作業療法士と理学療法士の違い|歩行評価・練習はPTとOTでどう分けて見る?

目次

はじめに

回復期リハビリテーション病棟などで働いていると、作業療法士が歩行練習や立位練習に関わる場面は少なくありません。

その時に、新人OTや若手OTからよく出る悩みがあります。

PTと同じように歩行練習をしているけど、OTとしてこれでいいのかな?

この悩みは、とても自然です。

歩行、立ち上がり、方向転換、立位保持などは、PTもOTも関わる動作です。
そのため、表面だけを見ると「PTと同じことをしている」と感じやすいです。

しかし、OTの専門性は、違う動作をすることだけにあるわけではありません。

同じ歩行を見ていても、その歩行をADLやIADL、環境、認知面、自立度判断へどう接続して見るかで、OTの視点が出ます。

作業療法は、日常生活活動、家事、仕事、趣味などの生活行為を含む「作業」に焦点を当て、対象者の生活を支援する専門職です。したがって、歩行を単なる移動能力としてではなく、生活行為の中で使えるかという視点で見ることが重要になります。

この記事では、OTが歩行を評価する時の視点と、ADLにつなげる訓練・課題設定の考え方を整理します。

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「歩ける」と「生活で使える」は違う

たとえば、患者さんが歩行器で10m歩けたとします。

では、その患者さんをそのままトイレ自立にしてよいでしょうか。

答えは、慎重に考える必要があります。

トイレ動作では、単にトイレまで歩けるだけでは不十分です。

実際には、

  • トイレ前で止まる
  • 歩行器や杖を適切な位置に置く
  • 手すりへ持ち替える
  • 方向転換する
  • 便座へ後退する
  • 下衣操作をする
  • 座面を確認して座る
  • 排泄後に再び立ち上がる
  • 手洗いまで行う

といった工程があります。

つまり、10m歩けることと、トイレ動作が安全にできることは同じではありません。

OTが特に重視したいのは、歩行能力そのものに加えて、その歩行が生活行為の中で安全に使えるかという視点です。


PT視点とOT視点の違い

PTとOTは、同じ歩行を見ていても、評価の焦点が少し異なります。

もちろん、実際の臨床ではPTもADLや環境を見ますし、OTも筋力、荷重、歩容、バランスを見ます。ここでは、職種で完全に分けるというより、歩行を見る時にどこへ焦点を当てやすいかを整理します。

制度上も、理学療法は主として基本的動作能力、作業療法は主として応用的動作能力または社会的適応能力の回復を図るものとして整理されています。ただし、実際の臨床では互いに重なり合う部分があり、チームで役割を補完しながら評価・介入していきます。

視点主に焦点化しやすいこと中心となる問い
PT視点筋力、荷重、歩容、バランス、歩行距離、歩行速度、補助具適合どうすれば安定して、効率よく歩けるか
OT視点ADL工程、環境、手順、物品操作、認知面、病棟での再現性その歩行で生活行為が成立するか

OTが筋力やバランスを見ないという意味ではありません。

OTも身体機能を見ます。

ただし、OTはその身体機能を、生活行為に使える条件として評価することが重要です。

たとえば、立位保持を見る時も、ただ立っていられるかだけではなく、

  • 下衣操作ができるか
  • 洗面台前で手を離せるか
  • 更衣中に姿勢を保てるか
  • 物品操作中にふらつかないか

まで確認します。

これが、OTらしい歩行・立位評価です。


回復期OTは歩行をADLへ接続して見る

回復期では、歩行をADLへ接続する視点が重要になります。

歩行は単独で存在しているわけではありません。

生活の中では、歩行は以下のようなADLに含まれています。

ADL歩行課題として見ること
排泄トイレまで移動、停止、方向転換、後退、下衣操作、着座
整容洗面台前で止まる、手を離す、物品操作、立位保持
更衣衣類を取りに行く、座位と立位の使い分け、下衣操作
食事食堂まで移動、椅子へ近づく、着座、食後に戻る
入浴脱衣所移動、シャワーチェア移乗、濡れた床への対応

このように、歩行はADLの一部です。

そのためOTは、

歩けるか
ではなく、
その歩行が生活行為の中で使えるか

を確認します。


歩行器・杖・独歩で評価ポイントは変わる

移動手段が変わると、OTが見るポイントも変わります。

歩行器、杖、独歩は、単純に「能力が上がっていく順番」として見るだけでは不十分です。

それぞれ生活場面でのリスクが違います。

移動手段特徴OTが見るポイントADLでの注意
歩行器両手支持で安定しやすいが、両手がふさがる歩行器位置、方向転換、後退、手すり移行物を持てない、トイレ内で邪魔になる
片手支持で移動できるが、片手がふさがる杖を置く場面、片手操作、ドア操作洗面・更衣・トイレで杖を置いた瞬間に崩れやすい
独歩両手は自由だが、外的支持がない物品運搬、二重課題、環境変化荷物、会話、床上物品、疲労で崩れやすい

たとえば、歩行器では両手がふさがります。

そのため、コップや衣類、洗面道具をどう運ぶかが問題になります。

杖では、歩いている時だけでなく、杖を置いた瞬間が重要です。

洗面、更衣、トイレ、ドア操作では、杖を一時的に使えない場面があります。

独歩では、両手が自由になる分、物品運搬や二重課題が増えます。

何も持たずに歩けることと、荷物を持って歩けることは違います。

そのため、移動手段が変わった時は、生活場面で再評価する必要があります。


認知・高次脳機能も自立判断に影響する

歩行自立やトイレ自立を判断する時、身体機能だけでは不十分です。

身体的には歩けても、生活場面で転倒リスクが高くなるケースがあります。

たとえば、

  • 周囲確認が抜ける
  • 歩行器や杖を忘れる
  • トイレ前で手順が崩れる
  • 便座や手すりの位置を確認できない
  • 一人で大丈夫と思い込む
  • 排泄時に急いでしまう
  • 必要時にナースコールや声かけなどの援助要請ができない

といった問題です。

このような場合、歩行距離や身体介助量だけでは安全性を判断できません。

OTは、注意、記憶、遂行機能、病識、衝動性、援助要請なども含めて自立度を判断します。

視点確認すること
注意足元、歩行器、周囲、目的地を同時に見られるか
記憶歩行器、杖、ナースコール、禁忌、手順を覚えているか
遂行機能トイレ前で止まる、置く、向きを変える、座るの段取りができるか
病識自分の転倒リスクを理解しているか
援助要請危険時にナースコールや声かけなどで助けを求められるか

歩ける人でも、注意や判断が崩れると、生活場面で転倒リスクが高まることがあります。特に、遂行機能や二重課題能力は歩行や転倒リスクと関連することが報告されています。

だからこそ、OTは身体機能だけでなく、認知・高次脳機能を生活場面へ翻訳して見る必要があります。


急性期・回復期・生活期で歩行課題の意味は変わる

歩行課題は、時期によって意味が変わります。

同じ歩行器歩行でも、急性期、回復期、生活期では目的が異なります。

時期歩行課題の主目的OTとして重視すること
急性期安全離床、合併症予防、基本動作再獲得医学的安全性、疼痛、荷重、起居、移乗、立位保持
回復期ADL自立、病棟生活への汎化トイレ、整容、更衣、食堂移動、病棟での再現性
生活期IADL・社会参加調理、洗濯、掃除、買い物、通院、屋外移動

急性期では、医師指示、安静度、荷重制限、バイタル、疼痛、症状変化を確認したうえで、安全に離床できるか、起居や移乗が可能かを確認します。

回復期では、歩行をトイレ、更衣、整容、食事、入浴などのADLへ接続します。

生活期では、さらに調理、洗濯、掃除、買い物、通院、屋外移動などのIADLへ広げます。

つまり、同じ歩行練習でも、時期によって評価の意味が変わります。


評価した内容を訓練課題へつなげる

OTの歩行評価では、「できる/できない」を確認するだけでなく、どの条件で崩れるのかを見て、訓練課題へつなげることが重要です。

たとえば、トイレ前で止まれない場合は、まず目印のある環境で停止練習を行い、次に目印を減らし、最終的には実際のトイレ環境で自分で止まれるかを確認します。

方向転換でふらつく場合は、広い場所での方向転換から始め、歩行器や杖の位置、足の踏み替え、手すりへの持ち替えを段階的に練習します。

つまり、OTの訓練では、

  • 距離
  • 支持の量
  • 補助具
  • 方向転換や後退
  • 手の使用
  • 物品操作
  • 環境
  • 認知負荷
  • 疲労

を調整しながら、歩行をADLの中で使える形へ近づけていきます。

評価で「どこで崩れるか」を見つけ、訓練で「どうすれば生活で使えるか」を作っていく。

ここまで含めて、OTの歩行評価とADL訓練として考えると整理しやすくなります。


新人OTが誤解しやすいポイント

新人OTに多い誤解として、以下があります。

誤解なぜ不十分か
10m歩けたからトイレ移動も大丈夫トイレでは停止、方向転換、後退、下衣操作、着座が必要
歩行器歩行が見守りだから排泄も見守り下衣操作や手すりへの持ち替えで介助が必要なことがある
独歩になったから生活動作は安全独歩では手が自由になる分、物品操作や二重課題が増える
リハ室でできたから病棟でもできる病棟は環境、人の動き、疲労、時間帯、焦りが異なる
OTだからADLだけ見ればよい急性期ではADL前提となる疼痛、荷重、移乗、立位保持も重要
歩行能力が上がればIADLも自然にできるIADLは移動、認知、物品操作、耐久性、判断を含む複合課題

このような誤解を防ぐには、歩行を「単独の運動課題」として見るのではなく、生活場面へ接続して考えることが大切です。


ブログで伝えたい結論

OTの歩行評価とADL訓練は、単なる歩行練習ではありません。

歩行は、生活行為を成立させるための手段です。

OTは、

  • 歩行をADLへ接続する
  • 歩行器・杖・独歩で変わるリスクを見る
  • 認知・高次脳機能を自立判断に入れる
  • 病棟で再現できるかを確認する
  • どの支援があれば安全にできるかを考える
  • 評価で見つけた問題を訓練課題へつなげる

必要があります。

歩けるかではなく、
生活で安全に使えるか。

ここに、OTの歩行評価とADL訓練の専門性があります。


より詳しい評価表・チェックリストはnoteにまとめています

この記事では、OTの歩行評価とADL訓練の考え方を中心に整理しました。

ただし、実際の臨床では、さらに具体的に、

  • 歩行評価チェックリスト
  • トイレ自立判断チェックリスト
  • 歩行器・杖・独歩別の評価表
  • 認知面を含めた自立判断表
  • ADLへ接続する課題設定例
  • 難易度調整の具体例
  • 記録例
  • 新人指導に使える質問集

が必要になります。

そこで、noteではこれらを臨床でそのまま使える表・チェックリスト形式でまとめています。

新人指導、病棟ADL評価、トイレ自立判断、課題設定、記録の書き方に悩む方は、以下のnoteをご覧ください。

詳細はこちら
作業療法における歩行評価・練習|PTの劣化版にならないための生活行為への具体的なつなげ方
https://note.com/selfbodywork/n/n65624642ad8b?sub_rt=share_pw


まとめ

歩行評価で大切なのは、歩行距離だけを見ることではありません。

OTは、歩行を生活行為へ接続して考えます。

10m歩けるか。
ではなく、
トイレで使えるか。
洗面で使えるか。
更衣で使えるか。
病棟で再現できるか。
認知面を含めて安全か。
そして、訓練でどう生活に近づけるか。

この視点を持つことで、歩行評価はOTらしい生活行為の評価になります。

歩けることと、生活で使えることは違う。

評価で「どこで崩れるか」を見つけ、訓練で「どうすれば生活で使えるか」を作っていく。

この違いを新人OTや若手療法士に伝えていくことが、臨床教育でも重要です。

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