作業療法士が見る歩行-ADL・IADLにつなげる観察ポイントとアプローチ-
目次
はじめに
歩行評価というと、歩行速度、歩幅、バランス、膝折れ、つま先の引っかかりなどを思い浮かべる方が多いと思います。
もちろん、それらは大切です。
ただ、作業療法士として歩行を見る時に、それだけで終わってしまうと少しもったいないと感じます。
なぜなら、患者さんにとって歩行は「歩くこと自体」が目的ではなく、生活を成り立たせるための手段だからです。
トイレに行く。
洗面所まで移動する。
浴室へ入る。
台所でお茶を入れる。
玄関で靴を履いて外に出る。
買い物に行く。
家族の食事を準備する。
病棟でナースコールを押さずに安全に移動する。
こうした生活行為の中に歩行があります。
リハビリ室の10m歩行が安定していても、病棟トイレの前で方向転換するとふらつく。
歩行速度は改善していても、洗面所で立ったまま歯磨きをすると疲れて崩れる。
杖歩行は可能でも、片手が杖でふさがるため、台所で物を運べない。
病院内では歩けるが、自宅では敷居、狭い廊下、暗い夜間トイレで危ない。
臨床では、このような場面をよく経験します。
作業療法士の歩行評価では、「どのくらい歩けるか」に加えて、「何のために歩くのか」「どの生活場面で歩くのか」「歩いたあとに何をするのか」まで見ます。
本記事では、作業療法士の視点から、歩行評価とアプローチをエビデンスと臨床の両面から整理します。
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この記事で分かること
この記事では、以下を扱います。
・作業療法士が歩行を評価する意味
・歩行評価で見るべき基本項目
・歩行速度や耐久性をどう生活に結びつけるか
・ADL、IADL場面での歩行評価
・トイレ、入浴、更衣、台所動作での観察ポイント
・片麻痺で荷物を移動する時の工夫
・高次脳機能や注意障害が歩行に与える影響
・環境調整と家族指導
・作業療法士らしい歩行アプローチ
・臨床で悩みやすい場面
・臨床で使えるチェックリスト
・記録例
・参考文献
1. 作業療法士にとって歩行は「移動」だけではない
作業療法士が歩行を見る時、歩行は単独の運動課題ではありません。
歩行は、生活行為を成立させるための一部です。
たとえば、トイレ動作を考えてみます。
ベッドから起きる。
立ち上がる。
トイレまで歩く。
ドアを開ける。
方向転換する。
便器の前に立つ。
ズボンを下ろす。
便座に座る。
再び立つ。
ズボンを上げる。
手を洗いに行く。
ベッドへ戻る。
この一連の流れの中に、歩行、方向転換、立位保持、手の操作、注意配分、判断、環境への適応が含まれます。
つまり、歩行ができても、トイレ動作が自立するとは限りません。
同じように、歩行ができても、入浴、更衣、台所動作、買い物、外出ができるとは限りません。
作業療法士の視点では、歩行能力を「生活動作の中で使える移動能力」として評価します。
ここが、単なる歩行分析との違いです。
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2. 作業療法士として歩行評価で悩みやすいこと
作業療法士として歩行を評価していると、悩む場面があります。
「歩行は理学療法士が中心に見るものではないか」
「OTがどこまで歩行に踏み込んでよいのか」
「歩行練習ではなく、ADL練習として見るべきなのか」
このように感じる新人療法士もいると思います。
確かに、歩行速度、歩容、下肢筋力、装具、歩行練習の詳細は、理学療法士が中心となって評価・介入する場面が多いです。
しかし、作業療法士が歩行を見なくてよいわけではありません。
作業療法士が見るべきなのは、「歩行そのもの」だけではなく、「生活行為の中で歩行がどう使われているか」です。
たとえば、廊下をまっすぐ歩く能力は理学療法士が詳しく評価しているかもしれません。
しかし、トイレの前で方向転換できるか。
洗面台の前で立ったまま歯磨きできるか。
台所で物を持って移動できるか。
浴室前の濡れた床で安全に動けるか。
玄関で靴を履いたあとに外へ出られるか。
夜間トイレで同じ動きが再現できるか。
これらは、ADLやIADLの中で歩行を見る作業療法士の視点が活きる場面です。
歩行は、生活動作の入口にもなります。
逆に言えば、歩行が少し不安定なだけで、トイレ、更衣、入浴、調理、外出が大きく制限されることがあります。
そのため、作業療法士は「歩行を専門外」として切り離すのではなく、生活行為を成立させるための移動能力として評価する必要があります。
3. 臨床でよく感じる「歩ける」と「生活で使える」のズレ
臨床でよく感じるのは、「歩ける」と「生活で使える」は同じではないということです。
リハビリ室では歩ける。
病棟の廊下も歩ける。
10m歩行も以前より速くなっている。
それでも、生活場面では危ないことがあります。
たとえば、トイレ動作です。
廊下を歩く時は安定していても、トイレ入口で方向転換した途端に足が交差する方がいます。便器の前でズボンを下ろす時に、片手が服を持つため支持が減り、体幹が揺れる方もいます。
この場合、問題は「歩行距離」ではありません。
問題は、歩いた先で必要になる動作と、歩行能力がまだ結びついていないことです。
台所動作でも同じです。
杖歩行は安定していても、杖を持つことで片手がふさがります。すると、皿を運べない、鍋を持てない、冷蔵庫から物を出して移動できないという問題が出てきます。
つまり、歩行ができても、作業ができるとは限りません。
作業療法士は、このズレを見つける役割があります。
「歩けるようになったから大丈夫」ではなく、「何をするために、どこを、どの条件で歩くのか」を確認することが大切です。
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4. 歩行評価の前に確認したいこと
歩行評価を始める前に、まず確認したいことがあります。
それは、「この人は何のために歩く必要があるのか」です。
歩行評価をすると、つい下肢筋力やバランス、歩行速度に目が向きます。しかし、その前に生活上の目的を確認しておかないと、評価と介入が生活につながりにくくなります。
たとえば、同じ10m歩行でも、目的によって意味が変わります。
病棟トイレまで歩きたい人。
自宅の寝室からトイレまで歩きたい人。
台所で調理を再開したい人。
ゴミ出しに行きたい人。
買い物に行きたい人。
孫の運動会を見に行きたい人。
職場復帰を目指す人。
必要な歩行距離、速度、耐久性、注意力、環境対応能力は、それぞれ違います。
作業療法士としては、次のように問いを立てます。
・どこまで歩く必要があるか
・何時に歩くことが多いか
・歩いた先で何をするのか
・手に何か持つ必要があるか
・杖や歩行器を使うと、その後の作業に支障が出ないか
・自宅環境ではどこが危ないか
・家族はどこまで支援できるか
・本人は何を一番不安に感じているか
歩行評価の出発点は、歩行そのものではなく、生活目標です。
5. 歩行評価は3層で考える
作業療法士が歩行を見る時は、3つの層で考えると整理しやすくなります。
| 層 | 評価する内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 身体機能としての歩行 | 下肢機能、バランス、感覚、疼痛、筋緊張 | 膝折れ、足部クリアランス、反張膝、体幹傾斜 |
| 活動としての歩行 | 実際の移動動作 | 立ち上がり、方向転換、段差、杖歩行、歩行器歩行 |
| 作業としての歩行 | 生活行為の中で使えるか | トイレ、入浴、台所、買い物、通院、外出 |
この3層がずれていると、評価が生活に結びつきません。
たとえば、身体機能としては歩ける。
活動としても廊下は歩ける。
しかし、作業としてはトイレ前の方向転換や下衣操作で不安定になる。
この場合、問題は「歩行距離」ではなく、「生活動作の中で歩行を使う力」です。
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6. 基本的な歩行評価で見る項目
歩行評価では、まず基本的な項目を押さえます。
| 評価項目 | 見るポイント | 生活での意味 |
|---|---|---|
| 歩行速度 | 10m歩行など | 病棟移動、屋外移動、信号横断の目安 |
| 歩行距離 | 6分間歩行など | 買い物、通院、外出範囲の目安 |
| 方向転換 | TUG、生活場面観察 | トイレ前、玄関、台所で重要 |
| 立位バランス | BBSなど | 下衣操作、整容、調理で重要 |
| 足部クリアランス | つま先の引っかかり | 敷居、段差、屋外歩行で問題になりやすい |
| 疲労 | 時間帯や活動後の変化 | 午後、入浴後、外出後に崩れやすい |
| 杖・歩行器操作 | 道具の使い方 | ドア開閉、手洗い、物品運搬に影響 |
| 装具・靴 | 適合、履き忘れ | 夜間トイレ、自宅内歩行で差が出る |
| 注意・認知 | 注意障害、無視、危険認識 | 病棟自立、屋外歩行で重要 |
10m歩行テストは歩行速度を、6分間歩行テストは歩行耐久性を把握するのに役立ちます。Timed Up and Goは、立ち上がり、歩行、方向転換、着座が含まれるため、実際の移動能力に近い要素を見やすい評価です。
ただし、数値だけで判断しないことが大切です。
10m歩行が改善しても、トイレ動作が安全になるとは限りません。
TUGが速くなっても、夜間トイレで転倒しないとは限りません。
6分間歩行距離が伸びても、買い物で荷物を持てるとは限りません。
評価指標は、生活場面を見るための入口です。
7. 歩行速度を生活にどう結びつけるか
歩行速度は、歩行能力を把握するうえで有用な指標です。
脳卒中後の歩行では、歩行速度によって生活範囲を大まかに分類する考え方があります。一般的には、歩行速度が低い場合は屋内中心、一定以上になると地域での移動に近づくとされています。
ただし、歩行速度だけで生活範囲を決めるのは危険です。
地域で歩くためには、速度以外にも必要な力があります。
信号を渡る。
人を避ける。
段差を越える。
坂道を歩く。
店内で方向転換する。
荷物を持つ。
雨の日に滑らない。
疲れた時に休む判断をする。
これらは、単純な歩行速度だけでは評価しきれません。
作業療法士としては、歩行速度を「生活の可能性を考えるヒント」として使います。
たとえば、歩行速度が上がってきたら、病棟内の移動だけでなく、退院後の買い物、通院、ゴミ出し、近所付き合い、趣味活動へ話を広げます。
歩行速度の改善を、生活範囲の再獲得へつなげることが大切です。
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8. トイレ動作と歩行評価
作業療法士が歩行を評価する時、最も優先して確認したい生活場面の一つがトイレです。
トイレは、歩行能力とADL能力が重なる場面です。
トイレ動作では、単にトイレまで歩けるかだけでなく、次の流れを見ます。
・ベッドから起き上がる
・立ち上がる
・杖や歩行器を持つ
・トイレまで歩く
・ドアを開ける
・方向転換する
・便器の前で立位保持する
・下衣を下ろす
・便座へ座る
・立ち上がる
・下衣を上げる
・手洗い場へ移動する
・ベッドへ戻る
臨床でよく見落とされるのは、トイレ前の方向転換と下衣操作です。
廊下をまっすぐ歩くことはできても、トイレの入口で杖をどこに置くか分からない。
便器前で方向転換すると足が交差する。
下衣操作で片手がふさがり、立位バランスが崩れる。
急いでいる時だけ歩行順序が崩れる。
夜間は装具を履かずに歩いてしまう。
こうした問題は、10m歩行だけでは分かりません。
トイレ動作を見る時は、「歩行評価」と「ADL評価」を分けず、一連の動作として観察します。
9. 更衣・入浴と歩行評価
更衣や入浴でも、歩行は重要です。
更衣では、クローゼットやタンスまで移動する、衣服を取りに行く、立位でズボンを上げ下げする、ベッドや椅子へ移動するなどの場面があります。
入浴では、脱衣所まで移動する、浴室へ入る、濡れた床を歩く、方向転換する、浴槽をまたぐ、シャワーチェアへ座るといった場面があります。
特に入浴は転倒リスクが高い場面です。
床が濡れている。
裸足になる。
服を脱いで体が冷える。
浴室内は狭い。
手すりの位置が限られる。
方向転換が必要になる。
疲労が出やすい。
このような条件が重なります。
作業療法士としては、歩行能力を「浴室まで行けるか」だけで判断しません。
浴室前で立ったまま服を脱げるか。
脱衣かごやタオルの位置は安全か。
浴室内で杖を使うのか、手すりを使うのか。
シャワーチェアまで安全に移動できるか。
浴槽をまたぐ必要があるのか。
家族の見守りがどこまで必要か。
ここまで見て初めて、入浴動作の中の歩行評価になります。
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10. 台所動作と歩行評価
台所動作では、歩けるだけでは足りません。
物を持つ。
方向転換する。
狭い場所で移動する。
冷蔵庫を開ける。
流し台からコンロへ移動する。
皿を運ぶ。
熱い物を扱う。
立ったまま作業を続ける。
こうした要素が加わります。
特に、杖歩行の方では片手が杖でふさがります。そのため、物を持って歩くことが難しくなる場合があります。
この時、作業療法士は単に「歩行練習を続けましょう」とは考えません。
ワゴンを使う。
動線を短くする。
よく使う物を手の届く位置へ置く。
座って作業できる環境を作る。
電子レンジやポットの位置を変える。
家族と役割分担を調整する。
配膳方法を変える。
このように、歩行能力と環境調整を組み合わせます。
台所動作では、歩行の安定性だけでなく、「歩いたあとに何をするのか」まで見ます。
11. 片麻痺で荷物を移動する時の工夫
歩行評価で見落としやすいのが、「物を持って移動できるか」です。
病棟の廊下を歩ける。
トイレまで歩ける。
10m歩行も改善している。
それでも、自宅に戻ると困ることがあります。
お茶を運べない。
食器をテーブルまで持っていけない。
洗濯物を運べない。
買い物袋を持つとふらつく。
杖を持つと片手がふさがり、物を持てない。
歩行器を使うと、狭い台所で方向転換しにくい。
この問題は、単なる歩行能力ではなく、歩行と物品操作の組み合わせとして見た方が整理しやすくなります。
片麻痺の方では、麻痺側上肢が十分に使えないことがあります。さらに、杖や歩行器を使う場合、健側上肢も歩行補助具の操作に使います。その結果、「歩けるけれど物を運べない」という状況が起こります。
ここに作業療法士の視点が必要です。
もっと歩行を安定させるだけではなく、物を持たなくても移動できる方法を作る。
持ち上げずに安全な面の上で滑らせる。
距離を短くする。
座ってできる工程に変える。
道具を使って安全に運ぶ。
こうした発想が、生活場面ではかなり役立ちます。
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12. 荷物移動の基本は「持ち上げない・遠くへ運ばない」
片麻痺の方の荷物移動では、まず「持って歩く」ことを前提にしない方が安全です。
特に、以下の物は注意が必要です。
・熱い飲み物
・汁物
・重い鍋
・包丁や割れ物
・洗濯かご
・買い物袋
・滑りやすい皿
・水の入った容器
これらを片手で持ちながら歩くと、バランスを崩した時に手をつけません。杖や歩行器を使っている場合は、さらに危険が増えます。
そのため、基本は次の考え方です。
| 考え方 | 具体例 |
|---|---|
| 持ち上げない | 安定したテーブルやシンク上で短距離だけ滑らせる |
| 一度に運ばない | 小分けにする |
| 手で持たない | ワゴン、滑りにくいトレー、リュックを使う |
| 距離を短くする | よく使う物を近くに置く |
| 立って運ばない | 座位作業や配置変更を使う |
| 熱い物を運ばない | 家族支援、配置変更、フタ付き容器、電子レンジや電気ポットの位置調整を使う |
大切なのは、「持って歩けるように頑張る」だけではないということです。
生活では、安全な方法に変えることも立派なアプローチです。
13. 台所で使いやすい荷物移動の工夫
ワゴンに荷物を載せる
台所から食卓まで食器や飲み物を運ぶ場合、手で持って歩くよりも、ワゴンに載せる方が安全なことがあります。
特に、杖を使う方では片手がふさがります。皿やコップを持って歩くと、バランスを崩した時に支えられません。
ワゴンを使う時は、次を確認します。
・床が平らか
・敷居や段差がないか
・ワゴンが軽すぎて不安定でないか
・方向転換できる幅があるか
・押した時に動きすぎないか
・載せた物が滑り落ちないか
・食卓や作業台の近くで安全に止めて置けるか
・本人がワゴンを押しても体ごと前に流れないか
ただし、ワゴンは誰にでも安全とは限りません。
段差が多い家、廊下が狭い家、方向転換が難しい方、ワゴンを押すと体ごと前に流れてしまう方では、かえって危険になることがあります。
また、軽いキッチンワゴンを歩行器のように使うのは危険です。ワゴンは荷物を運ぶ道具であり、体を支える道具ではありません。
歩行の支持が必要な場合は、ワゴンではなく、歩行器、杖、手すりなどを別に検討します。
シンクやテーブルの上で物を滑らせる
物を持ち上げて運ぶのではなく、シンクや調理台、テーブルの上で滑らせる方法もあります。
たとえば、以下のような場面です。
・コップをシンクから調理台へ滑らせる
・皿を調理台から食卓側へ少しずつ移動する
・まな板を持ち上げず、作業台上で位置を変える
・調味料を持って歩かず、作業台上で寄せる
・袋入りの軽い食品を作業台上で移動させる
片手で重い物を扱う場合、持ち上げるよりも滑らせる方が負担を減らせることがあります。
ただし、滑らせる方法にも注意点があります。
・熱い物は原則として滑らせない
・液体が入った容器はこぼれやすい
・机の端まで滑らせない
・滑りすぎる素材は避ける
・麻痺側に落とさない配置にする
・必要なら滑り止めマットを使う
・作業台が濡れている時は無理に行わない
「滑らせる」は便利ですが、安全な面の上で、短い距離に限って使う方がよいです。
小さい容器に分けて運ぶ
重い鍋や大きな容器を片手で持つのは危険です。
水、汁物、米、洗剤、飲み物などは、小さい容器に分けると扱いやすくなります。
たとえば、以下のような工夫があります。
・大きな鍋に水を入れて運ばず、軽い計量カップで水を足す
・重い鍋を持って湯切りせず、ざるや網じゃくしで中身だけ取り出す
・大きなペットボトルではなく、小さいボトルへ移す
・洗剤はポンプ式や軽い容器に変える
・食器は一度に全部運ばず、少量ずつ運ぶ
・小さなやかんや軽い片手鍋を使う
・飲み物はフタ付きカップに入れる
日本の生活場面では、「ジャグ」という言葉よりも、軽い計量カップ、小さな容器、小さなやかん、フタ付きカップと説明した方が伝わりやすいです。
熱い物を運ばない配置にする
片麻痺の方にとって、熱い物の移動は特に危険です。
転倒だけでなく、やけどのリスクもあります。
できれば、熱い鍋、熱い汁物、熱い飲み物を持って歩く場面は減らします。
工夫としては、次のような方法があります。
・電子レンジを食卓に近い位置へ置く
・電気ポットを食卓近くに置く
・鍋を持ち上げず、お玉で器へ移す
・熱い汁物は家族が運ぶ
・片手で重い鍋の湯切りをしない
・深い皿やフタ付き容器を使う
・熱い物は立って運ばず、座位で移せる配置にする
・調理後すぐではなく、温度が落ち着いてから移す
台所動作では、「できるだけ本人がやる」ことも大切ですが、熱い物や刃物を無理に扱わせる必要はありません。
本人ができる工程と、家族や環境で補う工程を分ける方が安全です。
物品配置を「歩かなくてよい配置」に変える
歩行が不安定な方ほど、練習だけでなく環境調整が大切です。
台所であれば、よく使う物を一か所にまとめます。
・コップ
・薬
・お茶
・ポット
・電子レンジ
・箸
・よく使う皿
・調味料
・キッチンペーパー
・ゴミ袋
・布巾
これらを、できるだけ少ない移動で届く範囲に置きます。
「歩いて取りに行く」ことを減らすだけでも、転倒リスクは下がります。
作業療法士としては、歩行練習だけでなく、動線そのものを短くする提案が必要です。
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14. 荷物移動の工夫を場面別に整理する
| 場面 | 困りやすいこと | 工夫 |
|---|---|---|
| 食器を運ぶ | 杖で片手がふさがる、皿が滑る | ワゴン、滑り止めトレー、少量ずつ運ぶ |
| 飲み物を運ぶ | こぼれる、熱い、手がふさがる | フタ付きカップ、食卓近くにポットを置く、家族支援 |
| 鍋を扱う | 重い、湯切りが危険 | お玉で移す、ざるや網じゃくしを使う、小さい鍋にする |
| 調味料を使う | 持ち運びが多い | よく使う物を一か所にまとめる、軽い容器に移す |
| 洗濯物を運ぶ | かごが重い、両手が必要 | ランドリーワゴン、小分け、家族と分担 |
| 買い物 | 手提げ袋でバランスが崩れる | リュック、斜めがけバッグ、カート、配達 |
| ゴミ出し | 袋が揺れる、屋外移動が必要 | 小分け、軽い袋、家族支援、時間帯調整 |
| 掃除 | 掃除機が重い、コードが危険 | 軽量掃除機、コードレス、長柄ちりとり |
荷物移動を見る時は、「何を運べるか」だけでなく、どの条件で安全かを見ます。
・杖や歩行器を使うと手がふさがらないか
・麻痺手を補助手として使えるか
・荷物を持つと歩行速度やバランスが崩れないか
・方向転換時に荷物が邪魔にならないか
・液体や熱い物を扱っていないか
・床にこぼした時に転倒リスクが増えないか
・ワゴンを歩行器代わりに使っていないか
・ワゴンが動きすぎず安全に扱えるか
・ワゴンを使う場所に段差や敷居がないか
・本人が疲れている時にも同じ方法でできるか
・家族がどの部分を手伝うか決まっているか
荷物を運ぶ力は、歩行能力、上肢機能、注意力、環境、道具の使い方が重なって決まります。
ここを評価できると、歩行評価がIADL支援に変わります。
15. 屋外歩行と社会参加
屋外歩行は、病院内歩行とは別物です。
病院の廊下は平らで、明るく、広く、障害物が少ない環境です。
一方、屋外では、段差、坂道、信号、人、自転車、車、雨、荷物、音、視覚情報が増えます。
作業療法士として屋外歩行を見る時は、生活範囲や役割を確認します。
近所のコンビニへ行く。
通院する。
デイサービスの送迎場所まで出る。
ゴミ出しをする。
郵便受けまで行く。
スーパーで買い物をする。
地域の集まりに参加する。
趣味の場所へ行く。
これらはすべて、歩行能力に加えて、環境判断、注意配分、疲労管理、交通安全、荷物の扱いが必要です。
屋外歩行の評価では、距離だけでなく、次のような視点を持ちます。
・どこへ行きたいのか
・どの道を通るのか
・段差や坂道はあるか
・信号を渡る必要があるか
・荷物を持つ必要があるか
・休憩できる場所はあるか
・雨の日はどうするか
・一人で行くのか、付き添いがあるのか
・転倒した時に助けを呼べるか
歩行能力を社会参加に結びつけるには、実際の行き先を想定した評価が欠かせません。
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16. 高次脳機能と歩行評価
歩行評価では、下肢機能だけでなく、高次脳機能も見ます。
半側空間無視があると、麻痺側の足、杖、壁、障害物、人の接近に気づきにくくなります。
注意障害があると、話しかけられた時や、周囲が騒がしい時に歩行が乱れます。
遂行機能障害があると、目的地までの手順、危険予測、行動の切り替えが難しくなります。
失行があると、杖や歩行器の使い方、方向転換、段差動作の手順が安定しないことがあります。
臨床では、リハビリ室でできる歩行が、病棟や自宅では再現できないことがあります。その背景に、高次脳機能の問題が隠れていることは少なくありません。
歩行は、下肢で行う運動であると同時に、環境を判断しながら行う認知課題でもあります。
作業療法士は、歩容だけでなく、注意の向き方、危険認識、手順の理解、環境への気づきを含めて歩行を評価します。
17. 転倒リスクを見る時の考え方
転倒リスクを見る時、単に「ふらつきがあるか」だけでは不十分です。
転倒は、身体機能、環境、行動、時間帯、心理面が重なって起こります。
たとえば、次のような場面ではリスクが高くなります。
・夜間トイレ
・起床直後
・急いでいる時
・疲れている時
・薬が変わった後
・床に物がある時
・スリッパを履いている時
・雨の日の外出
・荷物を持っている時
・話しながら歩いている時
・家族が急かしている時
作業療法士としては、転倒を「歩行能力の問題」だけにしないことが大切です。
生活の流れの中で、どこに危険があるのかを見ます。
たとえば、夜間トイレであれば、歩行能力だけでなく、照明、ベッドの高さ、杖の置き場所、履物、トイレまでの距離、尿意切迫、家族の見守り、ポータブルトイレの選択肢まで考えます。
転倒予防は、歩行練習だけでは完結しません。
生活動線と行動パターンを整えることが必要です。
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18. 歩行自立を出す時に迷う場面
病棟内歩行自立を検討する時にも、作業療法士として迷う場面があります。
日中は安定している。
リハビリ場面では手順も守れている。
転倒もしていない。
本人も「一人で行けます」と言っている。
それでも、本当に自立でよいのか迷うことがあります。
特に悩みやすいのは、夜間トイレです。
夜間は、日中とは条件が変わります。
寝起きでぼんやりしている。
血圧が安定していない。
照明が暗い。
トイレを急いでいる。
装具や靴を履かずに歩こうとする。
杖を持ち忘れる。
ズボン操作で焦る。
日中の歩行が安定していても、夜間トイレでは転倒リスクが高くなることがあります。
そのため、歩行自立を考える時は、単に「廊下を歩けるか」ではなく、トイレまでの流れを見ます。
ベッドから起きる。
靴や装具を履く。
杖を持つ。
トイレまで歩く。
ドアを開ける。
方向転換する。
下衣操作をする。
便座へ座る。
再び立つ。
戻る。
この一連の流れが、本人にとって安全に再現できるかを確認します。
病棟内歩行自立は、歩行能力だけでなく、生活場面での再現性を見て判断する必要があります。
19. 作業療法士らしい歩行アプローチ
作業療法士らしい歩行アプローチは、歩行を生活行為の中に戻していくことです。
もちろん、立位バランス練習、荷重練習、方向転換練習、段差練習、歩行補助具の練習は必要です。
ただし、それをリハビリ室だけで完結させず、生活場面に戻します。
たとえば、方向転換が不安定な患者さんなら、単にコーンを回る練習だけでなく、トイレ前、洗面所前、ベッド横、玄関での方向転換を練習します。
立位保持が不安定な患者さんなら、平行棒内で立つだけでなく、洗面台で歯磨きをする、ズボンを上げる、台所で湯のみを取るなどの場面で練習します。
持久性が課題なら、6分間歩行だけでなく、朝の整容から食堂への移動、入浴後の疲労、買い物後の帰宅まで考えます。
歩行補助具が必要な方なら、杖で歩く練習だけでなく、杖をどこに置いて手を洗うか、杖を使いながらドアを開けるか、片手で荷物をどう扱うかまで練習します。
歩行能力を、生活の一部として再構成する。
ここに作業療法士の役割があります。
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20. よくある臨床場面から考える歩行アプローチ
臨床では、歩行そのものよりも、生活場面の中で問題が見つかることが多くあります。
たとえば、病棟廊下では安定して歩ける方でも、トイレ前で方向転換すると不安定になることがあります。
この場合、単に歩行距離を伸ばすよりも、トイレ入口での小刻みな方向転換、杖や歩行器の置き場所、下衣操作中の立位保持を練習した方が生活に直結します。
また、歩行速度が上がってきた方でも、台所で物を運ぶ場面になると困ることがあります。
杖を持つと片手がふさがる。
歩行器を使うと狭い台所で方向転換しにくい。
熱い物を持って歩くのは危険。
冷蔵庫から食卓までの距離が長い。
この場合は、歩行練習だけではなく、ワゴンの使用、物品配置の変更、座位でできる工程の導入、家族との役割分担を考えます。
さらに、屋外歩行では、歩行距離よりも環境への対応が課題になることがあります。
段差、坂道、信号、人混み、自転車、雨、荷物。
これらが加わると、病院内では見えなかった問題が出てきます。
歩行評価は、リハビリ室の中だけで完結しません。
生活に近い場所で見直すほど、患者さんに必要な支援が見えてきます。
21. 具体的なアプローチ例
トイレまでの歩行が不安定な場合
まず、ベッドからトイレまでの動線を実際に確認します。
歩行距離、方向転換の回数、ドアの開閉、便器前の立位、下衣操作、手洗いまで見ます。
アプローチとしては、トイレ前での小刻み方向転換、杖や歩行器の置き場所の練習、下衣操作中の立位保持、夜間の照明調整、足元の整理を行います。
必要に応じて、ポータブルトイレや手すりも検討します。
洗面所でふらつく場合
洗面所では、立位で両手を使う場面があります。
歯磨き、洗顔、整髪では、手を使うために支持が減ります。前かがみ姿勢も加わります。
アプローチとしては、洗面台での立位保持、片手支持の使い方、椅子を使った整容、物品配置の変更、疲労時の座位選択を検討します。
台所動作を再開したい場合
台所では、歩行、立位、物品操作、注意配分が同時に求められます。
アプローチとしては、移動距離を短くする、よく使う物をまとめる、ワゴンを使う、座位でできる工程を増やす、熱い物を運ばない方法を考えるなどがあります。
歩行速度よりも、「安全に作業を完了できるか」を重視します。
荷物を運ぶと歩行が崩れる場合
歩行単独では安定していても、荷物を持つと体幹が傾いたり、麻痺側の足が引っかかったりすることがあります。
この場合は、荷物あり条件と荷物なし条件を分けて評価します。
アプローチとしては、手提げ袋を避ける、リュックや斜めがけバッグにする、買い物カートを使う、配達サービスを使う、荷物を小分けにするなどを検討します。
買い物やゴミ出しは、歩行能力だけでなく、荷物の重さ、距離、屋外環境、疲労、家族支援まで含めて判断します。
屋外へ出たい場合
屋外歩行では、距離だけでなく環境を見ます。
近所の道、玄関段差、坂道、信号、歩道の幅、休憩場所、買い物時の荷物を確認します。
アプローチとしては、短距離から始める、付き添いありで練習する、荷物の持ち方を変える、時間帯を選ぶ、雨の日を避ける、必要なら福祉用具やサービスを使うなどがあります。
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22. 病棟で歩行自立を判断する時の注意
病棟で歩行自立を判断する時、直線歩行だけでは不十分です。
確認したいのは、以下の場面です。
・ベッドから立ち上がった直後
・歩き始め
・方向転換
・トイレ入口
・トイレ内の立位
・下衣操作前後
・食堂までの移動
・疲労時
・夜間
・装具や靴を履き忘れた時
・ナースコールを押せるか
・転びそうな時に助けを呼べるか
病棟内自立は、「歩ける」ではなく、「その条件で安全に繰り返せる」で判断します。
日中だけ自立。
夜間は見守り。
トイレは見守り。
自室内のみ自立。
装具装着時のみ自立。
疲労時はナースコール使用。
このように条件を具体化することが大切です。
23. 家族指導で伝えること
家族指導では、「歩けます」「見守ってください」だけでは足りません。
家族が知りたいのは、どこを見ればよいのか、どこで手を出せばよいのか、何をしてはいけないのかです。
伝える内容は、以下です。
・どの場所は一人でよいか
・どの場所は見守りが必要か
・夜間はどうするか
・服や腕を引っ張らないこと
・急がせないこと
・杖や歩行器の置き場所
・転倒しやすい場面
・疲れた時のサイン
・外出時の付き添い方法
・荷物を持たせてよい場面、避ける場面
・熱い物や重い物はどう分担するか
・困った時の相談先
特に注意したいのは、家族が前から手を引く介助です。
前から引くと、本人の重心が崩れやすくなります。麻痺側上肢を引っ張ると、肩痛につながることもあります。
また、「歩けるならこれくらい持てるだろう」と判断してしまうことにも注意が必要です。
歩けることと、荷物を持って安全に歩けることは違います。
家族には、本人を動かすのではなく、危なくなりそうな場面を早めに見つける役割を伝えます。
24. 歩行評価チェックリスト
作業療法士が歩行評価を生活につなげる時は、以下を確認します。
基本評価
・歩行速度
・歩行距離
・立ち上がり
・方向転換
・疲労
・疼痛
・足部クリアランス
・膝折れ
・体幹の傾き
・杖や歩行器の使い方
・装具や靴の条件
ADL場面
・トイレまでの移動
・トイレ前の方向転換
・下衣操作中の立位
・洗面所での立位
・更衣場所までの移動
・浴室前の移動
・浴室内の方向転換
・ベッド周囲の移動
IADL場面
・台所内の移動
・物を持ちながらの移動
・食器や飲み物の運搬
・洗濯物を運ぶ
・玄関まで移動する
・ゴミ出し
・買い物
・通院
・屋外歩行
荷物移動
・杖や歩行器で手がふさがらないか
・荷物を持つと歩容が崩れないか
・熱い物を運ぶ必要がないか
・重い物を小分けにできるか
・ワゴンやトレーが安全に使えるか
・シンクやテーブル上で短距離だけ滑らせられるか
・リュックや斜めがけバッグが使えるか
・買い物カートや配達を使えるか
・ワゴンを歩行器代わりに使っていないか
・ワゴンを使う場所に段差や敷居がないか
・家族がどの工程を支援するか
認知・環境
・注意障害
・半側空間無視
・視野障害
・危険認識
・夜間の動き
・自宅の段差
・手すり
・床の物
・照明
・家族の支援力
このチェックリストは、歩行を点数で終わらせず、生活動作へつなげるために使います。
25. 臨床記録例
記録例1:歩行速度は改善しているが、トイレ動作に課題が残る場合
10m歩行速度は改善傾向。病棟廊下ではT字杖使用にて見守り歩行可能。ただし、トイレ入口での方向転換時に麻痺側足部の接地位置が不安定となり、下衣操作前後の立位で体幹動揺あり。歩行能力単独では改善しているが、トイレ動作自立には方向転換と立位保持の安定が課題。今後は病棟トイレ場面での反復練習、杖の置き場所、下衣操作時の支持方法を確認する。
記録例2:歩行は可能だが、台所動作につながりにくい場合
病棟内歩行は四点杖で安定しているが、片手が杖でふさがるため物品運搬が困難。自宅では台所内で湯のみや皿を運ぶ役割を希望している。歩行速度よりも、台所内の方向転換、物品配置、ワゴン使用、座位作業の導入が課題。家族へ台所環境の写真提供を依頼し、動線と物品配置を検討する。
記録例3:杖歩行は可能だが配膳が困難な場合
病棟内はT字杖にて見守り歩行可能。直線歩行は安定しているが、杖使用により健側上肢がふさがり、食器や飲み物の運搬が困難。台所から食卓までの配膳を希望しているが、熱い飲み物を片手で持って歩くことは転倒・やけどリスクがある。今後はワゴン使用可否、フタ付き容器、食卓近くへのポット配置、物品配置変更、家族支援を検討する。
記録例4:歩行器使用により台所内動作が制限される場合
歩行器使用にて屋内歩行は安定。ただし、台所内は通路幅が狭く、冷蔵庫からシンク、シンクから食卓への方向転換が困難。歩行器を使用したまま食器を運ぶことも困難。台所作業は座位中心とし、物品配置変更、座位で届く範囲の整理、家族による熱い物の運搬支援を検討する。
記録例5:物を持つと歩行が崩れる場合
歩行単独では見守りレベルだが、手提げ袋を持つと体幹が健側へ傾き、麻痺側足部クリアランスが低下する。買い物後の荷物運搬に課題あり。手提げ袋は避け、リュックまたは斜めがけバッグ、配達サービス、家族支援を提案。屋外歩行は荷物なし条件と荷物あり条件を分けて評価する。
記録例6:高次脳機能が歩行自立を制限している場合
直線歩行は見守りで可能だが、左半側空間無視により廊下左側の障害物や左足部の位置確認が不十分。歩行中に声をかけられると杖先位置が不安定となる。運動機能上は歩行可能だが、病棟内自立は危険。環境調整、声かけ統一、左側注意喚起、トイレ場面での安全確認を継続する。
記録例7:退院後の夜間トイレが課題となる場合
日中は病室からトイレまで杖歩行で見守り可能。夜間は起床直後のふらつきと装具未装着での移動リスクがある。自宅でも寝室からトイレまで距離があり、廊下照明が暗い。退院後は夜間のみ家族見守り、足元灯設置、ポータブルトイレの必要性を検討する。
26. 新人療法士に伝えたいこと
新人療法士には、歩行評価を「歩けるか、歩けないか」で終わらせないでほしいと思います。
歩行が見守りなのか自立なのか。
杖が必要なのか不要なのか。
10m歩行が何秒なのか。
もちろん、これらは大切です。
しかし、作業療法士としては、もう一歩踏み込んで見たいところです。
その歩行は、どのADLにつながっているのか。
その人は、歩いた先で何をしたいのか。
杖を持ったまま作業ができるのか。
物を持つと歩行が崩れないか。
夜間でも同じように動けるのか。
家では同じ動線が確保できるのか。
家族は同じ見守りができるのか。
この視点があると、歩行評価は一気に生活に近づきます。
歩行を運動機能として評価することは必要です。
ただし、作業療法士はそこから先を見ます。
歩行が、本人の生活、役割、参加にどうつながるのか。
そこまで考えることで、作業療法士としての歩行評価に意味が出てきます。
27. まとめ
作業療法士の歩行評価では、歩行を単独の運動課題として見るだけでは不十分です。
歩行は、生活行為を成立させるための手段です。
トイレに行く。
洗面所で整容する。
浴室に入る。
台所で調理する。
食器や飲み物を運ぶ。
玄関から外に出る。
買い物に行く。
家族内の役割を再開する。
こうした作業の中で、歩行がどう使われているかを評価することが大切です。
歩行速度や距離は有用な指標ですが、それだけで生活の安全性は判断できません。
作業療法士としては、身体機能、活動、作業、環境、本人の意味づけをつなげて考えます。
歩けるかどうかではなく、どこで、何のために、どの条件で、安全に歩けるか。
そして、歩いた先で何を扱い、何を運び、どんな役割を再開したいのか。
この視点を持つことで、歩行評価は生活を広げるための評価になります。
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