目次
「ねえねえ」
「ちょっと来て」
「これ見て」
「どこ行くの?」
「今なにしてるの?」
認知症の親から、1日に何十回も呼ばれる。
最初は「不安なんだろうな」と思って、できるだけ丁寧に返事をしていた。
でも、料理中も、洗濯中も、トイレに行く時も、横になった瞬間も呼ばれる。
気づけば、こちらの心が限界に近づいている。
「また?」と思ってしまう。
「少しは黙っていて」と言いそうになる。
冷たく返事をしてしまい、あとで自己嫌悪になる。
そんな毎日を送っている方に、まず伝えたいことがあります。
親をうっとうしいと思ってしまうのは、あなたが冷たいからではありません。
それだけ、逃げ場のない介護を続けてきたということです。
認知症の方の、いわゆる「かまってちゃん」のような行動は、わがままだけで起きているわけではありません。脳の働きが低下し、不安や孤独感を自分で処理しにくくなった結果として、家族を何度も呼ぶ形で出ていることがあります。
ただし、だからといって、家族が毎回100%で応じ続ける必要はありません。
むしろ、全部に正面から向き合うほど、共倒れに近づきます。
この記事では、認知症の親に何度も呼ばれて疲れ切っている家族に向けて、きれいごとではない対処法をまとめます。
「優しく話を聞きましょう」だけでは、現実の介護は持ちません。
大事なのは、
最初の短い時間だけ安心させる。
その後は、作業や役割に切り替える。
必要な時は、物理的に距離を取る。
限界前に、デイサービスやショートステイを使う。
この流れです。
この記事では、検索されやすい言葉として「かまってちゃん」と表現しています。
ただ、本当は少し乱暴な言葉です。
認知症の方が何度も呼ぶのは、単に甘えているからではありません。
多くの場合、その背景には不安、孤独、混乱、役割の喪失があります。
認知症になると、記憶力だけでなく、状況を理解する力や、先の見通しを立てる力も落ちてきます。
今、自分がどこにいるのか。
家族はどこに行ったのか。
このあと何をすればいいのか。
一人でいて大丈夫なのか。
こうしたことが分かりにくくなると、本人の中では強い不安が起こります。
家族から見ると、ただ「ねえねえ」と呼んでいるだけに見えるかもしれません。
でも本人の中では、
「一人にされた」
「どうしていいか分からない」
「誰かに確認したい」
「そばにいてほしい」
という感覚に近い場合があります。
だから、何度も呼びます。
さっき返事をしても、また呼びます。
5分前に説明しても、また同じことを聞きます。
これは、家族を困らせようとしているというより、不安を自分で落ち着かせる力が弱くなっている状態です。
ただし、ここで大事なのは、家族が毎回その不安を全部引き受けなくてもよいということです。
本人の不安は本物です。
でも、家族の疲労も本物です。
どちらか一方だけを我慢させるのではなく、本人が安心しやすい仕組みと、家族が離れられる仕組みを作る必要があります。
認知症の方が何度も家族を呼ぶ背景には、「役割の喪失」が隠れていることもあります。
以前は、家事をしていた。
家族の世話をしていた。
仕事をしていた。
近所付き合いをしていた。
家の中で「自分の役目」があった。
それが、認知症や体力低下によって、少しずつできなくなっていく。
周りからは、
「危ないから座っていて」
「それはしなくていいよ」
「こっちでやるから触らないで」
と言われる。
もちろん、家族は安全のために言っています。
でも本人からすると、「自分は何もできない人」「邪魔な人」になったように感じることがあります。
その寂しさや落ち着かなさが、呼び出しとして出ることがあります。
「ねえねえ」
「ちょっと来て」
「これどうしたらいい?」
「私、何したらいい?」
こうした言葉の裏には、「自分にもまだ役割がほしい」という気持ちがあるかもしれません。
だから、ただ話を聞くだけでなく、簡単な作業や役割を渡すことが対処になります。
ここでは、在宅介護でよくあるケースをもとに、個人が特定されないように再構成した話として書きます。
ある家族は、認知症の母親から1日に何度も呼ばれていました。
「ねえ、ちょっと来て」
「これ見て」
「今、何時?」
「ご飯まだ?」
「どこ行くの?」
「私、ここにいていいの?」
最初は、そのたびに手を止めて、丁寧に返事をしていました。
「大丈夫だよ」
「ご飯はもう少し待ってね」
「ここにいていいよ」
「私は台所にいるよ」
でも、返事をしても5分後にはまた呼ばれます。
洗濯物を干している途中で呼ばれる。
鍋に火をかけた瞬間に呼ばれる。
トイレに入った直後に呼ばれる。
夜、少し座った瞬間に呼ばれる。
その家族は、最初は「認知症だから仕方ない」と思っていました。
でも、だんだん声を聞くだけで胸がざわつくようになりました。
「また呼ばれた」
「今だけはやめて」
「もう勘弁して」
ある日、料理中に何度も呼ばれ、ついに爆発してしまいました。
「何回呼ぶの!今忙しいって言ってるでしょ!」
母親は驚いて黙り、そのあと泣きそうな顔をしました。
家族はその顔を見て、強い罪悪感に襲われました。
「また怒ってしまった」
「認知症なのに、なんで優しくできないんだろう」
「自分は最低だ」
でも、本当は最低なのではありません。
毎回100%で応じるやり方が、そもそも続かない方法だったのです。
プロの介護士でも、24時間マンツーマンで感情を崩さず対応するのは無理です。
家族が一人でそれを背負えば、限界が来るのは自然です。
その家族が少し楽になったきっかけは、「全部に最後まで付き合うのをやめたこと」でした。
ただし、無視したわけではありません。
最初の短い時間だけ、しっかり向き合うようにしました。
母親が「ねえねえ」と呼んだら、まず近づきます。
「どうしたの?」
そう言って、手を軽く握り、15秒だけ目を合わせます。
「大丈夫だよ。私は台所にいるよ」
「ご飯を作ってくるから、ここで待っていてね」
ここまでは、ちゃんと向き合います。
でも、その後は引き止められても、全部には付き合いません。
「今からご飯を作るから、終わったらまた来るね」
そう言って、別室に移動します。
最初は、背中に向かってまた呼ばれます。
「ねえ、ちょっと」
「まだ行かないで」
それでも、戻りすぎないようにしました。
そして、もう一つ工夫しました。
母親に、簡単な作業をお願いしたのです。
「このタオル、畳んでもらえる?」
「このペーパーナプキン、半分に折ってくれる?」
「この豆のさや、ここに入れてくれる?」
「洗濯ばさみをこのかごに入れてくれる?」
最初は、「こんなことで変わるのかな」と思ったそうです。
でも、母親はタオルを1枚ずつ畳み始めました。
きれいにできる日もあれば、ぐちゃっとなる日もあります。
でも、それでよいのです。
目的は、完璧な家事ではありません。
本人が「自分にもやることがある」と感じること。
家族が5分でも10分でも離れられること。
お互いのイライラが爆発する前に、空気を変えること。
これが大きかったのです。
それから家族は、母親に呼ばれた時の流れを決めました。
最初の15秒だけ向き合う。
短い安心の言葉を伝える。
簡単な作業を渡す。
それでも呼ばれる時は、別室へ移動する。
限界の日は、デイサービスやショートステイを増やす相談をする。
この流れに変えてから、呼び出しがゼロになったわけではありません。
でも、家族のイライラはかなり減りました。
母親も、怒られる回数が減りました。
大事なのは、完璧に対応することではありません。
爆発する前に、距離を作ることです。
ここからは、明日から使える形でまとめます。
何度も呼ばれると、つい最初からイライラした返事になります。
「なに?」
「今忙しい」
「さっきも言ったでしょ」
これを言いたくなる気持ちは、本当によく分かります。
でも、最初から冷たく返すと、本人の不安が強くなり、さらに呼び出しが増えることがあります。
おすすめは、最初の15秒だけ集中して向き合う方法です。
呼ばれたら、まず近づきます。
可能なら、手を軽く握ります。
目線を合わせます。
そして、短く言います。
「どうしたの?」
「大丈夫だよ」
「ここにいるよ」
「今、ご飯を作っているよ」
「終わったらまた来るね」
長く説明しません。
15秒だけ、しっかり安心を渡します。
その後は、用事に戻ります。
ここで大事なのは、「ずっと相手をすること」ではありません。
最初に不安を少し下げてから、離れることです。
「だから、さっき言ったでしょ」
「何回呼ぶの」
「今忙しいってば」
「いい加減にして」
「どうしたの?」
「大丈夫。私は台所にいるよ」
「今からご飯を作るね」
「終わったらまた来るから、ここで待っていてね」
認知症の方が何度も呼ぶ時、ただ話を聞くだけでは落ち着かないことがあります。
そんな時は、簡単な作業をお願いしてみます。
ポイントは、「失敗しても危なくない」「短時間でできる」「本人になじみがある」作業です。
たとえば、
タオルを畳む。
ペーパーナプキンを折る。
豆のさやを剥く。
洗濯ばさみをかごに入れる。
靴下を左右でそろえる。
箸を並べる。
新聞を半分に折る。
チラシをまとめる。
封筒に紙を入れる。
ハンカチをたたむ。
造花を花瓶に入れる。
乾いた食器を布で拭く。
このような作業です。
声かけは、お願いの形にします。
「これ、手伝ってもらえる?」
「お母さんにお願いしたいんだけど」
「このタオルだけ畳んでくれる?」
「助かるわ。これお願いね」
ここで注意したいのは、出来栄えを細かく直さないことです。
タオルが少し曲がっていてもよいです。
靴下が完璧にそろっていなくてもよいです。
豆が少し残っていてもよいです。
目的は、家事の完成度ではありません。
本人が「役に立っている」と感じること。
不安から注意をそらすこと。
家族が少し離れる時間を作ること。
この3つです。
認知症の方が何度も呼ぶ時、言葉の説明より、短い触れ合いの方が落ち着くことがあります。
たとえば、
手を軽く握る。
肩にそっと触れる。
背中をゆっくりさする。
隣に座って目線を合わせる。
もちろん、触られるのが苦手な方もいます。
無理に触る必要はありません。
でも、触れられることが安心につながる方もいます。
具体的には、呼ばれた時にこうします。
「どうしたの?」
と言いながら、手を軽く握ります。
「大丈夫。ここにいるよ」
と短く伝えます。
その後、
「今から洗濯物を干してくるね。終わったら戻るね」
と伝えて、離れます。
触れ合いは長くなくてよいです。
15秒から30秒で十分です。
大切なのは、最初に「見捨てられた」という不安を少し下げることです。
何度も呼ばれる時、その場で毎回どう返事するか考えていると、家族の方が疲れます。
だから、あらかじめ言う言葉を決めておきます。
おすすめは、短く、同じ言葉です。
たとえば、
「今からご飯を作るね。終わったら来るね」
「洗濯物を干してくるね。ここで待っていてね」
「10分だけ休むね。あとで来るね」
「トイレに行ってくるね。戻ったら声をかけるね」
「今は手が離せないから、これをお願いね」
ポイントは、長く説明しないことです。
長く説明すると、本人も混乱しやすくなります。
こちらも言い訳している気持ちになり、離れにくくなります。
そして、言ったら離れます。
引き止められる声が聞こえても、危険がなければ戻りすぎないことが大切です。
もちろん、転倒しそう、火を触りそう、外へ出そう、強い不安でパニックになっている時は別です。安全確認は必要です。
でも、毎回戻っていると、「呼べば必ず来る」という流れが強くなり、家族が休めなくなります。
離れることは、冷たいことではありません。
介護を続けるための技術です。
ここが一番大事です。
家の中の工夫だけで何とかしようとすると、限界があります。
認知症の親が一日中呼ぶ。
家族が眠れない。
食事もゆっくり取れない。
仕事や家事ができない。
怒鳴ってしまう。
涙が出る。
一緒にいるのがつらい。
ここまで来ているなら、根性で乗り切る段階ではありません。
ケアマネジャーに連絡してください。
言い方は、遠慮しなくてよいです。
「呼び出しが多く、家族が限界です」
「怒鳴ってしまうことが増えています」
「このままだと在宅介護が続けられません」
「デイサービスを増やせないか相談したいです」
「ショートステイを定期的に使いたいです」
「介護者が休む時間を作りたいです」
このように、はっきり伝えます。
「まだ頑張れます」と言ってしまうと、支援は増えにくいです。
本当に限界なら、限界と伝えてください。
使える可能性があるサービスには、次のようなものがあります。
デイサービス。
ショートステイ。
訪問介護。
訪問看護。
認知症対応型デイサービス。
小規模多機能型居宅介護。
地域包括支援センターへの相談。
認知症の電話相談。
特にショートステイは、家族がまとまった時間を休むために大きな助けになります。
「親を預けるなんてかわいそう」と感じる方もいるかもしれません。
でも、家族が限界を超えて怒鳴ったり、倒れたり、介護が続かなくなったりする方が、本人にとってもつらい結果になります。
物理的な距離を取ることは、見捨てることではありません。
共倒れを防ぐための対処です。
認知症の親を介護していると、きれいごとでは済まない感情が出てきます。
うっとうしい。
少し黙っていてほしい。
また呼ばれたと思うだけで疲れる。
優しくしたいのに、冷たく返してしまう。
親なのに、離れたいと思ってしまう。
こう思ったあとに、自己嫌悪になる方は多いです。
でも、そう思うのは、あなたが冷たいからではありません。
あなたがこれまで限界まで向き合ってきた証拠です。
介護は、1回の優しさで終わるものではありません。
今日も、明日も、来週も、来月も続きます。
24時間気を張り続ける生活で、常に穏やかでいる方が無理です。
プロの介護士でも、勤務時間があります。
休憩があります。
交代があります。
チームがあります。
家族介護には、それがないことが多いです。
だから、家族がイライラするのは自然です。
怒ってしまうことがあるのも自然です。
距離を取りたいと思うのも自然です。
大事なのは、自分を責め続けることではありません。
怒鳴る前に離れる仕組みを作る。
呼ばれ続ける前提で、対応の型を決める。
親に作業や役割を渡す。
デイサービスやショートステイを使う。
ケアマネジャーに限界を伝える。
このように、感情だけで乗り切らない仕組みを作ることです。
「私は冷たい」と責めるより、
「今のやり方では、私も親も苦しい」と考えてください。
介護を続けるためには、優しさだけでは足りません。
距離を取る勇気も必要です。
認知症の親が何度も「ねえねえ」「ちょっと来て」と呼ぶ時、家族は本当に疲れます。
その行動は、単なるわがままではなく、脳の機能低下による不安、孤独感、役割の喪失が関係していることがあります。
ただし、だからといって、家族が毎回すべてに応じる必要はありません。
大切なのは、次の流れです。
最初の15秒だけ、目線を合わせて安心させる。
長い説明ではなく、短い言葉で伝える。
タオル畳みやペーパーナプキン折りなど、簡単な作業を渡す。
あらかじめ決めた言葉で離れる。
限界前に、デイサービスやショートステイを使う。
ケアマネジャーに「家族が限界です」と伝える。
認知症の介護は、家族の根性だけで支えるものではありません。
親を大切に思うからこそ、距離が必要な時があります。
介護を続けたいからこそ、外部サービスが必要な時があります。
怒鳴ってしまう前に離れることは、冷たいことではありません。
あなたが倒れないことも、立派な介護です。
今日からできることは、1つで十分です。
次に「ねえねえ」と呼ばれたら、まず15秒だけ向き合う。
そして、短く伝える。
「大丈夫。私はここにいるよ。今からご飯を作るから、これをお願いね」
そのあと、少し離れる。
それでいいです。
完璧な介護を目指さなくて大丈夫です。
続けられる介護に変えていきましょう。