リハビリテーション場面ではトイレの自立を考えた場合に、ズボンの上げ下げだけでなく、殿部清拭動作(お尻拭き)動作も考える必要があります。今回、トイレ(排泄)における殿部清拭(お尻拭き)動作の運動・解剖学的分析についてまとめていきたいと思います。
目次
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殿部清拭(お尻拭き)動作といっても、十人十色なわけで、様々な動作方法があります。
殿部清拭(お尻拭き)動作における動作方法は、6種類があるとされています。
・座位で前から
・体幹前傾で後ろから
・骨盤前傾で後ろから
・横から
・半立位で後ろから
・立位で前から
この中で、リハビリテーション対象者では主に座位で殿部清拭(お尻拭き)動作を行うことがほとんどであると思われます。
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「健常高齢者の排泄後の殿部清拭動作の分析(理学療法学 第42巻第2号 98一104頁)」によると、
座位での殿部清拭(お尻拭き)動作において3つの型を紹介しています。
①片方の殿部を持ち上げ後方から拭く方法
②片方の殿部を持ち上げず後方から拭く方法
③前方から拭く方法
この動作では、便座座位にて一側の殿部を浮かすことで便座との隙間をつくり、後方から局所に手を伸ばします。
出典:健常高齢者の排泄後の殿部清拭動作の分析(理学療法学 第42巻第2号 98一104頁)
片方の殿部を持ち上げ後方から拭く方法では、3つの動作を比較する中で、
・骨盤は非リーチ側へ前方回旋する
・骨盤は非リーチ側へ挙上する
・重心は非リーチ側へ移動する
・荷重は非リーチ側へ移動する
・上部体幹は非リーチ側へ後方回旋する
→重心の左右前後への移動が大きい
ことが特徴として挙げられます。
この動作では、便座座位にて殿部を浮かさずに便座後方と殿部の隙間から局所に手を伸ばします。
出典:健常高齢者の排泄後の殿部清拭動作の分析(理学療法学 第42巻第2号 98一104頁)
片方の殿部を持ち上げず後方から拭く方法では、3つの動作を比較する中で、
・体幹が伸展する
・上部体幹前傾角度が小さい
・肩甲帯の内転・肩関節の伸展可動域が多く必要
・上部体幹は非リーチ側へ後方回旋する
ことが特徴として挙げられます。
この動作では、便座座位にて手を両大腿の隙間から入れ局所に手を伸ばします。
出典:健常高齢者の排泄後の殿部清拭動作の分析(理学療法学 第42巻第2号 98一104頁)
前方から拭く方法では、3つの動作を比較する中で、
・足部や殿部の荷重変化が少ない
・上部体幹は非リーチ側へ前方回旋する
・支持面が安定するため姿勢保持が行いやすい
ことが特徴として挙げられます。
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片方の殿部を持ち上げ後方から拭く方法では、
・リーチ側の骨盤を回旋挙上させることで、非リーチ側の足部・殿部へ重心を移動させる
・体幹の左右側屈に関与する筋の作用
・股関節の内外転筋の作用
・体幹後方回旋運動を伴うリーチ動作における姿勢制御
が必要な要素になります。
片方の殿部を持ち上げず後方から拭く方法では、
・体幹の伸展可動域、筋作用
・肩甲帯の内転・肩関節の伸展可動域、筋作用の確保
・体幹後方回旋に伴うリーチ動作における姿勢制御
が必要な要素になります。
前方から拭く方法では、
・上部体幹の前傾、非リーチ側へ前方回旋に伴う姿勢制御
が必要な要素になります。
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安全性という観点から殿部清拭(お尻拭き)動作を考えると、「いかにバランスを崩さずに動作を遂行するか」ということが焦点になります。
姿勢を保つというのは、
「支持基底面内に重心点を留める」
ということです。
そのため重心が移動する距離が大きければ大きいほど、姿勢を保つレベルが高くなります。
前途した3つの動作様式の中で、重心動揺移動距離が小さくなるのは、
・座位で前から拭く
・骨盤前傾で後ろから拭く動作
で、この2つは安定性が高く、安全に遂行しやすい動作と言えます。
ここで高齢者の姿勢の特徴を考えていきます。
高齢者では、骨盤後傾姿勢が特徴であり、骨盤前傾に伴う後方リーチは難しくなることが多いと思われます。
また、座位で前から拭く動作では、支持面の安定性が確保されており体幹下肢機能が低下していても姿勢保持しやすいことから、座位バランスが低下している対象者においても動作遂行が行いやすいという特徴があります。
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リハビリテーション場面で指導されやすい、
前方から拭く方法
ですが、このときの筋活動の特徴を考えていきます。
体幹前傾に関する姿勢制御には、主として以下の筋の作用が重要になります。
・腸骨筋
・大殿筋
・ハムストリングス
・腰背筋(最長筋、多裂筋、腸肋筋)
前方から拭く方法では、股関節屈曲に伴う体幹前傾を保持する必要があります。
このとき、動作開始時に骨盤が後傾している方においては、体幹前後傾中間位までは腸骨筋の作用による股関節の屈曲が必要になります。
体幹が前後傾中間位よりも前傾方向に傾くと、それを遠心性にブレーキをかけながら、適した位置で体幹を保持させることも必要です。
その際には、大殿筋下部線維やハムストリングス(特に内側ハムストリングス)の活動が大切になります。
これらの筋活動は、股関節屈曲に伴う体幹前傾の制御に関与(遠心性収縮)します。
なお、内側ハムストリングスが重要というのは、体幹前傾という運動方向と、内側ハムストリングスの筋の走行が同じ方向となっているためです。
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座位前方移動の姿勢をコントロールすることで、上肢リーチにより殿部に手を届かすことが可能になります。
このとき、効率的なリーチを実現させるためには、上部体幹の選択的な回旋動作が必要になります。
体幹回旋の主な筋は腹斜筋です。
左方向への体幹回旋では、右外腹斜筋と左の内腹斜筋が働きます。
正常な回旋運動では、伸筋と屈筋が体幹両側で活動する必要があります。
体幹の選択的な回旋運動を評価するには、以下のような動作を見ていきます。
1.直立座位姿勢から、反対側(正中線を超えて)にリーチ
この運動は屈曲と回旋の組み合わせで、腹斜筋の求心性収縮、背部伸筋の収縮によるものです。
2.下部体幹と骨盤の一側の前方移動(前方いざり)
この運動は、回旋を伴う伸展となります。
3.肩の高さで後方へ手を伸ばす
この運動は、回旋を伴う伸展となります。
4.骨盤を挙上し、対側後方への回旋(後方へのいざり動作)
この運動は回旋を伴う屈曲となります。
5.背臥位にて肩を持ち上げ、身体の反対側に向かい体幹を回旋させる
この運動は、腹斜筋の求心性収縮により行われます。
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座位側方重心移動は、
片方の殿部を持ち上げ後方から拭く方法
において観察される動作です。
この動作における解剖・運動学的特徴を考えていきます。
片方の殿部を持ち上げる動作の開始前ですが、この相では移動する側と反対方向へ圧中心(COP)が移動します(COPの逆応答現象と呼ばれています)。
この移動側と反対方向へ圧中心が移動することにより、移動側へ重心移動させるための推進力を生み出しています。
COPの逆応答現象のフェーズ(移動側と反対方向へのCOPの変位)は、股関節の内旋運動によって生じています。
正しくは大腿骨に対して、骨盤が相対的に内旋している状態です。
この内旋運動は、非移動側の大体直筋や大腿筋膜張筋によって生じている、もしくは移動側の内腹斜筋が同側の骨盤を挙上させることによって生じていると考えられています。
動作開始前には、反対方向への圧中心の移動の他に、前方変位も見られます。
座位姿勢というのは骨盤が後傾しやすい姿勢です(坐骨の形状(丸みを帯びた)も関与する)。
側方移動を行うことで、片側の坐骨結節で体重を支持すると、より骨盤は後傾しやすくなります。
それでは効率的な動作を実現することができないため、骨盤の後傾を避けるために股関節屈曲を伴う骨盤前傾を生じさせるとされています。
このときの股関節屈曲を伴う骨盤前傾に作用する筋は大腿直筋や大腿筋膜張筋だとされています。
座位で、重心が側方移動するフェーズにおいて大切なポイントがいくつかあります。
・骨盤の側方傾斜
・体幹の立ち直り
などです。
座位で重心が側方移動するためには、移動側の骨盤は側方傾斜(下制)、非移動側の骨盤は挙上する必要があります。
このとき、非移動側の骨盤の挙上には多裂筋の働きが重要だとされています。
また、移動側の骨盤の側方傾斜(下制)は、非移動側の股関節の内旋運動によるものです。
これは、前途した座位側方重心移動の動作開始前においてもありましたが、正確な表現は大腿骨に対して骨盤が相対的に内旋している、股関節内旋運動になります。
これは、中殿筋や大腿筋膜張筋などの股関節内旋筋の作用が骨盤を下制(側方傾斜)させています。
なお、大殿筋上部線維の働きも骨盤側方傾斜に作用するとされています。
大殿筋上部線維は通常外転、外旋作用を有しているのですが、股関節屈曲位においては内旋作用を有します。
そして、中殿筋や大腿筋膜張筋の活動は、非移動側の骨盤(相対的に挙上している)が重力により下制しないようにコントロールしています。
なお、移動側の股関節の関節可動域や筋力低下があると骨盤の側方傾斜は小さくなることがわかっています。
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体幹と骨盤の運動が、座位や立位姿勢にどのように関わっているのかが、筋活動とともに詳しく解説されています。
また様々な研究から、運動療法のヒントになることがたくさん載っています!!