中でも肩甲下筋上部は肩関節外転運動に大きく関与することが明らかになった。
近江礼「肩甲下筋は肩外転運動に寄与する‐PETを用いた筋活動解析」第35回日本肩関節学会
とあります。
肩甲下筋は、回旋筋腱板の前方の筋肉として、後方筋群(棘下筋、小円筋、棘上筋)とバランスをとるように働いていることが知られています。
肩甲下筋は、6つの部位に分けることができると言われているほど、その走行から機能も分けることができます。
先ほど肩甲下筋上部が、肩関節外転運動に大きく関係していることがわかりました。
では、肩甲下筋上部を鍛えるにはどのような肢位をとればよいのでしょうか。
中山ら(2008)によると、積分筋電図の値では(筋の発揮張力の推定値)、
・内外旋中間位・外転において,肩甲下筋上部は,下垂位が60度および120度に比べ高い傾向
・内外旋中間位・肩甲骨面挙上において,肩甲下筋中部は,60度の値が,下垂位および120度の値に比べ高い傾向
・下部においては,120度の値は下垂位,60度に比べ高い傾向
とあります。
このことから肩甲下筋上部線維のトレーニングでは、肩関節内外旋中間位、下垂位において内旋運動を行うことがよいと考えることができます。
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福島ら(2017)によると、背臥位での肩関節屈曲における筋活動の特徴として、
・僧帽筋上部線維は肩関節屈曲30°位~屈曲150°位間において座位と比較して背臥位にて有意に減少
・三角筋前部線維は肩関節屈曲30°位では座位と比較して背臥位にて有意に増加
・三角筋前部線維は屈曲60°位~150°位間では座位と比較して背臥位にて有意に減少
・前鋸筋下部線維は肩関節屈曲30°位にて座位と比較して背臥位で有意に増加
・前鋸筋下部線維は屈曲60°位では座位と比較して、背臥位にて減少
・前鋸筋下部線維は屈曲90°位~150°位間においては座位と比較して背臥位にて有意に減少
したとされています。
同じく福島ら(2017)によると、側臥位での肩関節外転における筋活動の特徴として、
・僧帽筋上部線維の相対値は外転角度の増大に伴い減少傾向
・僧帽筋上部線維は外転30°と比較して外転120°、150°で有意に減少
・僧帽筋中部線維の相対値は外転角度の増大に伴い減少傾向
・僧帽筋中部線維は外転30°と比較して120°、150°で有意に減少した
・僧帽筋下部線維の相対値は外転角度の増大に伴い増加傾向
・僧帽筋下部線維は外転30°、60°、90°と比較して外転150°で有意に増加
・棘上筋の筋電図積分値相対値は屈曲角度増加に伴い座位 ・側臥位ともに漸減
・棘上筋は、座位では、屈曲120°において屈曲30°、60°よりも有意に減少
・棘下筋の筋電図積分値相対値は屈曲角度増加に伴い座位 ・側臥位ともに漸増
・棘下筋は、側臥位では、屈曲120°において屈曲30°よりも有意に増加
・三角筋前部線維の筋活動は、 座位において屈曲角度の増加に伴い漸増
・三角筋前部線維は、屈曲120°において屈曲30°よりも有意に増大
・三角筋前部線維は、側臥位では屈曲角度が増加しても一定の筋活動が持続する
・三角筋中部線維の筋活動は、 座位において屈曲角度の増加に伴い漸増
・三角筋中部線維は、屈曲120°において屈曲30°、60°よりも有意に増大
・三角筋中部線維は、側臥位では座位よりも高い筋活動を認め、屈曲角度が増加しても一定の筋活動が持続
・三角筋後部線維の筋活動は、座位において屈曲角度の増加に伴い漸増
・三角筋後部線維は、屈曲120°において屈曲30°、60°よりも有意に増大
・三角筋後部線維は、側臥位では座位よりも高い筋活動を認め、 屈曲角度が増加しても一定の筋活動が持続
のような特徴があるとしています。
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例えば、脳卒中片麻痺の方で、座位では三角筋が働かず挙上しにくい方がいたとします。
そのような方では、僧帽筋上部線維を過剰に、代償的に使用するために、三角筋の促通が行いにくい場合も考えられます。
そのようなときには、側臥位を用いて、
・三角筋前部線維は、側臥位では屈曲角度が増加しても一定の筋活動が持続する
・三角筋中部線維は、側臥位では座位よりも高い筋活動を認め、屈曲角度が増加しても一定の筋活動が持続
・三角筋後部線維は、側臥位では座位よりも高い筋活動を認め、 屈曲角度が増加しても一定の筋活動が持続
ということが利用できるかもしれません。
また、肩甲骨のプロトラクションを促すのであれば、背臥位を用いて、
・前鋸筋下部線維は肩関節屈曲30°位にて座位と比較して背臥位で有意に増加
・前鋸筋下部線維は屈曲60°位では座位と比較して、背臥位にて減少
・前鋸筋下部線維は屈曲90°位~150°位間においては座位と比較して背臥位にて有意に減少
ということを利用し、背臥位で肩30°屈曲位におけるリーチ動作練習を行うことも考えられます。
このように、どのような肢位で、どのような筋活動が生じているかを把握することにより、課題設定の幅が増えることになります。
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