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上衣更衣がうまくいかない理由を評価する|片麻痺・失行・半側空間無視をADLで見るポイント

上衣更衣は、「腕が上がるか」「手が使えるか」だけで決まるADLではありません。

臨床では、袖口を見つけられない、麻痺側の腕を入れる順番が崩れる、後ろ身頃が背中に残る、ボタンを掛け違える、途中で手順が止まる、仕上がりの乱れに気づかない、といった場面によく出会います。

この時に、すべてを「上肢機能の問題」と考えると介入がずれます。反対に、すべてを「高次脳機能障害」と決めつけても、肩痛、座位バランス、体幹機能、感覚障害、衣服の選び方、環境設定を見落とします。

上衣更衣は、身体機能と認知機能、衣服の条件、環境、介助者の関わり方が重なって成立する動作です。

この記事では、上衣更衣を新人療法士が臨床で評価しやすいように、工程分析、よくあるエラー、所見別の解釈、介入の考え方、病棟スタッフや家族への共有方法まで整理します。

目次

この記事で分かること

この記事では、次の内容を整理します。

  • 上衣更衣を「上肢機能だけ」で見てはいけない理由
  • 上衣更衣と下衣更衣の違い
  • 袖通し、後ろ身頃、ボタン操作で起こりやすいエラー
  • 片麻痺、失行、半側空間無視、注意障害をどう見分けるか
  • 肩痛や亜脱臼に配慮した更衣介助
  • 所見別の介入方法
  • 病棟スタッフや家族に伝えるべきポイント
  • 新人療法士が明日から使える評価チェックリスト
  • 記録例と説明文例

上衣更衣は「上肢機能だけ」では説明できない

上衣更衣では、肩関節の可動域、肘の屈伸、前腕・手関節・手指の操作、リーチ、把持、両手動作が必要になります。

片麻痺では、麻痺側上肢をどの順番で袖に通すか、非麻痺側上肢でどこまで補えるか、麻痺側上肢を衣服の中で安全に扱えるかが大きなポイントになります。

ただし、上肢機能だけを見ても、更衣の失敗は説明しきれません。

例えば、肩や手指の動きがある程度保たれていても、服の前後が分からない、袖と腕の向きを合わせられない、左側の袖に気づかない、ボタンの上下関係を間違える、背中側の衣服が残っていても気づかないことがあります。

この場合、視空間認知、身体図式、注意、遂行機能、失行、半側空間無視、感覚障害、自己モニタリングの問題を考える必要があります。

上衣更衣の評価では、「腕がどこまで動くか」だけでなく、「身体と衣服の位置関係をどう理解し、どう修正しているか」を観察します。


上衣更衣に関わる主な要素

見る視点臨床で確認すること見落とすと起こること
肩・肘・手指機能可動域、筋力、痙縮、巧緻性、リーチ、把持袖通しやボタン操作をすべて筋力低下と判断してしまう
肩痛・亜脱臼疼痛、肩の支持、介助時の牽引、可動域制限介助で肩痛を悪化させる
座位・体幹骨盤の安定、体幹回旋、前後左右の重心移動後ろ身頃や裾を整えられない理由を上肢だけに求める
感覚袖に腕が入っている感覚、衣服の引っかかりへの気づき服がねじれても気づかない
視空間認知袖、襟、前後、左右、表裏の把握袖やボタン穴を見つけられない
身体図式自分の腕・肩・背中と衣服の位置関係腕と袖の方向を合わせられない
注意見落とし、注意の持続、二重課題途中で止まる、片側だけ整え忘れる
遂行機能手順、計画、誤り修正、確認行動順番が崩れる、掛け違いを修正できない
失行道具・衣服の扱い、運動系列、模倣、口頭指示への反応動きはあるのに目的に合った更衣動作にならない
環境衣服の置き方、椅子、鏡、照明、声かけリハ室ではできるが病棟で再現できない

上衣更衣と下衣更衣は、難しさの質が違う

更衣動作はまとめて「更衣」と記録されることがありますが、上衣と下衣では求められる能力が違います。

上衣更衣では、袖、襟、前後、左右、表裏、後ろ身頃、ボタン、ファスナーなど、衣服の形と身体部位を合わせる作業が多くなります。特に、背中側や肩の後ろは視覚で確認しにくいため、触覚や身体図式に頼る場面が増えます。

一方、下衣更衣では、足元へのリーチ、座位バランス、立位保持、ズボンの引き上げ、トイレ場面での時間的余裕、転倒リスクが問題になりやすくなります。

そのため、上衣更衣では、上肢機能、肩痛、高次脳機能、衣服の向き、後ろ身頃の処理を丁寧に評価します。下衣更衣では、立位バランス、足元操作、トイレ場面での安全性、手すりや環境調整をより重視します。

同じ「更衣FIM」でも、上衣と下衣を分けて観察すると、介入の優先順位が見えやすくなります。


上衣更衣を工程に分けて評価する

上衣更衣を評価する時は、最初から「自立」「一部介助」と決めず、工程に分けて観察します。

工程観察ポイントよくあるエラー
1. 衣服を準備する服を選ぶ、前後・表裏を確認する、置き方を整える服を選べない、表裏を間違える、袖口が見つからない
2. 最初の袖を通す袖口を見つける、腕と袖の向きを合わせる腕を違う方向へ入れる、袖の途中で止まる
3. 反対側の袖を通す衣服を保持する、体幹を回す、反対上肢を通す後ろ身頃が残る、衣服が背中でねじれる
4. 肩・背中・腹部を整える肩、背中、裾、脇を整える片側だけめくれる、背中側が残る
5. 前合わせをする左右の裾を合わせる、襟を整える服が斜めになる、ボタン位置がずれる
6. ボタン・ファスナー操作両手操作、視覚確認、手指巧緻性ボタンを掛け違える、穴を見つけられない
7. 仕上がりを確認する鏡、触覚、他者の反応を使って確認するずれに気づかない、直そうとしない

工程に分けることで、「何ができないか」ではなく、「どこで止まるか」「どの手がかりで変わるか」が分かります。

この視点がないと、「更衣一部介助」とだけ記録され、次の介入に結びつきません。


評価では「cueで変わるか」を見る

新人療法士が上衣更衣を評価する時に、特に大切なのはcue量の記録です。

cueとは、本人が動作を進めるための手がかりです。声かけ、視覚的な目印、ジェスチャー、触覚、環境設定、身体介助などが含まれます。

例えば、同じ「袖を通せない」でも、次のように意味が違います。

  • 袖口を広げておけば自分で通せる
  • 「右の袖を見てください」と言えば通せる
  • 見本を見せると通せる
  • 袖と腕の向きを軽く誘導すると通せる
  • 何度説明しても混乱し、身体介助が必要
  • 肩痛が強く、動作自体を中止した方がよい

この違いを記録できると、介入方針が変わります。

環境調整で改善するなら、衣服の置き方や目印を整えます。口頭cueで改善するなら、病棟スタッフの声かけを統一します。身体介助が必要なら、どこを支えるか、どこは本人に任せるかを明確にします。


袖を通せない時に見るポイント

袖通しが難しい時、最初に確認したいのは肩関節と上肢の状態です。

片麻痺では、肩関節亜脱臼、肩痛、可動域制限、痙縮、感覚障害があると、袖通しで疼痛や防御的な筋緊張が出やすくなります。介助者が麻痺側上肢を引っ張るように袖へ通すと、肩に機械的ストレスが加わります。

そのため、麻痺側上肢を扱う時は、手首や前腕だけを引っ張らず、上腕や肩甲帯を支えながら、衣服側を広げて通す意識が必要です。

一方で、肩や手指の問題だけでは説明できない場合もあります。

袖口を見つけられない、袖と腕の向きを合わせられない、左右の袖を選べない、表裏を間違える、衣服を目的に合って扱えない場合は、視覚探索、視空間認知、身体図式、失行、注意障害を考えます。

ここで大切なのは、すぐに「失行」と決めつけないことです。

失行は、筋力低下や感覚障害だけでは説明できない、目的的な動作の組み立ての障害として考えます。ただし、実際の更衣場面では、肩痛、視野障害、半側空間無視、注意障害、衣服の置き方が重なりやすいため、複数の仮説を持って観察します。


「麻痺側から通す」は基本だが、絶対ではない

片麻痺の上衣更衣では、一般的に「着る時は麻痺側から、脱ぐ時は非麻痺側から」という手順が使われます。

この手順は、動かしにくい麻痺側上肢を先に衣服へ入れておくことで、非麻痺側上肢を使って衣服を操作しやすくするためです。

ただし、これは万能ではありません。

肩痛が強い場合、痙縮が強い場合、袖が細い衣服の場合、失行や注意障害で手順固定が難しい場合、術後や整形外科的制限がある場合は、その人に合った方法へ調整します。

臨床では、手順そのものよりも、次の3点を確認します。

1つ目は、安全にできるか。
2つ目は、本人が再現できるか。
3つ目は、病棟や自宅でも同じ方法で行えるか。

「教科書的な手順」より、「その人の生活で再現できる手順」が優先されます。


後ろ身頃が残る時は、体幹と身体認知を合わせて見る

上衣更衣でよく見られるエラーに、背中側の衣服が残る、片側だけめくれる、襟や裾が斜めになる、というものがあります。

この場合、単に「腕が届かない」と見るだけでは不十分です。

後ろ身頃を整えるには、体幹回旋、肩甲帯の動き、非麻痺側上肢のリーチ、座位バランス、触覚情報、衣服が背中のどこにあるかを推測する力が必要です。

背中は目で見えにくいため、視覚だけに頼れません。触った感覚、衣服の引っかかり、肩や背中の違和感を手がかりに、身体と衣服の位置関係を更新する必要があります。

介入では、いきなり「背中を整えてください」と言うより、確認する場所を具体化します。

例えば、次のような声かけにします。

  • 「右肩の後ろを触ってみましょう」
  • 「背中の真ん中に服が残っていないか確認しましょう」
  • 「左の脇の下を触って、服が丸まっていないか見てみましょう」
  • 「鏡で肩の高さを見てみましょう」

「背中を直して」よりも、「右肩の後ろ」「左の脇」「襟」「裾」のように場所を絞った方が、本人が確認しやすくなります。


ボタン操作は手指だけでなく、視空間認知と確認行動を見る

ボタン操作が難しい時、手指巧緻性だけに注目しがちです。

もちろん、つまむ力、両手操作、感覚、手指の分離運動、力加減は重要です。しかし、ボタン操作にはそれ以外の要素も多く含まれます。

ボタンとボタンホールの位置関係を見つける。
左右の前身頃をそろえる。
上から何番目同士を合わせる。
掛け違えた時に気づく。
気づいたあとに修正する。

これらには、視空間認知、注意、遂行機能、自己モニタリングが関わります。

例えば、ボタンを掛け違える人に対して、手指練習だけを繰り返しても、実際の更衣が改善しないことがあります。前身頃をそろえる手順、上から順番に確認する方法、最後に鏡で見る習慣を一緒に練習した方が、生活動作としては実用的なことがあります。

ボタン操作の練習では、すべてのボタンを最初から行わせる必要はありません。

最初は大きめのボタンを使う、上から2つだけ練習する、色付きの目印を使う、ボタンを留める前に左右の裾をそろえる、掛け終わった後に鏡で確認するなど、難易度を調整します。

一方で、本人の生活目標によっては、ボタン付き衣服にこだわらない判断も必要です。面ファスナー、マグネットボタン、スナップボタン、かぶりシャツ、伸縮性のある衣服など、衣服選択そのものが介入になります。


失行が疑われる時の見方

失行があると、筋力や可動域だけでは説明できない更衣の崩れが出ることがあります。

例えば、袖の使い方が分からない、衣服を持っているのに動作に結びつかない、途中までできても次の手順に移れない、見本を見ればできるが口頭指示では難しい、道具や衣服の扱いが目的からずれる、といった場面です。

ただし、上衣更衣だけで失行を断定しない方がよいです。

まずは、口頭指示、模倣、実物使用、写真や工程表、ジェスチャー、身体誘導で反応がどう変わるかを見ます。さらに、整容、食事、更衣、トイレ動作など、複数のADLで同じようなエラーが出るかを確認します。

失行が疑われる場合の介入では、手順を短く区切り、開始位置を固定し、同じ声かけで繰り返します。

また、本人に「次に何をしますか」と確認しながら進める方法が合う人もいれば、言語化が負担になり、見本提示や身体誘導の方が合う人もいます。

失行への介入では、「失行を治す」というより、日常生活の中で目的動作を成功させるための代償手段を作る視点が現実的です。


半側空間無視がある時の見方

半側空間無視があると、衣服の片側、身体の片側、鏡の片側を見落とすことがあります。

上衣更衣では、左袖に気づかない、左側の裾だけ整え忘れる、左肩の衣服が落ちていても気づかない、ボタンを片側からずれて留める、といった形で現れることがあります。

ただし、半側空間無視への介入は、検査場面で改善してもADLにどこまで般化するかは個人差があります。視覚探索練習や目印、鏡、声かけは有用な場合がありますが、「これで必ず更衣が自立する」とは言えません。

臨床では、紙面検査だけでなく、実際の上衣更衣で次のように確認します。

  • 左右の袖をどちらも見つけられるか
  • 麻痺側、または無視側の肩・袖・裾を確認できるか
  • 目印があると探索が増えるか
  • 鏡を見ると修正できるか
  • 声かけがないと確認が抜けるか
  • 病棟でも同じ確認行動が出るか

半側空間無視がある人には、「左を見て」だけでは不十分なことがあります。

「左肩の服を触ってください」
「左の袖口を見つけましょう」
「鏡で左肩を確認しましょう」

このように、場所と行動を具体化した声かけの方が実践しやすくなります。


注意障害・遂行機能障害がある時の見方

上衣更衣では、注意の持続、選択、配分、切り替えが必要です。

途中で手順が止まる、服を持ったまま次に進めない、袖通しの途中で別の刺激に注意が移る、ボタンを途中でやめる、掛け違いに気づかない場合は、注意障害や遂行機能障害を考えます。

この場合、単に「もっと集中してください」と言っても改善しにくいです。

介入では、環境刺激を減らす、工程を短く区切る、1ステップずつ提示する、工程表を使う、開始と終了の確認を決める、疲労が少ない時間帯に練習するなどの工夫を行います。

特に病棟では、テレビ、会話、ナースコール、他患者の動き、時間の焦りなどが影響します。リハ室ではできるのに病棟でできない場合、能力低下ではなく環境負荷が高すぎる可能性があります。


「できるADL」と「しているADL」の差を見る

上衣更衣では、リハ室でできたから病棟でもできるとは限りません。

リハ室では、療法士が衣服を準備し、椅子を整え、適切なタイミングで声かけをしていることがあります。その条件ではできても、病棟で衣服がベッド上に丸まって置かれている、時間に追われている、介助者の声かけが毎回違う、疲労が強い時間帯に行う、という状況では失敗しやすくなります。

そのため、上衣更衣の評価では、少なくとも次の2つを分けて見ます。

1つ目は、能力としてできるか。
2つ目は、普段の生活場面でしているか。

リハビリの目標は、リハ室での成功ではなく、生活の中で再現できることです。


介入は「できない原因」を分けてから選ぶ

上衣更衣の介入は、原因を分けて考えます。

上肢機能が主な問題なら、衣服の素材、袖口の広さ、肩の保護、麻痺側上肢を安全に通す方法、課題特異的な上肢練習を検討します。

高次脳機能が主な問題なら、手順の固定、視覚的手がかり、モデル提示、1ステップ指示、確認行動の練習を行います。

座位・体幹が主な問題なら、椅子の高さ、骨盤支持、足底接地、体幹回旋、重心移動、背部や裾を整える時の姿勢を調整します。

環境が主な問題なら、衣服の置き方、鏡、照明、目印、介助者の声かけを整えます。

同じ「上衣更衣ができない」でも、原因が違えば介入も変わります。ここを分けずに、ただ反復練習だけを増やすと、努力量の割に生活場面へつながりにくくなります。


所見別の対応表

観察所見まず見ること介入の方向
袖口を探せない視覚探索、視野、注意、衣服の置き方袖口を広げる、色印、置き方固定、照明調整
袖と腕の向きが合わない身体図式、空間定位、失行、感覚衣服と身体の向きをそろえる、見本提示、触覚cue
麻痺側上肢を通せない肩痛、亜脱臼、可動域、筋緊張麻痺側から通す方法を検討、衣服を広げる、患側上肢を引っ張らない
後ろ身頃が残る体幹回旋、肩甲帯、触覚、身体図式鏡、触って確認、片側ずつ整える、椅子座位調整
ボタンを掛け違える手指巧緻性、視空間認知、注意、確認行動大きいボタン、目印、前合わせ確認、ボタン数を減らす
途中で手順が止まる注意、遂行機能、疲労、失語理解1ステップ指示、工程表、環境刺激を減らす、休憩
誤りに気づかない病識、自己モニタリング、半側空間無視鏡、写真、触覚確認、本人に違和感を尋ねる
病棟で再現できない環境、時間帯、介助者の声かけ置き方・声かけ・介助量を病棟で統一
肩痛が増える介助方法、可動域、亜脱臼、痙縮中止または課題変更、上肢支持、医師・チームへ相談

患者さん・家族に伝える説明ポイント

患者さんや家族には、専門用語を並べるよりも、生活場面に置き換えて説明します。

例えば、次のように伝えます。

「上着を着る時は、腕の力だけでなく、服の向きや袖の場所を見つける力も使っています。脳卒中の後は、腕が動きにくいだけでなく、服と体の位置関係が分かりにくくなることがあります」

「麻痺側の腕は、強く引っ張ると肩が痛くなることがあります。袖を通す時は、腕を引っ張るより、服の袖を広げて、肩と腕を支えながら通す方が安全です」

「服は毎回同じ向きで置いた方が分かりやすくなります。襟を上、前を本人の方に向ける、袖口を広げておく、というように準備をそろえると成功しやすくなります」

「ボタンが難しい場合は、練習で改善を目指す方法もありますが、生活では面ファスナーや大きめのボタンを使う方が楽なこともあります。何を優先したいかで選びましょう」

このように説明すると、家族は「全部手伝う」か「自分でやらせる」かの二択ではなく、成功しやすい条件を整える役割を理解しやすくなります。


病棟スタッフと共有するポイント

病棟スタッフには、評価名よりも、実際に何をどうすればよいかを短く共有します。

例えば、次のような形です。

「上衣更衣は、麻痺側袖から通すと成功しやすいです。ただし、右肩痛があるため、右上肢を引っ張らず、袖を広げて通してください」

「服は本人の正面に、襟が上、前身頃が本人側になるように置くと分かりやすいです」

「声かけは一度に多く言わず、『右の袖を広げます』『次に左手を通します』のように1つずつお願いします」

「後ろ身頃が残りやすいですが、鏡を見ると本人が気づけることがあります。最後に鏡で肩と背中を確認してください」

「ボタンは上2つで掛け違いがあります。退院まではボタン付き衣服にこだわらず、かぶりシャツや面ファスナーも検討します」

共有する時は、配置、順番、声かけ、介助量、肩の注意点、本人に任せる部分を明確にします。


中止・再評価が必要な場面

上衣更衣は生活に直結するADL練習ですが、無理に続けない方がよい場面もあります。

次のような場合は、練習方法を変更するか、中止して再評価します。

  • 肩痛が明らかに増える
  • 麻痺側上肢を引っ張らないと袖が通らない
  • 座位が崩れ、転倒リスクが高い
  • 強い疲労、息切れ、めまい、冷汗がある
  • 意識状態やせん妄が疑われる
  • 手順の混乱が強く、危険な動作が増える
  • 新たな神経症状が疑われる
  • 術後や整形外科疾患で禁忌肢位・可動域制限がある
  • バイタルサインが施設基準や医師指示から外れる

このような場合は、課題を簡単にする、衣服を変える、姿勢を変える、介助量を増やす、環境調整に切り替える、主治医やチームに相談するなど、方針を見直します。


臨床記録の例

記録例1:片麻痺・肩痛あり

自室椅子座位にて前開きシャツの上衣更衣を評価。右片麻痺あり。右肩痛NRS 3/10、右上肢を牽引しないよう袖口を広げ、上腕を支持して実施。右袖口の探索に時間を要するが、衣服を正面に置き、袖口を広げる環境調整で右上肢挿入は一部可能。後ろ身頃は右肩後方に残存しやすく、鏡提示により一部自己修正可能。ボタン操作は上2個で掛け違いあり。次回は右袖からの手順固定、肩痛に配慮した介助方法、鏡を用いた仕上がり確認を反復し、病棟スタッフへ衣服の置き方と右上肢を引っ張らない介助を共有する。

記録例2:高次脳機能障害が疑われる場合

上衣更衣評価。上肢可動域は更衣に必要な範囲で概ね保たれるが、衣服の前後確認、袖と上肢の方向合わせに混乱あり。口頭指示のみでは手順停止がみられ、見本提示と1工程ずつのcueで遂行改善。左袖の見落とし、左裾の整え忘れあり。鏡提示で一部気づきあり。失行、視空間認知障害、注意障害の影響を疑い、次回は衣服配置の固定、視覚的目印、1ステップ指示、仕上がり確認のルーチン化を行う。病棟では声かけを短く統一し、最終確認のみ介助者が促す。

記録例3:病棟ADLへつながらない場合

リハ室では前開きシャツ更衣が見守りで可能だが、病棟では後ろ身頃残存とボタン掛け違いにより介助を要している。病棟では衣服がベッド上に不定位置で置かれ、声かけも介助者により異なる。能力低下だけでなく環境・手順の不統一が影響している可能性あり。病棟スタッフへ、衣服は本人正面に襟を上にして置く、袖口を広げる、声かけは1工程ずつ、最後に鏡確認を行う方法を共有。次回、同条件で病棟場面評価を実施する。


よくある質問

上衣更衣ができない時、上肢機能だけを評価すればよいですか?

上肢機能は重要ですが、それだけでは足りません。座位、体幹、肩痛、感覚、視空間認知、身体図式、注意、遂行機能、失行、半側空間無視、衣服の置き方も見ます。

袖を通せない時は、失行と考えてよいですか?

すぐに失行と断定しない方がよいです。肩痛、可動域制限、筋緊張、感覚障害、視野障害、半側空間無視、注意障害、衣服の置き方でも同じようなエラーが起こります。

片麻痺では必ず麻痺側から袖を通しますか?

基本的には、着る時は麻痺側から通す方法が使われます。ただし、肩痛、亜脱臼、痙縮、衣服の種類、認知機能、術後制限によって調整します。大切なのは、本人が安全に再現できる方法を選ぶことです。

後ろ身頃が残る時は何を評価しますか?

体幹回旋、肩甲帯の動き、非麻痺側リーチ、触覚、身体図式、自己修正の有無を見ます。鏡や触覚確認で気づきが増えるかも確認します。

ボタン操作は毎回練習した方がよいですか?

本人の目標と生活環境によります。手指機能の改善を目指して練習する場合もありますが、退院後の生活を考えると、ボタン数を減らす、面ファスナーにする、かぶりシャツにするなど、衣服選択を変えた方が実用的な場合もあります。

病棟スタッフには何を共有すればよいですか?

評価名よりも、服の置き方、袖を通す順番、声かけ、肩を引っ張らない注意点、どこまで本人に任せるかを共有すると実践されやすくなります。


まとめ

上衣更衣は、上肢機能だけで判断するADLではありません。

袖通し、後ろ身頃、ボタン操作、手順の抜け、誤りへの気づきには、肩関節、手指機能、座位、体幹、感覚、視空間認知、身体図式、注意、遂行機能、失行、半側空間無視、環境設定が関わります。

新人療法士は、まず工程に分けて観察し、どこで止まり、どのcueで変化し、どの環境なら再現できるかを記録すると、介入方針が立てやすくなります。

上衣更衣のリハビリでは、反復練習だけでなく、衣服の選び方、置き方、肩の保護、声かけ、確認行動、病棟スタッフや家族への共有まで含めて考えます。

リハ室だけで終わらせず、病棟や自宅で同じ方法が再現されることが、生活動作としての上衣更衣につながります。


5. 臨床で使える表・チェックリスト

新人療法士向け:上衣更衣評価チェックリスト

チェック項目確認
評価した衣服の種類を記録したか
前開き、かぶり、ボタン、ファスナーの条件を確認したか
座位姿勢と足底接地を確認したか
肩痛・亜脱臼・可動域制限を確認したか
麻痺側上肢を引っ張らない介助ができているか
袖口を自分で見つけられるか確認したか
衣服の前後・表裏を判断できるか確認したか
麻痺側から通す手順が合うか確認したか
後ろ身頃を整えられるか確認したか
ボタン・ファスナー操作を評価したか
誤りに気づけるか確認したか
どのcueで改善したか記録したか
病棟で同じ方法を共有したか
自宅で使う衣服に近い条件で評価したか

cue量の記録表

レベル内容記録例
自発手がかりなしで遂行衣服準備から仕上げまで自発的に可能
環境調整置き方や衣服条件で改善袖口を広げておくと右袖通し可能
視覚cue目印、鏡、工程表で改善鏡提示で後ろ身頃の残存に気づく
口頭cue声かけで改善「右袖を見てください」で探索可能
ジェスチャー・モデル見本で改善療法士の動作模倣で袖通し可能
触覚cue触る場所の誘導で改善右肩後方を触ると衣服残存に気づく
身体介助直接介助が必要右上肢支持と袖誘導に中等度介助

上衣更衣の介入選択表

主な問題介入の方向具体例
肩痛・亜脱臼肩の保護、衣服条件変更袖を広げる、患側上肢を支持する、伸縮素材を選ぶ
上肢機能低下課題特異的練習、代償手段袖通し練習、片手操作、前開き衣服
手指巧緻性低下難易度調整、衣服変更大きいボタン、面ファスナー、マグネットボタン
体幹不安定姿勢調整、座位練習椅子高さ調整、足底接地、骨盤支持
感覚障害触覚確認、視覚代償袖のねじれを触って確認、鏡使用
半側空間無視探索行動の促通目印、鏡、片側確認ルーチン
失行手順固定、代償戦略工程表、見本提示、1工程ずつ練習
注意障害環境調整、短い指示テレビを消す、1ステップ指示、休憩
病棟で再現困難チーム共有置き方、声かけ、介助量を統一

6. 参考文献欄

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