脳卒中片麻痺者のトイレ動作で、ズボン操作時にバランスを保持できない対象者をよく経験します。このとき、どのような原因によりバランス不良が生じているかを考えることが大切です。今回、そのヒントになるように、姿勢保持の筋活動に焦点を当てて考えていきたいと思います。
目次
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脳卒中片麻痺者の立位でのズボン操作では、よく見られるパターンとして以下のようなものがあります。
・立位保持になった瞬間から後ろへの傾倒がみられる
・ズボンを操作し始めると後ろへの傾倒がみられる
もちろん、前に倒れそうになる方もいますが、今回は後ろに傾倒傾向のある原因を、筋活動の視点から考えていきたいと思います。
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脳卒中片麻痺の方が、後ろへ倒れそうになっている時の姿勢でよく観察されるのは、
・骨盤(体幹)が麻痺側に回旋している
ことが思い浮かぶのではないでしょうか。
これにより重心が後方に移動し、それを自分で修正することが難しいために転倒しそうになるということにつながることが多いと思います。
この時、姿勢制御においてはどのような筋活動が必要で、またどのような筋活動の欠如により骨盤(体幹)が麻痺側に回旋するのでしょうか。
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骨盤(体幹)が回旋する理由には、筋活動の視点から考えるといくつかのポイントを挙げることができます。
・一方の股関節が内旋し、もう一方の股関節が外旋するパターン
・一方の股関節が内旋し、もう一方の股関節が相対的に外旋するパターン
・一方の股関節が外旋し、もう一方の股関節が相対的に内旋するパターン
これらにより、股関節が内旋(もしくは相対的に内旋)した方に骨盤は回旋します。
立位姿勢において、両側下肢の股関節屈曲角度に差がある場合、股関節屈曲角度が大きい方とは逆に骨盤(体幹)は回旋します。
立位姿勢において、両側下肢の股関節伸展角度に差がある場合、股関節屈伸展度が大きい方に骨盤(体幹)は回旋します。
股関節内旋筋:中殿筋前部線維、小殿筋、大腿筋膜張筋、長内転筋、短内転筋、恥骨筋、半腱様筋、半膜様筋など
股関節外旋筋:梨状筋、内閉鎖筋、外閉鎖筋、上双子筋、下双子筋、大腿方形筋、大 殿筋、縫工筋
これらは、股関節内旋、あるいは外旋に働く筋ですが、注意しておきたいこともあります。
・梨状筋は股関節屈曲60度以下では外旋筋として作用
・梨状筋は股関節屈曲60度以上では内旋筋として作用
・大殿筋上部線維、中殿筋後部線維、小殿筋後部線維、梨状筋は股関節伸展位では外旋筋として作用
・大殿筋上部線維、中殿筋後部線維、小殿筋後部線維、梨状筋は股関節屈曲位では内旋筋として作用
・長内転筋は股関節屈曲60°以上では股関節伸展筋として作用
・長内転筋は股関節屈曲60°以下では股関節屈曲筋として作用
との報告もあります。
一方の股関節が内旋する、または相対的に内旋することで骨盤(体幹)回旋につながるのですから、
・股間節内旋筋が高緊張
・股関節外旋が低緊張
のどちらにおいても上記の股関節の状態は生じる可能性があります。
また、一方の股関節が外旋し、もう一方が相対的に内旋することで骨盤(体幹)回旋につながるのですから、
・股関節外旋筋が高緊張
・股関節内旋筋が低緊張
の状態でも上記股関節の状態は生じる可能性があります。
脳卒中片麻痺者において見られやすいのは、
・股関節外旋筋が低緊張
・股関節内旋筋が高緊張
のパターンが多いのではないでしょうか。
股関節屈曲が骨盤(体幹)回旋に影響する場合、股関節屈曲角度が大きい側とは反対にに回旋が起こることは前途しました。
また、股関節伸展が骨盤(体幹)回旋に影響する場合、股関節伸展角度が大きい側に回旋が起こることをも前途しました。
ここで、立位姿勢において股関節が屈曲または伸展する理由を、筋活動を視点として考えていきたいと思います。
股関節屈筋:腸骨筋、大腿直筋
股関節伸筋:ハムストリングス、大殿筋
腸骨筋は股関節屈筋ですが、腸骨筋が高緊張の状態では股関節は屈曲します。
また、腸骨筋が低緊張の状態では、腸骨筋は重力に従って短縮位をとり、股関節屈曲位(股関節伸展できずに屈曲位として預けにいく)をとることがあります。
大腿直筋は股関節屈筋ですが、大腿直筋が高緊張の状態では股関節は屈曲します。
また、大腿直筋が低緊張の状態では股関節は伸展します。
ハムストリングスは股関節伸筋ですが、ハムストリングスが高緊張の状態では股関節は伸展します。
また、ハムストリングスが低緊張の状態では股関節は屈曲します。
大殿筋は股関節伸筋ですが、大殿筋が高緊張の状態では股関節は伸展します。
また、大殿筋が低緊張の状態では股関節は屈曲します。
骨盤(体幹)回旋のメカニズムとして、股関節に関係する以外の筋によるメカニズムも存在します。
それは、多裂筋と大腰筋です。
多裂筋:両側収縮により脊柱の伸展、片側収縮により脊柱同側への側屈させる
大腰筋:股関節屈曲、外旋、両側収縮により仰臥位から体幹を起こす、片側収縮により腰椎同側への側屈
多裂筋、大腰筋は、その緊張状態に左右差があると(筋緊張が高緊張でも低緊張でも)、筋緊張が低い方に骨盤(体幹)は回旋します。
これまで、股関節内外旋や股関節屈伸が骨盤(体幹)回旋に与える影響について確認していきましたが、筋活動レベルの他に、関節可動域制限が生じても、骨盤(体幹)に関与することは十分考えられます。
例えば、立位姿勢において股関節屈曲、内旋位を呈しているのであれば、股関節伸展、外旋の関節可動域制限がある可能性も考えられます。
そのため、評価としては股関節伸展、外旋の関節可動域制限の有無をチェックします。
脳卒中片麻痺者においては、感覚障害の有無もチェックしておくことが必要です。
関節位置覚に障害があると、立位において麻痺側下肢の状態がフィードバックされず、股関節や膝関節が屈曲位を呈しているというこは十分に考えられます。
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