ワレンベルグ症候群(延髄外側症候群)では、小脳失調が起こるとされています。今回、ワレンベルグ症候群(延髄外側症候群)で運動失調が起こる理由やその予後予測などについてまとめていきたいと思います。
目次
ワレンベルグ症候群(延髄外側症候群)ではなぜ運動失調が起きる?予後予測は?
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ワレンベルグ症候群とは
脳幹障害のうちの一つで、延髄外側の梗塞によって生じる症候群。通称ワレンベルク症候群(独:Wallenberg-Syndrome)。
Wikipedia
ワレンベルグ症候群は、椎骨動脈またはその枝である後下小脳動脈の損傷により生じるとされています。
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延髄の脳画像と局在
では、延髄の脳画像を確認しながら、どこにどのような部位があるのかを見ていきます。
皮質脊髄路や内側毛帯は延髄内側にあるため、延髄外側の損傷(ワレンベルグ症候群)では運動麻痺や深部感覚の障害は見られないことになります。
延髄外側には、前庭神経核、迷走神経背側核、孤束核、疑核、三叉神経脊髄路・脊髄路核、下小脳脚、交感神経下行路、外側脊髄視床路があり、これらに対応した症状が確認されることになります。
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ワレンベルグ症候群の症状
ワレンベルグ症候群の症状には、以下のようなものがあります。
・眼振、めまい
・球麻痺、カーテン兆候(咽頭後壁がカーテンのように口の中で片方だけに引っ張られているように見える:咽頭収縮筋の障害)、味覚障害
・顔面の温痛覚障害
・小脳失調
・ホルネル症候群(眼瞼下垂、縮瞳、無汗症)
これらの症状は、病変部位と同側に症状が出現します。
・首から下の温痛覚障害
これは、病変部位と反対側に症状が出現します。
では、ここで前途した延髄の神経核等と症状の関係性を見ていきます。
・前庭神経核–眼振、めまい
・迷走神経背側核、孤束核、疑核–球麻痺、カーテン兆候、味覚障害
・三叉神経脊髄路・脊髄路核–顔面の温痛覚障害
・下小脳脚–小脳失調
・交感神経下行路–ホルネル症候群
・外側脊髄視床路–首から下の温痛覚障害
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温痛覚の同側、反対側の違いはなぜか
ワレンベルグ症候群では、なぜ温痛覚の障害が同側、反対側などとややこしい現れ方をするのでしょうか。
これには、顔面または首から下の温痛覚を伝える繊維の経路による違いが関係しています。
まず、顔面の温痛覚ですが、この場合、
同側の脳幹を下行→交叉→反対側を上行(三叉神経脊髄路)
となります。
次に、首から下の温痛覚ですが、この場合、
脊髄に入りすぐ交叉→反対側を上行(外側脊髄視床路)
となります。
このようなことから、同じ温痛覚障害でも、同側や反対側に症状が出現することになります。
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下小脳脚と小脳失調
延髄における下小脳脚
下小脳脚は延髄レベルで確認できます。
小脳と大脳の橋渡し
小脳と大脳は、3つの脚によって繋がれています。
・上小脳脚(出口)ー歯状核
・中小脳脚(入り口)ー橋核
・下小脳脚(入り口または出口)ー下オリーブ核
ここで言う「出口」は小脳から情報が出て行くもの(出力)、「入り口」は他部位から小脳へ情報が伝わるもの(入力)を指します。
小脳の機能的な3つの部位
小脳は機能的に3つの部位に分けられており、その機能は以下の通りです。
・大脳小脳:随意運動の調節と組み立て、フィードフォワード機能
・脊髄小脳:近位筋・遠位筋の運動における実行、フィードバック機能
・前庭小脳:姿勢維持、眼球運動
小脳の3つの核
小脳には3つの核があります。
・歯状核(大脳小脳からの上行性出力に経由する核):意図的な上肢運動などの内部モデル化した記憶が貯められる
・中位核(脊髄小脳からの上行性出力に経由する核)
・室頂核(脊髄小脳からの上行性出力に経由する核):姿勢制御などの内部モデル化した記憶が貯められる
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小脳にはどのような入力経路があるか
橋小脳路
先ほど、小脳への入力には2つの脚(中小脳脚、下小脳脚)があると述べました。
その中で、橋小脳路では中小脳脚が関与します。
大脳小脳には、橋小脳路を介して大脳皮質からの情報(前頭橋路を経由したもの)が入力されます。
脊髄小脳路
四肢や体幹からの意識にのぼらない感覚情報は、脊髄小脳路を経由して脊髄小脳に入力されます。
脊髄小脳路には3つの経路があり、上小脳脚や下小脳脚を経由します。
脊髄小脳には、他にも入力される情報があり、虫部には視覚や聴覚情報が、小脳半球中間部には大脳皮質からの情報が入力されます。
オリーブ小脳路
大脳皮質や脊髄、小脳核からの感覚情報は、下オリーブ核から下小脳脚を経て対側小脳皮質に入力されます。
ワレンベルグ症候群に関する小脳症状
上記のことから、下小脳脚に関連することとして、近位筋・遠位筋の運動における実行やフィードバック機能に問題が生じやすくなることが考えられます。
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ワレンベルグ症候群における小脳失調の予後予測
下小脳脚病変における運動失調は延髄外側症候群(Wallenberg症候群)の部分症状としてみられ,一般に予後は良好とされている.
秦らは151例の同症候群の文献例を整理して運動失調の回復は平均10週間であったと報告しており,CurrierらもWallenberg症候群における運動失調は良く代償されると述べている.
本検討における同症候群の運動失調は23/26例(88%)では6ヵ月以内に消失し,3/26例(12%)では発症から12ヵ月の時点でまだ観察されたがその程度は軽度であり以後も改善が認められた.
病変との関連では,延髄外側部の限局性病変(PICA群1型;20例)と小脳へ及ぶもの(PICA群II型;6例)とで回復の経過には差はみられず,ともに良好であった.
以上より,下小脳脚病変による運動失調の予後は良好であると思われる.桑原聡 他「小脳・小脳脚梗塞における運動失調-運動失調の予後および小脳内体性局在について-」脳卒中 15巻2号 (1993 : 4)
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