大腿骨近位部骨折術後では、急性期から早期リハビリテーションの介入により廃用症候群を防ぎながら訓練を進めていくことが重要です。今回、大腿骨近位部骨折と廃用症候群について、術後廃用症候群を防ぐことの重要性とリハビリテーションのヒントについてまとめていきたいと思います。
目次
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三好正堂「大腿骨近位部骨折のリハビリテーションからみえる廃用症候」Jpn J RehabilMed 2016;53:17-26
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大腿骨近位部骨折の術後では、廃用症候群における筋力低下をいかに防いでいくか、また筋力をいかに向上させていくかということが重要になります。
その理由としては、廃用症候群における筋力低下が、
・不動による筋蛋白質の合成低下、分解亢進により生じる。
・姿勢の保持と歩行に関係する抗重力筋に強く起こりやすい。
・安静臥床のままでは、初期に約1~3%/日、10~15%/週の割合で筋力低下がおこり、3~5週間で約50%に低下すると言われている。
と言うことが挙げられます。
術後は早期からリハビリテーション介入が始まりますが、リハビリテーションの時間も限られており、いかに廃用症候群を防ぎ筋力低下が起きないようにしていくかと言う視点を持つことが重要です。
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大腿骨近位部骨折においては、
骨折前に「歩行障害なし」と「屋外歩行自立」の例は歩行回復の率がよく,「室内歩行自立」以下は回復が悪いことが示されたが, リハ的には「回復良好群」と「回復不良群」に分けられ,骨折前の歩行レベルによって決まることが示された.
三好正堂「大腿骨近位部骨折のリハビリテーションからみえる廃用症候」Jpn J RehabilMed 2016;53:17-26
とあります。
また、認知症の有無も自立歩行の予後に関連すると考えられます。
歩行の回復には認知症例と非認知症例では大きな差がみられた.骨折前から歩行可能で認知症のあった21例の うち,「自立歩行」を回復したのは2例(9.5%)だけであった.一方,骨折前に歩行可能で認知症がなかったのは74 例であったが,そのうち58例(78.4%) が「自立歩行」を回復した.
三好正堂「大腿骨近位部骨折のリハビリテーションからみえる廃用症候」Jpn J RehabilMed 2016;53:17-26
とあります。
これらのことから、手術前の歩行状態と認知症の有無は手術後の歩行予後に影響していることが考えられます。
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この文献では、%膝伸展筋力(入院時と退院時の膝伸筋筋力と健常者と比べた割合)を元に、自立歩行例を分析しています。
「自立歩行」を回復した例では非骨折側 81%,骨折側60%に回復しており,自立にならなかった例の「%膝伸筋力」と比較して,推計学的に際立った差がみられた.
このことは,大腿骨近位部骨折の歩行の回復には非骨折側・骨折側とも,筋力強化が重要であることを示唆するものである.三好正堂「大腿骨近位部骨折のリハビリテーションからみえる廃用症候」Jpn J RehabilMed 2016;53:17-26
とあります。
術前の歩行状態、術後のリハビリテーション開始時期、リハビリテーションの負荷量、病棟生活の過ごし方によって非骨折側、骨折側の下肢筋力は大きく変わってきますが、歩行自立に向けては両下肢の筋力低下をいかに予防し、また向上させていくかに焦点を向けていくことも重要と言えます。
下肢筋力を反映するテストとして、「30秒立ち座りテスト」があります。
手順は以下のようになります。
①踵の低い靴か素足で行う。
②椅子の中央部より少し前に座り、背筋(背中)を伸ばす。
③両脚は肩幅程度に広げ、膝の間を握りこぶしひとつ分くらい開ける。
④膝関節は90度からわずかに屈曲させ、足裏を床につける。
⑤両手を胸の前で組む。
⑥用意に続き“始め”の合図で背筋が伸び、両膝が完全に伸展するように立ち上がり、すばやく腕を組んだまま座位姿勢に戻る。背筋が伸びていない、膝が完全に伸展していない、または座面にしっかりと着座できていない場合は、カウントしない。
⑦30秒間できるだけ多く繰り返す。
30秒立ち座りテストの結果の解釈は以下の図を参照してください。
出典:http://www.plusten.sfc.keio.ac.jp/wp-content/uploads/2017/08/%E4%BD%93%E5%8A%9B%E6%B8%AC%E5%AE%9A%E3%81%AE%E6%89%8B%E5%BC%95%E3%81%8D-Ver.2016.12.pdf
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術後早期リハビリテーションを円滑に行う上で阻害因子となるのは疼痛です。
疼痛に対しては、消炎鎮痛剤服用後にリハビリテーションを行うなど、時間帯を調節しながらリハビリテーションを行うことも有効なことが多いです。
また、三好は
手術したその日,あるいは次の日から鎮痛剤を使い,起立-着席運動を 2 時間かけて400回以上行う.手術が遅れる場合には,等尺性運動などを骨折日から実行する.集団訓練と個別訓練を組み合わせて行うなら容易であろう.こうすればほとんどすべての廃用症候群を予防できると思われる.
三好正堂「大腿骨近位部骨折のリハビリテーションからみえる廃用症候」Jpn J RehabilMed 2016;53:17-26
としています。
集団訓練を取り入れることは難しい場合が多いと思われますが、個別の理学療法、作業療法において、上記のような起立-着座を訓練に積極的に取り入れることは可能だと思われます。
回数的には400回以上というのは、対象者の体力や意欲的に難しいこともあるかもしれません。
しかしながら、自立歩行獲得のために必要なこととして十分な説明を行い意欲を引き出すことや、病棟での生活においてもベッド上の生活を中心しないようにするなどの事は普段から気をつけることができると思います。