認知症者のADL練習は「覚える」より「再現しやすくする」|手続き記憶・環境・手順・手がかりを活かした生活動作支援

目次

はじめに

認知症がある患者さんにADL練習をしていると、こんな疑問が出てくることがあります。

「昨日も練習したのに、今日また忘れている」
「何度説明しても、同じ手順でつまずく」
「認知症があるなら、ADL練習を繰り返しても意味があるのか」
「できる日とできない日の差が大きくて、自立にしてよいか判断しにくい」

臨床では、かなり現実的な悩みだと思います。

たとえば、トイレ動作で毎回ブレーキ確認が抜ける。
更衣では、麻痺側から袖を通す手順を説明しても、次の日にはまた反対から始めてしまう。
口腔ケアでは、歯ブラシやコップの位置が変わると手が止まる。
ナースコールは「押してください」と説明すれば分かるけれど、尿意がある場面では一人で立ってしまう。

こうした場面で、「覚えてください」「昨日も言いましたよね」と伝えても、うまくいかないことが多いです。

認知症者のADL支援では、説明を聞いて覚える力だけに頼らない方が現実的です。

もちろん、認知症がある方でも学習できることはあります。繰り返しによって動作がスムーズになることもあります。なじみのある手順や環境であれば、以前より安定してできることもあります。

ただし、その学習は「説明を覚える」という形だけではありません。

毎回同じ場所で行う。
同じ道具を使う。
同じ順番で行う。
同じ短い声かけにする。
見える場所に手がかりを置く。
危険な失敗や誤った手順の反復を減らす。
本人にとって意味のあるADLを選ぶ。

このように、生活動作が再現されやすい条件を整えることがポイントになります。

この記事では、認知症者のADL練習を、記憶に頼らせる介入ではなく、手続き記憶、環境、手順、手がかりを活かして生活動作を再現しやすくする介入として整理します。

主に想定しているのは、軽度〜中等度認知症の方です。ただし、重度認知症の方でも、目標を「自立」ではなく「安心して参加できる」「介助を受けやすくする」「危険な失敗を減らす」と考えれば、使える視点はあります。

スポンサーリンク

この記事で分かること

この記事では、次の内容を整理します。

・認知症者のADL練習を「記憶で覚える」と考えない理由
・手続き記憶・潜在記憶をADLに活かす考え方
・パペッツ回路・ヤコブレフ回路を臨床にどう翻訳するか
・軽度〜中等度認知症でADL再学習が期待できる条件
・どの程度の認知機能が残っていれば使いやすいか
・REDALI-DEM試験から分かること
・エラーレス学習の使い方と限界
・在宅OT・認知リハのエビデンス
・病棟ADLへ応用する時の注意点
・ADL別に狙いやすい課題と難しい課題
・トイレ動作への具体的な実装例
・臨床でよく出くわす疑問へのQ&A
・患者さん・家族への説明例
・臨床記録の例
・新人療法士が明日から使えるチェックリスト
・参考文献

1. 認知症者のADLは「説明を覚える」だけでは難しい

認知症者のADL練習で最初に整理したいのは、「説明を覚えてもらう」ことを主戦略にしないという点です。

たとえば、車椅子のブレーキ確認です。

「立つ前にブレーキをかけてください」と説明する。
その場では「分かりました」と言う。
リハビリ中は声かけでできる。
でも病棟トイレで尿意がある時には、確認が抜ける。

この時、「何回言えば覚えるのか」と考えてしまうと、介入が行き詰まります。

認知症では、昨日説明されたことを思い出して、今の場面に当てはめて、自分で行動することが難しい場合があります。

これは、本人のやる気がないからとは限りません。
理解していないからとも限りません。

説明を聞いた時点では分かっていても、実際の生活場面では思い出せない。
尿意や焦りがあると確認が抜ける。
環境が変わると手順が崩れる。
疲労や眠気があると、普段できることもできなくなる。

こうしたことは、認知症者のADLでよく起こります。

そのため、認知症者のADL支援では、覚えることを求めるよりも、行動が自然に出やすい形へ環境を整える方が臨床的です。

ブレーキに赤い印をつける。
車椅子を毎回同じ角度で止める。
声かけを「赤を確認しましょう」に統一する。
最初は手を添える。
次に指差しだけにする。
その後、数秒待つ。
できたら病棟スタッフと同じ方法で共有する。

このように、記憶だけに頼らず、環境と手順で成功しやすくします。

スポンサーリンク

2. 手続き記憶を使うという考え方

認知症者のADL練習では、「何を言われたかを覚える記憶」だけに頼らない方がよい場面があります。

一方で、毎日同じ場所で、同じ道具を使い、同じ手順で行うと、身体が動きやすくなることがあります。

これは、手続き記憶を活かす考え方です。

手続き記憶とは、簡単に言えば「やり方の記憶」です。

歯を磨く。
靴を履く。
スプーンを使う。
服の袖を通す。
手すりを持って立つ。
いつもの場所で洗面を始める。

こうした動作は、言葉で思い出す記憶だけではなく、身体に染みついた手順や習慣に支えられています。

認知症では、新しい出来事を覚える記憶、つまり「昨日何を言われたか」「前回どう説明されたか」といった記憶が低下しやすいです。

一方で、なじみのある手順、習慣化された動作、身体で覚えた流れは、比較的活用できることがあります。

もちろん、認知症が進行すれば手続き記憶も影響を受けます。すべての方に同じように残るわけではありません。

それでも臨床では、「説明して覚えてもらう」よりも、「同じ環境、同じ道具、同じ手順で、身体が反応しやすい流れを作る」方がうまくいく場面があります。

たとえば口腔ケアなら、

歯ブラシをいつもの場所に置く。
コップを隣に置く。
義歯ケースを同じ位置に置く。
洗面台の前に座る位置を決める。
毎回同じ短い声かけで始める。

このようにすると、「歯磨きの説明を思い出す」よりも、「道具を見て、いつもの流れで始める」ことに近づきます。

3. パペッツ回路・ヤコブレフ回路を臨床にどう翻訳するか

専門職向けには、記憶回路の話もADL支援の理解に役立ちます。

ただし、ブログ記事としては「パペッツ回路が働かない」「ヤコブレフ回路が働く」と断定しすぎない方が安全です。

臨床的には、次のように翻訳すると分かりやすいです。

認知症では、海馬を中心としたエピソード記憶、新しい出来事を覚える力が低下しやすい。
そのため、「昨日説明したことを思い出して、今日のADLで使う」ことは難しい場合がある。
一方で、なじみのある手順、身体で覚えた動作、感情的に意味のある活動、環境から引き出される行動は、比較的使えることがある。

専門的には、パペッツ回路は海馬、乳頭体、視床前核、帯状回などを含む記憶・情動に関わる古典的な回路として説明されます。特に海馬を含む記憶ネットワークは、エピソード記憶や新しい学習と深く関係します。

一方、ヤコブレフ回路は、眼窩前頭皮質、扁桃体、視床背内側核、前側頭葉などを含む、情動や動機づけに関係する辺縁系の回路として説明されることがあります。

ただし、現在の神経科学では、記憶や情動を単純に一つの回路だけで説明するわけではありません。ADL臨床では、回路名を細かく覚えることよりも、次の視点が使いやすいです。

説明を覚える記憶だけに頼らない。
なじみのある動作を使う。
本人に意味のある活動を選ぶ。
安心できる感情や成功体験につなげる。
環境が自然な手がかりになるように整える。

つまり、ADL練習では「覚えてください」と言葉で記憶させるよりも、

「見れば分かる」
「いつもの流れならできる」
「本人にとって意味があるから取り組める」
「成功体験として残りやすい」

という条件を作ることが臨床的です。

スポンサーリンク

4. 目標は「認知機能を良くする」ことではない

認知症者のADL練習では、目標設定を間違えないことが大切です。

目標は、認知機能そのものを改善することではありません。

もちろん、注意、記憶、見当識、遂行機能などを評価することは必要です。ただ、ADL練習の目標は、認知機能検査の点数を上げることではなく、本人にとって意味のある生活動作を安全に再現しやすくすることです。

たとえば、

トイレ前にナースコールを押せる。
歯ブラシを見れば口腔ケアを開始できる。
毎回同じ手順で上衣を着られる。
食事前に義歯を確認できる。
車椅子を止めたら赤い印を見てブレーキを確認できる。
夜間は自力移動ではなく、コールを押す流れにできる。

こうした目標は、認知症を治すものではありません。

しかし、本人の安全、尊厳、生活のしやすさには直結します。

認知症者のADL練習では、「覚えたか」ではなく、「生活の中で再現しやすくなったか」を見ます。

5. どの程度の認知機能が残っていれば使いやすいか

このアプローチは、すべての認知症者に同じように使えるわけではありません。

特に、ADLの再学習や手順の定着を狙いやすいのは、軽度〜中等度認知症の方です。

REDALI-DEM試験では、MMSE14〜24点の自宅生活者が対象でした。これは臨床で一つの参考になります。

ただし、MMSEだけで適応を決めるのは危険です。

MMSEの点数が同じでも、指示理解、注意、失語、視空間認知、遂行機能、身体機能、せん妄の有無によって、ADLでできることは大きく変わります。

臨床では、次のような視点で見ます。

見るポイント使いやすい目安
認知症の重症度軽度〜中等度が中心
MMSE参考値として14〜24点程度はREDALI-DEMの対象に近い
指示理解1ステップ指示が入る
注意短時間でも課題に注意を向けられる
模倣見本を見て同じ動きができる
手がかりへの反応声かけ、指差し、目印、物品配置で行動が変わる
身体機能そのADL工程を行う最低限の運動能力がある
情動面強い拒否・興奮・不安が持続していない
全身状態せん妄、発熱、強い疼痛、呼吸苦、血圧低下が主因ではない
意味づけ本人にとって必要性やなじみのあるADLである

逆に、以下のような場合は、ADLの自立練習よりも目標を調整した方がよいです。

状態対応
1ステップ指示も入りにくい自立練習より、環境調整・介助方法の安定を優先
強いせん妄があるADL学習より、せん妄対応と全身状態改善を優先
拒否・不安・興奮が強い課題練習より、安心できる関係性・刺激調整を優先
手がかりに反応しない手順学習より、介助量・安全条件の見直し
転倒リスクが高い自発性より安全確保を優先
本人に意味がない課題課題選定を変更

大事なのは、「説明を覚えられるか」ではありません。

環境や手がかりに反応して、特定のADL工程を再現できるかです。

スポンサーリンク

6. 重度認知症では目標をどう変えるか

重度認知症では、軽度〜中等度の方と同じように「手順を覚えて自立へ」と考えると難しくなります。

ただし、ADL練習に意味がないわけではありません。

目標を変えます。

自立ではなく、安心して参加できる。
拒否が減る。
介助を受けやすくなる。
危険な失敗が減る。
なじみの動作を一部残す。
食事、整容、更衣の一部に関われる。
介護者の声かけや介助方法が安定する。

このような目標です。

たとえば、更衣全体の自立は難しくても、袖に手を通す、前を整える、好きな服を選ぶ、鏡を見る、といった一部工程に参加できることがあります。

口腔ケア全体は難しくても、歯ブラシを持つ、口元へ運ぶ、うがいの準備を見ることで参加が促されることもあります。

重度認知症では、ADLを「できる/できない」で二分しない方がよいです。

本人が安心して関われる工程を残す。
介助を受けやすい環境を作る。
生活リズムやなじみの手順を保つ。
拒否や不安を減らす。

この視点が現実的です。

7. エビデンス① REDALI-DEM試験から分かること

認知症者のADL再学習を考えるうえで、REDALI-DEM試験は参考になります。

REDALI-DEM試験は、軽度〜中等度のアルツハイマー型または混合型認知症者を対象にした、多施設ランダム化比較試験です。対象者は自宅生活者で、MMSEは14〜24点でした。

介入では、本人に関連する日常生活課題を選び、自宅で9回、各1時間、8週間かけて練習しました。

比較されたのは、errorless learningとtrial-and-error learningです。

errorless learningは、誤りをできるだけ減らしながら正しい手順で成功しやすくする方法です。
trial-and-error learningは、試行錯誤しながら課題を行う方法です。

結果として、両群ともADL課題遂行は改善し、その改善は6か月維持されました。

ただし、errorless learningがtrial-and-error learningより優れているとは示されませんでした。

この結果から、臨床で大事なのは次の点です。

認知症者でも、本人に意味のあるADL課題を構造化して練習すれば、課題遂行が改善・維持することがある。
一方で、エラーレス学習だけが特別に優れるとは言えない。
改善は主に練習した課題に限られやすく、自然に他のADLへ広がるとは限らない。

つまり、認知症者のADL練習は「意味がない」わけではありません。

ただし、何でも上がるわけではなく、課題を具体的に選び、環境・手順・手がかりを整え、実際の生活場面で練習することが前提になります。

スポンサーリンク

8. エビデンス② エラーレス学習は有望だが万能ではない

エラーレス学習とは、危険な失敗や誤った手順の反復をできるだけ減らし、正しい手順で成功しやすくする学習方法です。

認知症者では、誤った手順を経験しても、それを自分で修正して次回に活かすことが難しい場合があります。特に記憶障害が強いと、「間違えたこと」自体を覚えていなかったり、誤った手順がそのまま反復されてしまったりします。

そのため、危険な失敗や誤った手順を繰り返さないように、最初から成功しやすい条件を作ります。

主な方法は次のようなものです。

課題を小さなステップに分ける。
見本を見せる。
推測させすぎない。
誤りが出そうな時は早めに修正する。
手がかりを出す。
できてきたら手がかりを段階的に減らす。
同じ手順で繰り返す。

たとえば、更衣で麻痺側袖通しを忘れる場合、

「どう着るんでしたっけ?」

と何度も考えさせるより、

服を着る向きで置く。
麻痺側袖に目印をつける。
最初は「左袖から通しましょう」と伝える。
次は左袖を指差す。
その後、少し待って本人が左袖へ手を伸ばすか見る。

このように、失敗しにくい条件から始めます。

ただし、エラーレス学習は万能ではありません。

研究では有望な結果もありますが、小規模研究や単一事例研究も多く、実生活課題での効果や他場面への般化は慎重に見た方がよいです。REDALI-DEM試験でも、エラーレス学習がtrial-and-error learningより明確に優れるとは示されませんでした。

臨床では、

危険な失敗は防ぐ。
誤った手順の反復は減らす。
ただし、本人ができる範囲で考える余地は残す。
課題や人に応じて、手がかりの量を調整する。

このくらいの使い方が現実的です。

9. エビデンス③ 在宅OT・認知リハはADLを支える可能性がある

認知症者のADL支援では、在宅OTや認知リハビリテーションの研究も参考になります。

在宅で行う作業療法では、本人の生活環境を見ながら、日常生活動作、IADL、介護者支援、環境調整、活動参加を扱います。2019年のシステマティックレビュー・メタ解析では、在宅で提供される作業療法が、認知症者と家族介護者にとって重要な複数のアウトカムを改善する可能性が示されています。

また、軽度〜中等度認知症者に対する認知リハビリテーションについて、Cochraneレビューでは、本人が目標とする日常活動の管理能力改善に役立つとされています。

ここでいう認知リハビリテーションは、記憶課題をたくさん行うような訓練ではありません。

本人にとって意味のある生活上の目標を決め、その目標に向けて、本人の残存能力、環境調整、補助手段、家族・介護者支援を組み合わせていく方法です。

NICEガイドラインでも、軽度〜中等度認知症者の機能支援として、認知リハビリテーションまたは作業療法を考慮することが示されています。

ただし、これらの根拠は主に在宅・地域生活・軽度〜中等度認知症の文脈です。

病棟ADLへ応用する場合は、別の評価が必要になります。

せん妄。
急性疾患。
疼痛。
発熱。
血圧変動。
睡眠不足。
夜間環境。
転倒リスク。
薬剤の影響。
入院による不安や混乱。

病棟では、認知症そのものだけでなく、全身状態や環境変化がADLに大きく影響します。

在宅研究の知見を参考にしつつ、病棟では病棟なりのリスク評価を行う必要があります。

スポンサーリンク

10. なぜ「同じ環境・同じ手順」が役立つのか

認知症者のADL練習では、同じ環境、同じ手順、同じ声かけが役立つことがあります。

理由は大きく3つあります。

1つ目:記憶負荷を減らせる

毎回違う場所、違う物品、違う声かけになると、その都度考えることが増えます。

認知症者にとって、この「その場で判断する」「前回と違う条件に合わせる」という負荷は大きくなりがちです。

トイレ動作であれば、車椅子の角度、ブレーキの目印、手すりの持ち方、声かけを固定することで、覚える量を減らせます。

「覚えてください」ではなく、「見れば分かる」「同じ流れでできる」形に近づけます。

2つ目:環境が手がかりになる

認知症者のADLでは、環境そのものが行動のきっかけになります。

歯ブラシとコップがいつもの位置にあるから、口腔ケアを始めやすい。
衣服が着る順番に並んでいるから、更衣が進みやすい。
赤い印があるから、ブレーキに注意が向きやすい。
ナースコールが右手側にあるから、押しやすい。

このように、物の位置、目印、動線、手すり、照明などが、行動を引き出す手がかりになります。

3つ目:誤った手順の反復を防ぎやすい

間違った手順を何度も繰り返すと、その手順が習慣化してしまうことがあります。

たとえば、ブレーキをかけずに立つ。
フットレストを上げずに足を引く。
ズボンを十分に下ろさず便座へ座る。
麻痺側袖を後回しにして服が絡まる。

こうした誤った手順が繰り返されると、修正が難しくなる場合があります。

危険な工程では、試行錯誤よりも、最初から安全に成功しやすい流れを作る方がよいことがあります。

11. 改善しやすい条件・しにくい条件

認知症者のADL練習は、誰にでも同じように効果が出るわけではありません。

改善・維持を狙いやすい条件と、難しい条件を分けて考えると、臨床判断がしやすくなります。

改善・維持を狙いやすい条件臨床で見るポイント
軽度〜中等度認知症1ステップ指示が入る、簡単な手順を追える
せん妄がない日内変動や急な混乱が少ない
疼痛・呼吸苦・疲労が強すぎないADL中に体調で崩れにくい
本人に意味のあるADLトイレ、整容、更衣など本人が必要性を感じやすい
環境を固定できる物品、手すり、椅子、動線を変えにくい
手順を短くできる1〜3工程から開始できる
スタッフが同じ方法で関われる声かけや介助方法が統一される
家族・介護者が協力できる退院後の継続につながりやすい

一方、次のような場合は、ADL練習だけで改善を狙うのは難しくなります。

改善しにくい条件対応の方向性
重度認知症目標を小さくし、環境調整と介助方法の安定を優先
強いせん妄ADL練習よりせん妄対応・全身状態安定を優先
強い拒否・不安・興奮関係性、タイミング、刺激量を調整
疼痛・呼吸苦・発熱が主因医学的対応、負荷量調整を優先
環境や声かけが毎回変わる病棟スタッフ間の共有を優先
本人に意味がない課題目標ADLを選び直す
夜間にのみ問題が出る日中ADLとは別課題として評価する

「認知症でも練習すれば必ずADLが上がる」という考え方は危険です。

その人の認知機能、身体機能、全身状態、環境、支援体制、本人にとっての意味を合わせて判断します。

スポンサーリンク

12. ADL別に狙いやすい課題と難しい課題

認知症者のADL練習では、課題選びがかなり大事です。

全工程が複雑で判断が多い課題よりも、手順が短く、環境を固定しやすく、毎日繰り返す課題の方が狙いやすいことがあります。

改善・維持を狙いやすい課題

課題狙いやすい理由
整容洗面台、鏡、道具の位置を固定しやすい
口腔ケア毎日同じ時間・同じ道具で反復しやすい
更衣の一部工程袖通し、前合わせ、ズボン上げなどに絞れる
トイレ前後の決まった手順コール、ブレーキ、手すりなどを固定しやすい
車椅子ブレーキ確認目印や声かけを統一しやすい
食具操作食具、皿の位置、姿勢を調整しやすい
義歯管理置き場所や手順を固定しやすい
靴を履く椅子、靴べら、靴の位置を固定しやすい
ナースコール使用位置を固定し、押す場面を限定しやすい
手すり使用動線と持つ場所を固定しやすい

難易度が高い課題

課題難しくなる理由
入浴全工程判断、移動、脱衣、洗体、温度、転倒リスクが多い
調理火、刃物、段取り、注意配分が必要
服薬管理記憶、日付、薬の種類、飲み忘れ確認が必要
金銭管理計算、判断、詐欺リスク、記憶が関係
火の管理安全リスクが高い
外出・交通機関利用判断、見当識、危険予測が必要
夜間トイレ眠気、照明、尿意切迫、血圧変動、せん妄が関係
状況判断を伴う移乗環境変化に応じた判断が必要

特に夜間トイレは、日中トイレとは別課題として見た方がよいです。

日中はできていても、夜間は眠気、暗さ、尿意切迫、血圧変動、せん妄、焦りが加わります。

「日中トイレができるから夜間も大丈夫」とは判断しません。

夜間は、別に評価し、必要なら別の安全条件を設定します。

13. 認知症者のADL練習 7原則

認知症者のADL練習では、次の7つを押さえると組み立てやすくなります。

1. 環境を固定する

場所、物の位置、椅子、手すり、ナースコール、車椅子の角度をできるだけ固定します。

毎回違う環境では、本人がその都度判断しなければならず、認知負荷が増えます。

2. 手順を固定する

毎回同じ順番で行います。

たとえば、トイレなら、

止まる。
赤い印を見る。
ブレーキを下げる。
手すりを持つ。
立つ。

このように、短い手順にします。

3. 声かけを統一する

スタッフごとに言い方が変わると、混乱しやすくなります。

「ブレーキして」
「ロックして」
「止めて」
「赤いところ見て」

これらが混在すると、本人にとっては別の指示に聞こえることがあります。

声かけはできるだけ短く、同じ言葉にします。

4. 一度に一つだけ指示する

長い説明は避けます。

「ブレーキをかけて、足台を上げて、手すりを持って、立ちましょう」

と一度に言うと、途中で抜けやすくなります。

「赤を確認しましょう」
「次は足台です」
「手すりを持ちましょう」

のように、1ステップずつ進めます。

5. 危険な失敗・誤った反復を防ぐ

転倒や誤った手順の反復につながる場面では、早めに介入します。

特に、ブレーキ忘れ、フットレスト巻き込み、下衣操作中のふらつき、便座への着座ミス、夜間の独歩は注意が必要です。

ただし、すべてを先回りしすぎると、本人ができる部分まで奪ってしまいます。

危険な失敗は防ぎつつ、本人ができる工程は残します。

6. できたら支援を減らす

最初は口頭指示が必要でも、できてきたら支援を減らします。

口頭指示。
指差し。
見守りながら待つ。
自発的に確認する。

このように段階を作ります。

7. 病棟スタッフ・家族と共有する

リハビリ中だけできても、ADLは広がりません。

病棟スタッフや家族が、同じ環境、同じ手順、同じ声かけで関われるように共有します。

「この人は認知症なので見守りです」ではなく、

「トイレ前は車椅子を便座に対して30度で止めます。赤い印を見てからブレーキ確認をします。声かけは“赤を確認しましょう”で統一します」

のように、具体的に伝えます。

スポンサーリンク

14. トイレ動作への実装例

ここからは、病棟でよくあるトイレ動作を例に考えます。

悪い介入:記憶に頼らせる声かけ

「昨日も言いましたよね」
「ブレーキをかけてください」
「何回言ったら分かりますか」

このような声かけは、記憶障害がある方に対して、記憶で勝負している形になります。

もちろん、安全のために直接指示が必要な場面はあります。

ただ、毎回同じ注意を繰り返しているのに変わらない場合、介入の組み立てを変える必要があります。

良い介入:環境と手順で成功しやすくする

たとえば、目標を「病棟トイレで、車椅子ブレーキを自発確認する」とします。

まず、環境を固定します。

車椅子を便座に対して30度程度で止める。
ナースコールは右手側に置く。
ブレーキに赤い目印をつける。
手すりの位置を確認する。

次に、手順を固定します。

止まる。
赤い印を見る。
ブレーキを下げる。
手すりを持つ。
立つ。

声かけも統一します。

「赤を確認しましょう」
「次は何を見ますか」

最初は手を添えて確認します。
次に、赤い印を指差すだけにします。
その後、5秒待って本人が自分で確認するか見ます。
できたら、看護師・介護士にも同じ方法で共有します。

このように、記憶に頼らせず、環境と手順で成功しやすくします。

15. 更衣動作への実装例

更衣も、認知症者のADL練習でよく扱う課題です。

ただし、「更衣を自立させる」と大きく設定すると難しくなります。

まずは工程を絞ります。

たとえば、

上衣の向きを確認する。
麻痺側袖に手を通す。
最後に前を整える。

この3工程だけを目標にします。

環境としては、衣服を着る向きに置きます。
麻痺側袖に目印をつけます。
鏡を使える位置にします。
椅子の高さや足底接地を整えます。

声かけは、

「印のある袖から通しましょう」
「鏡で左右を見ましょう」

のように短くします。

本人ができてきたら、

口頭指示から指差しへ。
指差しから待つへ。
待って自発的に袖を見るへ。

と支援を減らします。

更衣は、入浴後や疲労時に崩れやすいので、練習場面だけでなく、実際の入浴後更衣でも確認します。

スポンサーリンク

16. 整容・口腔ケアへの実装例

整容や口腔ケアは、認知症者のADL練習として比較的狙いやすい課題です。

毎日行う。
道具が決まっている。
環境を固定しやすい。
手順を短くできる。

こうした特徴があるからです。

たとえば口腔ケアでは、

歯ブラシ、コップ、義歯ケースを同じ場所に置く。
使う順番に並べる。
洗面台の前に座る位置を決める。
「歯ブラシを持ちましょう」など1ステップずつ声をかける。
終わったら義歯ケースの位置を確認する。

このようにします。

「歯磨きしてください」と大きく指示するより、環境を見れば始められる形に近づけます。

17. ナースコール使用への実装例

ナースコール使用は、病棟ADLでは非常に大切です。

特に認知症がある方では、「ナースコールを押すことは分かる」けれど、実際の尿意や不安がある場面では押せないことがあります。

この場合も、記憶だけに頼らせません。

コールは毎回同じ位置に置きます。
利き手側、見える位置、届く位置にします。
必要であれば、コールに目印をつけます。
「トイレに行きたい時は、まずこれを押す」という手順を短くします。
コールを押したら、できるだけ早く反応できる病棟体制も確認します。

もしコールを押してもなかなか来てもらえない経験が続くと、本人にとっては「押しても意味がない」と学習される可能性があります。

本人の行動だけでなく、行動後に何が起きているかも見ます。

スポンサーリンク

18. 夜間トイレは日中トイレと別課題として見る

夜間トイレは、日中のトイレ動作とは別課題として考えます。

日中は見守りでできていても、夜間は条件が大きく変わります。

眠気がある。
照明が暗い。
尿意が切迫している。
起立性低血圧が起こる。
せん妄が出やすい。
スタッフがすぐ近くにいない。
本人が焦っている。

このような条件が重なるため、日中トイレができるから夜間も自立、と判断するのは危険です。

夜間は、別に評価します。

夜間はコール対応にする。
ポータブルトイレを検討する。
センサーを使う。
照明を調整する。
定時誘導を検討する。
薬剤や睡眠状態を確認する。
血圧低下や転倒歴を確認する。

認知症者のADLでは、同じ「トイレ」でも、時間帯が変われば別課題になります。

19. 中止・再評価が必要な場面

認知症者のADL練習では、続けることよりも一度立ち止まる判断が必要な場面があります。

状態対応
せん妄が疑われるADL練習より原因評価と環境調整を優先
血圧低下、めまい、冷汗中止し、バイタル確認・報告
疼痛が増悪している動作方法や負荷量、医学的対応を確認
呼吸苦・SpO2低下休憩、呼吸状態確認、必要時報告
強い不安・拒否・興奮無理に続けず、時間帯・声かけ・関係性を見直す
手順が連続して崩れる目標工程をさらに小さくする
転倒リスクが高い自発性より安全確保を優先
夜間のみ崩れる日中練習とは別に夜間条件で評価する

認知症者のADL練習は、繰り返せばよいというものではありません。

体調や環境が悪いまま練習すると、失敗体験や拒否につながることがあります。

スポンサーリンク

20. 臨床でよくあるQ&A

Q1. MMSEが何点くらいならADL再学習を狙えますか?

MMSEだけでは判断しません。

REDALI-DEM試験ではMMSE14〜24点の軽度〜中等度認知症者が対象でした。これは参考になります。

ただし、臨床では点数よりも、1ステップ指示が入るか、見本をまねできるか、目印や声かけで行動が変わるかを見ます。

「説明を覚えられるか」ではなく、「環境や手がかりに反応して特定のADL工程を再現できるか」を評価します。

Q2. 重度認知症ではADL練習は意味がありませんか?

意味がないわけではありません。

ただし、目標は「自立」よりも、安心して参加できる、拒否を減らす、介助が受けやすくなる、危険な失敗を減らす、なじみの動作を一部残す、という方向になりやすいです。

更衣全体は難しくても、袖に手を通す。
口腔ケア全体は難しくても、歯ブラシを持つ。
食事全体は介助でも、スプーンを一部口元へ運ぶ。

このように、参加できる工程を探します。

Q3. 「昨日も言いましたよね」はなぜ避けた方がよいですか?

記憶障害がある方に、記憶で勝負させてしまうからです。

本人にとっては責められているように感じることもあります。

説明を覚えてもらうより、見れば分かる環境や同じ手順を作る方が現実的です。

Q4. エラーレス学習では、本人に考えさせない方がよいのですか?

そうではありません。

危険な失敗や誤った手順の反復は防ぎますが、本人ができる工程や選べる部分は残します。

全部を先回りすると、本人の主体性を奪うことがあります。

たとえば、ブレーキ確認は目印で促しつつ、どの服を着るかは本人に選んでもらう。
袖通しは手順を固定しつつ、最後に鏡で自分で確認してもらう。

このように、危険なところは支援し、本人が関われるところは残します。

Q5. 手続き記憶を使うとは、具体的にどういうことですか?

説明を覚えてもらうのではなく、毎回同じ環境・同じ道具・同じ手順で、身体が動きやすい流れを作ることです。

歯磨き、靴を履く、更衣の一部、手すりを持って立つなど、なじみのある動作で使いやすいです。

「手順を思い出す」よりも、「道具を見ると始められる」「いつもの流れなら手が動く」状態を目指します。

Q6. なぜ本人に意味のあるADLでないと難しいのですか?

本人にとって意味がない課題は、行動のきっかけや成功体験になりにくいからです。

たとえば、

「トイレだけは失敗したくない」
「家に帰って自分で顔を洗いたい」
「家族の前で食事を自分で食べたい」
「いつもの服を自分で着たい」

このように、本人の生活とつながる課題の方が練習しやすくなります。

Q7. 夜間トイレも日中の練習で改善しますか?

一部はつながる可能性がありますが、同じ課題とは考えない方が安全です。

夜間は眠気、暗さ、尿意切迫、血圧変動、せん妄、焦りが加わります。

日中トイレとは別に評価し、安全条件を設定します。

Q8. 病棟スタッフに何を共有すればよいですか?

「認知症なので見守り」だけでは不十分です。

どこに車椅子を止めるか。
何を見るか。
声かけを何に統一するか。
どこで介助するか。
夜間は別対応か。

ここまで具体的に共有します。

Q9. できる日とできない日がある場合はどう考えますか?

認知症では、疲労、睡眠、疼痛、便秘、感染、せん妄、環境刺激でADLが大きく変わります。

「昨日できたから今日もできる」と判断せず、できない日の条件を評価します。

できない日には、睡眠、痛み、発熱、便秘、薬剤、血圧、環境変化、夜間不眠などを確認します。

Q10. このアプローチで認知機能は改善しますか?

主目的は認知機能そのものを改善することではありません。

目的は、本人に意味のある生活動作を安全に再現しやすくすることです。

結果として活動量や参加が増えることはありますが、認知機能検査の改善を主目標にしない方がよいです。

Q11. 手順表を貼っても見てくれません。どうすればよいですか?

手順表は、貼るだけでは使われません。

見る場所にあるか。
見るタイミングが決まっているか。
文字や写真が分かりやすいか。
項目が多すぎないか。
スタッフが同じ使い方を促しているか。
見た後に成功体験につながっているか。

ここを確認します。

「手順表を見る」という行動自体をADLの一部として練習します。

Q12. 家族が「何度言っても覚えない」と困っています。どう説明しますか?

家族には、覚えてもらうより、見たら分かる環境や同じ流れを作る方がよいことを説明します。

たとえば、

「毎回注意するより、歯ブラシを同じ場所に置く」
「服を着る順番に並べる」
「トイレの前にコールを見える位置に置く」
「短い同じ言葉で声をかける」

この方が、本人も家族も疲れにくくなります。

21. 患者さん・家族への説明ポイント

患者さんや家族には、専門用語より生活場面の言葉で説明します。

たとえば家族に、

「何度言っても覚えてくれません」

と言われることがあります。

その時は、

「認知症があると、説明を聞いて覚えておくことが難しい場合があります。なので、覚えてもらうより、見たらできる、同じ流れならできる、という形を作っていきます」

と説明すると伝わりやすいです。

また、

「練習して意味がありますか」

と聞かれた場合には、

「認知機能そのものを良くする練習ではありません。ご本人に必要な生活動作を、同じ環境や同じ手順で再現しやすくする練習です」

と伝えます。

家族への説明例

家族の疑問説明例
何度言っても覚えません覚えることに頼るより、見たら分かる環境や同じ手順を作ります。
練習しても意味がありますか特定の生活動作は、環境と手順を整えることで再現しやすくなることがあります。
昨日はできたのに今日はできません疲労、睡眠、痛み、環境、せん妄などで日によって変わります。
夜だけ危ないのはなぜですか夜間は眠気、暗さ、尿意切迫、血圧変動が加わるため、日中とは別に考えます。
どこまで自分でさせるべきですかできる工程は残し、危険な工程は環境調整や介助で補います。
認知機能は良くなりますか主目的は認知機能改善ではなく、生活動作を再現しやすくすることです。

スポンサーリンク

22. 臨床記録の例

トイレ動作の記録例

病棟トイレ動作練習を実施。認知症に伴う手順抜けあり、立位前のブレーキ確認が自発的には困難。車椅子を便座に対して約30度で固定し、右ブレーキに赤色テープを貼付。「赤を確認しましょう」の声かけで右ブレーキ確認可能。左ブレーキは指差しにて確認可能。下衣操作中は支持物から手が離れる場面あり、軽介助にて安全確保。今後は声かけを「赤を確認」へ統一し、病棟スタッフと同一手順で実施。夜間トイレは眠気・照明・尿意切迫が加わるため別評価とする。

更衣動作の記録例

上衣更衣にて、衣服の向きと麻痺側袖通しで手順混乱あり。衣服を着る向きに配置し、麻痺側袖に目印を付けたところ、口頭指示1回で袖通し可能。2回目は目印への指差しのみで開始可能。袖のねじれは自発的に気づきにくく、鏡確認にて修正可能。今後は衣服配置、袖目印、鏡確認を固定し、入浴後更衣でも同様に再現できるか確認する。

口腔ケアの記録例

口腔ケア場面にて、歯ブラシ・コップ・義歯ケースの位置が変わると開始困難。洗面台右側に歯ブラシ、中央にコップ、左側に義歯ケースを固定し、使用順に配置。声かけは「歯ブラシを持ちましょう」から開始し、以降は1工程ずつ提示。環境固定後は開始までの迷いが減少。今後は病棟スタッフと物品配置を統一し、朝夕で再現性を確認する。

重度認知症の参加目標の記録例

更衣全体の自立は困難であり、声かけ理解も不安定。ただし、袖口を視野内に提示すると右上肢を通す動きがみられる。本人は更衣時の接触に不安を示しやすいため、開始前に衣服を見せ、同じ声かけで説明してから介助を実施。目標は更衣自立ではなく、不安を軽減しながら袖通しの一部工程へ参加することとする。今後も同一手順で実施し、拒否の有無と参加状況を確認する。

23. 明日から使える実践手順

1. 目標ADLを1つ決める

例:病棟トイレで、車椅子ブレーキを自発確認する。

2. 認知機能の適応を確認する

1ステップ指示が入るか。
見本をまねできるか。
目印や指差しで行動が変わるか。
短時間でも注意が向くか。
強いせん妄や拒否がないか。

3. 固定する環境を決める

車椅子位置は便座に対して約30度。
ナースコールは右手側。
ブレーキに赤い目印。
手すり位置を確認。

4. 固定する手順を決める

止まる。
赤い印を見る。
ブレーキを下げる。
手すりを持つ。
立つ。

5. 統一する声かけを決める

「赤を確認しましょう」
「次は何を見ますか」

6. 支援を減らす順番を決める

口頭指示。
指差し。
5秒待つ。
自発確認。

7. 中止・再評価条件を決める

夜間。
せん妄疑い。
血圧低下。
疼痛増悪。
焦りが強い。
手順が連続して崩れる。
転倒リスクが高い。

8. 病棟共有文を作る

病棟共有では、専門用語よりも具体的な行動で伝えます。

例:

トイレ前は車椅子を便座に対して約30度で固定。右ブレーキの赤印を確認してから立位へ。声かけは「赤を確認しましょう」で統一。左ブレーキは指差しにて確認。夜間は眠気・照明・尿意切迫が加わるため日中とは別評価とし、現時点では見守り継続。

24. 認知症者ADL練習チェックリスト

対象者の条件

・軽度〜中等度認知症が中心か
・せん妄が疑われないか
・疼痛、呼吸苦、疲労が強すぎないか
・1ステップ指示が入るか
・見本をまねできるか
・手がかりに反応できるか
・本人に意味のあるADLか
・病棟スタッフや家族が同じ方法で関われるか

課題設定

・目標ADLを1つに絞ったか
・全工程ではなく、狙う工程を決めたか
・危険な工程と本人ができる工程を分けたか
・夜間や疲労時は別課題として見たか
・重度例では自立ではなく参加・安心・介助の受けやすさを目標にしたか

環境設定

・物の位置を固定したか
・椅子や車椅子の位置を固定したか
・手すり、コール、目印を確認したか
・照明、騒音、人の動きなど環境刺激を見たか
・本人にとってなじみのある道具や手順を使ったか

手順と声かけ

・毎回同じ手順にしたか
・声かけを短くしたか
・一度に一つだけ指示したか
・スタッフ間で言葉を統一したか
・「昨日も言いましたよね」と記憶に頼らせていないか

支援量の調整

・最初は成功しやすい手がかりを出したか
・できてきたら手がかりを減らしたか
・口頭指示から指差し、待つ、自発へ進めたか
・危険な失敗は早めに防いだか
・本人ができる工程や選べる部分を残したか

病棟・自宅への共有

・病棟スタッフへ具体的に共有したか
・家族に生活場面の言葉で説明したか
・自宅の物品配置や動線を想定したか
・退院後に継続できる方法か
・夜間は別対応として共有したか

25. まとめ

認知症者のADL練習は、記憶に頼らせる介入ではありません。

「覚えてください」
「昨日も言いましたよね」
「何回も練習しましたよね」

こうした関わりだけでは、生活場面でうまくいかないことがあります。

軽度〜中等度認知症では、本人に意味のある特定ADLを選び、環境、手順、手がかりを整えて反復することで、遂行が改善・維持することがあります。

その背景には、説明を覚える記憶だけでなく、手続き記憶、なじみのある手順、環境手がかり、本人にとって意味のある活動を活かす視点があります。

ただし、認知症者なら誰でもADLが改善するわけではありません。

せん妄、疼痛、疲労、急性疾患、夜間環境、転倒リスク、本人にとっての意味、スタッフ間の共有状況によって、結果は変わります。

ADL再学習を狙う時は、MMSEだけで判断せず、1ステップ指示、模倣、手がかりへの反応、短時間の注意、身体機能、情動面、全身状態を合わせて見ます。

重度認知症では、自立を目標にしすぎず、安心して参加できる、介助を受けやすくする、危険な失敗を減らす、なじみの動作を一部残すという方向に目標を調整します。

大切なのは、認知機能を良くしようとすることではありません。

その人にとって必要な生活動作を、安全に、できるだけ再現しやすくすることです。

認知症者のADL練習では、

環境を固定する。
手順を固定する。
声かけを統一する。
一度に一つだけ伝える。
危険な失敗を防ぐ。
できたら支援を減らす。
病棟スタッフや家族と共有する。

この視点が使いやすいです。

「記憶で覚える」ではなく、環境と手順で動作を引き出す。

この考え方を持つと、認知症者のADL練習は、かなり具体的に組み立てられるようになります。

参考文献

  1. Voigt-Radloff S, de Werd MME, Leonhart R, Boelen DHE, Olde Rikkert MGM, Fliessbach K, Klöppel S, Heimbach B, Fellgiebel A, Dodel R, Eschweiler GW, Hausner L, Kessels RPC, Hüll M. Structured relearning of activities of daily living in dementia: the randomized controlled REDALI-DEM trial on errorless learning. Alzheimer’s Research & Therapy. 2017;9:22. doi:10.1186/s13195-017-0247-9.
  2. de Werd MME, Boelen D, Olde Rikkert MGM, Kessels RPC. Errorless learning of everyday tasks in people with dementia. Clinical Interventions in Aging. 2013;8:1177-1190. doi:10.2147/CIA.S46809.
  3. Harrison BE, Son GR, Kim J, Whall AL. Preserved implicit memory in dementia: a potential model for care. American Journal of Alzheimer’s Disease and Other Dementias. 2007;22(4):286-293. doi:10.1177/1533317507303761.
  4. Bennett S, Laver K, Voigt-Radloff S, Letts L, Clemson L, Graff M, Wiseman J, Gitlin L. Occupational therapy for people with dementia and their family carers provided at home: a systematic review and meta-analysis. BMJ Open. 2019;9(11):e026308. doi:10.1136/bmjopen-2018-026308.
  5. Clare L, Kudlicka A, Oyebode JR, Jones RW, Bayer A, Leroi I, Kopelman M, James IA, Culverwell A, Pool J, Brand A, Henderson C, Hoare Z, Knapp M, Morgan-Trimmer S, Burns A, Corbett A, Whitaker R, Woods B. Goal-oriented cognitive rehabilitation for early-stage Alzheimer’s and related dementias: the GREAT RCT. Health Technology Assessment. 2019;23(10):1-242. doi:10.3310/hta23100.
  6. Kudlicka A, Martyr A, Bahar-Fuchs A, Sabates J, Woods B, Clare L. Cognitive rehabilitation for people with mild to moderate dementia. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2023;6(6):CD013388. doi:10.1002/14651858.CD013388.pub2.
  7. National Institute for Health and Care Excellence. Dementia: assessment, management and support for people living with dementia and their carers. NICE guideline NG97. London: NICE; 2018. Updated 2025.
  8. Smallfield S, Metzger L, Green M, et al. Occupational Therapy Practice Guidelines for Adults Living With Alzheimer’s Disease and Related Neurocognitive Disorders. American Journal of Occupational Therapy. 2024;78(1):7801397010. doi:10.5014/ajot.2024.078101.
  9. Kamali A, Flanders AE, Brody J, Hunter JV, Hasan KM. An update to the original Papez circuit of the human limbic system. Brain Topography. 2023;36:371-389. doi:10.1007/s10548-023-00955-y.
  10. Rolls ET. Limbic systems for emotion and for memory, but no single limbic system. Cortex. 2015;62:119-157. doi:10.1016/j.cortex.2013.12.005.

関連記事

\ 最新情報をチェック /