目次
ADL訓練をしていると、こんな場面によく出会います。
リハビリ室ではできる。
声をかければできる。
でも、病棟生活では実行されない。
あるいは、
何度練習しても同じ工程で失敗する。
手順表を貼っても見ない。
ナースコールを押さずに立ってしまう。
服薬チェックが続かない。
トイレ動作で毎回ブレーキ確認が抜ける。
こうした時、私たちはつい「理解が不十分なのかな」「注意が足りないのかな」「何度も説明するしかないかな」と考えがちです。
もちろん、認知機能、注意障害、記憶障害、病識低下、失語、疲労、疼痛などの影響は必ず見ます。ADLがうまくいかない理由を、単純に「本人がしない」「分かっていない」と片づけるのは危険です。
ただ一方で、ADLを生活の中で実行できるようにするには、動作そのものの練習だけでは足りないことがあります。
たとえば、ブレーキ確認という行動を考えてみます。
「ブレーキをかける能力」があっても、立つ前にブレーキを確認するきっかけがなければ、生活場面では抜けることがあります。
ナースコールの位置が遠ければ、コールを押すより一人で立つ方が早い行動になってしまうことがあります。
手順表を貼っても、「いつ見るのか」が生活の流れに組み込まれていなければ、使われないまま終わることがあります。
ここで役立つのが、行動分析的視点です。
行動分析的視点とは、本人を管理するための方法ではありません。
ADL場面で起きている行動を、本人の性格や意欲だけで判断せず、行動が起こる前後の条件から整理する見方です。
どんなきっかけがあると行動が起こるのか。
どんな手がかりがあれば実行できるのか。
どこで行動が止まるのか。
行動した後に、本人にとってどんな結果があるのか。
その行動が病棟や自宅でも続くのか。
このように見ていくと、ADL訓練は単なる動作練習ではなくなります。
「できない・うまくいかない・続かない」行動を、環境、手がかり、結果の調整によって、「できる・している・続けられる」行動へ近づけていく介入として整理しやすくなります。
この記事では、ABAをそのままADL訓練に当てはめるのではなく、ADL支援に使いやすい行動分析的視点を、作業療法の臨床に落とし込んで整理します。
この記事では、次の内容を整理します。
・行動療法、ABA、行動分析の関係
・ADLに行動分析的視点を取り入れる意味
・運動学習、行動分析、作業療法の違い
・行動分析的視点のメリットと注意点
・ADLをABCで見る方法
・課題分析でADLを工程に分ける方法
・プロンプト、フェーディング、チェイニングの使い方
・強化と自己モニタリングの臨床的な使い方
・環境調整で行動が起こりやすい形を作る方法
・ADLを「できる・している」に変える5ステップ
・臨床でよくある疑問へのQ&A
・患者さんや家族への説明例
・臨床記録の例
・ADL定着のためのチェックリスト
・参考文献
最初に、言葉の整理をしておきます。
行動療法は、人の行動や学習に着目して、困りごとの改善や望ましい行動の獲得を支援する広い考え方です。現在では認知行動療法などとも関連して語られることがあります。
ABA、つまり応用行動分析は、その中でも「行動と環境の関係」を具体的に分析し、社会的に意味のある行動を変化させることを扱う体系的な方法です。
ABAでは、行動そのものだけでなく、その前に何があったのか、その後に何が起きたのかを見ます。
先行刺激。
行動。
結果。
強化。
プロンプト。
フェーディング。
チェイニング。
自己管理。
般化。
こうした概念が代表的です。
ただし、ここで注意したいのは、ABAをそのまま回復期リハビリやADL訓練に持ち込むわけではないということです。
ABAは、自閉スペクトラム症や知的障害領域、教育、福祉、行動支援などで多く使われてきた背景があります。一方で、脳卒中後の回復期ADLに対して、ABA単独を標準介入として扱えるほどの根拠が十分に確立しているわけではありません。
そのため、本記事では「ABAでADLを改善する」とは書きません。
ここで扱うのは、ADL訓練に使いやすい行動分析的視点です。
具体的には、
なぜその行動が起こらないのか。
なぜうまくいかないのか。
どの手がかりなら実行できるのか。
どの手がかりを減らせそうか。
行動後に本人にとってどんな結果があるのか。
病棟や自宅でも同じ行動が続くのか。
こうした視点を、トイレ、更衣、服薬、移乗、食事などのADLに落とし込みます。
ADL訓練では、「できるようになったか」を見ることが多いと思います。
立てるようになったか。
移乗できるようになったか。
更衣できるようになったか。
食事を自分で食べられるようになったか。
トイレ動作が見守りでできるようになったか。
もちろん、この評価は欠かせません。動作そのものが成立しなければ、生活で使うことは難しくなります。
ただ、臨床では「能力としてはできるけれど、生活の中では実行されない」という場面があります。
たとえば、車椅子のブレーキ操作です。
リハビリ室では、療法士が「立つ前に確認することは何ですか」と聞くと、本人は「ブレーキ」と答え、左右のブレーキをかけることができます。
この場合、「ブレーキ操作はできる」と言えます。
しかし、病棟で尿意が強い時、ナースコールが手の届きにくい場所にあり、スタッフが近くにいない。すると、本人はコールを押さずに立ち上がってしまう。
この時に問題になるのは、ブレーキをかける身体能力だけではありません。
尿意というきっかけ。
コールの位置。
急ぎたい気持ち。
声かけがない環境。
早くトイレに行けたという結果。
転倒しなかった経験による「大丈夫」という学習。
こうした要素が重なって、危険行動が繰り返されることがあります。
つまり、ADL訓練では、動作を上達させるだけでなく、生活の中でその行動が起こりやすい条件を整える視点も必要になります。
行動分析的視点は、できない・うまくいかない行動を、できる・している行動へ近づけるために役立ちます。
ADL訓練を整理する時、運動学習、行動分析、作業療法はそれぞれ役割が少し違います。
運動学習は、動作を上達させる視点です。
たとえば、立ち上がり動作を反復する、手すりの使い方を練習する、麻痺側上肢を更衣の中で使う、スプーン操作を繰り返すなどです。
行動分析は、生活の中でその行動が起こる条件を整理する視点です。
どのきっかけで行動が起こるのか。
どんな手がかりがあれば実行できるのか。
行動の後に何が起きているのか。
その結果によって行動が増えているのか、減っているのか。
声かけや手順表がない時にも実行されるのか。
こうした点を見ます。
作業療法は、本人の生活、役割、意味につなげる視点です。
トイレに間に合うこと。
自分で服を着られること。
家族の前で食事を自分で食べられること。
退院後に一人で朝の準備ができること。
デイサービスへ行く前に身支度が整うこと。
ADLを単なる動作ではなく、その人の生活や役割の中で考えます。
| 視点 | 主に見ること | ADLでの例 |
|---|---|---|
| 運動学習 | 動作を上達させる | 立ち上がり、移乗、上肢操作、バランス |
| 行動分析 | 生活の中で実行される条件を見る | コール位置、声かけ、手順表、行動後の結果 |
| 作業療法 | 本人の生活・役割・意味につなげる | 自宅トイレ、家族との食事、退院後の朝の支度 |
この3つは対立するものではありません。
ADL訓練では、運動学習で動作を上達させ、行動分析で生活の中に定着しやすい条件を整え、作業療法として本人の生活や役割へつなげていく。
この整理が臨床では使いやすいと思います。
行動分析系の介入は、自閉スペクトラム症や知的障害領域の日常生活技能に対して研究があります。課題分析、プロンプト、チェイニングなどを使い、生活技能の獲得を支援する研究が報告されています。
ただし、研究量や対象は限定的です。自閉スペクトラム症の青年・成人の日常生活技能に関するレビューでも、該当研究数は多くなく、すべての生活場面に強く一般化できるわけではありません。
後天性脳損傷領域でも、行動分析的介入の研究は存在します。ただし、単一事例デザインの研究が中心で、対象や介入内容にも幅があります。回復期ADL全般に対して、ABA単独を標準介入として強く推奨できる段階とは言いにくいでしょう。
認知症領域では、本人にとって意味のある日常活動や個別目標に基づく認知リハビリテーションに一定の根拠があります。これはABAそのものの根拠ではありませんが、本人の目標、環境、日常活動に焦点を当てる支援の重要性を考えるうえで参考になります。
また、ADL動作そのものの練習については、脳卒中後の反復課題練習やADLを標的にした作業療法のレビューがあります。これらは、動作の獲得やADL改善を考えるうえで参考になりますが、行動分析単独の効果を示すものではありません。
したがって、本記事での正確な位置づけは次のようになります。
「ABAでADLが改善する」とは言い切らない。
「ADLを生活の中で実行しやすくするために、課題分析、プロンプト、フェーディング、チェイニング、強化、自己モニタリングなどの行動分析的視点を臨床技法として活用する」と考える。
このくらいの表現が、臨床的にもエビデンス的にも安全です。
行動分析的視点を取り入れると、ADLで起きている問題を「本人の理解不足」や「性格」だけで片づけにくくなります。
たとえば、ナースコールを押さずに立つ患者さんに対して、「危ないことをする人」と見るだけでは介入が止まってしまいます。
しかし、行動分析的に見ると、
尿意が強い。
コールが遠い。
スタッフが来るまで待つのが不安。
一人で立つと早くトイレに行ける。
過去に転ばず成功した経験がある。
こうした前後関係が見えてきます。
| メリット | ADLでの意味 |
|---|---|
| 行動の前後を整理できる | なぜ危険行動や失敗が起こるかを環境・結果から考えられる |
| 介入が具体化しやすい | 声かけ、指差し、手順表、物品配置に落とし込める |
| 病棟スタッフと共有しやすい | 「この声かけで、この工程を確認する」と伝えやすい |
| 声かけ依存を評価しやすい | プロンプトを減らしてもできるかを見られる |
| 生活場面への定着を考えやすい | リハ室だけでなく、病棟・自宅で実行されるかを確認できる |
| できない理由を細かく見られる | どの工程で、どの条件なら行動が起こるかを見やすい |
特に回復期では、リハビリ室でできるようになった動作を、病棟生活へどう移すかが課題になります。
その時に、行動分析的視点は「病棟で実行される条件」を整えるために役立ちます。
一方で、行動分析的視点には注意もあります。
行動だけを見すぎると、痛み、疲労、失語、認知機能、心理面を見落とすことがあります。
たとえば、トイレ誘導を拒否する患者さんがいた時に、「拒否行動」とだけ見ると不十分です。実際には、疼痛、羞恥心、失語による伝えにくさ、疲労、抑うつ、不安、スタッフとの関係性が影響していることがあります。
また、行動分析的視点を誤って使うと、支援者が望む行動を本人にさせるような管理的な関わりになってしまう危険もあります。
ADLは、その人の生活行為です。
本人の納得や意味を置き去りにして、「この手順でやらせる」「この行動を増やす」と考えると、作業療法としては不自然になります。
| 注意点 | 臨床でのリスク |
|---|---|
| 行動だけを見すぎる | 痛み、疲労、失語、認知機能、心理面を見落とす |
| 管理的になりやすい | 本人の納得や意味より、支援者都合の行動修正になりやすい |
| プロンプト依存が起こる | 声かけがないと実行されない状態になる |
| 強化を「褒めること」と誤解しやすい | 本人にとって意味のない賞賛では定着しにくい |
| エビデンスを広げすぎやすい | ASDや知的障害領域の知見を回復期ADLへそのまま当てはめてしまう |
| 「しない」を本人責任にしやすい | 行動が起こらない条件を見落とす |
行動分析的視点は、本人を管理するためのものではありません。
その人が生活の中で必要な行動を実行しやすくするために、環境、手がかり、結果を整える視点として使うのが臨床的です。
行動分析では、行動をABCで整理します。
Aは先行刺激です。
行動のきっかけになるものです。
Bは行動です。
実際に本人が行ったことです。
Cは結果です。
行動の後に起こることです。
ADLに置き換えると、かなり臨床で使いやすくなります。
| 要素 | ADLで見ること | 例 |
|---|---|---|
| A:先行刺激 | 行動のきっかけ | 尿意、コール位置、手順表、声かけ、物品配置 |
| B:行動 | 実際に起きた行動 | 立つ、ブレーキをかける、コールを押す、更衣する |
| C:結果 | 行動後に起こること | 間に合う、安心する、褒められる、転倒リスクが上がる |
たとえば、ナースコールを押さずに一人で立ってしまう患者さんがいたとします。
この行動だけを見ると、「危険理解が乏しい」「勝手に立つ人」と見えてしまうかもしれません。
しかし、ABCで見ると少し違って見えます。
A:尿意がある。コールが遠い。スタッフが近くにいない。
B:一人で立つ。
C:早くトイレに向かえる。間に合った経験がある。
この場合、本人にとっては「一人で立つ」という行動の後に、「早くトイレに行ける」という結果が起きています。
たとえ転倒リスクがあっても、本人にとっては成功体験になっていることがあります。
この視点を持つと、介入は「立たないでください」と言うだけでは不十分だと分かります。
コールを手の届く位置に置く。
尿意が出る時間帯を把握する。
トイレ誘導のタイミングを調整する。
「コールを押す→スタッフが来る→安全にトイレに行ける」という流れを作る。
コールを押せた時に、本人にとって意味のある結果につなげる。
このように、行動の前後まで含めて考えると、ADL支援が具体的になります。
危険行動を「性格」や「理解不足」だけで片づけず、環境、手順、結果まで見ることがポイントです。
ADLを「できる」「できない」だけで見ると、介入すべきポイントが見えにくくなります。
たとえば、
「トイレ動作ができない」
と書くだけでは、何が問題なのか分かりません。
尿意を伝えられないのか。
ナースコールを押せないのか。
ブレーキ確認が抜けるのか。
フットレスト管理ができないのか。
立ち上がりでふらつくのか。
方向転換で足が出ないのか。
下衣操作でバランスが崩れるのか。
後始末の手順が分からないのか。
戻る時に疲れてしまうのか。
工程ごとに分けると、介入の入口が見えてきます。
| 工程 | 観察するポイント |
|---|---|
| 尿意を伝える | 自分から言えるか、表情や落ち着きのなさで分かるか |
| ナースコールを押す | コールの位置、押すタイミング、理解 |
| 車椅子を止める | 便座との距離、角度、足の位置 |
| ブレーキをかける | 左右確認、自発性、声かけの必要性 |
| フットレストを上げる | 足の巻き込み、外し忘れ |
| 立ち上がる | 足位置、支持物、前方重心移動 |
| 方向転換する | 手すり使用、足の運び、ふらつき |
| 下衣操作を行う | 支持手、片手操作、バランス |
| 便座に座る | 後方確認、着座速度、座面位置 |
| 後始末をする | 手順、清潔動作、疲労 |
| 安全に戻る | 再立位、下衣上げ、手洗い、移動手段確認 |
このように工程で見ると、「どの工程にプロンプトが必要か」「どこを部分練習するか」「どこからフェーディングできそうか」が整理しやすくなります。
課題分析は、単にADLを細かく分ける作業ではありません。
どの工程で、どの条件なら本人が実行できるかを見るための評価です。
プロンプトとは、本人が次に何をすればよいか分かるようにする手がかりです。
ADL訓練では、さまざまなプロンプトを使っています。
口頭指示。
指差し。
見本提示。
写真カード。
手順表。
タイマー。
ナースコール位置の固定。
物品の配置。
軽い身体介助。
たとえば、トイレ動作開始前に、
「ブレーキをかけてください」
と伝えるのは口頭プロンプトです。
ブレーキを指差すのは、視覚的なプロンプトです。
車椅子のブレーキに赤いテープを貼るのも、確認行動を引き出す環境的なプロンプトになります。
ここで大切なのは、プロンプトと介助を分けて考えることです。
| 比較 | 介助 | プロンプト |
|---|---|---|
| 目的 | 動作を成立させる | 本人の行動を引き出す |
| 主体 | 支援者主体になりやすい | 本人の実行を促す |
| 例 | 体を支える、ズボンを上げる | 声かけ、指差し、手順表 |
| 注意点 | 介助量をどう減らすか | 手がかりをどう減らすか |
もちろん、身体介助が必要な場面はあります。転倒リスクがある時に、プロンプトだけで済ませるのは危険です。
ただ、ADLを生活に定着させるには、今出している支援が「介助」なのか「プロンプト」なのかを分けて考えると整理しやすくなります。
プロンプトは、出すことよりも、どう減らすかまで設計することが大事です。
臨床でよくあるのが、
「ブレーキをかけて」と言えばできる。
だから自立に近い。
という判断です。
これは半分正しく、半分注意が必要です。
声かけでできるということは、そのプロンプト条件下ではできるということです。
しかし、病棟生活や自宅生活では、毎回同じ声かけがあるとは限りません。
したがって、自立度を判断する時は、
声かけがあればできるのか。
指差しだけでできるのか。
少し待てば自分で気づくのか。
別のスタッフでも同じようにできるのか。
環境が変わっても自発的に確認できるのか。
ここまで見る必要があります。
フェーディングとは、手がかりを段階的に減らしていくことです。
| 段階 | 関わり |
|---|---|
| 1 | 「ブレーキをかけてください」と直接言う |
| 2 | 「立つ前に確認することは何ですか」と聞く |
| 3 | ブレーキを指差す |
| 4 | 車椅子前で数秒待つ |
| 5 | 本人が自分で左右ブレーキを確認する |
| 6 | 別スタッフ、別時間、病棟トイレでも確認できる |
ここで見るべきなのは、「声かけでできるか」ではなく、「声かけを減らしてもできるか」です。
プロンプトを減らしていく過程そのものが、ADL定着の評価になります。
ADLは、一つの動作ではなく、複数の工程がつながった行動です。
トイレ動作も、更衣も、服薬管理も、食事準備も、いくつかの工程が連続しています。
このような連続した行動を練習する時に使いやすいのが、チェイニングの考え方です。
チェイニングとは、複数の工程をつなげて一連の行動として獲得していく方法です。
前向きチェイニングは、最初の工程から順に練習していく方法です。
たとえばトイレ動作なら、
ブレーキ確認。
フットレスト管理。
立ち上がり。
方向転換。
下衣操作。
このように、最初の工程から積み上げていきます。
開始工程でつまずく人には使いやすい方法です。
たとえば、毎回ブレーキ確認が抜ける人では、最初の「開始前チェック」を安定させることが、その後の安全性につながります。
後ろ向きチェイニングは、最後の成功しやすい工程から練習する方法です。
たとえば、
ズボンを最後だけ上げる。
靴を最後にかかとだけ入れる。
上衣を最後に整える。
服薬チェック表に最後のチェックだけ入れる。
このような形です。
認知機能低下がある方や、失敗体験が多い方では、最後に「できた」という感覚を得やすいことがあります。
ただし、回復期ADLでは、いつも前向き・後ろ向きのどちらかに固定するより、全体を通しながら崩れる工程だけ支援する方法が使いやすいことも多いです。
たとえば、トイレ動作全体を通して行いながら、下衣操作のところだけ介助やプロンプトを入れる。
更衣全体を行いながら、麻痺側袖通しのところだけ手順表や鏡確認を使う。
このように、全体の流れを保ったまま、必要な工程だけ支援する方法は、生活場面に近くなります。
ADLでは、部分だけできても生活で使えないことがあります。
工程を分けることと、最後に全体へ戻すことをセットで考えます。
強化という言葉を聞くと、「褒めること」と考えがちです。
もちろん、褒めることが有効な場合もあります。
ただ、ADL訓練でより大事なのは、本人にとって意味のある結果につなげることです。
行動分析でいう強化は、行動の後に起きた結果によって、その行動が今後起こりやすくなることを指します。
ADL場面で考えると、
トイレに間に合った。
失敗せずに終えられた。
疼痛が少なくできた。
自分でできた感覚がある。
家族に見てもらえた。
退院後の生活に近づいた。
自分で服を選べた。
食事を最後まで自分で食べられた。
こうした結果は、本人にとって大きな意味を持ちます。
逆に、療法士が「よくできました」と褒めても、本人にとってその行動の意味が薄ければ、生活の中で定着しにくいことがあります。
ADLにおける強化は、単に褒めることではなく、
「この動作を行うことで、自分の生活が良くなる」
と本人が感じられる結果を作ることです。
トイレ動作であれば、「安全にトイレへ行けた」「間に合った」「失敗しなかった」という結果が本人にとって意味を持ちます。
更衣であれば、「自分で服を着られた」「家族に見てもらえた」「退院後の朝の準備に近づいた」という結果が行動の定着につながることがあります。
ADLを生活に定着させるには、支援者が毎回確認するだけでは限界があります。
本人が、自分で確認できる仕組みを作ることも考えます。
自己モニタリングとは、自分の行動や結果を自分で確認することです。
たとえば、
トイレ前チェック表。
更衣手順表。
服薬チェック。
外出準備リスト。
今日できたこと記録。
鏡で左右を確認する。
カレンダーに済印をつける。
スマートフォンのアラームを使う。
こうした方法です。
ただし、チェック表を渡すだけでは定着しません。
本人が見る場所にあるか。
文字は見やすいか。
項目が多すぎないか。
いつ見るのか決まっているか。
病棟スタッフや家族も同じ使い方をしているか。
本人が「使う意味」を感じられているか。
ここまで見ます。
たとえば服薬管理では、薬カレンダーを設置するだけでは不十分なことがあります。
朝食後に見る。
飲んだら済欄にチェックする。
チェックがなければ看護師や家族に確認する。
退院後も同じ場所に置く。
このように、確認行動そのものを生活の流れに組み込みます。
ADLがうまくいかない時、本人の理解や意欲だけを問題にしてしまうことがあります。
しかし、環境が行動を邪魔していることも少なくありません。
ナースコールが遠い。
手順表が見えにくい。
服の置き場所が毎回違う。
ブレーキが目立たない。
靴べらが手の届かない場所にある。
薬カレンダーが生活動線から外れている。
トイレまでの動線に物がある。
このような場合、本人に「気をつけてください」と伝えるだけでは限界があります。
環境を整えることで、行動が自然に起こりやすくなることがあります。
| 困りごと | 環境調整の例 |
|---|---|
| ナースコールを押さない | 利き手側、見える位置、届く位置に固定する |
| ブレーキ確認が抜ける | ブレーキに色テープ、開始前チェック表 |
| 更衣手順が混乱する | 着る順番に衣服を並べる |
| 薬を飲み忘れる | 薬カレンダーを食卓や洗面台など生活動線に置く |
| 左側を見落とす | 左端マーカー、物品配置の調整 |
| トイレで急ぐ | 定時誘導、尿意パターンの把握、動線整理 |
| 手順表を見ない | 視線に入りやすい場所へ移動し、見るタイミングを固定する |
環境調整は、本人の能力を低く見るためのものではありません。
その人が持っている能力を、生活の中で使いやすくするための支援です。
ADLを生活の中で「できる・している」行動へ変えていくには、ただ反復するだけでなく、手がかりと環境を含めて設計します。
まず、目標ADLを1つに絞ります。
たとえば、
病棟トイレで下衣操作まで見守り。
朝の更衣を声かけ1回以内で行う。
薬カレンダーを使って朝薬を確認する。
車椅子からベッドへブレーキ確認後に移乗する。
このように、場面と行動を具体化します。
「ADLを上げる」ではなく、「どの場面で、どの行動を、どの条件でできるようにしたいか」まで決めます。
次に、どこで崩れているかを見ます。
ブレーキ確認。
ナースコール。
方向転換。
下衣操作。
麻痺側袖通し。
服薬チェック。
手順の開始。
終了確認。
すべてを一度に変えようとすると、本人も支援者も混乱します。
まずは、生活上のリスクや意味が大きい工程を1つに絞ります。
その工程を実行するために、どの手がかりが必要かを決めます。
口頭指示。
指差し。
写真カード。
手順表。
タイマー。
環境配置。
物品の固定。
軽い身体介助。
この時、「最初から最小限の手がかり」にこだわりすぎる必要はありません。
安全に成功できる手がかりを使い、そこから減らす計画を立てます。
プロンプトは、出すだけではなく、減らす順番まで考えます。
たとえば、
口頭指示。
指差し。
待つ。
本人の自発確認。
別スタッフでも再現。
病棟や自宅想定でも再現。
このように段階を作ります。
声かけでできる状態をゴールにせず、声かけが少なくなっても実行できるかを確認します。
最後は、生活場面で再現できるかを確認します。
リハ室だけでなく、病棟トイレ、食堂、ベッド周囲、洗面台、自宅環境を想定した場所で見ます。
別時間でもできるか。
別スタッフでもできるか。
疲労時でもできるか。
家族の声かけでもできるか。
退院後の物品配置でも使えるか。
ここまで見て、ADLが生活の中で「している」行動に近づいているかを判断します。
| 臨床で見える所見 | 行動分析で見る視点 | 対応例 |
|---|---|---|
| 声かけすればできる | プロンプト条件下で成立している | 声かけを段階的に減らす |
| 病棟で実行されない | 先行刺激や結果が違う | 病棟環境でABC分析する |
| 毎回同じ工程で抜ける | 課題分析で破綻工程がある | その工程だけ手がかりを設定する |
| 手順表を見ない | 見る行動が生活の流れに入っていない | いつ見るかを練習に組み込む |
| 一人で立ってしまう | 一人で立つ結果に意味がある | コールを押す方が成功しやすい環境を作る |
| 声かけが増えている | 依存的になっている可能性 | フェーディング計画を作る |
| 失敗体験が多い | 行動後の結果が不快になっている | 後ろ向きチェイニングや成功工程から始める |
| 家族の前ではできない | 環境や緊張、声かけが違う | 家族同席で同じ手順を確認する |
| 「しない」と見える | 行動が起こる条件が整っていない可能性 | 先行刺激、手がかり、結果を見直す |
「声かけすればできる」は、その声かけ条件下ではできる、という意味です。
自立に近いかどうかは、声かけを減らした時にどうなるかで判断します。
直接指示が必要なのか。
間接的な声かけで気づけるのか。
指差しだけでできるのか。
数秒待てば自分で確認できるのか。
別スタッフでもできるのか。
病棟や自宅想定でも再現できるのか。
ここまで見て初めて、自立度の判断がしやすくなります。
「立たないでください」と伝えるだけでは、うまくいかないことがあります。
まずABCで見ます。
尿意がある。
コールが遠い。
スタッフが近くにいない。
過去に一人で立ってトイレに間に合った。
転ばなかったので本人は危険を感じていない。
このような流れがあれば、一人で立つ行動には本人なりの理由があります。
介入としては、コールを手の届く場所に置く、尿意が出る時間帯に先回りして声をかける、コールを押したら早く対応できる流れを作る、安全にトイレに行けた経験を作る、などが考えられます。
危険行動を責めるより、「安全な行動の方が本人にとって成功しやすい条件」を整えます。
手順表は、貼るだけでは使えるようになりません。
確認するのは、
本人が手順表に気づいているか。
見やすい位置にあるか。
文字や写真が分かりやすいか。
項目が多すぎないか。
いつ見るのか決まっているか。
見た後に成功体験につながっているか。
スタッフが同じ使い方を促しているか。
です。
手順表を見る行動そのものを練習に組み込む必要があります。
たとえば、更衣前に「まず手順表を見る」、袖を通したら「鏡で確認する」、終わったら「チェック欄に印をつける」というように、生活の流れに入れます。
介助は、動作そのものを成立させる支援です。
たとえば、立ち上がりで体を支える、ズボンを上げるのを手伝う、車椅子の向きを直す、といった関わりです。
プロンプトは、本人の行動を引き出す手がかりです。
たとえば、「次は何を確認しますか」と声をかける、ブレーキを指差す、手順表を見せる、衣服を着る順番に並べる、といった関わりです。
どちらも必要な場面があります。
ただし、プロンプトは最終的に減らす前提で使います。出しっぱなしにすると、声かけがないと動けない状態になりやすいからです。
必ずしもそうではありません。
強化になるかどうかは、本人にとって意味のある結果になっているかで決まります。
「よくできました」と言われることが嬉しい人もいます。
一方で、褒められるよりも、「トイレに間に合った」「失敗しなかった」「痛みが少なかった」「家族に見てもらえた」「自分でできた」という結果の方が意味を持つ人もいます。
ADL訓練では、本人の生活に近い成功体験を強化として使う方が定着しやすいことがあります。
成功率が安定し、安全性が保たれていて、本人が次に何をするか予測できている時に、少しずつ減らします。
たとえば、毎回直接指示でブレーキ確認できるようになったら、次は「立つ前に何を確認しますか」と間接的に聞く。
それで安定してきたら、ブレーキを指差す。
さらに安定すれば、数秒待つ。
このように段階を作ります。
ただし、転倒リスクがある工程では無理に減らしません。安全性が優先です。
使えますが、注意が必要です。
失語、記憶障害、注意障害、病識低下、疲労がある場合、行動だけで判断すると誤解が生じます。
たとえば、「手順表を見ない」といっても、見えていない、意味が分からない、読むのが疲れる、見るタイミングが分からない、そもそも必要性を感じていない、など理由はさまざまです。
行動分析的視点は、「本人を管理する方法」ではありません。
生活の中で実行しやすい条件を整える視点として使う方が臨床的です。
家族には、「分かっていること」と「生活場面で毎回実行できること」は違うと説明します。
たとえば、
「ブレーキが大事だと分かっていても、急いでいる時や疲れている時は確認が抜けることがあります」
と伝えます。
そのうえで、注意を繰り返すより、
「立つ前にブレーキを見る」
「左袖を先に確認する」
「薬を飲んだら済欄にチェックする」
のように、確認する場所や手順を一つに絞る方が伝わりやすいことを共有します。
専門用語で伝えるより、実際の声かけまで具体化します。
たとえば、
「プロンプトを減らしてください」
では伝わりにくいです。
それよりも、
「最初は“立つ前に何を確認しますか”と聞いてください」
「気づかなければブレーキを指差してください」
「それでも気づかなければ、安全のため直接声をかけてください」
と共有します。
声かけの段階を決めておくと、スタッフ間で統一しやすくなります。
本人の意味や納得を置き去りにしないことです。
ADLは生活行為です。
支援者が望む行動をさせることが目的ではありません。
本人の生活に必要な行動が、本人にとって意味のある形で実行されることを目指します。
そのためには、本人が何を望んでいるのか、どの生活場面で困っているのか、その行動が本人の役割や生活にどうつながるのかを確認する必要があります。
まずは条件を変えて観察します。
手すりの位置を変えたらできるのか。
声かけを変えたらできるのか。
時間帯を変えたらできるのか。
物品を見やすくしたらできるのか。
疲労が少ない時ならできるのか。
写真や手順表があればできるのか。
条件を変えてできるなら、純粋な能力不足だけではなく、環境や手がかりの問題が関係している可能性があります。
一方で、どの条件でも身体的に難しい、強い疼痛がある、理解が難しい、安全が保てない場合は、介助方法や目標設定を見直します。
使い方によっては、その危険があります。
だからこそ、本人の意味や納得を必ず確認します。
行動分析的視点は、支援者が望む行動を押しつけるためのものではありません。
「この人が生活で困らないために、どんな行動が起こるとよいか」
「その行動が自然に起こるには、どんな環境や手がかりが必要か」
「その行動の結果が、本人にとって意味のあるものになっているか」
を考えるための視点です。
作業療法では、本人の生活・役割・価値とつながっているかを常に確認する必要があります。
患者さんや家族には、「行動分析」や「プロンプト」といった言葉をそのまま伝える必要はありません。
生活場面の言葉で説明する方が伝わりやすいです。
たとえば、家族が、
「リハビリではできるのに、なぜ病棟ではしないのですか」
と聞いた場合には、
「リハビリでは声かけや環境が整っているのでできています。ただ、病棟では尿意や疲れ、物の位置などが変わるので、同じようにできるかを確認しています」
と説明します。
また、
「ブレーキは分かっているのに、なぜ忘れるのですか」
と聞かれた場合には、
「分かっていることと、急いでいる場面で実行できることは少し違います。今は、立つ前に自分で確認できるように、声かけを少しずつ減らしながら練習しています」
と伝えると理解されやすくなります。
| 家族の疑問 | 説明例 |
|---|---|
| 声をかければできるなら自立では? | 今は声かけがある条件でできています。次は声かけを減らしてもできるかを確認します。 |
| 何度も同じことを忘れるのはなぜ? | 急いでいる時や疲れている時は、確認行動が抜けやすくなります。環境と手順も一緒に整えます。 |
| 注意すればよいですか? | 注意よりも、確認する場所や順番を決めた方が実行しやすいことがあります。 |
| 家でも同じようにできますか? | 家の物品配置や声かけが変わると動作も変わるため、自宅環境を想定して確認します。 |
| 本人がやる気がないのですか? | 意欲だけでなく、行動が起こりやすい環境や手がかりが整っているかも見ています。 |
病棟トイレ動作にて、尿意出現時にナースコールを押さず立ち上がろうとする場面あり。ABCで整理すると、A:尿意あり、コールが右後方で視認しにくい、B:一人で立つ、C:早くトイレへ向かえる、という流れが考えられる。介入として、コールを利き手側前方へ固定し、尿意時は「まずコール」を手順表に追加。リハ場面では口頭指示でコール使用可能。次回は指差し、待機へプロンプトを減らし、病棟スタッフと同一手順で再現性を確認する。
上衣更衣にて、麻痺側袖通しが抜けやすい。課題分析上、衣服の向き確認から麻痺側袖通しへの工程で破綻あり。初回は口頭指示と見本提示にて実施可能。2回目以降は衣服を着る順に配置し、鏡確認をプロンプトとして使用。袖通し後に本人より「左を先に見る」と言語化あり。次回は口頭指示を減らし、衣服配置と鏡確認のみで実行可能か確認する。
服薬管理練習にて、薬カレンダーの使用方法は説明直後には理解可能。しかし、実際の病棟生活では自発的確認が少ない。A:朝食後、薬カレンダーがベッド横で視界に入りにくい、B:確認せず過ごす、C:看護師が声かけして内服、という流れ。介入として、薬カレンダーを朝食後に目に入る位置へ変更し、食後に済欄へチェックする手順を設定。今後は看護師の直接声かけを、確認促し、待機へ段階的に減らす。
・目標ADLを1つに絞ったか
・「どの場面で」「何をするか」が明確か
・本人にとって意味のあるADLか
・病棟生活や自宅生活につながるか
・行動のきっかけを確認したか
・実際の行動を具体的に観察したか
・行動後に何が起きているか見たか
・危険行動を性格や理解不足だけで片づけていないか
・ADLを工程に分けたか
・うまくいかない工程を特定したか
・身体機能、認知、環境、疲労を分けて見たか
・どの工程に手がかりが必要か整理したか
・現在どの手がかりでできているか確認したか
・口頭指示、指差し、手順表、環境配置を使い分けたか
・プロンプトが多すぎないか確認したか
・減らす順番を決めたか
・直接指示から間接的な手がかりへ移せているか
・待つことで自発行動が出るか確認したか
・別スタッフでも再現できるか確認したか
・声かけ依存になっていないか見たか
・病棟で再現できるか確認したか
・別時間でも実行できるか見たか
・家族の声かけでもできるか確認したか
・自宅環境を想定したか
・本人にとって意味のある結果につながっているか
ADL訓練は、「できる能力」を作るだけでは不十分なことがあります。
リハビリ室ではできる。
声をかければできる。
でも、生活の中では実行されない。
また、そもそも同じ工程でうまくいかない、手順表が使えない、コールを押せない、確認行動が続かないということもあります。
この差を埋めるためには、運動学習の視点に加えて、行動分析的視点が役立ちます。
運動学習では、動作を上達させます。
行動分析では、生活の中でその行動が起こる条件を整えます。
作業療法では、それを本人の生活、役割、意味につなげます。
ADLを「できる・している」行動へ近づけるには、
目標ADLを1つに絞る。
うまくいかない工程を見つける。
必要な手がかりを決める。
手がかりを段階的に減らす。
生活場面で実行されているかを見る。
この流れが使いやすいです。
ただし、行動だけを見て本人の痛み、疲労、認知機能、心理面、生活上の意味を見落としてはいけません。
行動分析的視点は、本人を管理するためのものではなく、本人が生活の中で必要な行動を実行しやすくするための視点です。
「できない・うまくいかない」を、環境と手がかりの調整で「できる・している」に近づける。
その視点を持つと、ADL訓練の組み立てがかなり具体的になります。