目次
認知症がある患者さんにADL練習を行っていると、判断に迷う場面がよくあります。
昨日説明したことは覚えていない。
でも、歯ブラシを見ると自然に手が伸びる。
ブレーキの説明は忘れる。
でも、赤い印を見るとブレーキへ手が向く。
更衣の手順は言葉で説明できない。
でも、服をいつもの向きで置くと袖を通せる。
こうした場面では、「記憶が悪いからADL練習は難しい」と単純には言えません。
認知症では、昨日の説明や出来事を思い出す記憶、つまりエピソード記憶や宣言的記憶が低下しやすいです。一方で、毎日繰り返してきた動作、なじみのある道具の使い方、身体に染みついた手順は、比較的使えることがあります。
ここで関係するのが、手続き記憶です。
手続き記憶とは、簡単に言えば「やり方の記憶」です。歯を磨く、靴を履く、スプーンを使う、手すりを持って立つ、車椅子のブレーキを下げる、といった動作は、言葉で思い出す記憶だけではなく、身体に染みついた手順や習慣に支えられています。
ただし、最初に厳密に整理しておきたい点があります。
臨床現場で「この人は手続き記憶が使える」と、1つの検査で確定する方法は一般的には確立されていません。
研究では、Serial Reaction Time Task、rotary pursuit、mirror readingなどが使われます。しかし、これらは神経心理学的・実験的課題であり、回復期病棟や地域包括ケア病棟でトイレ動作や更衣動作を練習する時に、そのまま使うものではありません。
だから臨床では、考え方を変えます。
手続き記憶そのものを検査するのではなく、実際のADL課題の中で、反復により手順、cue量、エラー数、介助量が変わるかを見る。
これが一番実用的です。
この記事では、認知症者のADL練習で「手続き記憶を使えそうか」をどう評価し、どう介入へつなげるかを整理します。
この記事では、次の内容を整理します。
・手続き記憶を1つの検査で判断しにくい理由
・AD/aMCIでも手続き学習が比較的残りうるという根拠
・REDALI-DEMから分かるADL再学習の可能性
・エラーレス学習の使い方と限界
・手続き記憶を使えそうな患者パターン
・手続き記憶だけに頼ると危ない患者パターン
・ADL場面で学習反応を見る評価方法
・cue量、エラー数、自立工程数、翌日保持の見方
・HDS-R、MMSE、MoCAだけで判断しない理由
・手続き記憶を利用したADL練習の組み立て方
・臨床で出くわしやすいQ&A
・新人療法士が明日から使える判断基準
・臨床記録例
・患者さん・家族への説明例
・参考文献
先に結論をまとめます。
認知症者のADL練習では、「手続き記憶が残っているか」を検査で断定するのではなく、ADL場面の中で学習反応を見ます。
具体的には、
同じ環境で行うと手順が安定するか。
物を見ると動作が出るか。
見本を見ればまねできるか。
反復するとエラー数が減るか。
cue量が減るか。
翌日も一部保持されるか。
病棟スタッフでも同じように再現できるか。
ここを評価します。
特に狙いやすいのは、軽度〜中等度認知症で、以前から慣れていたADL、同じ環境・同じ物品・同じ手順で実施できる課題です。
一方で、新規学習が多いIADL、判断変更が多い課題、環境変化が大きい課題、危険判断が必要な課題は、手続き記憶だけに頼ると危険です。
つまり、臨床で大事なのは、
「認知症だから覚えられない」と諦めないこと。
「手続き記憶が使えそうだから自立できる」と楽観しないこと。
この両方です。
対象ADLを1つに絞り、工程分析し、同じ条件で反復し、エラー数、cue量、自立工程数、翌日保持、病棟再現性を見る。
この流れが、最も臨床に使いやすい判断方法です。
手続き記憶が使えるかどうかを、現場で単独の検査だけで判断しようとすると、臨床から少し離れてしまいます。
HDS-Rが何点だから使える。
MMSEが何点以下だから無理。
MoCAが低いからADL練習は意味がない。
こうした判断は粗くなります。
もちろん、HDS-R、MMSE、MoCAは全般的な認知機能の把握に役立ちます。見当識、記憶、注意、言語、構成、遂行機能などを大まかに見るには有用です。
ただし、これらの検査は、特定のADL工程が反復によって学習されるかを直接示すものではありません。
たとえば、HDS-Rが低くても、毎朝同じ場所で洗面道具を見れば、顔を洗い始める方がいます。
一方で、MMSEが比較的保たれていても、病棟トイレでブレーキ確認が毎回抜ける方もいます。
認知検査の点数と、ADL場面での学習反応は一致しないことがあります。
臨床で見るべきなのは、点数だけではありません。
物を見たら動作が出るか。
見本を見ればまねできるか。
1ステップ指示が入るか。
同じ環境で反復するとエラーが減るか。
声かけ量が減るか。
翌日も一部残るか。
別スタッフでも再現できるか。
手続き記憶を評価するというより、ADLの中で「手続き学習が起きる条件」を作り、その反応を見ると考える方が実用的です。
手続き記憶は、「どうやるか」に関する記憶です。
言葉で説明できるかどうかよりも、身体がその手順を実行できるかに関わります。
たとえば、
歯ブラシを持って歯を磨く。
靴べらを使って靴を履く。
ズボンを上げる。
手すりを持って立つ。
スプーンですくって口へ運ぶ。
義歯をいつものケースに入れる。
こうした動作には、長年の経験で身についた流れがあります。
認知症では、新しい出来事を覚える記憶、つまりエピソード記憶や宣言的記憶が障害されやすいです。「昨日説明された内容を思い出す」「前回の練習内容を言葉で再現する」といったことは難しくなります。
一方で、なじみのある手順や身体で覚えた動作は、比較的使えることがあります。
ただし、ここで注意が必要です。
「認知症では手続き記憶が必ず保たれる」とは言えません。
疾患の種類、重症度、パーキンソニズム、注意変動、失行、失認、せん妄、BPSD、疼痛、疲労などによって大きく変わります。
特にレビー小体型認知症、パーキンソン病認知症、強いパーキンソニズムがある方では、基底核系の運動学習が影響を受けやすく、AD型認知症と同じように「身体で覚えるから大丈夫」と考えるのは危険です。
手続き記憶は、使える可能性がある残存能力です。
ただし、万能な能力ではありません。
だからこそ、実際のADLで反応を見ます。
AD、つまりアルツハイマー型認知症や、aMCI、健忘型軽度認知障害では、エピソード記憶や宣言的記憶が障害されやすい一方で、手続き学習は相対的に保たれる可能性があります。
AD/aMCIの手続き学習に関するシステマティックレビュー・メタ解析では、研究数は17件と限られていました。健常高齢者との統計的同等性までは示されていませんが、群間差は臨床的・統計的に小さく、AD/aMCIでも手続き学習が比較的保たれる可能性があると整理されています。
古典的研究でも、AD患者では明示記憶課題が大きく障害される一方で、rotary pursuitやmirror readingなどの手続き的・知覚運動学習が比較的保たれることが示されています。
ただし、すべての研究が同じ結果ではありません。Serial Reaction Time Taskを用いた研究では、非常に軽度では暗黙学習が保たれる一方で、軽度のSDATやパーキンソン病群では新しい系列学習が低下していたという報告もあります。
臨床的には、次のように整理するとよいです。
認知症者でも、説明を覚える学習だけが学習ではない。
なじみのある手順や反復課題では、動作が変化する可能性がある。
ただし、疾患型、重症度、課題によって差がある。
だから、検査点数だけで決めず、ADL課題の中で反応を見る。
この整理が安全です。
認知症者のADL再学習を考えるうえで、REDALI-DEM試験は臨床的に使いやすい根拠です。
この研究は、軽度〜中等度のアルツハイマー型または混合型認知症者を対象にした多施設ランダム化比較試験です。対象者は自宅生活者で、MMSEは14〜24点でした。
介入内容は、本人にとって意味のあるADL課題を選び、自宅で9回、各1時間、8週間かけて練習するというものです。
比較されたのは、errorless learningとtrial-and-error learningです。
結果として、両群ともADL課題遂行が改善し、改善は6か月維持されました。
ただし、errorless learningがtrial-and-error learningより優れているとは示されませんでした。
ここから臨床に落とし込めることは、かなり大きいです。
認知症者でも、意味のあるADLを、実際の環境に近い形で、構造化して反復すれば、ADL遂行が改善することがある。
一方で、エラーレス学習だけが常に優れているとは言えません。
つまり、鍵になるのは「エラーレス学習という名前」ではなく、以下の要素です。
本人に意味のあるADLを選ぶ。
実際の生活環境で練習する。
課題を具体的にする。
工程を構造化する。
反復する。
支援を調整する。
維持を確認する。
この視点が、病棟ADL練習にも応用しやすいです。
ただし、REDALI-DEMは主に自宅生活者を対象にしています。病棟では、急性疾患、せん妄、疼痛、睡眠、夜間環境、転倒リスクが加わるため、そのまま単純に当てはめるのではなく、病棟条件で再評価します。
エラーレス学習とは、危険な失敗や誤った手順の反復をできるだけ減らし、正しい手順で成功しやすくする方法です。
認知症者では、誤りを経験しても、それを次回に修正して使うことが難しい場合があります。誤った手順を繰り返すと、その誤った手順がそのまま定着してしまう可能性があります。
de Werdらのレビューでは、認知症者に対するerrorless learningを用いた日常課題学習の研究が整理され、errorless learningはerrorful learningや無治療より、意味のある日常課題・技能の獲得に有効で、フォローアップでも維持される傾向があると報告されています。
実践上、使いやすい要素は以下です。
課題を小さなステップに分ける。
見本を示す。
言語指示を短くする。
推測させすぎない。
誤りが出る前に支援する。
視覚cueや環境cueを使う。
できてきたらcueを減らす。
同じ環境で反復する。
ただし、エラーレス学習を過大評価しない方がよいです。
REDALI-DEMでは群間差がありませんでした。
一部のパイロット研究ではerrorless learningがtrial-and-error learningより良い成績を示しましたが、対象や課題は限られています。
臨床的には、以下の解釈が妥当です。
危険な失敗は防ぐ。
誤った手順の反復は減らす。
ただし、本人ができる工程や選べる部分は残す。
エラーレス学習の名前にこだわらず、構造化、反復、cue調整を重視する。
ここからは、臨床での見分け方です。
手続き記憶を使えそうかどうかは、ADLの中で反応を見ます。
| 観察所見 | 臨床解釈 |
|---|---|
| 説明内容は忘れるが、物を見ると動き出す | 環境手がかりが使える可能性 |
| 以前からしていたADLは比較的できる | 既存の手続き記憶を利用できる可能性 |
| 同じ場所・同じ物品なら手順が安定する | 文脈依存の学習が使える可能性 |
| 1回目より2〜3回目でミスが減る | 学習反応あり |
| 声かけ量を減らしても維持できる | cue fadingが可能 |
| 模倣ができる | modelingが使える |
| 1ステップ指示が入る | stepwise練習が可能 |
| 失敗後に不穏になりにくい | 反復練習に耐えやすい |
| 本人にとって意味のある課題で反応が良い | 動機づけが使える |
このタイプでは、以下の課題が狙いやすいです。
更衣の一部工程。
整容。
口腔ケア。
トイレ前後の定型手順。
車椅子ブレーキ。
ナースコール。
靴着脱。
食事セッティング。
義歯管理。
手すり使用。
どれも、毎日反復でき、環境を固定しやすく、工程化しやすい課題です。
回復期病棟では、実際にはこの層が多いと思います。
全体としては難しいけれど、条件を整えると一部できるタイプです。
| 観察所見 | 対応 |
|---|---|
| 毎回最初の開始だけ忘れる | 開始cueを固定する |
| 順序が抜ける | 写真・物品配置・手順表を使う |
| 声かけがあればできる | 声かけを段階的に減らす |
| 午前はできるが午後は崩れる | 練習時間帯を固定する |
| OTではできるが看護師ではできない | スタッフ間で手順を統一する |
| 環境が変わると失敗する | 初期は固定し、後期に少しずつ条件変更 |
| 認知症に片麻痺や骨折が重なる | 手続き記憶だけでなく身体機能・疼痛も調整する |
| 見本ではできるが言語指示では難しい | modelingや視覚cueを優先する |
この層では、「自立できるか」よりも、「どの条件ならできるか」を見ます。
午前ならできる。
同じトイレならできる。
赤い目印があればできる。
看護師の声かけが統一されればできる。
1工程だけならできる。
この条件を見つけることが介入の入口になります。
一方で、手続き記憶を使ったADL練習にこだわると危ない場合もあります。
| 観察所見 | 理由 |
|---|---|
| せん妄がある | 学習以前に注意・覚醒が不安定 |
| 強いBPSD・拒否・不安がある | 反復が逆効果になることがある |
| 重度失行がある | 道具使用・系列化そのものが崩れる |
| 重度視空間障害・失認がある | 環境cueを使いにくい |
| パーキンソニズムが強い | 基底核系・運動学習が制限されやすい |
| 疼痛・呼吸苦・疲労が主因 | 記憶より身体負荷が主問題 |
| 状況判断が必要な課題 | 手順化だけでは安全性が担保できない |
| 毎回エラー内容が変わる | 固定手順では対応しにくい |
| 転倒リスクが高い | 自発性より安全確保を優先する必要 |
特に、レビー小体型認知症やパーキンソン病認知症のように、注意変動、幻視、パーキンソニズムがある場合は、AD型認知症と同じように考えない方がよいです。
この場合は、ADL再学習よりも、
安全な介助方法。
環境調整。
刺激量の調整。
転倒予防。
疲労管理。
家族・病棟スタッフへの共有。
に比重を置くことがあります。
ここが今回の記事の中心です。
手続き記憶テストを探すより、対象ADLで学習反応を見る方が現実的です。
ここでは、便宜的に「ADL学習反応」と呼びます。正式な標準化評価名ではありません。臨床でADL練習を設計するための観察手順です。
最初は1つに絞ります。
候補は以下です。
トイレ前後の手順。
車椅子ブレーキ。
靴着脱。
更衣の一工程。
口腔ケア。
義歯管理。
ナースコール。
食事セッティング。
歩行器の置き方。
ベッド周囲動作。
ポイントは、本人にとって意味があり、病棟生活で毎日使う課題にすることです。
本人にとって意味のない課題は、反復しても生活に広がりにくくなります。
たとえば、車椅子からトイレ移乗を工程に分けます。
この工程ごとに、以下を記録します。
自力でできた工程数。
エラー数。
必要なcueの種類。
介助量。
危険行動。
所要時間。
表情、拒否、疲労。
「トイレ動作ができない」ではなく、「どの工程が、どのcueでできるか」を見ます。
1回だけでは分かりません。
同じ環境、同じ物品、同じ声かけ、同じ時間帯で複数回実施します。
見るべきポイントは以下です。
正しい工程数が増えるか。
エラー数が減るか。
声かけ量が減るか。
身体介助が減るか。
拒否や不安が減るか。
1〜2日後も残るか。
その場でできただけでは、手続き学習とは判断しません。
翌日、数日後、別スタッフ、病棟場面で再評価します。
cue量は、FIMの点数より細かく見た方が臨床的です。
おすすめは、この順番で記録することです。
| 段階 | cueの種類 | 例 |
|---|---|---|
| 1 | 自立 | 何もなく実行 |
| 2 | 待てば自発 | 5秒待つと自分で確認 |
| 3 | 視覚cue | 赤い印、写真、手順表で反応 |
| 4 | ジェスチャーcue | 指差し、視線誘導 |
| 5 | 短い口頭cue | 「赤を確認」など短文 |
| 6 | 見本提示 | セラピストが動作を見せる |
| 7 | 軽い身体誘導 | 手を添える、方向づける |
| 8 | 直接介助 | 支援者が動作を行う |
改善の判断は、単に「できた/できない」ではありません。
cueが、6から4へ。
4から2へ。
2から1へ。
このように減るなら、学習反応があると考えやすいです。
本当に使えるかはここで見ます。
翌日もできるか。
週末を挟んでもできるか。
看護師でも同じようにできるか。
夕方でもできるか。
病棟トイレでもできるか。
自宅環境を想定してもできるか。
病院で1回できただけでは、維持や汎化は判断できません。
REDALI-DEMでは、自宅環境で本人に意味のある課題を繰り返し、長期維持を見ています。病棟でも、少なくとも「翌日」「別スタッフ」「実際の生活場面」は確認したいところです。
実用的には、以下のような記録が使いやすいです。
| 評価項目 | 記録例 |
|---|---|
| 正しい工程数 | 9工程中6工程自立 |
| エラー数 | ブレーキ忘れ1回、下衣操作失敗1回 |
| cue量 | 口頭cue 5回、身体誘導1回 |
| cueの種類 | 視覚cueで反応あり、長い口頭指示は不可 |
| 保持 | 翌日も9工程中6工程維持 |
| 汎化 | OTでは可能、Nsではブレーキ忘れ |
| 安全性 | 方向転換時に後方重心あり |
| 疲労 | 午後は工程数低下 |
| 情動 | 失敗後に焦りあり、拒否なし |
この記録なら、新人療法士でも使いやすいです。
「見守り」「軽介助」だけでは分からない変化が見えます。
特に、cue量の変化は大事です。
昨日は見本提示が必要だった。
今日は指差しでできた。
明日は待てばできるかもしれない。
この変化があれば、ADL練習の方向性が見えてきます。
認知症者で手続き記憶を利用するなら、次のように設計します。
ポイントは、手続き記憶を「残っているかどうか」だけで見ないことです。
残っている可能性のある手順を、出やすくする条件を作ります。
たとえば、歯磨きであれば、歯ブラシとコップを毎回同じ位置に置きます。
更衣であれば、衣服を着る向きに置きます。
トイレであれば、車椅子の角度、ブレーキの目印、声かけを固定します。
靴着脱であれば、椅子の高さ、靴の向き、靴べらの位置を固定します。
「覚えてください」ではなく、「見れば動ける」「同じ流れならできる」ように整えます。
| ADL | 狙いやすい理由 |
|---|---|
| 口腔ケア | 道具が固定しやすく毎日反復できる |
| 義歯管理 | 置き場所と手順を固定しやすい |
| 靴着脱 | 椅子・靴・靴べらの位置を固定しやすい |
| 更衣の一部工程 | 袖通し、前合わせなど工程を絞りやすい |
| 車椅子ブレーキ | 目印と声かけを統一しやすい |
| ナースコール | 位置と押す場面を限定しやすい |
| トイレ前後の定型手順 | 毎日反復しやすく生活上の意味が大きい |
| 食事セッティング | 食具配置、皿の位置を固定しやすい |
| 歩行器の置き方 | 環境と声かけを統一しやすい |
| ベッド周囲動作 | 毎日反復でき、環境を調整しやすい |
| ADL/IADL | 難しい理由 |
|---|---|
| 夜間トイレ自立 | 眠気、暗さ、尿意切迫、血圧変動、せん妄が加わる |
| 入浴全工程 | 判断、移動、温度、転倒リスクが多い |
| 調理 | 火、刃物、段取り、注意配分が必要 |
| 服薬管理 | 記憶、日付、薬の種類、確認が必要 |
| 金銭管理 | 計算、判断、詐欺リスクがある |
| 外出 | 見当識、交通、危険予測が必要 |
| 火の管理 | 重大事故リスクがある |
| 新しい福祉用具の複雑操作 | 新規学習が多い |
| 状況判断が必要な移乗 | 毎回条件が変わる |
手続き記憶を使ったADL練習では、定型的で、毎日反復でき、環境を固定できる課題が向いています。
新規学習が多い、判断が多い、環境変化が大きい、危険判断が必要な課題は、手続き記憶だけに頼ると危険です。
新人療法士に伝えるなら、次の基準が使いやすいです。
以下のうち5つ以上当てはまれば、試す価値があります。
| チェック項目 |
|---|
| 以前からしていたADLである |
| 本人にとって意味がある |
| 1ステップ指示が入る |
| 模倣できる |
| 物を見ると動作が出る |
| 同じ環境なら落ち着く |
| 反復でエラーが減る |
| cueを減らしても一部維持できる |
| 強いせん妄・BPSDがない |
| 病棟スタッフが同じ方法で関われる |
逆に、以下の場合は、ADL獲得練習よりも、環境調整・介助方法統一・家族指導へ切り替えます。
毎回エラーが変わる。
cueを増やしても改善しない。
危険行動が強い。
本人が強く拒否する。
せん妄がある。
疼痛や疲労が主因。
夜間のみ崩れる。
スタッフ間で手順が統一できない。
「練習を続ければいつかできる」ではなく、反応を見て方針を切り替えます。
1日目:
ブレーキ忘れあり。
フットレストを下げたまま立とうとする。
下衣操作で後方へふらつく。
口頭cue 8回。
身体介助2回。
2日目:
ブレーキは視覚cueで可能。
フットレストは指差しで可能。
下衣操作は口頭cueで可能。
口頭cue 5回。
身体介助1回。
3日目:
ブレーキは5秒待てば自発。
フットレストは指差し必要。
下衣操作は見守り。
口頭cue 2回。
身体介助0回。
この変化が出るなら、手続き学習や環境cue利用の可能性があります。
車椅子を毎回同じ位置に止める。
ブレーキに赤い目印をつける。
声かけは「赤を下げます」で統一する。
フットレストは指差しから開始する。
できたら指差しを減らす。
病棟スタッフにも同じ手順を共有する。
3日連続で再評価する。
ここで大事なのは、「手続き記憶がある」と決めつけることではありません。
反復によって、エラー数、cue量、介助量が変化しているかを見ます。
口腔ケアは、手続き記憶を使いやすい課題です。
道具が決まっている。
毎日反復できる。
環境を固定しやすい。
工程を短くできる。
たとえば、以下のように設定します。
歯ブラシは洗面台右側。
コップは中央。
義歯ケースは左側。
本人は同じ椅子に座る。
声かけは「歯ブラシを持ちましょう」で開始する。
1日目は、歯ブラシを探すところで止まるかもしれません。
2日目に、右側を見ると歯ブラシへ手が伸びるかもしれません。
3日目に、椅子へ座ると自分で歯ブラシを持つかもしれません。
このような変化があれば、環境手がかりが使えています。
手順表よりも、物品配置の方が反応がよい方もいます。
更衣は、全工程を一度に狙うと難しいことがあります。
まずは一工程に絞ります。
たとえば、
麻痺側袖に手を通す。
上衣の向きを確認する。
最後に前を整える。
靴下を片方だけ履く。
このくらいに絞ります。
介入では、衣服を着る向きに置きます。
麻痺側袖に目印をつけます。
鏡を使える位置にします。
声かけは短くします。
「左から通しましょう」
「印を見ましょう」
「鏡で確認しましょう」
といった具合です。
評価では、口頭指示が必要なのか、目印だけでできるのか、待てば手が伸びるのかを見ます。
更衣は、入浴後や疲労時に崩れやすいので、練習場面だけで判断せず、実際の生活場面でも確認します。
REDALI-DEMでは、errorless learning群とtrial-and-error learning群の両方でADL遂行が改善し、群間差はありませんでした。
つまり、構造化されたADL再学習そのものが重要であり、errorless learningだけを過大評価してはいけません。
一方で、手続き課題においてerrorless learningが良い成績を示したパイロット研究もあります。
臨床的には、以下の解釈が妥当です。
失敗を繰り返させない設計は有用。
ただし、エラーレス学習という名前にこだわるより、課題を構造化し、反復し、支援を減らすことが大事。
手続き記憶を使えそうだからといって、危険なADLを自立にするのは早すぎます。
特に、トイレ、夜間移動、入浴、火の管理、服薬管理、外出は注意が必要です。
手続き記憶が使えることと、安全に生活できることは同じではありません。
AD型認知症とレビー小体型認知症、パーキンソン病認知症、前頭側頭型認知症では、ADLの崩れ方が違います。
AD型ではエピソード記憶障害が目立ちやすく、環境手がかりや手順化が使えることがあります。
レビー小体型認知症では、注意変動、幻視、パーキンソニズムがADLを不安定にすることがあります。
前頭側頭型認知症では、行動、抑制、社会性、こだわりがADLに影響することがあります。
疾患型を無視して、「手続き記憶を使う」と単純化しない方がよいです。
手続き記憶を使えそうと判断した後のゴールは、認知機能改善ではありません。
正しいゴールは、生活行為の変化です。
特定ADLの工程数が増える。
cue量が減る。
エラー数が減る。
安全行動が増える。
病棟で再現できる。
介助者が同じ方法で支援できる。
本人の不安・拒否が減る。
介助負担が減る。
たとえば、
「MMSEを上げる」ではなく、
「トイレ前に赤い印を見てブレーキを確認する」
「記憶を改善する」ではなく、
「毎朝、歯ブラシを見て口腔ケアを開始する」
「認知機能訓練をする」ではなく、
「本人に意味のあるADLを、環境と手順で再現しやすくする」
このように目標を置きます。
点数だけでは判断しません。
REDALI-DEM試験では、MMSE14〜24点の軽度〜中等度認知症者が対象でした。これは一つの参考になります。
ただし、臨床では点数よりも、実際のADL場面での反応を見ます。
1ステップ指示が入るか。
物を見ると動作が出るか。
見本を見ればまねできるか。
同じ環境で反復するとエラーが減るか。
cue量が減るか。
翌日も一部保持されるか。
このあたりを見ます。
HDS-RやMMSEが低くても、なじみのある整容や口腔ケアでは、環境を整えると動作が出ることがあります。反対に、点数が比較的保たれていても、病棟トイレや夜間移動では安全に再現できないことがあります。
「認知検査の点数」ではなく、「ADL場面で学習反応があるか」を見ます。
判断しません。
認知症者のADLでは、一度できたことよりも、同じ条件で繰り返した時に再現できるかが大事です。
たとえば、リハビリ中に一度ブレーキ確認ができても、次の場面で忘れることはあります。尿意が強い時、夕方で疲れている時、スタッフが変わった時、トイレの場所が変わった時には崩れることがあります。
見るべきなのは、
同じ環境で再現できるか。
cue量が減っているか。
翌日も一部残っているか。
病棟スタッフでも同じようにできるか。
安全性が保たれているか。
です。
「一度できた」は能力の一部です。
「生活で任せられる」は別の判断です。
cue量が減ることは良い反応ですが、それだけで自立とは判断しません。
たとえば、最初は口頭指示が必要だったブレーキ確認が、赤い印を見るだけでできるようになった場合、手続き学習や環境cue利用の可能性はあります。
ただし、自立判断には、さらに確認が必要です。
翌日もできるか。
看護師や介護士でも再現できるか。
疲労時や夕方でも崩れないか。
尿意切迫時でも確認できるか。
転倒につながるエラーがないか。
本人が焦っても手順を保てるか。
特にトイレ、移乗、夜間動作では、cue量の減少だけで自立にするのは危険です。
「cue量が減った」は練習継続の根拠になります。
「自立にする」は、安全性と再現性を見てから判断します。
「説明を覚える」という意味では難しい場合があります。
ただし、ADL練習の目的は、説明内容を記憶してもらうことだけではありません。
物を見たら始められる。
同じ場所なら手順が出る。
同じ声かけなら動作が安定する。
危険な失敗が減る。
介助量が減る。
拒否が少なくなる。
こうした変化もADL練習の成果です。
「昨日の説明を覚えているか」ではなく、「生活動作が再現しやすくなっているか」を見ます。
記憶障害がある方に、記憶で勝負させてしまうからです。
本人は、言われたことを覚えていない、またはその場面で思い出せないことがあります。その時に「昨日も言いましたよね」と言われると、責められているように感じる場合があります。
認知症者のADL支援では、言葉で思い出してもらうより、行動が出やすい条件を作ります。
「昨日も言いましたよね」ではなく、
「赤を確認しましょう」
「ここを見ましょう」
「いつもの順番でいきます」
「まず歯ブラシを持ちましょう」
のように、短く、同じ言葉で、次の行動につながる声かけにします。
手順表は、貼るだけでは使われません。
見る場所にあるか。
見るタイミングが決まっているか。
文字が多すぎないか。
写真や色の方が分かりやすいか。
スタッフが同じ使い方を促しているか。
見た後に成功体験につながっているか。
ここを確認します。
認知症者では、「手順表を見る」という行動自体が自然には出ないことがあります。その場合は、手順表を使う練習が必要です。
たとえば、
トイレ前に赤い印を見る。
洗面台に着いたら写真を見る。
更衣前に袖の目印を見る。
このように、手順表や目印をADLの流れの中に組み込みます。
手順表が使われない時は、「本人が悪い」のではなく、手順表が行動のきっかけになっているかを見直します。
声かけの内容によります。
「次は何をしますか?」で本人が気づけるのか。
「赤を確認しましょう」でブレーキに手が伸びるのか。
「ブレーキをかけて、足台を上げて、手すりを持って立ちましょう」と全部言わないとできないのか。
同じ声かけでも、支援量はかなり違います。
臨床では、声かけを細かく分けて見ます。
待てば自発。
視覚cueで可能。
指差しで可能。
短い口頭cueで可能。
見本提示で可能。
身体誘導で可能。
直接介助が必要。
「声かけで可能」と一括りにせず、どのcueで動作が出るかを記録します。
cueが減っていくなら、ADL練習を継続する価値があります。
cueが毎回多く必要で、減らない場合は、環境調整や介助方法の統一を優先します。
文脈依存が強い可能性があります。
認知症者では、「この場所」「この物品」「この順番」「この声かけ」ではできても、条件が変わると崩れることがあります。
これは失敗ではありません。
むしろ、どの条件ならできるかが見えてきたと考えます。
初期は、環境を固定して成功しやすくします。
その後、必要に応じて少しずつ条件を変えます。
たとえば、
まず病棟トイレで安定させる。
次にスタッフを変えてみる。
次に時間帯を変えてみる。
退院前には自宅環境を想定して確認する。
いきなり多くの条件を変えると、どこで崩れたのか分かりません。
環境が変わると崩れる人ほど、退院前訪問や家族指導、自宅の物品配置確認が役立ちます。
そうとは限りません。
午後に崩れる場合、手続き記憶だけでなく、疲労、眠気、疼痛、血圧、薬剤、活動量、空腹、脱水、不安などを見ます。
認知症者では、同じADLでも時間帯によって遂行が大きく変わることがあります。
午前は手順が安定している。
午後は声かけ量が増える。
夕方は焦りや拒否が出る。
夜間は別の行動になる。
このような場合は、「できない」と判断するより、条件差を記録します。
練習は午前に行う。
午後は介助量を上げる。
夕方以降は安全優先にする。
夜間は別課題として評価する。
というように、時間帯ごとに条件を変えます。
一部つながる可能性はありますが、同じ課題とは考えない方が安全です。
日中トイレと夜間トイレでは、条件が違います。
夜間は眠気があります。
照明が暗くなります。
尿意が切迫しやすくなります。
起立性低血圧が起こることがあります。
せん妄が出やすい人もいます。
スタッフの距離や対応速度も変わります。
日中にできるから夜間も大丈夫、とは判断しません。
夜間トイレは、別に評価します。
コール使用が可能か。
ポータブルトイレが安全か。
センサーが必要か。
定時誘導が必要か。
照明や動線を調整できるか。
夜間だけ介助量を上げるべきか。
夜間は、手続き記憶よりも安全条件を優先する場面が多くなります。
危険な失敗は防ぎます。
ただし、本人が考えられる部分まで全て先回りする必要はありません。
たとえば、ブレーキを忘れて立とうとする場合は、転倒リスクがあるので早めに介入します。
一方で、更衣でどちらの袖から通すか迷っているだけで危険が少ない場合は、少し待つことで本人が動き出すこともあります。
目安は、失敗した時のリスクです。
転倒、骨折、誤嚥、火傷、薬の誤使用につながる失敗は防ぎます。
安全に見守れる範囲の迷いは、少し待って反応を見ます。
「失敗させる/させない」ではなく、危険な失敗を避けながら、本人ができる工程を残すと考えます。
失行の程度によります。
軽度で、見本提示や物品配置で動作が出る場合は、工程を絞って練習できることがあります。
一方で、道具の使い方そのものが分からない、動作の系列化が大きく崩れる、見本を見ても模倣できない場合は、手続き記憶を使ったADL練習だけでは難しくなります。
この場合は、
物品を減らす。
使う順番に並べる。
一工程ずつ提示する。
見本を示す。
危険工程は介助する。
自立ではなく参加を目標にする。
という方向になります。
失行が強い場合、「反復すれば覚える」と考えるより、環境調整と介助方法の安定を優先します。
使える場合もありますが、注意が必要です。
目印を付けても、それを見つけられない。
写真を見ても意味が分からない。
片側の物品を見落とす。
トイレ内で便座や手すりの位置関係が分かりにくい。
このような場合があります。
視覚cueが使えるかどうかは、実際に試して確認します。
赤い印で反応するか。
写真より実物の方が分かりやすいか。
文字より色の方がよいか。
右側に置くと見えるか。
正面に置くと分かるか。
触覚cueや身体誘導の方がよいか。
視覚cueが使いにくい場合は、声かけ、触覚cue、物品配置、動線調整を組み合わせます。
使える場合もありますが、AD型認知症と同じようには考えません。
パーキンソン病やレビー小体型認知症では、パーキンソニズム、注意変動、幻視、起立性低血圧、すくみ足、睡眠障害などがADLに影響します。
手続き記憶や環境cueだけでなく、運動症状や覚醒変動を合わせて見ます。
たとえば、
薬効時間によって動作が変わる。
午前は動けるが夕方にすくみが強くなる。
幻視や不安でトイレに行けない。
起立性低血圧で立位が不安定になる。
注意変動で同じ手順が保てない。
このような場合は、手順化だけでなく、薬効時間、疲労、環境刺激、転倒リスクを含めて評価します。
「手続き記憶が使えそうか」より先に、「安全に動作へ入れる状態か」を見ます。
無理に反復しない方がよい場面があります。
拒否、不安、怒り、興奮が強い状態でADL練習を繰り返すと、そのADL自体が嫌な体験として残ることがあります。
まず見るのは、拒否の理由です。
痛い。
寒い。
怖い。
眠い。
急かされている。
知らない人に触られて不安。
手順が分からず混乱している。
トイレや入浴に羞恥心がある。
こうした背景があるかもしれません。
この場合は、手続き記憶を使った反復練習よりも、
時間帯を変える。
人を変える。
声かけを短くする。
触れる前に説明する。
本人のペースを待つ。
痛みや寒さを調整する。
一工程だけ参加してもらう。
といった調整を優先します。
「認知症なので声かけお願いします」では伝わりにくいです。
共有する時は、具体的な行動にします。
たとえば、
トイレ前は車椅子を便座に対して30度で止める。
右ブレーキの赤印を見る。
声かけは「赤を確認しましょう」で統一する。
フットレストは指差し。
立位後は左手すり把持を確認。
夜間は同じ方法で安定していないため見守り継続。
このくらい具体的にします。
スタッフごとに声かけが変わると、本人の反応も変わります。
認知症者のADL練習では、患者さんだけでなく、支援者側の行動も統一する必要があります。
家族が続けられない方法は、退院後に定着しにくいです。
病院ではできても、自宅で再現できない場合があります。
そのため、退院前には、
自宅で同じ物品配置ができるか。
家族が同じ声かけを使えるか。
手順が複雑すぎないか。
危険工程を家族が見守れるか。
朝・昼・夜で条件が変わらないか。
家族の負担が大きすぎないか。
を確認します。
家族には、専門的な介入ではなく、生活の工夫として伝えます。
「歯ブラシは毎回同じ場所に置く」
「服は着る順番に並べる」
「トイレ前はコールを手元に置く」
「声かけは短く同じ言葉にする」
このように、家で続けられる形に落とし込みます。
慎重に考えた方がよいです。
服薬管理、金銭管理、火の管理、外出などは、単純な手順だけではなく、記憶、判断、確認、危険予測が必要です。
手続き記憶だけでは安全性を担保しにくい課題です。
たとえば服薬管理では、
今日飲んだか。
どの薬を飲むか。
飲み忘れた時にどうするか。
薬が変わった時に対応できるか。
過量内服しないか。
といった判断が必要になります。
そのため、IADLでは「本人が手順を覚える」よりも、
薬カレンダー。
一包化。
家族確認。
訪問看護。
服薬支援機器。
火を使わない環境。
金銭管理の代行や見守り。
など、環境調整と支援体制を組みます。
ADLとIADLでは、手続き記憶の使い方を分けて考えます。
固定手順の学習だけでは対応しにくい可能性があります。
毎回エラーが変わる場合は、手続き記憶の問題だけではなく、
注意が不安定。
せん妄がある。
疲労が強い。
疼痛がある。
環境刺激が多い。
不安が強い。
失行や失認がある。
課題が複雑すぎる。
スタッフの声かけが毎回違う。
などを疑います。
この場合は、まず課題を小さくします。
トイレ全体ではなく、ブレーキ確認だけ。
更衣全体ではなく、袖通しだけ。
口腔ケア全体ではなく、歯ブラシを持つところだけ。
それでもエラーが変わる場合は、ADL獲得練習よりも、安全な介助方法、環境調整、スタッフ統一へ切り替えます。
厳密な回数が決まっているわけではありません。
臨床では、まず同じ条件で3〜5回は見たいところです。
1回目でできないから無理、と判断しない。
1回できたから自立、と判断しない。
2〜3回でcue量やエラー数がどう変わるかを見る。
翌日も一部保持されるかを見る。
病棟スタッフでも再現できるかを見る。
この流れが現実的です。
変化がある場合は、練習を続けながらcueを減らします。
変化が乏しい場合は、課題の難易度、環境、体調、声かけ、目標設定を見直します。
ゴールは認知機能の改善ではありません。
ADL場面での具体的な変化をゴールにします。
たとえば、
トイレ前に赤い印を見てブレーキを確認できる。
口腔ケアで歯ブラシを見て開始できる。
更衣で麻痺側袖に手を通せる。
靴を履く時に靴べらを使える。
ナースコールを手元に置くと、トイレ希望時に押せる。
cue量が口頭指示から指差しへ減る。
病棟スタッフでも同じ手順で再現できる。
このように、生活場面で観察できる行動にします。
「認知症を改善する」ではなく、「本人に必要な生活動作を再現しやすくする」と考えます。
ADL練習そのものをやめるというより、目標と方法を変えます。
反復してもcue量が減らない。
エラーが毎回変わる。
危険行動が強い。
拒否が強い。
翌日保持がない。
病棟で再現しない。
このような場合は、ADL獲得練習にこだわりすぎない方がよいです。
その代わり、
環境を整える。
介助方法を統一する。
危険工程を介助する。
本人が参加できる一工程だけ残す。
家族・病棟スタッフへ具体的に共有する。
福祉用具やサービスを検討する。
という方向に切り替えます。
「できるようにする」だけがADL支援ではありません。
「安全に生活できる条件を作る」ことも、ADL支援の一部です。
患者さんや家族には、専門用語より生活場面の言葉で説明します。
たとえば家族に、
「何度言っても覚えてくれません」
と言われた場合は、こう説明します。
「認知症があると、言われたことを覚えておくことが難しい場合があります。なので、覚えてもらうより、見たら分かる、同じ流れならできる、という環境を作っていきます」
また、
「練習して意味がありますか」
と聞かれた場合は、こう伝えます。
「認知機能そのものを良くする練習ではありません。ご本人に必要な生活動作を、同じ環境や同じ手順で再現しやすくする練習です」
| 家族の疑問 | 説明例 |
|---|---|
| 何度言っても覚えません | 覚えることに頼るより、見たら分かる環境や同じ手順を作ります。 |
| 練習して意味がありますか | 特定の生活動作は、環境と手順を整えることで再現しやすくなることがあります。 |
| 昨日はできたのに今日はできません | 疲労、睡眠、痛み、環境、せん妄などで日によって変わります。 |
| どこまで自分でさせるべきですか | できる工程は残し、危険な工程は介助や環境調整で補います。 |
| 認知機能は良くなりますか | 主目的は認知機能改善ではなく、生活動作を再現しやすくすることです。 |
病棟トイレ動作練習を実施。認知症に伴う手順抜けあり。初回はブレーキ忘れ、フットレスト下げたまま立位開始、下衣操作中の後方重心あり。9工程中4工程自立、口頭cue 8回、身体介助2回。車椅子位置を便座に対して約30度で固定し、右ブレーキに赤色テープを貼付。2日目はブレーキ確認が視覚cueで可能、フットレストは指差しで可能。3日目はブレーキ確認が5秒待機で自発的に出現。cue量減少傾向あり、手続き学習・環境cue利用の可能性あり。今後は同一手順を病棟スタッフと共有し、翌日保持と看護師介入時の再現性を確認する。
口腔ケア場面にて、歯ブラシ・コップ・義歯ケースの位置が変わると開始困難。洗面台右側に歯ブラシ、中央にコップ、左側に義歯ケースを固定し、使用順に配置。初回は開始に口頭cue 3回を要したが、3回目には着座後に右側の歯ブラシへ自発的に手を伸ばす場面あり。長い説明より物品配置への反応が良好。今後は朝夕で同一配置を病棟スタッフへ共有し、翌日保持を確認する。
上衣更衣にて、衣服の向き確認と麻痺側袖通しでエラーあり。衣服を着る向きに配置し、麻痺側袖に目印を付けたところ、初回は口頭cueで袖通し可能、2回目は目印への指差しで開始可能、3回目は5秒待機後に袖へ手を伸ばす場面あり。袖のねじれは自発修正困難であり、鏡確認をcueとして使用。今後は衣服配置、袖目印、鏡確認を固定し、入浴後更衣での再現性を確認する。
・以前からしていたADLか
・本人にとって意味があるか
・1ステップ指示が入るか
・模倣できるか
・物を見ると動作が出るか
・同じ環境なら落ち着くか
・強いせん妄・BPSDがないか
・疼痛・疲労・呼吸苦が主因ではないか
・病棟スタッフが同じ方法で関われるか
・正しい工程数が増えたか
・エラー数が減ったか
・cue量が減ったか
・介助量が減ったか
・翌日も一部維持されたか
・別スタッフでも再現できたか
・病棟場面でも再現できたか
・疲労時や夕方に崩れないか
・対象ADLを1つに絞ったか
・工程を小さく分けたか
・環境を固定したか
・物品位置を固定したか
・見本提示を使ったか
・エラー前に支援したか
・同じcueで反復したか
・できた工程のcueを減らしたか
・病棟・家族と手順を共有したか
・毎回エラー内容が変わる
・cueを増やしても改善しない
・危険行動が強い
・本人が強く拒否する
・せん妄がある
・身体症状が主因である
・夜間だけ崩れる
・病棟で再現しない
・スタッフ間で統一できない
認知症者のADL練習では、「手続き記憶が残っているか」を1つの検査で決めるのではなく、実際のADL課題の中で学習反応を見ることが現実的です。
AD/aMCIでは、エピソード記憶や宣言的記憶が障害されやすい一方で、手続き学習が比較的活用できる可能性があります。
ただし、認知症だから手続き記憶が必ず使えるわけではありません。
疾患型、重症度、パーキンソニズム、せん妄、失行、失認、BPSD、疼痛、疲労によって変わります。
一番避けたいのは、HDS-RやMMSEだけで「この人は認知症だからADL練習は無理」と判断することです。
同じくらい危険なのは、「手続き記憶が残っていそうだから自立できる」と楽観することです。
正しくは、次の流れで見ます。
対象ADLを1つに絞る。
工程分析する。
同じ環境で反復する。
エラー数、cue量、自立工程数を見る。
翌日保持を見る。
病棟で再現できるか見る。
反応があれば練習を継続する。
反応がなければ環境調整・介助方法統一へ切り替える。
認知症者のADL練習は、記憶で覚えさせる介入ではありません。
どの手がかりなら動作が出るか。
反復で支援量が減るか。
生活場面で再現できるか。
ここを見ることで、ADL支援はかなり具体的になります。