トイレ動作の自立には、身体機能面だけでなく、認知機能や高次脳機能など様々な要素が複雑に作用しながら成り立っています。今回、二重課題としてのトイレ動作を再考していきたいと思います。
目次
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トイレ動作を考える際に、特にバランス能力の問題が自立を阻害する要因になります。
バランス能力については、身体重心線が支持基底面内に収まっていることが要件であり、姿勢や動作時に観察される安定性や不安定性の度合いを表すものとして捉え、以下のものを含みます。
トイレ動作では、下肢が下衣によって拘束される状況になるため、支持基底面を広く取ることができず、下肢のステップ反応も出現しにくいため、バランスが取りにくい姿勢となります
みで下衣の上げ下げ動作を行わなくてはならないので、体幹の回旋等を伴うことでよりバランスの保持が困難になりやすい事が特徴的です。
ズボンを上げる最中、姿勢安定性を保つ戦略としては、重心動揺をゆっくりと行い、狭い範囲に限定させることで、狭い範囲内での重心動揺安定域内に、重心動揺を制御している事が多いです。
非自立者では、重心動揺安定域内での重心動揺の制御能力が自立者と比べて低い事が特徴的です
また、麻痺側下肢荷重率が低く、ズボンを上げる工程の重心動揺では、左右方向への重心動揺の速度が健常者よりも遅い事が特徴です。
立位での下衣の着脱時は、下方へのリーチ時に重心が前方に移動しすぎると恐怖心から非麻痺側下肢で床を蹴り返す反応が起こりやすくなります。
ズボン引き上げ動作では、体幹回旋や前屈の複合運動が必要ですが、前方向の重心移動が大きくなるためにバランスを崩しやすく、患者の不安感も大きくなりがちです。
トイレ動作に必要な静的バランスとしては、閉眼立位(視覚系を除く前庭系や体性感覚を用いた姿勢制御 )での立位保持が挙げられます。
動的バランスとしては、着座、立ち上がり(上肢支持を用いることなく前後方向へ支持基底面および重心を移動する能力 )、移乗(上肢と両下肢で構成された支持基底面を変化しながら前後左右方向に重心を移動する能力 )が必要です。
閉眼立位の必要性の理由としては、下衣操作やレバー操作立位保持と上肢操作を同時に行う動作が含まれるため視覚に依存した立位姿勢保持では自立することが困難なためです。
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ここからは、二重課題としてのトイレ動作を考えていきます。
脳卒中片麻痺者などでは、下衣動作の際に、バランスを調整しながら動的立位保持するためには、一定の注意機能が適切に働いている必要があります。
特に、片手での衣服の操作の際に意識的に注意を配分する必要があるため、運動処理と同時に高い認知能力(高次脳機能)が必要になります。
このことから、トイレ動作の自立には、運動処理と同時に高度な認知機能処理も必要とされ、ある意味二重課題を遂行していると捉えることが可能です。
この論文では、デュアルタスクステッピングテストを用いて、座位保持可能な脳卒中者の排泄動作自立能力を判定しています。
Abstract:
本研究は、脳卒中患者の自立したトイレ能力を判定するためのデュアルタスクステッピングテストの有用性を明らかにすることを目的とした。
方法は以下の通りである。
本研究では、座位でのステッピングが可能な脳卒中患者67名を登録し、デュアルタスクステッピングテストを実施した。
検査結果と他の評価(Berg Balance Scale、Mini-Mental State Examination、Attentional Rating Scale)との関係、およびトイレ能力とトイレ能力に影響を与える因子との関係を回帰分析により検討した。
結果:
デュアルタスクパフォーマンスが低い患者では、バランス能力、注意力、認知能力が低下する傾向があった。
二重タスクステッピングテストの結果と自立排泄率は,重度の二重タスク障害15.6%(532),軽度の二重タスク障害64.7%(1117),正常な二重タスク能力94.4%(1718)に分布していた.
二重タスクステッピングテストの結果、二重タスク障害とトイレ能力との間には有意な関係が認められた(p<0.01)。
ロジスティック回帰分析では、デュアルタスクステッピングテストがトイレ能力のオッズ比が最も高いことが示された(p = 0.00;オッズ比、14.50)。
結論:
二重タスク・ステッピングテストは独立したトイレ能力の判定に有用であった。
この評価は迅速であり,特別な機器やインフラを必要とせず,臨床現場で広く応用できる可能性がある.
文献の中で、デュアルタスクステッピングテストは、運動課題と認知課題を同時に行うことで、二重課題能力を運動性能に基づいて評価しています。
具体的な方法は文献を参照していただきたのですが、簡単にまとめると、
①座位にて足踏みを行う(30秒間、快適で一定のペースで)。
②その際に、認知課題として評価日に食べた昼食(昼前に評価が行われた場合は朝食)内容を想起させる。 食事を摂取しなかった場合、現在服用している薬の種類を想起する。
という内容になります。
パフォーマンス評価として、以下の3段階に分けています。
1は重度の二重課題障害、2と3は軽度の二重課題障害とし、いずれでもない場合は正常な二重課題能力とします。
このテストは、運動麻痺が比較的軽度な方には用いやすいと考えています。
このテストの結果の解釈として、低パフォーマンスの原因が、運動障害によって動作に注意が向けられすぎたためなのか、認知機能低下によって認知課題に注意が向けられすぎたためなのか、もしくは運動-認知課題の同時処理における注意分配が行いにくいかなどのどれかということについては、はっきりと解釈はできません。